説明

ケロイド治療剤

【目的】 ケロイドの改善効果が高く、かつ患者への苦痛がなく、安全性も高いケロイド治療剤を提供する。
【構成】 保湿成分を含有する保湿クリームまたは保湿液と、その上に適用する皮膜形成型パック剤とからなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はケロイド治療剤に関する。ケロイドは熱傷、創傷、手術創などに起因して発生し、その原因および症状等により、真性ケロイド、瘢痕ケロイド、肥厚性瘢痕等に分類されているが、本発明で言うケロイドはこれらを包含する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】従来、ケロイドの薬物療法としてステロイド剤の塗布あるいはステロイド剤のケロイド内注入が行われているが、前者には明らかな効果が認められない。後者には一定の効果は認められるものの、注入時に患者に非常な痛みを与え、また、1回の注入で多量のステロイド剤を注入することは困難であるので、大きなケロイドには適用され得ないという欠点があった(医科学大事典、野間惟道編集、14巻、77頁、講談社1982年参照)。また、最近では、シリコンゲルシートを肥厚性瘢痕の治療に用いた例が知られている(Aug Surg, Vol.126, p.499〜504, 1991)。しかしながらこの場合は、患部への密着性が不充分であるという欠点があった。ケロイドは容貌を醜悪にするのみならず、ケロイド特有の痛み、かゆみ、突っ張り感および引きつれ感などにより患者は大いに悩まされており、有効なケロイド治療剤の出現が望まれている。本発明の目的は、優れたケロイド治療剤およびその使用方法を提供することにある。
【0003】
【課題を解決するための手段】種々検討を重ねた結果、本発明者らは保湿クリームまたは保湿液と、皮膜形成型パック剤との組み合わせがケロイド治療に有効かつ安全であることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は保湿成分を含有する保湿クリームまたは保湿液と、該保湿クリームまたは保湿液上に適用される皮膜形成型パック剤とからなることを特徴とするケロイド治療剤である。またその使用方法は保湿成分を含有する保湿クリームまたは保湿液を創痕局所に塗布し、次いで皮膜形成型パック剤を塗布し、乾燥させた後、パック剤の周辺部を皮膚に固定することを特徴とする。
【0004】本発明で用いられる保湿クリームまたは保湿液は保湿剤を全量に対して好ましくは0.01〜70重量%含むクリーム状、粘液状または液状の製剤であり、患部およびその周辺に塗布して使用する。
【0005】ここで保湿剤としては例えば単糖類,オリゴ糖類,多糖類等の糖類、天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無機高分子等の水溶性高分子類、2価アルコール,3価アルコール,4価アルコール,5価アルコール,6価アルコール,多価アルコール重合体,2価アルコールアルキルエーテル類,2価アルコールエーテルエステル類,グリセリンモノアルキルエーテル,糖アルコール等の多価アルコール類が挙げられる。
【0006】このうち単糖類としては、D−グリセルアルデヒド(D−グリセロール),ジヒドロキシアセトン等のトリオース(三炭糖)、D−エリトロース,D−トレオース,D−エリトルロース等のテトロース(四炭糖)、L−アラビノース,D−アラビノース,D−キシルロース,D−キシロース,D−リボース,L−キシルロース,L−リキソース,D−リブロース等のペントース(五炭糖)、D−グルコース,D−ガラクトース,L−ガラクトース,D−マンノース,D−タロース,D−フルクトース,L−ソルボース,D−タガトース,D−プシコース等のヘキソース(六炭糖)、アルドヘプトース,ヘプツロース等のヘプトース(七炭糖)、オクツロース等のオクトース(八炭糖)、2−デオキシ−D−リボース,6−デオキシ−L−マンノース(L−ラムノース),6−デオキシ−L−ガラクトース(L−フコース)等のデオキシ糖、D−グルコサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース),D−ガラクトサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−ガラクトース),シアル酸(ノイラミン酸),アミノウロン酸,ムラミン酸等のアミノ糖(アミノデオキシ糖)、D−グルクロン酸,D−ガラクツロン酸,D−マンヌロン酸,L−イズロン酸,L−グルロン酸等のウロン酸が挙げられる。オリゴ糖類としてはショ糖,ラクトース,トレハロース,ウンビリシン,ゲンチアノース,プランテオース,ラフィノース,スタキオース−ベルバスコース類,ウンベリフェロース,イソリクノース類,リクノース類等が挙げられる。多糖類としては、セルロース,デンプン,グリコーゲン,ヒアルロン酸,コンドロイチン,グアガム,ローカストビンガム,クインスシード,ガラクタン,アラビアガム,トラガントガム,キサンタンガム,デキストラン,サクシノグルカン,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸,ケラタン硫酸,ムコイチン硫酸,ケラト硫酸,カロニン酸等が挙げられる。
【0007】水溶性の天然高分子としては、アラビアガム,グアガム,カラギーナン,クインスシード(マルメロ),デンプン(コメ,トウモロコシ,バレイショ,コムギ),グリチルリチン酸,トラガカントガム,キャロブガム,ペクチン,ガラクタン,カラヤガム,カンテン,アルゲコロイド(カッソウエキス)等の植物系高分子、キサンタンガム,デキストラン,サクシノグルカン,プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン,ゼラチン,カゼイン,アルブミン等の動物系高分子等が挙げられる。水溶性の半合成高分子としては、カルボキシメチルデンプン,メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系、メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,結晶セルロース,ニトロセルロース,メチルヒドロキシプロピルセルロース,セルロース硫酸Na,カルボキシメチルセルロースNa(CMC),セルロース末等のセルロース系、アルギン酸Na,アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系が挙げられる。水溶性の合成高分子としては、ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー(カーボポール),ポリビニルメチルエーテル等のビニル系、ポリエチレングリコール−20,000,ポリエチレングリコール−4,000,000,ポリエチレングリコール−600,000等のポリオキシエチレン系、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等の共重合系、ポリアクリル酸Na,ポリアクリルアミド,ポリエチルアクリレート等のアクリル系、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。水溶性の無機高分子としては、ベントナイト,ラポナイト,無水ケイ酸,ケイ酸AlMg(ビーガム),ヘクトライト等が挙げられる。
【0008】2価アルコールとしては、エチレングリコール,プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール),トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール),1,2−ブチレングリコール(1,2−ブタンジオール),1,3−ブチレングリコール(1,3−ブタンジオール),テトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール),2,3−ブチレングリコール(2,3−ブタンジオール),ペンタメチレングリコール(1,5−ペンタジオール),2−ブテン−1,4−ジオール,ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール),オクチレングリコール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)等が挙げられる。3価アルコールとしては、グリセリン,トリメチロールプロパン(ヘキサグリセロール),1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。4価アルコールとしては、ペンタエリトリトール等が挙げられる。5価アルコールとしては、キシリトール等が挙げられる。6価アルコールとしては、ソルビトール(ソルビット),マンニトール(マンニット)等が挙げられる。多価アルコール重合体としては、ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,テトラエチレングリコール,ポリエチレングリコール,テトラグリセリン,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ジグリセリン,トリグリセリン,ポリグリセリン等が挙げられる。
【0009】2価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ),エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ),エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ),エチレングリコールモノフェニルエーテル,エチレングリコールモノヘキシルエーテル,エチレングリコールモノ2−メチルヘキシルエーテル,エチレングリコールイソアミルエーテル,エチレングリコールベンジルエーテル,エチレングリコールイソプロピルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル,エチレングリコールジエチルエーテル,エチレングリコールジブチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール),ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール),ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール),ジエチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジエチルエーテル,ジエチレングリコールジブチルエーテル,ジエチレングリコールメチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノエチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノエチルエーテル,プロピレングリコールモノブチルエーテル,プロピレングリコールイソプロピルエーテル,ジプロピレングリコールメチルエーテル,ジプロピレングリコールエチルエーテル,ジプロピレングリコールブチルエーテル等が挙げられる。
【0010】2価アルコールエーテルエステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート,エチレングリコールジ(2−エチルブチルエーテル)サクシネート,エチレングリコールジ(ヘキシルエーテル)アジベート,ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート,ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート,プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート,プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート,プロピレングリコールモノフェニルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0011】グリセリンモノアルキルエーテルとしては、キミルアルコール,バチルアルコール,セラキルアルコール等が挙げられる。糖アルコールとしては、ソルビトール,マンニトール,グルコース,マルトース,マルチトール,ショ糖,フルクトース,キシリトース,マルトトリオース,エリトリトール,デンプン分解糖,デンプン分解糖還元アルコール等が挙げられる。多価アルコールとしては上記の他に、グリソリッド,テトラハイドロフルフリルアルコール,POEテトラハイドロフルフリルアルコール,POPブチルエーテル,POP POEブチルエーテル,トリポリオキシプロピレングリセリンエーテル,POPグリセリンエーテル,POPグリセリンエーテルリン酸,POPPOEペンタンエリスリトールエーテル等が挙げられる。本発明の保湿剤は上記のものから一種又は二種以上が選択され、用いられる。
【0012】保湿クリームまたは保湿液には上記保湿剤の他に、本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で、必要に応じて、動植鉱物油やエステル油、トリグリセライドあるいは高級脂肪酸、高級アルコール、直鎖、分枝、環状のシリコーン類などの油性成分、エタノール等の低級アルコール、レシチン、ニンジンエキスなどの天然抽出物、糖、糖アルコール、そのほかの糖誘導体、粘土鉱物などの増粘剤、防腐防黴剤、界面活性剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、紫外線吸収剤、無機あるいは有機の粉末、顔料、薬効成分、色素、香料等を配合できる。
【0013】本発明においては、上記の保湿クリームまたは保湿液を患部およびその周辺に塗布した後、皮膜形成型パック剤で覆う。皮膜形成パック剤は、通常のものであればよく特に限定されないが、患部への密着性の点から柔軟性のあるものが好ましい。本パック剤に含まれる皮膜形成剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸・スチレン共重合体、アクリル酸メタクリル酸アミド共重合体、アクリル酸ブチル・メタクリル酸共重合体、スチレン・メタクリル酸共重合体、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、メチルセルロース、可溶性デンプン、カルボキシメチルアミロース、デキストリン、ペクチン、寒天末等のヘミセルロース、アラビアガム,トラガカントガム,キサンタンガム等の植物ガムが挙げられる。
【0014】皮膜形成型パック剤は患部に使用した後、なるべく早く乾燥して皮膜を形成するのがよい。このためエタノールのような揮発性成分を例えば1〜40重量%配合するのが好ましい。皮膜形成型パック剤が乾燥した後は、皮膜が患部からずれたり、はがれたりするのを防止するため、テープ等でその周辺部を皮膚に固定する。
【0015】
【作用】本発明者はケロイド治療剤について種々研究した結果、ケロイド表面局所の保湿がケロイドの治療に非常に重要であることがわかった。この保湿は外用剤の単なる塗擦では不充分であり、フィルム状の水分不透過性の被覆材を併用することが効果的である。そこで本発明では、保湿クリーム等を患部に塗布した後、皮膜形成型のパック剤を使用する。皮膜形成型のパック剤は乾燥して水分不透過性の薄膜が形成され、しかも伸展性があるので、皮膚への密着性もラップ等に比べると良好である。また、ケロイド面への刺激もほとんどなく、皮膜形成面の大きさや形状も任意に設定できるという利点がある。また、入浴や洗顔等により容易に除去され、取り扱いも簡単である。パック剤が乾燥した後に、その周辺部をテープ等で固定することにより、背中等の擦れて剥がれやすい箇所への適用が可能となる。
【0016】
【実施例】次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0017】実施例1次に示す処方で、常法によって保湿クリームおよびパック剤を製造し、ケロイド治療剤とした。
保湿クリームポリエチレングリコール 5 wt%グリセリン 2ブチレングリコール 7流動パラフィン 19ワセリン 3ステアリルアルコール 3POEグリセリルモノステアレート 3.5エチルパラベン 0.2精製水 to 100パック剤ブチレングリコール 2 wt%ポリビニルアルコール 15プロピルパラベン 0.1エチルアルコール 20精製水 to 100
【0018】得られた保湿クリームおよびパック剤を用いて、■クリームのみをケロイド面に塗布した場合、および■クリームを塗布した後、パック剤を使用した場合、のそれぞれについて行った臨床テストの結果をその条件とともに下に示す。
【0019】■クリームのみ臨床例:29例(男12名、女17名)
年 齢:1〜69歳期 間:6ケ月
【0020】
【表1】
────────────────────────── 原因 患者数 改善効果のあった患者数 ────────────────────────── 火傷 15 3 外科手術 9 1 ケロイド 2 0 その他 3 1 (火傷以外の外傷) ──────────────────────────
【0021】■クリーム+パック剤臨床例:13例(男6名、女7名)
年 齢:1〜56歳期 間:6ケ月
【0022】
【表2】
────────────────────────── 原因 患者数 改善効果のあった患者数 ────────────────────────── 火傷 7 7 外科手術 2 1 ケロイド 2 2 その他 2 1 (火傷以外の外傷) ──────────────────────────
【0023】実施例2保湿クリームに代えて、次に示す保湿液を用いたほかは実施例1と同様にしてケロイド治療剤を製造し、臨床テストを行った。その結果、実施例1と同様のケロイド改善効果がみられた。
保湿液ソルビット 7 wt%カルボキシビニルポリマー 0.15水酸化カリウム 0.05メチルパラベン 0.15精製水 to 100
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のケロイド治療剤は、ケロイドの改善効果が高く、かつ患者への苦痛がなく、安全性も高いものである。またその使用方法も容易で、簡単であり、ケロイドの治療に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 保湿成分を含有する保湿クリームまたは保湿液と、該保湿クリームまたは保湿液上に適用される皮膜形成型パック剤とからなることを特徴とするケロイド治療剤。
【請求項2】 保湿成分を含有する保湿クリームまたは保湿液を創痕局所に塗布し、次いで皮膜形成型パック剤を塗布し、乾燥させた後、パック剤の周辺部を皮膚に固定することを特徴とするケロイド治療剤の使用方法。

【公開番号】特開平7−149627
【公開日】平成7年(1995)6月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−325911
【出願日】平成5年(1993)11月30日
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)