説明

キャリパブレーキ装置

【課題】キャリパブレーキ装置における制輪子の押圧力を向上する。
【解決手段】本発明は、車輪5とともに回転するディスク6を挟んで摩擦力を付与するキャリパブレーキ装置100であって、車体に支持されるキャリパ本体10と、キャリパ本体10に対して進退しディスク6に摺接して摩擦力を付与可能な制輪子7と、制輪子7を圧縮空気によってディスク6に押圧するダイヤフラムアクチュエータ50と、制輪子7をキャリパ本体10に支持するアジャスタ40とを備え、アジャスタ40は、キャリパ本体10に対して進退可能に設けられ制輪子7をキャリパ本体10に支持するアンカピン43と、制輪子7をディスク6から離間する方向に付勢する戻しばね44と、アンカピン43の背面に画成されて圧縮空気が導かれる背圧室46とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪とともに回転するディスクに摩擦力を付与して車輪の回転を制動するキャリパブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両等の車両には、油圧や空気圧などの流体圧を利用して制動を行う流体圧ブレーキ装置が用いられている。
【0003】
特許文献1には、制輪子を進退可能に支持するアンカピンと、アンカピンを貫通するロッドと、ロッドを制輪子の戻り方向に付勢するスプリングとを備える鉄道車両用キャリパブレーキ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−226471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のキャリパブレーキ装置では、シリンダ内の流体圧が上昇して制輪子をロータに押し当てて押圧する際に、アンカピンとロッドとの間の摺動抵抗や、ロッドを逆向きに付勢するスプリングの付勢力が抵抗となる。そのため、キャリパブレーキ装置における制輪子の押圧力を向上することが困難であった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、キャリパブレーキ装置における制輪子の押圧力を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車輪とともに回転するディスクを挟んで摩擦力を付与するキャリパブレーキ装置であって、車体に支持されるキャリパ本体と、前記キャリパ本体に対して進退し、前記ディスクに摺接して摩擦力を付与可能な制輪子と、前記制輪子を作動流体の圧力によって前記ディスクに押圧する押圧機構と、前記制輪子を前記キャリパ本体に支持するアジャスタと、を備え、前記アジャスタは、前記キャリパ本体に対して進退可能に設けられ、前記制輪子を前記キャリパ本体に支持するアンカピンと、前記制輪子を前記ディスクから離間する方向に付勢する戻しばねと、前記アンカピンの背面に画成されて作動流体が導かれる背圧室と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、アンカピンの背面に画成される背圧室に作動流体が導かれる。そのため、ブレーキの制動状態において、背圧室に導かれる作動流体によって、制輪子がディスクに近接する方向にアンカピンを押圧することができる。したがって、制輪子を押圧する際におけるアンカピンの摺動抵抗や戻しばねの付勢力を打ち消すことができるため、キャリパブレーキ装置における制輪子の押圧力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るキャリパブレーキ装置の平面図である。
【図2】図1における正面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】図3におけるB部の拡大図である。
【図5】本発明の実施の形態の変形例に係るキャリパブレーキ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るキャリパブレーキ装置100について説明する。
【0011】
まず、図1及び図2を参照して、キャリパブレーキ装置100の全体構成について説明する。
【0012】
キャリパブレーキ装置100は、作動流体として圧縮空気が用いられる鉄道車両用の空気圧ブレーキである。キャリパブレーキ装置100は、支持枠20を介して図示しない台車(車体)に支持されるキャリパ本体10と、キャリパ本体10に対して進退しディスク6に摺接して摩擦力を付与可能な一対の制輪子7と、制輪子7を圧縮空気の圧力(空気圧)によってディスク6に押圧する押圧機構としてのダイヤフラムアクチュエータ50と、制輪子7をキャリパ本体10に支持する一対のアジャスタ40とを備える。
【0013】
キャリパブレーキ装置100は、車輪5とともに回転するディスク6を挟んで摩擦力を付与するものである。具体的には、キャリパブレーキ装置100は、ディスク6をその両面から一対の制輪子7で挟持し、ディスク6と制輪子7との間の摩擦力によって車輪5の回転を制動する。
【0014】
ディスク6は、車輪5上に設けられて車輪5とともに回転する。ディスク6は、車輪5の表裏両面に一体に形成されている。このようにディスク6を車輪5と一体に形成するのではなく、車輪5とともに回転する別体のディスク6を設けてもよい。
【0015】
キャリパ本体10は、ディスク6に跨るようにして延びる第一キャリパアーム12及び第二キャリパアーム14と、第一キャリパアーム12と第二キャリパアーム14とを結ぶヨーク部13と、キャリパ本体10を台車上に支持するための一対のブラケット部15とを備える。
【0016】
キャリパ本体10は、上スライドピン30と下スライドピン32とによって支持枠20に対して摺動可能にフローティング支持される。これにより、キャリパ本体10は、台車に対して軸方向への車輪5の相対移動に追従し、制輪子7が車輪5のディスク6に対して平行に対峙する。
【0017】
上スライドピン30と下スライドピン32とは、支持枠20を貫通して設けられ、その両端部がキャリパ本体10のブラケット部15に連結される。キャリパ本体10は、上スライドピン30と下スライドピン32との軸方向に摺動自在に支持枠20に支持される。上スライドピン30と下スライドピン32との露出部は、ゴム製のブーツ34によって覆われ、ダスト等から保護されている。
【0018】
制輪子7は、ダイヤフラムアクチュエータ50による押圧力を受け、ディスク6に平行に押圧されて当接する。制輪子7は、車輪5とともに回転するディスク6に当接するライニング9を有する。制輪子7は、ライニング9とディスク6との当接によって発生する摩擦力によって、車輪5の回転を制動する。制輪子7の上下端は、後述するアジャスタ40のアンカピン43に固定されている。また、制輪子7は、後述するアジャスタ40の戻しばね44によってディスク6から離間する方向へ付勢されている。
【0019】
次に、図3及び図4を参照してキャリパ本体10の内部構造について説明する。
【0020】
ダイヤフラムアクチュエータ50は、制輪子7をディスク6に押圧するピストン52と、ピストン52が内部を摺動するシリンダ51と、シリンダ51内に空気室55を画成するダイヤフラム53とを備える。
【0021】
ダイヤフラムアクチュエータ50は、空気室55における空気圧を調整することでダイヤフラム53を変形させ、ダイヤフラム53の変形によってディスク6に制輪子7を押圧するものである。ダイヤフラムアクチュエータ50は、第一キャリパアーム12側のみに設けられる。
【0022】
シリンダ51は、ピストン52が摺動するシリンダ本体51aと、シリンダ本体51aとの間にダイヤフラム53を挟み込んで固定し、その背面を閉塞して空気室55を画成するキャリパカバー54とを備える。
【0023】
ピストン52は、制輪子7と当接してシリンダ51内に設けられる。ピストン52は、背面に当接するダイヤフラム53の変形によってシリンダ51内を摺動する。ピストン52がシリンダ51内を摺動することによって、制輪子7がディスク6に対して進退する。
【0024】
ダイヤフラム53は、周縁部53aとベローズ部53bと押圧部53cとを有する。周縁部53aは、シリンダ本体51aとキャリパカバー54との間に挟まれて固定される。ベローズ部53bは、空気室55に供給される空気圧によって、折りたたまれた状態から伸長可能である。押圧部53cは、ピストン52と当接しており、折りたたまれていたベローズ部53bが伸長することで変位する。押圧部53cが変位することによって、ピストン52は押圧されてシリンダ51内を摺動する。
【0025】
ダイヤフラム53は樹脂製弾性材であり、例えばカーボン繊維,ケプラー繊維等の強化材を複合したものを用いてベローズ形成される。また、ゴム製チューブや金属薄板からなるベローズであってもよい。
【0026】
キャリパカバー54は、複数のボルト54aによってシリンダ本体51aに固定される。キャリパカバー54は、ダイヤフラム53の周縁部53aをシリンダ本体51aとの間に挟持して固定する。このとき、樹脂製弾性材であるダイヤフラム53がパッキンの役割を果たすため、空気室55の気密性が担保される。
【0027】
空気室55は、シリンダ51の内部に、ダイヤフラム53とキャリパカバー54とによって画成される。空気室55は、その容積の拡縮に伴って、ピストン52を進退させる。空気室55には、通孔56(図2参照)が設けられる。制動時にダイヤフラム53を変形させるための圧縮空気は、外部の空気圧源から通孔56を介して供給される。
【0028】
キャリパカバー54には、後述するアジャスタ40の背圧室46に空気室55の圧縮空気の一部を導く空気通路54bが形成される。
【0029】
空気通路54bは、キャリパカバー54におけるアジャスタ40に臨む端面に開口して、空気室55と後述するアジャスタ40の背圧室46とを連通する。空気通路54bにおけるアジャスタ40に臨む面の開口部には、クイル48が取り付けられる大径部54cが形成される。大径部54cの内径は、クイル48を収装可能な大きさに形成される。クイル48は、シリンダ51と制輪子受41との間に設けられ、空気室55と背圧室46とを連通させる中空軸である。クイル48については、後で詳細に説明する。
【0030】
アジャスタ40は、ディスク6に対する制輪子7の初期位置を調節するものである。アジャスタ40は、ダイヤフラムアクチュエータ50の上下にそれぞれ配置される。アジャスタ40は、アンカボルト42によってキャリパ本体10の上下端部にそれぞれ締結される。
【0031】
図4に示すように、アジャスタ40は、アンカボルト42によってキャリパ本体10に固定される制輪子受41と、制輪子受41に対して進退可能に設けられて制輪子7をキャリパ本体10に支持するアンカピン43と、制輪子7をディスク6から離間する方向に付勢する戻しばね44と、制動解除時に制輪子7とディスク6との隙間を一定に調整する隙間調整機構45と、アンカピン43の背面に画成される背圧室46とを備える。
【0032】
アンカピン43は、略有底円筒状に形成される。アンカピン43は、制輪子7に係合する鍔部43bを有する。アンカピン43は、その底部が制輪子受41から突出して設けられ、鍔部43bが制輪子7の両端部に嵌まることによって、制輪子7を支持する。
【0033】
アンカピン43は、制動時にダイヤフラム53が変形して制輪子7をディスク6に押圧する動きに追従して軸方向に変位する。アンカピン43は、制輪子7がディスク6に摺接する制動時に、摩擦力によってディスク6が制輪子7を周方向に移動させようとするのに抗して、制輪子7を保持する。
【0034】
アンカピン43の内周には、戻しばね44と隙間調整機構45とが収装される。アンカピン43は、開口端部付近の内周に平ワッシャ43aを有する。アンカピン43において摺動時に外部に露出する摺動部は、ゴム製のブーツ47によって覆われ、ダスト等から保護されている。
【0035】
戻しばね44は、アンカピン43の内周に圧縮して介装されるコイルばねである。戻しばね44は、隙間調整機構45のカラー45cに対して、アンカピン43の平ワッシャ43aを軸方向に付勢する。戻しばね44は、制動状態から非制動状態になったときに、その付勢力によってアンカピン43の鍔部43bが制輪子7を押し戻し、制輪子7をディスク6から所定の距離だけ離間させるものである。これにより、非制動時における制輪子7とディスク6との距離を調整して、ディスク6の放熱性を良好にすることができる。
【0036】
制輪子受41は、アンカピン43を進退可能に支持する。制輪子受41は、アンカピン43の背面を閉塞して背圧室46を画成する。制輪子受41は、クイル48を介して空気室55を背圧室46と連通させる空気通路41aを有する。
【0037】
背圧室46は、制輪子受41の内部とアンカピン43の背面との間に画成される。背圧室46には、ダイヤフラムアクチュエータ50における圧縮空気の一部が導かれる。制動時に空気室55から背圧室46に圧縮空気が導かれると、背圧室46の内圧が上昇する。これにより、アンカピン43は、制輪子7がディスク6に近接する方向に押圧される。
【0038】
空気通路41aは、制輪子受41におけるキャリパ本体10に臨む端面に開口して、背圧室46とキャリパ本体10の空気室55とを連通する。空気通路41aにおけるキャリパ本体10に臨む面の開口部には、クイル48が取り付けられる大径部41cが形成される。
【0039】
空気通路41aの大径部41cは、空気通路54bの大径部54cと同軸となるように開口して形成される。大径部41cは、大径部54cと略同一の内径に形成される。大径部41cと大径部54cとは、合計した軸方向の長さが、クイル48の軸方向の長さと比較して大きくなるように形成される。
【0040】
クイル48は、内周に圧縮空気が通過可能な貫通孔48aを有する中空軸である。クイル48は、アジャスタ40の空気通路41aとキャリパ本体10の空気通路54bとを連通させるものである。
【0041】
クイル48の外周は、制輪子受41の大径部41cとの間に設けられるOリング48bと、キャリパカバー54の大径部54cとの間に設けられるOリング48cとによって封止される。Oリング48bとOリング48cとは弾性を有するため、大径部41cと大径部54cとが完全に同軸でなくても、Oリング48bとOリング48cとの弾性によって、互いの中心軸のずれを吸収可能である。なお、Oリング48bとOリング48cでなくても、クイル48の外周を封止可能な封止部材であればよい。
【0042】
アジャスタ40とキャリパ本体10との組み立ての際は、大径部54cにクイル48を嵌めて、大径部54cがクイル48に嵌まるようにアジャスタ40を取り付け、アンカボルト42を締結する。これにより、アジャスタ40とキャリパ本体10とを組み立てる際に、同時に、キャリパ本体10の空気室55とアジャスタ40の背圧室46とを連通することができる。よって、クイル48を設けることによって、空気通路54bと空気通路41aとを容易に連通させることができる。
【0043】
隙間調整機構45は、制動解除時における戻しばね44の付勢力による制輪子7の戻し量を一定に調整する。つまり、隙間調整機構45は、非制動時における制輪子7とディスク6の間隔を常に一定に保つ。隙間調整機構45は、制輪子受41に固定される固定ピン45aと、固定ピン45aに対して軸方向に移動可能に固定されるグリップ45bと、グリップ45bの移動に伴って固定ピン45aに対して軸方向に移動可能なカラー45cとを備える。
【0044】
グリップ45bは、背圧室46内の圧縮空気による押圧力でアンカピン43が進出し、平ワッシャ43aがカラー45cの段部45dに当接して押圧することで、軸方向に移動可能である。グリップ45bは、戻しばね44の付勢力によっては軸方向に移動できない大きさの力で固定ピン45aの外周を把持している。そのため、制動時にアンカピン43が進出する方向に移動したグリップ45bは、制動解除時に戻しばね44の付勢力によって戻されることはなく、その位置を維持する。
【0045】
制輪子7の摩耗が小さいうちは、制動時におけるアンカピン43のストローク量が小さい。そのため、アンカピン43が進出しても、平ワッシャ43aはカラー45cの段部45dには当接しない。よって、制動解除時には、アンカピン43は、制動前における元の位置まで戻ることとなる。
【0046】
これに対して、制輪子7の摩耗が進行し、制動時におけるアンカピン43のストローク量が大きくなった場合、アンカピン43が進出すると、平ワッシャ43aが段部45dに当接して押圧する。平ワッシャ43aは、カラー45cとともにグリップ45bを引きずって移動させる。これにより、制動解除時には、アンカピン43は、カラー45cの移動量と同じ分だけ進出した位置までしか戻らなくなる。よって、非制動時における制輪子7の位置を、摩耗した厚さの分だけ前進させることができるため、非制動時における制輪子7とディスク6との間隔を常に一定に保つことができる。
【0047】
以下では、本発明の実施の形態に係るキャリパブレーキ装置100の動作について説明する。
【0048】
鉄道車両の走行時には、車輪5は高速で回転している。ここで、運転士の操作等によってキャリパブレーキ装置100が制動状態に切り換えられると、空気圧源から供給される圧縮空気が、通孔56を介して空気室55内に送られ、ダイヤフラム53を変形させる。すると、ダイヤフラム53のベローズ部53bが伸長して、押圧部53cがピストン52をディスク6方向へ摺動させる。
【0049】
ダイヤフラム53の押圧部53cは、車輪5方向へ変位し、ピストン52を介して制輪子7を、車輪5に設けられたディスク6に押圧する。ダイヤフラム53によって押圧された制輪子7とディスク6とが当接して摩擦力が発生すると、車輪5の回転は制動される。これにより、鉄道車両は、速度が低下してやがて停止することとなる。
【0050】
ここで、従来のキャリパブレーキ装置では、アンカピン43は、制輪子7の進退によって従動的に進退するものであった。そのため、制動時にピストン52が制輪子7を押圧するときに、アンカピン43の摺動抵抗や戻しばね44の付勢力が抵抗となっていた。
【0051】
これに対して、キャリパブレーキ装置100では、空気室55内の圧縮空気の一部が、空気通路54bと貫通孔48aと空気通路41aとを通じて、アンカピン43の背面に画成される背圧室46に導かれる。制動時においては、アンカピン43は、背圧室46に導かれる圧縮空気によって、制輪子7がディスク6に近接する方向に押圧される。したがって、制輪子7を押圧する際の抵抗を打ち消すことができるため、キャリパブレーキ装置100における制輪子の押圧力を向上できる。
【0052】
また、従来のキャリパブレーキ装置では、アンカピン43の摺動抵抗や戻しばね44の付勢力が抵抗となるため、アンカピン43付近の押圧力が、ピストン52に押圧される部分の押圧力と比較して小さかった。よって、ライニング9の両端部が強く押圧されず、ライニング9のディスク6への折衝状態を一定とすることが困難であった。
【0053】
これに対して、キャリパブレーキ装置100では、制動時においては、アンカピン43は、背圧室46に導かれる圧縮空気によって、制輪子7がディスク6に近接する方向に押圧される。そのため、アンカピン43付近の押圧力を、ピストン52に押圧される部分の押圧力と同等に大きくすることができる。よって、制動時におけるライニング9の当接面積を増加するとともに、ライニング9のディスク6への折衝状態を一定とすることが可能である。
【0054】
運転士の操作等によってブレーキによる車輪5の制動が解除されると、アジャスタ40内部に設けられた戻しばね44の復元力によって、制輪子7はディスク6に当接した状態から離間する。また、空気室55内の圧縮空気は通孔56から排出されて、ダイヤフラム53のベローズ部53bは制動前の折りたたまれた形状に戻り、押圧部53cは制動前の位置に戻る。すると、ピストン52も制動前の位置に戻り、これにより、ディスク6と制輪子7とは隙間調整機構45によって再び一定の間隔をもって対峙することとなる。よって、車輪5は、キャリパブレーキ装置100の影響を受けることなく回転することが可能となる。
【0055】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0056】
ダイヤフラムアクチュエータ50にて制輪子7をディスク6に押圧するための圧縮空気の一部が、アンカピン43の背面に画成される背圧室46に導かれる。制動時には、アンカピン43は、背圧室46に導かれる圧縮空気によって、制輪子7がディスク6に近接する方向に押圧される。したがって、制輪子7を押圧する際におけるアンカピン43の摺動抵抗や戻しばね44の付勢力を打ち消すことができるため、キャリパブレーキ装置100における制輪子の押圧力を向上できる。
【0057】
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態の変形例に係るキャリパブレーキ200について説明する。
【0058】
キャリパブレーキ200は、作動流体としての圧縮空気をダイヤフラムアクチュエータ50の空気室55とアジャスタ40の背圧室46とに供給する空気圧供給機構60を備える。
【0059】
空気圧供給機構60は、外部の空気圧源に接続されるプラグ61と、供給された圧縮空気を空気室55に導く供給流路62と、供給流路62と空気室55とを接続するプラグ65と、供給された圧縮空気を各々の背圧室46に導く一対の供給流路63と、供給流路63と背圧室46とを各々接続する一対のプラグ64とを備える。
【0060】
キャリパブレーキ200の制動時には、プラグ61を介して供給された圧縮空気が、供給流路62を通じて空気室55に導かれる。これにより、ダイヤフラム53が変形してピストン52をディスク6方向へ摺動させる。このとき、プラグ61を介して供給された圧縮空気の一部は、供給流路63を介して各々の背圧室46に導かれる。
【0061】
これにより、アンカピン43が、制輪子7がディスク6に近接する方向に押圧される。したがって、制輪子7を押圧する際におけるアンカピン43の摺動抵抗や戻しばね44の付勢力を打ち消すことができるため、キャリパブレーキ装置100における制輪子の押圧力を向上できる。
【0062】
なお、プラグ61を介して供給される圧縮空気を空気室55と背圧室46とに導くのではなく、空気室55に導かれる圧縮空気と背圧室46に導かれる圧縮空気との空気圧源を別々に設けてもよい。この場合、ピストン52を制輪子7を押圧する力と、アンカピン43が制輪子7を押圧する力とを個別に調整することができる。
【0063】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0064】
例えば、キャリパブレーキ装置100では、作動流体として圧縮空気を用いたが、これに限らず、作動流体として油を用いた油圧ブレーキであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、鉄道車両等の車両のブレーキ装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
100 キャリパブレーキ装置
5 車輪
6 ディスク
7 制輪子
10 キャリパ本体
40 アジャスタ
41 制輪子受
41a 空気通路
43 アンカピン
44 戻しばね
46 背圧室
48 クイル
48a 空気通路
50 ダイヤフラムアクチュエータ(押圧機構)
51 シリンダ
52 ピストン
53 ダイヤフラム
54 キャリパカバー
54b 空気通路
55 空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転するディスクを挟んで摩擦力を付与するキャリパブレーキ装置であって、
車体に支持されるキャリパ本体と、
前記キャリパ本体に対して進退し、前記ディスクに摺接して摩擦力を付与可能な制輪子と、
前記制輪子を作動流体の圧力によって前記ディスクに押圧する押圧機構と、
前記制輪子を前記キャリパ本体に支持するアジャスタと、を備え、
前記アジャスタは、
前記キャリパ本体に対して進退可能に設けられ、前記制輪子を前記キャリパ本体に支持するアンカピンと、
前記制輪子を前記ディスクから離間する方向に付勢する戻しばねと、
前記アンカピンの背面に画成されて作動流体が導かれる背圧室と、を備えることを特徴とするキャリパブレーキ装置。
【請求項2】
前記背圧室へは、前記押圧機構における作動流体の一部が導かれることを特徴とする請求項1に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項3】
前記押圧機構は、
前記制輪子を前記ディスクに押圧するピストンと、
前記ピストンが内部を摺動するシリンダと、
前記シリンダ内に空気室を画成し、当該空気室における空気圧の変化によって変形して前記制輪子に前記ディスクへの押圧力を印加するダイヤフラムと、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項4】
前記アジャスタは、前記アンカピンを進退可能に支持する制輪子受を備え、
前記シリンダと前記制輪子受との間に設けられ、前記空気室と前記背圧室とを連通させるクイルを更に備えることを特徴とする請求項3に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項5】
前記シリンダは、
前記ピストンが摺動するシリンダ本体と、
前記シリンダ本体との間に前記ダイヤフラムを挟み込んで固定し、その背面を閉塞して前記空気室を画成するとともに、前記背圧室に空気圧を導く空気通路が形成されるキャリパカバーと、を備え、
前記制輪子受は、前記クイルを介して前記背圧室を前記空気室と連通する空気通路を有することを特徴とする請求項4に記載のキャリパブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53717(P2013−53717A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193791(P2011−193791)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】