説明

キレート樹脂担持繊維状金属吸着材およびその製造方法

【課題】 キレート樹脂が有する金属吸着性等の優れた機能を損なうことなく、キレート樹脂が強固に担持された繊維状の吸着材を提供する。
【解決手段】 金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子、好ましくは平均粒子径が1.0μm以下であるキレート樹脂の微粒子、を公知の方法により製造されたビスコース紡糸原液に混合し、ついでこの紡糸原液を通常の湿式紡糸法により紡糸して繊維状金属吸着材を製造すると、金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子がセルロース繊維より脱落することなく、長期間にわたって、キレート樹脂が有する機能を良好に発揮することが可能な、繊維状金属吸着材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水、用水、環境水等の溶液中の金属の除去・回収に使用される繊維状の金属吸着材および繊維状の金属吸着材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被処理溶液中の金属の除去方法としては、凝集沈殿をはじめとした種々の方法が行われているが、高度な除去・回収法としては、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた方法が広く用いられてきた。一般に、これらの被処理溶液中には高濃度の塩類や有機物が含まれており、イオン交換樹脂による金属除去が困難な場合も多く、キレート樹脂を利用した技術が開示されている(特許文献1ないし6参照)。
【0003】
キレート樹脂は金属の吸着材として有効ではあるが、処理速度が遅い、粒子状のため取り扱い上での制限がある等の問題が指摘されている。このような問題に対し、キレート能を有する繊維に関して種々の開示がある。特許文献7では化学的なグラフト法によるキレート性官能基の導入方法,特許文献8および特許文献9には放射線照射によるラジカル生成・グラフト重合法によるキレート性官能基の導入方法、特許文献10には高温高圧下での汎用繊維への低分子キレート剤の注入方法が開示されている。これらのキレート性繊維は十分な機能を持ち、迅速な吸着特性を示すが、製造上での問題がある。化学的グラフト法は、グラフト可能な繊維種が限定されると共に製造工程が煩雑である。放射線グラフト法は、種々の繊維に適用可能であるが、放射線が使用可能である特定環境での作業となるため、簡便かつ安価な製造方法とはいえない。また、キレート剤の注入・含浸法も種々の繊維に適用可能であるが、開示されている条件では二酸化炭素等の超臨界流体が最も有効とされており、加圧条件も100気圧〜250気圧と非常に高圧であるため、必ずしも簡便な方法であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−70989号公報
【特許文献2】特開2001−9481号公報
【特許文献3】特開2005−238181号公報
【特許文献4】特開2002−249828号公報
【特許文献5】特開2002−173665号公報
【特許文献6】特開2002−80918号公報
【特許文献7】特開2001−113272号
【特許文献8】特許4119966号公報
【特許文献9】特許3247704号公報
【特許文献10】特開2007−247104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、乳化重合や粒子の粉砕により得られるキレート樹脂の微粒子を、公知の方法により製造されたセルロース繊維の紡糸原液であるビスコースに混合・分散し、湿式紡糸することを特徴とする繊維状の金属吸着材およびその簡便な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子を公知の方法により製造されたビスコース紡糸原液に混合し、ついでこの紡糸原液を通常の湿式紡糸法により紡糸して繊維状金属吸着材を製造すると、金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子がセルロース繊維より脱落することなく、長期間にわたって、キレート樹脂が有する機能を良好に発揮することが可能な、繊維状金属吸着材を得ることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子をセルロース繊維の紡糸原液であるビスコースに混合・分散後、キレート樹脂微粒子が分散されたビスコースを公知のビスコース法により湿式紡糸することにより製造された繊維状金属吸着材とその製造方法に関するものである。
【0008】
キレート樹脂微粒子の平均粒子径としては、1.0μm以下であることが好ましい。
また、キレート樹脂の使用量は、セルロースに対して1〜30重量%であることが好ましい。
【0009】
繊維状金属吸着材の製造方法としては、粒径1.0μm以下のキレート樹脂微粒子をビスコース中に混合・分散させる工程(a)と、キレート樹脂の微粒子が混合・分散されたビスコースを湿式紡糸して、繊維状金属吸着材を製造する工程(b)とからなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の製造方法において、ビスコースに混合・分散されるキレート樹脂微粒子は、水系溶液に分散された懸濁液の状態でビスコースに混合・分散されることが好ましい。
本発明について、発明を実施するための形態のところでさらに詳細に説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キレート樹脂微粒子をビスコース紡糸原液に混合し、ついでこの紡糸原液を通常の湿式紡糸法により紡糸して繊維状金属吸着材を製造すると、キレート樹脂の金属吸着機能を損なうことなく、キレート樹脂微粒子の脱落のない繊維状の金属吸着剤を簡便かつ安価な方法で製造することができる。また,キレート樹脂を変更することで、吸着特性を容易に変化させることが可能である。本発明の繊維状金属吸着材は柔軟性に富み、織布、編物、不織布等の布帛に容易に加工することが可能であるため、排水や用水中の金属除去用の吸着性フィルタなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のキレート樹脂担持繊維を充填したカートリッジに、銅を含む水溶液を循環させた時の循環溶液中の銅濃度の変化を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、キレート樹脂の微粒子をセルロース繊維に担持させてなることを特徴とする繊維状金属吸着材に関するものである。
すなわち、本発明は、
「(1)金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子をセルロース繊維の紡糸原液であるビスコースに混合・分散後、キレート樹脂微粒子が分散されたビスコースを公知のビスコース法により湿式紡糸することにより製造された繊維状金属吸着材。
(2)キレート樹脂微粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とする(1)記載の繊維状金属吸着材。
(3)キレート樹脂の使用量が、セルロースに対して1〜30重量%であることを特徴とする(1)または(2)記載の繊維状金属吸着材。
(4)粒径1.0μm以下のキレート樹脂微粒子をビスコース中に混合・分散させる工程(a)と、キレート樹脂の微粒子が混合・分散されたビスコースを湿式紡糸して、繊維状金属吸着材を製造する工程(b)とからなることを特徴とする(1)ないし(3)記載の繊維状金属吸着材の製造方法。
(5)キレート樹脂の微粒子を水系懸濁液の形態で、ビスコースに添加・混合することを特徴とする(4)記載の繊維状金属吸着材の製造方法。」
に関するものである。
【0014】
本発明において、セルロース繊維に担持されるキレート樹脂は特に限定するものではなく、市販のキレート樹脂を利用することができる。代表的なものとしては、キレックス100(イミノ二酢酸型、BioRed社製)、ダイヤイオンCR11(イミノ二酢酸型、三菱化学社製)、ダイヤイオンCR20(ポリアミン型、三菱化学社製)、ムロマックB1(イミノ二酢酸型、ムロマチテクノス社製)、ムロマックOT−65(アミノリン酸型、ムロマチテクノス社製)、ノビアスキレートPA1およびPB1(ジエチレントリアミン四酢酸型、日立ハイテクノロジーズ社製)等が挙げられる。これらの他、吸着・除去する物質に応じて担持させるキレート樹脂を適宜選択すればよい。また、市販キレート樹脂の他、公知の方法により合成されたキレート樹脂を用いてもよい。
【0015】
本発明において、平均粒子径が1.0μm以下のキレート樹脂微粒子が用いられる。このような微粒子の平均粒子径は、光散乱型等の粒度分布測定器により測定される。粒度分布に関しては特に限定はしないが、粒子径1.0μm以上のものが10%以上あるものをビスコースに混合した場合、セルロースのゲル化によるビスコースの増粘が生じて、均一な繊維を得ることが難しい。また,繊維強度の低下,紡糸ノズルの詰まりなどの問題も生じる恐れもある。一方,担持されるキレート樹脂微粒子の粒子径が小さければ小さいほど、単位重量当たりの表面積が大きくなり、表面性状に基づく諸機能が向上するが、微粒子の取り扱いが煩雑であるため平均粒子径0.3〜0.8μmのものが好ましい。
【0016】
キレート樹脂微粒子の製造方法に関しては特に限定するものではないが、粉砕による方法と乳化重合による方法がある。本発明の製造方法においてはいずれのものを用いてもよい。
【0017】
キレート樹脂の粉砕方法としては、公知の任意の粉砕法を用いることができる。粉砕機としては、ジェットミル等の乾式粉砕装置や、トロンミル等の湿式粉砕装置、旋回渦流式粉砕装置等が用いられる。好ましい粉砕方法は、粗砕した後、微粉砕を行う二段階粉砕法が良い。特に、粗砕を乾式粉砕で行い、微粉砕を湿式粉砕で行う二段階粉砕法が最も好ましい。粗砕ではハンマーミルやロールクラッシャー等を用いるのが好ましく、微粉砕ではボールミルや塔式摩砕機等を用いるのが好ましい。
【0018】
乳化重合による方法としては、既知の乳化重合法により、クロロメチルスチレン、グリシジルメタクリレート等の反応性モノマーを含む平均粒子径1.0μm以下の乳化粒子を合成した後、その反応性部位にイミノ二酢酸やポリアミン等を反応させることにより目的のキレート樹脂微粒子を得ることができる。このようにして得られたキレート樹脂微粒子は,遠心分離法や塩析法により分離し,微粉体として得ることができる。
【0019】
セルロース繊維へのキレート樹脂微粒子の担持量は、セルロースに対して1〜30重量%であり、好ましくは2〜20重量%である。1重量%未満であると、セルロース繊維母体中に担持されたキレート樹脂微粒子の数が少なくなり十分な機能を発揮することができなくなる。また、キレート樹脂微粒子の担持量が30重量%を超えると、紡糸性が低下したり、得られたセルロース繊維からキレート樹脂微粒子が脱落しやすくなったり、あるいはセルロース繊維の強度や伸度等の物性が低下したりする傾向が生じる。
【0020】
キレート樹脂微粒子は粉体のまま紡糸工程で投入することも可能であるが、キレート樹脂微粒子を水系溶媒に分散させた懸濁液として投入することで、キレート樹脂微粒子がビスコース中で均一に分散し、紡糸工程での作業性も向上する。キレート樹脂微粒子を水系溶媒に分散させるには、界面活性剤や極性有機溶媒等の適当な分散剤を用いてもよいし、また用いなくてもよい。さらに、キレート樹脂微粒子を得るために、水あるいは界面活性剤極性有機溶媒等の分散剤を含む溶液を用いて湿式粉砕した場合には、水系溶媒の懸濁液となっているので、それをそのまま用いてもよい。乳化重合によりキレート樹脂微粒子を得た場合も,重合に用いた乳化系が湿式紡糸に影響を与えなければ,乳化重合後のキレート樹脂微粒子を含む乳濁液をそのまま用いても良い。懸濁液中におけるキレート樹脂微粒子の割合は、5〜50重量%であるのが好ましい。5重量%未満であると、キレート樹脂濃度が低すぎるため、キレート樹脂微粒子がセルロース繊維母体中に担持されにくくなる傾向にある。50重量%を超えるとキレート樹脂微粒子同士の凝集が生じて安定した懸濁液を得られにくくなるため,繊維の均一性がなくなり、機械的強度が低下してしまう。キレート樹脂微粒子の懸濁液の添加方法としては、公知の任意の方法を採用すればよく、インジェクションポンプによってビスコース中に定量的かつ連続的に添加するのが好ましい。
【0021】
本発明のキレート樹脂担持繊維状金属吸着材の製造は、
キレート樹脂をビスコースに混合・分散させる工程(a)と、
キレート樹脂が混合・分散されたビスコースを紡糸して、キレート樹脂が担持されたセルロース繊維を得る工程(b)とからなる。
工程(a)においては、公知のビスコース製造工程を経て製造されたビスコースに、平均粒子径が1.0μm以下のキレート樹脂微粒子を混合・分散させ、キレート樹脂微が粒子分散されたビスコースを調製する。キレート樹脂微粒子の混合・分散は、ビスコースの製造工程のいずれの段階でも可能であるが、紡糸工程の直前に行うのが好ましい。混合後、長時間経過すると、キレート樹脂微粒子が凝集したり、沈降したりして、均一な状態を維持しにくくなる傾向がある。
工程(b)においては、キレート樹脂微粒子分散ビスコースから、公知のセルロース繊維製造と同様の再生・凝固等からなる紡糸工程を経て、キレート樹脂微粒子が担持されたセルロース繊維を得る。すなわち、キレート樹脂微粒子分散ビスコースを、紡糸ノズルから、硫酸80〜120g/Lおよび硫酸ソーダ50〜360g/Lを主成分として含有する凝固液(液温40〜50℃)中に押し出せばよい。凝固液中に押し出されたキレート樹脂微粒子分散ビスコースは、再生されると共に凝固し、その後延伸を施され、キレート樹脂微粒子が担持されたセルロース繊維が得られる。このように製造されたキレート樹脂担持繊維は、セルロース繊維特有の多孔質構造の内部に、キレート樹脂微粒子が担持された状態になっており、セルロース繊維内に強固に捉えられているため脱落し難くなっている。セルロース繊維の一般的な製造工程における種々の処理は、キレート樹脂微粒子の表面の化学的性状を変化させることがないので、キレート樹脂の表面構造に起因する化学的な機能が損なわれることもない。
【0022】
紡糸されたキレート樹脂担持繊維は、必要に応じて、延伸、切断、乾燥等その他の加工工程を経て製品となる。本発明の製造法によって得られる繊維の形状には格別の制限はなく、長繊維のモノフィラメント、マルチフィラメントや、一定の長さに切断された短繊維(ステープル)の紡績糸でもよい。単繊維径が1〜50μm、好ましくは5〜30μmであると被処理溶液との接触効率を向上することができる。短繊維の繊維長は適宜に設定できるが、通常、51mm以下程度のものが使用される。また、キレート樹脂担持繊維状金属吸着材の最終形状が繊維状に限定されるものではない。キレート樹脂担持繊維状金属吸着材を、織物状もしくは編物状に製織もしくは製編した布帛、さらには他の繊維を混紡した織物や編物に加工することは容易である。このような布帛状の吸着材は、種々のフィルタ用の素材として使用できる。
【0023】
なお、本発明のキレート樹脂担持繊維状金属吸着材を用いて水溶液中の金属を吸着・除去する条件は、本発明の記載によりにより限定されるものではないが、一般に銅、鉛、カドミウム等の吸着に主眼を置く場合は、被処理溶液のpHを3〜10、好ましくは5〜9に調整することにより、それらをより効率よく吸着することができる。この最適pH域は金属により異なるため、吸着・除去目的金属の吸着特性に合わせて調整すれば種々の金属の吸着に適用することができる。金属を吸着したキレート樹脂担持繊維状金属吸着材を、例えば硝酸や塩酸等の酸性水溶液で処理すると、キレートを形成して吸着された金属は速やかに脱離するので、吸着した金属の回収が可能であると共に、吸着材の再生も可能となる。
【0024】
つぎに実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0025】
繊維状金属吸着材の製造
(a) キレート樹脂の製造
キレート樹脂基材粒子の製造は、公知の懸濁重合法に従い行った。グリシジルメタクリレート60g、エチレンジメタクリレート140g、酢酸ブチル200gおよびアゾビスイソブチロニトリル2gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2,000mL中に加え、油滴の径が60μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。反応物を冷却した後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。ついで、一日風乾後、分級して20〜105μmの基材粒子155gを得た。イソプロピルアルコール400mL、水1,600mLにポリエチレンイミン300(日本触媒社製、エポミンSP−003、平均分子量:300)250gを溶解し、得られた基材粒子140gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄した。1M NaOH水溶液1,500mLにクロロ酢酸ナトリウム140gを溶解し、得られたポリアミノ化樹脂を全量入れ、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥し、アミノカルボン酸型キレート樹脂を得た。
【0026】
(b) キレート樹脂の金属吸着量の評価
前記(a)で得られたアミノカルボン酸型キレート樹脂を60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、250mgをとり、下部に孔径20μmのフィルタを挿入した注射筒型カートリッジに充填し、さらに上部にも孔径20μmのフィルタを挿入した。このカートリッジに、アセトニトリル、純水、3M硝酸、純水および0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)の順で、それぞれ10mLずつ通液して、アミノカルボン酸型キレート樹脂のコンディショニングを行った。その後、0.01M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5)で調整された0.01M硫酸銅溶液3mLをゆっくり通液し、アミノカルボン酸型キレート樹脂を銅で飽和させた。その後、純水10mL、0.005Mの硝酸5mLで洗浄後、吸着させた銅を3M硝酸3mLで溶出させた。溶出液を10mLに定容し、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定し、吸光度からアミノカルボン酸型キレート樹脂における銅吸着量を求めた。その結果、銅の吸着量は、0.21mmol Cu/gであり、十分な吸着性を示した。
【0027】
(c) キレート樹脂微粒子懸濁液の製造
前記(a)で得られたアミノカルボン酸型キレート樹脂を乾式粗粉砕した後、さらに湿式粉砕処理を行い、キレート樹脂微粒子の懸濁液(キレート樹脂微粒子濃度は20重量%)を得た。この懸濁液中のキレート樹脂微粒子の数平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定したところ0.7μmであり、最大粒子径は2.0μmであった。
【0028】
(d) 繊維状金属吸着材の製造
前記(c)で得られたキレート樹脂微粒子の分散液を、インジェクションポンプを用いて、紡糸する直前に、公知の方法により製造されたビスコース(セルロース含有率8.8%、アルカリ含有率5.9%)に混合した。混合量は、ビスコース中のセルロースに対して5重量%の割合になるようにした。キレート樹脂微粒子が混合されたビスコースを、ノズル径0.06mm、孔数10,000の紡糸口金から紡糸速度68m/分で紡糸して再生・凝固浴に送った。再生・凝固液は、硫酸:110g/L、硫酸亜鉛:15g/L、芒硝:350g/Lの組成を有し、温度45℃に設定した。紡糸後、延伸・切断を行い、繊度1.5d、カット長51mmのキレート樹脂担持セルロース繊維のステープルを得た。
【実施例2】
【0029】
キレート樹脂担持金属吸着材の評価
(a) 固相抽出法による金属吸着量の評価
実施例1で得られたキレート樹脂担持繊維状金属吸着材を60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、実施例1の(b)と同一の方法で繊維状金属吸着材の銅吸着量を求めた。その結果、銅の吸着量は0.009mmol Cu/gと、担持量(計算上は5重量%)にほぼ相当する吸着量を得ることができた。
【0030】
(b) 金属吸着特性の評価
実施例1で得られたキレート樹脂担持繊維状金属吸着材における金属の吸着特性を調べた。キレート樹脂担持繊維状金属吸着材1.2gを実施例1の(b)と同じカートリッジに充填し、同様の方法でコンディショニングした。0.005M酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.4)で調整した40mg/Lの銅を含む溶液を、5mL/minで充填カートリッジに循環させ、0、10、30、60、120、180分後に循環溶液中の銅濃度を原子吸光光度法で測定した。図1に示すとおり,迅速に銅を吸着することが分かった。また、最終溶液量から求めた銅の吸着量は0.01mmol Cu/gであり、前記(e)における評価測定値と一致した。
【0031】
(c) 金属吸着・回収特性の評価
実施例1で得られたキレート樹脂担持繊維状金属吸着材における金属の吸着・回収特性を調べた。実施例1の(b)と同様にカートリッジに充填し、コンディショニングした。硝酸あるいはアンモニア水を用いてpH2.43、5.63、7.66および9.03に調整した1mg/Lの金属元素(As(V)、Cd、Co、Cr(III)、Cu、Fe(III)、Mn、Ni、Pb、Ti、V、Zn)を含む溶液50mLを、5mL/minで充填カートリッジに循環させ、1時間後にその溶液中の金属濃度を測定した。その後、カートリッジ内の繊維状金属吸着材を純水で洗浄し、さらに2M硝酸50mLを一時間循環させて繊維状金属吸着材に吸着された金属を溶出させ、溶出液中の金属濃度を測定した。金属濃度の測定にはICP発光分光分析法を用い、定量値より金属元素の吸着率および回収率を求めた。結果を表1に示す。アミノカルボン酸型キレート樹脂と親和性の高い金属に関しては,高い吸着回収率が得られた。一方、アミノカルボン酸型官能基への錯形成速度が遅いとされるクロム(III)の吸着率もかなり高く、繊維化することにより平衡速度が改善されたためと考えられる。さらに、オキソ酸を形成して陰イオンとして存在するヒ素(V)やバナジウムも他の金属同様に高度に吸着できることが分かった。一部の金属に関しては、吸着率が高いにもかかわらず回収率が低いものがあったが、セルロース骨格の水酸基あるいはセルロースと反応した硫黄成分と相互作用したためと推察された。
【0032】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、キレート樹脂が有する金属吸着性機能が損なわれたり、キレート樹脂微粒子がセルロース繊維より脱落することなく、長期間にわたって、キレート樹脂が有する機能を良好に発揮することが可能な繊維状金属吸着材が、湿式混合紡糸という簡便な方法で製造することができ、広範囲な金属の捕集能に優れたキレート性繊維を安価に提供することができる。また、キレート樹脂を変更することで、吸着特性を容易に変化させることが可能である。本発明の繊維状金属吸着材は柔軟性に富み、織布、編物、不織布等の布帛に容易に加工することが可能であるため、排水や用水中の金属除去用の吸着性フィルタ、環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収用吸着材を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属吸着性を有するキレート樹脂の微粒子をセルロース繊維の紡糸原液であるビスコースに混合・分散後、キレート樹脂微粒子が分散されたビスコースを公知のビスコース法により湿式紡糸することにより製造された繊維状金属吸着材。
【請求項2】
キレート樹脂微粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載の繊維状金属吸着材。
【請求項3】
キレート樹脂の使用量が、セルロースに対して1〜30重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の繊維状金属吸着材。
【請求項4】
粒径1.0μm以下のキレート樹脂微粒子をビスコース中に混合・分散させる工程(a)と、キレート樹脂の微粒子が混合・分散されたビスコースを湿式紡糸して、繊維状金属吸着材を製造する工程(b)とからなることを特徴とする請求項1ないし請求項3記載の繊維状金属吸着材の製造方法。
【請求項5】
キレート樹脂の微粒子を水系懸濁液の形態で、ビスコースに添加・混合することを特徴とする請求項4記載の繊維状金属吸着材の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−92865(P2011−92865A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249694(P2009−249694)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第70回分析化学討論会 社団法人 日本分析化学会 2009年5月16日
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【出願人】(000103622)オーミケンシ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】