説明

ガスバリアフィルムの製造方法

【課題】Cat−CVD法を用いて薄膜の形成を行う際に、NH3ガスを使用することなく、効率よく堆積膜へ窒素を導入し、ガスバリア性を向上させること、かつ高い膜形成速度を有する薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】触媒化学気相成長法を用いた窒素原子を含む薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法であって、成膜室外部に設けたプラズマ源から発生するプラズマを用いてN2ガスを分解して成膜室へ導入するとともに、N2ガス以外の材料ガスを成膜室へ導入し、加熱触媒体を用いて該材料ガスを接触熱分解させることにより、被堆積物上に薄膜を形成させるガスバリアフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルムの製造方法に関し、詳しくは、触媒化学気相堆積法を用いたガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒化学気相成長法(以下、Cat−CVD法ということがある)は、大面積化が容易であり、かつ低温成膜が可能であることから、従来から、Cat−CVD法を用いた薄膜およびガスバリアフィルムに関する報告がなされてきた。特に窒化ケイ素、酸窒化ケイ素膜等、膜中に窒素原子を含むガスバリア性に優れた薄膜およびガスバリアフィルムについて、多くの報告がなされてきた。
特許文献1、2には、窒素源として、アンモニア(NH3)、ヒドラジン、窒素ガス(N2)が例示されており、具体的に実施例では原料ガスとしてNH3が使用されている。しかし、NH3ガスは、安全性の点で問題があり(毒物および劇物取締法において劇物指定)、実用化に問題が多い。また、NH3ガスがCat−CVD法で用いられる加熱触媒体表面の分解活性点を占有するため、主原料ガスであるSi系ガスの分解活性点が減少し、膜堆積速度が制限され、薄膜形成速度が遅くなるという問題がある。
従って、Cat−CVD法における堆積膜の窒素源としてNH3ガスの代わりに、安全性において問題のないN2ガスを用いることが提案されうるが、Cat−CVD法の膜形成において、堆積膜の窒素源として、単にNH3ガスに代えてN2ガスを供給しても、N2ガスは加熱触媒体上では分解されにくいことが報告されており(非特許文献1)、良好な膜形成が得られない。
特許文献3では、プラズマ源と熱触媒体を組み合わせたプラズマエンハンストCat−CVD法が提案されており、プラズマ増強ガスとしてN2ガスが用いられている。
一方、加熱触媒体表面の分解活性点が占有されることによる膜堆積速度の問題については、特許文献4に、各原料ガスの導入口近傍に加熱触媒体を配置し、各原料ガスを個別に分解することで解決を試みる報告がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4144705号公報
【特許文献2】特許第4279816号公報
【特許文献3】特許第4004510号公報
【特許文献4】特許第4144697号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】第7回Cat−CVD研究会 講演予稿集 P66−67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の通り、非特許文献1から、堆積膜の窒素源として、単にNH3ガスに代えてN2ガスを供給しても、N2ガスは加熱触媒体上では分解されにくいことが報告されており、出願人の検討によれば、単にNH3ガスに代えてN2ガスを供給しても、堆積膜の窒化はほとんど進まず、水蒸気バリア性も向上しないことが判明した。
また、特許文献3においては、N2ガスはプラズマ増強ガスとして使用されており、窒素源としての役割は明記されておらず、窒素原子を含む膜が得られたという記載はない。更に、触媒体と基板の間にプラズマ源を挿入する構成となっている。
また、特許文献4記載の方法は、NH3ガスには有効であるが、N2ガスの場合は加熱触媒体上では分解されにくいため有効なものではなかった。
以上の通り、Cat−CVD法では、根本的にN2分解が不十分であり、特に、窒化膜を形成するための窒素源としてのN2ガスを利用する場合、有効なN2分解手法が求められていた。
本発明は、このような状況下で、Cat−CVD法を用いて薄膜の形成を行う際に、NH3ガスを使用することなく、効率よく堆積膜へ窒素を導入し、ガスバリア性を向上させること、かつ高い膜形成速度を有する薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑みて、NH3ガスを使用せずN2ガスを用い、プラズマ発生手段を用いてN2ガスを分解し、その分解種を基板に供給することで、堆積膜中に効率よく窒素原子が取り込まれ(堆積膜の窒化が進行し)、Cat−CVD膜を窒化することができ、水蒸気バリア性が向上すること、及び膜堆積速度も向上できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)触媒化学気相成長法を用いた窒素原子を含む薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法であって、成膜室外部に設けたプラズマ源から発生するプラズマを用いてN2ガスを分解して成膜室へ導入するとともに、N2ガス以外の材料ガスを成膜室へ導入し、加熱触媒体を用いて該材料ガスを接触熱分解させることにより、被堆積物上に薄膜を形成させるガスバリアフィルムの製造方法、
(2)上記(1)に記載の方法を用いて製造された薄膜を被堆積物上に形成してなるガスバリアフィルム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Cat−CVD法を用いて薄膜の形成を行う際に、NH3ガスを使用することなく、効率よく堆積膜へ窒素を導入し、ガスバリア性を向上させること、かつ高い膜形成速度を有する薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のガスバリアフィルムの製造方法に使用する装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明のガスバリアフィルムの製造方法に使用するプラズマ装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
Cat−CVD法により、特に窒化ケイ素、酸窒化ケイ素膜等、膜中に窒素原子を含む薄膜を形成する場合、窒素源として、従来、NH3ガスを用いているが、NH3ガスは、安全性の点で問題があり、また、NH3ガスが加熱触媒体表面の分解活性点を占有するため、主原料ガスであるSi系ガスの分解活性点が減少し、膜堆積速度が制限され、薄膜形成速度が遅くなるなどの問題がある。従って、Cat−CVD法における堆積膜の窒素源として、NH3ガスの代わりに安全性において問題のないN2ガスを用いることが提案されているが、単にNH3ガスに代えてN2ガスを供給しても、N2ガスは加熱触媒体上では分解されにくいことから良好な膜形成が得られない。
【0011】
本発明においては、安全性の観点から、窒素源としてNH3ガスを使用せずN2ガスを使用し、かつプラズマを用いることでN2ガスを分解し、その分解種を被堆積物に供給することで、堆積膜中に効率よく窒素原子が取り込まれ、堆積膜の窒化が進行し、Cat−CVD膜を窒化することができる。その結果、得られたCat−CVD膜の水蒸気バリア性が向上し、及び膜堆積速度も向上することを見出した。
【0012】
<ガスバリアフィルムの製造方法>
本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、触媒化学気相成長法を用いた窒素原子を含む薄膜を被堆積物上に形成させたガスバリアフィルムの製造方法であって、成膜室外部に設けたプラズマ源から発生するプラズマを用いてN2ガスを分解して成膜室へ導入するとともに、N2ガス以外の材料ガスを成膜室へ導入し、加熱触媒体を用いて該材料ガスを接触熱分解させることにより、被堆積物上に薄膜を形成させることを特徴とするものである。
図1は、本発明のガスバリアフィルムの製造方法に使用する装置の一例を示す模式断面図である。具体的には、図1において、Cat−CVD装置の成膜室1外部に取り付けたプラズマ装置2内にN2ガスを導入しN2分解種を生成させ、得られたN2分解種をCat−CVD装置の成膜室1内に供給する。一方、材料ガスを、加熱触媒体3の上方に設置されたガス導入口4から成膜室1内に直接供給する。加熱触媒体3を加熱昇温して導入した材料ガスを接触熱分解させ、基板ホルダー5に設置された被堆積物6上に薄膜を形成し、ガスバリアフィルムを製造する。以下、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について詳細に説明する。
【0013】
[触媒化学気相成長法(Cat−CVD法)]
本発明においては、基板等の被堆積物上に、触媒化学気相成長法により薄膜を形成し、ガスバリアフィルムを製造する。
【0014】
(材料ガス)
使用しうる材料ガスは、目的とする薄膜物質により異なるが、通常、Cat−CVD法に使用される材料ガスがいずれも使用でき、少なくとも1種以上のガスからなることが好ましい。例えば珪素化合物薄膜の形成においては、珪素を含む第一材料ガスに対して窒素、酸素、水素やアルゴンなどの希ガスを第二材料ガスとして使用することが好ましい。
【0015】
珪素を含む第一材料ガスとしては、モノシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、モノメチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、塩化シラン、弗化シラン等のシラン化合物を単独、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。また、材料ガスは、室温での状態は気体状でも液体状でもよく、液体状の原料は原料気化機により気化して装置内へ供給することができる。上記第一材料ガスの中でも、危険性・取り扱いやすさの点から、有機珪素化合物が好ましい。
【0016】
本発明においては、上記N2ガスはCat−CVD装置の成膜室外部に取り付けたプラズマ装置においてN2分解種を生成させた後にCat−CVD装置の成膜室に導入され、一方、その他の材料ガスは、加熱触媒体の上方に設置されたガス導入口から直接成膜室に導入される。
【0017】
材料ガス流量比は、例えばシラン化合物1に対して、容積比で窒素が好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜500、水素が好ましくは10〜500、より好ましくは50〜300、酸素が好ましくは4.0以下、より好ましくは2.0以下である。このようにすることで、水蒸気や酸素等の透過を阻止する能力の高い透明で密着性の良好な窒素及び酸素を含有する珪素化合物膜を高い膜形成速度で成膜することができる。
すなわち、シラン化合物に対する窒素の流量比が上記範囲内であれば、堆積膜中に充分に窒素原子が取り込まれ、得られる珪素化合物膜の水蒸気や酸素等に対するバリア性も良好であり、膜形成速度も高い。また、シラン化合物に対する、水素の流量比が上記範囲内であれば、水蒸気や酸素等のバリア性が良好である。また、真空成膜室内で堆積種の濃度の低下も見られず、堆積速度も良好である。
【0018】
(加熱触媒体)
加熱触媒体である金属触媒体としては、タングステン、白金、ニッケル等従来の触媒が使用できるが、材料ガスが接触分解される温度においてその金属触媒体自身が溶融又は揮発せず、さらにシリサイド化が抑制され、ハロゲンによる腐食が抑制される点から、タングステンが好ましい。金属触媒体の線の形状は、直線状であってもよく、または直円筒状のコイルであってもよく、そのほかの形状であってもよく、さらに線以外の構造であってもよい。また、加熱触媒体の総面積は、膜の形成速度、及び加熱触媒体から被堆積物への熱輻射量、加熱触媒体の供給電力などの点から、1000〜5000mm2が好ましく、1500〜3000mm2であることがより好ましい。金属触媒体の温度は、材料ガスが接触分解される温度であって、さらに被堆積物に熱ダメージを与えない温度が好ましく、500〜2500℃が好ましく、1600〜2000℃であることがより好ましい。
【0019】
(材料ガスの接触熱分解)
材料ガス流量比を前述のようにすることで、例えば、シランガスを使用した場合の加熱触媒体の表面及びその近辺での主な反応は、SiH4→Si・+4H・及びSiH4+H・→SiH3・+H2であり、SiH3・ が主要な堆積種であると考えられている。また、窒素の主な反応は、N2→2N・であり、N・が主要な堆積種であると考えられている。水素の主な反応は、H2→2H・であり、H・は、主に気相反応、基材フィルムの表面反応を補助するために使われると考えられる。なお、前記において、・印はラジカルの状態を示す。
【0020】
(触媒化学気相成長法(Cat−CVD法))
被堆積物上の薄膜の形成は、触媒化学気相成長法(Cat−CVD法)により行うが、この方法においては、真空下で加熱触媒体である前記金属触媒線を加熱し、前記2種以上の材料ガスをこの金属触媒線と接触させ前記反応により熱分解することにより被堆積物上に主原料ガスを構成する元素を主要骨格物質とする無機及び/又は有機の薄膜を形成することができる。
【0021】
具体的には、触媒化学気相成長法においては、被堆積物温度を好ましくは被堆積物のガラス転移温度(Tg)以下、より好ましくはTg−10℃以下とする。これにより、被堆積物(基板)のガラス転移温度以下にて堆積することができ、加熱触媒体からの輻射熱による被堆積物(基板)のダメージを解消できる。また、反応圧力としては、空気中の不純物の膜への混入防止と成膜速度の点から、20Pa以下の減圧下で行うことが好ましい。
【0022】
本発明においては、たとえばケイ素原子を含有するガスおよび窒素原子を含有するガスを用いて珪素化合物膜の成膜を行う場合、真空成膜室内に導入されたケイ素原子を含有するガスは、ケイ素原子を含有するガスの導入口と被堆積物との間に配備された加熱した加熱触媒体との接触により、ケイ素原子を含有する活性種に変化して真空成膜室内を拡散する。またN2ガスは成膜室外でプラズマにより窒素原子を含有する活性種に変化して真空成膜室内に導入され、窒真成膜室内に拡散する。それらの活性種は、被堆積物(基板)に達して、その表面上に薄膜を形成する。
【0023】
触媒化学気相成長法による薄膜の成膜速度は、膜の緻密性や被堆積物への熱ダメージの点から1〜300nm/minの範囲内であることが好ましく、より好ましくは2〜200nm/minである。
【0024】
(プラズマ源)
材料ガスとしてのN2ガスを分解する手法は、プラズマを用いる。本発明においては、プラズマ源は前記Cat−CVD装置の成膜室外部に取り付けられ、その種類は特に限定されず、材料ガスの種類及び形成すべき膜に応じて選択すればよい。例えば、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)、容量結合プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)、電子サイクロトン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron resonance Plasma)、ヘリコン波励起プラズマ(HWP:Helicon Wave Plasma)、マイクロ波励起表面波プラズマ(SWP:Surface Wave Plasma)などの各種プラズマ法をいずれも用いることができる。
【0025】
中でも誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)は低圧・高密度プラズマを容易に発生できることから好ましい。また、ICPでは電極を装置内に挿入しないので異物混入の心配が無い。
図2は、本発明のガスバリアフィルムの製造方法に好ましい、誘導結合プラズマ(ICP)装置の一例を示す模式図であり、プラズマ生成は、石英菅10にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどを導入し高周波電源8を用いて行うことができ、プラズマ生成後に、材料ガスとしてのN2ガスを導入し分解して窒素原子を含有する活性種とした後、Cat−CVD装置の成膜室に導入する。このような方法により、Si系ガスの分解活性点を減少させることなく、効率的に堆積膜へ窒素を導入することができる。
【0026】
<薄膜(Cat−CVD膜)>
本発明においては、上述の方法により、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素膜等、膜中に窒素原子を含む薄膜を製造することができる。薄膜層に含有される無機物質としては、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、水素化炭素等、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物またはそれらの混合物が挙げられるが、ガスバリア性の点から、好ましくは酸化珪素、酸窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、炭化水素(例えば、ダイアモンドライクカーボンなどの炭化水素を主体とした物質)であり、酸化珪素、酸窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムが、高いガスバリア性が安定に維持できる点でより好ましく、酸化珪素、酸窒化珪素及び窒化珪素が更に好ましい。
本発明においては、無機物質としては、ガスバリア性と基板との密着性の点から、酸素及び窒素を含有する酸窒化珪素化合物(SiOxy)が好ましく、ここで、xは好ましくは0.2〜2.0であるが、より好ましくは0.5〜1.5である。yは好ましくは0.05〜1であるが、より好ましくは0.1〜0.5である。
【0027】
薄膜の屈折率は、ガスバリアフィルムの光透過性の点で重要であるが、その観点から、|被堆積物の屈折率−堆積薄膜の屈折率|が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは、0.3以下であり、更に好ましくは0.1以下である。
得られる薄膜の厚さは、通常0.1〜500nmであるが、好ましくは1〜300nm、より好ましくは5〜200nmである。薄膜が複数の層からなる場合は、単層で上記厚さを有することが好ましい。上記範囲内であれば、薄膜を構成する薄膜層自体の内部応力による被堆積物(基板)からの剥離もほとんどなく、また、均一な厚さを保つことができ、更に層間の密着性においても優れている。
【0028】
<ガスバリアフィルム>
本発明のガスバリアフィルムは、被堆積物(基板)上に前述の薄膜の製造方法により薄膜を形成してなるものであるが、前記被堆積物(基板)としては、加工性の点から、熱可塑性高分子フィルムが好ましく、その原料としては、通常の包装材料等に使用しうる樹脂であれば特に制限なく用いることができる。
【0029】
具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体またはこれらの共重合体であるポリオレフィン、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリメタクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリレート樹脂、生分解性樹脂等が挙げられる。これらの中では、フィルム強度、コストなどの点から、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル樹脂、ポリエーテルサルホン、環状ポリオレフィンが好ましく、より好ましくはポリエステルである。上記基板は、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0030】
基板の表面粗度(Rms)は1.5nm以下が好ましい。Rmsが1.5nm以下であると、薄膜が均一な厚さに形成され、また薄膜を形成する粒子が緻密に充填されやすいため、高度の酸素ガスバリア性及び水蒸気バリア性を得ることができ、この結果、薄膜の厚さを薄くすることができる。
【0031】
上記基板としての熱可塑性高分子フィルムは、上記の原料を成形してなるものであるが、基板として用いる場合は、未延伸であってもよいし延伸したものであってもよい。また、他のプラスチック基板と積層されていてもよい。かかる基板は、従来公知の方法によっても製造することができ、例えば、原料樹脂を押出機により溶融し、環状ダイやTダイにより押出して、急冷することにより実質的に無定型で配向していない未延伸フィルムを製造することができる。この未延伸フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の延伸方法により、フィルムの流れ方向、又はフィルムの流れ方向とそれに直角な方向に延伸することにより、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムを製造することができる。本発明においては、基板としては機械強度の点から二軸延伸されたものが好ましい。
【0032】
延伸倍率としては、上記観点から、縦軸方向に好ましくは2〜6倍、より好ましくは2〜4倍、横軸方向に好ましくは2〜5倍、より好ましくは2〜4倍である。また、上記基板フィルムは、その120℃での熱水処理後の熱収縮率が、0.01〜5%であることが好ましい。
【0033】
基板の厚さは、ガスバリアフィルムの基板としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、その用途に応じ、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で選択され、厚さが大きいシート状のものも含む。また、フィルムの幅や長さについては特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
本発明のガスバリアフィルムは、40℃、90%RH条件下での水蒸気透湿度が、1g/m2/24hr以下であることが好ましく、0.8g/m2/24hr以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.5g/m2/24hr以下である。
【0034】
本発明においては、前記基板に、密着性向上のため、アンカーコート剤を塗布してアンカーコート層を設けることができる。アンカーコート剤としては、溶剤性又は水性のポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコン系樹脂、アルコール性水酸基含有樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート基含有樹脂、アルコキシル基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂及びアルキルチタネート等を単独、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、密着性、耐熱水性の点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコン系樹脂、アルコール性水酸基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、及びイソシアネート基含有樹脂及びこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、更には、ウレタン樹脂、アクリル樹脂の1種類以上と、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート基含有樹脂の1種類以上を組み合わせたものが好ましい。
【0035】
アンカーコート層の厚さは0.005〜5μm程度、更に0.01〜1μmであることが好ましい。上記範囲内であれば、滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力による基板フィルムからの剥離もほとんどなく、また、均一な厚さを保つことができ好ましい。
また、基板へのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前にフィルムに通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
【0036】
本発明のガスバリアフィルムは、前記薄膜上に、更に用途に応じて保護膜や導電膜等の機能性膜を形成することも可能である。機能性膜の厚さは、その用途に応じて選定することが可能であるが、膜応力による薄膜への亀裂の発生や透明性低下等の問題を抑制するため一般に0.1〜500nmの範囲内であることが好ましい。
本発明のガスバリアフィルムには、上述の構成層に必要に応じ更に追加の構成層を積層した各種ガスバリアフィルムを用途に応じて使用できる。積層方法は接着剤を使用するドライラミネート法や接着性樹脂を使用する押出ラミネート法を使用することができる。
【0037】
通常の実施態様としては、上記ガスバリアフィルム上にプラスチックフィルムを設けた積層体が各種用途に使用される。上記プラスチックフィルムの厚さは、積層体の基板としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で用途に応じて選択される。また、フィルムの幅や長さは特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。例えば、無機薄膜層の塗布面及び/又は基材フィルム面上にヒートシール可能な樹脂を使用することにより、ヒートシールが可能となり、種々の容器として使用できる。ヒートシール可能な樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、アクリル系樹脂、生分解性樹脂等の公知の樹脂が例示される。
【実施例】
【0038】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例で得られた薄膜およびガスバリアフィルムの性能評価は、以下のように行った。
【0039】
(1)薄膜の屈折率および膜厚測定
実施例1、比較例1および参考例1の各々と同じ条件でSiウェハー上に薄膜形成した試料を用いて、オートステージ自動エリプソメータ(Gaertner Scientific corporation製、製品名L115E)を用いて測定した。
【0040】
(2)薄膜の膜組成分析
X線光電子分光装置(Fisons Instruments製S-Probe ESCA Model:2803)を用いて測定した。X線として単色Al-Kα線(1486.6eV)を使用し、Binding Energy(0〜1000eV)の範囲をスポットサイズ250×1000μmで測定した。
【0041】
(3)ガスバリアフィルムの水蒸気透過度
水蒸気透過率測定装置(Illinois Instruments製、製品名7000 型)を用いて、湿度90%RH、温度40℃で測定した。
【0042】
<使用材料>
・基板:厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂製「ダイヤホイル」)
・Cat−CVD原料ガス:ヘキサメチルジシラザン、酸素、水素(以上、実施例1、比較例1、参考例1)、窒素(実施例1、比較例1)、アンモニア(参考例1)
【0043】
実施例1
図1に示された触媒化学気相成長(Cat-CVD)装置において、PETフィルムと加熱触媒体の距離を50mm、堆積前のPETフィルムの温度を60℃、加熱触媒体の材質をφ0.5×1250mmのタングステンとした。また、Cat-CVD装置の成膜室外部に取り付けた石英管内に窒素ガス(以下、N2)を導入しプラズマを発生させ、N2分解種を成膜室内に供給した。他の原料ガスであるヘキサメチルジシラザン (以下、HMDS)、ヘリウム希釈酸素(以下、He希釈O2)ガス(O2:2.01%)、水素ガス(以下、H2)は触媒体上部に設置されたガス導入口から成膜室内に直接供給した。原料ガスの混合比は容積比でHMDS:He希釈O2:H2:N2=3:100:200:300であり、成膜ガス圧は10Pa(0.075Torr)とした。
上記成膜室内において、加熱触媒体を1800℃まで昇温し、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」と略す。三菱樹脂製「ダイヤホイル」)の片側表面に、薄膜厚さ約100nmの珪素化合物膜を形成した。得られた試料を用いて、前述の方法で膜厚、屈折率、膜組成、水蒸気透過度を測定した結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
実施例1において、成膜室外部に取り付けた石英管内でプラズマを発生させず、N2ガスを成膜室外部に取り付けた石英管から供給した以外は、同様にしてPETフィルム上に珪素化合物膜を形成した。得られた試料を用いて、前述の方法で膜厚、屈折率、膜組成、水蒸気透過度を測定した結果を表1に示す。
【0045】
参考例1
実施例1において、窒素ガス(N2)の供給およびプラズマ発生を行わず、加熱触媒体上方に設置されたガス導入口からアンモニアガス(NH3)を成膜室内へ直接供給し、原料ガスの混合比を容積比でHMDS:He希釈O2:H2:NH3=3:100:200:300とし、10Pa(0.075Torr)の真空下で成膜を行ったこと以外は、同様にしてPETフィルム上に珪素化合物膜を形成した。得られた試料を用いて、前述の方法で膜厚、屈折率、膜組成、水蒸気透過度を測定した結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

上記表1及び表2より明らかなように、本発明の方法により得られた薄膜は、膜堆積速度が高く、アンモニアガス(NH3)を用いた従来の方法(参考例1)に比較して、窒素原子が効率よく導入されており、また、水蒸気透過度も優れたものであった。これに対し、窒素ガス(N2)をCat-CVD装置に直接供給した比較例1は、窒素原子が膜中に十分取り込まれず、水蒸気透過度も劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、安全性が高く、かつ膜形成速度が高い製造方法で形成されたガスバリア性の高い薄膜およびガスバリアフィルムであることから、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL(エレクトロルミネッセンス)用基板、カラーフィルター等に使用するガスバリアフィルム等及びその製造に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0049】
1:成膜室
2:プラズマ装置
3:加熱触媒体
4:ガス導入口
5:基板ホルダー
6:被堆積物
7:排気口
8:高周波電源
9:電極
10:石英管
矢印は各ガスの流れ方向を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒化学気相成長法を用いた窒素原子を含むガスバリアフィルムの製造方法であって、成膜室外部に設けたプラズマ源から発生するプラズマを用いてN2ガスを分解して成膜室へ導入するとともに、N2ガス以外の材料ガスを成膜室へ導入し、加熱触媒体を用いて該材料ガスを接触熱分解させことにより、被堆積物上に薄膜を形成させるガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記プラズマが誘導結合プラズマである請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記材料ガスが、少なくともシラン化合物を含み、かつ酸素及び水素を含む請求項1又は2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記シラン化合物が有機珪素化合物である請求項3記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法を用いて製造されたガスバリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108103(P2013−108103A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251424(P2011−251424)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/超ハイガスバリア太陽電池部材の研究開発」に係る共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】