説明

グリース組成物

【課題】優れた低温性能及び耐久条件下でのトルク安定性を実現できるグリース組成物を提供する。
【解決手段】ポリ−α−オレフィンと、エチレン−α−オレフィン共重合体と、を含む基油と、増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、前記ポリ−α−オレフィンの40℃動粘度が18〜400mm/sの範囲であり、前記エチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量が40000〜200000の範囲であり、かつ、その配合量がグリース組成物全体に対して4〜12質量%の範囲であり、前記基油の40℃動粘度が400〜2500mm/sの範囲であり、前記増ちょう剤が、グリース組成物全体に対して合計2〜8質量%のアルカリ金属系石鹸及び/若しくはアルカリ金属系複合石鹸、又はグリース組成物全体に対して15〜25質量%のアルカリ土類金属系複合石鹸であることを特徴とするグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関し、特に、樹脂表面に潤滑作用を付与することが可能なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯車や摺動部等に使用される潤滑剤組成物としてグリースが使用されている。
【0003】
近年では、自動車部品、家電製品、電子情報機器、OA機器などの軽量化、低コスト化を目的として、これらに使用される歯車や摺動部材として樹脂が使用されることが多くなっている。
【0004】
このような樹脂部材表面に潤滑性を付与することを目的として、特許文献1には、基油及び増ちょう剤を主成分とするグリース組成物において、サルコシン誘導体防錆剤、炭素、酸素、水素の3原子のみから構成されるフェノール系酸化防止剤のいずれか一方又は両方を添加したことを特徴とするグリース組成物が開示されている。特許文献1に記載のグリース組成物によれば、酸化防止剤及び/又は防錆剤として、各種樹脂部材に対して悪影響を及ぼす官能基を有しないものを用いていることから、樹脂製潤滑部材や樹脂製筐体部材に対して応力割れなどの悪影響を及ぼすことなく、グリースの酸化安定性及び金属部品に対する防錆性の向上を図ることが可能になる。
【0005】
一方、耐久条件下でのトルク安定性を向上させることを目的として、高粘度基油(40℃動粘度:400〜2500mm/s)を用いた潤滑剤を用いることが多いが、この様な潤滑剤を用いると、5℃以下等の低温でのトルク上昇が発生してしまうという問題点があった。
【0006】
この様な問題を解決するため、特許文献2には、耐久性と低温性を兼有するグリースとして、(i)鎖状炭化水素合成油を70重量%以上含有する鎖状炭化水素系合成油(8〜35cSt/40℃)100重量部に対して、α−オレフィンコオリゴマー及び/又はα−オレフィンコポリマー(37〜12000cSt/100℃)5〜55重量%及び酸変性α−オレフィン・エチレンコオリゴマー(360〜20000cSt/40℃)3〜30重量%配合してなる混合基油100重量部、(ii)高級脂肪酸のリチウム塩1〜20重量部、及び(iii)第4級アミノ基含有有機化合物で処理した親油性の合成フッ素雲母0.5〜8重量部を含有するグリースが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、優れた低温性能及び柔軟性を併せ持ったグリースとして、基油に対して、特定のエチレン/α−オレフィン共重合体を添加してなるグリースが開示されている(実施例参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載された発明は、低温性の改善に比較的低粘度の鎖状炭化水素油を用いるというものであり、ポリ−α−オレフィンを主たる基油とするグリース組成物において低温性及び耐久条件下でのトルク安定性を両立させる方法については開示されていない。
【0009】
また、特許文献3においては、耐久条件下でのトルク安定性を向上させる手段についての開示及び示唆はいずれもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−246996号公報
【特許文献2】特開平6−145685号公報
【特許文献3】特表2008−540698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、ポリ−α−オレフィンを主たる基油とするグリース組成物であって、低温性及び耐久条件下でのトルク安定性を両立できるグリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、以下の構成に係るグリース組成物を提供する。
【0013】
(1)ポリ−α−オレフィンと、エチレン−α−オレフィン共重合体と、を含む基油と、増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、
前記ポリ−α−オレフィンの40℃動粘度が18〜400mm/sの範囲であり、 前記エチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量が40000〜200000の範囲であり、かつ、その配合量がグリース組成物全体に対して4〜12質量%の範囲であり、
前記基油の40℃動粘度が400〜2500mm/sの範囲であり、
前記増ちょう剤が、グリース組成物全体に対して合計2〜8質量%のアルカリ金属系石鹸及び/若しくはアルカリ金属系複合石鹸、又はグリース組成物全体に対して15〜25質量%のアルカリ土類金属系複合石鹸であることを特徴とするグリース組成物。
【0014】
(2) 前記増ちょう剤が、グリース組成物全体に対して、2〜8質量%のアルカリ金属系石鹸及び/又はアルカリ金属系複合石鹸である、(1)記載のグリース組成物。
【0015】
(3)前記アルカリ金属がリチウムである、(1)又は(2)に記載のグリース組成物。
【0016】
(4)前記アルカリ土類金属がバリウムである、(1)記載のグリース組成物。
【0017】
(5)混和ちょう度(JIS K2220.7)が265〜385である、(1)〜(4)いずれかに記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るグリース組成物によれば、優れた低温性能及び耐久条件下でのトルク安定性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、実施するための形態に即して詳細に説明する。
【0020】
基油
本発明に係るグリース組成物において、基油は、ポリ−α−オレフィンと、エチレン−α−オレフィン共重合体とを含み、その40℃動粘度が400〜2500mm/sであることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るグリース組成物において、ポリ−α−オレフィンとは、3つ以上の炭素原子を有するα−オレフィンの一種又は二種以上からなるモノマーを単独重合又は共重合してなる重合体をいう。
【0022】
ここで、α−オレフィンとしては、特に制限されるものではないが、好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数4〜20、更に好ましくは6〜16の直鎖状末端オレフィンがあげられる。こうしたものとして、より具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等があげられる。
【0023】
これらポリ−α−オレフィンの性状については、使用条件に応じて適宜選択し得るが、好ましくは動粘度(40℃)が18〜400mm/s、より好ましくは30〜400mm/gのものが用いられる。ポリ−α−オレフィンの動粘度(40℃)が18mm/s未満であると耐熱性が悪くなり、400mm/sを超えると低温時のトルクが上昇するおそれがある。
【0024】
なお、ポリ−α−オレフィンの重合度については、特に制限されず、通常オリゴマーと称されるものも含むものである。また、ポリ−α−オレフィンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
本発明において、エチレン−α−オレフィン共重合体とは、エチレンと、炭素数3以上のα−オレフィンの一種又は二種以上と、を構成モノマーとする共重合体を言う。
【0026】
ここで、エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、特に制限されるものではないが、好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数4〜20、更に好ましくは6〜16の直鎖状末端オレフィンがあげられる。こうしたものとして、より具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等があげられる。なお、ポリ−α−オレフィンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。なお、エチレン−α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれの構造を有していても良い。
【0027】
エチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量としては、40000以上であることが必要である。エチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量が40000未満の場合、低温時のトルクが上昇するためである。またエチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量の上限値としては、200000が好ましい。数平均分子量が200000を超えると、剪断安定性が悪くなるおそれがある。また、好ましい重量平均分子量は、10000〜120000の範囲である。
【0028】
エチレン−α−オレフィン共重合体の配合量としては、グリース組成物全体に対して、4〜12質量%であることが好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体の配合量が4質量%未満の場合、低温時のトルクが上昇するおそれがある。一方、12質量%を超えると、基油粘度が高くなり低温時のトルクが上昇するおそれがある。
【0029】
上記ポリ−α−オレフィンと、エチレン−α−オレフィン共重合体との混合基油の40℃動粘度としては、400mm/s〜2500mm/sの範囲内であることが好ましい。動粘度が400mm/s未満の場合、樹脂に対する付着性が低下し、耐久条件下でのトルク安定性が低下するおそれがある。また、2500mm/sを超える場合には、低温時のトルクが上昇するおそれがある。
【0030】
増ちょう剤
本発明において使用する増ちょう剤は、アルカリ金属系石鹸、アルカリ金属系複合石鹸及びアルカリ土類金属系複合石鹸である。
【0031】
ここで、アルカリ金属系石鹸は、単独のカルボン酸又はエステルを、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物でけん化して得られる石鹸をいう。アルカリ金属系複合石鹸は、複数のカルボン酸又はエステルを、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物でけん化して得られる石鹸をいう。また、アルカリ土類金属系複合石鹸は、複数のカルボン酸又はエステルを、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物でけん化して得られる石鹸をいう。
【0032】
アルカリ金属系石鹸の具体例としては、油脂を加水分解してグリセリンを除いた粗製脂肪酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸等のモノヒドロキシカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の二塩基酸、テレフタル酸、サルチル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸を、例えば水酸化リチウムなどのリチウム化合物と反応させることにより得られる物があげられる。このなかでも、ステアリン酸又は12−ヒドロキシステアリン酸を用いたリチウム系の石鹸が好適である。
【0033】
アルカリ(土類)金属系複合石鹸の具体例としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸及び/又は分子中に1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24のヒドロキシ脂肪酸と、芳香族カルボン酸、炭素数2〜20(より好ましくは炭素数4〜12)の脂肪族ジカルボン酸及びカルボン酸モノアミドからなる群から選択される少なくとも一種とを、例えば、水酸化リチウム、水酸化バリウムなどのリチウム化合物と反応させることにより得られるものがあげられる。アルカリ金属系複合石鹸は、前記アルカリ金属系石鹸と比べて耐熱性に優れるので、増ちょう剤として、より好ましい。
【0034】
上記炭素数12〜24のヒドロキシ脂肪酸としては、特に制限はなく、例えば12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシラウリン酸、16−ヒドロキシパルミチン酸などが挙げられるが、これらの中で特に12−ヒドロキシステアリン酸が好適である。
【0035】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0036】
また、上記炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられ、好ましくはアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナメチレンジカルボン酸、デカメチレンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が用いられる。これらの中でアゼライン酸、セバシン酸が好適である。
【0037】
また、カルボン酸モノアミドとしては、上記ジカルボン酸の一のカルボキシル基がアミド化されたものがあげられる。好ましいものとしては、アゼライン酸又はセバシン酸の一のカルボキシル基がアミド化されたものがあげられる。
【0038】
アミド化されるアミンとしては、例えばブチルアミン、アミルアミン、へキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジラウリルアミン、モノメチルラウリルアミン、ジステアリルアミン、モノメチルステアリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン等の脂肪族第2級アミン、アリルアミン、ジアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン等の脂肪族不飽和アミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、α-ナフチルアミン等の芳香族アミンなどが挙げられ、好ましくはへキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、モノメチルラウリルアミン、モノメチルステアリルアミン、オレイルアミン等が用いられる。
【0039】
これら石鹸系の増ちょう剤を配合するに当たっては、基油にカルボン酸及び/又はそのエステルと上記金属水酸化物を投入して、基油中でけん化させて配合してもよい。
【0040】
基油中でけん化反応をさせてアルカリ金属系複合石鹸を調製する場合には、例えば、カルボン酸として、ステアリン酸及び/又は12−ヒドロキシステアリン酸と、アゼライン酸若しくはセバシン酸との組合せ等を用いるのが好ましい。
【0041】
基油中でけん化反応をさせてアルカリ土類金属系複合石鹸を調製する場合には、例えば、カルボン酸として、セバシン酸とセバシン酸モノステアリルアミド等を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0042】
なお、基油中でけん化反応を行うに際しては、複数のカルボン酸及び/又はそのエステルや酸アミドを同時にけん化しても良く、逐次的にけん化しても良い。
【0043】
上記増ちょう剤が、アルカリ金属系石鹸及び/又はアルカリ金属系複合石鹸である場合には、その配合量は、合計で2〜8質量%であることが好ましい。配合量が2質量%未満の場合、離油度が増大するおそれがあり、8質量%を超えると耐久条件下でのトルク安定性が低下するおそれがある。
【0044】
増ちょう剤が、アルカリ土類金属系複合石鹸である場合には、その配合量は、15〜25質量%であることが好ましい。配合量が15質量%未満の場合、離油度が増大し、25質量%を超えると耐久条件下でのトルク安定性が低下するおそれがある。
【0045】
その他添加剤
本発明のグリース組成物においては、上記の各成分に加えて、必要に応じて、通常公知の各種添加剤を添加することが出来る。添加剤の代表的な具体例としては、酸化防止剤及び防錆剤をあげることが出来る。
【0046】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好適である。フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−第3ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ第3ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−ジ第3ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−メチレン ビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデン ビス(3−メチル−6−第3ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−第3ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第3ブチルフェニル)ブタン、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの反応物等の少なくとも一種が用いられる。
【0047】
酸化防止剤の配合量としては、十分な酸化防止効果を得るために、グリース組成物全量に対して0.1〜10質量%の範囲が好ましい。
【0048】
防錆剤としては、特に制限されないが、サルコシン誘導体防錆剤を好適なものとして使用することが出来る。サルコシン誘導体としては、例えばジアルキル(C8〜C12)ジアミノエチルグリシン、アルキル(C12〜C18)ジメチルベンジルグリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン、又は下記一般式(i)で表される化合物の少なくとも一種を用いることが可能である。
【0049】
【化1】

ここで、一般式(i)において、Rは、−R又は−C(=O)−R(ただし、Rは、炭素数1〜30個(好ましくは10〜20)の、アルキル基若しくはアルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基を表す。)を表し、Rは、水素原子又は炭素数3〜6の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基を表す。
【0050】
サルコシン誘導体の配合量としては、十分な防錆性の効果を得るために、組成物全量に対して、0.1〜10質量%用いるのが好ましい。
【0051】
また、これらに加えて、通常公知の極圧剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤等を、グリース組成物の用途に合わせて使用することも可能である。
【0052】
本発明に係るグリース組成物の調製方法については、特に制限はなく、通常、次の方法を用いることができる。
【0053】
先ず、基油の一部に所定の割合の増ちょう剤及び所望により増粘剤を配合し、所定の温度に加熱してロールミル又は高圧ホモジナイザー等の公知の手段で均質化する。その後残りの基油を配合して冷却し、所定の温度に達したところで所望により各種添加剤を所定量配合することにより、本発明に係るグリース組成物を得ることができる。
【0054】
本発明のグリース組成物は、低温特性が優れると共に耐久条件下でのトルク安定性にも優れるグリースである。このような本発明のグリース組成物は、混和ちょう度(JIS K2220.7)は265〜385の範囲であり、離油度(JIS K2220.10)は0.8〜5.0の範囲であり、グリース組成物として優れた実用上の特性を有している。
【0055】
本発明のグリース組成物は、種々の汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、例えばポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ等に適用される。
【0056】
これらの樹脂は、各種部品や部材として成形品や樹脂層を形成し、これらが他の樹脂や金属と接触する個所に本発明に係るグリース組成物が適用される。具体的には、例えば電動パワーステアリング、ドアミラー等によって代表される自動車電装品の摺動部、軸受、樹脂ギヤ部、ラジカセ、VTR、CDプレーヤ等音響機器の樹脂ギヤ部、レーザービームプリンターによって代表されるプリンター、複写機、ファックス等のOA機器の樹脂ギヤ部、自動車用各種アクチュエータ、エアシリンダ内部の摺動部などを形成する樹脂材料と他の樹脂材料または金属材料との接触個所に有効に適用される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
(1)グリース組成物の調製方法
(1−1)Li石鹸(増ちょう剤A)を含むグリース
基油と12−ヒドロキシステアリン酸リチウム(勝田加工社製 Li−OHST)を混合攪拌釜に表1及び表2に示す配合量で配合し、溶融温度まで加熱攪拌した後、冷却した。次いで生成したゲル状物質に各種添加剤を加え攪拌した後、ロールミルもしくは高圧ホモジナイザーに通しLi石鹸を含むグリースを調製した。
(1−2)Li複合石鹸(増ちょう剤B)を含むグリース
基油と12−ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムを、混合攪拌釜に所定量配合し、約80〜130℃で加熱攪拌しけん化反応を行なった。更にアゼライン酸を所定量配合し、約80〜200℃で加熱攪拌し、そこに水酸化リチウムを加えて、Li−Compを形成し、その後冷却した。生成したゲル状物質に各種添加剤を加え攪拌した後、ロールミルもしくは高圧ホモジナイザーに通しLi複合石鹸を含むグリースを調製した。
(1−3)Ba複合石鹸(増ちょう剤C)を含むグリース
基油と、セバシン酸およびセバシン酸モノステアリルアミドを混合攪拌釜に所定量配合し、約80〜200℃で加熱攪拌し、そこに水酸化バリウムを加えて、Ba−Comp を形成し、その後冷却を行なった。生成したゲル状物質に各種添加剤を加え攪拌した後、ロールミルもしくは高圧ホモジナイザーに通しBa複合石鹸を含むグリースを調製した。
【0059】
(2)測定及び評価方法
(2−1)平均分子量
平均分子量は、ポリスチレン標準液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。分析条件は下記の通りである。
ポンプ:日立製 L−6000型
検出器:日立製 L−3300型RI検出器
カラム:Gelpack GL−R440+R450+R400M
試料濃度:120mg/5mlTHF
カラムサイズ:10.7mmφ×300mm
注入量:200μl
流量:2.05ml/min
溶離液:THF
(2−2)基油粘度
JIS K2283に準拠して基油粘度を測定した。
(2−3)混和ちょう度及び離油度
一般物性としての混和ちょう度及び離油度は、それぞれJIS K2220.7及びJIS K2220.10に準拠して測定した。
(2−4)耐久性
往復動試験機の樹脂製のディスク上にグリースを塗布し、上から樹脂製のシリンダーを押しつけ7時間往復動させた後、さらに往復摺動させた時の樹脂シリンダーと樹脂ディスクの間に発生する摩擦力から摩擦係数を測定した。
【0060】
往復動試験機
上部試験片:POMシリンダー(φ15×22mm)
下部試験片:POMディスク
試験荷重:20N
振動数:20Hz
振幅:2mm(速度:80mm/s)
試験温度:25℃
試験時間:7時間
【0061】
(2−5)低温性能
グリース組成物の低温性能は、回転粘度測定機で評価した。試験方法は、プレート上にグリースを塗布し、上からコーンを押しつけ回転させることによって行った。−10℃、3分で剪断速度を5000s−1まで上昇させたときの最大トルク(mNm)を測定した。
【0062】
回転粘度測定機
試験ジグ:コーン(1°)/プレート
剪断速度:0−5000s−1
試験温度:−10℃
試験時間:3min
【0063】
(3)評価結果
表1及び表2に、実施例及び比較例のグリース組成物の各測定結果を示す(なお、下記表において、配合量は重量比で表されている)。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

(備考)
ポリ−α−オレフィンA:イネオスオリゴマーズジャパン社製 DURASYN 166(40℃動粘度30mm/s)
ポリ−α−オレフィンB:イネオスオリゴマーズジャパン社製 DURASYN 170(40℃動粘度68mm/s)
ポリ−α−オレフィンC:イネオスオリゴマーズジャパン社製 DURASYN 174(40℃動粘度400mm/s)
エチレン−α−オレフィン共重合体A:昭和ワニス社製L6X−20((C
2n、数平均分子量63400、重量平均分子量109900)
エチレン−α−オレフィン共重合体B:三井化学社製 ルーカントHC−2000((C・C、数平均分子量7700、重量平均分子量14400)
酸化防止剤:1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第3ブチルフェニル)ブタン
防錆剤:(Z)−N−メチル−N−(1−オキソ−9−オクタデセニル)グリシン
【0066】
上記表1の通り、本願発明に係るグリース組成物は、低温トルクがいずれも10〜25の範囲内であり、良好な低温トルク特性を有することが分かる。また、摩擦係数は0.08〜0.13の範囲内であり、耐久条件下でのトルク安定性が実現されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−α−オレフィンと、エチレン−α−オレフィン共重合体と、を含む基油と、増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、
前記ポリ−α−オレフィンの40℃動粘度が18〜400mm/sの範囲であり、
前記エチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量が40000〜200000の範囲であり、かつ、その配合量がグリース組成物全体に対して4〜12質量%の範囲であり、
前記基油の40℃動粘度が400〜2500mm/sの範囲であり、
前記増ちょう剤が、グリース組成物全体に対して合計2〜8質量%のアルカリ金属系石鹸及び/若しくはアルカリ金属系複合石鹸、又はグリース組成物全体に対して15〜25質量%のアルカリ土類金属系複合石鹸であることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記増ちょう剤が、グリース組成物全体に対して、2〜8質量%のアルカリ金属系石鹸及び/又はアルカリ金属系複合石鹸である、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属がリチウムである、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属がバリウムである、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項5】
混和ちょう度(JIS K2220.7)が265〜385である、請求項1〜4いずれかに記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2011−148908(P2011−148908A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11434(P2010−11434)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】