説明

キャンド構造の回転電機

【課題】樹脂部、薄板金属部、モータフレームの間で生じる熱膨張差を吸収してそれぞれに過大な応力が生じないようにすることの可能な樹脂層と薄板金属層を有する複層構造キャンを備えた回転電機を提供すること。
【解決手段】円筒状フレーム(13)内に固定子巻線を装填した固定子鉄心を挿入固定し、該固定子巻線及び該固定子鉄心をキャン(21)で包囲し、該キャンで囲まれた空間に回転自在にロータを配置したキャンド構造の回転電機において、キャンは、繊維強化プラスチックからなる第1層(21a)と、該第1層の内面に配置された薄板金属とからなる第2層(21b)とで構成され、第2層の薄板金属キャン端部に該薄板金属より厚い薄板金属からなるベローズ部(21c)を設け、フレームと第1層の熱膨張差を該ベローズ部で吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子がキャンに包囲されたキャンド構造の回転電機に関し、特に回転子室が高圧のポンプ作動液で満たされるノンシールポンプ駆動用電動機として好適なキャンド構造の回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子を構成する固定子コア及び固定子巻線がキャンに包囲されたキャンド構造のノンシールポンプ駆動用高圧電動機、特に極数が4P〜6Pの大型(数千kW)で回転子室が高圧(1〜2kg/mm)のポンプ作動液で満たされる誘導電動機においては、キャンを貫通する磁束によって発生する渦電流損を低減し、且つ高い内圧条件に耐え、高い気密性が要求される。
【0003】
このようなキャン構造の誘導電動機ではキャン損(渦電流損)を低減させるためには樹脂材等の絶縁材料からなるキャンを使用するのがよく、更に回転子室内を満たす高圧のポンプ作動液に耐えるための構造として、キャンを構成する材料に繊維強化プラスチック(FRP)を採用することが考えられる。また、回転子室が高圧のポンプ作動液で満たされ、回転子が高速回転するとポンプ作動液も回転子と同様の周速でキャン表面を流れるため、FRPで構成されたキャン表面が液流摩擦によるエロージョンが発生し磨耗する場合があり、磨耗の程度が進むとキャンの気密性を損なう可能性がある。そこでキャンの材料にFRPを使用する場合、上記エロージョン対策も必要となる。
【0004】
また、回転子室内のポンプ作動液が高い周速で流れることから、キャンと回転子間のギャップで流体摩擦損が発生する。この流体摩擦損は設定するギャップの長さによっては莫大な損失量となり、回転子室流体の強制循環による冷却等の一般的な冷却方法では冷却効率の限界から、流体摩擦損も低減する必要がある。
【0005】
また、上記高圧誘導電動機を原子炉のノンシール構造の冷却ポンプ駆動用に使用する場合は、ポンプ作動液が高温となることから、耐熱性が必要となると共に、耐放射線性も必要となる。
【0006】
従来、キャン材料にFRPを用いたキャンド構造の電動機としては、特許文献1に開示された耐熱耐圧形永久磁石同期電動機や特許文献2に開示されたガス密性を向上させたキャンドモータがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−153749号公報
【特許文献2】特開2001−231213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回転子室を満たす高圧高温のポンプ作動液に対する耐圧性や耐熱性、FRP材で構成されたキャンのポンプ作動液の高速流に対する耐エロージョン性に対する対策、更には耐放射線性を考慮したキャンド構造の回転電機として、特願2010−27016を出願している。その中で、外径側の第1層を圧力変形、座屈に強いFRP、内径側の第2層を、流体密封性、耐エロージョン性に優れた薄板金属で構成する複層構造キャンを提案している。高強度樹脂と金属とでは線膨張係数が大きく異なり(例えば、PEEKとインコネルでは4倍以上の違いがある。)、第1層FRPと第2層薄板金属の温度差がない場合でも、使用温度が高いほど樹脂部の方が相対的に長くなりやすい。また、薄板金属部は渦電流により発熱するため、キャン部に内部流体を循環させて冷却するが、それでも薄板金属部からモータフレームまでを等温に保つことは困難で、ここでも熱膨張差が生じる。
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、樹脂部、薄板金属部、モータフレームの間で生じる熱膨張差を吸収してそれぞれに過大な応力が生じないようにすることの可能な樹脂層と薄板金属層を有する複層構造キャンを備えた回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、円筒状フレーム内に固定子巻線を装填した固定子鉄心を挿入固定し、該固定子巻線及び該固定子鉄心をキャンで包囲し、該キャンで囲まれた空間に回転自在にロータを配置したキャンド構造の回転電機において、キャンは、樹脂製からなる第1層と薄板金属からなる第2層とで構成される複層構造であり、第2層の薄板金属端部にベローズ部又はダイヤフラム部を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、第1層と前記円筒状フレームとの軸方向の対向箇所の一方に、第1層を円筒フレームに対して軸方向に付勢するバネ機構を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、円筒状フレームの軸方向の両端部にはそれぞれ前記円筒状フレームに接合されたエンドピースが設けられ、第2層の両端はそれぞれのエンドピースに接合されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、第1層の軸方向の両端はそれぞれのエンドピースに対向し、該エンドピース間の間隔は第1層の軸方向の長さより所定量大きくなっていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、バネ機構を設けた側の円筒状フレームと第1層との隙間部に内径側に弾性変形可能なOリングを挿入したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、ベローズ部は円筒形のベローズであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、ベローズ外径側谷部と該谷部が対向する円筒状フレームの内径側の間に割りリング型強め輪を設けたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、前記ダイヤフラム部は半径方向に広がるベローズで構成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、ダイヤフラム部は円筒状フレームの軸方向端面に対向して設けられ、ダイヤフラム部を構成するベローズはその円筒状フレーム側の谷部と該谷部が対向する円筒状フレームの軸方向端面の間に強め輪を設けたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、ベローズ部又はダイヤフラム部は第2層の薄板金属より厚い薄板金属で構成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は上記キャンド構造の回転電機において、ベローズ部又はダイヤフラム部には連続して第2層の薄板金属より厚い薄板金属からなる胴部が設けられており、該胴部で第2層とフレームとの境界部分を覆っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、キャンの第2層の薄板金属端部にベローズ部又はダイヤフラム部を設けたので、ベローズ部又はダイヤフラム部により、第2層の薄板金属とフレームの熱膨張差を吸収し、第2層の薄板金属に発生する応力を緩和することができ、第2層の座屈変形を防止できる。
【0022】
また、本発明によれば、キャンの第1層と円筒状フレームとの軸方向の対向箇所の一方に、第1層を円筒フレームに対して軸方向に付勢するバネ機構を設けたので、第1層と他端面と円筒フレーム端面の間に隙間が発生することなく、第2層の薄板金属が隙間に押し込まれて変形することがない。
【0023】
また、本発明によれば、円筒状フレームの軸方向の両端部にはそれぞれ円筒状フレームに接合されたエンドピースが設けられ、第2層の両端はそれぞれのエンドピースに接合されているので、第2層と円筒状フレームの間の気密性が維持できる。
【0024】
また、本発明によれば、第1層の軸方向の両端はそれぞれのエンドピースに対向し、該エンドピース間の間隔は第1層の軸方向の長さより所定量大きくなっているので、第1層の端部とエンドピースの間に隙間ができ、該隙間で第1層の軸方向の伸びを吸収することができる。
【0025】
また、本発明によれば、バネ機構を設けた側の円筒状フレームと第1層との隙間部に内径側に弾性変形可能なOリングを挿入したので、ベローズの胴部の半径方向変位を抑制できる。
【0026】
また、本発明によれば、ベローズ部は円筒形のベローズであるので、薄板金属からなる第2層の軸方向の収縮をスムーズに吸収できる。
【0027】
また、本発明によれば、ベローズ外径側谷部と該谷部が対向する円筒状フレームの内径側の間に割りリング型強め輪を設けたので、強め輪で補強された分ベローズの厚みを小さくでき、ベローズの半径方向の変形を防止できると共に、軸方向の伸縮性を維持できる。
【0028】
また、本発明によれば、ダイヤフラム部は半径方向に広がるベローズで構成されるので、薄板金属からなる第2層の軸方向の収縮をスムーズに吸収できる。
【0029】
また、本発明によれば、ダイヤフラム部は円筒状フレームの軸方向端面に対向して設けられ、ダイヤフラム部を構成するベローズはその円筒状フレーム側の谷部と該谷部が対向する円筒状フレームの軸方向端面の間に強め輪を設けたので、強め輪で補強された分ベローズの厚みを小さくでき、ベローズのポンプ作動液圧による変形を防止できると共に、薄板金属からなる第2層の軸方向の収縮をスムーズに吸収できる。
【0030】
また、本発明によれば、ベローズ部又はダイヤフラム部には連続して第2層の薄板金属より厚い薄板金属からなる胴部が設けられており、該胴部で第2層とフレームとの境界部分を覆っているので、例えば境界部分が熱膨張差などにより微小な凹凸を生じたとしても、この境界部でのポンプ作動液圧による変形や破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るキャンド構造の回転電機の一例としてノンシールポンプと該ポンプを駆動するキャンド構造の誘導電動機からなるポンプモータの概略構成を示す縦断面図である。
【図2(a)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図2(b)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図3(a)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図3(b)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図4(a)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図4(b)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図5(a)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【図5(b)】図1に示すポンプモータの一部断面構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態例について、詳細に説明する。なお、本実施形態例では、回転電機として誘導電動機を例に説明するが、本発明に係る回転電機はこれに限定されるものではない。図1は本発明に係るキャンド構造の回転電機の一例として縦型ノンシールポンプと該ポンプを駆動するキャンド構造の誘導電動機からなるポンプモータの概略構成を示す縦断面図である。図示するように、本ポンプモータは、ポンプ部Pとモータ部Mから構成されている。ポンプ部Pはノンシールポンプであり、吸込口2、吐出口3を具備するポンプケーシング1を備え、該ポンプケーシング1内に主軸6の端部に固定された羽根車5が配置されている。ポンプケーシング1は羽根車側ブラケット7に装着されている。なお、主軸6は上下に配置された軸受16、16にて回転自在に支持されている。
【0033】
モータ部Mは誘導電動機であり、モータフレーム10の円筒状のフレーム本体11内に挿入固定されたモータ固定子17を備え、該モータ固定子17内に主軸6の中央部に固定されたモータ回転子20が配置されている。フレーム本体11の両端部は羽根車側のフレーム側板12と反羽根車側のフレーム側板13に装着されている。フレーム側板12はポンプ部Pの羽根車側ブラケット7に固定されている。フレーム側板12には補強環部18が一体的に設けられ、該補強環部18の端部はモータ固定子17の固定子鉄心17aの羽根車側端面近傍まで延びている。また、フレーム側板13には補強環部19が一体的に設けられ、該補強環部19の端部はモータ固定子17の固定子鉄心17aの反羽根車側端面近傍まで延びている。
【0034】
21は後に詳述するように、繊維強化プラスチック(FRP)又はプラスチックからなる第1層と該第1層の内面に配置された薄板金属からなる第2層とで構成される円筒状のキャンである。該キャン21の外周のFRP面はモータ固定子17の固定子鉄心17a、モータフレーム10を構成する補強環部18、補強環部19、フレーム側板12、及びフレーム側板13の内周面に密接している。フレーム側板12及びフレーム側板13との間に羽根車側のOリング22及び反羽根車側のOリング23を介在させている。また、フレーム側板12、13の軸方向端部は環状のエンドピース12a、13aとしてフレーム側板12、13の本体とは別体に形成されて、接合部D(図2(a),(b)参照)で溶接されている(ここで、エンドピース12a、13aはモータフレーム10の一部であるフレーム側板12、13の一部としている)。そして、図2(a)、(b)に示すように、キャン21の第2層21bの薄板金属部はエンドピース12a、13aと溶接部Cで溶接されていて、モータ固定子17が配置された固定子室14を密封状態にしている。また、円筒状のキャン21で囲まれた空間はモータ回転子20が配置回転する回転子室15となっている。
【0035】
上記構成のポンプモータにおいて、モータ部Mの固定子巻線17bに電源装置のインバータ(図示せず)から所定周波数、所定電圧の3相電力を供給することにより、回転磁界が発生し、モータ回転子20が回転する。これにより主軸6に固定された羽根車5が回転し、ポンプケーシング1の吸込口2から吸込まれたポンプ作動液は吐出口3から吐出される。このときポンプ部Pはノンシールポンプであるから、回転子室15内はポンプ作動液で満たされ、該作動液はモータ回転子20により攪拌され、キャン21の内周面にはモータ回転子20の周速と略同じ流速のポンプ作動液が流れると共に、ポンプ作動液の圧力が加わる。
【0036】
図2は上記構成のポンプモータの一部の断面構成を示す図で、図2(a)は反羽根車側の端部を、図2(b)は羽根車側の端部を示す。図示するように、キャン21は第1層21aと第2層21bとからなる2層構造のキャンである。第1層21aの構成材料としては、高い耐熱性、機械的強度を持つPEEK(ポリエーテル・エーテルケトン)又はPI(ポリイミド)樹脂を使用する。更に、機械的な強度を高めるためガラス、アラミド、カーボンの長繊維等、高強度を有する強化繊維を樹脂中に配して強化したFRPを使用している。なお、FRPの樹脂としては、PEEKやPIの他に、ポリエステルアミドイミド、ポリヒダントイン、イソシアヌレート変性ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、エポキシを用いることもできる。これらの樹脂は共通して耐高温性や耐放射線性を有する樹脂であり、耐高温性や耐放射線性を要求される用途に適している。これらの樹脂の中でも、特にPEEKやPIは原子力発電所での使用実績が高く、PEEK又はPIは、原子力発電所での使用に特に適している。
【0037】
また、キャン21の第2層21bは第1層21aの内周面に密接させて配置した薄板金属である。このように、第1層21aの内周面に薄板金属からなる第2層21bを密接させて設けることにより、より高い気密度の確保と、キャン21内のポンプ作動液の液流が耐摩耗性の薄板金属からなる第2層21bの内周面に接することになり、キャン21内周面のポンプ作動液の液流による磨耗(エロージョン)を防止できる。
【0038】
上記のようにキャン21をFRPからなる第1層21aの内周面に薄板金属を密接して配置してなる第2層21bを設けることにより、該第2層21bにキャン損(渦電流損)が発生する。しかしながら、該薄板金属の厚さを例えば0.05mm〜0.1mmとすれば、一般的に用いられる金属キャンの厚み0.2mm〜0.5mmのキャン損に対して、1/10〜1/2のキャン損となる。また、樹脂層中に導電性のあるカーボン繊維を配した場合も、キャン損(渦電流損)が発生するが、カーボン繊維を配したFRPの体積抵抗率はステンレス鋼等と比較し100倍程の値であるため、キャン21が一定の厚みであれば、カーボン繊維を配したFRP部分のキャン損はステンレス鋼等に対して1/100と大幅に低減できることは明らかである。
【0039】
キャン21の第1層21aを形成する樹脂に熱硬化型のPI樹脂を用い、樹脂成形工程中に真空引き及び加圧加熱硬化によってボイドの少ない緻密な組織とすれれば、気密性・止水性の高い第1層21aを構成できる。アラミド樹脂からなる繊維で強化したFRPからなる第1層21aの円周方向の引っ張り強度はステンレス鋼などの金属材料と比較し同等〜3倍程度となる。
【0040】
このような複層構造のキャン21では、線膨張係数の違いが問題になる。例えば、PIやPEEKは線膨張係数が、約50×10−6[/℃]であり、第2層として好適な耐磨耗性の高いインコネルの線膨張係数は約12×10−6[/℃]である。仮に、キャン長さが1000mmでモータ運転時のキャン平均温度が75℃とすると、常温(25℃)で長さが等しい樹脂と金属は、使用温度時でδ=1000×(75.25)×(50.12)×10−6=1.9mmの伸び差が生じる。本実施形態では、キャン21の樹脂部分(第1層21a)がFRPで構成されるため、長繊維の方向、密度を調整することにより薄板金属部(第2層21b)との線膨張係数の差をこの例よりも小さくすることも可能だが、両者の線膨張係数を一致させることは困難である。
【0041】
また、キャン21の第2層21bの薄板金属部は渦電流により発熱するため、キャン部に内部流体を循環させて冷却する。しかし、冷却を行っても、薄板金属部がモータフレーム10より高温となってしまうことは避けられない。この温度差によっても薄板金属である第2層21bとモータフレーム10間に熱膨張差が生じる。これらの熱膨張差により発生する応力を緩和しないと、特に構造的に脆弱で変位吸収能が最も小さい薄板金属からなる第2層21bが座屈変形してしまい、キャン21の気密密閉性が破壊される可能性がある。
【0042】
本実施形態では、キャン21の薄板金属からなる第2層21bとフレーム側板12、13とを、長手方向の少なくとも一方(ここでは反羽根車側)でベローズ部21cを介して接合する。このベローズ部21cにより第2層21bの薄板金属部とモータフレーム10のフレーム本体11の熱膨張差を吸収し、第2層21bの薄板金属部に発生する応力を緩和する。図2(a)において、第2層21bの薄板金属の長手方向の一端は、ベローズ部21cにAの箇所で溶接されている。そして図2(b)に示すように、第2層21bの薄板金属部の他端は羽根車5側のエンドピース12aに溶接されている。そのエンドピース12a、13aはそれぞれフレーム側板12、13にDの箇所で溶接されている。このように第2層21bの薄板金属部の一端はエンドピース12aを介して羽根車側のフレーム側板12に接合されて、もう一方のベローズ部21cの端部はエンドピース13aに溶接される。そしてエンドピース12a、13aはそれぞれDの箇所で羽根車側のフレーム側板12、反羽根車側のフレーム側板13に溶接される。
【0043】
なお、キャン21の第2層21bの薄板金属部は例えば0.05〜0.1mmの厚さであり、ベローズ部21cの板厚は例えば1mm程度である。溶接部C(第2層21bの薄板金属部とエンドピース12a、ベローズ部21cとエンドピース12a、13aとの溶接箇所)は、薄板の接合となるためノンフィラー溶接が用いられる。溶加材(フィラー)を用いずに、母材の変形を最小限にしつつ確実な接合を行うために、エンドピース13aの内面を先が細くなるように軸方向に延伸することで溶接箇所Cを形成している。また、両エンドピース12a、13aに挟まれるようにしてキャン21のFRP部からなる第1層21aが設置される。両エンドピース12a、13aの軸方向端面間距離は、第1層21aの軸方向長さよりも若干長くなっており、エンドピース12a、13aと第1層21aの端面が相対する一方の側に軸方向隙間Eが生じる。この隙間Eで樹脂製である第1層21aの軸方向伸びを吸収する。
【0044】
樹脂製の第1層21aの内径側の薄板金属の第2層21bは非常に薄いため、第1層21aとエンドピース13aの間に軸方向隙間があると、圧力荷重により隙間E部に薄板金属製の第2層21bが食い込み変形してしまうおそれがある。これを防止するため、エンドピース13aと樹脂製の第1層21aの隙間Eの構成部の内径側は、薄板金属からなる第2層21b自体ではなく、第2層21bより厚さが厚く圧力変形のし難いベローズ部21cの胴部が覆うようにする。更に、隙間E部には軸方変形が可能でかつベローズ部21cの胴部の半径方向変位を抑制可能なように弾性Oリング24を挿入すると良い。
【0045】
また、隙間Eの構成部の軸方向他方の樹脂製の第1層21aとエンドピース12aの接触部に軸方向隙間が生じないよう、隙間Eの構成側エンドピース13aと樹脂製の第1層21aとの間に軸方向に付勢するバネ機構25が挿入している。これにより、隙間Eの構成部の軸方向他方では、常に樹脂製の第1層21aがエンドピース12a端面に押し付けられ、隙間が生じないようになっている。バネ機構25は複数が周方向に均等配置されていてもよいし、第1層21aとほぼ同径の単一のバネ機構を用いても良い。また、図ではエンドピース13aにバネ機構25を挿入する溝が設けられているが、樹脂製(FRP)の第1層21a側に溝を設けてもよい。
【0046】
ベローズ部21cは、金属を連続する山谷の波形に成型または加工したものであるが、薄板金属からなる第2層21bの軸方向変位を容易にするためベローズ部21cの厚さを適度に薄くしてバネ強さを低く設計する必要がある。よって、ベローズ部21cが回転子室15の圧力により変形しないよう、外周側に強め輪26が装着されている。なお、一般的に、比較的薄いベローズを使用する場合は、ベローズの内側の圧力(本実施形態で言えば、モータ回転子室15の圧力)により変形しないよう、外周側に強め輪を装着することがある。通常の強め輪は一体の円周方向に連続したリング型で、フープ応力により圧力荷重を支えている。一体リング構造の強め輪はベローズ部21cの形状成型後には装着できないため、ベローズ素材となる平行円筒に強め輪26を装着しておいて、波型の金型内で一体成型している。しかし、本発明の強め輪26の場合は、フープ応力をベローズ部21cの外周側に密接するエンドピース13aが保持するため、キャン21の波形状の座屈変形を防止できる機能さえあればよい。従って、強め輪26は割りリングでよく、ベローズ部21cの形状成型後に装着可能である。
【0047】
キャン21のFRP製の第1層21aの外周側、軸方向両端面近くにはそれぞれ、第1層21aとフレーム側板12、13(又はその補強環部18、19)との間に2つずつのO−リング22a、23aとバックアップリング22b、23bとが組合されて設置されている。このO−リングにより、万が一薄板金属からなる第2層21bが破損して回転子室15内の高圧流体がFRP製の第1層21aとエンドピース13aとの間から侵入したとしても、高圧流体が固定子コアまで到達するのを抑制する。また、フレーム側板12、13の内周面には、軸方向の両端近く、O−リング22、23よりもそれぞれの軸方向端面により近い側にリーク圧力の検出孔27、28が設けられていて、侵入してきた高圧流体を検出して薄板金属からなる第2層21b及びベローズ部21cの破壊を検出することができる。検出孔27、28それぞれには圧力検出器(図示せず)が接続され、検出孔27、28の圧力を常時監視し、圧力が異常に上昇した場合に警報を発する構成とすることができる。
【0048】
図3は第2の実施形態を示す図で、ポンプモータの一部の断面構成を示す。図3(a)は反羽根車側の端部を、図3(b)は羽根車側の端部を示す。第2の実施形態が第1の実施形態と異なるのは、キャン21の薄板金属からなる第2層21bに軸方向に接合されるベローズ部21dが、円筒形ベローズ部ではなく、エンドピース13aの軸方向端面に沿って半径方向に広がるベローズ部21dとして構成されていることである。ベローズ部21d側の溶接部Cを形成するために、エンドピース13aの軸方向端面からベローズ部21dの端部まで伸びる薄肉の突起部13bを設けている。また、ベローズ部21dとエンドピース13a軸方向端面との間には径の異なる複数の強め輪29が設けられている。なお、強め輪29は割りリングにしなくてもベローズの谷に挿入することができる。
【0049】
第2実施形態ではベローズ部21dが半径方向に広がっているため、薄板金属からなる第2層21bの伸びは、ベローズ部21dの山谷の伸縮によって吸収されるのではなく、ベローズ部21dがダイヤフラムとして機能することによって吸収される。したがって、本実施例ではベローズを形成したが、ダイヤフラムとして機能する形状であれば、異なった形状を採用することも可能である。
【0050】
図4は、第1及び第2の実施形態の変形例を示す図で、図4(a)は反羽根車側の端部の断面構成を、図4(b)は羽根車側の端部の断面構成を示す。キャン21の薄板金属からなる第2層21bのベローズ部21cが接合されていない側にも、第2層21bの薄板金属よりも厚い厚板部21eを接合し、この厚板部21eがFRP製の第1層21aとエンドピース12aとの接触部Eを覆うようにしている。第2層21bの薄板金属は非常に薄く、外周側が接する(実際には回転子室15の圧力により押圧される)面に少しでも凹凸があると、破損の原因になる可能性がある。図4に示すように第2層21bの薄板金属よりも厚い(1mm程度)部材がFRP製の第1層21aとエンドピース12aとの境界部分(接触部E)を覆うため、例えこの境界部分が熱膨張差などにより微小な凹凸を生じたとしても、薄板金属(厚板部21e)の破損を抑制できる。
【0051】
図5は、第1及び第2の実施形態の変形例を示す図で、図5(a)は反羽根車側の端部の断面構成を、図5(b)は羽根車側の端部の断面構成を示す。エンドピースをフレーム側板12又は13と一体としたものである。なお、バネ機構25を設ける側のエンドピースをフレーム側板13と一体とする場合は、図2、3と異なり、リーク圧力を検出する圧力検出孔を設ける位置を、エンドピースに対向する位置ではなく、図5(b)に示すように、FRP製の第1層21aに対向する位置に移動させる必要がある。
【0052】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。例えば、上述の実施形態ではキャン21の第1層21aを構成する樹脂層をFRPで構成したが、強度に問題がなければ、単純な樹脂のみの構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、キャンド構造の回転電機のキャンを繊維強化プラスチック又はプラスチックからなる第1層21aと、該第1層の内面に配置された薄板金属とからなる第2層21bとで構成し、第2層21bの薄板金属部の端部にベローズ部21cを設けたので、流体摩擦損低減、耐圧性、耐熱性、に優れ、且つ各部材の熱膨張の差による問題を解決することのできるキャンド構造の回転電機を提供するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ポンプケーシング
2 吸込口
3 吐出口
5 羽根車
6 主軸
10 モータフレーム
11 フレーム本体
12 羽根車側のフレーム側板
12a エンドピース
13 反羽根車側のフレーム側板
13a エンドピース
14 固定子室
15 回転子室
16 軸受
17 モータ固定子
18 補強環部
19 補強環部
20 モータ回転子
21 キャン
21a 第1層
21b 第2層
21c ベローズ部
21d ベローズ部
21e 厚板部
22a 羽根車側のOリング
22b バックアップリング
23a 反羽根車側のOリング
23b バックアップリング
24 Oリング
25 バネ機構
27 検出孔
28 検出孔
P ポンプ部
M モータ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状フレーム内に固定子巻線を装填した固定子鉄心を挿入固定し、該固定子巻線及び該固定子鉄心をキャンで包囲し、該キャンで囲まれた空間に回転自在にロータを配置したキャンド構造の回転電機において、
前記キャンは、樹脂製からなる第1層と薄板金属からなる第2層とで構成される複層構造であり、第2層の薄板金属端部にベローズ部又はダイヤフラム部を設けたことを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項2】
請求項1のキャンド構造の回転電機において、
前記第1層と前記円筒状フレームとの軸方向の対向箇所の一方に、前記第1層を前記円筒フレームに対して軸方向に付勢するバネ機構を設けたことを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記円筒状フレームの軸方向の両端部にはそれぞれ前記円筒状フレームに接合されたエンドピースが設けられ、前記第2層の両端はそれぞれの前記エンドピースに接合されていることを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記第1層の軸方向の両端はそれぞれの前記エンドピースに対向し、該エンドピース間の間隔は前記第1層の軸方向の長さより所定量大きくなっていることを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項5】
請求項2に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記バネ機構を設けた側の前記円筒状フレームと前記第1層との隙間部に内径側に弾性変形可能なOリングを挿入したことを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記ベローズ部は円筒形のベローズであることを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項7】
請求項6のキャンド構造の回転電機において、
前記ベローズ外径側谷部と該谷部が対向する前記円筒状フレームの内径側の間に割りリング型強め輪を設けたことを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキャンド構造の回転電機において、前記ダイヤフラム部は半径方向に広がるベローズで構成されることを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項9】
請求項8のキャンド構造の回転電機において、
前記ダイヤフラム部は前記円筒状フレームの軸方向端面に対向して設けられ、前記ダイヤフラム部を構成するベローズはその前記円筒状フレーム側の谷部と該谷部が対向する前記円筒状フレームの軸方向端面の間に強め輪を設けたことを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記ベローズ部又はダイヤフラム部は前記第2層の薄板金属より厚い薄板金属で構成されていることを特徴とするキャンド構造の回転電機。
【請求項11】
請求項10に記載のキャンド構造の回転電機において、
前記ベローズ部又はダイヤフラム部には連続して前記第2層の薄板金属より厚い薄板金属からなる胴部が設けられており、該胴部で前記第2層と前記フレームとの境界部分を覆っていることを特徴とするキャンド構造の回転電機。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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