説明

カーボン付着量評価装置およびカーボン付着量評価方法

【課題】 簡易な構成によってカーボン付着量を測定できるとともに、そのデータからカーボン付着量の推定式に必要な係数を設定することができ、その推定式をもとにカーボン付着量を推定することができるカーボン付着量評価装置および評価方法を提供すること。
【解決手段】 石炭試料Sを設置する試料部1、試料Sを加熱し乾留する加熱部H、乾留された試料からのカーボンを付着採取する採取部2を有し、加熱部Hが試料部1を加熱する第1加熱部Haと採取部2を加熱する第2加熱部Hbおよび両者の中間に設けられた断熱部3aから構成され、第2加熱部Hbを乾留温度に加熱した状態で、第1加熱部Haを非加熱状態から前記乾留温度まで昇温し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価すること、さらに加熱減量と発生ガス組成比からカーボン付着量を推定することができることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量評価装置およびカーボン付着量評価方法に関する。
ここで「カーボン付着量の評価」とは、コークス炉炭化室に装入される石炭の性状や炭化室の炉壁温度等の指標に基づき、カーボン付着速度を推定し、コークス炉炭化室内のカーボン付着状況を検証することをいい、こうした評価結果を基に、装入される石炭の性状やコークス炉の操業条件を管理し制御する要素として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
石炭をコークス炉炭化室に装入し乾留すると、石炭からの発生ガスがカーボンとして析出し炭化室の炉壁に付着する。乾留を繰り返すことで、このカーボンは成長していくが、コークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量が過大になると、押出電力に代表されるようにコークス押出時の抵抗が増大し、押し詰まりを引き起こしたり、炉壁損傷の原因になったりする。そのためコークス炉の安定換業のために、カーボンの付着量を管理していくことは重要であり、カーボン付着量を推定する方法が検討されてきている。
【0003】
つまり、カーボン付着量を評価する具体的な方法として、図6に示すようなタール分解炉付き石炭乾留生成物生成率測定装置を用いて、コークス,タール,軽油,ガス,安水,カーボン,および4800kcal/Nm換算発生ガス体積を「酸素/炭素」(以下「O/C」という)の原子数比が0.12以上と以下とに分けて、石炭の揮発分とO/Cの原子数比との組み合わせで推定する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、炉温1220℃におけるカーボン生成率を石炭の揮発分(VM)と原子数比(O/C)から、O/C≧0.12の石炭の場合、下式1によって推定する方法が提案されている。
カーボン歩留=0.0965VM−11.52・O/C−1.03 …式1
VM:揮発分,O/C:酸素/炭素原子数比
なお、図6中、101は石炭乾留炉、102はタール分解炉、103は石炭乾留ルツボ、104はタール分解ルツボ、105は氷冷タールポット、106はタール回収系、107はフィルター、108は乾式ガスメータ、109はテドラーバックを示す。
【0004】
また、コークス炉炭化室の炉壁におけるカーボン付着の抑制、除去対策を検討するためにまず付着カーボンの物理的、化学的性状を調査し、さらにその成長速度におよぼす諸因子の影響について検討する方法が提案された(例えば非特許文献1参照)。ここでは、装入炭揮発分、装入炭水分、付着表面温度により、下式2に基づきカーボンの成長速度Dを推定する方法が提案された。
D=64.5exp(−7950/T)・VM・(1−0.00476W) …式2
T:付着表面温度,VM:揮発分,W:水分
図7は当該方法を実験するための乾留炉を示し、電熱による両面加熱方式で,この中に内容積13.5L,石炭装入量8kgのレトルトを設置する。レトルトを900℃に加熱した後,レトルト上部の装入口より石炭を装入して乾留する。発生したガスは上部立上り部を経て外部に排出されるが,立上り部に外部加熱によって所定の温度に加熱した珪石レンガ製の試験片を設置し,熱分解カーボンが付着するようになっている。試験片を立上り部に設置したのは,試験片の表面温度を正確にコントロールするためである。乾留は約2時間で終了するがこの間カーボンは一定の速度で成長するものとした。付着量は乾留終了後ただちに試験片を取り出し,水冷,乾燥後秤量して求めた。
【0005】
また、推算・評価された炭化室の炉壁カーボン量を用いてコークス炉の操業条件を管理し制御する例として、例えばコークス押し出し時にラムの駆動モーターにかかる負荷を、石炭性状とコークス炉の操業条件から推算した炭化室の炉壁カーボン量と炉頂空間面カーボン量を基にカーボン抵抗指数なるものを求め、該カーボン抵抗指数とラムの駆動モーターにかかる負荷の対応関係から、当該窯の押し出しにかかる負荷を適宜推定し、押し詰りの発生を防止する方法などが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−143867号公報
【特許文献2】特開2002−173687号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】城本義光等,「燃料協会誌」第48巻第732〜737頁(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような場合、次のような問題が生じる。
(i)特許文献1の方法に関しては、温度が1220℃の場合でしか適用できず、カーボン付着温度の影響が考慮されていない。
(ii)揮発分が指標となる推定式を用いて検証した場合、同じ揮発分でもカーボンの付着量は異なるものがあり、汎用的に適用することが難しい。具体的には、後述するように、本発明の検証過程において、メタン比が異なればカーボンの付着量は異なることを見出した。
(iii)従来の装置は大きく、例えば図7の装置であれば、試験に要する時間も長く、試験に要する作業も負荷の大きいものとなるという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、石炭をコークス炉炭化室に装入し乾留する時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を推定し評価するに際し、簡易な構成によって推定に必要なデータを採取できるとともに、そのデータからカーボン付着量を推定するのに不可欠な指標を設定し付着採取されたカーボン量を測定することができるカーボン付着量評価装置およびカーボン付着量評価方法を提供することにある。また、カーボン付着量評価装置の小型化、操作時間の短縮および作業負荷の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示すカーボン付着量評価装置およびカーボン付着量評価方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明は、石炭試料を設置する試料部、該試料を加熱し乾留する加熱部、乾留された試料からのカーボンを付着採取する採取部を有する石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量評価装置であって、前記加熱部が前記試料部を加熱する第1加熱部と前記採取部を加熱する第2加熱部および両者の中間に設けられた断熱部から構成され、第2加熱部を乾留温度に加熱した状態で、第1加熱部を非加熱状態から前記乾留温度まで昇温し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、試料部に設置された石炭試料を加熱し、乾留された該試料からのカーボンを採取部で付着採取し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価するカーボン付着量評価方法であって、
(a)前記試料部に石炭試料を設置するステップ、
(b)前記採取部を乾留温度まで加熱するステップ、
(c)前記試料部を非加熱状態から前記乾留温度まで昇温するステップ、
(d)前記採取部に付着採取されたカーボン量を測定するステップ、
を有し、予め(a)〜(d)のステップによって、該試料に係るカーボン量のデータを得、カーボン付着量の推定に必要となる推定式の係数を確定することを特徴とする。
【0013】
正確なカーボン付着量を推定するには、実炉と同じように、カーボンを付着採取する採取部が十分に高い温度で石炭の乾留が行われる必要があるので、採取部と石炭は別々に温度制御できなければならない。そこで、従来の装置では別々の炉を組み合わせることで対応しているが、このため、装置は大きく複雑になっている。本装置では一つの装置内でこの別々の温度制御ができるようになっており、試験操作も容易に行うことができる。特に試料部を非加熱状態から前記乾留温度まで昇温し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価することによって、従前にない指標を用いた精度の高い本装置固有の推定式の設定が可能となった。ここで、「カーボンの付着」とは、カーボンが試材に化学的あるいは物理的に付着することをいう。
【0014】
また、本発明は、上記カーボン付着量評価装置であって、前記試料部、加熱部および採取部を複数有し、各試料部に設置され乾留された複数の石炭試料からのカーボン付着量を同時に、かつ、同一乾留条件で評価することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記カーボン付着量評価装置であって、前記採取部を前記試料部の上空間に配設し、前記試料の直上空間部に珪石煉瓦を配設してカーボンの付着採取を行なうとともに、該カーボンの付着量を測定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記カーボン付着量評価方法であって、カーボン付着量の推定に必要となる前記推定式の指標を加熱時の試料減量、発生ガス組成比および乾留温度とし、前記推定式の関数を該指標に基づくアレニウスの式とすることを特徴とする。
【0017】
こうした構成によれば、こうした条件下で得られるカーボンの付着量を試料の加熱時減量および発生ガス組成比を用いて正確度の高い推定をすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るカーボン付着量評価装置を例示する概略図
【図2】本発明に係るカーボン付着量評価装置の他の構成例を示す概略図
【図3】試料の乾留回数とカーボン付着量との関係を例示する説明図
【図4】試料のカーボン付着速度のアレニウスプロットを例示する説明図
【図5】カーボン付着速度の推定値と実測値との関係を例示する説明図
【図6】従来技術に係るタール分解炉付き石炭乾留生成物生成率測定装置を例示する概略図
【図7】従来技術に係る付着カーボンの成長速度におよぼす諸因子の影響について検討する小型の実験炉を例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るカーボン付着量評価装置は、石炭試料を設置する試料部、該試料を加熱し乾留する加熱部、乾留された試料からのカーボンを付着採取する採取部を有し、加熱部が試料部を加熱する第1加熱部と採取部を加熱する第2加熱部および両者の中間に設けられた断熱部から構成され、第2加熱部を乾留温度に加熱した状態で、第1加熱部を非加熱状態から乾留温度まで昇温し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価することを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<本発明に係る装置の基本的な構成>
図1は、本発明に係る装置(以下「本装置」という)の基本的な構成(第1構成例)を例示した概略図である。本装置は、下段部に試料Sを設置する試料部1と、上段部にカーボン付着材Pを設置する採取部2と、各々の外周を被覆する断熱材3とを有する。試料部1と採取部2の中間には断熱部3aが設けられ、これを境にして別々に加熱される。前者を第1加熱部Ha、後者を第2加熱部Hbとし、断熱材3および断熱部3aを含め加熱部Hを構成する。ここで、簡易的には試料部1と採取部2は、試験管のような円筒部材を用いて内底部を試料部1とし、上部開口部から煉瓦片(カーボン付着材)Pを針金等で吊るして採取部2を構成することができる。その外周部に、断熱部3aを挟持するように第1加熱部Ha用と第2加熱部Hbを配設するとともに、これら全体を上下面および側面から断熱材3によって被覆することによって、高温の乾留条件を形成することができる。
【0021】
第1加熱部Haと第2加熱部Hbには、個別にヒータ,温度センサ,温度調整部が設けられ、本装置の制御部(図示せず)によって、昇温操作や設定温度(例えば850℃)での定温操作が行なわれる。第2加熱部Hbでは、略定温状態(例えば850℃)を維持し、カーボン付着材Pでの安定したカーボン付着能を確保し、試料Sから発生したカーボン等を正確に把握することができる。
【0022】
本装置を使用する試料Sは、燃料あるいは工業用原料等として使用される石炭および粘結材を対象とし、特に鉄鋼生産に用いられるコークス炉用の素材が対象となる。石炭の純度や不純物の元素あるいは組成等が予め把握された試料が対象となることが多い。後述するように、試料Sは、加熱時減量が測定されるとともに、予め灰分(JISM8812)および全硫黄分(JISM8813)といった石炭の性状に係る特定のデータを得ておくことが好ましい。
【0023】
また、本装置に使用されるカーボン付着材Pとしては、乾留された石炭から発生するコークス、タール等を含むカーボンを化学的あるいは物理的に付着できる耐熱性の付着材であれば使用することが可能であるが、特に実際にコークス炉の炉壁等を構成する材料が好ましい。具体的には、実際に炉壁の素材として用いられている珪石煉瓦が好ましい。
【0024】
第2加熱部Hbを乾留温度(例えば850℃)に加熱した状態で、第1加熱部Haを非加熱状態から乾留温度まで昇温することによって、乾留された試料Sから発生し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価する。カーボン付着量は、予め測定された試料の加熱時減量と発生ガスの組成比を用いる固有の推定式を用いて推算することによって、従前にない正確度でコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を推定することが可能となった。
【0025】
つまり、固有の推定式(下式4)を用い、カーボン付着速度kcdを求めることができる。絶対温度Tとして、実際の炉内温度を適用することによって実装条件に近いカーボン付着速度kcdを得ることができ、観測された炉内温度から、カーボン付着量を推定することができる。推定方法の詳細は、後述する。
kcd=Aexp(−Ea/RT) …式4
A:頻度因子
Ea:活性化エネルギー[J/mol]
R:気体定数8.31[J/mol・K]
T:絶対温度[K]
ここで、試料Sの加熱時減量をHWL、下式7で算出するイナート補正を行った加熱時減量をHWLi、トータルイナート量をTIとすると、下式5〜8が成り立つ。
Ea=f(HWLi,メタン比) …式5
lnA=f(HWLi) …式6
HWLi=HWL/(100−TI)×100 …式7
メタン比[−]=CH/(CH+CO+CO) …式8
活性化エネルギーEaおよび頻度因子Aに係る関数は、後述する検証を基に設定され、近似式として数次の多項式を用いることも可能である。なお「イナート補正した加熱時減量」とは、石炭中に含まれる不活性成分(イナート)を除いた活性成分中の加熱時減量を式7より求めたものである。「トータルイナート量」とは、石炭中に含まれる不活性成分の総量をいい、後述の方法により求めることができる。
【0026】
ここで、具体的な各推定因子の求め方について、詳述する。
加熱時減量HWLは、試料Sを乾留温度まで加熱したときの乾留前後の試料Sの重量を測定することによって得ることができる。
メタン比は、試料Sを乾留温度まで加熱したときに発生するガス中のメタン(CH)、CO、COの発生量を測定し、その発生量比を式8で算出することによって得ることができる。
トータルイナート量TIは、下式9,10を用い、予め下記に示す測定法によって確定された試料Sの性状を表わす指標値から算出し得ることができる。
TI=(100−MM)×[補正イナーチニット]/100+MM …式9
[補正イナーチニット]=[イナーチニット]−[セミフジニット]/3 …式10
ここで「イナーチニット」とは、主として植物の木質部および菌類に由来する石炭微細組織成分部の一種をいい、不溶融成分である。また、セミフジニット:イナーチニットのうち、植物の木質部に由来する微細組織成分をいう。[補正イナーチニット]は、JISM8816に準拠して、石炭微細組織成分の分析を行い求められた「イナーチニット」の割合および「セミフジニット」の割合から算出される。また、指数MMは、鉱物質量のことであり、Parrの式とよばれている下式11を用いて、AshとTSの質量%から容量%に換算した値である。
MM={100(1.08Ash+0.55TS)/2.8}/[{100−(1.08Ash+0.55TS)}/1.35+(1.08Ash+0.55TS)/2.8] …式11
ここで「Ash」は、石炭中の灰分を示し、JISM8812に基づき測定され、「TS」は、石炭中の全硫黄分を示し、JISM8813に基づき測定される。
【0027】
付着採取されたカーボン量は、カーボン付着材Pの重量増加分から算出することができる。このとき、カーボン付着材Pの重量は、乾留操作完了後や所定時間経過後にカーボン付着材Pを取り出して測定する方法や、煉瓦片Pを針金等で吊るした場合には、その針金の先端に重量計を接続し測定する方法などによって、精度よく測定することができ、正確なカーボン量のデータを得ることができる。
【0028】
本装置は、こうした構成によって、以下のような利点を得ることができる。
(i)本装置を用いてカーボン付着量を推定することにより、少量で短時間に複数種類の試料を評価することができる。
(ii)比較的コンパクトな本装置の特徴を生かし、実装現場でのカーボン付着量の推定を、安価な設備コストで簡便に行うことができる。
【0029】
<本装置の他の構成例>
本装置の他の構成例(第2構成例)の概要を、図2に示す。同一条件の複数の試料部11〜15、採取部21〜25および加熱部Ha,Hbを有し、各試料部11〜15に設置され乾留された異なる石炭試料S1〜S5から生成するカーボンを採取し、採取されたカーボン量のデータから石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価することを特微とする。例えば、試料部11〜15を同時に昇温し、所定時間後に採取部21〜25からカーボン付着材P1〜P5を取り出し、その重量を測定することによって、一つの工程により異なる石炭試料S1〜S5からのカーボン付着量を測定することができる。カーボン付着量については、1回の乾留でも可能であるが、組成のばらつきが大きい石炭試料を測定する場合、この操作を繰り返し行い、測定回数に対するカーボン付着量の平均的な増加速度を評価することで、試料のサンプリング誤差や試験の測定誤差を小さくできる。
【0030】
<本装置を用いたカーボン付着量評価方法>
次に、図1に例示した本装置を用い、上式4〜8に基づくカーボン付着量評価方法について述べる。具体的には、
(a)試料部1に石炭試料Sを設置するステップ、
(b)採取部2を乾留温度まで加熱するステップ、
(c)試料部1を非加熱状態から乾留温度まで昇温するステップ、
(d)採取部2に付着採取されたカーボン量を測定するステップ、
を有し、この(a)〜(d)のステップによって、予め標準となる石炭試料Soに係るカーボン量のデータを得、カーボン付着量の推定に必要となる推定式の係数を確定し、この推定式を用いて評価対象となる石炭試料Saの加熱減量と発生ガス組成比から石炭試料Saのカーボン付着量を推定し、評価する。
【0031】
〔1〕1次処理プロセス
1次処理ステップとして、評価対象となる石炭と等価な石炭の標準試料を試料Soとして用い、予め(a)〜(d)のステップによって試料Soに係るカーボン量のデータを得てカーボン付着量の推定に必要となる指標と推定式を確定する。つまり、予め石炭性状とカーボン付着速度(kcd)との関係を、本装置を用いて試験により求めておく。
【0032】
(a)試料部に石炭試料を設置するステップ
石炭試料Soが、所定の大きさ(例えば粒径0.5mm以下)に粉砕された状態で、所定量試料部1(例えば内径15mmの試験管の下部)に充填される。このとき、試料部1は非加熱状態あるいは予め加温(例えば50〜300℃)し、不活性ガス(例えば窒素)によってパージしておくことによって、カーボンの燃焼を防止することができる。また、試料Soの性状に係るデータは予め入手しておくことが好ましい。
【0033】
(b)採取部を乾留温度まで加熱するステップ
第2加熱部Hbにおいて、カーボン付着材Pがセットされた採取部2を乾留温度(例えば850℃)まで加熱し、略定温状態となるようにする。
【0034】
(c)試料部を非加熱状態から乾留温度まで昇温するステップ
第1加熱部Haによって試料部1の温度を非加熱状態から乾留温度まで昇温する。
【0035】
(d)採取部に付着採取されたカーボン量を測定するステップ
採取部2に設けられたカーボン付着材Pを取り出し、その重量を測定する。乾留前に予め測定した重量との差が付着採取されたカーボン量となる。
【0036】
(e)カーボン付着量の推定に必要となる指標と推定式を確定する
試料Soの性状を表わす指標を確定する。つまり、試料Soについてのトータルイナート量TI,加熱時減量HWL、メタン比を予め入手しておき、これらとカーボン付着量との関係から推定式の係数を決定する。
【0037】
〔2〕2次処理プロセス
2次処理ステップとして、評価対象となる石炭を試料Saに代え、加熱時減量と発生ガス組成比のデータを用い、上記ステップ(e)において確定した推定式に導入することによって、石炭試料Saのカーボン付着量を推定し評価する。こうした方法を用いることによって、以下のような従前にはない技術的効果を得ることができる。
(i)実装条件に対応した、カーボン付着速度を精度よく推定することができる。
(ii)カーボン付着速度の推定から、例えば窯出時の押出電力制御等コークス炉の運転制御に役立てることができる。
【0038】
<カーボン付着量の推定方法の検証>
本検証では、コークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量の推定を目的に、種々の石炭試料を用いて、カーボン付着量に対する石炭性状および温度の影響の定量化試験を行った。
【0039】
(1)実験条件
(1−1)試料
本実験に使用した試料の主な性状を表1に示す。試料として8種の石炭と1種の石油系ピッチ(ASP)を用いた。各試料の加熱時減量(TG)と発生ガス量については島津製熱天秤とGCを組み合わせた装置を用い、800℃までの加熱で減少する重量変化と発生するCO,CO,CHの量を定量した。
【表1】

【0040】
(1−2)実験方法
図1に示す本装置を用い、試料部1と採取部2を構成する内径15mmの試験管に0.5mm以下に粉砕した石炭試料Sを充填嵩密度(B.D.)が約0.73g/cmで充填し、その上部に硅石煉瓦片Pを吊り下げた。下段を300℃、上段を750,850,900および950℃のいずれかの設定温度に保持した炉にこの試験管を装填し、上段の煉瓦片Pの温度が設定温度に達した後、試料部1である下段の温度を850℃まで60℃/minで昇温させ10分間乾留後取出した。窒素気流中室温まで自然放冷させ、煉瓦片Pを取り出し、重量の測定を行った。この操作を5回繰り返し行い、煉瓦片Pの1回毎の重量変化を記録した。
【0041】
(2)結果と考察
上段の温度900℃で行った試験での6種の石炭(Coal A〜F)およびASPの乾留回数と煉瓦片単位面積あたりのカーボン付着量との関係を図3に示す。乾留回数の増加とともにカーボン付着量は直線的に増加するが、試料によりその量は異なることが確認できる。この近似直線の傾きから、乾留1回あたりの煉瓦片単位面積に付着するカーボン量を求め、カーボン付着速度kcdとする。
【0042】
カーボン付着速度には温度依存性がみられるので、カーボン付着速度kcdをアレニウスの式(上式4)で表すことができるかどうか確認した。
図4に温度の逆数と、その温度での各試料(Coal A〜FおよびASP)のkcdの対数値とをプロットしたものを示す。ASPを含むほとんどの試料で直線性を示しており、カーボン付着速度はアレニウスの式で表せることが確認できる。この直線の傾きと切片から各試料の活性化エネルギーEaと頻度因子Aを求めることができる。石炭の種類に依らずカーボン付着の活性化エネルギーはほぼ一定となるとする報告もあるが、今回の実験結果では、石炭の種類により活性化エネルギーは異なっていることが確認できる。
この活性化エネルギーおよび頻度因子と試料性状との関係を調べたところ、それぞれイナート補正した加熱時減量(HWLi)と上式8で算出する発生ガス組成比(Rg)を用いて整理できることがわかった(上式5,6)。そこで、これらの試料性状値と炉温からなるカーボン付着速度推定式を作成した。
一例としてこの推定式を使用して求めた、Coal G,Hの推定カーボン付着速度と実測のカーボン付着速度を図5に示す。両試料(Coal G,H)とも、推定値と実測値はよく一致していることが確認できる。
【0043】
(3)まとめ
上記の推定方法の検証試験より、カーボン付着速度は石炭の加熱時減量、発生ガス組成比およびレンガ温度の関数で推定できることを確認した。
【符号の説明】
【0044】
1 試料部
2 採取部
3 断熱材
3a 断熱部
H 加熱部
Ha 第1加熱部
Hb 第2加熱部
P 煉瓦片(カーボン付着材)
S 試料(石炭試料)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭試料を設置する試料部、該試料を加熱し乾留する加熱部、乾留された試料からのカーボンを付着採取する採取部を有する石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量評価装置であって、
前記加熱部が、前記試料部を加熱する第1加熱部と前記採取部を加熱する第2加熱部および両者の中間に設けられた断熱部から構成され、第2加熱部を乾留温度に加熱した状態で、第1加熱部を非加熱状態から前記乾留温度まで昇温し、付着採取されたカーボン量のデータから石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価することを特徴とするカーボン付着量評価装置。
【請求項2】
前記試料部、加熱部および採取部を複数有し、各試料部に設置され乾留された複数の石炭試料からのカーボン付着量を同時に、かつ、同一乾留条件で評価することを特徴とする請求項1記載のカーボン付着量評価装置。
【請求項3】
前記採取部を前記試料部の上空間に配設し、前記試料の直上空間部に珪石煉瓦を配設してカーボンの付着採取を行なうとともに、該カーボンの付着量を測定することを特徴とする請求項1または2記載のカーボン付着量評価装置。
【請求項4】
試料部に設置された石炭試料を加熱し、乾留された該試料からのカーボンを採取部で付着採取し、付着採取されたカーボン量のデータから、石炭乾留時のコークス炉炭化室の炉壁へのカーボン付着量を評価するカーボン付着量評価方法であって、
(a)前記試料部に石炭試料を設置するステップ、
(b)前記採取部を乾留温度まで加熱するステップ、
(c)前記試料部を非加熱状態から前記乾留温度まで昇温するステップ、
(d)前記採取部に付着採取されたカーボン量を測定するステップ、
を有し、予め(a)〜(d)のステップによって、該試料に係るカーボン量のデータを得、カーボン付着量の推定に必要となる推定式の係数を確定することを特徴とするカーボン付着量評価方法。
【請求項5】
カーボン付着量の推定に必要となる前記推定式の指標を加熱時の試料減量、発生ガス組成比および乾留温度とし、前記推定式の関数を該指標に基づくアレニウスの式とすることを特徴とする請求項4記載のカーボン付着量評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−63213(P2012−63213A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206859(P2010−206859)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】