説明

ガス分離膜モジュール

【課題】ボアフィードタイプのモジュールにおいてガス分離をより効率的に実施することができるガス分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】この分離膜モジュール601は、ガス分離性能を有する多数の中空糸膜614が集束された中空糸束615と、その中空糸束615が内部に配置されるケーシング610と、中空糸束615の両端部を固定する2つの管板621、622とを備えている。ガス分離膜モジュール601には、中空糸膜614を透過した透過ガスを排出するためのパージガスを供給するための構造は設けられていない。ガス分離膜モジュール601は、中空糸束615の外周面に巻き付けられたガス不透過性のフィルム部材631であって、その一方の端部631aが管板622に実質的に当接し他方の端部631bが管板621から離れるように配置されているフィルム部材631をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜を利用してガス分離を行うガス分離膜モジュールに関し、特には、いわゆるボアフィードタイプのモジュールにおいてガス分離をより効率的に実施することができるガス分離膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、選択的透過性を有する分離膜を用いてガス分離(例えば、酸素分離、窒素分離、水素分離、水蒸気分離、二酸化炭素分離、有機蒸気分離等)を行う分離膜モジュールとしては、プレートおよびフレーム型、チューブラー型、中空糸型などがある。そのなかでも、中空糸型のガス分離膜モジュールは、単位体積当たりの膜面積がもっとも大きいという利点を有するだけでなく、耐圧性、自己支持性の点においても優れているので、工業的に有利であり、広範囲に利用されている。
【0003】
中空糸型のガス分離膜モジュールは、一般に、選択的透過性を有する多数の中空糸膜からなる中空糸束を有する中空糸エレメントと、それを収容する中空のケーシングとを備えている。中空糸エレメントの中空糸束は、その一端または両端が、樹脂の硬化板(管板)によって固定されている。また、ケーシングには、混合ガス入口、透過ガス出口、および未透過ガス出口等が設けられている。
【0004】
効率的なガス分離を目的として、例えば特許文献1には、混合ガスが中空糸膜内に供給されるいわゆるボアフィード型のモジュールにおいて、中空糸束の一部をフィルム部材で被覆し、キャリアガスの流れと混合ガスの流れが中空糸膜を挟んで向流となるように構成されたガス分離膜モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−262838
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1のガス分離膜モジュールではキャリアガスの流れ方向を規制することでガス分離の効率化を図ることが可能であるが、ボアフィードタイプであって、かつ、キャリアガス(パージガス)を利用しないものにおいても、ガス分離の効率を改善することは重要である。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ボアフィードタイプのモジュールにおいてガス分離をより効率的に実施することができるガス分離膜モジュール提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のガス分離膜モジュールは下記の通りである:
ガス分離性能を有する多数の中空糸膜が集束された中空糸束と、
混合ガス入口、透過ガス出口、および未透過ガス出口を有し、前記中空糸束が内部に配置されるケーシングと、
前記中空糸束の両端部を固定する2つの管板と、を備え、
前記混合ガス入口から導入された混合ガスを前記中空糸膜内に供給し、その混合ガスの一部を透過させることでガス分離を行う分離膜モジュールであって、
(i)前記中空糸膜を透過した透過ガスを排出するためのパージガスを供給するための構造は設けられておらず、
(ii)前記中空糸束の外周面に巻き付けられたガス不透過性(実質的にガス不透過性のものも含む)のフィルム部材であって、その一方の端部が混合ガス供給方向下流側の前記管板に実質的に当接し他方の端部が混合ガス供給方向上流側の前記管板から離れるように配置されているフィルム部材を、さらに備える、ガス分離膜モジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、中空糸束に巻かれたフィルム部材によって透過ガスの流れ方向が規制され、混合ガスの供給方向と逆向きに流れることとなるため(詳細後述)、ボアフィードタイプのモジュールにおいてガス分離をより効率的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態に係るガス分離膜モジュールの基本的な構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図1のモジュールにおけるケーシングの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の一形態について説明する。図1は、本実施形態のガス分離膜モジュールの基本的な構成を模式的に示す断面図である。
【0011】
図1に示すガス分離膜モジュール601はボアフィードタイプのものであり、多数の中空糸膜614が集束された中空糸束615と、それを収容するケーシング610と、中空糸束615の両端部に設けられた管板621、622とを備えている。
【0012】
中空糸膜614は従来公知のものを利用可能であり、ガス分離性能を有するものであればどのような素材のものでも構わない。一例として、高分子材料特にポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネートなどの常温(23℃)でガラス状の高分子材料からなるものは、ガス分離性能が良好であるので、好適である。
【0013】
中空糸束615は、例えば100〜1,000,000本程度の中空糸膜614を集束したものである。集束された中空糸束615の形状には特に制限はないが、製造の容易さおよびケーシングの耐圧性の観点から一例として円柱状が好ましい。図1では中空糸膜614が実質的に平行に配列されている形態を例示しているが、各中空糸膜が交叉配列されている形態であってもよい。
【0014】
中空糸膜614によって分離される混合ガスは、特に限定されるものではないが、例えば、分離膜に対する透過速度の比が2以上である透過性の大きいガスと透過性の小さいガスとを含むガス混合物であってもよい。本実施形態のガス分離膜モジュール601は、様々な態様で、混合ガスから特定ガス成分を分離するのに用いることができる。例えば、各種ガスの除湿、各種ガスの加湿、窒素富化または酸素富化などを行うものであってもよい。
【0015】
管板621、622は、ケーシング断面形状に対応して円盤状に設けられており、各中空糸膜614の開口が保持された状態で中空糸束615の端部を固着するものである。管板621、622は、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂やウレタン樹脂などからなる熱硬化性樹脂であってもよい。管板621、622は、多数の中空糸膜614を一体に固着する役割を果たす。また、中空糸膜614どうしの間、および、中空糸束615とケーシング610の内面の間を密封する役割を果たす。図1に示すように、ケーシング610と2つの管板621、622とによって1つの密閉空間618(後述するように透過ガス排出口610cを有する)が形成され、この密閉空間618内には中空糸膜614を透過した透過ガスが導入される。さらに、ケーシング610および管板621とによって混合ガス空間619aが形成され、ケーシング610および管板622によって未透過ガス空間619bが形成される。なお、管板621、622とケーシング610の内面との間の密封のために、他のシーリング手段が設けられていてもよい。
【0016】
なお、管板621、622のためのエポキシ樹脂としては、例えば窒素膜モジュールの場合には、特公平2−36287等に記載されたようなものを利用可能であり、また、有機蒸気分離モジュールの場合にはWO2009/044711等に記載されたようなものを利用可能である。
【0017】
ケーシング610は、図1に示すように、全体として略円筒状に設けられている。ケーシング610は、上流側(図の左側)に混合ガスをケーシング610内に導入するための混合ガス入口610aを有し、下流側(図の右側)に未透過ガス出口610bを有し、側壁部に透過ガス出口610cを有している。透過ガス出口610cの数は、1つであってもよいし複数であってもよい。複数の透過ガス出口610cがケーシング610の側壁部に沿って等間隔で配置されていてもよい。透過ガス出口610cは、この例では、上流側の管板621に近い位置(具体的には、後述するフィルム部材631が存在しない中空糸束615の露出部分A1の位置)に形成されている。
【0018】
混合ガス入口610aから導入された混合ガスは、管板621の端面から各中空糸膜614内に入り込み、その内部を下流側に向かって流れる。この際、混合ガスのうち一部が中空糸膜614外へと透過し、その透過ガスは密閉空間618内に送り込まれ、次いで、透過ガス出口610cを介してケーシング外へと排出される。一方、中空糸膜を透過しない未透過ガスはそのまま中空糸膜614内を下流側に向かって流れ、下流側の端面から膜外へと送り出され、次いで、未透過ガス出口610bを介してケーシング外へと排出される。
【0019】
なお、図1ではケーシング610を模式的に示しているが、具体的には図3のようなケーシングの構成であってもよい。この例では、ケーシング610は、両端部が開口した円筒状部材611と、その両端部に取り付けられたキャップ612、613を有している。筒状部材611およびキャップ612、613は一例として金属製、プラスチック製、またはセラミック製であってもよい。各キャップ612、613に混合ガス入口610a、未透過ガス出口610bがそれぞれ形成されている。一例として、混合ガス入口610aおよび未透過ガス出口610bは、キャップ612、613の中心部(キャップ正面方向から見て中心部)に形成されていてもよい。
【0020】
図1、図2に示すように、本実施形態のガス分離膜モジュール601においては中空糸束615の外周にフィルム部材631が巻かれている。フィルム部材631は、その一方の端部631aが管板622に実質的に当接し、他方の端部631bが管板621から所定の距離だけ離れるように配置されている。図1において、フィルム部材631によって覆われていない中空糸束615の領域は符号A1(露出部分)で示されている。フィルム部材631は、中空糸束の外表面の50%〜95%、好ましくは75%〜92%を覆うように構成されていてもよい。また、フィルム部材631は、両端部がそれぞれの管板に近接して中空糸束の外表面全体を覆い、管板621の近傍においてフィルム部材631に1つまたは複数の穴を開けるように構成されていてもよい。
【0021】
なお、フィルム部材の端部が「実質的に当接する」とは、(i)フィルム端部が管板に完全に当接している場合と、(ii)例えば製造上の都合等により、フィルム端部と管板との間に僅かな隙間が生じた状態でフィルム端部が管板に近接している場合との両方を意図する。一方で、管板がエポキシ樹脂などの場合、フィルム端部が管板内に入り込んでいると(例えば、フィルム端部を管板に埋設させて管板を硬化させた場合など)、その部分を起点として管板が割れたり損傷が生じたりするおそれがある。そのため、フィルム端部が管板内部に入り込まないように構成されていることが好ましい。
【0022】
フィルム部材631は、実質的にガス不透過性の材質であればいかなるものであってもよい。なお、「実質的にガス不透過性」とは、フィルム部材631のガス透過が充分に小さく、ガスの流路を規制できる事を意味する。例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等のプラスチックフィルムであってもよい。中でもポリイミドは、耐熱性、耐溶剤性、加工性の点で好ましい。プラスチックフィルムの他にも、アルミニウムやステンレス等の金属箔であってもよい。フィルムの厚みは、数十μm〜数mmの範囲内であってもよい。フィルム部材631は、一枚のフィルムの側縁どうしを固着することで筒状に形成されたものであってもよいし、または、継ぎ目のない筒状部材を使用してもよい。フィルムどうしを固着する手段としては、例えば接着剤、テープ等を利用することができる。
【0023】
仮にフィルム部材631が配置されていない場合、図2の矢印f3に示すように中空糸膜614からの透過ガスの進行方向は十字流方向(すなわち、中空糸膜614と交差する方向)となる。一方、本実施形態のように中空糸束615にフィルム部材631が巻かれている場合、透過ガスの散逸が防止され、透過ガスは矢印f2に示すように混合ガスの供給方向f1に対して向流となる方向に流れることとなる。
【0024】
上述のように構成された本実施形態の分離膜モジュールの使用方法の一例を以下に説明する。なお、本実施形態のモジュールの使用方法は下記に限定されるものではない。
【0025】
まず、混合ガスを混合ガス入口610aからケーシング610内の混合ガス空間619aに導入する。導入されたその混合ガスは、管板621の端面から各中空糸膜614内に入り込み、その内部を下流側に向かって移動する。このときに、中空糸膜614内の圧力が密閉空間618の圧力より高いことが好ましく、例えば、混合ガスを0.01MPaG〜10MPaGの圧力で供給すること、密閉空間618を減圧状態にすることなどが好適である。この際、混合ガスの一部が中空糸膜614を選択的に透過し、中空糸膜614外の密閉空間618へと送出される。一方、未透過のガスはそのまま中空糸膜614内を下流側に向かって流れ、下流側の端面から中空糸膜614外の未透過ガス空間619bへと送出される。
【0026】
中空糸膜614を透過したガスは、ケーシング610内の密閉空間618内に導入され
る。図2に示すように、特にフィルム部材631が巻かれた領域では、フィルム部材631の作用により透過ガスの散逸が防止され、透過ガスは、混合ガスの供給方向f1とは逆向きの矢印f2方向に流れる。次いで、透過ガスは、透過ガス出口610c(図1参照)を介してケーシング610の外部へと排出される。未透過のガスは中空糸膜614の下流側端部から送出された後、未透過ガス出口610bを介して外部へと排出される。
【0027】
以上説明した本実施形態の分離膜モジュール601によれば、フィルム部材631によって透過ガスの散逸が防止されるとともに、透過ガスは混合ガス供給方向に対して向流方向に流れることとなるため、ガスの分離効率の向上を図ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、フィルム部材が巻かれている場合と巻かれていない場合のガス分離膜モジュールの応答についてシミュレーションした結果を示す。表1は、モジュールの応答を示しており、「型式A(十字流)」はフィルム部材が巻かれていないものであり、「型式B(向流)」はフィルム部材が巻かれたものである。温度はt=25℃、混合ガスの供給圧力はPF=0.7MPaGとして計算した。なお、ここでは、混合ガスとして空気を供給し、窒素富化空気を製品として得る分離膜モジュールについてシミュレーションした。この窒素富化空気は、中空糸膜内を通ってその下流側端部から排出された未透過ガスとして取り出される。表中の供給圧力および供給流量は、それぞれ混合ガスである空気の供給圧力及び流量を、製品濃度および製品流量は、それぞれ未透過ガスとして得られる製品の窒素富化空気の窒素濃度及び流量を、回収率は、供給した混合ガスのうち、製品の未透過ガスとして得られた割合((製品流量/供給流量)*100)を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示す通り、同じ供給流量FFでは(ケース1、2を参照)、フィルム部材が巻かれたケース2のものの方が製品濃度XRを高くできる。一方、同じ製品濃度XRでは(ケース1、3を参照)、フィルム部材が巻かれたケース3のものの方が製品流量FRおよび回収率を高くできる。すなわち、これらの結果から、フィルム部材を巻くことがガス分離の効率化に有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0031】
601 ガス分離膜モジュール
610 ケーシング
610a 混合ガス入口
610b 未透過ガス出口
610c 透過ガス出口
611 筒状部材
612、613 キャップ
614 中空糸膜
615 中空糸束
618 密封空間
619a 混合ガス空間
619b 未透過ガス空間
621、622 管板
631 フィルム部材
631a、631b 端部
A1 露出部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分離性能を有する多数の中空糸膜が集束された中空糸束と、
混合ガス入口、透過ガス出口、および未透過ガス出口を有し、前記中空糸束が内部に配置されるケーシングと、
前記中空糸束の両端部を固定する2つの管板と、を備え、
前記混合ガス入口から導入された混合ガスを前記中空糸膜内に供給し、その混合ガスの一部を透過させることでガス分離を行う分離膜モジュールであって、
(i)前記中空糸膜を透過した透過ガスを排出するためのパージガスを供給するための構造は設けられておらず、
(ii)前記中空糸束の外周面に巻き付けられたガス不透過性のフィルム部材であって、その一方の端部が混合ガス供給方向下流側の前記管板に実質的に当接し他方の端部が混合ガス供給方向上流側の前記管板から離れるように配置されているフィルム部材を、さらに備える、ガス分離膜モジュール。
【請求項2】
フィルム部材の前記一方の端部が前記管板の内部に入り込まないように構成されている、請求項1に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項3】
前記透過ガス出口が、
前記フィルム部材が存在しない前記中空糸束の露出部分を囲む前記ケーシングの一部に設けられている、請求項1または2に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項4】
前記フィルム部材が、一方の前記管板から他方の管板までの領域において、前記中空糸束の外表面の50%〜95%を覆うように構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離膜モジュール。
【請求項5】
前記フィルム部材の材質がポリイミドである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分離膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66849(P2013−66849A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207538(P2011−207538)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】