説明

キノコの栽培方法

【課題】簡易かつ有効な殺菌工程を含キノコの栽培方法を提供する。
【解決手段】本発明のキノコの栽培方法は、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより培養基材を殺菌する工程を含む。高電圧放電の培養基材への印加は、高電圧用放電電極と対極電極との間に培養基材を介在させ、放電電極と前記対極電極との間に高電圧をかけてストリーマ放電や火花放電を発生させることにより行われる。このとき、高電圧放電距離を10kVにつき3〜20mmとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコの栽培方法に関し、より詳細には簡易迅速で有効な殺菌工程を含むキノコの人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、年間を通じて安定的に供給できる等の理由から、原木栽培に代えて菌床栽培が盛んである。菌床栽培は、木片、オガコ、コーンコブ、パルプ、紙等とコメヌカ、フスマ等の栄養剤を混合した培養基材に、シイタケ、ブナシメジ、エリンギ等のキノコの菌を植え付けたものをボトル、袋等の栽培容器に充填し、この栽培容器をハウス内で菌糸蔓延及び子実体発生に好適な条件下に置くことにより行われる。
【0003】
培養基材には、通常、カビ、細菌等の雑菌が付着している。これらの雑菌は、図8の(A)に示すようにキノコの成育条件で繁殖しやすく、植え付けたキノコの菌の増殖を妨げる。キノコの栽培時に雑菌の繁殖を抑えて所望のキノコを繁殖させるためには、培養基材を予め殺菌処理しおくことが極めて重要である。この殺菌処理には、非特許文献1に示すように、加熱型殺菌、照射型殺菌、殺菌薬品、殺菌ガス等が利用される。
【0004】
加熱型殺菌は、高圧又は常圧の高温蒸気(例えば100℃〜125℃)で30分〜6時間処理する加熱工程と、1日以上の放冷工程が必須であり、設備コストとエネルギーコストが多大かつ、労働作業時間が長い。また、加熱は、培養基材を変質させることがある、耐熱性菌には効果がない等の欠点もある。
【0005】
照射型殺菌は、紫外線や放射線を利用する。特許文献1は、放射線により処理した培養基材を用いてキノコを栽培することを提案している。特許文献2は、キノコ栽培用基材に使用する用水を放射線処理してからオガコ等に混入して培養基材を作製し、これを充填した栽培容器を加熱殺菌する際に、殺菌釜中においてキノコ栽培容器を放射線処理することを提案する。
【0006】
照射型殺菌は、設備コストが高価な上に、放射線漏れ対策等の注意が必要である。照射面のみを殺菌でき、側面背面や奥まった部位は殺菌できない。特に、菌床の培地基材であるオガコ等のチップの集合体が、雑菌の付着した状態で菌床の内部にある場合、照射型の殺菌装置では有効な殺菌ができない。
【0007】
殺菌ガスの利用として、例えば特許文献3には、培養基材を充填した栽培容器を、殺菌釜内で加熱殺菌後、殺菌釜中にオゾン含有ガスを導入することを特徴とするキノコ培地の殺菌方法が提案される。
【0008】
しかし、殺菌ガスや殺菌薬品は、処理に長時間要する、人体にも有害である、残留性があるため二次処理が必要である、耐性菌を発生させる恐れがある等の欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−63312
【特許文献2】特開昭59−205910
【特許文献3】特開昭57−174086
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】特許庁公開−標準技術集「キノコの栽培方法」http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kinoko/mokuji.htm
【非特許文献2】静電気ハンドブック17.4.2項「食物の殺菌」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の課題は、設備コストやエネルギーコストが低く、短時間の簡易な作業で有効な殺菌を行える工程を含むキノコの栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、高電圧放電を培養基材に印加すると、従来の加熱型殺菌等の有する欠点を解消できることを見出だし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、キノコの栽培方法において、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより前記培養基材を殺菌する工程(以下、電気殺菌工程ということがある)を含むことを特徴とする、前記キノコの栽培方法を提供する。
【0013】
非特許文献2に記載の殺菌事例には、キノコ栽培への使用例、特に培養基材の殺菌事例がない。また、キノコに電気刺激を与える従来技術として、特開昭63−98322には、シイタケのほだ木に対して電気的刺激を加えると、シイタケの成長が促進されることが記載されている。しかし、この文献には、高電圧放電で培養基材の殺菌に使用することは記載も示唆もない。
【0014】
前記培養基材への高圧放電の印加は、高電圧用放電電極と対極電極との間に前記培養基材を介在させ、前記放電電極と前記対極電極との間に高電圧をかけてストリーマ放電や火花放電を発生させることにより行われ、このとき、高電圧放電距離を10kVにつき3〜20mmとすることが好ましい。本明細書において、「高電圧放電距離」とは、放電電極と対極電極との間で高電圧放電が飛来する距離を意味し、具体的には放電電極と対極電極との間の距離からその間に介在する導電体の培養基材の厚みを差し引いたものである。
【0015】
前記高圧放電の印加時間は、例えば10秒〜60分間である。
【0016】
前記殺菌工程は、例えば前記培養基材を栽培容器へ充填後に行う。
【0017】
前記殺菌工程は、例えば前記培養基材を栽培容器へ充填する際に行う。
【0018】
前記高電圧放電は、高電圧発生部10と高電圧印加部30を有し、前記高電圧印加部は、前記高電圧発生部の出力端が接続される放電側電極35と、前記放電側電極35と放電ギャップを介して対向した接地側電極36と、前記接地側電極36と導通される印加側電極38とを備えた高電圧印加装置であって、前記高電圧印加部10の大部分が筒体31内に収容され、前記印加側電極38のみが露出することを特徴とする前記高電圧印加装置により行うことができる。
【0019】
前記放電側電極35及び接地側電極36の形状が球状であることが好ましい。
【0020】
本発明はまた、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより前記培養基材を殺菌することを特徴とする、キノコの培養基材の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のキノコの栽培方法では、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより、OHラジカル、紫外線、衝撃波等の放電生成物が発生し、この放電生成物が培養基材を殺菌する。これにより、栽培容器の培養基材沿面に付着している雑菌だけでなく、栽培容器深部に生息する雑菌まで殺菌することができる。本発明は、培養基材全体を短時間で手軽に殺菌可能である点で、チップ集合体である菌床の殺菌が必要なキノコの栽培に適した方法といえる。
【0022】
電気殺菌に要する時間は、栽培容器の形状や容量に依存するが、通常、30秒〜60分でよく、従来の殺菌方法に比べて著しく短くできる。作業性が改善される結果、本発明のキノコの栽培方法は、生産高の向上に寄与する。
【0023】
本発明は、従来の加熱型殺菌とは異なり、常温で殺菌処理するため、加熱冷却の設備コストが不要であり、エネルギーコストも低廉である。また、薬剤やガスを使用しないため、安全性が高い。
【0024】
前記培養基材を栽培容器へ充填後に殺菌工程を行う方法によれば、例えば縦横に多数平置した栽培容器の上方に、一定の間隔を開けて縦横方向や円周方向に移動可能な1又は数本の放電電極を設置することができ、これにより効率的な電気殺菌が可能となる。
【0025】
前記培養基材を栽培容器へ充填する際に殺菌工程を行う方法によれば、例えば菌床栽培における、培養基材の培養袋又はビン詰め工程で培養基材を注入するためのノズルに放電電極を配置することができ、その結果、工程の大幅な削減が可能となる。
【0026】
前記高電圧発生装置は小型化することが容易である。この装置を本発明のキノコの栽培方法に用いることで、作業スペースを削減でき、また、対象の培養基材を移動することなく殺菌を行える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のキノコの栽培方法の殺菌工程の一実施態様を示す概略図である。この実施態様では、培養基材を栽培容器へ充填後に電気殺菌を行う。培養基材は、放電電極及び対極電極から浮いている。培養基材は導体であるため、高電圧放電距離は、放電電極と培養基材表面との距離及び、培養基材表面と対極電極との合計となる。
【図2】図1の実施態様の変形であり、培養基材は対極電圧と導通している。高圧放電距離は、放電電極と培養基材表面との距離になる。
【図3】図1の実施態様の別の変形であり、培養基材は放電電極と導通している。高圧放電距離は、対極電極と培養基材表面との距離になる。
【図4】(1)板状の放電電極と板状の対極電極、(2)球状の放電電極と板状の対極電極、及び(3)針状の放電電極と針状の対極電極の3種類について、放電距離と放電開始電圧の関係を示すグラフである。
【図5】図2の実施態様の変形であり、複数の培養容器を1個の放電電極で電気殺菌する場合の概略図である。
【図6】本発明のキノコの栽培方法の殺菌工程の別の一実施態様を示す概略図である。この実施態様では、培養基材を栽培容器へ充填時に電気殺菌を行う。高電圧放電距離は、放電電極〜対極電極の距離とほぼみなされる。
【図7】本発明のキノコの栽培方法に用いるのに好適な高電圧印加装置の概略図を示す。
【図8】(A)は比較例1において殺菌しない培養基材にキノコを植菌して、菌床の繁殖状態を観察した写真であり、(B)は、実施例4において殺菌した培養基材にキノコを植菌して、菌床の繁殖状態を観察した写真である。(A)では、菌床の大半を雑菌が繁殖している。一方、(B)では、水蒸気殺菌と同等の殺菌効果が認められ、キノコの菌糸が順調に生育している。
【図9】寒天培地に雑菌を付着させ、保管後の寒天培地の雑菌の繁殖状態を示す写真である。A(コントロール)は、高電圧を印加していないコントロール培地、そしてB(100kV)は、本発明の処理方法により高電圧100kVを印加した培地である。(1)及び(2)は同じ条件での反復試験結果である。高電圧100kVを印加した培地では雑菌の繁殖が抑えられることがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のキノコの栽培方法は、殺菌工程以外は従来のキノコの栽培方法と同様であるので、以下に殺菌工程を詳述する。本発明のキノコの栽培方法は、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより前記培養基材を殺菌する工程を含むことを特徴とする。本発明のキノコの栽培方法は、従来の殺菌工程を電気殺菌工程で全部置換することもでき、あるいは一部置換することもできる。
【0029】
図1は、培養基材を栽培容器に充填してから電気殺菌する実施態様の概略図である。まず、袋、ボトル等の市販の培養容器に、チップ、オガコ、コメヌカ、フスマ等に水を加え一定の含水率に調整した後、地基材を充填して密閉する。培養容器は、一般に、電気絶縁物で構成されるが、雑菌の胞子(大きさ3〜100μm)を通さずに空気や水分のみを通過させる通気フィルタの部分は、通電可能である。その理由は、放電電子が雑菌の胞子より遥かに小さく、通気フィルタを貫通できるためである。通気フィルタによる通電経路に代えて、培養袋や培養ビンの内面と外面に電気が通じる導体フィルムのような導体物を培養容器に設置してもよい。
【0030】
上記培養基材を高電圧用放電電極と対極電極との間に介在させ、放電電極と対極電極との間で高周波高電圧や高電圧パルス(例えば、パルス幅10ns〜500μs、繰り返し周期1〜50Hz)を印加し、放電電極から対極電極に届くストリーマ放電や火花放電を発生させる。これらの放電により生成する放電生成物(OHラジカル、紫外線、衝撃波等)は、放電電極と対極電極との間にある培養基内を貫通する際に雑菌を死滅させる。殺菌の理由は、本発明を限定するものではないが、前記放電生成物が雑菌の細胞壁や細胞内DNAやRNAを破壊し、その結果、菌が死滅するためと推測される。
【0031】
ストリーマ放電や火花放電を発生させるのに必要な放電開始電圧は、放電距離、放電電極の形状、電極材質、気圧、湿度等によって差異があるが、概ね図4の関係にある。図4は、(1)板状の放電電極と板状の対極電極、(2)球状の放電電極と板状の対極電極、及び(3)針状の放電電極と針状の対極電極の3種類について、放電距離と放電開始電圧の関係をグラフ化したものである。図4から、高電圧によって空間に絶縁破壊を起こさせるために、電極の形状の組合せに応じて、10kVにつき3〜20mmの距離が必要であることがわかる。例えば、高電圧放電電極を球状として、平面部と角部で構成される栽培容器を対極電圧に導通させた場合、(2)の関係によって、高圧放電距離を10kV/10mmの目安で設定し得る。
【0032】
放電開始電圧が10kV以上であればコロナ放電によるストリーマ放電が発生するが、本発明では、有効な殺菌を行うために、放電開始電圧20〜120kVが必要であり、好ましくは30〜120kVであり、より好ましくは30〜80kVであり、さらに好ましくは60〜80kVである。高電圧放電が20kV未満であると、殺菌能力が不足する。逆に、140kVより高いと殺菌能力が飽和するだけでなく、培養基材を変質させ、その結果、殺菌後にキノコの植菌した菌糸の成長も抑制される、栽培容器や培養基材が燃焼する等の問題を生じる。
【0033】
水分を含んだチップ等の培養基材は電気導体と見なされる。培養容器内のチップ同士は、接触しているので、その接触点全てが放電系路、すなわち電気導体となる。よって、高電圧放電は栽培容器の深部まで侵入するので、放電生成物を発生と同時に培養基材に付与することが可能である。
【0034】
高電圧放電距離(放電ギャップともいう)は、放電電極及び/又は対極電極と培養基材との間の放電距離の合計であり、電気導体である培養基材と電極との関係に応じて変わる。例えば、図1は培養基材が放電電極及び対極電極から浮いている状態であり、この高電圧放電距離は放電電極〜培養基材表面間の距離及び培養基材表面〜対極電極間の距離の合計となる。図2では、培養基材が対極電圧と導通している状態であり、高圧放電距離は放電電極と培養基材表面との間の距離になる。図3では、培養基材が放電電極と導通している状態であり、高圧放電距離は対極電極と培養基材表面との間の距離になる。
【0035】
高電圧放電距離は、図4に示したように、放電電極や対極電極の形状、培養基材の設置状態、印加電圧等に応じて変わるが、通常、10〜300mmであり、好ましくは40〜150mmである。放電ギャップが10mmより短いと、培養基材に大電流が流れて基材や容器を損壊する場合があり、逆に、300mmより長いと、殺菌に有効なストリーマ放電や火花放電は発生しない。火花放電とストリーマ放電とが混在するような放電が好ましい。
【0036】
本発明での殺菌のポイントは、火花放電を培養基材の中を万遍なく通過させ、火花放電に殺菌の機会を与えることである。放電生成物の寿命は1μS〜1msと非常に短い。また、主に水分に起因して培養基材を構成するチップ等の電気抵抗が微妙に異なるため、放電経路も異なる。そこで、火花放電を万遍なく通過させるために、ある程度の火花放電回数(印加時間)が必要となる。印加時間が長い程、栽培容器内の至るところに侵入する機会が増えるが、通常、10秒〜60分間でよく、好ましくは60秒〜10分間である。
【0037】
図5は、複数の培養容器の設置形態と放電電極の位置関係を示す。図5のように、支持部材上に、複数の栽培容器が縦横に一定の間隔で並置される。栽培容器毎に放電電極を用意してもよいが。図5のように、栽培容器の上方より、上記した放電ギャップを介して位置する高電圧印加装置の放電電極を、縦横方向や円弧に回転させることにより、1又は少数の電極で多数の栽培容器を電気殺菌することができる。
【0038】
図6は、殺菌工程を、前記培養基材を栽培容器へ充填する際に行う場合の概略である。培養基材(チップ)の充填系路に、放電電極と対極電極とで放電空間を設け、そこで殺菌を行う実施形態を示す。
【0039】
図7には、本発明のキノコの栽培方法に用いるのに好適な高電圧発生装置の一例を示す。この高電圧発生装置は、高電圧発生部10と高電圧印加部30を有する。高電圧印加部30は、高電圧発生部10の出力端が接続される放電側電極35と、放電側電極35と放電ギャップG1を介して対向した接地側電極36と、接地側電極36と導通される印加側電極38とを備える。高電圧印加部30の大部分が筒体31内に収容され、印加側電極38のみが露出する。
【0040】
印加側電極38は、培養基材に導通させてもよいが、培養基材とは第二の放電ギャップG2を開けて対峙させてもよい。この場合、印加側電極38が放電電極となる。
【0041】
高電圧印加装置1は、図6に示すように、主に高電圧発生部10、コントローラ20、高電圧パルス印加部30とからなる。高電圧発生部10は、低電圧ケーブル11を介してコントローラ20と接続され、高電圧ケーブル12を介して高電圧パルス印加部30と接続されている。コントローラ20には、高電圧パルスの設定条件(出力電圧、出力電流、出力周期、昇圧時間、放電エネルギー、パルス極性、プラズマ印加時間等)を制御する回路が組み込まれる。その他に、過電流検知、過電圧検知、温度検知等の安全機能の回路も適宜組み込まれる。
【0042】
高電圧発生部10は、コッククロフトウォルトン回路、静電発電機、ウィムスハースト発電機、ヴァンデグラーフ発電機、圧電トランス高電圧発生装置等を利用可能である。
【0043】
高電圧印加部30に位置する長筒状の筒体31は、3つの部材、すなわち、左方から手持ち部32、保護カバー33、及びこの保護カバーが着脱自在に連結した放電ギャップカバー34が連結されている。筒体31内に軸方向左端側から高電圧ケーブル12の他端側が引き込まれ、放電ギャップカバー34側まで延び、その先端に球状の放電側電極35が露出している。放電電極の材質は、イオン化し難いものが好ましく、例えば、ステンレス、純銅、金、銀、チタン、タングステン、炭素でできている。
【0044】
放電側電極35に、放電ギャップG1を介して球状の接地側電極36が対向している。接地側電極の材質は、炭素でできている。
【0045】
放電側電極35と接地側電極36とが球状であると、針状の場合より放電し難くなっている。これにより、放電ギャップG1の間隔を、通常、20〜150mm、好ましくは50〜100mmへ狭めることができる。結果として、高電圧印加部30を小型化できる。
【0046】
接地側電極36の反対側に、導電性の棒状連結部37を挟んで、印加側電極38(放電電極)が筒体31から露出している。すなわち、連結部67の接地側電極36は、放電ギャップカバー34内に引き込まれており、印加側電極38のみが露出している。印加側電極の材質は、炭素でできている。印加側電極の形状は、好ましくは球状である。
【0047】
印加側電極38は、前記したとおり、培養基材に第二の放電ギャップG2を介して対峙させてもよい。G2は、通常、0〜100mmであり、好ましくは0〜50mmである。
【0048】
本発明の方法においてストリーマ放電や火花放電のために制御すべき間隔は、放電側電極〜接地側電極間の放電ギャップG1と、適宜の印加側電極(放電電極)〜培養基材表面間の第二の放電ギャップG2との合計となる。放電ギャップカバー34で包囲された放電側電極35〜接地側電極36間(G1)及び、印加側電極38(放電電極)〜培養基材間(G2)でストリーマ放電や火花放電が起こる。
【0049】
手持ち部32は、導電材、例えば金属材で構成されており、アース線が接続されている。保護カバー33は、絶縁体、例えばPMMA、PVC、PE、PP、POM、PETP、PFA、PTFE等で構成される。放電ギャップカバー34は、透視可能であり、上記絶縁体や、10〜1010Ω程度の抵抗値を有する半導電体、例えばPMMA、PVC、PETP等でできている。放電ギャップカバーが、周囲の環境の湿気や汚損等による高電圧リークの発生を防止する。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の実施例と比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜6、比較例1〜3〕
培養基材(材質:コナラオガコ、水分約60%)を充填した容積3L(表面積1280cm×高さ12.5cm)の栽培容器((有)振興園製)を用意した。図7に示す高電圧印加装置を図2に示す態様で用いた。そして、栽培容器内の培養基材に高電圧放電を以下の条件で印加した。
放電側電極と設置側電極との放電ギャップ(G1):10kVにつき約10mm
印加側電極と培養基材との第二放電ギャップ(G2):5mm
高電圧:表1
高電圧印加時間:10分間
n数:10
【0051】
高電圧電気殺菌の効果を、同様の培養容器を用いた加熱殺菌(温度100℃定圧の水蒸気で4時間加熱)時の殺菌効果を100として相対的に評価した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

*殺菌効果:加熱殺菌の効果を100%とした場合の高電圧電気殺菌の相対値

【0053】
表1に示すように、実施例1で20kVの高電圧放電を培養基材に印加することで、培養基材の殺菌効果が有意に現れた。実施例3〜6の60kV以上で、従来の水蒸気殺菌工程を全部置換できるほど殺菌効果を示した。しかし、比較例3の140kVの高電圧では、菌糸の成長を阻害した。したがって、雑菌の繁殖を抑えて菌糸の繁殖を促すためには、高電圧20〜120kVが必要であり、好ましくは30〜120kVであり、より好ましくは30〜80kVであり、さらに好ましくは60〜80kVであることが判明した。
【0054】
上記結果をさらに検証するため、以下の試験を行った。まず、寒天培地を敷いたペトリ皿(10cm)に、雑菌を付着させた後、図6の高電圧印加装置を用いて、100kVの高電圧を10分間、印加した。このとき、放電電極と培養基材との距離は100mmとした。比較のため、寒天培地を敷いたペトリ皿に雑菌を付着させた後、電圧を印加しないものを対照とした。高電圧印加の寒天培地と対照の寒天培地を、35℃、湿度80%RHで1日間、培養した。保管後の寒天培地の写真撮影を図9に示す。図9に示すとおり、高電圧を印加しない寒天培地は雑菌が繁殖したが、高電圧を印加したものは、雑菌の繁殖が著しく抑制された。高電圧を印加することで、雑菌の繁殖が抑制され、培地基材の加熱殺菌を行わずに、きのこ栽培が可能になることが証明された。
【符号の説明】
【0055】
1・・・高電圧印加装置
10・・・高電圧発生部
11・・・低電圧ケーブル
12・・・高電圧ケーブル
20・・・コントローラ
30・・・高電圧パルス印加部
31・・・筒体
32・・・手持ち部
33・・・保護カバー
34・・・放電ギャップカバー
35・・・放電側電極
36・・・接地側電極
37・・・連絡部
38・・・印加側電極(放電電極)
G1・・・放電ギャップ
G2・・・第二放電ギャップ
X・・・栽培容器
Y・・・培養基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコの栽培方法において、20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより前記培養基材を殺菌する工程を含むことを特徴とする、前記キノコの栽培方法。
【請求項2】
前記高電圧放電の前記培養基材への印加は、高電圧用放電電極と対極電極との間に前記培養基材を介在させ、前記放電電極と前記対極電極との間に高電圧をかけてストリーマ放電や火花放電を発生させることにより行われ、このとき、高電圧放電距離を10kVにつき3〜20mmとする、請求項1に記載のキノコの栽培方法。
【請求項3】
前記高電圧放電の印加時間は、10秒〜60分間である、請求項1又は2に記載のキノコの栽培方法。
【請求項4】
前記殺菌工程を、前記培養基材を栽培容器へ充填後に行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキノコの栽培方法。
【請求項5】
前記殺菌工程を、前記培養基材を栽培容器へ充填する際に行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキノコの栽培方法。
【請求項6】
前記高電圧放電は、高電圧発生部(10)と高電圧印加部(30)を有し、前記高電圧印加部は、前記高電圧発生部の出力端が接続される放電側電極(35)と、前記放電側電極(35)と放電ギャップを介して対向した接地側電極(36)と、前記接地側電極(36)と導通される印加側電極(38)とを備えた高電圧印加装置であって、前記高電圧印加部(10)の大部分が筒体(31)内に収容され、前記印加側電極(38)のみが露出することを特徴とする前記高電圧印加装置により行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキノコの栽培方法。
【請求項7】
前記放電側電極(35)及び接地側電極(36)の形状が球状である、請求項6に記載のキノコの栽培方法。
【請求項8】
20kV〜120kVの高電圧放電を培養基材に印加することにより前記培養基材を殺菌することを特徴とする、キノコの培養基材の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−81425(P2013−81425A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223632(P2011−223632)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】