説明

クローラロボット

【課題】 高い障害物や段差を超えることができるクローラロボットを提供する。
【解決手段】
クローラロボットは、ボデイ10と、このボデイ10の左右に設けられた一対のクローラ20を備えている。このボデイ10の後端部にはブラケット32を介して弾性体31の一端部が固定されている。この弾性体31は平板形状をなしボデイの後方へ水平に延びており、上下方向に弾性変形可能である。クローラロボットが障害物や段差を上る際に傾くと、弾性体31が地面Gに当たって弾性変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物や段差を乗り越えるのに適したクローラロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なクローラロボットは、ボデイの左右に一対のクローラを設けることにより構成されており、整地のみならず不整地での走行にも適し、さらに障害物や段差を乗り越えることもできる。
【0003】
しかし障害物や段差が高い場合には、クローラロボットがこれを乗り越えるのが困難になる。理論的にはクローラロボットが障害物や段差を乗り越えるにはクローラロボットの重心が段鼻を乗り越える必要があるため、クローラの推進力が不足したり、クローラと障害物や段差との摩擦が不充分な場合はクローラが段鼻まで達しないため当然に乗り越えられない。
また、これらが充分でクローラの前端部が起立面を上り切って障害物や段差の段鼻に達したとしても、クローラの後端部が障害物や段差に近づくようにクローラロボットを更に前進させて、クローラロボットの重心に段鼻を乗り越えさせなければクローラロボットが乗り越えることはない。単純化してクローラロボットの重心がクローラ長さの中心、かつ、接地面上であるとすれば、傾斜が45°以下であれば段差の2√2倍以上のクローラ長さのクローラロボットは乗り越え可能である。しかし、実際には重心はクローラロボット高さの1/3程度にあるのが普通であるから、クローラ長さ/クローラロボット高さの比率の小さいクローラロボットでは段差を上るクローラの傾斜があまり大きくなくても、クローラロボットの重心がクローラの後端部(接地点)より後方となるため、クローラロボットは後へ倒れてしまう。
【0004】
したがって、高い障害物や段差を乗り越えるには、(1)クローラを高くする、(2)クローラのラグのグリップ力を向上させる、(3)クローラを長くする、(4)重心を下げる等の対策を必要とする。しかし、このような対策ではクローラロボットが長大化し重くなってしまうし、ロボットとして実際に働く上部構造が制約されてしまう。
例えば、床下空間等の点検への使用のように空間高さに制約がある場合には、クローラ長さを長くでないし、点検用ビデオカメラの高さを下げて重心を下げることはできないため、乗り越え高さを向上させるにはクローラの高さだけを変えることになるが、そうすると、ビデオカメラが左右を向いた時にクローラがビデオカメラの視界を遮ってしまう。
【0005】
そこで、特許文献1、2に開示されているように、ボデイの前端部または後端部にフリッパを回動可能に設けたクローラロボットが開発されている。この回動可能なフリッパは障害物や段差の乗り越え性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−63110号公報
【特許文献2】WO2008/90946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,2に開示されたクローラロボットでは、フリッパを回動制御する機構を必要とし、製造コストの上昇を招く。また、フリッパとしてクローラ構造を用いる場合には重量の増大をも招く。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ボデイと、ボデイの左右に設けられたクローラとを備えたクローラロボットにおいて、さらに弾性体を備え、この弾性体は、一端部が上記ボデイの後端部に固定されて、ボデイの後方へ延び、上下方向に弾性変形可能であることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、クローラの前端部が障害物や段差の起立面を上り始めると、クローラが傾き、クローラの後端部に取り付けられた弾性体が地面に押し付けられて弾性変形する。この弾性体の弾性力により、クローラの前端部と上記起立面との摩擦を増大させることができるため、クローラの前端部が起立面を上ることができる。
また、この弾性体の長さ分だけクローラ長さが伸びる効果があり、かつ、弾性体の質量は小さいのでクローラロボットの重心位置の比率をより前端側にする効果がある。その結果、クローラロボットの荷重に起因した、前倒し方向のモーメントがクローラロボットに働くため、弾性体の弾性力による同方向のモーメントと協働して、クローラロボットが段差を乗り越すのをより一層確実にできる。
また、上記弾性体の弾性力により、クローラの前端部を障害物や段差の段鼻(またはそれに対応する部位)に押し付けるので、このクローラはこの部位に良好に掛かり、さらにクローラ後端部が浮いて(後端部の駆動力がなくても)弾性体で着地している状態でクローラロボットを前進させ重心を段鼻より前に進めることができるため段差を乗り越えることができる。
また、上記弾性体の弾性力はクローラロボットに前倒れ方向のモーメントを付与するので、クローラロボットが後へ倒れるのを防止することができる。
しかも、上記のような乗り越え性能の向上、倒れ防止の役割を担う弾性体は、回動制御を必要とせず、クローラロボットの製造コスト増大を回避でき、また重量の増大も回避できる。
【0010】
好ましくは、上記弾性体が平板形状をなし、その厚み方向が上下を向く。
この構成によれば、弾性体の弾性変形を良好に行うことができる。
【0011】
好ましくは、上記弾性体が、上記クローラの下面の延長面と平行に延びるとともに当該延長面から上方に離間し、上記クローラの高さ方向の中心より下方に位置している。
この構成によれば、弾性体がクローラの下面の延長面から上方に離間しているのでクローラロボットの走行の支障にならず、しかも、弾性体がクローラの高さ方向の中心より下方に位置しているので、クローラの後端からの弾性体の突出長さが比較的短くても、クローラが障害物や段差を上り始めてから小さな傾斜で弾性体が地面に当たり弾性変形することができる。
【0012】
好ましくは、上記弾性体とこの弾性体を上記ボデイの後端部に固定する取付手段により、弾性体アッセンブリが構成され、この弾性体アッセンブリの最下位点が、上記ボデイの下面と同一高さか、これより高い。
この構成によれば、クローラロボットの走行中、ボデイの下を通過する小さな障害物が弾性体アッセンブリに当たることがなく、より一層円滑な走行を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクローラロボットによれば、コストを掛けずに障害物や段差の乗り越え性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係わるクローラロボットの平面図である。
【図2】図1中II-II線に沿うクローラロボットの縦断面図である。
【図3】同クローラロボットが障害物を乗り越える工程を、順を追って説明する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例に係わる軽量小型のクローラロボット1について、図面を参照しながら説明する。このクローラロボット1は、建物の床下点検等に用いられる。
最初にクローラロボット1の基本構成を図1,図2を参照しながら説明する。図1には理解を容易にするために、前後左右を矢印で示す。このクローラロボット1は、前後方向に細長いボデイ10と、このボデイ10の左右に設けられた一対のクローラ20とを備えている。
【0016】
上記ボデイ10の前部上面には、水平回動可能なビデオカメラ11が搭載されている。ボデイ10の後端にはU字形のグリップ12が固定されており、このグリップ12を掴んでクローラロボット1を持ち運びできるようになっている。
【0017】
上記ボデイ10にはさらに送受信機(図示しない)が搭載され、リモートコントローラ(図示しない)の送受信機との間で通信可能である。操作者は離れた場所で、ビデオカメラ11で撮影された映像を見ながらリモートコントローラの操作によりクローラロボット1の走行制御を行う。
【0018】
上記ボデイ10には、クローラロボット1の求められる役割に応じて、ロボットアーム等の種々の付属器具やセンサーを搭載してもよい。
本実施形態では、ボデイ10の前部にバッテリが内蔵されており、そのためクローラロボット1の重心は、クローラ20の前後方向中央より前に位置している。
【0019】
上記クローラ20の各々は、左右一対の垂直をなす側板21と、これら側板21の前後端部間に回転可能に支持されたスプロケット(図示しない)と、これらスプロケット間に掛け渡されたゴム(弾性材料)製の無端状ベルト22とを有している。
前後いずれかのスプロケットはボデイ10に内蔵されたモータ(図示しない)により正逆方向に駆動されるようになっている。
上記ベルト22は、図では簡略化して示すが、スプロケットと噛み合う無端状のベルト本体と、その外周に間隔をおいて形成された多数の接地ラグとを有している。
【0020】
図2は、クローラロボット1を地面Gに載せた状態で示す。クローラ20の下面(より具体的にはクローラ20の下側部の接地ラグの外接面)およびその延長面は、この地面G上に位置している。なお、本明細書で「地面G」とは広義に解釈するものとし、クローラロボット1を床下点検に用いる場合には、床下のコンクリート面が地面Gとなる。
【0021】
次に、本発明の特徴部について説明する。上記ボデイ10の後端部には、弾性体31がブラケット32を介して固定されている。
【0022】
上記ブラケット32は断面L字形をなし、垂直の第1取付片32aと水平の第2取付片32bとを有しており、ボデイ10の後端面に着脱可能に固定されている。具体的には、上記グリップ12の一対の脚部から同軸をなす小径の雄ねじ部12aが突出し、この雄ねじ12aがブラケット32の第1取付片32aとボデイ10の後壁を貫通しており、この雄ねじ12aにナット33を螺合して締め付けることにより、ブラケット32がボデイ10に固定されている。
【0023】
上記ブラケット32の第2取付片32bはボデイ10から後方に水平に延びている。
上記弾性体31は自然状態で矩形の平板からなり、その一辺をなす端部が上記ブラケット32の第2取付片32bの上面にねじ34により着脱可能に固定されている。これにより、弾性体31は、上記ボデイ10に片持ち状態で支持され、ボデイ10から後方に水平に、すなわち地面Gと平行に延びている。
【0024】
上記ブラケット32とナット33ねじ33により、弾性体31をボデイ10に着脱可能に固定するための取付手段が構成されている。そして、この取付手段と弾性体31により、弾性体アッセンブリ30が構成されている。
【0025】
上記弾性体31は上記地面Gから離れており、その高さH1(厚み方向中心の高さ)は、クローラ20の高さ方向の中心の高さH1より低い。
上記ブラケット32の取付片32bの下面(上記弾性体アッセンブリ30の最下位点)の高さH3は、ボデイ10の下面の高さH4と等しい。なお、H3>H4でもよい。
【0026】
上記弾性体31は、例えばウレタンゴム(JIS規格K6397 Uグループ)であり、望ましい硬度は、80〜100(A80〜A100:JIS K6253による)である。本実施形態では、硬度90のものを用いている。
【0027】
本実施形態をより具体的に説明する。クローラロボット1は、前述したように小型であり、前後方向の長さを600mm以下、左右方向の幅を600mm以下、高さを400mm以下とし、クローラ20の高さを200mm以下とするのが望ましい。
本実施形態では、クローラロボット1の前後方向の長さを403mm、左右方向の幅を230mm、高さを230mmとし、クローラ20の高さを130mmとする。
【0028】
また、弾性体31の左右方向の幅をボデイ10の幅の10〜100%、厚みを5〜20mm、クローラ20の後端からの突出長さを30〜200mm、弾性体20の下面の地面Gから高さH1を100mm以下とするのが望ましい。
本実施形態では、弾性体31の幅をボデイ10の幅とほぼ等しい130mm、厚みを10mm、前後方向の寸法を120mm、クローラ20の後端からの突出長さを100mmとし、弾性体31の高さH1を30mmとする。
【0029】
上記構成をなすクローラロボット1の作用を説明する。クローラロボット1を床下のコンクリート面からなる地面Gにおき、遠隔操作により走行させ、ビデオカメラ11を用いて床下の点検を行う。
【0030】
クローラロボット1の走行中、比較的小さな障害物は、ボデイ10の下をくぐり抜ける。この際、弾性体アッセンブリ30の最下位点であるブラケット32の第2取付片32bの下面がボデイ10の下面と同一高さであるので、この弾性体アッセンブリ30が小さな障害物に当たることはなく、円滑な走行が行える。
【0031】
クローラロボット1は、床下において基礎、配管、梁等の高い障害物や段差を乗り越える必要がある。以下、断面矩形の障害物100を例にとって、クローラロボット1の乗り越え作用を説明する。図3(A)はクローラロボット1が障害物100に向かって前進している状態を示す。
【0032】
図3(B)に示すようにクローラ20の前端部が障害物100の起立面101に当たると(当接点を符号P1で示す)、クローラ20は起立面101を上り始める。この際、クローラ20の後端部が地面Gに接し(当接点を符号P2で示す)、クローラ20の前進力によりクローラ20の前端部がクローラ20の起立面101に強く当たるため、大きな摩擦が生じており、これによりクローラ20が起立面101を上ることができる。
【0033】
さらにクローラロボット1のクローラ20の前端部が起立面101を上ると、図3(C)に示すように、弾性体31が地面Gに当たり(当接点を符号P3で示す)、上下方向に弾性変形する。
なお、上記弾性体31はクローラ20の高さ方向の中心より下方に位置しているので、比較的早い時期に、すなわちクローラ20の傾斜が比較的小さい時期に、地面Gに当たって弾性変形することができる。
【0034】
弾性体31が地面Gに当たり弾性変形すると、地面Gからの反力により、当接点P2を支点として図中時計回り方向(クローラロボット1を前倒しする方向)のモーメントMが、クローラロボット1に付与される。また、クローラロボット1の重心Cがクローラ20の前後方向の中心より前にあるので、クローラロボット1の荷重に起因した同方向のモーメントも加わる。これらモーメントより、クローラロボット1が後方へ倒れるのを防止することができる。
【0035】
上記弾性体31の弾性変形に伴うモーメントMは、図3(C)に示すように、クローラロボット1の傾斜が増大するにつれて増大するため、クローラ20の前端部は当接点P1で起立面101に強く当たることができ、両者の間の摩擦によりクローラ20は起立面101を上ることができる。
【0036】
さらにクローラロボット1が上ると、図3(D)に示すように、クローラ20は障害物100の段鼻102に乗り始める。クローラ20の前進力はクローラ20の段鼻102に対する引っ掛かりに寄与しないが、上述したように弾性体31の弾性変形に伴う大きなモーメントMが作用し続けるため、クローラ20は段鼻102に強く押されて引っ掛かり、前進することができる。この際、上記モーメントMがクローラロボット1の後方への倒れ防止の役割をも担い続けていることは勿論である。
【0037】
さらにクローラロボット1が前進すると、図3(E)に示すように、段鼻102でのクローラロボット1の荷重負担が増大し、相対的にクローラ20の後端での荷重負担が軽くなるので、クローラ20の後端部は地面Gから浮き上がり、弾性変形量が減少した弾性体31だけでクローラロボット1の後側の荷重を負担する。この状態では、クローラロボット1の傾斜が緩くなるため、後方への倒れを防止できる。なお、クローラロボット1の重心Cは、前後方向中心より前にあるので、段鼻102に達してから比較的早い段階で図3(E)の姿勢にすることができる。
【0038】
さらにクローラロボット1が前進すると、図3(F)に示すように、クローラロボット1の重心Cが段鼻102の真上に達し、この段鼻102でクローラロボット1の全荷重を担う。この時には弾性体31は平板形状に戻る。
【0039】
さらにクローラロボット1が前進すると、図3(G)に示すように、クローラロボット1は障害物100を乗り越えることができる。
【0040】
前述した寸法を有するクローラロボット1では、弾性体31を取り付けない場合に最大85mmの高さの障害物しか乗り越えられなかったが、弾性体31を取り付けた場合には最大150mmの高さの障害物を乗り越えることができた。
【0041】
本発明は、上記実施例に制約されず、種々の態様を採用することができる。例えば、弾性体を後方に向かって徐々に低くなるように傾斜してボデイに固定してもよい。
弾性体をロッド形状にしてボデイの左右方向に間隔をおいて複数並べてもよい。
弾性体が水平に配置される場合に地面とほぼ接するように低く配置してもよい。
弾性体が傾斜している場合、その後端を地面にほぼ接するように低く配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、障害物や段差を乗り越えて走行するクローラロボットに適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 ボデイ
20 クローラ
30 弾性体アッセンブリ
31 弾性体
32 ブラケット(取付手段)
100 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボデイと、ボデイの左右に設けられたクローラとを備えたクローラロボットにおいて、
さらに弾性体を備え、この弾性体は、一端部が上記ボデイの後端部に固定されて、ボデイの後方へ延び、上下方向に弾性変形可能であることを特徴とするクローラロボット。
【請求項2】
上記弾性体が平板形状をなし、その厚み方向が上下を向くことを特徴とする請求項1に記載のクローラロボット。
【請求項3】
上記弾性体が、上記クローラの下面の延長面と平行に延びるとともに当該延長面から上方に離間し、上記クローラの高さ方向の中心より下方に位置していることを特徴とする請求項2に記載のクローラロボット。
【請求項4】
上記弾性体とこの弾性体を上記ボデイの後端部に固定する取付手段により、弾性体アッセンブリが構成され、この弾性体アッセンブリの最下位点が、上記ボデイの下面と同一高さか、これより高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクローラロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232631(P2012−232631A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101166(P2011−101166)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)