説明

カーボン粒子を備えた触媒材料とその製造方法

【課題】触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広く、三相界面が多く形成されるような触媒材料を提供する。
【解決手段】
本発明の触媒材料は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料である。この触媒材料のカーボン粒子は、炭素で形成されており、触媒金属が担持されている外殻部と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成されており、内部空間と連通している微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。また、この触媒材料は、平均粒径が200nm以上10μm未満である触媒担持カーボン粒子で構成されており、外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料、及び該触媒材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料は様々な分野で用いられている。例えば、当該触媒材料は、燃料電池の電極を構築する際に用いられる。当該燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)では、アノード(負極・燃料極)に、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が用いられる。
【0003】
近年、種々の目的を達成するために、様々な形態の触媒担持カーボン粒子が作製されている。例えば、特許文献1には、無機成分からなるコア部と、該コア部の周囲に形成された周囲部とを備える複合触媒粒子が開示されている。特許文献1に開示されている複合触媒粒子の周囲部は、炭素成分と触媒活性粒子(触媒金属)を含んでおり、該触媒活性粒子は炭素成分に埋包されている。
また、特許文献2に記載の技術では、化学気相蒸着法を用いることによって、炭素ナノチューブの表面に白金ナノ粒子を担持させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−050319号公報
【特許文献2】特開2008−195599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、触媒担持カーボン粒子による触媒作用は、触媒金属と、カーボン粒子と、触媒作用の対象との界面が一同に会する三相界面において生じる。すなわち、上記触媒担持カーボン粒子において三相界面が形成されている箇所が多くなるほど触媒材料の触媒機能が高くなる。
上記触媒材料による触媒機能を向上させる方法の一つとして、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積を増加させ、触媒金属とカーボン粒子とが触媒作用の対象に接触する機会を増やすという方法が考えられる。触媒担持カーボン粒子の比表面積を増加させるには、触媒担持カーボン粒子に複数の空隙を形成したり、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子で触媒材料を構成したりするとよい。しかし、このような触媒材料は、製造することが難しく、好適な製造方法が確立されていないのが現状である。
【0006】
本発明は、上述の問題を鑑みてなされたものであり、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広く、三相界面が多く形成されるような触媒材料、及び、そのような触媒材料の製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の触媒材料の製造方法が提供される。即ち、ここで開示される製造方法は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造する方法である。該製造方法は、
上記カーボン粒子を形成するための炭素質微粒子と、上記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが、触媒金属元素を含む触媒金属溶液に分散した分散液を用意すること;
上記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
上記噴霧された液滴を上記加熱炉内で加熱することにより、上記分散液中の液体成分を蒸発させて上記炭素質微粒子と上記ポリマー粒子と上記触媒金属との混合凝集体を形成すること;
上記混合凝集体をさらに加熱することにより、上記混合凝集体からポリマー成分を除去して、多孔質かつ中空のカーボン粒子に上記触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子を得ること;
を包含する。
【0008】
上記構成の製造方法では、炭素質微粒子とポリマー粒子とを触媒金属溶液に分散させた分散液を噴霧し、該噴霧された分散液の液滴から液体成分を蒸発させることによって、炭素質微粒子とポリマー粒子と触媒金属とが凝集した混合凝集体を形成する。そして、この混合凝集体をさらに加熱して混合凝集体中のポリマー成分を除去することによって、多孔質且つ中空のカーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
また、上記構成の製造方法では、噴霧された液滴を乾燥させることにより混合凝集体を形成するため、炭素質微粒子同士が必要以上に凝集して触媒担持カーボン粒子の粒径が大きくなることを防止できる。このため、比較的平均粒径の小さい(例えば200nm以上10μm未満、好適には2μm以上8μm以下)触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
以上のように、上記構成の製造方法によれば、多孔質且つ中空のカーボン粒子に触媒金属が担持されており、且つ、平均粒径の小さい触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
【0009】
また、ここで開示される製造方法では、上記分散液の液滴を乾燥させることによって混合凝集体を形成し、該混合凝集体からポリマー成分を除去することのみで、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。したがって、ここで開示される製造方法は、迅速且つ簡便に触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できるため、製造効率や製造コストの面から工業的大量生産に好適に用いることができる。
また、上記構成の製造方法によると、カーボン粒子(後述の外殻部)の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られる。上記凹凸状のクレータが形成された触媒担持カーボン粒子は、比表面積がさらに広くなっているため、かかる触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料はより好適な触媒機能を発揮できる。
【0010】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記炭素質微粒子の平均粒径が20nm以上100nm以下である。
平均粒径が20nm以上の炭素質微粒子を用いることによって、混合凝集体における炭素質微粒子の配置が密になりすぎて、ポリマー成分が除去されにくくなり、微細孔が形成されづらくなるといった事態を防止することができる。また、平均粒径100nm以下の炭素質微粒子を用いることによって、粒径のより小さな触媒担持カーボン粒子を作製できる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有した炭素質微粒子を用いると、微細孔が好適に形成され、且つ、より粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
【0011】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記ポリマー粒子の平均粒径が100nm以上600nm以下である。
平均粒径100nm以上のポリマー粒子を用いることによって、炭素質微粒子とポリマー粒子と触媒金属とが凝集し混合凝集体を形成する際に、ポリマー粒子が混合凝集体の内側に配置されやすくなる。ポリマー粒子が混合凝集体の内側に配置されると、ポリマー成分が除去された後に触媒担持カーボン粒子の内部に好適な形状の内部空間が形成されやすくなる。また、平均粒径600nm以下のポリマー粒子を用いることによって、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子を容易に作製できる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有したポリマー粒子を用いると、粒径が小さく、且つ、好適な形状の内部空間が形成された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造することができる。
【0012】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記分散液を平均粒径1μm以上10μm以下の液滴になるように上記加熱炉内に噴霧する。
これによって、粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造できる。
【0013】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記触媒金属溶液が界面活性剤をさらに含む。
界面活性剤を触媒金属溶液に添加すると、該溶液中で粒子を好適に分散させることができるようになる。これによって、該溶液中に分散している粒子同士の凝集を防止し、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造できる。また、上記界面活性剤は、析出した触媒金属を好適に分散させるという働きも有している。これによって、触媒金属の粒成長を抑制して粒径の小さな触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子を作製することが容易になるとともに、カーボン粒子の全体に亘って金属触媒を均質に担持させることができる。また、界面活性剤は、ポリマー成分を除去するための加熱処理において、触媒金属が酸化するのを防止するという働きも有する。これによって、より触媒機能の高い触媒金属を担持した触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
さらに、上記界面活性剤を触媒金属溶液に添加する態様において、上記界面活性剤を、上記触媒金属溶液に分散される炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の割合で添加するとより好ましい。この場合、より粒径の小さな(例えば1nm以上10nm以下)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0014】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記混合凝集体から上記ポリマー成分を除去する際の加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気に設定する。
ポリマー成分を除去する際の加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気(例えば、Nガス雰囲気)に設定することにより、炭素質微粒子や触媒金属の酸化を防止しながらポリマー成分を除去できる。
【0015】
また、本発明は、他の側面として上述の製造方法によって製造された触媒材料を提供する。即ち、ここで開示される触媒材料は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料である。この触媒材料のカーボン粒子は、炭素で形成されており、上記触媒金属が担持されている外殻部と、上記外殻部の内部に形成されている内部空間と、上記外殻部に複数形成されており、上記内部空間と連通している微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。また、この触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の平均粒径は、200nm以上10μm未満(好ましくは2μm以上8μm以下)である。また、ここで開示される触媒材料では、上記外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されている。
なお、上記「触媒担持カーボン粒子の平均粒径」とは、触媒材料中の触媒担持カーボン粒子の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
また、ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、触媒金属は、白金族に含まれる何れかの金属或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金である。
【0016】
ここで開示される触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子は、微細孔及び内部空間を有する多孔質且つ中空のカーボン粒子を備えており、該カーボン粒子の外殻部に触媒金属が担持されている。上記カーボン粒子は、多孔質且つ中空であるため、炭素質微粒子が単に凝集しているのみのカーボン粒子よりも表面積が広くなっている。このため、触媒金属を担持できる箇所が多くなっているとともに、触媒担持カーボン粒子が触媒作用の対象に接触する面積も増加している。さらに、ここで開示される触媒材料は、平均粒径が小さな(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が大きくなっている。また、ここで開示される触媒材料では、外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されているので、さらに広い比表面積を有している。
以上のように、ここで開示される触媒材料は、広い比表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されている。かかる触媒材料は、触媒作用の対象とカーボン粒子と触媒金属とが接触する機会が増加しており、これらの界面が一同に会する三相界面が形成される箇所が増加しているので高い触媒機能を発揮することができる。
【0017】
ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、上記微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である。なお、「微細孔の平均孔径」は、SEM写真による触媒担持カーボン粒子の表面観察により測定することができる。
上記微細孔の平均孔径が大きすぎると、触媒担持カーボン粒子全体における空洞部分の割合が大きくなりすぎて、外殻部の占める割合が小さくなるため比表面積が小さくなるおそれがある。一方、微細孔の平均孔径が小さすぎると、触媒担持カーボン粒子が触媒対象に接触した際に、触媒対象が内部空洞まで到達しにくくなる。微細孔の平均孔径が上述の数値範囲内である場合、触媒対象が内部空洞まで好適に到達でき、適切な割合の外殻部が形成されているため、より高い触媒機能を発揮することができる。
【0018】
また、ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、上記触媒金属の平均粒径が1nm以上10nm以下(より好ましくは4nm以上7nm以下)である。なお、「触媒金属の平均粒径」は、TEM写真による触媒担持カーボン粒子の表面観察により測定することができる。
上記数値範囲内のように平均粒径の小さな触媒金属が担持されていると、触媒材料全体における触媒金属の比表面積が広くなるため、触媒金属の触媒機能をより効率よく発揮することができる。
【0019】
本発明によって提供される触媒材料は、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されており、三相界面が形成される箇所が増加しているため、高い触媒機能を発揮できる。例えば、この触媒材料を、高分子電解質型の燃料電池(PEFC)におけるアノード及び/又はカソードに用いることによって高性能のPEFCを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る触媒材料の一例を撮影したFE−SEM写真。
【図2】本発明に係る触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の外殻部の一部を破壊した状態を撮影したFE−SEM写真。
【図3】サンプル1の触媒担持カーボン粒子を撮影したFE−SEM写真。
【図4】サンプル1の触媒担持カーボン粒子の表面を拡大して撮影したFE−SEM写真。
【図5】サンプル2の触媒担持カーボン粒子を撮影したFE−SEM写真。
【図6】サンプル2の触媒担持カーボン粒子の表面を拡大して撮影したFE−SEM写真。
【図7】本発明に係る触媒材料の製造方法を好適に実施するための装置の一例を示すブロック図。
【図8】サンプル1及び2のXRD解析の結果を示すチャート。
【図9】サンプル3のXRD解析の結果を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
<触媒材料の構成>
以下、図1〜図6を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる触媒材料について説明する。図1は、複数の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料のFE−SEM写真である。また、図2は、外殻部の一部を破壊した触媒担持カーボン粒子のFE−SEM写真である。なお、図3〜6は、後述の実施例において作製した触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子のFE−SEM写真である。
【0023】
図1に示すように、ここで開示される触媒材料は、複数の触媒担持カーボン粒子で構成されている。この触媒担持カーボン粒子は、多孔質且つ中空のカーボン粒子に触媒金属が担持されることによって形成されている。
上記触媒担持カーボン粒子の典型的な形状は略球形状である。ここで、本明細書における「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状などを含む形状であり、その長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、典型的には1.5/1〜1/1であり、真球(長径/短径=1/1)に近い形状をとり得る。
ここで開示される触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の平均粒径は、200nm以上10μm未満、好ましくは500nm以上10μm未満、より好ましくは2μm以上8μm以下、さらに好適には3μm以上7μm以下である。ここで開示される触媒材料は、上記数値範囲のように粒径の小さな触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広くなっている。
【0024】
1.カーボン粒子
カーボン粒子は、外殻部と内部空間と微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。
【0025】
1−1.外殻部
カーボン粒子の外殻部は炭素で形成されている。外殻部は、例えば、炭素系材料が集合することで形成されており、典型的には、微細な炭素質微粒子の凝集体である。外殻部には、後述の触媒金属が担持されている。上記外殻部を構成する炭素系材料は、触媒金属の担体として用いられ得るものであればよく、その具体的な構造は本発明を限定するものではない。例えば、外殻部は、カーボンブラック、活性炭、活性炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどから構成されているとよい。
また、図2に示すように、外殻部は、後述の内部空間を内部に有する殻状部材であり、その厚み(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。)は、20nm以上1000nm以下、好ましくは40nm以上600nm以下、より好ましくは40nm以上500nm以下であるとよい。
【0026】
さらに、図3及び図5に示すように、ここで開示される触媒材料の触媒担持カーボン粒子では、上記外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されていると好ましい。かかる凹凸状のクレータとは、外殻部の表面が平滑でなく、ほぼ一様に凹凸が形成されている形状を指すものである。このような凹凸状のクレータが外殻部の表面の全体に亘って形成されている場合、触媒担持カーボン粒子の比表面積が広くなるため、より好適な触媒機能を有する触媒材料が得られる。
また、外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されている場合、該凹凸状クレータの凸状部分の先端に後述の触媒金属が担持されているとより好ましい。この場合、触媒金属の一部が外殻部に埋包されているような場合よりも触媒金属の比表面積が広くなるため、触媒作用の対象に触媒金属が接触できる機会が増加し、触媒金属の触媒機能をより効率よく発揮させることができる。
【0027】
1−2.内部空間
図2に示すように、外殻部の内部には内部空間が形成されている。かかる内部空間の形状は、例えば、略球形状である。内部空間の形状が略球形状である場合、内部空間の径(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。)は、例えば、50nm以上9μm以下、好ましくは100nm以上7μm以下、より好ましくは3±0.5μmであるとよい。
【0028】
1−3.微細孔
また、図2〜図6に示すように、上記外殻部には、上記内部空間と外界とを連通させる微細孔が複数形成されている。この微細孔が形成されている数は、触媒担持カーボン粒子1つあたりに、概ね2個以上250個以下、典型的には10個以上200個以下、例えば50個以上100個以下であるとよい。また、微細孔の平均孔径は、10nm以上500nm以下、好ましくは20nm以上400nm以下、より好ましくは75nm以上150nm以下であるとよい。微細孔の平均孔径が上記数値範囲内である場合、触媒対象が内部空洞まで好適に到達でき、適切な割合の外殻部が形成されているため、より高い触媒機能を発揮することができる。
【0029】
2.触媒金属
図4、図6に示すように、上記カーボン粒子の外殻部には、触媒金属が担持されている。触媒金属の種類は、本発明を限定するものではないが、白金族に含まれる何れかの金属、或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金などを好ましく用いることができる。上記白金族に含まれる金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)が挙げられる。製造コストと触媒機能の高さを考慮すると、上記白金族元素の中でも白金(Pt)を特に好ましく用いることができる。また、白金族に含まれる金属を主体とする合金としては、例えば、白金(Pt)と遷移金属との合金(典型的には、白金ニッケル合金(Pt−Ni合金)、白金コバルト合金(Pt−Co合金)等)が好ましく用いられる。また、上述した白金族の金属以外にも、金(Au)や銀(Ag)等も触媒金属として用いることができる。
なお、上記触媒金属は、触媒対象に触媒機能を発揮させることができればよく、触媒金属元素の単体で構成されていてもよいし、酸素などと結合した化合物の状態であってもよい。また、触媒金属は、上記単体と上記化合物とが混在していてもよい。なお、より高い触媒機能を発揮させるという点から見ると、触媒金属は単体を主体として構成されていると好ましく、高結晶性の単体を主体として構成されているとさらに好ましい。
【0030】
上記触媒金属の形状は、略球形であると好ましい。かかる略球形の触媒金属の平均粒径は、0.1nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、4nm以上であり、200nm以下、100nm以下、50nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、7nm以下であるとよい。触媒金属の平均粒径が小さいと、触媒材料全体における触媒金属の比表面積が広くなるため、触媒担持カーボン粒子の表面において三相界面が形成される箇所が多くなり、より高い触媒機能を発揮することができる。
【0031】
また、本発明を特に限定するものではないが、上記触媒金属は、比表面積の増加という観点から上記外殻部の全体に亘って均一に担持されていると好ましい。なお、上記触媒金属は、特定の部位に集まって担持されていてもよいし、上記触媒金属の一部が上記外殻部に埋包されていてもよい。
【0032】
ここで開示される触媒材料は、微細孔及び内部空間を有したカーボン粒子の外殻部に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子で構成されている。かかる触媒担持カーボン粒子のカーボン粒子は、多孔質且つ中空であるため、炭素質微粒子が単に凝集しているのみのカーボン粒子よりも表面積が広くなっている。このため、触媒金属を担持できる箇所が増加しているとともに、触媒作用の対象に接触できる面積が増加している。さらに、ここで開示される触媒材料は、平均粒径が小さな(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が大きくなっている。このように、ここで開示される触媒材料によれば、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されているため、三相界面が形成される箇所が増加しており、高い触媒機能を発揮することができる。また、ここで開示される触媒材料では、外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されているので、さらに広い比表面積を有している。
【0033】
<触媒材料の製造方法>
次に、ここで開示される触媒材料を製造する方法の好ましい一態様について説明する。
ここで説明する製造方法は、「A.分散液の用意」、「B.分散液の噴霧」、「C.混合凝集体の形成」、「D.ポリマー成分の除去」のステップを経て、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造する。以下、上記ステップのそれぞれについて説明する。
【0034】
A.分散液の用意
この製造方法では、先ず、触媒金属溶液に炭素質微粒子とポリマー粒子とが分散した分散液を用意する。なお、当該分散液を用意するにあたっては、例えば、上記材料を混合することで分散液を調製してもよいし、上記材料が予め調製されている分散液を購入してもよい。ここでは、上記分散液を調製する場合について説明する。
【0035】
A−1.炭素質微粒子
上記炭素質微粒子は、触媒担持カーボン粒子のカーボン粒子(外殻部)を形成するための材料である。上記炭素質微粒子として用いられ得る材料は、上記「1−1.外殻部」の項で既に説明しているため、ここでの説明を省略する。なお、上記分散液に分散させる炭素質微粒子の平均粒径は、100nm以下(典型的には1nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上50nm以下)であるとよい。平均粒径が小さな炭素質微粒子を用いて上記カーボン粒子(外殻部)を作製することにより、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子を得ることが容易になる。
【0036】
A−2.ポリマー粒子
上記炭素質粒子と共に触媒金属溶液に分散させるポリマー粒子は、上記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなる粒子である。このポリマー粒子は、加熱によって分解・蒸発するものが好ましく用いられる。上記ポリマー粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、或いはその他にポリオレフィン系高分子化合物(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)などからなる粒子を好ましく用いることができる。この種の微細なポリマー粒子としては、所定の分散媒に分散した系(ラテックス)で提供されるいわゆるラテックス粒子を好適に使用することができる。ラテックス粒子は、一般にほぼ球形状であり粒度分布が小さいため、本発明の触媒材料製造方法の適用する材料(ポリマー粒子)として好ましく使用することができる。なかでも、ポリスチレンからなるラテックス粒子(ポリスチレンラテックスビーズともいう。以下、「PSL」と称する。)を好ましく用いることができる。また、使用するポリマー粒子の平均粒径は、使用する炭素質微粒子よりも大きい径のものが好ましく、具体的には、100nm以上600nm以下(好ましくは150nm以上550nm以下、より好ましくは200nm以上500nm以下、例えば300±50nm)であるとよい。炭素質微粒子よりも大きい径のポリマー粒子を用いた場合、後述の混合凝集体が形成された際に、ポリマー粒子が内側に炭素質微粒子が外側に配置されやすくなる。これによって、好適な形状の内部空洞と微細孔が形成された触媒担持カーボン粒子を容易に作製することができる。
【0037】
A−3.触媒金属溶液
上記炭素質微粒子と上記ポリマー粒子とを分散させる触媒金属溶液には、触媒金属元素が含まれている。典型的には、触媒金属元素を有する化合物を溶媒に溶解させることによって触媒金属溶液が得られる。
上記触媒金属元素を有する化合物としては、上記「2.触媒金属」の項で述べた触媒金属の塩や錯体などを好ましく用いることができる。上記触媒金属の塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、さらには、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物などを用いることができる。また、上記貴金属の錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。上記触媒金属として白金(Pt)を用いた場合の触媒金属化合物を例示すると、六塩化白金酸(HPtCl)、塩化白金六水和物(H(PtCl)・6HO)、白金(IV)塩化物、白金(II)臭化物、白金(II)ヨウ化物、白金(IV)硫化物、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、白金(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナト錯体、白金(II)アセチルアセトナト錯体、などが挙げられる。
また、上記触媒金属溶液全体に対して上記化合物が含まれる量は、1質量%〜30質量%、好ましくは1質量%〜20質量%、より好ましくは10±5質量%に設定するとよい。これによって、適切な量の触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0038】
なお、触媒金属溶液の溶媒としては、上述の触媒金属元素を有する化合物を好適に溶解できるような液体を用いるとよく、使用する化合物に応じて適宜選択するとよい。また、この溶媒は、上記炭素質微粒子や上記ポリマー粒子を好適に分散できるような液体であるとよく、特に、上記ポリマー粒子が溶解しないような液体が好ましく用いられる。例えば、上記触媒金属元素を有する化合物としてヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物を用いる場合、かかる化合物を溶解させる溶媒として水が好適である。
【0039】
A−4.界面活性剤
また、触媒金属溶液には、界面活性剤がさらに含まれていると好ましい。これによって、触媒金属溶液中で炭素質微粒子とポリマー粒子を好適に分散させることができるため、より粒径の小さな触媒担持カーボン粒子を得ることができる。また、触媒金属溶液から析出する触媒金属の粒成長も防止することができるため、カーボン粒子に担持される触媒金属の粒径を小さくすることもできる。界面活性剤の添加量は、上記触媒金属溶液に分散させる炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上50質量部以下に設定するとよい。これによって、より好適にカーボン粒子を溶液中で分散させることができる。なお、界面活性剤は、上記触媒金属溶液に予め添加されていてもよいし、後述の「A−5.分散液の調製」の工程において触媒金属溶液に添加してもよい。
さらに、界面活性剤の添加量を、炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下(例えば、1.25±0.25質量部)の割合に設定すると、後述の「D.ポリマー成分の除去」における加熱処理中に生じ得る粒成長や焼結による触媒金属の肥大化を好適に抑制できる。したがって、界面活性剤の添加量を上記数値範囲内に設定することによって、粒径の小さい(例えば、平均粒径1nm〜10nm)触媒金属を担持させることができる。また、界面活性剤を添加することによって、触媒金属の酸化を防止することもできる。すなわち、界面活性剤の添加量を上記数値範囲内に設定することによって、貴金属の単体を主体として構成されている(典型的には高結晶性の貴金属を主体として構成されている)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0040】
上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などを用いることができる。これらの中でも非イオン界面活性剤を好ましく用いることができる。かかる非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルなどが挙げられる。上述の非イオン界面活性剤の中でも、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを特に好ましく用いることができ、これらを用いることによって比較的に粒径の小さな触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0041】
A−5.分散液の調製
分散液を調製する際には、所定量の炭素質微粒子とポリマー粒子を触媒金属溶液に添加して十分に混合する混合処理が行われる。この混合処理には、液体を混合するために用いられる従来公知の装置を用いることができ、例えば、攪拌混合やポットミリングなどが用いられる。特に攪拌混合を用いた場合、粒子が均質に分散した分散液を調製できるため好ましい。
また、炭素質微粒子とポリマー粒子を触媒金属溶液に添加する量は、目的とする触媒担持カーボン粒子の粒径や内部空洞の径、外殻部の厚みなどに応じて、適宜調整することができる。特に限定するものではないが、触媒金属溶液中における炭素質微粒子(C)に対して使用するポリマー粒子(P)の重量比(P/C)が0.5〜12(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、例えば1.3)程度になるようにこれら粒子材料を混合することが好ましい。
【0042】
B.分散液の噴霧
次に、上記「A.分散液の用意」で用意した分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧する。分散液を霧状の液滴に噴霧する具体的な方法は、本発明を限定するものではないが、例えば2流体ノズル、超音波噴霧器などを用いることができる。これらの機器を用いることによって、分散液をサブマイクロ〜マイクロオーダーの微細な液滴を霧状に噴霧させるができる。噴霧された液滴の液滴径の一例を挙げると、0.1μm以上15μm以下、好ましくは1μm以上10μm以下、更に好ましくは2μm以上7μm以下である。この場合、粒径の小さな触媒担持カーボン粒子の作製がより容易になる。
【0043】
C.混合凝集体の形成
次に、上記「B.分散液の噴霧」で噴霧された霧状の液滴を加熱炉内で加熱することにより上記分散液中の液体成分を蒸発させる。これによって、液滴中に分散していた炭素質微粒子、ポリマー粒子が凝集する。また、このときに、触媒金属化合物に含まれる触媒金属(若しくは触媒金属の酸化物)も析出する。この際、上記析出した触媒金属と上記炭素質微粒子とが比較的に粒径の大きいポリマー粒子の表面に付着しながら凝集するため、中心部分に主としてポリマー粒子、その外側に主として炭素質微粒子と触媒金属とが配置された混合凝集体が形成される。
【0044】
混合凝集体を形成する際の加熱温度は、分散液中の液体成分が蒸発し、且つ、混合凝集体中からポリマー成分が取り除かれない程度の温度域(好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下、例えば180℃程度)に設定すると好ましい。これによって、ポリマー粒子の表面に複数の炭素質微粒子と触媒金属とが好適に付着した混合凝集体が得られる。また、この加熱処理を実施する時間は、0.5分以上20分以下、好ましくは1分以上10分以下、例えば5分程度に設定するとよい。上述の範囲内の時間で分散液の液滴を加熱すると、好適な形状の混合凝集体を形成することができる。また、混合凝集体を形成する際の加熱雰囲気は、目的に応じて適宜選択することができ、かかる目的に応じて種々のガス(例えば、酸素ガス(空気)、不活性ガス(N、Arなど))を使い分けるとよい。例えば、製造コストの軽減を重視する場合には、加熱雰囲気を酸素ガス雰囲気に設定し、空気を使用すると好ましい。一方、結果物である触媒材料の品質を重視する場合には、触媒材料やカーボン粒子の酸化を防止するために、加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気に設定し、NガスやArガスを使用するとよい。
【0045】
D.ポリマー成分の除去
次に、上記混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体からポリマー成分を除去する。ここで、かかるポリマー成分の除去の態様としては、例えば、ポリマー成分の蒸発による除去、ポリマー成分の分解による除去、加熱に伴う燃焼による除去などが例として挙げられる。なお、かかる除去の態様は上述の例に限られるものではない。
混合凝集体中からポリマー成分を除去するための加熱処理を行うと、当該ポリマー成分が気体になり、気体となったポリマー成分の圧力によってポリマー粒子の表面に付着していた炭素質微粒子及び触媒金属の凝集体に微細な穴が開く。当該微細な穴を通って、気体となったポリマー成分が混合凝集体の外部へ抜け、混合凝集体におけるポリマー粒子が配置されていた部分(中心部分)が空洞化する。このときに空洞化した中心部分が上記内部空洞になり、炭素質微粒子の凝集体が外殻部となり、外殻部に開いた微細な穴が微細孔になる。そして、触媒金属溶液から析出した触媒金属は上記外殻部に担持される。これによって、微細孔と内部空間を有し、外殻部に触媒金属が担持された、多孔質且つ中空の触媒担持カーボン粒子が形成される。なお、触媒金属溶液に界面活性剤を添加していた場合、この加熱処理によって界面活性剤のほぼ全てが除去される。
【0046】
上記ポリマー成分を除去するための加熱処理は、ポリマー粒子のポリマー成分を除去(蒸発・分解など)できるような温度で行うことが好ましい。例えば、加熱温度については、100℃以上、200℃以上、500℃以上、600℃以上であり、且つ、1100℃以下、900℃以下、700℃以下、600℃以下に設定することができる。特に好ましい態様としては、上記ポリマー成分を除去する際の加熱温度は700℃以下に設定するとよい。この場合、触媒金属の粒成長や焼結を抑制しながら、混合凝集体からポリマー成分を除去できる。このため、上記構成の製造方法によれば、粒径が小さく、酸化物の割合の少ない触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。また、加熱温度を500℃以上700℃以下に設定した場合、高結晶性の金属単体からなる触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0047】
また、上記ポリマー成分を除去するための加熱処理の加熱雰囲気も、目的に応じて適宜選択することができるが、混合凝集体を形成するための加熱処理よりも加熱温度が高温であり触媒金属やカーボン粒子が酸化しやすいことを鑑みると、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)雰囲気に設定することが好ましい。この場合、加熱による炭素質微粒子や触媒金属の酸化を防止しながらポリマー成分を除去することができるので、品質に優れた触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。これらの不活性ガスの中でも、比較的に安価な窒素ガスを用いると、製造コストを抑えながら高品質の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できるためより好ましい。
【0048】
一方、加熱温度を比較的低温域(例えば200℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上600℃以下)に設定した場合、加熱処理を酸化性ガス(例えば、酸素含有ガス(特に好ましくは空気))の雰囲気下で行ってもよい。この場合、酸化性ガスがポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するため、比較的低温域でもポリマー成分を適切に除去することができる。加熱処理を比較的低温域で行うメリットとしては、加熱炉の耐久性低下の防止、温度上昇に要する燃料費の低減など、低コストでの製造が可能になることが挙げられる。さらに、酸化性ガスとして空気を用いた場合には、キャリアガスのコストを低減させることができるので、製造コストを更に低減させることができる。
【0049】
また、上記ポリマー成分を除去する際の加熱温度を変更すると、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)の好適な値にも影響を与える。例えば、ポリマー成分を除去する際の加熱温度を比較的高温域(例えば500℃以上1100℃以下)に設定した場合、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的少なく(0.5〜2、好ましくは1〜1.5)なるように分散液を調製するとよい。
一方、加熱温度を比較的低温域(200℃以上600℃以下)に設定した場合、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的多く(1以上10以下、好ましくは1以上5以下)なるように分散液を調製するとよい。
【0050】
また、上記ポリマー成分の除去における加熱処理の時間は、0.5分以上20分以下、好ましくは1分以上10分以下、例えば5分程度に設定するとよい。上述の範囲内の時間で混合凝集体を加熱すると、好適な触媒担持カーボン粒子を形成することができる。このように、ここで開示される触媒材料製造方法では、従来よりも大幅に短い時間で、多孔質且つ中空の触媒担持カーボン粒子が得られる。
なお、ポリマー成分を除去するための加熱処理は、混合凝集体を上記「C.混合凝集体の形成」で使用した加熱炉内に滞留させたまま、該加熱炉の温度を上昇させることによって実施してもよいし、混合凝集体を一度捕集して設定温度の異なる別の加熱炉で加熱してもよい。例えば、混合凝集体を「C.混合凝集体の形成」で使用した加熱炉内に滞留させたまま、「D.ポリマー成分の除去」を実施する場合には、段階的に昇温するように加熱温度が設定された筒状の加熱炉内に分散液を噴霧させ、温度の低い側から高い側に向かって当該分散液を流動させるとよい。これによって、一つの加熱炉で「C.混合凝集体の形成」と「D.ポリマー成分の除去」を実施することができる。
【0051】
ところで、ここで開示される製造方法では、「C.混合凝集体の形成」及び「D.ポリマー成分の除去」において2段階の加熱処理が実施される。このとき、触媒金属溶液から析出した触媒金属に粒成長や焼結が生じ、得られた触媒担持カーボン粒子の触媒金属の粒径が比較的に大きくなることがある。このような比較的大きな触媒金属がカーボン粒子に担持されている触媒材料であっても、十分な触媒機能を発揮できるが、より高い触媒機能が求める場合には、触媒金属の粒径を比較的に小さなものに制御することが好ましい。
【0052】
例えば、触媒金属の粒径をさらに小さく制御するには、「D.ポリマー成分の除去」における加熱条件を適宜調整するとよい。上述したように、上記加熱処理の温度は、700℃以下に設定するとよい。この場合、触媒金属の粒成長や焼結を抑制しながらポリマー成分を好適に除去できるため、平均粒径が小さな触媒金属を多孔質カーボン粒子の表面に担持させることができる。
また、触媒金属の粒径をさらに小さく制御するために、ポリマー成分を除去するための加熱処理の時間を調整してもよい。このときの加熱時間は、5分以上120分以下、好ましくは10分以上90分以下、より好ましくは20分以上60分以下に設定するとよい。上記数値範囲内に加熱処理の時間を設定した場合、混合凝集体からポリマー成分を好適に除去でき、且つ、触媒金属が粒成長(焼結)する前に加熱処理を終了させることができる。
【0053】
また、「A.分散液の用意」の「A−4.界面活性剤」の項で説明したように、触媒金属溶液に界面活性剤を添加することでも、触媒金属の粒径をさらに小さく制御することができる。この場合、界面活性剤は、触媒金属を分散液中で好適に分散させ、触媒金属同士の凝集による粒成長を抑制することで触媒金属の粒径を小さく(例えば、1nm以上10nm以下に)制御することができる。このときの界面活性剤の添加量は、上述のとおり、触媒金属溶液に分散される炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下(例えば、1.5±0.25質量部)の割合に設定すると好ましい。
【0054】
また、上記2段階の加熱処理中に触媒金属が酸化することもある。酸化した触媒金属は、ある程度の触媒機能を発揮できるものの、単体の触媒金属と比較して触媒機能が低下する。触媒金属の酸化を抑制するには、例えば、ポリマー成分を除去するための加熱処理を不活性ガス雰囲気下で行うとよい。また、上記界面活性剤を添加することでも、触媒金属の酸化を抑制できる。さらに、不活性ガス雰囲気での加熱処理及び/又は触媒金属溶液への界面活性剤の添加によって触媒金属の酸化を抑制できるため、ポリマー成分を除去するための加熱処理の温度を比較的に高温(例えば500℃以上)に設定しても、触媒金属が酸化されにくくなる。したがって、触媒金属の酸化を抑制しつつ、高温での加熱により触媒金属を高結晶化させることができるため、高結晶性の金属単体で構成された触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。かかる触媒金属は高い触媒機能を発揮できる。
【0055】
以上のとおり、上記ポリマー成分を除去する際の加熱条件や界面活性剤の添加量を適宜調整することによって、より好適な形態の触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
より好適な形態の触媒金属を担持させるには、例えば、炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の割合で界面活性剤を触媒金属溶液に添加し、ポリマー成分除去の加熱条件を、加熱温度:500℃以上(好ましくは500℃以上700℃以下)、加熱雰囲気:不活性雰囲気(例えば、Nガス雰囲気)に設定するとよい。この場合、粒径が非常に小さく(例えば、10nm以下)制御され、且つ、高結晶性の金属単体で構成された触媒金属をカーボン粒子に担持できる。このような触媒金属は非常に高い触媒機能を発揮でき、かかる触媒金属を担持した触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料は、燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池(直接メタノール燃料電池など)及びアルカリ形燃料電池)のような高い触媒機能が求められる分野において特に好ましく用いることができる。
【0056】
上述の製造方法によれば、炭素微粒子とポリマー粒子とを金属触媒溶液に分散させた分散液を用意し、該分散液を噴霧した後に、所定の条件で2種類の加熱処理を行うことによって、多孔質且つ中空の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。さらに、この製造方法では、上記分散液を噴霧することにより平均粒径の小さい(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
また、ここで開示される製造方法では、触媒金属の析出と該触媒金属の担体であるカーボン粒子の作製を同時に実施できるため、高速且つ容易に触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
また、ここで開示される製造方法では、図4に示すような、上記外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。このような触媒材料は高い触媒機能を発揮できる。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。上述した触媒材料の製造方法は、例えば、図7で模式的に示すような装置100を用いて実施することができる。この装置100は、大まかに言って、分散液L1を噴霧する噴霧部10と、該噴霧された分散液L1の液滴L2を加熱する加熱炉20と、形成された混合凝集体を捕集する捕集部30と、捕集部30で捕集した混合凝集体をさらに加熱する二次加熱炉40とから構成されている。
【0058】
I.噴霧部
噴霧部10は分散液L1を霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧するための部材である。図7で示す噴霧部10は、分散液L1とともにキャリアガスを高圧で吹き出すことで、霧状の液滴として噴霧する二流体ノズル12と、当該二流体ノズル12にキャリアガスを供給するガス供給ユニット14とから構成されている。二流体ノズル12は、従来公知の装置を用いることができる。この二流体ノズル12の先端の径は、100μm〜1000μm(例えば700μm)であると好ましい。
ガス供給ユニット14は、例えば、流速1L/min〜20L/minでキャリアガスを供給でき、1分間あたりに1ml〜10mlの分散液を吐出できるものが好ましい。また、ガス供給ユニット14から供給されるキャリアガスは、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる。噴霧部10は、二流体ノズル12で噴霧された液滴L2を加熱炉20内に供給できるように加熱炉20に接続されている。
【0059】
II.加熱炉
加熱炉20は、噴霧された液滴L2を内部にて加熱するための部材である。図7に示す加熱炉20は、内部空洞を有した筒状の部品であり、長手方向における一端が上記二流体ノズル12に接続されており、他端が後述の捕集部30に接続されている。特に限定するものではないが、加熱炉20は、全体で0.4L〜3L程度の容量を有しているものが適当であり、例えば0.9L程度の容量を有しているものを好ましく用いることができる。また、加熱炉20の径は、5mm〜20mm程度が適当であり、13mm程度であるとより好ましい。
【0060】
また、上記加熱炉20の内部には加熱されたキャリアガスが供給される。ここでは、加熱炉20にガス供給ライン22が取り付けられている。ガス供給ライン22は、上述のガス供給ユニット14に接続されている。図7に示すように、ガス供給ユニット14を二流体ノズル12に接続するラインと、上記ガス供給ライン22とは別のラインであり、加熱炉20は、ガス供給ライン22を介して、ガス供給ユニット14に直接接続されている。また、ガス供給ライン22には、ヒータ24が取り付けられている。これによって、ガス供給ライン22を通過するキャリアガスは、ヒータ24によって加熱されてから加熱炉20内に供給される。ヒータ24には従来公知の電気加熱装置などを用いることができる。このヒータ24は、キャリアガスを100℃〜400℃(典型的には100℃〜300℃、例えば180℃)に加熱することができる。
【0061】
III.捕集部
さらに、ここで開示される装置100では、加熱炉20の下流に捕集部30が設けられている。捕集部30は、集塵装置32と、ドレン分離器34とから構成されている。集塵装置32は、加熱炉20内で形成された混合凝集体のうち、比較的に粒径の小さなものA2を捕集するために設けられている。例えば、集塵装置32としては、遠心分離器や電気集塵装置などを用いることができる。一方、ドレン分離器34は、上記混合凝集体のうち、比較的に粒径の大きなものA1を捕集するために設けられている。ここで開示される装置100では、上記集塵装置32、ドレン分離器134にて捕集された混合凝集体がそれぞれ容器32a,34a内に貯蔵される。
【0062】
IV.二次加熱炉
二次加熱炉40は、上記得られた混合凝集体からポリマー成分を除去するための加熱処理を行う。二次加熱炉40は、捕集部30で得られた混合凝集体を内部に収容してさらに加熱する。二次加熱炉40の温度は、ポリマー成分を除去でき、且つ、炭素質微粒子(若しくは触媒金属)が酸化しない程度の温度域(例えば400℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上700℃以下)に設定するとよい。また、二次加熱炉40は、加熱ガス供給ユニット42と接続されており、該加熱ガス供給ユニット42から供給される加熱ガスの種類によって、二次加熱炉40内の雰囲気を調整することができる。当該加熱ガスとしては、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(空気など))を用いることができる。上述したように、これらのガス中でも、不活性ガスである窒素ガスを特に好ましく用いることができる。
【0063】
上記装置100を用いて上述の製造方法を実施する手順を説明する。まず、噴霧部10の二流体ノズル12へ分散液L1とキャリアガスを供給する。これによって、二流体ノズル12内で高圧のキャリアガスに分散液L1が衝突し、分散液L1が霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧される。このとき、加熱炉20内には、ヒータ24によって加熱された高温(例えば200℃前後)のキャリアガスが、ガス供給ライン22を通じて供給されている。これによって、分散液の液滴L2は、高温のキャリアガスに加熱されながら加熱炉20内を通過する。これにより、分散液の液滴L2に含まれる液体成分(分散媒)が除去されるとともに、触媒金属溶液から触媒金属が析出して混合凝集体が形成される。形成された混合凝集体は、加熱炉20内を滞留しながら、捕集部30へ移送される。そして、形成された混合凝集体のうち、粒径の大きなものA1がドレン分離器34によって捕集され、粒径の小さなものA2が集塵装置32によって捕集される。
次に、ドレン分離器34及び/又は集塵装置32によって捕集された混合凝集体(A1,A2)を二次加熱炉40内に収容する。そして、加熱ガス供給ユニット42から二次加熱炉40内に加熱ガスを供給しながら、内部に収容した混合凝集体をさらに加熱する。これによって、混合凝集体からポリマー成分が除去されて結果物が得られる。なお、集塵装置32によって捕集された混合凝集体A2のみを用いれば、さらに平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られる。
この装置100を用いて上記の製造方法を実施した場合、上記結果物として多孔質且つ中空のカーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子が作製され、この触媒担持カーボン粒子を捕集することによって触媒材料が得られる。
【0064】
次に、本発明に関する実施例を説明するが、以下の実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0065】
<実施例1:触媒材料の製造例>
(サンプル1)
ここでは、上述した触媒材料の製造方法の一例を実施して、触媒材料(サンプル1)を作製した。
ここでは、先ず、炭素質微粒子とポリマー粒子を触媒金属溶液に分散させた分散液を調製した。具体的には、炭素質微粒子としてのカーボンブラック(平均粒径:40nm)が0.224wtの割合で水に分散したカーボンブラック分散液を用意した。また、併せて、ポリマー粒子としてのPSL(平均粒径:300nm)が10wt%の割合で分散したPSL分散液を用意した。上記カーボンブラック分散液と上記PSL分散液とを分散させ、PSLとカーボンブラックとの質量比が1:3になる混合分散液を調製した。そして、この混合分散液を攪拌しながら、2.5gあたりに0.2gの白金を含む六塩化白金酸(HPtCl)を混合分散液全体に対して白金が10質量%の割合で含まれるように添加した。六塩化白金酸を添加した混合分散液は、その後も攪拌を続けながら1時間保持した。これによって、金属触媒溶液に、炭素質微粒子とポリマー粒子を分散させた分散液L1を得た。
【0066】
次に、図7に示す構成の装置100を用いて、上記分散液L1から触媒担持カーボン粒子を作製した。具体的には、噴霧部10の二流体ノズル12(BUCHI社製:spray dryer B-290)の一方のノズルに上記分散液L1を1分間で3ml吐出させ、他方のノズルからキャリアガス(空気:流速11L/min)を噴出させた。これによって、分散液L1を霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧した。
加熱炉20内に噴霧された液滴L2は、キャリアガスによって、加熱炉20の上流側から下流側(噴霧部10側から捕集部30側)に向かって流動される。この際、ヒータ24で180℃に加熱されたキャリアガスを加熱炉20内に供給することによって加熱炉20内の液滴L2を加熱した。上記加熱処理の結果、加熱炉20内の液滴L2の分散媒が蒸発し、触媒金属溶液から白金粒子が析出するとともに、該白金粒子とカーボンブラックとPSLが凝集することによって混合凝集体Aが得られた。そして、この混合凝集体Aを捕集部30で捕集した。
【0067】
次に、混合凝集体Aをさらに加熱した。具体的には、捕集部30の集塵装置32で捕集した混合凝集体A2のみを二次加熱炉40内に収容し、二次加熱炉40内で加熱を行うことで、混合凝集体A2からポリマー成分を除去した。この加熱処理は、加熱温度を500℃〜700℃、加熱時間を30分間に設定し、加熱ガスとしてNガスを用いた。これによって、多孔質且つ中空のカーボン粒子に白金が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られた。このようにして得られた触媒材料をサンプル1と称する。
【0068】
(サンプル2)
サンプル2では、上記サンプル1と同様の過程を経て得た分散液L1に、界面活性剤を添加した。ここで、界面活性剤としては、分子量500のポリビニルアルコール(PVA:polyvinyl alcohol)を用い、添加量は上記炭素質微粒子100質量部に対して12.5質量部の割合に設定した。なお、サンプル2の作製手順は、上述した事項以外上記サンプル1と同じである。
【0069】
<実施例2:サンプル1及び2の形状観察>
ここでは、上述のようにして得られたサンプル1及び2に係る触媒材料の形状を観察するために、各サンプルを走査型電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission - Scanning Electron Microscope)を用いた。このときの観察結果を図3〜図6に示す。図3は、サンプル1の触媒担持カーボン粒子のFE−SEM写真であり、図4は図3に示す触媒担持カーボン粒子(サンプル1)の表面をさらに拡大したものである。図5は、サンプル2の触媒担持カーボン粒子のFE−SEM写真であり、図6は図5に示す触媒担持カーボン粒子(サンプル2)の表面をさらに拡大したものである。
【0070】
図3〜図6に示されるように、サンプル1及び2の両方で、多孔質且つ中空のカーボン粒子が形成されており、該カーボン粒子の外殻部に触媒金属である白金粒子が担持されていることが確認できた。また、何れのサンプルでも、平均粒径の小さい(10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で触媒材料が構成されていた。このことから、サンプル1及び2の何れの方法でも、多孔質且つ中空であり、且つ、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を作製できることがわかった。
【0071】
また、サンプル1における触媒金属(白金粒子)の粒径は50nm〜100nm程度であった。一方、サンプル2における触媒金属(白金粒子)の粒径は4nm〜7nm程度であった。このことから、触媒金属溶液(分散液L1)に界面活性剤を適切な割合で添加すると、加熱温度を700℃という高温に設定しても、触媒金属(Pt)の粒成長や焼結が好適に防止され、平均粒径が非常に小さな触媒金属をカーボン粒子に担持できることが分かった。
【0072】
また、図3及び5に示すように、サンプル1及び2の両方で、触媒担持カーボン粒子の外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されていることが確認できた。このことから、上記サンプル1及び2を作製した方法によれば、比表面積が広く、高い触媒機能を発揮できる触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できることが分かった。また、サンプル2の触媒担持カーボン粒子では、凹凸状のクレータがより好適に形成されていた。このことから、分散液L1に適量の界面活性剤を添加し、ポリマー成分を除去する際の加熱温度を700℃に設定することによって、外殻部の表面の全体に亘ってより好適な形状の凹凸状のクレータを形成できることがわかった。
【0073】
<実施例3:触媒金属の状態>
この実施例では、上記サンプル1及び2の触媒材料に対して、X線回折測定(XRD:X−Ray Diffraction)を行い、各々の触媒担持カーボン粒子で担持されている触媒金属(白金)の構造を調べた。このサンプル1及び2に対するXRDの結果を図8に示す。なお、図8中のAのチャートがサンプル1の解析結果を示しており、Bのチャートがサンプル2の解析結果を示している。また、図8の下部に示すマーカーは、XRDチャートにおける白金単体に由来するピークが生じる箇所を示すものである。
【0074】
図8に示すように、サンプル1とサンプル2とでは、XRDチャートにおいて異なるピークが確認された。具体的には、サンプル2のXRDチャート(B)で生じているピークは、白金単体に由来するものであった。一方、サンプル2よりもサンプル1の方が多くのピークが生じており、サンプル1特有のピークは酸化白金(PtO)に由来するものであった。すなわち、サンプル2を作製した方法によれば、白金の酸化を防止し、白金単体を主体とした触媒金属を多孔質カーボン粒子の表面に担持させることができるため、より高性能な触媒材料を得られることが分かった。
【0075】
また、この実施例では、上記サンプル1及び2とは異なる方法で作製したサンプル3を新たに作製し、サンプル3についてのXRDチャートも調べた。サンプル3の作製条件及びXRD解析の結果を以下に示す。
【0076】
(サンプル3)
サンプル3の作製にあたっては、混合分散液全体に対して白金が60質量%の割合で含まれるように六塩化白金酸(HPtCl)を添加し、分散液L1を調製した。なお、サンプル3作製におけるその他の条件はサンプル2と同様である。
【0077】
ここでは、上記サンプル3に対して、ポリマー成分を除去するための加熱処理(500℃〜700℃加熱処理)の前後にXRD解析を行った。このときの結果を図9に示す。図9におけるチャートCが加熱処理前の解析結果を示しており、チャートDが加熱処理後の解析結果を示している。
図9に示すように、ポリマー成分除去の加熱処理後の解析結果を示すチャートDにおいてのみ、上記サンプル2と同様に特徴的なピーク(39°、46°、67°付近)が確認された。かかるピークは高結晶性の白金(Pt)に由来するものであった。すなわち、サンプル3のXRD解析の結果から、ポリマー成分を除去するための加熱処理の温度を500℃〜700℃に設定することによって高結晶性の触媒金属(Pt)を多孔質カーボン粒子の表面に担持できることが分かった。また、上述のサンプル2とサンプル3のXRD解析の結果から、加熱処理の温度を500℃〜700℃に設定した場合であっても、分散液に界面活性剤(PVA)を添加することで触媒金属(Pt)の酸化が好適に防止され、高結晶性の触媒金属(Pt)を多孔質カーボン粒子の表面に担持できることが分かった。
【0078】
<実施例4:触媒能力の評価>
この実施例4では、サンプル2の触媒能力を評価するために、サンプル2と比較例(サンプル4)の触媒機能を、回転ディスク電極およびサイクリックボルタンメトリーを用いて得られた電流−電圧曲線(サイクリックボルタモグラム)から算出した値に基づいて評価した。
【0079】
(サンプル4)
上記サンプル2に対する比較例として用意したサンプル4は、一般的な白金担持カーボン粒子からなる市販の触媒材料である。サンプル4におけるカーボン粒子は、炭素質微粒子の単なる凝集体であり、多孔質粒子でもなければ、中空粒子でもない。また、サンプル4の触媒材料を構成する白金担持カーボン粒子の平均粒径は、2μm程度である。
【0080】
サンプル2の触媒機能(白金粒子1mgに対する活性(mass activity))は、225mA/mgPt(0.9V)であった。一方、サンプル4の触媒機能は、155mA/mgPt(0.9V)であった。このように、サンプル2の触媒機能は、サンプル4の触媒機能を大きく上回った。すなわち、多孔質且つ中空のカーボン粒子に白金粒子が担持された触媒担持カーボンからなる触媒材料は、従来の触媒材料に比べて高い触媒機能を発揮することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
ここで開示される触媒材料は、触媒金属やカーボン粒子の比表面積が広く、触媒対象が供給された際に三相界面が形成されやすいため、高い触媒能力を発揮することができる。したがって、例えば、高分子電解質型の燃料電池(PEFC)における触媒層を形成する際に用いることによって高性能のPEFCの構築を実現することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 噴霧部
12 二流体ノズル
14 ガス供給ユニット
20 加熱炉
22 輸送管
24 ヒータ
24a〜24b ヒータ部
30 捕集部
32 集塵装置
34 排気装置
100 装置
L1 分散液
L2 液滴
A 混合凝集体
P 結果物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子に触媒金属が担持されている触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造する方法であって、
前記カーボン粒子を形成するための炭素質微粒子と、前記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが、触媒金属元素を含む触媒金属溶液に分散した分散液を用意すること;
前記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
前記噴霧された液滴を前記加熱炉内で加熱することにより、前記分散液中の液体成分を蒸発させて前記炭素質微粒子と前記ポリマー粒子と前記触媒金属との混合凝集体を形成すること;
前記混合凝集体をさらに加熱することにより、前記混合凝集体からポリマー成分を除去して、多孔質かつ中空のカーボン粒子に前記触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子を得ること;
を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記炭素質微粒子の平均粒径が20nm以上100nm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー粒子の平均粒径が100nm以上600nm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分散液を平均粒径1μm以上10μm以下の液滴になるように前記加熱炉内に噴霧する、請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒金属溶液が界面活性剤をさらに含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤は、前記触媒金属溶液に分散される前記炭素質微粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の割合で前記触媒金属溶液に含まれる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合凝集体から前記ポリマー成分を除去する際の加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気に設定する、請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
多孔質構造を有しており、燃料が供給されるアノードと、
酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、
多孔質構造を有しており、酸素含有ガスが供給されるカソードと
からなる積層構造を備えた燃料電池であって、
ここで、前記アノード及び/又は前記カソードに、請求項1〜7の何れか一項に記載の製造方法によって得られた触媒材料が含まれていることを特徴とする、燃料電池。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の製造方法によって製造された触媒材料であって、
前記カーボン粒子は、
炭素で形成されており、前記触媒金属が担持されている外殻部と、
前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、
前記外殻部に複数形成されており、前記内部空間と連通している微細孔と
を備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子であり、
前記触媒担持カーボン粒子の平均粒径が200nm以上10μm未満であり、
前記外殻部の表面の全体に亘って凹凸状のクレータが形成されている、触媒材料。
【請求項10】
前記触媒担持カーボン粒子の平均粒径が2μm以上8μm以下である、請求項9に記載の触媒材料。
【請求項11】
前記微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である、請求項9又は10に記載の触媒材料。
【請求項12】
前記触媒金属の平均粒径が1nm以上10nm以下である、請求項9〜11の何れか一項に記載の触媒材料。
【請求項13】
前記触媒金属が、白金族に含まれる何れかの金属或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金である、請求項9〜12の何れか一項に記載の触媒材料。



【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94705(P2013−94705A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238041(P2011−238041)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】