説明

カーボンナノチューブが付着した導電性繊維、導電性糸、繊維構造体およびそれらの製造方法

【課題】繊維表面のほぼ全面にカーボンナノチューブが均一かつ強固に付着し、導電性及び柔軟性を有する導電性繊維を提供する。
【解決手段】合成繊維と、この合成繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層とで構成された導電性繊維において、前記合成繊維の全表面に対して60%以上(特に90%以上)を前記導電層で被覆する。この導電性繊維の電気抵抗値は1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲にあり、その抵抗値の対数の標準偏差が1.0未満である。前記導電層の厚みは0.1〜5μmの範囲にあり、カーボンナノチューブの割合は、合成繊維100質量部に対して0.1〜50質量部であってもよい。この導電性繊維はバインダーを含んでいてもよい。この導電性繊維は、合成繊維に振動を与えながら、分散液中に合成繊維を浸漬して、導電層を合成繊維の表面に付着させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブが付着した導電性繊維、この導電性繊維を含む導電性糸及び繊維構造体(布帛)並びにそれらの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ナノ(nm)サイズの微細なカーボンナノチューブが繊維表面に均一かつ強固に付着した導電性繊維、導電性糸、導電性繊維構造体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維などの合成繊維は、機械的特性、耐薬品性、耐候性、取り扱い性などに優れることから、衣料、寝装品、インテリア繊維製品、産業資材、医療用資材などをはじめとして多くの用途で汎用されている。
【0003】
しかし、合成繊維を用いた製品は、摩擦などによって静電気を発生し易い。静電気が発生すると、塵埃を吸引して美観が低下したり、放電による衝撃や不快感を人体に与えるだけでなく、帯電電荷の放電時のスパークによる電子機器への障害、引火性物質への引火爆発などを引き起こすことがある。
【0004】
静電気の発生や帯電に伴う前記問題を解決するために、合成繊維や合成繊維製布帛に導電性を付与するための技術が従来から多く提案されている。代表的な従来技術としては、特開平11−350296号公報(特許文献1)や特開2003−73915号公報(特許文献2)において、導電性カーボンなどの導電性粒子を重合体中に添加し、それを用いて溶融紡糸などによって導電性粒子を練り込んだ合成繊維を製造し、当該合成繊維を用いて布帛などを製造する方法が開示されている。また、特開2003−89969号公報(特許文献3)や特表2005−539250号公報(特許文献4)には、合成繊維や合成繊維製布帛などの表面にカーボンブラックなどの導電性粒子をバインダーで付着させた布帛なども開示されている。
【0005】
しかし、導電性カーボンなどの導電性粒子を重合体中に添加した合成繊維は、導電性粒子が繊維表面の全体に均一に露出しておらず、繊維表面の一部で導電性粒子が露出しているに過ぎないため、導電性が十分ではなく、しかもこの合成繊維を用いて製造した布帛では導電性能にバラツキが生じ易い。
【0006】
また、カーボンブラックなどの導電性粒子をバインダーによって表面に付着させた合成繊維では、通常ミクロン(μm)オーダーのサイズを有する導電性粒子を合成繊維表面に付着させる必要があるため、合成繊維(モノフィラメント)の太さを20デシテックス以上の太繊度にしなければならず、それに伴って合成繊維の柔軟性の低下、製編織などの加工性の低下、風合の低下などが生じ易い。さらに、繊維表面に付着させた導電性粒子が摩擦や洗濯などによって脱落し易く、導電性能の耐久性に劣っている。
【0007】
さらに、合成繊維を用いて製造した布帛にカーボンブラックや金属粒子などの導電性粒子をバインダーなどによって付着させたものは、柔軟性が低く、布帛表面からの導電性粒子の脱落が生じ易い。
【0008】
また、近年、放送、移動体通信、レーダー、携帯電話、無線LAN、パーソナルコンピューターなどにおいて電磁波が広く用いられるようになっており、それに伴って生活空間に電磁波や磁気が散乱し、ヒトにおける電磁波・磁気障害、電子機器の誤作動などが問題になっている。かかる点から、導電性金属粒子を含有または付着させて導電性にすることによって電磁波遮蔽能を付与した合成繊維や合成繊維製布帛が提案されている。このような電磁波遮蔽能を有する布帛は、衣類、壁面被覆材料、機器用カバー、間仕切りなどに用いて、人体や電子機器などを電磁波障害から保護することを目的としている。
【0009】
しかし、導電性金属粒子を含有または付着させた従来の電磁波遮蔽性の合成繊維や布帛は、付着させた金属粒子・切片の脱落による性能低下や発塵の問題があり、未だ十分に満足のゆくものではない。
【0010】
一方、カーボンナノチューブは、1991年に日本で発見されて以来、その優れた機械的特性、導電性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱安定性などの特性を活かすべく、様々な用途や製品への利用が試みられている。しかし、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力によって凝集が生じ易く、それに伴って複数本のカーボンナノチューブが集合した“バンドル構造”(結束構造)を形成してしまうため、カーボンナノチューブ本来のnmオーダーのサイズメリットや、上記した優れた機械的特性、電気伝導率、熱安定性などを十分に活かせないでいるのが実状である。
【0011】
このようなカーボンナノチューブを繊維に付着させる方法としては、例えば、特開2005−264400号公報(特許文献5)には、カーボンナノチューブ及びこのカーボンチューブに対して質量比で5〜20倍の界面活性剤を含むスラリ状処理液に天然繊維を浸漬させて天然繊維の表面にカーボンナノチューブを被覆させる方法が開示されている。この文献には、界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系が例示され、アニオン系、カチオン系が好ましいと記載されている。しかし、この方法で得られた繊維は、カーボンナノチューブが均一に繊維表面に被覆されていないため、導電性が充分でなく、繊維とカーボンナノチューブとの密着力も低く、カーボンナノチューブが脱落し易い。
【0012】
さらに、特開2006−213839号公報(特許文献6)には、表面に導電性剤が付着した繊維束を全重量を基準として60〜97%含有する導電性樹脂成形体が開示されている。この文献には、芳香族ポリアミド繊維束の表面に、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブなどの導電性剤を接着剤で付着させる方法が記載されている。しかし、この成形体でも、カーボンナノチューブが均一に繊維表面に被覆されていないため、導電性が充分でなく、繊維の機械的特性も低下する。
【0013】
一方、カーボンナノチューブを均一に分散させる方法として、特開2007−39623号公報(特許文献7)には、カーボンナノチューブの凝集体に両性分子を付着させることにより、前記凝集体を分散させたカーボンナノチューブ分散ペーストの製造方法が提案されている。この文献には、このペーストにカラギーナンやDNAなどの極性高分子の溶液に溶解して得られる分散液が記載されている。なお、この文献には、カーボンナノチューブを含有するアルギン酸繊維が乳酸・グリコール酸共重合体で覆われたカーボンナノチューブ含有繊維が記載されているが、表面がカーボンナノチューブで被覆された合成繊維及びその製造方法は記載されていない。
【特許文献1】特開平11−350296号公報
【特許文献2】特開2003−73915号公報
【特許文献3】特開2003−89969号公報
【特許文献4】特表2005−539150号公報
【特許文献5】特開2005−264400号公報
【特許文献6】特開2006−213839号公報
【特許文献7】特開2007−39623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、繊維表面のほぼ全面にカーボンナノチューブが均一かつ強固に付着され、かつ導電性及び柔軟性を有する導電性繊維、この導電性繊維を含む導電性糸及び繊維構造体並びにそれらの製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、繊維からの導電性粒子の脱落が抑制され、導電性能を長期にわたって維持でき、しかも柔軟性、加工性、風合、触感、軽量性などにも優れる導電性繊維、この導電性繊維を含む導電性糸及び繊維構造体並びにそれらの製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、導電性及び柔軟性を備える導電性繊維、導電性糸及び繊維構造体を、簡単に、かつ円滑に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは前記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、カーボンナノチューブを含む特定の分散液中に合成繊維を浸漬した後、乾燥することにより、合成繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層を繊維表面の60%以上にわたり均一かつ強固に付着できることを見出した。さらに、カーボンナノチューブを分散させた分散液を用いて、合成繊維、繊維構造体にカーボンナノチューブ分散液を含浸処理する際に、この合成繊維または繊維構造体に一定振動数以上の微振動を与えることで、さらに分散液がマルチフィラメントの束や紡績糸の内部にまで浸透し、繊維の単糸1本1本の表面すべてにわたってカーボンナノチューブを付着させることができ、バインダーを用いる場合には、均一な導電層を形成することを見出した。
【0018】
また、本発明者らは、繊維表面にサイズが極めて小さく且つ導電性に優れたカーボンナノチューブが少量付着されているため、繊維または繊維構造体にカーボンナノチューブを付着させた場合の質量変化量を極力抑えることができるとともに、繊維径の小さな合成繊維を用いることができ、従来技術に比べて、柔軟性、風合、加工性などに優れ、導電性能、導電発熱性能、帯電防止性、電磁波・磁気遮蔽性、熱伝導性を有する繊維や繊維構造体が得られることを見出した。
【0019】
さらに、本発明者らは、合成繊維又は繊維構造体における繊維表面にカーボンナノチューブを付着させるに当たって、カーボンナノチューブを含む水性分散液として、界面活性剤、特に両性イオン界面活性剤の存在下、カーボンナノチューブが凝集せずに微細な粒径で良好に分散している分散液を用い、繊維表面にカーボンナノチューブを斑なく付着させ得ることを見出し、合わせて、前記水性水分散液にバインダーを含ませることにより、より強固に繊維表面にカーボンナノチューブを付着できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明の導電性繊維は、合成繊維と、この合成繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層とで構成された導電性繊維であって、前記合成繊維の全表面に対する前記導電層の被覆率が60%以上(特に90%以上)である。この導電層において、前記カーボンナノチューブは繊維表面でネットワークを形成し、均一かつ強固に繊維表面に付着している。前記導電層の厚みは、繊維表面において均一であり、0.1〜5μmの範囲にあってもよい。前記合成繊維を含む糸の平均太さは10〜1000dtex程度である。本発明の導電性繊維は、20℃における電気抵抗値は、用途に応じて、例えば、1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲から選択でき、その電気抵抗値の対数値の標準偏差は1.0未満の均一な繊維であってもよい。特に、1×10-2〜1×104Ω/cmの範囲の繊維は、電磁波及び磁気遮蔽性に優れる。本発明の導電性繊維は、5cmの間隔で電極を取り付け、直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維の温度が60秒間で2℃以上上昇する繊維であってもよい。カーボンナノチューブの割合は、合成繊維100質量部に対して0.1〜50質量部程度である。前記導電層は、さらにバインダーを含んでいてもよい。前記合成繊維は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成されていてもよい。
【0021】
本発明には、前記導電性繊維を含む導電性糸(例えば、単糸、双糸、マルチフィラメント、複合撚糸など)も含まれる。本発明の導電性糸は、双紙、マルチフィラメント、紡績糸であってもよい。また、本発明には、前記導電性繊維及び/又は前記導電性糸を含む導電性繊維構造体も含まれる。この導電性繊維構造体において、20℃における表面漏洩電気抵抗値は、用途に応じて、例えば、1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲から選択でき、JIS L 0217の103号に準拠した洗濯を20回実施後の表面漏洩電気抵抗値が洗濯前の表面漏洩電気抵抗値に対して1〜10000倍程度であってもよい。特に、1×10-2〜1×104Ω/cmの範囲の繊維は、電磁波及び磁気遮蔽性に優れ、5cmの間隔で繊維構造体に電極を取り付け、20℃において直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維構造体の温度が60秒間で2℃以上上昇してもよい。
【0022】
本発明には、カーボンナノチューブを含む分散液を用いて、合成繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層を付着させる工程及び導電層が表面に付着した合成繊維を乾燥する工程を含む前記導電性繊維の製造方法も含まれる。前記乾燥工程において、乾燥処理は加熱してもよい。この方法において、合成繊維に振動(例えば、20Hz以上の振動)を与えながら分散液中に合成繊維を浸漬して、導電層を合成繊維の表面に付着してもよい。前記分散液は界面活性剤(特に両性界面活性剤)を含んでいてもよい。界面活性剤の割合は、カーボンナノチューブ100質量部に対して0.1〜50質量部程度である。前記分散液はバインダーを含んでいてもよい。
【0023】
本発明には、前記導電性繊維の製造方法によって得られる導電性繊維を含む導電性糸も含まれる。本発明には、前記導電性繊維の製造方法によって得られる導電性繊維及び/又は導電性糸を用いて形成された導電性繊維構造体も含まれる。
【0024】
なお、本願明細書では、「合成繊維」は、合成繊維を含む合成繊維製糸(単糸、複合糸など)をも包含する意味で用いることもある。さらに、「繊維構造体」は、織布や不織布などの布帛に加えて、これらの布帛を含む成形体、三次元状の繊維状成形体も含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の導電性繊維(導電性糸及び導電性繊維構造体を構成する合成繊維も含む。以下同様)では、繊維表面のほぼ全面に、カーボンナノチューブが斑なく(均一に)且つ強固に付着している。そのため、優れた導電性を有するとともに、繊維表面にサイズの極めて小さく且つ導電性に優れたカーボンナノチューブを少量付着させるために、繊維にカーボンナノチューブを付着させた場合の質量変化量を極力抑えることができ、さらに、繊維径の小さな合成繊維を用いることができるために、従来技術に比べて、柔軟性、風合、加工性、取り扱い性などに優れる合成繊維を得ることができる。特に、本発明の導電性繊維は、極めて優れた導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性などを有し、しかも洗濯や摩擦などによってカーボンナノチューブが繊維表面から脱落し難いので、各性能の耐久性に優れている。
【0026】
さらに、分散液で処理する際、合成繊維又は繊維構造体に微振動(例えば、20〜2000Hz程度)を与えることで、繊維に対してカーボンナノチューブを均一に付着できる。特に、繊維がマルチフィラメントや紡績糸(特にマルチフィラメント)の場合、分散液がマルチフィラメントの束や紡績糸の内部にまで浸透し、繊維の内部(特にマルチフィラメントの単糸1本1本の全表面)に亘りカーボンナノチューブを付着でき、均一な導電層により繊維の長さ方向に安定した電気抵抗値が得られる。このような振動を付与する処理に加えて、さらにバインダーを用いると、より強固な導電層を形成できる。
【0027】
さらに、本発明において、カーボンナノチューブの分散液として、界面活性剤、特に両性イオン界面活性剤の存在下に、カーボンナノチューブを水中に分散させる処理を行って得られた水性分散液を用いた場合には、この水性分散液中にカーボンナノチューブが凝集せずにより微細なサイズで良好に分散することにより、繊維表面にカーボンナノチューブをより均一に付着でき、繊維の長さ方向に安定した電気抵抗値を持つ繊維が得られる。
【0028】
特に、繊維表面にカーボンナノチューブが均一に薄層状にネットワークを形成し、強固に付着した本発明の導電性繊維は、前記特性を活かして、帯電防止性能や電磁波・磁気遮蔽性能を有する作業着やユニフォームなどの衣類用途、カーテンなどのインテリア用途、除電バグフィルター、電磁波遮蔽性の産業資材、放熱体、また低電圧で効率よく発熱する面状発熱体などの種々の用途に有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0030】
[導電性繊維]
本発明は、合成繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層が被覆(付着)された導電性繊維、この導電性繊維を含む導電性糸、前記導電性繊維及び/又は導電性糸を含む繊維構造体(繊維集合体)を包含する。
【0031】
本発明における合成繊維は、繊維形成性の合成樹脂又は合成高分子材料(合成有機重合体)を用いて形成した繊維であり、本発明の合成繊維は、1種類の合成有機重合体(以下単に「重合体」ということがある)から形成されていてもよいし、2種類以上の重合体から形成されていてもよい。合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂[芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレートなどの全芳香族ポリエステル系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂など)、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ヒドロキシブチレート−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル及びその共重合体)など]、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド及びその共重合体脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミドなど)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン及びその共重合体など)、アクリル系重合体(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂(ポリエステル型、ポリエーテル型、ポリカーボネート型ポリウレタン系樹脂など)、ポリビニルアルコール系重合体(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)などを挙げることができる。これらの合成樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
合成繊維が2種以上の重合体を用いて形成した合成繊維である場合は、2種以上の重合体の混合物(アロイ樹脂)を用いて形成した混合紡糸繊維であってもよいし、または2種以上の重合体が複数の相分離構造を形成した複合紡糸繊維であってもよい。複合紡糸繊維には、例えば、海島構造、芯鞘構造、サイドバイサイド型貼合せ構造、海島構造と芯鞘構造とが組み合わさった構造、サイドバイサイド型貼合せ構造と海島構造が組み合わさった構造などが挙げられる。
【0033】
これらの合成繊維のうち、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系重合体などで構成された繊維が、カーボンナノチューブの付着性が良好であり、しかも耐久性が良好である点から好ましい。なかでも、汎用性及び熱的特性の点から、ポリエステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC2-4アルキレンテレフタレート系樹脂)、ポリアミド系樹脂(特に、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド系樹脂)、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂)で構成された繊維が好ましく、特にポリエステル系繊維が熱安定性および寸法安定性が良好である点からより好ましい。また、目的によっては高強力・高弾性を有する液晶系繊維(液晶ポリエステル系繊維など)なども好適に用いることができる。
【0034】
合成繊維は、長繊維(フィラメント)であってもよく、短繊維であってもよい。長繊維(フィラメント)であると、作業着やユニフォームなどの衣料用途、カーテンやカーペットなどのインテリア用途、除電バグフィルターや電磁波遮蔽材などとして用いられる布帛に有効である。
【0035】
合成繊維の横断面形状は特に制限されず、丸形断面を有する通常の合成繊維であってもよく、丸形断面以外の異形断面を有する合成繊維であってもよい。異形断面繊維である場合は、その横断面形状は、例えば、方形、多角形、三角形、中空形、偏平形、多葉形、ドッグボーン型、T字形、V字形などのいずれであってもよい。これらの形状のうち、カーボンナノチューブを均一に形成し易い点などから、丸型断面形状が汎用される。
【0036】
また、合成繊維を含む糸の太さ(平均繊度)は特に制限されないが、例えば、10〜1000dtexの範囲で、目標とする繊維構造体の目付け、柔軟性・剛直性によって使い分けることができる。例えば、目付けの低い衣料用帯電防止性布帛に用いる場合には、布帛中に少量を組み込む際の設計の容易さや、少量の合成繊維をより均一に繊維構造体中に分散させることによる目的性能の発現とコストパフォーマンスの点から、10〜50dtex程度の細い繊度が好ましい。一方、カーペットや帆布用途には、繊維自体の耐久性の観点から、100dtex以上(例えば、100〜1000dtex程度)の太い繊度が好ましい。
【0037】
本発明の導電性繊維は、合成繊維単独で形成された糸条であってもよく、非合成繊維(天然繊維、再生繊維および半合成繊維からなる群から選択された少なくとも一種)と組み合わせた複合糸であってもよい。さらに、合成繊維単独で形成された糸条は、モノフィラメント糸、双糸、マルチフィラメント糸、加工したマルチフィラメント糸、紡績糸、テープヤーン、およびそれらの組み合わせなどのいずれであってもよい。複合糸[例えば、合成繊維と、天然繊維(綿、麻、ウール、絹など)、再生繊維(レーヨン、キュプラなど)および半合成繊維(アセテート繊維など)からなる群から選択された少なくとも一種とを混紡して形成した紡績糸など]である場合は、複合糸の表面への導電層(カーボンナノチューブ)の付着が良好に行われるように、複合糸の質量に対する合成繊維の含有割合が、例えば、0.1質量%以上、好ましくは10質量%以上、特に30質量%以上(例えば、50〜99質量%)が好ましく、また複合糸の表面の0.1%以上、好ましくは10%以上、特に30%以上(例えば、50〜100%)が合成繊維によって占められていることが好ましい。
【0038】
また、複合糸の太さ(平均繊度)は、カーボンナノチューブを付着した糸の取り扱い性(製編織性、他種繊維との交撚、カバリングなど)や、これを用いて作成する繊維構造体の目付け、柔軟性・剛直性によって設定することができる。
【0039】
本発明の導電性繊維において、合成繊維の表面の一部(局所)だけではなく、合成繊維の全表面の50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、さらに好ましくは全体(100%)をカバーする被覆率(カバー率)で、導電層(カーボンナノチューブ)が繊維表面に付着していることが好ましく、それによって導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能などが優れたものになる。
【0040】
また、複合糸では、糸の表面に位置する合成繊維の表面の60%以上(例えば、60〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、好ましくは全体(100%)をカバーする被覆率で導電層(カーボンナノチューブ)が付着していることが、導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能などが優れる点から好ましい。
【0041】
合成繊維や複合糸が、モノフィラメント糸ではなく、マルチフィラメント糸や紡績糸である場合は、糸の内側に位置する繊維表面(糸表面に露出していない繊維表面)には、導電層(特にカーボンナノチューブ)は付着していなくてもよいが、糸の表面に位置する繊維の表面だけでなく、糸の内部に位置する繊維の表面にも導電層(特にカーボンナノチューブ)が付着していると、合成繊維及び複合糸の導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能などが一層良好になる。
【0042】
紡績糸やマルチフィラメントなどの内部にカーボンナノチューブを付着させるためには、後述する微振動を利用したカーボンナノチューブの付着処理を行うのが好ましい。本発明では、前記繊維の中でも、このような付着処理における効果が顕著に表れる点から、双糸、マルチフィラメント、紡績糸、特に、マルチフィラメントが好ましく利用できる。微振動を利用した前記処理が有効に作用する点から、マルチフィラメントの場合、その単繊維繊度は、例えば、0.1〜50dtex、好ましくは0.3〜30dtex、さらに好ましくは0.5〜20dtex程度である。また、マルチフィラメントのトータル繊度は、例えば、10〜1000dtex、好ましくは15〜800dtex程度である。さらに、マルチフィラメントの本数は、例えば、2〜300本、好ましくは5〜200本、さらに好ましくは10〜100本程度である。さらに、撚糸の場合には、撚数は、例えば、200〜5000T/m、好ましくは1000〜4000T/m程度である。
【0043】
導電層の割合は、合成繊維(又は複合糸)100質量部に対して0.1〜100質量部、程度である。なかでも、合成繊維に導電性を付与するためには、カーボンナノチューブの割合が重要であり、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、合成繊維(複合糸)の種類、用途、カーボンナノチューブの種類、カーボンナノチューブ分散液の濃度などに応じて調整し得るが、一般的には、合成繊維(複合糸)100質量部に対して、例えば、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜25質量部、さらに好ましくは1〜20質量部(特に1〜15質量部)程度である。このような割合でカーボンナノチューブが付着された導電性繊維は、合成繊維および複合糸からのカーボンナノチューブの脱落防止、導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能などの点から好ましい。
【0044】
なお、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、界面活性剤の付着量を含まず、カーボンナノチューブがバインダーを用いて合成繊維(複合糸)の表面に付着している場合もバインダーの付着量を含まないカーボンナノチューブ自体の付着量をいう。
【0045】
さらに、本発明の導電性繊維は、合成繊維の表面において均一な厚みで導電層が付着されており、例えば、導電層の厚みは、略全表面において、例えば、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜4μm、さらに好ましくは0.3〜3μmの範囲にある。このような均一な導電層を有する本発明の導電性繊維は、カーボンナノチューブの脱落防止、また均一な導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能とする点から好ましい。このように厚みを制御するためには、後述するように、分散液で処理する際、合成繊維に微振動を与えることで、マルチフィラメントであっても、分散液がマルチフィラメントの束の内部にまで浸透し、繊維の単糸1本1本の表面すべてにわたって均一な樹脂層を形成できる。
【0046】
合成繊維または合成繊維製糸の表面にカーボンナノチューブを前記した量及び厚みの範囲内で調整し、付着させることによって、目的に沿った導電性を付与できる。導電性繊維及び導電性糸の20℃における電気抵抗値は、用途に応じて、1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲から選択できる。例えば、1×10-2〜1×104Ω/cm程度の繊維(又は糸)は、導電性能、導電発熱性能、電磁波・磁気遮蔽性能に優れる導電性繊維又は導電性糸として利用できる。また、1×105〜1×109Ω/cm(例えば、1×106〜1×108Ω/cm)程度の繊維は、帯電防止性能を要求される用途(帯電防止性布帛など)に利用できる。さらに、1×109〜1×1010Ω/cm程度の繊維は、複写機のクリーニングブラシなどに利用できる。また、その抵抗値の対数の標準偏差(例えば、長さ方向における10箇所以上での測定値の偏差)は、1.0未満を示し、ばらつきの少ない繊維方向に安定した導電性能を付与できる。
【0047】
さらに、本発明の導電性繊維は、合成繊維の表面に導電層が強固に付着しているため、耐久性も高い。JIS L 0217の103号に準拠した洗濯20回実施後の電気抵抗値は、洗濯前の電気抵抗値に対して、例えば、1〜10000倍(例えば、1〜1000倍)、好ましくは1〜100倍、さらに好ましくは1〜10倍程度である。
【0048】
さらに、1×10-2〜1×104Ω/cmの導電性繊維は、導電発熱性能にも優れるため、5cmの間隔で繊維に電極を取り付け、20℃において直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維の60秒間での上昇温度が、2℃以上(例えば、2〜100℃、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは10〜50℃程度)である。温度上昇の程度はカーボンナノチューブの付着量によって調整することができ、目的によってその到達温度を設定することができる。
【0049】
カーボンナノチューブは、特徴的な構造として、炭素の六員環配列構造を有する1枚のシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた直径数nm程度のチューブ状構造を有する。このグラフェンシートにおける炭素の六員環配列構造には、アームチェア型構造、ジグザグ型構造、カイラル(らせん)型構造などが含まれる。前記グラフェンシートは、炭素の六員環に五員環または七員環が組み合わさった構造を有する1枚のシート状グラファイトであってもよい。カーボンナノチューブとしては、1枚のシート状グラファイトで構成された単層カーボンナノチューブの他、前記筒状のシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブの内部にさらに径の小さいカーボンナノチューブを1個以上内包する多層カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じた形状のカーボンナノコーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなどが知られている。これらのカーボンナノチューブは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
これらのカーボンナノチューブのうち、カーボンナノチューブ自体の強度の向上の点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。さらに、導電性の点から、グラフェンシートの配列構造は、アームチェア型構造が好ましい。
【0051】
本発明で用いるカーボンナノチューブの製造方法は特に制限されず、従来から知られている方法によって製造できる。
【0052】
具体的には、化学的気相成長法において、触媒[鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属またはフェロセン、前記金属の酢酸塩などの遷移金属化合物と、硫黄または硫黄化合物(チオフェン、硫化鉄など)の混合物など]の存在下、炭素含有原料(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノールなどのアルコール類など)を加熱することにより生成できる。すなわち、前記炭素含有原料及び前記触媒を雰囲気ガス(アルゴン、ヘリウム、キセノンなどの不活性ガス、水素など)と共に300℃以上(例えば、300〜1000℃程度)に加熱してガス化して生成炉に導入し、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲内の範囲内の一定温度で加熱して触媒金属を微粒子化させると共に炭化水素を分解させることによって微細繊維状(チューブ状)炭素を生成させる。これにより生成した繊維状炭素は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含有していて純度が低く、結晶性も低いので、次に800〜1200℃の範囲内の好ましくは一定温度に保持された熱処理炉で処理して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除くのが好ましい。さらに、微細繊維状炭素を2400〜3000℃の温度でアニール処理して、カーボンナノチューブにおける多層構造の形成を一層促進すると共にカーボンナノチューブに含まれる触媒金属を蒸発することによって製造できる。
【0053】
カーボンナノチューブの平均径(軸方向に対して直交する方向の直径又は横断面径)は、例えば、0.5nm〜1μm(例えば、0.5〜500nm、好ましくは0.6〜300nm、さらに好ましくは0.8〜100nm、特に1〜80nm)程度から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5〜10nm、好ましくは0.7〜8nm、さらに好ましくは1〜5nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5〜300nm、好ましくは10〜100nm、好ましくは20〜80nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜300μm(特に20〜100μm)程度である。
【0054】
導電層は、製造工程で用いられる分散液に含まれる界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、両性イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれもが使用できる。
【0055】
両性イオン界面活性剤には、スルホベタイン類、ホスホベタイン類、カルボキシベタイン類、イミダゾリウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類などが含まれる。
【0056】
スルホベタイン類としては、例えば、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩(スルホネート)、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ドデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ヘキサデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩などのジC1-4アルキルC8-24アルキルアンモニオC1-6アルカンスルホン酸塩、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)などのステロイド骨格を有するアルキルアンモニオC1-6アルカンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0057】
ホスホベタイン類としては、例えば、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリンなどのC8-24アルキルホスホコリン、レシチンなどのグリセロリン脂質、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのポリマーなどが挙げられる。
【0058】
カルボキシベタイン類としては、例えば、ジメチルラウリルカルボキシベタインなどのジメチルC8-24アルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタインなどが挙げられる。イミダゾリウムベタイン類としては、例えば、ラウリルイミダゾリウムベタインなどのC8-24アルキルイミダゾリウムベタインなどが挙げられる。アルキルアミンオキシドとしては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシドなどのトリC8-24アルキル基を有するアミンオキシドなどが挙げられる。
【0059】
これらの両性イオン界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、両性イオン界面活性剤において、塩としては、アンモニア、アミン(例えば、アミン、エタノールアミンなどのアルカノールアミン等)、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムなど)等との塩が挙げられる。
【0060】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルベンゼンスルホン酸塩など)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのジC3-8アルキルナフタレンスルホン酸塩など)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルスルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジC6-24アルキルスルホコハク酸塩など)、アルキル硫酸塩(例えば、硫酸化脂、ヤシ油の還元アルコールと硫酸とのエステルのナトリウム塩などのC6-24アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン(平均付加モル数2〜3モル程度)アルキルエーテル硫酸塩など)、アルキルリン酸塩(例えば、モノ〜トリ−ラウリルエーテルリン酸などのリン酸モノ〜トリ−C8-18アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩など)などが挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。塩としては、前記両性イオン界面活性剤と同様の塩が例示できる。
【0061】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのモノ又はジC8-24アルキル−トリ又はジメチルアンモニウム塩など)、トリアルキルベンジルアンモニウム塩[例えば、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのC8-24アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム塩など)など]、アルキルピリジニウム塩(例えば、セチルピリジニウムブロマイドなどのC8-24アルキルピリジニウム塩など)などが挙げられる。これらの陽イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、塩としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、過塩素酸などとの塩が挙げられる。
【0062】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-24アルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-18アルキルフェニルエーテルなど)、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル[例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンソルビタンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C8-24脂肪酸エステルなど]、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC8-24脂肪酸エステル)などが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記ノニオン性界面活性剤において、エチレンオキサイドの平均付加モル数は、1〜35モル、好ましくは2〜30モル、さらに好ましくは5〜20モル程度である。
【0063】
これらの界面活性剤のうち、製造工程において使用される分散液中において、カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を防ぎながら、カーボンナノチューブを水などの分散媒中に安定に微細に分散させることができる点から、陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤との組み合わせ、両性イオン界面活性剤単独のいずれかが好ましく、両性イオン界面活性剤が特に好ましい。そのため、両性イオン界面活性剤の使用下にカーボンナノチューブを分散させた分散液を用いて合成繊維、合成繊維製糸及び繊維構造体を処理すると、カーボンナノチューブをそれらの繊維表面に、斑なく付着させることができる。
【0064】
両性イオン界面活性剤としては上記で具体例として挙げたもののいずれもが使用でき、そのうちでも、スルホベタイン類、特に、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネートなどのジC1-4アルキルC8-24アルキルアンモニオC1-6アルカンスルホネートが好ましい。
【0065】
界面活性剤の割合は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、0.01〜100質量部、好ましくは0.03〜50質量部、さらに好ましくは0.05〜30質量部(特に0.1〜20質量部)程度である。界面活性剤の割合がこの範囲にあると、カーボンナノチューブの均一性を向上させるとともに、高い導電性を維持できる。
【0066】
導電層には、前記界面活性剤に加えて、さらにハイドレート(水和安定剤)が含まれていてもよい。水和安定剤は、導電性繊維を製造する工程で用いられる分散液中において、界面活性剤の水などの液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるとともに、導電層としてカーボンナノチューブを繊維表面に固定させるまで分散状態を維持することに寄与する。
【0067】
水和安定剤の種類は、界面活性剤の種類、液体媒体(分散媒)の種類などによって異なり得るが、液体媒体として水を使用した場合は、例えば、前記非イオン性界面活性剤(界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を使用した場合)、親水性化合物(水溶性化合物)などが使用できる。
【0068】
親水性化合物(水溶性化合物)としては、例えば、多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ショ糖など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2-4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、水溶性多糖類(カラギーナン、アルギン酸又は塩など)、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2-4アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース又はその塩など)、水溶性蛋白質(ゼラチンなど)などが例示できる。
【0069】
これらの水和安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水和安定剤のうち、グリセリンなどの多価アルコールなどが汎用される。
【0070】
水和安定剤の割合は、前記界面活性剤100質量部に対して、例えば、0.01〜500質量部、好ましくは1〜400質量部、さらに好ましくは10〜300質量部程度である。
【0071】
導電層には、前記界面活性剤に加えて、さらにバインダーが含まれていてもよい。バインダーは、カーボンナノチューブと合成繊維との接着性を向上させる。一方、本発明の導電性繊維の用途の中で、表面導通性が必要な用途(例えば、帯電防止性布帛や複写機のクリーニングブラシなどの用途)では、バインダーを使用する場合、カーボンナノチューブが露出した状態(カーボンナノチューブの表面がバインダーによって完全に被覆されずにカーボンナノチューブの少なくとも一部が外部に露出した状態)で繊維表面に付着していることが必要である。かかる点から、バインダーの併用下に繊維表面に付着させる場合は、バインダーによってカーボンナノチューブの表面が完全に被覆されてしまわないように、バインダーの使用量や性状などに注意を払うことが必要である。
【0072】
バインダーとしては、慣用の接着性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが例示できる。これらの接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
これらのバインダーのうち、分散媒として水を用いる場合、親水性接着性樹脂、例えば、水性ポリエステル系樹脂、水性アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0074】
水性ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分(テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸など)とジオール成分(エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルカンジオールなど)との反応により得られるポリエステル樹脂において、親水性基が導入されたポリエステル樹脂が使用できる。親水性基の導入方法としては、例えば、ジカルボン酸成分として、スルホン酸塩基やカルボン酸塩基などの親水性基を有するジカルボン酸成分(5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、3官能以上の多価カルボン酸など)を用いる方法、ジオール成分として、ポリエチレングリコール、ジヒドロキシカルボン酸を用いる方法などが例示できる。
【0075】
水性アクリル系樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸−エチレン共重合体、これらの塩などが例示できる。
【0076】
酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニル単位を含む重合体又はそのケン化物であり、例えば、ポリ酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などであってもよい。
【0077】
さらに、バインダーとしては、合成繊維と同系統の接着性樹脂を使用するのが好ましい。すなわち、例えば、合成繊維として、ポリエステル系樹脂を使用した場合には、バインダーとしては水性ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。
【0078】
バインダーの割合は、カーボンナノチューブの表面を完全に被覆することなくカーボンナノチューブを繊維表面に円滑に付着させる点から、カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、50〜400質量部、好ましくは60〜350質量部、さらに好ましくは100〜300質量部(特に100〜200質量部)程度である。
【0079】
なお、本発明では、合成繊維の表面とカーボンナノチューブとが互いの親和性により付着されているため、バインダーは必ずしも必要ではなく、バインダーを含有しない場合であっても導電層が合成繊維の表面に強固に付着している。すなわち、本発明の導電性繊維は、バインダーを実質的に含有しない繊維であってもよい。
【0080】
特に、合成繊維がポリエステル繊維で形成されている場合には、ポリエステル繊維とカーボンナノチューブとの親和性が高いため、バインダーを用いなくてもカーボンナノチューブがポリエステル繊維の繊維表面に強固に付着し、バインダーを用いなくても充分な付着強度を発現し、少量のバインダーを用いることでカーボンナノチューブの繊維表面への付着強度が一層高くなる。
【0081】
導電層は、さらに慣用の添加剤、例えば、表面処理剤(例えば、シランカップリング剤などのカップリング剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0082】
[導電性繊維構造体]
本発明の導電性繊維構造体は、前記導電性繊維及び/又は導電性糸を含み、繊維構造体は合成繊維及び/又は合成繊維製糸(単糸、複合糸など)単独で構成されていてもよいし、さらに他の非導電性合成繊維及び/又は前記非合成繊維を含んでいてもよい。なお、非合成繊維にも導電層が形成されていてもよい。特に、非導電性繊維で構成された繊維構造体に対して導電層を付与して得られた繊維構造体の場合には、合成繊維に導電層を形成する工程で、非合成繊維にも導電層が形成される場合が多い。
【0083】
本発明における繊維構造体の例としては、織布(タフタ織などの平織、綾織、朱子織、パイル織など)、編布[平編(天竺編)、丸編、両面編、ゴム編、パイル編など]、不織布(湿式不織布、乾式不織布、スパンボンド不織布など)、レース地、網などの布帛類、繊維状成形体(例えば、複数の布帛を組み合わせたシート状物、板状物、三次元状成形体など)などを挙げられる。
【0084】
本発明の繊維構造体は、導電性繊維を原料として形成された繊維構造体と、非導電性繊維で構成された繊維構造体に対して導電層を付与して得られた繊維構造体とに大別される。限定されるものではないが、例えば、前者の繊維構造体について、非導電性合成繊維及び/又は非合成繊維を併用した繊維構造体の例としては、通常のポリエステル加工糸を用いて織布や編布を形成する際に、導電性繊維又は導電性糸(例えばカーボンナノチューブを付着したポリエステルマルチフィラメント糸など)を経糸及び/又は緯糸の一部として用いて得られた織布、導電性繊維又は導電性糸を編糸の一部として用いて得られた編布、短繊維状の導電性繊維と他の非導電性の短繊維(合成繊維、非合成繊維)とを併用した不織布などが挙げられる。これらの繊維構造体中における導電性繊維及び/又は導電性糸の使用割合は、形成する繊維構造体の種類、用途などに応じて調整することができる。導電性繊維及び/又は導電性糸の割合は、例えば、繊維構造体全体に対して、例えば、1質量%以上(例えば、1〜100質量%)、好ましくは10〜100質量%、さらに好ましくは30〜100質量%(特に50〜100質量%)程度である。
【0085】
後者の繊維構造体に対して導電層を付与する方法で得られた繊維構造体において、非合成繊維を含む繊維構造体を用いる場合は、繊維構造体を構成する繊維表面へのカーボンナノチューブの付着が良好に行われるようにするために、繊維構造体を構成する繊維及び/又は糸(単糸又は複合糸)の0.1質量%以上(例えば、0.1〜100質量%)、好ましくは10質量%以上(例えば、10〜100質量%)、さらに好ましくは30質量%以上(例えば、30〜100質量%)が合成繊維及び/又は合繊繊維製糸であるのが好ましい。特に、繊維構造体の表面部分では、合成繊維及び/又は合成繊維製糸の割合は、前記した30質量%以上(例えば、30〜100質量%)、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%(特に90〜100質量%)であるのが好ましい。
【0086】
繊維表面にカーボンナノチューブが付着した本発明の導電性繊維構造体では、繊維構造体の表面に位置する繊維表面の60%以上(例えば、60〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、好ましくは全体(100%)の被覆率で導電層(カーボンナノチューブ)が付着しているのが好ましい。このような被覆率の繊維構造体は、導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性能などに優れる。繊維構造体の内側に位置する繊維の表面には、導電層(特にカーボンナノチューブ)は付着していなくてもよいが、繊維構造体の表面に位置する繊維の表面と共に繊維構造体の内部に位置する繊維の表面にも導電層が付着していると、繊維構造体の導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、熱伝導性などが一層良好になる。
【0087】
導電性繊維構造体における導電層及びカーボンナノチューブの割合は、繊維構造体に対して導電層を付与する方法により得られた導電性繊維構造体においても、前記導電性繊維における割合と同様である。
【0088】
なお、繊維構造体においても、合成繊維と同様に、繊維表面に均一な厚みで導電性を付与する点から、分散液で処理する際、繊維構造体を構成する合成繊維に微振動を与えてもよい。
【0089】
繊維構造体を構成する繊維の表面にカーボンナノチューブを前記した量及び厚みで付着させることによって、目的に沿った導電性を付与できる。導電性繊維構造体の20℃における表面漏洩電気抵抗値(JIS L 1094)は、用途に応じて、例えば、1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲から選択できる。例えば、1×10-2〜1×104Ω/cm程度の繊維構造体は、導電性能、導電発熱性能、電磁波・磁気遮蔽性能に優れる導電性繊維構造体(布帛)として利用できる。また、1×105〜1×109Ω/cm程度の繊維構造体は、帯電防止性能を有する布帛として利用できる。
【0090】
さらに、本発明の導電性繊維構造体は、合成繊維の表面に導電層が強固に付着しているため、耐久性も高い。JIS L 0217の103号に準拠した洗濯後の表面漏洩電気抵抗値は、洗濯前の表面漏洩電気抵抗値に対して、例えば、1〜10000倍(例えば、1〜1000倍)、好ましくは1〜100倍、さらに好ましくは1〜10倍(特に1〜5倍)程度である。
【0091】
さらに、1×10-2〜1×104Ω/cm程度の繊維構造体は、導電発熱性能にも優れるため、導電発熱布帛として利用でき、5cmの間隔で繊維構造体に電極を取り付け、20℃において直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維構造体の60秒間での上昇温度は、例えば、2℃以上(例えば、2〜100℃、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは10〜50℃程度)である。
【0092】
[導電性繊維及び繊維構造体の製造方法]
本発明の導電性繊維は、カーボンナノチューブを含む分散液を用いて、合成繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層を付着させる工程の後、導電層が表面に付着した合成繊維を乾燥する工程を経て製造される。
【0093】
導電層の付着工程において、分散液中におけるカーボンナノチューブの濃度は、特に制限されないが、目的とする電気抵抗値又は表面漏洩抵抗値に応じて、分散液の全質量に対してカーボンナノチューブの含有量が0.1〜30質量%(特に0.1〜10質量%)となる範囲から適宜選択できる。バインダーを使用する場合も、カーボンナノチューブに対して所望の割合となるように、このような範囲から選択できる。
【0094】
カーボンナノチューブを分散させるための分散媒(液体媒体)としては、例えば、慣用の極性溶媒(水、アルコール類、アミド類、環状エーテル類、ケトン類など)、慣用の疎水性溶媒(脂肪族又は芳香族炭化水素類、脂肪族ケトン類など)、又はこれらの混合溶媒などが使用できる。これらの溶媒のうち、簡便性や操作性の点から、水が好ましく用いられる。
【0095】
また、処理に用いるカーボンナノチューブの分散液は、水などの液体媒体中にカーボンナノチューブを凝集することなく安定に分散させるために、前記界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤の使用量は、例えば、カーボンナノチューブ100質量部に対して、界面活性剤を1〜100質量部(特に5〜50質量部)程度の範囲から選択できる。
【0096】
界面活性剤、特に両性イオン界面活性剤を用いたカーボンナノチューブの分散液では、界面活性剤の液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるために、分散液中にハイドレート(水和安定剤)を添加するのが好ましい。
【0097】
水和安定剤の使用量は、界面活性剤100質量部に対して、10〜500質量部(特に50〜300質量部)程度の範囲から選択できる。
【0098】
このような分散液の調製方法は、特に制限されず、カーボンナノチューブ間の凝集、バンドル化を生ずることなく、カーボンナノチューブが水などの液体媒体中に微分散状態で安定に分散した分散液を調製できる方法であれば、いずれの方法で調製してもよい。
【0099】
特に、本発明では、界面活性剤(特に両性イオン界面活性剤)の存在下で、水性媒体のpHを4.0〜8.0、好ましくは4.5〜7.5、さらに好ましくは5.0〜7.0に保持しながら、水性媒体(水)中にカーボンナノチューブを分散処理する調製方法が好ましい。この調製方法における分散処理は、分散装置としてメディアを用いたミル(メディアミル)を用いて行うのが好ましい。メディアミルの具体例としては、ビーズミル、ボールミルなどを挙げることができる。ビーズミルを用いる場合には、直径が0.1〜10mm、好ましくは0.1〜1.5mm(例えば、ジルコニアビーズなど)などが好ましく用いられる。特に、予めボールミルを用いて、カーボンナノチューブ、界面活性剤(及び必要に応じてバインダーなど)を水性媒体中に混合してペースト状物を調製した後、ビーズミルを用いて界面活性剤を含む水性媒体を加えて分散液を調製してもよい。
【0100】
この調製方法で得られる分散液においては、界面活性剤によってカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を生ずることなく、水性媒体中に微分散状で安定に分散しているので、この分散液を用いて処理を行うと、繊維表面にカーボンナノチューブを均一に付着させることができる。
【0101】
カーボンナノチューブの分散液による合成繊維の処理方法は、特に制限されず、合成繊維の繊維表面にカーボンナノチューブを含む導電層を均一に付着できる方法であればいずれの方法であってもよい。そのような処理方法としては、例えば、合成繊維をカーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法、タッチ式ローラを用いたサイジング装置、ドクター、パッド、噴霧装置、糸プリント装置などの被覆装置を用いて合成繊維をカーボンナノチューブの分散液で処理する方法などが挙げられる。
【0102】
分散液を用いた処理における温度は、特に限定されず、例えば、0〜150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは10〜50℃程度であり、通常、常温で処理される。
【0103】
これらの処理方法のうち、均一な導電層を形成できる点から、カーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法、糸プリント方法が好ましい。さらに、分散液での付着処理において合成繊維に微振動を付与する方法が好ましい。繊維に微振動を付与しながら、繊維を処理すると、分散液が紡績糸の内部、マルチフィラメントの束の内部、繊維構造体の内部にまで浸透し、繊維の内部や繊維の単糸1本1本の全表面にわたって均一な導電層を形成できる。
【0104】
微振動の振動数としては、例えば、20Hz以上であればよく、例えば、20〜2000Hz、好ましくは50〜1000Hz、さらに好ましくは100〜500Hz(特に100〜300Hz)程度である。
【0105】
微振動を付与する手段は、特に限定されず、慣用の手段、例えば、機械的な手段や超音波を使用する手段などが挙げられる。機械的な手段としては、例えば、繊維をサイジング装置や浸漬槽などに案内するための糸ガイド又はサイジング装置や浸漬槽自体に振動を付与することにより、もしくは分散液に振動を付与することにより、繊維に振動を付与する方法であってもよい。
【0106】
分散液を用いた付着処理は、1回だけの操作であってもよいし、同じ操作を複数回繰り返してもよい。
【0107】
乾燥工程では、カーボンナノチューブの分散液で処理を行った合成繊維から液体媒体を除去し、乾燥することで、繊維表面にカーボンナノチューブが導電層として均一に薄層状態で付着した本発明の導電性繊維を得る。
【0108】
乾燥温度は、分散液中の液体媒体(分散媒)の種類に応じて選択でき、分散媒として水を用いた場合には、合成繊維の材質にもよるが、通常、100〜230℃(特に110〜200℃)程度の乾燥温度が採用される。ポリエステル繊維の場合、例えば、120〜230℃(特に150〜200℃)程度であってもよい。
【0109】
本発明の導電性繊維構造体は、導電性繊維及び/又は導電性糸を用いて製造してもよいが、非導電性合成繊維及び/又は非導電性糸で構成された繊維構造体を、カーボンナノチューブを含む分散液で処理することに製造してもよい。製造条件は、前記導電性繊維の製造方法と同様である。特に、布帛の場合は、分散液の処理方法としては、分散液中に浸漬する方法(ディップ・ニップ方式)が好ましい。さらに、繊維構造体の場合にも、構造体内部にまでカーボンナノチューブを構造体内部にまで浸透できる点から、前述の微振動を繊維構造体に付与しながら処理する方法が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の導電性繊維、導電性糸及び繊維構造体は、それらを形成する合成繊維の繊維表面に微細なカーボンナノチューブが均一に且つ強固に付着しているため、導電性能、導電発熱性能、帯電防止性能、電磁波・磁気遮蔽性能、面状発熱性、熱伝導性能などに優れ、しかも洗濯や摩擦などによってカーボンナノチューブが繊維表面から脱落し難い。さらに、前記特性の耐久性に優れ、柔軟性、風合、取り扱い性、加工性などにも優れている。従って、このような特性を活かして、例えば、帯電防止性能や電磁波・磁気遮蔽性能を有する作業着やユニフォームなどの衣類用途、カーテン、カーペット、壁面被覆材料、間仕切りなどのインテリア用途、除電バグフィルター、機器用カバー、複写機ブラシ、電磁波遮蔽性の産業資材など種々の用途に有効に利用できる。また、非金属面状発熱体としても有効に利用でき、本発明の導電性繊維で構成された発熱体は、低電圧で発熱し、薄くて軽量でコンパクトであるとともに、屈曲疲労性にも優れている。このような面状発熱体としての用途は多岐にわたり、融雪装置、凍結防止装置、ロードヒーティング、車輌シート、床暖房、壁暖房、発熱保温衣料など広範囲に用いることができる。また、低い抵抗値の導電性繊維は、非金属電線として、軽量でコンパクトであり、屈曲疲労性にも優れるため、金属電線の代替物として利用できる。
【0111】
さらに、本発明の製造方法により、繊維表面にカーボンナノチューブが強固に付着した導電性繊維、導電性糸及び繊維構造体を円滑に確実に製造でき、実用性に優れる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。以下の例において、各物性などの測定または評価は次のようにして行った。なお、特にことわりのない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0113】
(1)繊維構造体(織布)および糸におけるカーボンナノチューブの付着量:
カーボンナノチューブを付与した後の生地質量(糸の場合は繊度)と、付与する前の生地質量(糸の場合は繊度)との差を、付与する前の生地質量(糸の場合は繊度)で割ることにより、カーボンナノチューブまたは、カーボンナノチューブとバインダーの合計の比率を求め、バインダーを用いている場合にはカーボンナノチューブとの比率を勘案し、付与する前の生地単位面積(糸の場合は単位質量)あたりのカーボンナノチューブの付着量を算出した。
【0114】
(2)導電性糸の電気抵抗値:
導電性糸(導電性マルチフィラメント糸)から、長さ方向に沿って100mごとに長さ10cmの試験片を20個採取した。長さ10cmの個々の試験片を東亞電波工業社製の電極ボックス「SME−8350」に載置し、試験片の両端間に1000Vの電圧をかけて、測定環境20℃、30%RHの条件下で、東亞電波工業社製の電気抵抗測定装置「SME−8220」を使用して20個の試験片の電気抵抗値(Ω/cm)を測定し、最大値と最小値を除いた18個の値の平均値を採って糸の電気抵抗値(Ω/cm)とした。
【0115】
(3)電気抵抗値の対数の標準偏差:
前記(2)電気抵抗値において測定した20個の電気抵抗値のうち、平均値の算定に用いた18個のデータについて、各々対数値を求め、その対数値の標準偏差を求めた。
【0116】
(4)繊維構造体(織布)の表面漏洩電気抵抗値:
JIS L 1094に従って繊維構造体(織布)の表面漏洩電気抵抗値を測定した。
【0117】
(5)繊維構造体(織布)の洗濯処理および堅牢度:
JIS L 0217の103法に従って洗濯を行い、洗濯後の堅牢度(洗濯堅牢度:変退色および汚染)をJIS L 0844の「A−2号」に従って評価した。
【0118】
《実施例1》
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
【0119】
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジース株式会社製「MWCNT−7」)15.2gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で撹拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化研究所製「AS ONE」)に載せて1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
【0120】
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学社製「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で25.5g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=1.48w/w%、バインダーの含有量=1.92w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.5〜7.0に維持されていた。
【0121】
(2)ポリエステル加工糸へのカーボンナノチューブの付着処理:
(i)市販のポリエステルPOY(部分延伸糸)(南亜社製、ポリエステルPOY30/24)を常法により2H仮撚加工し、24dtexのウーリー加工糸を得た。前記(1)で得られたカーボンナノチューブの水性分散液を用い、一般的なサイジング糊付け手法を採用して分散液に浸漬する際、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、次いで170℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した27dtexのポリエステル加工糸を得た。
【0122】
(ii)前記(i)で得られたポリエステル加工糸につき、カーボンナノチューブの付着量を前記方法で測定したところ、付着量はポリエステル加工糸1g当たり0.016gであり、電気抵抗値は4.9×105Ω/cmであり、電気抵抗値の対数の標準偏差は0.72であった。さらに、光学顕微鏡での表面観察により、この加工糸の表面はすべて実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。さらに、加工糸断面のSEM観察により、その表面にはカーボンナノチューブを含む導電層の厚みが0.3〜1.0μmのほぼ均一な層を形成していることが判明した。得られた加工糸(導電性繊維)の表面をSEM写真で撮影した結果を図1に示す。繊維の表面には、カーボンナノチューブがネットワーク上に積層して導電層が形成されている。
【0123】
(3)織布の作製:
(i)前記(2)で得られたカーボンナノチューブを付着したポリエステル加工糸を、市販のポリエステル加工糸(南亜社製、ポリエステルウーリー加工糸、84T―36)と交撚した複合糸を得た。市販のポリエステル加工糸(南亜社製、ポリエステルウーリー加工糸、84T―36)を使用して常法により織布を作製する際に、この複合糸を経糸中に5mm間隔および緯糸中に5mm間隔で打ち込んで、カーボンナノチューブ付着加工糸を織り込んだ織布(タフタ、目付=80g/m2)を作製した。
【0124】
(ii)前記(i)で得られた織布の表面遺漏電気抵抗値は、洗濯前が5.7×105Ω/cmで、洗濯20回後(各洗濯をJIS L 0217の103法に従って実施)では7.7×106Ω/cmであり、良好な洗濯耐久性を示した。
【0125】
また、前記(i)で得られた織布の洗濯堅牢度は、変退色5級、汚染5級と良好であった。
【0126】
《実施例2》
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
【0127】
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(バイエル社製、Baytube)30.4gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で攪拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化研究所製「AS ONE」)に載せて1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
【0128】
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学社製「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で30.0g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=2.96w/w%、バインダーの含有量=2.26w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.3〜6.8に維持されていた。
【0129】
(2)ポリエステル加工糸へのカーボンナノチューブの付着処理:
(i)市販のポリエステルPOY(南亜社製ポリエステルPOY30/24)を常法により2H仮撚加工し、24dtexのウーリー加工糸を得た。前記(1)で得られたカーボンナノチューブの水性分散液を用い、一般的なサイジング糊付け手法を採用して分散液に浸漬する際に、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、次いで、170℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した28dtexのポリエステル加工糸を得た。
【0130】
(ii)前記(2)で得られたポリエステル加工糸におけるカーボンナノチューブの付着量を前記方法で測定したところ、付着量はポリエステル加工糸1g当たり0.032gであった。電気抵抗値は2.8×102Ω/cmであり、電気抵抗値の対数の標準偏差は0.84であった。
【0131】
さらに、光学顕微鏡観察により、この加工糸の表面はすべて実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。また、得られた加工糸断面のSEM観察により、その表面にはカーボンナノチューブを含む樹脂層の厚みが0.3〜2.0μmのほぼ均一な層を形成していることが判明した。得られた加工糸(導電性繊維)の断面をSEM写真で撮影した結果を図2に示す。マルチフィラメントの繊維間にも均一な導電層が形成されていることが確認できる。
【0132】
(3)織布の作成:
さらに、得られた加工糸を双糸として緯糸に配置し、レギュラーポリエステル加工糸(167T48)を経糸としたタフタ生地を作成した。該生地の緯方向に5cmの間隔で電極を取り付け、直流12Vの印加電圧をかけたところ、電極間の生地の温度が1分間で常温20℃から36℃に上昇した。同様に、40Vの電圧をかけたところ、生地温度は140℃に達した。
【0133】
《実施例3》
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
【0134】
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジース(株)製「MWCNT−7」)10.2gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で攪拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化研究所製「AS ONE」)に載せて1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
【0135】
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学社製「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で20.0g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=0.59w/w%、バインダーの含有量=1.51w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.3〜7.2に維持されていた。
【0136】
(2)ポリエステル加工糸へのカーボンナノチューブの付着処理:
(i)ポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、「FD84T48」)を用い、前記(1)で得たカーボンナノチューブの水性分散液を用いて、一般的なサイジング糊付け手法を採用して前記水性分散液に加工糸を浸す際に、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、次いで、170℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した88dtexのポリエステル加工糸を得た
(ii)前記(2)で得られたポリエステル加工糸におけるカーボンナノチューブの付着量を前記方法で測定したところ、付着量はポリエステル加工糸1g当たり0.007gであった。電気抵抗値は5.9×109Ω/cmであり、電気抵抗値の対数の標準偏差は0.91であった。
【0137】
さらに、光学顕微鏡観察により、この加工糸の表面は実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。また、得られた加工糸断面のSEM観察により、その表面にはカーボンナノチューブを含む樹脂層の厚みが0.3〜3.0μmのほぼ均一な層を形成していることが判明した。この加工糸は、単糸繊度が約2デニールであり、安定した109Ω/cmの線抵抗値を有し、かつ摩擦耐久性にも優れるため、複写機のクリーニングブラシとして好適に利用できる。
【0138】
《実施例4》
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:実施例2の(1)と同様にカーボンナノチューブの水性分散液を調整した。
【0139】
(2)ポリエステル生地へのカーボンナノチューブの付着処理:
前記(1)で得られたカーボンナノチューブの水性分散液中に、市販のポリエステル織布(財団法人日本規格協会製「ポリエステル」、タフタ、目付=58g/m2)を浸漬させる際、導入ガイド及び引き上げガイドに、300Hzの振動を与えて浸漬し、ニップローラーで絞り、テンターで広げて180℃で2分間乾燥した。この操作を、合計で3回繰り返して、カーボンナノチューブが付着した織布を得た。
【0140】
(3)前記(2)で得られた織布におけるカーボンナノチューブの付着量、繊維表面におけるカーボンナノチューブの付着厚みを前記方法で測定したところ、付着量は織布1g当たり0.05g、および織布1m2当たり2.9gであった。
【0141】
また、前記(2)で得られた織布の表面遺漏電気抵抗値は、洗濯前が1.3×102Ω/cmで、洗濯20回後(各洗濯をJIS L 0217の103法に従って実施)では1.2×103Ω/cmであった。
【0142】
また、前記(2)で得られた織布の洗濯堅牢度は、変退色4−5級、汚染5級と良好であった。この生地と、電磁波反射性能を有するが電磁波吸収性能を全く有していない金属蒸着布とを組み合わせた構造体の電磁波吸収性能は10GHzにて25dBと良好な値を示した。
【0143】
さらに、光学顕微鏡観察により、この生地の表面は実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、表面被覆率は100%であった。
【0144】
《実施例5》
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:実施例1の(1)と同様にカーボンナノチューブの水性分散液を調整した。
【0145】
(2)ベクトランへのカーボンナノチューブの付着処理:
(i)ベクトランHT((株)クラレ製、1670T/300f)を用い、前記(1)で得たカーボンナノチューブの水性分散液を用いて、一般的なサイジング糊付け手法を採用して前記水性分散液に加工糸を浸す際に、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、次いで、170℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した1758dtexのポリエステル加工糸を得た
(ii)前記(2)で得られたポリエステル加工糸におけるカーボンナノチューブの付着量を前記方法で測定したところ、付着量はポリエステル加工糸1g当たり0.015gであった。電気抵抗値は1.4×104Ω/cmであった。電気抵抗値の対数の標準偏差は0.74であった。
【0146】
さらに、光学顕微鏡観察により、この加工糸の表面は実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。また、得られた加工糸断面のSEM観察により、その表面にはカーボンナノチューブを含む樹脂層の厚みが0.3〜3.0μmのほぼ均一な層を形成していることが判明した。得られたベクトラン導電性糸は、耐熱性帯電防止フィルターとして好適に使用できる。
【0147】
《比較例1》
実施例2において、分散液に加工糸を浸漬する際に振動を与えないほかは、実施例2と同様にして、カーボンナノチューブが付着したポリエステル加工糸を得た。得られたポリエステル加工糸の電気抵抗値は104〜1010Ω/cmの範囲でばらついており、電気抵抗値の対数の標準偏差は1.9であった。さらに、光学顕微鏡観察により、この加工糸の内部には部分的にカーボンナノチューブで覆われていない白色から灰色の部分があり、表面被覆率は45%であった。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】図1は、実施例1で得られた導電性繊維断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例2で得られた導電性繊維断面の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、この合成繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層とで構成された導電性繊維であって、前記合成繊維の全表面に対する前記導電層の被覆率が60%以上である導電性繊維。
【請求項2】
合成繊維の全表面に対する導電層の被覆率が90%以上である請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
導電層の厚みが0.1〜5μmの範囲にある請求項1または2に記載の導電性繊維。
【請求項4】
合成繊維を含む糸の平均太さが10〜1000dtexである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項5】
20℃における電気抵抗値が1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項6】
電気抵抗値の対数値の標準偏差が1.0未満である請求項1〜5のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項7】
5cmの間隔で繊維に電極を取り付け、20℃において直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維の温度が60秒間で2℃以上上昇する請求項1〜6のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項8】
カーボンナノチューブの割合が、合成繊維100質量部に対して、0.1〜50質量部である請求項1〜7のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項9】
導電層が、さらにバインダーを含む請求項1〜8のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項10】
合成繊維が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成されている請求項1〜9のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の導電性繊維を含む導電性糸。
【請求項12】
マルチフィラメント又は紡績糸である請求項11記載の導電性糸。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の導電性繊維及び/又は請求項11又は12記載の導電性糸を用いて形成された導電性繊維構造体。
【請求項14】
20℃における表面漏洩電気抵抗値が1×10-2〜1×1010Ω/cmの範囲にあり、かつJIS L 0217の103号に準拠した洗濯を20回実施後の表面漏洩電気抵抗値が洗濯前の表面漏洩電気抵抗値に対して1〜10000倍である請求項13に記載の導電性繊維構造体。
【請求項15】
5cmの間隔で繊維に電極を取り付け、20℃において直流又は交流の12Vの印加電圧をかけたとき、電極間における繊維の温度が60秒間で2℃以上上昇する請求項13又は14に記載の導電性繊維構造体。
【請求項16】
カーボンナノチューブを含む分散液を用いて、合成繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層を付着させる工程及び導電層が表面に付着した合成繊維を乾燥する工程を含む請求項1記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項17】
合成繊維に振動を与えながら、分散液中に合成繊維を浸漬して、導電層を合成繊維の表面に付着させる請求項16に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項18】
20Hz以上の振動を付与する請求項17に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項19】
分散液が界面活性剤を含む請求項16〜18のいずれかに記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項20】
界面活性剤が両性イオン界面活性剤である請求項19に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項21】
分散液がバインダーを含む請求項16〜20のいずれかに記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項22】
界面活性剤の割合が、カーボンナノチューブ100質量部に対して0.1〜50質量部である請求項19〜21のいずれかに記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項23】
請求項16〜21のいずれかに記載の導電性繊維の製造方法によって得られる導電性繊維を含む導電性糸。
【請求項24】
請求項16〜23のいずれかに記載の導電性繊維の製造方法によって得られる導電性繊維及び/又は導電性糸を用いて形成された導電性繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59561(P2010−59561A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224821(P2008−224821)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(591045105)クラレリビング株式会社 (21)
【出願人】(000005913)三井物産株式会社 (37)
【Fターム(参考)】