説明

グランド型ピアノのダンパー

【課題】 押鍵時にダンパーレバーから鍵に作用する反力を一定にし、タッチ重さを一定にすることによって、安定した良好なタッチ感を得ることができるグランド型ピアノのダンパーを提供する。
【解決手段】 ダンパーレバーレール21と、後端部においてダンパーレバーレール21に回動自在に支持され、前後方向に延び、押鍵された鍵5aで押圧されることによって上方に回動するダンパーレバー22と、ダンパーレバー22に連結され、ダンパーレバー22の回動に伴って上方に移動し、弦Sから離れるダンパーヘッド23と、ダンパーレバー22および鍵5aの少なくとも一方に設けられ、鍵5aの押鍵に伴うダンパーレバー22の回動中、ダンパーレバー22と鍵5aとの接触位置を一定に保持する接触位置保持手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動自在の鍵が押鍵されるのに伴って作動し、弦の振動を許容するグランド型ピアノのダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパーとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパーは、ダンパーレバーレールと、鍵ごとに設けられた複数のダンパーレバーおよびダンパーヘッドを備えている。ダンパーレバーレールはピアノ本体に固定されている。各ダンパーレバーは、後端部においてダンパーレバーレールに回動自在に支持され、前後方向に延びている。鍵の離鍵状態においては、ダンパーレバーは若干、後ろ上がりに傾斜し、鍵は後ろ下がりに傾斜しており、ダンパーレバーの前端部が、鍵の後端部に上方から対向している。鍵およびダンパーレバーはいずれも矩形の断面を有し、ダンパーレバーの下面と鍵の上面はいずれも平坦になっている。各ダンパーヘッドは、ダンパーレバーの上側に連結され、離鍵状態において弦に上方から当接している。
【0003】
以上の構成により、鍵が押鍵されると、鍵が回動するのに伴い、その後端部でダンパーレバーを押圧することによって、ダンパーレバーが上方に回動する。この回動に伴い、ダンパーヘッドが、上方に移動することによって、弦から離れ、打弦による弦の振動を許容する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−171341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来のダンパーでは、以下の理由から、押鍵時の鍵のタッチ重さが変化し、安定した良好なタッチ感を得ることができない。図7は、従来の鍵51とダンパーレバー52との位置関係および動作を模式的に示したものである。同図(a)に示す離鍵状態から鍵51が押鍵されると、鍵51は後ろ下がりに傾斜し、ダンパーレバー52は後ろ上がりに傾斜した状態で、鍵51の上面がダンパーレバー52の下面に接触する。このため、この接触の開始時の接触位置Aは、ダンパーレバー52では前端になり、鍵51では後端よりも前側の位置になる(同図(b))。その後、鍵51の回動が進むにつれて、鍵51は後ろ上がりに傾斜し、ダンパーレバー52は後ろ下がりに傾斜した状態になる。このように、このときの接触位置Bは、鍵51では後端になり、ダンパーレバー52では前端よりも後ろ側の位置になる(同図(c))。
【0006】
以上のように、押鍵に伴う鍵51およびダンパーレバー52の回動中、両者の接触位置が前側の接触位置Aから後ろ側の接触位置Bに変化する。これに伴い、支点から接触位置までの腕の長さが、ダンパーレバー52では短くなり、鍵51では長くなるため、ダンパーレバー52から鍵51に作用する反力が大きくなり、タッチ重さが重くなる。このため、タッチ感が変化し、安定した良好なタッチ感を得ることができない。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵時にダンパーレバーから鍵に作用する反力を一定にし、タッチ重さを一定にすることによって、安定した良好なタッチ感を得ることができるグランド型ピアノのダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、揺動自在の鍵が押鍵されるのに伴って作動し、弦の振動を許容するグランド型ピアノのダンパーであって、ダンパーレバーレールと、後端部においてダンパーレバーレールに回動自在に支持され、前後方向に延び、押鍵された鍵で押圧されることによって上方に回動するダンパーレバーと、ダンパーレバーに連結され、ダンパーレバーの回動に伴って上方に移動し、弦から離れるダンパーヘッドと、ダンパーレバーおよび鍵の少なくとも一方に設けられ、鍵の押鍵に伴うダンパーレバーの回動中、ダンパーレバーと鍵との接触位置を一定に保持する接触位置保持手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このグランド型ピアノのダンパーによれば、鍵が押鍵されると、鍵は、ダンパーレバーに接触した状態でこれを押圧し、上方に回動させる。この回動に伴い、ダンパーヘッドが、上方に移動することによって弦から離れ、弦の振動を許容する。
【0010】
また、ダンパーレバーおよび鍵の少なくとも一方には、鍵の押鍵に伴うダンパーレバーの回動中、ダンパーレバーと鍵との接触位置を一定に保持する接触位置保持手段が設けられている。このため、押鍵時において、鍵とダンパーレバーとの接触位置が変化することはなく、ダンパーレバーから鍵に作用する反力が一定になり、タッチ重さが一定になる結果、安定した良好なタッチ感を得ることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパーにおいて、接触位置保持手段は、ダンパーレバーの下面に設けられ、押鍵された鍵の上面が接触する突起であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、押鍵された鍵の回動に伴い、鍵の上面がダンパーレバーの突起に接触する。この状態では、ダンパーレバーの下面の突起よりも後ろ側に、鍵の上面とダンパーレバーの下面の間に間隙が生じる。このため、押鍵に伴う鍵およびダンパーレバーの回動中、鍵の後端部がダンパーレバーに接触することはなく、鍵は突起を介してのみダンパーレバーに接触するので、鍵とダンパーレバーとの接触位置を一定に保持することができる。このように、ダンパーレバーに突起を設けただけの単純な構成で、請求項1の作用を容易に得ることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のグランド型ピアノのダンパーにおいて、突起は、ダンパーレバーの下面の前端部に配置されていることを特徴とする。
【0014】
前述したように、通常のダンパーでは、鍵とダンパーレバーとの接触の開始時に、鍵はダンパーレバーの前端に接触する。上記の構成によれば、突起がダンパーレバーの下面の前端部に配置されているので、通常のダンパーと比較し、鍵とダンパーレバーとの接触位置は変わらず、タッチ重さも基本的に変わらない。したがって、通常のダンパーに代えて、鍵のタッチ重さを変更することなく、このダンパーを用いることができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパーにおいて、接触位置保持手段は、ダンパーレバーの下面の鍵の接触位置よりも後ろ側に形成され、鍵の押鍵に伴うダンパーレバーの回動中、鍵の上面の後端部をダンパーレバーに接触しないように逃がすための凹部であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、押鍵された鍵の回動に伴い、鍵は、ダンパーレバーの下面の凹部よりも前側の位置で接触する。鍵およびダンパーレバーの回動が進んでも、鍵の上面の後端部は、ダンパーレバーの凹部に入り込むようにして逃がされ、ダンパーレバーには接触しない。このため、鍵およびダンパーレバーの回動中、両者の接触位置を一定に保持することができる。このように、ダンパーレバーに凹部を形成しただけの単純な構成で、請求項1の作用を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態によるダンパーを備えたグランドピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のダンパーおよび鍵とその周辺部を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1のダンパーのダンパーレバーと鍵との位置関係を模式的に示す側面図であり、(a)は離鍵状態、(b)は鍵とダンパーレバーとの接触の開始時、(c)は鍵の回動の終了時を示す。
【図4】鍵の押鍵深さと鍵に作用する静荷重との関係を模式的に示すグラフである。
【図5】第2実施形態によるダンパーのダンパーレバーと鍵との位置関係を模式的に示す側面図であり、(a)は離鍵状態、(b)は鍵とダンパーレバーとの接触の開始時、(c)は鍵の回動の終了時を示す。
【図6】第3実施形態によるダンパーのダンパーレバーと鍵との位置関係を模式的に示す側面図であり、(a)は離鍵状態、(b)は鍵とダンパーレバーとの接触の開始時、(c)は鍵の回動の終了時を示す。
【図7】従来のダンパーのダンパーレバーと鍵との位置関係を模式的に示す側面図であり、(a)は離鍵状態、(b)は鍵とダンパーレバーとの接触の開始時、(c)は鍵の回動の終了時を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるダンパー1を備えたアコースティックタイプのグランドピアノ2の鍵盤装置3を、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、グランドピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」とし、説明を行うものとする。
【0019】
同図に示すように、鍵盤装置3は、筬4、鍵盤5、アクション6および複数のハンマー7(いずれも1つのみ図示)を備えている。
【0020】
鍵盤5は、白鍵および黒鍵から成る複数(例えば88個)の鍵5a(1つのみ図示)で構成されており、筬4に載置されている。各鍵5aは、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、筬4に立設されたバランスピン8に揺動自在に支持されており、前後方向に延びている。また、鍵5aは、矩形の断面を有しており、その上面は平坦になっている。さらに、鍵5aの上面には、バランスピン8よりも後ろ側の位置に、キャプスタンスクリュー5bが取り付けられており、鍵5aの上面の後端部には、所定の厚さを有するフェルト5cが貼り付けられている。離鍵状態において、鍵5aは後ろ下がりに傾斜している。
【0021】
アクション6は、鍵盤5の後部の上方に配置されており、鍵5aごとに、ウィッペン11、レペティションレバー12およびジャック13を有している。ウィッペン11は、その後端部において、ウィッペンフレンジ11aを介してウィッペンレール10に回動自在に支持され、中央において、キャプスタンスクリュー5bを介して鍵5aに載置されている。
【0022】
レペティションレバー12は、その中央においてウィッペン11に回動自在に取り付けられている。レペティションレバー12の前部には、上下方向に貫通するジャック案内孔12aが形成されている。
【0023】
ジャック13は、上下方向に延びる突上げ部13aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びる係合部13bとから、L字状に形成されており、その角部においてウィッペン11に回動自在に取り付けられている。突上げ部13aの上端部は、レペティションレバー12のジャック案内孔12aに係合している。
【0024】
各ハンマー7は、鍵5aごとに設けられ、前後方向に延びるハンマーシャンク7aと、ハンマーシャンク7aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド7bを備えており、ハンマーシャンク7aの前端部において、シャンクフレンジ7cを介してハンマーシャンクレール14に回動自在に支持されている。ハンマーシャンク7aの下面の前部には、円柱状のシャンクローラ7dが固定されている。離鍵状態では、ハンマー7が、レペティションレバー12のジャック案内孔12a付近にシャンクローラ7dを介して載置され、ジャック13の突上げ部13aがシャンクローラ7dと微小な間隔を存して対向している。
【0025】
以上の構成によれば、鍵5aが押鍵されると、鍵5aがバランスピン8を中心として図1の時計方向に回動するのに伴い、ウィッペン11が、キャプスタンスクリュー5bを介して鍵5aに突き上げられ、反時計方向に回動する。このウィッペン11の回動に伴い、レペティションレバー12およびジャック13が上方に移動し、ジャック13の突上げ部13aがシャンクローラ7dを介してハンマー7を突き上げることによって、ハンマー7が時計方向に回動する。そして、この回動の途中で、ジャック13がシャンクローラ7dから抜け、その直後において、ハンマーヘッド7bがその上方に水平に張られた弦Sを打弦する。
【0026】
図1および図2に示すように、本発明に係るダンパー1は、鍵盤5の後方に配置されており、ダンパーレバーレール21と、鍵5aごとに設けられた複数のダンパーレバー22およびダンパーヘッド23(いずれも1つのみ図示)を備えている。
【0027】
ダンパーレバーレール21は、例えばアルミニウムの押出成形品で構成され、鍵盤5の左右方向の長さの全体にわたって延びている。また、ダンパーレバーレール21は、ダンパーレバーレール介物を介して、ピアノ本体(いずれも図示せず)に固定されている。
【0028】
各ダンパーレバー22は、例えば合成樹脂の成形品で構成されており、その後端部において、ダンパーレバーフレンジ24を介してダンパーレバーレール21に回動自在に支持され、前後方向に延びている。また、ダンパーレバー22の下面の前端部には、突起22aが一体に形成されている。突起22aは、ダンパーレバー22の左右方向の幅全体にわたって設けられており、図3に示すようなほぼ半円状の一定の断面を有している。突起22aの先端部の曲率は、他の部分よりも大きくなっている。
【0029】
また、ダンパーレバー22には、2つの重り22b、22bが取り付けられるとともに、下面にパイロットスクリュー26が固定されている。ダンパーレバー22は、パイロットスクリュー26を介してリフティングレール29に載置されている。離鍵状態では、ダンパーレバー22は、若干、後ろ上がりに傾斜し、その前端部が、対応する鍵5aの後端部に上方から対向している。
【0030】
また、ダンパーレバー22の中央には、ダンパーワイヤフレンジ25が回動自在に取り付けられている。ダンパーワイヤフレンジ25の上面には、ワイヤ取付孔(図示せず)が形成されており、このワイヤ取付孔に、ダンパーワイヤ27が差し込まれている。ダンパーワイヤ27は、上下方向に延び、ダンパーワイヤガイドホルダ28のガイド孔28aに通されている。
【0031】
ダンパーヘッド23は、ヘッド本体23aと、ヘッド本体23aの下面に取り付けられた前後2つのダンパーフェルト23b、23bで構成されている。ヘッド本体23aの一方の側面には、ワイヤ挿入穴(図示せず)が形成されており、このワイヤ挿入穴に、ダンパーワイヤ27の上端部が差し込まれている。ダンパーヘッド23は、離鍵状態において、弦Sに上方から当接している。
【0032】
以上の構成によれば、鍵5aが押鍵されると、鍵5aは、図1の時計方向に回動し、フェルト5cを介して、ダンパーレバー22に接触し、これを押圧する。これにより、ダンパーレバー22は、その後端部を中心として反時計方向に回動する。この回動に伴い、ダンパーワイヤ27がダンパーワイヤホルダ28のガイド孔28aで案内されながら、ダンパーワイヤフレンジ25、ダンパーワイヤ27およびダンパーヘッド23が上方に移動する。これにより、ダンパーヘッド23が弦Sから離れる。そして、その状態で、回動するハンマー7が弦Sを打弦することによって、弦Sが振動が許容され、ピアノ音が発生する。
【0033】
一方、鍵5aが離鍵されると、ダンパーレバー22が時計方向に復帰回動するのに伴い、上記と逆の動作で、ダンパーヘッド23などが下方に移動し、ダンパーヘッド23が弦Sに当接することによって、弦Sの振動が停止され、止音される。
【0034】
次に、図3を参照しながら、ダンパー1の動作中の鍵5aとダンパーレバー22との位置関係について説明する。図3(a)に示す離鍵状態から鍵5aが押鍵されると、鍵5aは後ろ下がりに傾斜し、ダンパーレバー22は後ろ上がりに傾斜した状態で、鍵5aの上面がダンパーレバー22の突起22aに接触する(同図(b))。この状態では、ダンパーレバー22の下面の突起22aよりも後ろ側に、鍵5aの上面とダンパーレバー22の下面の間に間隙が生じる。このため、その後、同図(c)に示す鍵5aの回動の終了時に至るまで、鍵5aの後端部がダンパーレバー22に接触することはなく、鍵5aはダンパーレバー22の突起22aに接触したままである。
【0035】
以上のように、押鍵に伴う鍵5aおよびダンパーレバー22の回動中、鍵5aとダンパーレバー22との接触位置が変化することなく、一定に保持されるので、ダンパーレバー22から鍵5aに作用する反力が一定になり、タッチ重さが一定になる結果、安定した良好なタッチ感を得ることができる。また、このような効果を、ダンパーレバー22に突起22aを設けただけの単純な構成で、容易に得ることができる。
【0036】
また、突起22aがダンパーレバー22の下面の前端部に配置されているので、通常のダンパーと比較し、鍵5aとダンパーレバー22との接触位置は変わらず、タッチ重さも基本的に変わらない。したがって、通常のダンパーに代えて、鍵5aのタッチ重さを変更することなく、ダンパー1を用いることができる。
【0037】
図4は、上述した効果を確認するためにダンパー1に対して行った実験の結果を、比較例とともに示している。この実験では、アクション6およびハンマー7を取り除いた状態で、鍵5aをゆっくりと押したときの押鍵深さと鍵5aに作用する静荷重との関係を求めた。同図の実線は、本実施形態に係るダンパー1を用いた場合の結果を示し、破線は、図7に示す従来のダンパーを用いた場合の結果を示す。
【0038】
鍵5aが押鍵されると、図4に示す押鍵深さがD1のときに、鍵5aがダンパーレバー22に接触し始める。その後、静荷重は、押鍵深さがD2になるまで増加し、その後、一定になり、押鍵深さがD4を超えると、再び増加する。D2は、ダンパーレバー22およびダンパーヘッド23がリフティングレール29および弦Sから完全に離れることで、ダンパーレバー22のすべての重さが鍵5aに作用し始める深さに相当し、D4は、鍵5aが筬4に当接し始める深さに相当する。
【0039】
破線で示す従来のダンパーの場合には、押鍵深さがD2とD4との間のD3を超えてから、静荷重が増加する。これは、前述したように、鍵51とダンパーレバー52との接触位置が、押鍵深さD3を境にして、図7(b)に示す前側の接触位置Aから同図(c)に示す後ろ側の接触位置Bに変化するためである。
【0040】
これに対し、実線で示す実施形態のダンパー1の場合には、押鍵深さがD2からD4までの間で、静荷重は増加せず、ほぼ一定である。これは、前述したように、ダンパーレバー22に設けた突起22aによって、鍵5aとダンパーレバー22との接触位置が一定に保持されるためである。以上から、本実施形態のダンパー1による前述した効果、すなわち、押鍵に伴う鍵5aおよびダンパーレバー22の回動中、タッチ重さが一定になり、安定した良好なタッチ感を得ることができるという効果が得られることが確認された。
【0041】
次に、図5を参照しながら、本発明の第2実施形態によるダンパー31について説明する。なお、同図では、前述した第1実施形態のダンパー1と同じ構成部品については、同じ符号が付されている。このことは、後述する第3実施形態についても同じである。
【0042】
同図に示すように、ダンパー31のダンパーレバー32の下面には、凹部32aが形成されている。凹部32aは、ダンパーレバー32の前端の後ろ側に連なるように配置され、後方に向かって徐々に深くなっている。具体的には、凹部32aの底面は、その前部では下向きに凸に湾曲し、後部では上向きに凸に湾曲し、後端部ではダンパーレバー32の下面に向かって立ち上がっている。ダンパー31の他の構成は、第1実施形態のダンパー1と同じである。
【0043】
以上の構成により、同図(a)に示される離鍵状態から鍵5aが押鍵されると、鍵5aは、その後端よりも前側の位置で、ダンパーレバー32の前端に接触する(同図(b))。その後、鍵5aの回動が進んでも、鍵5aの後端部がダンパーレバー32の凹部32aに入り込むようにして逃がされるため、同図(c)に示す鍵5aの回動の終了時に至るまで、鍵5aはダンパーレバー32の前端部に接触したままである。
【0044】
以上のように、本実施形態においても、押鍵に伴う鍵5aおよびダンパーレバー32の回動中、両者5a、32の接触位置が一定に保持されるので、タッチ重さがほぼ一定になり、安定した良好なタッチ感が得られるなど、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、このような効果を、ダンパーレバー32に凹部32aを形成しただけの単純な構成で、容易に得ることができる。
【0045】
次に、図6を参照しながら、本発明の第3実施形態によるダンパー41について説明する。同図に示すように、ダンパー41のダンパーレバー42の下面には、前端部に突起42aが設けられるとともに、前端部よりも後ろ側に凹部42bが形成されている。突起42aは、第1実施形態の突起22aよりも小さく、また、凹部42bは、第2実施形態の凹部32aよりも浅く、突起42aと所定の間隔を隔てて配置されており、突起42aと凹部42bの間は、平坦面になっている。ダンパー41の他の構成は、第1実施形態のダンパー1と同じである。
【0046】
以上の構成により、同図(a)に示される離鍵状態から鍵5aが押鍵されると、鍵5aは、ダンパーレバー42の突起42aに接触する(同図(b))。その後、鍵5aの回動が進んでも、鍵5aの後端部がダンパーレバー42の凹部42bに入り込むようにして逃がされるため、同図(c)に示す鍵5aの回動の終了時に至るまで、鍵5aはダンパーレバー42の突起42aに接触したままである。以上のように、本実施形態においても、押鍵に伴う鍵5aおよびダンパーレバー42の回動中、両者5a、42の接触位置が一定に保持されるので、第1および第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、突起22a、42aおよび凹部32a、42bをいずれもダンパーレバー22、32、42側に設けているが、これらを鍵側に設けてもよい。あるいは、突起および凹部の両方を設ける場合、それらの一方をダンパーレバーに設け、他方を鍵に設けてもよい。
【0048】
さらに、第1および第3実施形態では、突起22a、42aをダンパーレバー22、42の前端部に設けているが、これを鍵が接触可能な範囲内で前端部よりも後ろ側に設けてもよい。この構成によっても、鍵とダンパーレバーとの接触位置が一定に保持されるため、安定した良好なタッチ感を得ることができる。
【0049】
また、第1実施形態のダンパーレバー22の突起22aは、ダンパーレバー22の幅全体にわたって設けることで、鍵5aと線接触するように構成されているが、これをダンパーレバーの幅方向の中央にのみ設けることで、鍵と点接触するようにしてもよい。さらに、実施形態では、ダンパーレバー22、32、42を合成樹脂で構成しているが、これを木質材で構成してもよい。
【0050】
また、実施形態は、本発明をアコースティックタイプのグランドピアノに適用した例であるが、これに限らず、消音タイプなどの他のタイプのグランドピアノに適用してもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 ダンパー
2 グランドピアノ(グランド型ピアノ)
5a 鍵
21 ダンパーレバーレール
22 ダンパーレバー
22a 突起(接触位置保持手段)
23 ダンパーヘッド
31 ダンパー
32 ダンパーレバー
32a 凹部(接触位置保持手段)
41 ダンパー
42 ダンパーレバー
42a 突起(接触維持保持手段)
42b 凹部(接触位置保持手段)
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動自在の鍵が押鍵されるのに伴って作動し、弦の振動を許容するグランド型ピアノのダンパーであって、
ダンパーレバーレールと、
後端部において前記ダンパーレバーレールに回動自在に支持され、前後方向に延び、押鍵された前記鍵で押圧されることによって上方に回動するダンパーレバーと、
当該ダンパーレバーに連結され、当該ダンパーレバーの回動に伴って上方に移動し、前記弦から離れるダンパーヘッドと、
前記ダンパーレバーおよび前記鍵の少なくとも一方に設けられ、当該鍵の押鍵に伴う前記ダンパーレバーの回動中、当該ダンパーレバーと前記鍵との接触位置を一定に保持する接触位置保持手段と、
を備えることを特徴とするグランド型ピアノのダンパー。
【請求項2】
前記接触位置保持手段は、前記ダンパーレバーの下面に設けられ、押鍵された前記鍵の上面が接触する突起であることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパー。
【請求項3】
前記突起は、前記ダンパーレバーの下面の前端部に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載のグランド型ピアノのダンパー。
【請求項4】
前記接触位置保持手段は、前記ダンパーレバーの下面の前記鍵の前記接触位置よりも後ろ側に形成され、前記鍵の押鍵に伴う前記ダンパーレバーの回動中、前記鍵の上面の後端部を前記ダンパーレバーに接触しないように逃がすための凹部であることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209411(P2011−209411A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75151(P2010−75151)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)