説明

ガソリン組成物

【課題】清浄剤を添加することなしに、吸気系デポジットおよび燃焼室デポジット、特に吸気系デポジットの生成の抑制可能なガソリン組成物およびガソリン組成物の吸気系デポジットの生成抑制性能の判定方法を提供する。
【解決手段】10容量%留出温度が38〜70℃、50容量%留出温度が75〜110℃、および90容量%留出温度が130〜180℃であり、ガソリン組成物全質量基準で芳香族分含有量が、30〜65質量%オレフィン分含有量が5〜25質量%であり、かつ次の式(1);デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A]≦30を満たしてなることを特徴とするガソリン組成物、並びに前記の式(1)を用いてガソリン組成物の吸気系デポジットの生成抑制性能を予測することを特徴とする吸気系デポジットの判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン組成物に関するものであり、さらに詳しくは、燃焼室デポジットおよび吸気系デポジット、特に吸気系デポジットの生成の抑制可能なガソリン組成物、該ガソリン組成物の製造方法、ガソリン組成物の前記デポジットの生成抑制方法およびガソリン組成物の燃焼室デポジットおよび吸気系デポジット、特に吸気系デポジットの生成抑制性能の判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸気系デポジットおよび燃焼室デポジットは、内燃機関の吸気管内および燃焼室内に付着し、経時的に堆積するガソリン燃料中の不安定成分等に由来する堆積成分であり、吸気系デポジットについては、吸気ポートデポジット(IPD)および吸気バルブデポジット(IVD)、その他吸気管内に堆積されるデポジットが対象とされる。
【0003】
近年、環境保全対策として、要求される燃費規制に対応するため、内燃機関として筒内直接噴射エンジン(DISI)が有望手段の一つとしてその採用が注目されているが、かかる筒内直接噴射エンジンによれば、燃料を吸気管内に供給せずに燃焼室に直接噴射する構造であることから、従来の吸気管内噴射エンジン(PFI)のように、吸気管内に付着された吸気系デポジットを燃料中に配合された清浄剤により洗浄することができないという問題がある。
【0004】
従って、筒内直接噴射エンジンでは、運転時間の経過に伴って、吸気系デポジットの堆積量が増加し、しかも除去できないので、吸気管の閉塞等の問題が生ずるおそれも指摘されている。
【0005】
かかる状況下において、従来、主として吸気管内噴射エンジン(PFI)を対象にし、吸気系デポジット、燃焼室デポジットの堆積の低減を目的として、例えば、ポリイソブチレンアミン(特開2003−301186号公報、特開2000−282070号公報(以下、それぞれ「特許文献1」および「特許文献2」という。)、モノエチレン系不飽和ジカルボン酸のポリアルケニル誘導体(特開平6−172763号公報(以下、「特許文献3」という。)、4−ビニルピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−ホルミルピペリジン、スルホラン等のアルキルピリジン混合物、官能化ポリマー清浄剤(特表2000−507633号公報(以下、「特許文献4」という。)等をガソリン燃料に前記デポジット生成抑制にとって必要量配合することが提案されている。
【0006】
しかし、かかる清浄剤をガソリン燃料の組成および性状に応じて最適量を配合することは容易ではなく、現実には燃料の性状の相違に拘らずプレミアムガソリンに対して一律に一定量配合されているので、過不足状態が生じ、必ずしも適正量が配合されていないという状況にある。
【0007】
また、清浄剤の作用は、初期に生成したデポジットを洗い落とすことにより清浄化を図るものとされているが、筒内直接噴射エンジンの吸気系デポジットは、液体のガソリンと接触しないことから、清浄剤によるデポジットの清浄効果は期待できないことは前記の通りである。
【0008】
従って、清浄剤等の添加剤の配合に依らずにガソリンの組成、成分および性状等を制御することにより、前記の筒内直接噴射エンジンに使用可能であるとするガソリン組成物が提案されている。例えば、特開2006−182981号公報(以下、「特許文献5」という。)には、直噴エンジンは、インジェクターノズルの汚損が起きやすいことに鑑み、かかる汚損を低減させるために燃料の90%留出温度を150〜170℃に上昇させ重質化する一方で、芳香族炭化水素化合物の含有量を45容量%以下とし、かつ含酸素化合物を含有させ、さらに、留出温度と酸素含有量、芳香族炭化水素の成分構成およびイソパラフィンの生成構成に関する三種の数式を満たすガソリン組成物が記載されている。
【0009】
しかし、かかる特許文献5には、ガソリン組成物の芳香族炭化水素化合物成分としてC以上のもの全体が記載されているが、炭素数毎の分布が開示されておらず、また、直噴ガソリンエンジンのインジェクター汚損を防止することについては開示されているが、吸気系デポジットの生成抑制については示唆もされていない。
【0010】
また、特開平11−106763号公報(以下、「特許文献6」という。)によれば、炭素数1〜15のメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)の如き含酸素化合物を無鉛ガソリンに配合してなる筒内直接噴射式ガソリンエンジン用無鉛ガソリンが記載されている。そして、前記含酸素化合物を配合した無鉛ガソリンを筒内直接噴射エンジンの燃料として使用することにより、通常は、成層燃焼時に燃料が過濃な領域から発生するスモーク排出量を低減することができ、さらに点火プラグのくすぶりや燃焼室のデポジットの生成を抑制できると記載されている。
【0011】
しかし、特許文献6に記載の含酸素化合物含有無鉛ガソリンを直接噴射ガソリンエンジンに使用した場合にも、吸気系デポジットの生成が抑制されるようなことについては開示されていない。
【0012】
さらに、特開2008−174682号公報(以下、「特許文献7」という。)によれば、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンと2,4,4−トリメチル−2−ペンテンとを総和で0.3〜10容量%含有させることにより、吸気バルブへのデポジットに関し問題のある芳香族分を増加させることなく、ガソリンのオクタン価の向上と吸気バルブの清浄性の向上が可能なガソリン組成物が記載されている。
【0013】
以上の通り、前記の先行技術には、前記の組成、成分および性状等を調整することにより清浄性を改善したガソリン組成物の提案によっても燃焼室デポジットの低減については開示されているものの、吸気系デポジットを低減することまでは開示されていない。
【0014】
また、前記の提案のなかにも全芳香族炭化水素化合物濃度、重質芳香族炭化水素化合物、例えばC芳香族炭化水素化合物成分の含有量を制御してデポジットの生成を抑制することが開示されているが、C芳香族全体を対象としており、各炭素数毎のそれぞれの芳香族濃度の分布については開示がないことから、吸気系デポジットの生成抑制にとって有効適正な芳香族濃度の分布が切望されてきた。
【特許文献1】特開2003−301186号公報
【特許文献2】特開2000−282070号公報
【特許文献3】特開平6−172763号公報
【特許文献4】特表2000−507633号公報
【特許文献5】特開2006−182981号公報
【特許文献6】特開平11−106763号公報
【特許文献7】特開2008−174682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の課題は、前記の如き従来の開発状況に鑑み、清浄剤を用いなくとも、組成、成分および性状を調整することにより、清浄性に優れたガソリン組成物であって、吸気系デポジットまたは燃焼室デポジットおよび両者のデポジット、特に吸気系デポジットの生成が抑制または低減されたガソリン組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明の課題は、ガソリン組成物の吸気系デポジットまたは燃焼室デポジットおよび両者のデポジット、特に吸気系デポジットに対する清浄性能、すなわちデポジット生成抑制性能の判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明者らは、前記の本発明の課題を解決するため、鋭意検討を重ね多数の実験を繰り返したところ、吸気系デポジットの堆積量とガソリン組成物中の炭素数別芳香族炭化水素化合物の質量比率との間に高い相関があることを見い出し、特に、芳香族炭化水素化合物の全含有量が30〜65質量%であり、そのうちの8〜12の各炭素数毎の芳香族炭化水素化合物の含有量が下記の通り
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦30
を満たすように特定の割合に分布し、さらに不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が特定の範囲にある条件下において吸気系デポジットの生成が顕著に抑制されることに着目し、かかる知見に基いて本発明に想到した。
【0018】
かくして、本発明によれば、
10容量%留出温度が38〜70℃、50容量%留出温度が75〜110℃、および90容量%留出温度が130〜180℃であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が5〜25質量%であるガソリン組成物であって、
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦30 ・・・(1)
(ここで、式中、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わし、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わす。)
を満たしてなることを特徴とするガソリン組成物
が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、
10容量%留出温度が38〜70℃、50容量%留出温度が75〜110℃、および90容量%留出温度が130〜180℃であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質量%であり、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が5〜25質量%であるガソリン組成物の吸気系デポジットの生成抑制性能を判定する方法であって、
次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol ・・・(1−1)
(ここで、式中、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わし、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わす。)
により算出される値を基準値30と対比して、その大小によりデポジット生成抑制性能を予測することを特徴とするガソリン組成物のデポジット生成抑制性能の判定方法
が提供される。
【0020】
本発明は、前記の通り、主として、ガソリン組成物およびガソリン組成物のデポジットの生成抑制性能の判定方法を提供するものであるが、かかる発明のさらに好ましい実施形態として次の1)〜13)を包含する。
1)前記蒸留性状において、10容量%留出温度が42〜55℃である前記ガソリン組成物。
2)前記蒸留試験において50容量%留出温度が85〜100℃である前記ガソリン組成物。
3)前記蒸留試験において90容量%留出温度が145〜165℃である前記ガソリン組成物。
4)前記芳香族炭化水素化合物の含有量が、前記ガソリン組成物の全質量基準で33〜60質量%である前記ガソリン組成物。
5)前記不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が、前記ガソリン組成物の全質量基準で8〜22質量%である前記ガソリン組成物。
6)リサーチ法オクタン価が89以上である前記ガソリン組成物。
7)蒸気圧が、37.8℃において44〜78kPaである前記ガソリン組成物。
8)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が42〜55℃、
50容量%留出温度が85〜100℃、
90容量%留出温度が145〜165℃、
であり、
ガソリン組成物の全質量基準で芳香族炭化水素化合物の含有量が33〜60質 量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量8〜22質量%であり、かつ、
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦30
(ここで式中(CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)であり、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)である。)
を満たしてなる前記ガソリン組成物。
9)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が38〜70℃、
50容量%留出温度が75〜110℃、
90容量%留出温度が130〜180℃、
であり、
ガソリン組成物の全質量基準で芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質 量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量5〜25質量%であり、かつ、
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦20
(ここで式中(CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)であり、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)である。)
を満たしてなる前記ガソリン組成物。
10)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が42〜55℃、
50容量%留出温度が85〜100℃、
90容量%留出温度が145〜165℃、
であり、
ガソリン組成物の全質量基準で芳香族炭化水素化合物の含有量が33〜60質 量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量8〜22質量%であり、かつ、
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦20
(ここで式中(CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)であり、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)である。)
を満たしてなる前記ガソリン組成物。
11)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が42〜55℃、
50容量%留出温度が85〜100℃、
90容量%留出温度が145〜165℃、
であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が33〜60質量% であり、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量8〜22質量%であるガソリン組成物 のデポジット生成抑制性能を判定する方法であって、
次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol
により算出される値を基準値30と対比して、その大小によりデポジット生成抑制性能を予測することからなる前記ガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法。
12)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が38〜70℃、
50容量%留出温度が75〜110℃、
90容量%留出温度が130〜180℃、
であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質量% であり、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量5〜25質量%であるガソリン組成物 のデポジット生成抑制性能を判定する方法であって、
次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol
により算出される値を基準値20と対比して、その大小によりデポジット生成抑制性能を予測することからなる前記ガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法。
13)前記蒸留試験において、
10容量%留出温度が42〜55℃、
50容量%留出温度が85〜100℃、
90容量%留出温度が145〜165℃、
であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が33〜65質量% であり、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量8〜22質量%であるガソリン組成物 のデポジット生成抑制性能を判定する方法であって、
次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol
により算出される値を基準値20と対比して、その大小によりデポジット生成抑制性 能を予測することからなる前記ガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法。
【0021】
かかる判定方法において、吸気系デポジットの堆積量の増加が許容される場合または、堆積量を厳しく制御する必要がある場合により、これらを達成するため、基準値を任意に設定することができる。
【0022】
また、本発明によれば、前記式(1―1)のデポジットパラメータを用いることにより、後述の図1に示す吸気系デポジットの堆積量とガソリン組成物中の炭素別芳香族炭化水素化合物との相関関係を利用し、吸気系デポジットの堆積量を調整したガソリン組成物の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるガソリン組成物は、前記の通りの構成により、吸気系デポジットおよび燃焼室内デポジット、特に吸気系デポジットの生成抑制性能において、著しく顕著な効果を奏する。また、式(1)は、吸気系デポジットの堆積量とガソリン組成物中の炭素別芳香族炭化水素化合物の質量比率との間の高い相関に基くものであるため、式(1)のデポジットパラメータの数値により吸気系デポジット量を予測することができるので、式(1)を用いることにより、比較的簡便な方法で吸気系デポジットの生成抑制性能を判定することができ、清浄剤の不要なガソリン組成物を提供することができる。さらに、比較的簡便な方法でデポジット生成抑制性能を判定できるので清浄剤の適切な添加量を把握することができ、デポジットの生成抑制性能に優れたガソリン組成物を供給することができる。
【0024】
特に、エネルギー効率の改善が期待され、将来的な普及が期待される塔内直接噴射エンジンに有効なガソリン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
先ず、本発明の説明において、「吸気系デポジット」は、特にことわりがない限り、吸気機構に設けられた吸気バルブ、吸気ポート、その他の吸気管内に堆積されるデポジットを称するものである。
【0027】
本発明に係るガソリン組成物は、蒸留試験(JIS K 2254)において、下記の蒸留性状を満たすことが好ましい。
【0028】
10容量%留出温度(T10degC) 38〜70℃
50容量%留出温度(T50degC) 75〜110℃
90容量%留出温度T90degC) 130〜180℃
前記の如く、10容量%留出温度(T10degC)の下限値は38℃であり、好ましくは40℃、さら好ましくは42℃である。一方、上限値は70℃であり、好ましくは60℃であり、さら好ましくは55℃である。10容量%留出温度(T10degC)が38℃に達しないと蒸発量が多くなる問題があり、10容量%留出温度(T10degC)が70℃を超えると低温始動性に難点が生ずるおそれが生ずる。
【0029】
50容量%留出温度(T50degC)の下限値は75℃であり、好ましくは80℃であり、さら好ましくは85℃である。一方、上限値は110℃であり、好ましくは105℃、さら好ましくは100℃である。下限値が75℃に達しないと燃費の悪化や加速性に支障が生ずるおそれがあり、上限値を超えると常温運転性に不具合が生じるおそれがある。
【0030】
また、90容量%留出温度(T90degC)の下限値は130℃であり、好ましくは140℃である。一方、上限値は180℃であり、好ましくは175℃、さらに好ましくは165℃である。90容量%留出温度(T90deg)Cが180℃を超えるとエンジンオイルの劣化や常温運転性に支障が生ずるおそれがある。
【0031】
次に、本発明に係るガソリン組成物の芳香族炭化水素化合物は、一環または多環のものであり、側鎖を有するものでもよい。また、本発明の効果を阻害するものでなければ、炭化水素構成成分以外の成分を含有するものでもよい。
【0032】
かかる芳香族炭化水素化合物の含有量は、ガソリン組成物の全質量基準で30〜65質量%であり、好ましくは33〜60質量%、さらに好ましくは35〜45質量%である。芳香族炭化水素化合物の含有量が30質量%に満たないと、適正なオクタン価の維持が難しく、一方、65質量%を超えると、前記式(1)を満たすことが困難となり、吸気系デポジットの生成抑制効果が低減する。
【0033】
本発明に係るガソリン組成物の不飽和脂肪族炭化水素化合物としては、オレフィン系炭化水素が好ましいが、炭化水素構成成分以外の成分を含有したものでもよい。
【0034】
かかる不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量は、ガソリン組成物の全質量基準で5〜25質量%であり、好ましくは8〜22質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が5質量%に満たないと、適正なオクタン価の維持が困難となり、一方、25質量%を超えると、前記式(1)を満たすことが困難となり、吸気系デポジットの生成抑制効果が低減する。
【0035】
また、本発明に係るガソリン組成物には飽和炭化水素化合物が含有し、かかる含有量には制限はないが、飽和分は30〜65質量%、好ましくは35〜45質量%である。飽和分は、燃焼室デポジット(CCD)の生成を抑制する作用を有するものと指摘されている。
【0036】
また、本発明に係るガソリン組成物の芳香族炭化水素化合物の各成分の含有量は、それぞれ下記の範囲にあるものが好ましい。
【0037】
芳香族分の各成分は含有量において特定の分布を有するものであり、特にCA〜C12Aの各成分は、いずれも下記の範囲で含有することが重要である。
【0038】
A; 3〜30質量%
A; 3〜22質量%
A; 0〜18質量%
10A; 0〜7質量%
11A; 0〜3質量%
12A; 0〜1質量%
前記のCAは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数7の芳香族炭化水素化合物の含有量を示す。炭素数7の芳香族炭化水素化合物としては、トルエンを挙げることができる。本発明においては、CAが3〜30質量%、好ましくは8〜22質量%である。
【0039】
前記のCAは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数8の芳香族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明においては、3〜22質量%、好ましくは4〜18質量%である。炭素数8の芳香族炭化水素化合物には、キシレンおよびその置換異性体エチルベンゼン等が含まれる。また、前記のCAは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数9の芳香族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明においては、前記の通り、0〜18質量%であり、好ましくは0〜10質量%である。炭素数9の芳香族炭化水素化合物には、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、エチルメチルベンゼン、トリメチルベンゼン等が含まれる。
【0040】
前記C10Aは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数10の芳香族炭化水素化合物の含有量を示し、本発明において、0〜7質量%、好ましくは0〜5質量%である。炭素数10の芳香族炭化水素化合物には、ジエチルメチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が含まれる。
【0041】
前記C11Aは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数11の芳香族炭化水素化合物の含有量であり、本発明において、0〜3質量%であり、好ましくは0〜2質量%である。なお、炭素数11の芳香族炭化水素化合物には、ジエチルメチルベンゼン、トリメチルジエチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン等が含まれる。
【0042】
前記C12Aは、ガソリン組成物全質量基準の炭素数12の芳香族炭化水素化合物の含有量を示すものであり、0〜1.0質量%であり、好ましくは0〜0.3質量%である。炭素数12の芳香族炭化水素化合物には、トリエチルベンゼン、ジエチルジメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン等が含まれる。
【0043】
次に、本発明に係るガソリン組成物の特定およびガソリン組成物の吸気系デポジットの生成抑制性能の判定に用いられる式(1)によるデポジットパラメータについて説明する。
【0044】
式(1)は、下記の通り表わすことができる。
【0045】
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol)≦30
式(1)において、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表示したものであり、Olは不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表示したものである。ガソリン組成物中の炭素数8〜12の各芳香族炭化水素化合物のそれぞれの含有量および不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量の広範囲に亘って、多数の実験を繰り返して得られた結果から芳香族炭化水素化合物については、前記の多数のデータ解析から全芳香族分中、炭素数8〜12の芳香族炭化水素化合物の質量比率および不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量の合計量と吸気系デポジットの堆積量との間に高い相関があることに着目し、かかる知見に基いて、式(1)を経験的に導いたものである。
【0046】
多数の実験のうち、代表例として後述の実施例および比較例の結果を図1に示す。図1は、縦軸に吸気系デポジットIPD実測値をとり、横軸にパラメータIPDの値をとって、IPD実測値とパラメータIPDの値との関係を示したものである。
【0047】
図1によれば、パラメータIPDの値が小さくなるに従い、吸気系デポジットIPD実測値が低下することが示されており、パラメータIPDの値が30以下において吸気系デポジットIPD実測値が実用上有効な低水準を維持していることから、式(1)のデポジットパラメータの基準値を30と決定したものである。
【0048】
従って、式(1)において、デポジットパラメータの結果が20以下の場合、さらに15以下の場合、燃焼室デポジットおよび吸気系デポジット、特に吸気系デポジットの生成がさらに抑制されたガソリン組成物を提供することができる。
【0049】
本発明に係るガソリン組成物は、JIS K 2203により規定された自動車ガソリンのJIS規格の1号および2号共に合格するものであり、基本的な性能として、リサーチ法オクタン価(RON)が89以上であり、好ましくは90以上、さらに好ましくは91以上である。
【0050】
また、高速走行中のアンチノッキング性を発揮するためにモーター法オクタン価(MON)が79以上、好ましくは80以上、さらに好ましくは81以上である。なお、本発明に係るガソリン組成物は、四エチル鉛等のアルキル鉛化合物を含有しない無鉛ガソリンである。
【0051】
後述するように、混合用ガソリン基材として流動接触分解装置から採取される分解生成物の一部として流動接触分解ナフサおよびその軽質留分である軽質流動接触分解ナフサおよび重質接触改質ナフサ等の組み合せを用い、さらに、各種ガソリン基材、例えば、軽質および重質アルキレート、トルエン、オルトキシレン等を組み合せることにより、四エチル鉛等のオクタン価向上剤を使用することなく、無鉛ガソリンを製造することができる。
【0052】
また、本発明に係るガソリン組成物の蒸気圧については特に制限されるものではないが、37.8℃において、RVPが44〜78KPaであり、好ましくは70KPa以下、さらに好ましくは65KPa以下である。
【0053】
さらに、ガソリン組成物としては揮発性が適当でないと、運転性に種々の不具合が生ずるおそれが大きくなる。
【0054】
本発明に係るガソリン組成物の密度(15℃)については特に制限されないが、0.70〜0.78g/cmであり、好ましくは0.710〜0.77g/cmである。下限値が0.70g/cmに満たないと燃費が悪化するおそれがあり、一方、0.77g/cmを超えると加速性が悪化するおそれがある。
【0055】
本発明に係るガソリン組成物の洗浄実在ガムは、5mg/100ml以下であり、好ましくは2mg/100ml以下である。洗浄実在ガム量が5mg/100mlを超えると給気系統内に析出物が析出し、また吸入弁が膠着するおそれがある。
【0056】
本発明に係るガソリン組成物の硫黄分含有量は特に制限されないが、ガソリン組成物全質量基準で0.001質量%以下、好ましくは0.0009質量%以下である。硫黄分含有量が0.001質量%を超えると排出ガス処理触媒の性能を阻害し、排出ガス中のNO,CO,HCの濃度が高くなるおそれがある。
【0057】
本発明に係るガソリン組成物は、通常、採用されている任意の方法で製造することができる。ガソリン組成物の製造において用いられるガソリン基材としては、例えば、原油の常圧蒸留装置により得られる直留軽質ナフサ、流動接触分解装置、水素化分解装置等により得られる接触分解ナフサ、水素化分解ナフサ、接触改質装置により得られる改質ナフサ、イソブタン等の炭化水素と低級オレフィンとの付加反応により得られるアルキレート、軽質ナフサを異性化装置でイソパラフィンに転化して得られる異性化ナフサ等を挙げることができる。また、他にトルエン、キシレン、などを利用することもできる。
具体的な配合例を挙げると下記の通りである。沸点範囲等については実施例で例示する。
A.流動接触分解ナフサ 10〜70容量%
B.流動接触分解ナフサの軽質留分 0〜30容量%
C.接触改質ナフサ 10〜50容量%
D.接触改質ナフサの重質留分(沸点範囲160〜190℃) 0〜25容量%
E.軽質直留ライトナフサ 10〜50容量%
F.アルキレート 0〜15容量%
G.異性化ナフサ 0〜10容量%
H.ブタン・ブテン 0〜5容量%
前記A〜Hの各ガソリン基材を任意に組み合わせることにより、前記の所望の性状を有するガソリン組成物を製造することができる。
【0058】
また、本発明に係るガソリン組成物については、前記の各種性状および式(1)を満たすことにより、後述の実施例等でも示すように吸気系デポジットの堆積が抑制されるので清浄剤の配合を必要とするものではないが、特殊な場合において、式(1)の値が基準値30を超えるときには、清浄剤を有効量配合することにより燃焼室デポジットおよび吸気系デポジットの生成の抑制可能なガソリン組成物を提供することができる。
【0059】
かかる清浄剤としては、特に制限されるものではなく、従来、公知のものまたは市販され、現に使用されているものを使用して差し支えがないが、具体的には、例えば、前記のポリイソブテニルアミン系化合物、コハク酸イミド系化合物、ポリアルキルアミン系化合物、ヒドロキシルアミン系化合物、ポリエーテルアミン系化合物等を配合することが好ましい。
【0060】
ポリエーテルアミン系化合物としては、次の化学式1で表される化合物を挙げることができる。
【0061】

R−O(AO)m−(CNH)n−H ・・・・ 1

式中、Rは炭素数10〜50の炭化水素残基であり、Aは炭素数2〜6のアルキレン基であり、mは1〜3の整数であり、nは10〜50の整数である。
【0062】
ヒドロキシルアミン系化合物としては、次の化学式2で表される化合物を挙げることができる。

【0063】
式中、Rはメチレン基または炭素数2〜3のアルキレン基であり、A,A,AおよびAは炭素数2〜4のアルキレン基であって、これらの少なくとも一種はプロピレン基を含み、n,m,pおよびqはそれぞれ正の整数であり、かつn+m+p+qは4〜200である。
【0064】
ポリオキシアルキレングリコール系化合物としては、次の化学式(3)で表わされ、平均分子量500〜5000のポリオキシアルキレングリコールを主成分とするものを挙げることができる。
【0065】

HO(AO)n−H ・・・・ 3

式中、Aはエチレン基およびプロピレン基の混合アルキレン基であり、nは正の整数である。また、ポリオキシアルキレン中のオキシプロピレン基の含有量が、該ポリオキシアルキレングリコールの質量を基準として50質量%以上であることが好ましい。
【0066】
清浄剤の配合量としては、前記式(1)のデポジットパラメータの値の大きさに応じて適宜決定することができ、限定されるものではないが、通常、0.3質量%以下、好ましくは、0.1質量%以下の範囲で採用することができる。
【0067】
また、本発明に係るガソリン組成物には、本発明に係るガソリン組成物の性能を阻害しない範囲において、必要に応じてその他の燃料油添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、表面着火防止剤、氷結防止剤、助燃剤、帯電防止剤、防錆剤等を配合することができる。
【0068】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、特にヒンタードフェノール系化合物、例えば2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2.2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等を挙げることができる。また、アミン系化合物として、例えば、フエニル−α−ナフチルアミン等を用いることができる。これらの化合物は、0〜0.05質量%の範囲で用いることができる。
【0069】
金属不活性化剤としては、N,N’−サリチリデンジアミノプロパン等のサリチリデン誘導体、シッフ型化合物、チオアミド型化合物等を挙げることができる。
【0070】
また、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート等の有機リン系化合物などの表面着火防止剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤または両性界面活性剤等の帯電防止剤、脂肪酸アミン塩、スルホン酸塩、アルキルアミンリン酸塩等の腐食防止剤、アゾ染料などの着色剤等を挙げることができる。
【0071】
これらの添加剤の配合量は、特に限定されるものではないが、合計量が、通常ガソリン組成物全質量を基準として、0.5質量%以下、特に、0.1質量%以下に調整することが好ましい。
【0072】
さらに、本発明に係るガソリン組成物は自動車用燃料として、その性能を損なわない限りにおいて、含酸素化合物を配合することができる。例えば、メタノール、エタノール、メチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル等を挙げることができる。含酸素化合物の配合量は、ガソリン組成物の全質量を基準として、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0073】
次に、本発明に係るガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法について説明する。
【0074】
ガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法は、ガソリン組成物試料について測定した次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol ・・・(1−1)
(ここで、式中、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%を示す。)により算出されたデポジットパラメータ値を基準値30と対比して、その大小により吸気系デポジット生成抑制性能を評価するものである。
【0075】
具体的には、次の手順により評価することができる。
1)判定の対象とされるガソリン組成物試料を用意する。
かかる試料は、JIS K2203に規定された自動車ガソリンの規格に適合す るものであり、10容量%留出温度;38〜70℃、50容量%留出温度;75〜110℃、90容量%留出温度;130〜180℃であり、芳香族炭化水素化合物含有量30〜65質量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量5〜25質量%のガソリン組成物を対象とされるが、混合用基材としての各ベース燃料単独のものでも、吸気系デポジット生成抑制性能の評価のために、測定の対象とすることができる。
2)次に、式(1−1)中のCχAの分析を行なう。分析は、前記のガソリン組成物の成分分析において使用するガスクロマトグラフィー等の分析手段を利用して実施することができる。
かかる分析は、各試料についてバッチ式または、自動化装置のいずれかの手段によっても可能である。
3)分析の結果、算出された式(1−1)のデポジットパラメータ値を基準値30と対比し、その大小により評価する。
4)さらに吸気系デポジットの堆積量を低減させた高性能品質のガソリン組成物を求める場合には、基準値20、さらに好ましくは15と対比する。
【0076】
以上の手順により、ガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能を効率よく判定することができ、清浄剤の配合の必要性およびその配合量について重要な情報を確保することができる。
【0077】
次に、本明細書で記載したガソリン混合基材およびガソリン組成物の各性状の測定方法については、下記に示す通りのものである。
【0078】
蒸気圧;JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リード法)」
オクタン価;JIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」
蒸留性状;JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」
密度;JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」
炭化水素成分濃度;JIS K 2536−2「石油製品−ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」
実在ガム;JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航空燃料油−実在ガム試験方法」
硫黄分;JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例により本発明について具体的に説明する。もっとも、本発明は実施例等により限定されるものではない。
なお、混合基材の種類およびデポジット生成抑制性能の評価方法については下記の通りである。
1.混合用ガソリン基材
混合用ガソリン基材としては下記に記載の各種留分を使用した。芳香族類の影響を明確に確認できるように重質接触改質ナフサを更に分留して使用した。
ブタン・ブテン(BB)
流動接触分解ナフサ(FCN) 30〜210℃
脱硫流動接触分解ナフサ(FCN−T) 30〜210℃
流動接触分解ナフサの軽質留分(LFCN) 30〜140℃
脱硫直留ライトナフサ(LN−T) 50〜140℃
軽質アルキレート(LAK) 30〜140℃
重質アルキレート(HAK) 110〜210℃
トルエン(TOL)
オルトキシレン(O−X)
接触改質ナフサの重質留分A(HFN-A) 160〜190℃
接触改質ナフサの重質留分B(HFN-B) 180〜210℃
軽質灯油(L−Kero) 150〜210℃
2.デポジット生成抑制性能の評価方法
デポジット生成抑制性能、すなわち、清浄性の評価については、次の試験方法を採用した。試験方法としては、次の条件でエンジンを運転した後のエンジンを停止し、各気筒のフロント側吸気系ポートにボトル/ナットを使用して取り付けたテストピースを取り出し、テストピース上に析出したデポジットの厚みを測定した。デポジット厚みの測定は、吸気バルブに最も近く、デポジットが厚く付着しているテストピースの先端中央付近で行なった。
(1)エンジン諸元
Engine Type 4 Stroke DISI
Bore × Stroke (mm) 86.0×86.0
Displacement (mL) 1998
Compression Ratio 9.8
Max. Output (KW-rpm) 112−6000
Valve Timing Variable
Injection Nozzle Slit Nozzle
(2)アキュムレーション運転条件
Speed (rpm) 3,000
Torque-Load (kg・m-%) 4.2〜30%
Test Period (h) 6
Cooling Water Temp (℃) 85
Engin Oil Temp (℃) 90

実施例1
表1に示すように、脱硫流動接触分解ナフサ(FCN−T)28容量%、軽質流動接触分解ナフサ(LFCN)10容量%、脱硫直留ライトナフサ(LN−T)27容量%、
軽質アルキレート(LAK)14容量%、トルエン(TOL)12容量%、オルトキシレン(O−X)4容量%および重質接触改質ナフサB(HFN-B)5容量%を混合し、表2に示す蒸留性状および芳香族組成の試作ガソリンAを調製した。
試作ガソリンAの吸気系デポジットの生成抑制性能については吸気系ポートテストピース上に堆積したデポジットの厚みを前記方法で測定することにより評価した。
表2に示すように、吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は11.6μmであり、式(1)によるパラメータIPDの値は17.3であった。

実施例2
表1に示すように、脱硫流動接触分解ナフサ(FCN−T)25容量%、軽質流動接触分解ナフサ(LFCN)8容量%、脱硫直留ライトナフサ(LN−T)27容量%、軽質アルキレート(LAK)16容量%、トルエン(TOL)8容量%、重質接触改質ナフサA(HFN-A) 16容量%を混合し、試作ガソリンBを調製した。
試作ガソリンCの蒸留性状、芳香族分等の組成については表2に示す。
また、試作ガソリンCの吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は31.6μmであり、パラメータIPDの値は29.9であった。

実施例3
ブタン・ブテン(BB)9容量%、流動接触分解ナフサ(FCN)32容量%、脱硫直留ライトナフサ(LN−T)4容量%、軽質アルキレート(LAK)14容量%、トルエン(TOL)22容量%、オルトキシレン(O−X)11容量%、重質接触改質ナフサA(HFN-A)8容量%を混合し、試作ガソリンCを調製した。
試作ガソリンCの吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は26.6μmであり、パラメータIPDの値は25.4であった。

比較例1
流動接触分解ナフサ(FCN)のみを用いて試作ガソリンDを調製し、実施例1と同様にデポジット生成抑制性能を評価した。
試作ガソリンBの吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は61.5μmであり、パラメータIPDの値は58.3であった。

比較例2
ブタン・ブテン(BB)4容量%、軽質流動接触分解ナフサ(LFCN)18容量%、脱硫直留ライトナフサ(LN−T)10容量%、軽質アルキレート(LAK)16容量%、トルエン(TOL)12容量%、オルトキシレン(O−X)12容量%、重質接触改質ナフサA(HFN-A)15容量%、軽質灯油(L−Kero) 3容量%、重質アルキレート(HAK)10容量%を混合し、試作ガソリンEを調製した。
試作ガソリンEの吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は34.9μmであり、パラメータIPDの値は42.1であった。

比較例3
市販のプレミアムガソリンFについて、吸気系デポジットIPDの厚みとパラメータIPDの値を測定した。
プレミアムガソリンFの吸気系デポジットIPDの厚み(実測値)は41.5μmであり、パラメータIPDの値は35.2であった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
前記の実施例と比較例との対比の結果から、一般性状が共通のものであれば、炭素数8〜12の芳香族成分の含有量分布およびオレフィン分含有量を特定する式(1)を満たすことにより、清浄剤を用いることなしに吸気系デポジットIPD(実測値)が著しく低減したガソリン組成物を提供できることが示されている。また、パラメータIPDの値をコントロールすることにより、吸気系デポジットの堆積量を制御できることが示されている。
【0083】
一方、式(1)を満たさないガソリン組成物については、吸気系デポジットIPD(実測値)が改善されず著しく高い数値が示されている。図1によれば、式(1)によるパラメータIPDと吸気系デポジットIPD(実測値)との高い相関が示されており、パラメータIPDが小さいほど吸気系デポジットの堆積量を小さくすることができ、パラメータIPDが20以下では清浄剤を用いなくとも清浄性に優れたガソリン組成物を提供できることがわかる。
【0084】
また、比較例3は、プレミアムガソリンの市販品に関するものであり、式(1)のデポジットパラメータの値は基準値30を超え、吸気系デポジットの堆積量の実測値は41.5μmと大きい値が示されている。一方、比較例3の式(1)のデポジットパラメータは、図1の相関関係にも合致することが示されているので、各種の市販品についても式(1)により吸気系デポジットの生成抑制性能の判定が可能である。式(1)のデポジットパラメータ値を制御することにより、吸気系デポジット堆積量を任意にコントロールしたガソリン組成物を製造することもできる。 また、式(1)を用いることにより、吸気系デポジットの堆積量を調整したガソリン組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】吸気系ポートIPDの実測値とパラメータIPDの値との関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10容量%留出温度が38〜70℃、50容量%留出温度が75〜110℃、および90容量%留出温度が130〜180℃であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が5〜25質量%であるガソリン組成物であって、
次の式(1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol≦30 ・・・(1)
(ここで、式中、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わし、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わす。)
を満たしてなることを特徴とするガソリン組成物。
【請求項2】
前記式(1)で表されるデポジットパラメータの値が20以下である請求項1に記載のガソリン組成物。
【請求項3】
前記ガソリン組成物の用途が筒内直接噴射ガソリンエンジンの燃料である請求項1または2に記載のガソリン組成物。
【請求項4】
10容量%留出温度が38〜70℃、50容量%留出温度が75〜110℃、および90容量%留出温度が130〜180℃であり、
ガソリン組成物全質量基準で、芳香族炭化水素化合物の含有量が30〜65質量%、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量が5〜25質量%であるガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能を判定する方法であって、
次の式(1−1);
デポジットパラメータ=0.048(12×CA+16×CA+20×C10A+80×C11A+400×C12A)+ 0.63×Ol ・・・(1−1)
(ここで、式中、CχAは、炭素数χの芳香族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わし、Olは、不飽和脂肪族炭化水素化合物の含有量(質量%)を表わす。)
により算出される値を基準値30と対比して、その大小により吸気系デポジットの生成抑制性能を予測することを特徴とするガソリン組成物の吸気系デポジットの生成抑制性能の判定方法。
【請求項5】
前記式(1−1)で表されるデポジットパラメータの基準値が20である請求項4に記載のガソリン組成物の吸気系デポジット生成抑制性能の判定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201712(P2012−201712A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65118(P2011−65118)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)