説明

カロテノイド−フェオフルバイド複合体およびそれらを用いる発癌ウイルス活性化抑制剤

【課題】発癌ウイルス活性化抑制作用を持つ新規カロテノイドの提供。
【解決手段】下記化学構造式で示されるフコキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルなどのカロテノイド−フェオフルバイド複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド−フェオフルバイド複合体に関する。より詳細には、カロテノイド−フェオフルバイド複合体およびそれらを用いる発癌ウイルス活性化抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは赤、橙、黄色を示すテトラテルペン色素で微生物、植物、動物に広く分布する化合物群であり現在までにおよそ750種の存在が知られている(G. Britton et al., Carotenoids Handbook, Birkhauser Verlag, Basel2004、宮下和夫、カロテノイドの科学と最新の応用技術、シーエムシー、2009)。さらに、カロテノイドは抗酸化作用、発癌予防効果、生活習慣病予防などで注目されている化合物である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにカロテノイドは重要な生理活性天然有機化合物である。そこで発明者は、さらなる生理活性を持つ新規天然カロテノイドをスクリーニングした。
【0004】
本発明の課題は天然物由来の新規カロテノイドを提供することである。さらに詳しく述べれば発癌ウイルス活性化抑制効果を持つ天然新規カロテノイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、海産の巻貝であるトコブシ (Haliotis diversicolor aquatilis) およびアワビ (Haliotis discus discus)から化学構造式1〜5で示される新規カロテノイドを見出した。さらに、これらの化合物が発癌ウイルス活性化抑制作用を持つことを見出し発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、化学構造式6で示される新規化合物、カロテノイド−フェオフルバイド複合体である。
【化6】


ここでRは下記化合物a〜eのいずれかである。


【0007】
したがって、本発明の化合物は、
上記化合物aに相当する下記化合物1[化1]、
上記化合物bに相当する下記化合物2[化2]、
上記化合物cに相当する下記化合物3[化3]、
上記化合物dに相当する下記化合物4[化4]、
上記化合物eに相当する下記化合物5[化5]、
で示されるカロテノイド−フェオフルバイド複合体である。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0008】
化合物1はフコキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステル、化合物2はハロシンチアキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステル、化合物3はルテイン3−ピロフェオフルバイドAエステル、化合物4はルテイン3' −ピロフェオフルバイドAエステル、化合物5はムタトキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルである。これらの化合物はカロテノイドとフェオフルバイドの一種であるピロフェオフルバイドAがエステル結合で結合した全く新しい構造を持つ化合物群である。
【発明の効果】
【0009】
化学式1〜5で示される新規化合物は発癌ウイルスであるエプシュタインバールウイルスのゲノムの発現を顕著に抑制する効果を示す。
【0010】
化学式1〜5で示される新規化合物は、古来食用に供されてきたアワビ、とこぶしの食用部分から抽出されたものであり、細胞毒性は認められない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における新規化合物1〜5は海産巻貝のトコブシまたはアワビの消化管部分(中腸腺)からアセトンやエタノールなどの有機溶媒を用いて抽出することができる。さらにこの抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーにより分離、精製することで化合物1〜5を調整することができる。
【実施例1】
【0012】
新規化合物1〜5の抽出、分離
化合物1〜5は一例として、次のような手順により抽出、分離される。すなわち、トコブシの消化管100gをアセトンで抽出する。抽出エキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより成分分画する。エーテル/ヘキサン(6:4)で溶出する褐色のフラクションをさらにシリカゲルを固定相、アセトン/ヘキサン(3:7)を移動相とするHPLCにより分離することにより化合物1(6.6mg)、2(1.0mg)、3(0.2mg)、4(0.2mg)、5(0.2mg)をそれぞれ単離した。これらの化合物の構造はFABMSおよびNMRにより決定した。それらのスペクトルデータを[表1]1〜3に示した。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【実施例2】
【0013】
新規化合物1〜5の発ガンウイルス活性化抑制作用
エプスタイン−バールウイルス・ゲノムの発現阻害活性の測定を次の条件で行った。エプスタイン−バール ウイルス潜在感染ヒトリンパ芽球細胞株、ラジ細胞の培養液としてPRMI1640に胎仔血清及び抗生物質を加えたものを使用した。この培養条件下で、エプスタイン−バール ウイルス早期抗原の自然発生率は0.1%以下である。1×106細胞/mlの濃度に調整したラジ細胞を、4mMのn−酪酸、20ng/mlのTPA、それに1000mol ratio/TPA(20ng=32pmol/ml)の被検物質を加えた上記培養液中で37℃、48時間培養した、上咽頭癌患者血清を用いた間接蛍光抗体法にてエプスタイン−バール ウイルス早期抗原を発現した細胞を検出し、陽性細胞の比率を被検物質を加えなかったコントロールに対して算出し、ウイルス・ゲノムの再現阻害活性とした。それぞれの化合物の活性はIC50値 (mol ratio/TPA)で示した[表2]。これらの化合物はすでに発癌予防効果が知られている天然カロテノイドのカプサンチン(特開平11−139966、特開平10−236968)と同等もしくはα-カロテン(宮下和夫、カロテノイドの科学と最新の応用技術、シーエムシー、2009)より優れた効果を示した。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明による発癌ウイルス活性化抑制作用を持つ新規カロテノイド1−5を食品や医薬品に用いることにより癌予防効果が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−139966
【特許文献2】特開平10−236968
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】G. Britton et al., Carotenoids Handbook, Birkhauser Verlag, Basel 2004
【非特許文献2】宮下和夫、カロテノイドの科学と最新の応用技術、シーエムシー、2009

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造式6で示されるカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化6】


ここでRは下記化合物a〜eのいずれかである。


【請求項2】
下記化学構造式1で示されるフコキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルである請求項1記載のカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化1】



【請求項3】
下記化学構造式2で示されるハロシンチアキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルである請求項1記載のカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化2】

【請求項4】
下記化学構造式3で示されるルテイン3−ピロフェオフルバイドAエステルである請求項1記載のカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化3】



【請求項5】
下記化学構造式4で示されるルテイン3‘−ピロフェオフルバイドAエステルである請求項1記載のカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化4】



【請求項6】
下記化学構造式5で示されるムタトキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体。
【化5】




【請求項7】
下記化学構造式6で示されるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化6】


ここでRは下記化合物a〜eのいずれかである。


【請求項8】
下記化学構造式1で示されるフコキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる請求項7記載の発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化1】



【請求項9】
下記化学構造式2で示されるハロシンチアキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる請求項7記載の発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化2】

【請求項10】
下記化学構造式3で示されるルテイン3−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる請求項7記載の発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化3】



【請求項11】
下記化学構造式4で示されるルテイン3‘−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる請求項7記載の発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化4】



【請求項12】
下記化学構造式5で示されるムタトキサンチン−ピロフェオフルバイドAエステルであるカロテノイド−フェオフルバイド複合体を用いる請求項7記載の発癌ウイルス活性化抑制剤。
【化5】





【公開番号】特開2012−219051(P2012−219051A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85220(P2011−85220)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002336)財団法人生産開発科学研究所 (10)
【Fターム(参考)】