説明

ゲラニルゲラニルアセトンと抗癌剤とを組み合わせてなる医薬

【課題】本発明は、化学療法薬の抗腫瘍効果を増強する副作用の少ない薬剤を提供することを目的とするものである。
【解決手段】ゲラニルゲラニルアセトンに、細胞毒性を示さない濃度でドセタキセルの腫瘍細胞増殖抑制効果を増強する作用が認められ、併用によりドセタキセルの抗腫瘍作用を増強することが予想された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲラニルゲラニルアセトンと抗癌剤とを組み合わせてなる医薬、ならびに抗癌作用を高めるためのゲラニルゲラニルアセトンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は手術療法、放射線療法と並んで重要な癌の治療方法であるが、一方でその副作用を軽減することが大きな課題となっている。もし化学療法薬の抗腫瘍効果を選択的に増強する薬剤があれば、その薬剤との併用により化学療法薬の投与量を減らすことが可能となり、化学療法薬の効果を高めるだけでなく副作用を低減する意味でも意義は大きい。
ゲラニルゲラニルアセトンは、式(I)
【化1】

で示される胃炎や胃潰瘍の治療剤として知られている。抗腫瘍効果を持つことも、他の抗腫瘍剤の効果を増強することも知られていない(特許文献1および特許文献2参照)。もし、化学療法薬の抗腫瘍効果を増強することが明らかとなれば、理想的な併用薬となる可能性があると考えられた。
【特許文献1】特開昭53−145922号公報
【特許文献2】特開昭62−10013号公報
【特許文献3】日本特許2894636号公報
【特許文献4】特開平5−201969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、化学療法薬の抗腫瘍効果を増強する副作用の少ない薬剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、化学療法薬あるいは放射線照射の腫瘍増殖抑制効果を増強する効果を持つ薬剤を見つけるべく研究を進め、その過程で、ゲラニルゲラニルアセトンに化学療法剤ドセタキセルの腫瘍増殖抑制効果を増強する効果が有することを見出した。
すなわち本発明は、
1)ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とを組み合わせてなる医薬、
2)抗癌剤がドセタキセルである1)に記載の医薬、
3)ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とをセットにしたことを特徴とするキット、および
4)ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とを患者に投与することを特徴とする癌の治療方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明で、ゲラニルゲラニルアセトンとの併用により、ドセタキセルやパクリタキセルの抗腫瘍効果を高めることが可能となり、投与量の削減が見込まれ、副作用の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の医薬において有効成分たるゲラニルゲラニルアセトンは式(I)で表され、化合物名は、6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン(一般名:テプレノン、以下GGAと称する)の化合物である。
【化2】

GGAはその構造から明らかな如く、種々の異性体が考えられるが、本発明はそれらのいずれを含むものであり、例えば、5,9,13位がE体、Z体のいずれでもよく、また1種類の化合物もしくは2種類の化合物の混合物でもよい。好ましくは、9位かつ13位がE体である5E体、5Z体または任意の混合比のそれらの混合物であり、より好ましくは、(5E,9E,13E)体と(5Z,9Z,13Z)体とが3:2の混合物である。
【0007】
GGAの製造方法は公知の方法、例えば、前述の特許文献1に記載されている方法に準じて製造することができる。
【0008】
本発明にかかる化合物の投与形態は特に制限されず、経口的・非経口的に投与することができる。特に経口投与は、注腸などに比べて患者の負担が少ないので好ましい。
経口投与のための剤型は、固体または液体の剤型、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤などが好ましい。
非経口投与のための剤型は、注射用製剤、点滴剤、外用剤、坐剤等が好ましい。
本発明にかかる化合物は、慣用される方法により製剤化することが可能で、通常用いられる賦形剤(例えば乳糖、白糖、でんぷん、マンニトール等)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク等)、着色剤、矯味矯臭剤等、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して定法により製剤化される。
【0009】
本発明にかかる化合物(I)の投与量は、症状、年齢、体重などの条件により適宜定められるが、成人一日あたり20〜2000mg、好ましくは50〜1000mg、さらに好ましくは100〜500mgである。
【0010】
ドセタキセルおよびパクリタキセルは、抗腫瘍剤として臨床で用いられており、容易に入手できるが、前述の特許文献3または4に記載されている方法で製造することもできる。
また、ドセタキセルおよびパクリタキセルは、通常、1日1回10−250mg/m3(体表面積)を点滴静注で投与する。
本発明において、ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とのセットは、キットとして使用することができる。
【実施例】
【0011】
以下に、実験例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるべきものではない。
【0012】
ドセタキセルの腫瘍増殖抑制効果のGGAによる増強作用
GGAはエーザイ株式会社、ドセタキセルはアベンティスファーマ株式会社から供与を受けた。両剤ともにエターノールに溶解し以下の実験に供した。
培養細胞として喉頭扁平上皮癌から樹立された培養細胞Hep-2を用いた。培地として5%ウシ胎児血清添加ダルベッコ変法イーグル培地 (DMEM)を用い、5%CO2存在下、37℃で培養した。細胞生存率の検討は、96wellプレートにHep-2細胞を3000個/well(100 μL)加え、15時間放置して細胞を接着させた後、GGA24μM含有DMEMを調整し、最終濃度 0μM, 2 μM, 6 μMとなるように加えた。すべてのGGA濃度においてエターノールの最終濃度が0.3%となるように調整した。この系において0.3%エターノールは細胞生存率に影響を与えないことは確認済みである。GGA添加9時間後にドセタキセル32 nM含有DMEMを調整し、最終濃度 0 nM, 2 nM, 4nM, 8nMとなるように加え、さらに72時間37℃で培養した後、10%トリクロロ酢酸で生存細胞を固定後、4%スルフォローダミンBで染色、570 nmの吸光度から、コントロールおよびそれぞれ薬剤濃度で処理された群の相対細胞数を算出しグラフ化した。1処理につき6wellを使用し、標準偏差をあわせて図1に表示した。
【0013】
図1に示す通り、72時間の8 nMドセタキセル処理はHep2細胞の増殖を45%抑制したが、2μMあるいは6μMGGAで9時間前処理した後に8 nMドセタキセルで処理した場合には、90%以上の細胞増殖抑制が認められた。ドセタキセル単独では腫瘍増殖抑制が認められない2nMの濃度においても、2μM、6μMGGA前処理により、それぞれ25%、70%の細胞増殖抑制を認めた。一方、GGA単独での細胞増殖抑制効果は、2μMの濃度で0%、6μMの濃度で20%であった。
以上の結果から、GGAは、細胞毒性を示さない濃度でドセタキセルの腫瘍増殖抑制効果を増強し、併用によりドセタキセルの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ドセタキセルの腫瘍増殖抑制効果のGGAによる増強作用

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とを組み合わせてなる医薬。
【請求項2】
抗癌剤がドセタキセルである請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とをセットにしたことを特徴とするキット。
【請求項4】
ゲラニルゲラニルアセトンと、ドセタキセルおよびパクリタキセルからなる群から選択される少なくとも1つの抗癌剤とを患者に投与することを特徴とする癌の治療方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−213645(P2006−213645A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28149(P2005−28149)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】