説明

キャブ姿勢制御装置

【課題】空気抵抗の影響が大きい高速走行状態において、車両の燃費性能にとって好適なキャブ前面開口部の開閉制御が可能なキャブ姿勢制御装置の提供。
【解決手段】車両1が高速走行時に、ラジエータ6の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定部15が判定した場合であっても、キャブ姿勢制御部16はキャブ2の高さを基準位置に維持する。すなわち、車両1の空気抵抗の影響が大きい高速走行状態では、キャブ姿勢制御部16は、ラジエータ6の冷却能力の向上よりも車両1の空気抵抗の低減を優先してキャブ2の高さを制御する。このため、ラジエータ6の冷却能力の向上を優先してキャブ2を上昇させる場合に比較して空気抵抗が増大せず、燃費性能が向上する。また、冷却能力に余裕がある場合は、キャブ姿勢制御部16は、キャブ2を基準位置から下降させるので、キャブ2を基準位置に維持する場合よりも車両1の燃費性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブオーバー型車両のキャブの姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
実開昭60−110625号公報には、グリル開閉装置が記載されている。この装置では、エンジンルーム内に流入する内部流の流量の増加にほぼ比例して空気抵抗係数が増加することに着目し、ラジエータの水温が所定の温度を超えるとアッパグリル及びアンダグリルの開口を開き、所定の温度を下廻るとアッパグリル及びアンダグリルの開口を閉めて、グリルから取り込まれる内部流の流量をエンジンの過熱を防止するに必要な量に制限して空気抵抗を減少させ車両の燃費を向上させる。
【0003】
また、特開2004−291765号公報には、ラジエータの冷却性能を向上させるキャブ高さ制御装置が記載されている。この装置は、通常走行状態において、乗員数、積載荷重等が変化した場合にも乗り心地を良好に維持するために、キャブの高さが中立位置に位置するようにキャブエアサスペンションの高さを制御する。また、ラジエータの水温が所定の温度を超えたときに、キャブエアサスペンションの高さを制御してキャブを中立位置より上方に上昇させる。この結果、キャブのグリルとバンパーとの間の走行風取入れ口の間隙が増大し、ラジエータに流入する走行風の量が増大し、ラジエータの冷却性能が向上する。そして、ラジエータの水温が所定の温度以下になった時に、キャブを中立位置に下降させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−110625号公報
【特許文献2】特開2004−291765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の装置では、車両前面の開口を開閉する専用の開閉機構を別途設けているため、部品数の増加やコストの上昇を招き、また開閉機構の配置スペースを確保する必要がある。また、ラジエータの水温が所定温度を超えると、空気抵抗の増大を考慮せずにアッパグリル及びアンダグリルの開口を開くので、例えば、空気抵抗の影響が大きい高速走行時に内部流の流量を増加させてしまうと、空気抵抗の増大による燃費の悪化が、ラジエータの冷却性能の向上による燃費の改善を上回り、かえって走行中の車両の燃費を悪化させてしまうおそれがある。
【0006】
一方、上記特許文献2の装置では、乗り心地を良好に維持するためのキャブの姿勢制御を利用してラジエータの冷却性能を向上させているので、上記特許文献1のような専用の機構を必要としない。しかし、ラジエータの冷却性能を向上させるため、キャブを上昇させてラジエータに流入する走行風(内部流)の量を増大させるので、上記特許文献1の装置と同様に、空気抵抗の影響が大きい高速走行状態において、空気抵抗の増大による燃費の悪化が、ラジエータの冷却性能の向上による燃費の改善を上回り、かえって走行中の車両の燃費を悪化させてしまうおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、空気抵抗の影響が大きい高速走行状態において、車両の燃費性能にとって好適なキャブ前面開口部の開閉制御が可能なキャブ姿勢制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明のキャブ姿勢制御装置は、キャブと、キャブサスペンションと、車体側部材と、前面開口部と、冷却器と、車速検出手段と、冷却能力判定手段と、キャブ高さ制御手段と、を備える。キャブは、車両の車体フレームの前部上方に配置される。キャブサスペンションは、キャブの少なくとも前端部が上昇及び下降するようにキャブを車体フレームに対して上下動可能に支持する。車体側部材は、キャブの車両前方で車体フレームに対して固定される。キャブ前面開口部は、キャブの前面に設けられ、所定の基準位置からのキャブの前端部の下降に応じて車体側部材との車両前後方向の重なり範囲が増大し、基準位置からのキャブの前端部の上昇に応じて車体側部材との車両前後方向の重なり範囲が減少する。冷却器は、キャブ前面開口部の車両後方に配置され、キャブ前面開口部から流入する空気への放熱によって車両のエンジンを冷却する。車速検出手段は、車両の車速を検出する。冷却能力判定手段は、冷却器の冷却能力に余裕があるか否かを判定する。キャブ高さ制御手段は、キャブサスペンションを制御してキャブの前端部を上昇及び下降させる。さらに、キャブ高さ制御手段は、車速検出手段が検出した車速が第1の所定速度以下である場合、及び車速検出手段が検出した車速が第1の所定速度を超えており且つ冷却器の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定手段が判定した場合、キャブを基準位置に設定し、車速検出手段が検出した車速が第1の所定速度を超えており且つ冷却器の冷却能力に余裕があると冷却能力判定手段が判定した場合、キャブの前端部を基準位置から下降させる。
【0009】
上記構成では、キャブ高さ制御手段が走行中の車両のキャブの前端部を上昇させると、キャブ前面開口部の開口面積が増大し、キャブ前面開口部から流入して冷却器を通過する空気量が増大する。このため、冷却水の放熱量が増大し冷却器の冷却能力は向上するが、車両の空気抵抗は増大する。冷却能力の向上は燃費性能の向上に寄与するが、空気抵抗の増大は燃費性能の低下要因となる。
【0010】
反対に、キャブ高さ制御手段が走行中の車両のキャブの前端部を下降させると、キャブ前面開口部の開口面積が減少し、キャブ前面開口部から流入する空気量が減少する。このため、車両の空気抵抗は減少するが、冷却器の冷却能力は低下する。空気抵抗の減少は燃費性能の向上に寄与するが、冷却能力の低下は燃費性能の低下要因となる。
【0011】
車両の空気抵抗が燃費に与える影響は車両の走行速度によって大きく異なるため、車両の燃費性能を考慮してキャブ前面開口部を開閉制御する場合、車両の空気抵抗の減少と冷却器の冷却能力の向上との何れを優先するかは、車両の走行速度によって相違する。
【0012】
この点に関し、上記構成では、車速が第1の所定速度を超える高速走行状態のときは、冷却器の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定手段が判定した場合であっても、キャブ高さ制御手段はキャブを基準位置に維持する。すなわち、車両の空気抵抗の影響が大きい高速走行状態では、冷却器の冷却能力の向上よりも車両の空気抵抗の減少を優先してキャブ前面開口部が開閉制御される。このため、冷却器の冷却能力の向上を優先してキャブを上昇させる場合に比較して空気抵抗が増大せず、燃費性能が向上する。
【0013】
また、車両が高速走行状態であって、冷却器の冷却能力に余裕があると冷却能力判定手段が判定した場合、キャブ高さ制御手段は、空気抵抗の減少を優先させて、キャブの前端部を基準位置から下降させ空気抵抗を減少させるので、キャブを基準位置に維持する場合よりも車両の燃費性能が向上する。
【0014】
このように、上記構成によれば、冷却器の冷却能力の確保よりも車両の空気抵抗の減少を優先することが好ましい高速走行状態において、車両の燃費性能にとって好適なキャブ前面開口部の開閉制御を行うことができる。
【0015】
また、キャブ高さ制御手段は、車速検出手段が検出した車速が第1の所定速度未満の第2の所定速度以下であり且つ冷却器の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定手段が判定した場合、キャブの前端部を基準位置から上昇させてもよい。
【0016】
上記構成では、車速が第1の所定速度未満の第2の所定速度以下の低速走行状態において、冷却器の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定手段が判定すると、キャブ高さ制御手段はキャブの前端部を基準位置から上昇させる。すなわち、車両の空気抵抗の影響が小さい低速走行状態では、車両の空気抵抗の減少よりも冷却器の冷却能力の向上を優先してキャブ前面開口部が開閉制御される。この結果、冷却器の冷却能力が向上し車両の燃費性能が向上する。
【0017】
このように、上記構成によれば、車両の空気抵抗の減少よりも冷却器の冷却能力の向上を優先することが好ましい低速走行状態においても、車両の燃費性能にとって好適なキャブ前面開口部の開閉制御を行うことができる。
【0018】
また、冷却器とエンジンとの間を循環する冷却媒体の温度を所定の循環位置で検出する温度検出手段を備え、冷却能力判定手段は、温度検出手段が検出した冷却媒体の温度が所定の温度を超えている場合、冷却器の冷却能力に余裕がないと判定し、冷却媒体の温度が所定の温度以下の場合、冷却器の冷却能力に余裕があると判定してもよい。
【0019】
上記構成では、冷却能力判定手段は、冷却媒体の温度を基準にして、冷却器の冷却能力に余裕があるか否かを判定する。従って、簡単な構成で冷却器の冷却能力を判定でき、キャブ姿勢制御装置の演算負荷が軽減される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空気抵抗の影響が大きい高速走行状態において、車両の燃費性能にとって好適なキャブ前面開口部の開閉制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係わるキャブ姿勢制御装置を備えた車両の要部を示すブロック図である。
【図2】本発明に係わるキャブ姿勢制御装置を備えた車両の要部を示す側面図である。
【図3】本発明に係わるキャブ姿勢制御装置を備えた車両前面の模式図である。
【図4】キャブ姿勢制御処理を示すフローチャートである。
【図5】キャブが基準位置にあるときの車両側面の模式図である。
【図6】キャブを上昇させたときの車両側面の模式図である。
【図7】キャブを下降させたときの車両側面の模式図である。
【図8】キャブを前傾させたときの車両側面の模式図である。
【図9】キャブを後傾させたときの車両側面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、図中FRは車両前方を、図中UPは車両上方をそれぞれ示している。また、以下の説明における前後方向は、車両の前後方向を意味し、左右方向は、車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0023】
図2に示すように、本実施形態に係わるキャブオーバートラック(車両)1は、キャブ2と、メインフレーム(車体フレーム)3と、フロントバンパ4と、ラジエータ(冷却器)6と、キャブサスペンション8と、キャブコントローラ11と、車速センサ12(車速検出手段)と、冷却水温度センサ13(温度検出手段)と、ECU14等を備えている。
【0024】
メインフレーム3は、車両1の車幅方向両側で車両前後方向に延びており、図示しないクロスメンバによって、左右各メインフレーム3の前端部間が連結されている。
【0025】
フロントバンパ4は、左右各メインフレーム3の前端部から前方に延びるバンパーステー(図示省略)に支持されて車幅方向に延びる板状である。
【0026】
キャブ2は、メインフレーム3の前部上方に配置される。キャブ2の前面下方の中央部には、前面開口部である格子状のフロントグリル5が設けられており、走行中に車両前方(図2矢印方向)からフロントグリル5を通して空気が車体内部に取り込まれる。
【0027】
ラジエータ6は、フロントグリル5の後方に配置される。フロントグリル5を通して車両前方から取り込まれた空気がラジエータ6の内部を通過する。エンジン7を冷却して高温になった冷却水(冷却媒体)がラジエータ6に流入し、ラジエータ6内部を通過する空気流に放熱することによって温度を下げ、再びエンジン7を循環することによってエンジン7を冷却する。ラジエータ6の内部を通過する空気量が増大すると、冷却水からの放熱量が増大して冷却水の温度が低下しラジエータ6の冷却能力が向上する。反対に、ラジエータ6の内部を通過する空気量が減少すると、冷却水からの放熱量が減少して冷却水の温度低下が小さくなりラジエータ6の冷却能力が低下する。
【0028】
キャブサスペンション8は、キャブ2の前端底部に対向するメインフレーム3側に車幅方向に配置される左右1対の前側エアスプリング9と、キャブ2の後端底部に対向するメインフレーム3側に車幅方向に配置される左右1対の後側エアスプリング10とから構成される。前側エアスプリング9及び後側エアスプリング10は、内部に圧縮空気が充填されて空気バネを形成し、下端部がそれぞれメインフレーム3側に対して固定され、上端部がそれぞれキャブ2の底部17を下方から上下動可能に支持し、走行中の路面や車体側からの振動等を吸収する。
【0029】
キャブコントローラ11は、メインフレーム3からキャブ2までの高さが予め設定された所定の高さ(基準位置)になるようにキャブ2の上下方向の高さを制御する。すなわち、乗員の増減等によるキャブ2の積載重量の変化によってキャブ2の高さが変動した場合であっても、キャブコントローラ11が前部エアサスペンション9及び後部エアサスペンション10の空気圧を調節し、キャブ2の高さを常に基準位置に制御し乗員の乗り心地を良好に維持する。なお、この基準位置においては、図2及び図5に示すように、フロントグリル5の上端部の上下方向の高さはフロントバンパ4の上端部の上下方向の高さよりも高く、フロントグリル5の下端部の上下方向の高さはフロントバンパ4の上端部の上下方向の高さよりも低く設定されており、フロントバンパ4とフロントグリル5とは車両前後方向で重なる重なり範囲を有している。また、キャブコントローラ11は、後述のキャブ姿勢制御部16からの信号を受けた場合にも、信号に応じてキャブ2の高さを制御する。
【0030】
車速センサ12は、車両1の車速V(m/s)を検出し、検出した車速VをECU14に出力する。
【0031】
冷却水温度センサ13は、エンジン7を循環してラジエータ6へ流入する冷却水の流入口近傍(所定の循環位置)における冷却水温度T(℃)を検出しECU14に出力する。
【0032】
ECU14は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUは、ROMに格納されたプログラムを読み出してキャブ姿勢制御処理を実行することによって、後述の冷却能力判定部15及びキャブ姿勢制御部16として機能する。RAMは、車速センサ12が検出した車速V及び温度検出センサ13が検出した冷却水温度Tの記憶領域、CPUの演算結果の一時記憶領域及び後述の各種判定基準値の設定領域として機能する。
【0033】
冷却能力判定部15は、冷却水温度Tが予め設定された所定の温度T1を超えた場合にラジエータ6の冷却能力に余裕がないと判定し、冷却水温度Tが所定の温度T1以下の場合にラジエータ6の冷却能力に余裕があると判定する。すなわち、冷却能力判定部15は、冷却水温度センサ13が検出した冷却水温度Tに基づいてラジエータ6の冷却能力に余裕があるか否かの判定を行なう冷却能力判定手段を構成する。
【0034】
キャブ姿勢制御部16は、キャブコントローラ11に信号を送出してキャブ2の高さを制御する。すなわち、車速Vが予め設定された第1の所定速度V1よりも小さい場合、キャブコントローラ11に信号を送りキャブ2を基準位置に設定する(図5参照)。また、車速Vが第1の所定速度V1を超えており、且つ冷却能力判定部15がラジエータ6の冷却能力に余裕があると判定した場合、キャブコントローラ11に信号を送りキャブ2を基準位置から所定の下降位置に下降させる(図6参照)。さらに、車速Vが第1の所定速度V1未満であって予め設定された第2の所定速度V2よりも小さく、且つ冷却能力判定部15がラジエータ6の冷却能力に余裕がないと判定した場合、キャブコントローラ11に信号を送りキャブ2を基準位置から所定の上昇位置に上昇させる(図7参照)。すなわち、キャブ姿勢制御部16は、車速センサ12が検出した車両1の車速Vと冷却能力判定部15の判定結果とに基づいてキャブ2の姿勢を制御するキャブ高さ制御手段を構成する。
【0035】
次に、ECU14が実行するキャブ姿勢制御処理について、図4のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、車両1の走行中に所定時間毎に実行される。ECU14は、先ず車両1の車速V及び冷却水温度Tを取得する(ステップS1)。続いて、ECU14は、車速Vが第1の所定速度V1を超えているか否かを判定する(ステップS2)。車速VがV1を超える高速走行状態の場合はステップS3へ進み、車速VがV1以下の中速又は低速走行状態の場合はステップS5へ進む。ステップS3では、冷却水温度Tが所定の温度T1以下か否かを判定する。冷却水温度TがT1以下の場合はラジエータ6の冷却能力に余裕があるので、ステップS4へ進みキャブ2を基準位置から所定の下降位置まで下降させる。冷却水温度TがT1を超えている場合は、ラジエータ6の冷却能力に余裕がないのでステップS8へ進む。ステップS5へ進んだ場合は、車速Vが第2の所定速度V2以下か否かを判定する。車速VがV2以下の低速走行状態の場合は、ステップS6へ進み、車速VがV2を超えている中速走行状態の場合はステップS8へ進む。ステップS6では、冷却水の温度Tが所定の温度T1を超えているか否かを判定する。冷却水の温度TがT1を超えている場合は、ラジエータ6に余裕がないのでステップS7へ進み、キャブ2を基準位置から所定の上昇位置まで上昇させる。ステップS8では、キャブ2を基準位置に設定する。
【0036】
本実施形態では、図7に示すように、キャブ姿勢制御部16がキャブ2を基準位置から所定の上昇位置に上昇させると、フロントバンパ4とフロントグリル5との前後方向の重なり範囲が減少し、キャブ2の前面の開口面積が増大する(図3中のC状態)。この結果、フロントグリル5から流入しラジエータ6を通過する空気量が増大してラジエータ6の冷却能力が向上するが、車両1の空気抵抗は増大する。ラジエータ6の冷却能力の向上は燃費性能の向上に寄与するが、空気抵抗の増大は燃費性能の低下要因となる。
【0037】
反対に、図6に示すように、キャブ姿勢制御部16がキャブ2を基準位置から所定の下降位置に下降させると、フロントバンパ4とフロントグリル5とが前後方向に重なる範囲が増大して、キャブ2前面の開口面積が減少し(図3中のB状態)、フロントグリル5から流入する空気量が減少する。このため、車両1の空気抵抗が減少するが、ラジエータ6を通過する空気量が減少するのでラジエータ6の冷却性能力は低下する。空気抵抗の減少は燃費性能の向上に寄与するが、冷却能力の低下は燃費性能の低下要因となる。
【0038】
車両1の空気抵抗が燃費に与える影響は車両1の走行速度Vによって大きく異なるため、車両1の燃費性能を考慮してキャブ2の高さを制御する場合、車両1の空気抵抗の減少とラジエータ6の冷却能力の向上との何れを優先するかは、車両1の走行速度Vによって相違する。
【0039】
この点に関し、本実施形態では、車両1の車速Vが第1の所定速度V1以下の場合、キャブ姿勢制御部16はキャブ2を基準位置に設定する(図5及び、図3中のA状態)。また、車速Vが第1の所定速度V1を超える高速走行状態のときは、ラジエータ6の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定部15が判定した場合であっても、キャブ姿勢制御部16はキャブ2を基準位置に維持する。すなわち、車両1の空気抵抗の影響が大きい高速走行状態では、ラジエータ6の冷却能力の向上よりも車両1の空気抵抗の減少を優先してキャブ2の高さが制御される。このため、ラジエータ6の冷却能力の向上を優先してキャブ2を基準位置から上昇させる場合に比較して空気抵抗が増大せず、燃費性能が向上する。
【0040】
また、車両1が高速走行状態であって、ラジエータ6の冷却能力に余裕があると冷却能力判定部15が判定した場合、キャブ姿勢制御部16は、空気抵抗の減少を優先させて、キャブ2を所定の下降位置まで下降させ空気抵抗を減少させるので、キャブ2を基準位置に維持する場合よりも車両1の燃費性能が向上する。
【0041】
このように、本実施形態によれば、ラジエータ6の冷却能力の確保よりも車両1の空気抵抗の減少を優先することが好ましい高速走行状態において、車両1の燃費性能にとって好適なキャブ2の高さ制御を行うことができる。
【0042】
また、車両1の車速Vが第1の所定速度V1未満であって第2の所定速度V2以下の低速走行状態において、ラジエータ6の冷却能力に余裕がないと冷却能力判定部15が判定すると、キャブ姿勢制御部16はキャブ2を基準位置から所定の上昇位置に上昇させる。すなわち、車両1の空気抵抗の影響が小さい低速走行状態では、車両1の空気抵抗の減少よりもラジエータ6の冷却能力の向上を優先してキャブ2の高さが制御される。この結果、ラジエータ6の冷却能力が向上し車両1の燃費性能が向上する。
【0043】
このように、本実施形態によれば、車両1の空気抵抗の減少よりもラジエータ6の冷却能力の向上を優先することが好ましい低速走行状態においても、車両1の燃費性能にとって好適なキャブ2の高さ制御を行うことができる。
【0044】
また、冷却能力判定部15は、冷却水温度センサ13が検出した冷却水の温度Tに基づいてラジエータ6の冷却能力に余裕があるか否かを判定するので、簡単な構成でラジエータ6の冷却能力を判定でき、ECU14の演算負荷が軽減される。
【0045】
また、本実施形態では、車両1のキャブ姿勢を制御するキャブサスペンション8及びキャブコントローラ11を利用してキャブ2の位置を上下させキャブ前面開口部の開口面積を増減するので、例えばフロントグリルの開閉機構等の車両前面の開口の開閉機構を別途設ける必要がなく、少ないコスト負担で車両1の燃費性能の向上を図ることができる。
【0046】
なお、車両1の車速Vが第1の所定速度V1を超える高速走行状態であり、冷却能力判定部15がラジエータ6の冷却能力に余裕があると判定した場合に、キャブ姿勢制御部16は、キャブ2の前端部のみを基準位置から下降させ、図8に示すように、キャブ2を前傾姿勢としてもよい。この場合は、フロントバンパ4とフロントグリル5とが前後方向に重なる範囲が増大して、キャブ2前面の開口面積が減少する(図3中のB状態)。この結果、車両1の空気抵抗が減少し、キャブ2を基準位置に維持する場合よりも車両1の燃費性能が向上する。
【0047】
また、車両1の車速Vが第1の所定速度V1未満であって第2の所定速度V2以下の低速走行状態であり、冷却能力判定部15がラジエータ6の冷却能力に余裕がないと判定した場合に、キャブ姿勢制御部16は、キャブ2の前端部のみを基準位置から上昇させ、図9に示すように、キャブ2を後傾姿勢としてもよい。この場合は、フロントバンパ4とフロントグリル5との前後方向の重なり範囲が減少して、キャブ2の前面の開口面積が増大する(図3中のC状態)。この結果、ラジエータ6の冷却能力が向上し車両1の燃費性能が向上する。
【0048】
また、冷却水温度Tの検出位置(所定の循環位置)は、本実施形態に限定されず、例えばエンジン7内部を循環する冷却水の温度を検出してもよい。この場合は、ラジエータ6の冷却能力に余裕があるか否かの判定のために、冷却水温度の検出位置に応じた所定温度を予め設定しておく。
【0049】
また、キャブサスペンション8は、エアスプリング9,10に限定されず例えば油圧スプリング等により構成されてもよい。
【0050】
また、フロントグリル5と前後方向に重なる車体側部材は、フロントバンパ4に限定されず、例えばバンパーカバー等であってもよい。
【0051】
また、キャブの姿勢制御を実行するキャブコントローラを備えた既存の車両に対しては、本処理を実行する装置(ユニット)を追加して設置すればよい。上記既存の車両が車速センサ及び冷却水温度センサを備えている場合は、本実施形態で使用する車速センサ12及び冷却水温度センサ13との共用が可能となる。このように、本発明は、上記既存の車両に対して少ないコスト負担で容易に適用が可能である。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
2 キャブ
3 メインフレーム(車体フレーム)
4 フロントバンパ(車両側部材)
5 フロントグリル(前面開口部)
6 ラジエータ(冷却器)
8 キャブサスペンション
11 キャブコントローラ
12 車速センサ(車速検出手段)
13 冷却水温度センサ(温度検出手段)
15 冷却能力判定部(冷却能力判定手段)
16 キャブ姿勢制御部(キャブ高さ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体フレームの前部上方に配置されるキャブと、
前記キャブの少なくとも前端部が上昇及び下降するように前記キャブを前記車体フレームに対して上下動可能に支持するキャブサスペンションと、
前記キャブの車両前方で前記車体フレームに対して固定される車体側部材と、
前記キャブの前面に設けられ、所定の基準位置からの前記キャブの前端部の下降に応じて前記車体側部材との車両前後方向の重なり範囲が増大し、前記基準位置からの前記キャブの前端部の上昇に応じて前記車体側部材との車両前後方向の重なり範囲が減少するキャブ前面開口部と、
前記キャブ前面開口部の車両後方に配置され、前記キャブ前面開口部から流入する空気への放熱によって前記車両のエンジンを冷却する冷却器と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記冷却器の冷却能力に余裕があるか否かを判定する冷却能力判定手段と、
前記キャブサスペンションを制御して前記キャブの前端部を上昇及び下降させるキャブ高さ制御手段と、を備え、
前記キャブ高さ制御手段は、前記車速検出手段が検出した車速が第1の所定速度以下である場合、及び前記車速検出手段が検出した車速が前記第1の所定速度を超えており且つ前記冷却器の冷却能力に余裕がないと前記冷却能力判定手段が判定した場合、前記キャブを前記基準位置に設定し、前記車速検出手段が検出した車速が前記第1の所定速度を超えており且つ前記冷却器の冷却能力に余裕があると前記冷却能力判定手段が判定した場合、前記キャブの前端部を前記基準位置から下降させる
ことを特徴とするキャブ姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のキャブ姿勢制御装置であって、
前記キャブ高さ制御手段は、前記車速検出手段が検出した車速が前記第1の所定速度未満の第2の所定速度以下であり且つ前記冷却器の冷却能力に余裕がないと前記冷却能力判定手段が判定した場合、前記キャブの前端部を前記基準位置から上昇させる
ことを特徴とするキャブ姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のキャブ姿勢制御装置であって、
前記冷却器と前記エンジンとの間を循環する冷却媒体の温度を所定の循環位置で検出する温度検出手段を備え、
前記冷却能力判定手段は、前記温度検出手段が検出した冷却媒体の温度が所定の温度を超えている場合、前記冷却器の冷却能力に余裕がないと判定し、冷却媒体の温度が前記所定の温度以下の場合、前記冷却器の冷却能力に余裕があると判定する
ことを特徴とするキャブ姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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