説明

ゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断方法及び装置

【課題】ゲート昇降装置のブレーキ装置の異常・劣化診断を、より簡易な構成で行えるようにする。
【解決手段】ワイヤロープ2eの巻き取り、巻き戻しによりゲート1を昇降して水路cを開閉するワイヤロープ式水門設備の、ゲート昇降装置2におけるブレーキ装置2bが異常或いは劣化しているか否かを診断する。減速機2cの出力軸2cbに連結された開度計3でゲート1の昇降を停止した瞬間とゲート1の昇降を再開した瞬間のゲート開度を検出する。検出した信号を開度発信器5から出力し、前記両信号の差を開度差算出器7aで演算する。異常・劣化判断部7bは、前記演算した両信号の差を予め設定された閾値と比較し、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断して信号を出力する。
【効果】より簡易的、直接的に診断することができ、複雑な動作をするゲート設備においても、信頼性の高い診断が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ式水門設備のゲート昇降装置を構成するブレーキ装置において、開状態のゲートの停止指令時と運転再開指令時の開度差を検知して前記ブレーキ装置の異常或いは劣化を診断する方法、及びこの診断方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープの巻き取り、巻き戻しによってゲートの昇降を行うワイヤロープ式水門設備では、水を放流する時は、ワイヤロープを巻き取ってゲートを所定の高さ位置まで開けた後に制動をかけることで開状態を維持する。逆に水を溜める時には、ワイヤロープを巻き戻してゲートを閉じる。
【0003】
このゲートの昇降は、ゲート昇降装置のモータの回転軸を正逆回転させることで行われ、このモータの回転軸の回転を制動するブレーキ装置として、例えば特許文献1に記載されたシュー形ブレーキ装置が使用されている。
【0004】
このシュー形ブレーキ装置は、相対向して配置される一対のブレーキシューで、モータの回転軸と減速機の入力軸を連結する継手兼用のドラムを挟持することでモータの回転軸の回転に制動をかける構成である。このような構成のブレーキ装置の場合、制動の効きが悪くなると制動距離が長くなり、停止指令を出した瞬間のゲートの開度と運転再開指令を出した瞬間のゲートの開度の差が大きくなる。
【0005】
このブレーキ装置の異常は、ブレーキシューの摩耗、ブレーキシューとドラムの間への異物の噛み込み、水又は油によるブレーキシューの濡れ等によって発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平06−45065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、ゲート昇降装置を構成するブレーキ装置は、ブレーキシューの摩耗、ブレーキシューとドラムの間への異物の噛み込み、水又は油によるブレーキシューの濡れ等によって異常をきたすという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゲート昇降装置を構成するブレーキ装置の異常或いは劣化の診断を、より簡易な構成でできるようにすることを目的としてなされたものである。
【0009】
本発明のゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断方法は、
ワイヤロープの巻き取り、巻き戻しによりゲートを昇降して水路を開閉するワイヤロープ式水門設備の、前記ゲートの昇降を行うゲート昇降装置におけるブレーキ装置が異常或いは劣化しているか否かを診断する方法であって、
減速機の出力軸に連結された開度計によりゲートの昇降を停止した瞬間とゲートの昇降を再開した瞬間のゲート開度を検出し、これら両検出信号の差を予め設定された閾値と比較して、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断することを最も主要な特徴としている。
【0010】
本発明のゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断方法は、
減速機の出力軸に連結された開度計により検出したゲートの昇降を停止した瞬間とゲートの昇降を再開した瞬間のゲート開度の信号を出力する開度発信器と、
この開度発信器から出力された前記両信号を入力してこれら信号の差を演算する開度差算出器と、
この開度差算出器で演算した前記両信号の差を予め設定された閾値と比較し、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断して信号を出力する異常・劣化判断部、を備えたことを主要な特徴とする本発明のゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断装置を用いて実施することができる。
【0011】
上記の本発明では、ゲートの昇降を停止した瞬間とゲートの昇降を再開した瞬間の開度の差をゲートのずれ落ち量として監視することで、制動の効きつまりブレーキ装置の劣化状態(異常)を判断することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ゲートの昇降を停止した瞬間と再開した瞬間の開度の差をゲートのずれ落ち量として監視することでブレーキ装置の異常或いは劣化を判断するので、より簡易的、直接的に診断することができる。従って、複雑な動作をするゲート設備においても、信頼性の高い診断が可能になる。また、劣化状態を経年的に把握することができるので、ブレーキ装置構成部品の交換時期を適切に判断する材料にもなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用するワイヤロープ式水門設備の概略構成図である。
【図2】本発明のゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断方法の処理フローを示した図である。
【図3】ゲートの昇降を停止した瞬間と昇降を再開した瞬間における開度差を説明する図である。
【図4】本発明方法に使用する開度差を履歴として保存してグラフ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ゲート昇降装置を構成するブレーキ装置の異常或いは劣化の診断を、より簡易な構成で行えるようにするという目的を、ゲートの昇降を停止した瞬間と再開した瞬間の開度の差をゲートのずれ落ち量として監視することで実現した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図3を用いて詳細に説明する。
図1は本発明を適用するワイヤロープ式水門設備の概略構成図である。
【0016】
図1において、1は水路cの途中に昇降自在に設けられたゲートであり、水路cの堤体に設置されたゲート昇降装置2の操作によって昇降し、水路cを開閉するようになされている。
【0017】
前記ゲート昇降装置2は、モータ2aと、モータ2aの回転軸2aaにシュー形ブレーキ装置2bを介して入力軸2caを連結される減速機2cと、減速機2cの出力軸2cbに連結されるドラム2dと、ドラム2dに巻き付けられたワイヤロープ2eを備えている。
【0018】
図1の例では、減速機2cの出力軸2cbの回転は、ピニオン2fとドラムギヤ2gを介してゲート1の両側上方に配置されたドラム2dに伝えられ、両ドラム2dにそれぞれ巻き付けられたワイヤロープ2eの先端に取り付けたゲート1を昇降している。
【0019】
3は前記減速機2cの出力軸2cbに、例えばチェーン4を介して連結された開度計であり、ゲート昇降装置2のモータ2aの回転軸2aaを正逆回転することによって昇降するゲート1の開度を、減速機2cの出力軸2cbの回転数から検出する。
【0020】
5は開度発信器であり、前記開度計3で検出したゲート1の昇降を停止した瞬間のゲート開度と、ゲート1の昇降を再開した瞬間のゲート開度を、ゲート制御装置6が受信して、監視盤7の開度差算出器7aに出力する。
【0021】
開度差算出器7aは、開度発信器5から入力された前記両開度の差を演算し、異常・劣化判断部7bに出力する。異常・劣化判断部7bは、開度差算出器7aで演算した前記両開度の差を予め設定された閾値と比較し、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断する。
【0022】
異常・劣化判断部7bは、異常或いは劣化していると判断した場合は警告アラーム7cに信号を出力して警告を発する。また、図2に示した例では、前記開度差算出器7aは、ゲート1を昇降するたびに、演算した開度差を記録・監視部7dに出力し、記録・監視部7dは、この送られてくる開度差の履歴データを保存してグラフ化し、前記開度差が閾値を超える時期を予測している。
【0023】
上記構成の本発明のゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断装置を使用して、ブレーキ装置の異常或いは劣化を診断する本発明方法を次に説明する。
【0024】
先ず、ゲート1の昇降操作を説明する。
(1) ゲート1の昇降開始時、ゲート制御装置6からモータ2a及びブレーキ装置2bに「開」または「閉」の制御信号を出力する。
【0025】
(2) 「開」または「閉」の制御信号を入力されたブレーキ装置2bは制動を解除する一方、「開」または「閉」の制御信号を入力されたモータ2aは「開」方向または「閉」方向に回転駆動する。
【0026】
(3) ゲート1が目標の開度になると、ゲート制御装置6から「停止」の制御信号をモータ2a及びブレーキ装置2bに出力する。
(4) 「停止」の制御信号を入力されたモータ2aは回転駆動を停止する一方、「停止」の制御信号を入力されたブレーキ装置2bは制動をかける。
【0027】
(5) ゲート1を停止した瞬間に開度計3が検知した開度は、開度発信器5が信号にしてゲート制御装置6を介して監視盤7に出力する。
(6) 監視盤7は、開度発信器5から出力された開度の信号を停止時の開度値として保存する。
【0028】
(7) 所定時間を経過した後にゲート1の運転を再開する際は、運転を再開した瞬間に開度計3で検知した開度を開度発信器5が信号にしてゲート制御装置6を介して監視盤7に出力する。
(8) 監視盤7は、開度発信器5から出力された開度の信号を再開時の開度値として保存する。
【0029】
(9)「開」または「閉」の制御信号を、ゲート制御装置6からモータ2a及びブレーキ装置2bに出力する。
(10) 上記(2)〜(9)の操作を繰り返す。
【0030】
本発明は、上記(1)〜(10)のゲート1の昇降操作中における、(5) の停止時と(7) の再開時に開度発信器5からゲート制御装置6を介して監視盤7に出力する開度の信号を、開度差算出器7aに入力して、運転停止時の開度値と運転開始時の開度値の差を算出する(図3参照)。
【0031】
そして、この開度の差(ずれ落ち量)が予め設定されている閾値を超えているかどうかを異常・劣化判断部7bにて判断し、開度差が閾値を超えている場合、警告アラーム7cに信号を出力して警告を発する。アラーム発信を受けた作業員は、直ちに次回点検時の調整作業計画を組み込む。一方、開度差が閾値を超えていない場合は、警告アラーム7cに信号を出力しない。
【0032】
以上の処理フローをしたのが図2である。
また、上記本発明において、前記開度差をデータの履歴として保存し、図4に示すようにグラフ化しておけば、異常或いは劣化が発生する時期を予測することもできる。
【0033】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
c 水路
1 ゲート
2 ゲート昇降装置
2a モータ
2b ブレーキ装置
2c 減速機
2d ドラム
2e ワイヤロープ
3 開度計
5 開度発信器
6 ゲート制御装置
7 監視盤
7a 開度差算出器
7b 異常・劣化判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープの巻き取り、巻き戻しによりゲートを昇降して水路を開閉するワイヤロープ式水門設備の、前記ゲートの昇降を行うゲート昇降装置におけるブレーキ装置が異常或いは劣化しているか否かを診断する方法であって、
減速機の出力軸に連結された開度計によりゲートの昇降を停止した瞬間とゲートの昇降を再開した瞬間のゲート開度を検出し、これら両検出信号の差を予め設定された閾値と比較して、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断することを特徴とするゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断方法。
【請求項2】
ワイヤロープの巻き取り、巻き戻しによりゲートを昇降して水路を開閉するワイヤロープ式水門設備の、前記ゲートの昇降を行うゲート昇降装置におけるブレーキ装置が異常或いは劣化しているか否かを診断する装置であって、
減速機の出力軸に連結された開度計により検出したゲートの昇降を停止した瞬間とゲートの昇降を再開した瞬間のゲート開度の信号を出力する開度発信器と、
この開度発信器から出力された前記両信号を入力してこれら信号の差を演算する開度差算出器と、
この開度差算出器で演算した前記両信号の差を予め設定された閾値と比較し、前記差が閾値を超えている場合に異常或いは劣化していると判断して信号を出力する異常・劣化判断部、を備えたことを特徴とするゲート昇降装置におけるブレーキ装置の異常・劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100680(P2013−100680A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244849(P2011−244849)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(504024597)独立行政法人水資源機構 (15)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】