説明

カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分とする抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤

【課題】糖質コルチコイドの分泌を抑制しストレス解消を促す手段を提供する。
【解決手段】
海水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる、カルシウム強化海洋ミネラル複合体、または水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分として含有する抗ストレス剤、及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽等の動物に対して有用な、水溶性カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分とする抗ストレス剤、及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤に関する。さらに詳しく言えば、ストレスに伴い分泌量が増大する糖質コルチコイドの分泌を抑制し、ストレスを緩和する作用効果を有するカルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分とする抗ストレス剤、及び酢酸カルシウムに代表される水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分とする抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
全国の自殺者は、1998〜2009年の12年間連続して3万人台が続いている。原因・動機を特定できた事例の内、うつ病が最も多く、その一因にはストレスが挙げられる。ストレスは代謝及び免疫機能に負の影響をもたらし、感染症の増加を誘発することが知られている。また過剰なストレス反応は有害な活性酸素を増加させ、免疫機能を低下させることが知られている。
【0003】
現代社会はストレス社会と言われ、ストレスは大きな社会問題となっている。仕事・家庭の問題や複雑な人間関係など、普段の生活からストレスを受けている。心理的、社会的ストレスを慢性的に受けると、胃潰瘍などの臓器障害、頭痛や腰痛などの不定愁訴、神経症などの精神的疾患、食欲不振症などの食行動異常が引き起こされる(表1のストレス関連疾患参照)。
【0004】
【表1】

【0005】
家畜や家禽などの動物においても、畜舎内や養殖槽における過密飼育や温湿度の不十分な管理、濃厚飼料の多給、輸送等がストレス刺激となり、食餌量の減少、体重の減少及び停滞、生産量の低下、発育不良、産卵率低下、肉質低下、輸送熱や肺炎、下痢、胃潰瘍等の疾病を引き起こす。その結果、生産性に大きな影響を及ぼし、家畜家禽飼育農家にとって経済的損失となっている。
そこで、家畜や家禽などの動物におけるストレスを軽減させる新規な坑ストレス剤を見出すことができれば産業上の利用価値は高いものとなる。
【0006】
生物は、神経系、内分泌系、免疫系が互いに連携して、恒常性を維持している。しかし、過度なストレス刺激を受けると、自律神経に作用し各器官に影響を与え、内分泌系ではホルモンを分泌してストレス刺激に対応する。また、免疫系にも作用し、免疫システムを乱すことでアレルギーやガンを引き起こす危険性を増大させる。
【0007】
図1に示すように、ストレス刺激は大脳皮質で知覚され、視床下部に伝えられる。視床下部から分泌されたコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が下垂体に作用し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌される。ACTHによって、副腎皮質での糖質コルチコイド合成、分泌が促進される。
【0008】
糖質コルチコイドは、ストレス刺激によって副腎皮質より分泌されることから、ストレスホルモンとも言われている。血糖上昇、抗炎症作用、免疫抑制などに働く。鳥類やげっ歯類ではコルチコステロン、その他哺乳類ではコルチゾールが主成分である。
【0009】
過度なストレス状態が持続すると、精神的な面だけでなく、化学物質過敏症やアトピー性皮膚炎など、生体にも様々な影響を与える。そのため、過剰な負荷ストレスを緩和する手段の開発が望まれている。
【0010】
一方、本発明者らが先に開発した海洋ミネラル複合体(以下、MCMと略記することがある。)は、肝炎、高血圧、腫瘍、アレルギーやアトピー性皮膚炎等の治療及び予防剤として(特開平10−120578:特許文献1)、NK細胞活性化剤として(特開2008−94762:特許文献2)、またインターフェロンγ産生増強剤として(特開2008−94763:特許文献3)知られ、食品や飼料等に利用されている。
【0011】
海洋ミネラル複合体(MCM)はミネラルの主要成分としてカルシウムを含有している。カルシウムとストレスの関係は広く一般に認知され、カルシウムの摂取はストレスに対して効果があると考えられている。しかし、いかなる形態のカルシウム化合物の投与が糖質コルチコイドの分泌に影響を与えるかについてはこれまで知られておらず、また特定のカルシウム化合物の投与に起因して具体的に抗ストレス作用を示すことも明らかにされていなかった。
また、本発明者らは、先にカルシウム強化MCMを鶏の雛(ヒナ)に投与することにより、ヒナの発育が促進され成育時のヒナの死亡率が激減すること、卵を生むまでの成長期間(産卵開始時期)が短縮されることなどを確認し特許出願をしているが(特開2010−088311:特許文献4)、カルシウム強化MCMの投与によるこのような効果がカルシウム強化MCM中のいかなる成分のいかなる作用に基づくものかについては明らかにできていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−120578号公報
【特許文献2】特開2008−94762号公報
【特許文献3】特開2008−94763号公報
【特許文献4】特開2010−088311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、先に本発明者らが確認しているカルシウム強化海洋ミネラル複合体(カルシウム強化MCM)の投与によるヒナの成育改善効果が、カルシウム強化MCM中のいかなる成分のいかなる作用によるものかを解明し、ヒトや動物に有効な抗ストレス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、カルシウム強化MCMを鶏のヒナに投与することにより確認されているヒナの発育促進効果、特に成育時の死亡率の激減が、ヒナのストレスの抑制作用に基づくものではないかと推測して鋭意検討を重ね、ストレスに起因して分泌量の増大する糖質コルチコイド(ヒナの場合にはコルチコステロン)の濃度を測定して、カルシウム強化MCMの投与が糖質コルチコイド(コルチコステロン)の分泌抑制に有効であることを確認した。また、酢酸カルシウム自体をヒナに投与したところ、カルシウム強化MCMの投与と同様に糖質コルチコイドの分泌抑制効果を示すことを確認した。かかる知見に基づいて、カルシウム強化MCMを有効成分として含有するヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤、並びに酢酸カルシウムに代表される水溶性カルシウムと海水中の微粒元素を有効成分とするヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤の発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の海洋ミネラル複合体、または水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分とするヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤に関する。
1.海水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる、カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分として含有する抗ストレス剤。
2.海洋ミネラル複合体が、焼成した炭酸カルシウムに酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られるものである前項1に記載の抗ストレス剤。
3.海水濃縮液が海水原液の1/3〜2/3容量%濃縮液であり、前記海水の濃縮液に対し10〜30容量%の炭酸カルシウムを300〜500℃に焼成し、これに炭酸カルシウムとほぼ同体積の酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる前項2に記載の抗ストレス剤。
4.前記海水濃縮液に炭酸カルシウムと酢酸を加えた反応で固形物を得、これに原料海水を加えた流動体から塩化ナトリウム及び重金属を除去して得られる前項1〜3のいずれかに記載の抗ストレス剤。
5.水溶性カルシウム及び海水中の微量元素を有効成分とする抗ストレス剤。
6.水溶性カルシウムが酢酸カルシウムである前項5に記載の抗ストレス剤。
7.ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽用である前項1〜6のいずれかに記載の抗ストレス剤。
8.鶏用である前項7に記載の抗ストレス剤。
9.海水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる、カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分として含有する糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
10.海洋ミネラル複合体が、焼成した炭酸カルシウムに酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られるものである前項9に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
11.海水濃縮液が海水原液の1/3〜2/3容量%濃縮液であり、前記海水の濃縮液に対し10〜30容量%の炭酸カルシウムを300〜500℃に焼成し、これに炭酸カルシウムとほぼ同体積の酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる前項10に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
12.前記海水濃縮液に炭酸カルシウムと酢酸を加えた反応で固形物を得、これに原料海水を加えた流動体から塩化ナトリウム及び重金属を除去して得られる前項9〜11のいずれかに記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
13.水溶性カルシウム及び海水中の微量元素を有効成分とする糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
14.水溶性カルシウムが酢酸カルシウムである前項13に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
15.ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽用である前項9〜14のいずれかに記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
16.鶏用である前項15に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤は、カルシウム強化MCM、及び酢酸カルシウムに代表される水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分とするものであり、ストレスに起因する糖質コルチコイドの分泌を抑制するため、ヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤として有用であり、特に鶏のヒナの飼育において顕著な効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ストレス刺激による糖質コルチコイド分泌に至るメカニズムの概要を示す。
【図2】カルシウム強化MCMの経口投与が単離ストレス付加採卵鶏ヒナの血中コルチコステロン濃度に与える影響を示す。
【図3】酢酸カルシウムの経口投与が単離ストレス付加採卵鶏ヒナの血中コルチコステロン濃度に与える影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明をする。
[カルシウム強化MCMの製造方法]
本発明による第一の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤では、海水、好ましくは海洋深層水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水の濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を沈殿として除去して得られる、カルシウム強化MCMを用いる。
【0019】
カルシウム強化MCMは、焼成した炭酸カルシウムに酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより製造することができる。この際、必要に応じてマグネシウム(Mg)などのミネラルを塩化物等の形で補強してもよい。また、不純物の吸着除去のため活性炭等の吸着剤を用いてもよい。
【0020】
具体的には、海水、好ましくは太陽光線の届く深度である水深約100〜150mの海水を通常150〜250L、好ましくは200Lを採取し、この原料海水を通常1/3〜2/3、好ましくは1/2になるまで加熱濃縮して海水の濃縮液を得、この濃縮海水に、要すれば体積比で0.1〜0.3%好ましくは0.2%の塩化マグネシウム及び0.0005〜0.002%、好ましくは0.001%の活性炭を添加し、約100℃に加熱する。別に、濃縮海水に対する体積比10〜30%、好ましくは20%の炭酸カルシウムを約300〜500℃に焼成し、これに炭酸カルシウムに対して0.5〜1.5体積倍、好ましくはほぼ同体積の酢酸を投入して反応させた後、これを濃縮海水に投入し全体を固形物とする。全体を固形物とするには、炭酸カルシウムに対してほぼ同体積の酢酸を投入したものを複数回に分け(通常8〜10回)、濃縮海水に投入する。酢酸は含量98〜99.9%グレードの酢酸が好ましく用いられる。この固形物約30Lに原料海水40〜50L、好ましくは45Lを加えて固形物を含む流動体とした後、これを室温で100時間以上、好ましくは150〜350時間沈殿槽に置き塩化ナトリウム及び重金属を沈殿させる。これをろ過して沈殿と不純物を除去した透明な水溶物を得ることができる。ろ過はろ紙または樹脂フィルターなどを用いて行うことができる。この水溶物を体積比で1/3〜1/5、好ましくは1/4に加熱濃縮し室温で結晶化させ、加熱乾燥させることによりカルシウム強化海洋ミネラル複合体結晶を得ることができる。結晶化は通常室温で40〜50日間行い、乾燥は通常乾燥機を使用し90℃で120〜180時間乾燥させる。これを粉砕後、フローターもしくは篩を使用して粒度を均一とし、通常10〜30メッシュのカルシウム強化MCMが得られる。
【0021】
本発明者らは、上記カルシウム強化MCM中の酢酸カルシウム量に相当する、酢酸カルシウム自体を水溶液として、ヒナに投与したところ、後述の実験例に示されるように、カルシウム強化MCMと同様にヒナの糖質コルチコイド(コルチコステロン)分泌量を抑制することを見出した。
したがって、本発明は、酢酸カルシウムに代表される水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分とする抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤をも提供するものである。
【0022】
なお、カルシウム化合物であっても不溶性カルシウムである炭酸カルシウムそれ自体には、糖質コルチコイドの分泌を抑制する作用は認められない。
【0023】
本発明で用いることができる水溶性カルシウムの例としては、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の有機酸カルシウム塩等が挙げられるが、酢酸カルシウムが好ましい。
【0024】
本発明で使用するカルシウム強化MCMは、例えば水深約80〜120m程度の清浄な海水域から汲み上げた海水を原料として調製される。表2に、典型的な黒潮海域(大洗沖)の海面下約100mで汲んだ清浄な海水18リットルに含まれる主要元素とその割合を示す。
【0025】
【表2】

【0026】
上記海洋深層水を原料として本発明の方法で製造されたカルシウム強化MCMの1例の化学組成を表3に示す。表3は塩化ナトリウム及び有毒成分が除去され海水中の有機物でキレート化された結晶性固形分(MCM)中に含まれる元素成分を示す。カルシウム強化MCMは常量・微量元素で構成されているが、塩化ナトリウムは分離され、カドミウム、有機及び無機鉛、有機水銀などの有害物質は測定されなかった。
【0027】
【表3】

【0028】
本発明で使用するカルシウム強化海洋ミネラル複合体(MCM)及び水溶性カルシウムの毒性は十分に低いものであり、医薬品として十分安全に使用できることが確認されている。本発明によるカルシウム強化MCM、及び水溶性カルシウムを抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤として用いるには、通常、経口の形で投与される。投与量は、年齢、体重、症状、治療・予防効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人1人当たり、1回について、300mgから400mgの範囲で、1日1回から数回経口投与することが望ましい。また鶏のヒナに投与する場合は、通常0.1〜5%、好ましくは0.2〜2%含む水溶液を自由飲水させる。
【0029】
本発明に係るカルシウム強化MCM、あるいは水溶性カルシウムを投与する際には、経口投与のための固体組成物、液体組成物及びその他の組成物として用いられる。経口投与のための固体組成物には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、さらには不活性な希釈剤(例えば精製水、エタノール)を含有する。この組成物には、さらに湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有せしめてもよい。
【実施例】
【0030】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1:カルシウム強化海洋ミネラル複合体(MCM)の採卵鶏ヒナに対する血中コルチコステロン分泌抑制作用試験(抗ストレス試験)
カルシウム強化MCMは以下の方法で製造したものを用いた。
【0032】
[カルシウム強化MCM]
黒潮海域(ひたちなか市沖)の海面下約100mの清浄な原料海水を200L採取し、これを加熱濃縮して100Lの海水の濃縮液を得た。この濃縮海水に体積比で0.2%の塩化マグネシウム、及び0.001%の活性炭を添加し100℃に加熱した。別に、濃縮海水に対する体積比20%の炭酸カルシウムを約400℃に焼成し、これに炭酸カルシウムと同体積の酢酸を投入して酢酸カルシウムに変化させた後、全体が固形物となるまで濃縮海水に投入した。全体が固形物となるまでにこの操作を8回繰り返した。この固形物約30Lに原料海水45Lを加えて固形物を含む流動体とした後、これを室温で120時間沈殿槽に置き塩化ナトリウム及び重金属を沈殿させた。これをろ紙でろ過して沈殿と不純物を除去した澄明な水溶物を得た。この水溶物を体積比で1/4に加熱濃縮後、室温で約3日間(冬期)〜約10日間(夏期)かけて結晶化させ、約90℃で150時間乾燥させることにより海洋ミネラル複合体結晶を得た。これを粉砕後粒度を均一とし、約20メッシュの海洋ミネラル複合体約7kgを得た。
【0033】
初生の採卵鶏雄ヒナ(Julia )を千葉県東金市三宅孵卵場より購入し、自由摂食で飼育した。飲水中にそれぞれ0.2%、1.0%の海洋ミネラル複合体(MCM)を混ぜたもの、及びMCMを混ぜないコントロールを用意し、自由飲水させた。4日間の群飼後、ヒナに単離ストレス(ヒナは集団で飼育している時はストレスを受けないが、単離することによりストレスを受ける。)を10分間暴露し、ストレスを付加した。ストレス付加後、静脈より採血し、鶏における糖質コルチコイドであるコルチコステロンをELISAにて測定し、血中コルチコステロン濃度を指標に、カルシウム強化MCMの抗ストレス効果を調べた。コルチコステロン濃度は、ポストホックテストとしてボンフェローニ(Bonferroni)法により有意差の検定を行った。その結果、カルシウム強化MCM投与区において血中コルチコステロン濃度が濃度依存的に有意に抑制されることが認められた。
【0034】
コントロール溶液投与群(カルシウム強化MCM無投与群)のコルチコステロン濃度を100とすると、0.2%MCM溶液投与群及び1%MCM溶液投与群のコルチコステロン濃度はそれぞれ52.6、23.9である。このことから、カルシウム強化MCM投与群で単離ストレス条件下における血中コルチコステロン濃度の上昇が濃度依存的に有意に抑制されることが認められた。
図2及び表4に、カルシウム強化MCM経口投与が単離ストレス付加採卵鶏ヒナの血中コルチコステロン濃度に与える影響を示す。
【0035】
【表4】

【0036】
実施例2:酢酸カルシウムの採卵鶏ヒナに対する血中コルチコステロン分泌抑制作用試験(抗ストレス試験)
初生の採卵鶏雄ヒナ(Julia )を千葉県東金市三宅孵卵場より購入し、自由摂食で飼育した。飲水中に40mM酢酸カルシウムを混ぜたものを用意し、自由飲水させた。なお、コントロールとして酢酸カルシウム非投与群を設けた。4日間の群飼後、ヒナに単離ストレスを10分間暴露し、ストレスを付加した。ストレス付加後、静脈より採血し、鶏における糖質コルチコイドであるコルチコステロンをELISAにて測定し、血中コルチコステロン濃度を指標に、酢酸カルシウムの抗ストレス効果を調べた。コルチコステロン濃度は、ポストホックテストとしてボンフェローニ(Bonferroni)法により有意差の検定を行った。
【0037】
その結果、酢酸カルシウム投与群で単離ストレス条件下における血中コルチコステロン濃度の上昇が濃度依存的に有意に抑制されることが認められた。
図3及び表5に、酢酸カルシウムの経口投与が単離ストレス付加採卵鶏ヒナの血中コルチコステロン濃度に与える影響を示す。
【0038】
【表5】

【0039】
実施例1及び実施例2の結果より、カルシウム強化MCM及び酢酸カルシウムは、ストレス指標であるヒナの血中コルチコステロン濃度上昇を抑制し、その作用効果は含有する酢酸カルシウムに起因したものであることが明らかになった。したがって、酢酸カルシウムと同様に可溶性の他のカルシウム塩についても同様の効果が期待できる。
【0040】
実施例3:カルシウム強化MCMカプセル飲用によるヒトに対する抗ストレス改善効果
本実施例で使用したカルシウム強化MCMカプセルは、常法により調製したものであり、1カプセル中にカルシウム強化MCMを400mg含むものである。
【0041】
20〜60代の男性127名、及び20〜40代の女性187名がカルシウム強化MCMカプセルを1日4粒/20日間服用したときの抗ストレス改善効果を表6に示す。表6には、ストレスの種類ごとにストレスの改善効果が改善率(%)で示されている。なお、改善率(%)はカルシウム強化海洋ミネラル複合体カプセル服用者全員の申告に基づき、そのうち改善されたと申告したヒトの百分率を示している。
【0042】
【表6】

【0043】
表6に示されるように、カルシウム強化MCMカプセルの服用者のうち1〜3割に当たるヒトがストレスの改善効果を申告している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽等の動物に対して有用な、カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分として含有する抗ストレス剤、及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤を提供する。本発明によるヒト及び動物の抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤は、カルシウム強化海洋ミネラル複合体、または酢酸カルシウムに代表される水溶性カルシウムと海水中の微量元素を有効成分とするものであり、ストレスに起因する糖質コルチコイドの分泌を抑制するため、抗ストレス剤及び糖質コルチコイドの分泌抑制剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる、カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分として含有する抗ストレス剤。
【請求項2】
海洋ミネラル複合体が、焼成した炭酸カルシウムに酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られるものである請求項1に記載の抗ストレス剤。
【請求項3】
海水濃縮液が海水原液の1/3〜2/3容量%濃縮液であり、前記海水の濃縮液に対し10〜30容量%の炭酸カルシウムを300〜500℃に焼成し、これに炭酸カルシウムとほぼ同体積の酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる請求項2に記載の抗ストレス剤。
【請求項4】
前記海水濃縮液に炭酸カルシウムと酢酸を加えた反応で固形物を得、これに原料海水を加えた流動体から塩化ナトリウム及び重金属を除去して得られる請求項1〜3のいずれかに記載の抗ストレス剤。
【請求項5】
水溶性カルシウム及び海水中の微量元素を有効成分とする抗ストレス剤。
【請求項6】
水溶性カルシウムが酢酸カルシウムである請求項5に記載の抗ストレス剤。
【請求項7】
ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽用である請求項1〜6のいずれかに記載の抗ストレス剤。
【請求項8】
鶏用である請求項7に記載の抗ストレス剤。
【請求項9】
海水中のピコプランクトンに由来する有機成分とその有機成分によりキレート化されたミネラル分を含有する海水濃縮液に、炭酸カルシウムと酢酸を加え反応させて得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる、カルシウム強化海洋ミネラル複合体を有効成分として含有する糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項10】
海洋ミネラル複合体が、焼成した炭酸カルシウムに酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られるものである請求項9に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項11】
海水濃縮液が海水原液の1/3〜2/3容量%濃縮液であり、前記海水の濃縮液に対し10〜30容量%の炭酸カルシウムを300〜500℃に焼成し、これに炭酸カルシウムとほぼ同体積の酢酸を投入したものを海水濃縮液に加えて反応させることにより得られる固形物を含む流動体から塩化ナトリウム及び有毒成分を除去して得られる請求項10に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項12】
前記海水濃縮液に炭酸カルシウムと酢酸を加えた反応で固形物を得、これに原料海水を加えた流動体から塩化ナトリウム及び重金属を除去して得られる請求項9〜11のいずれかに記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項13】
水溶性カルシウム及び海水中の微量元素を有効成分とする糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項14】
水溶性カルシウムが酢酸カルシウムである請求項13に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項15】
ヒト、家畜、コンパニオン・アニマルまたは家禽用である請求項9〜14のいずれかに記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。
【請求項16】
鶏用である請求項15に記載の糖質コルチコイドの分泌抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46432(P2012−46432A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187841(P2010−187841)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(596153634)
【Fターム(参考)】