説明

コエンザイムQ10含有チョコレート

【課題】コエンザイムQ10を高濃度に配合してもコエンザイムQ10の結晶が析出しにくく、体内への吸収率も低下しないチョコレートを提供する。
【解決手段】コエンザイムQ10を、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%、液体脂をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%含有する、コエンザイムQ10含有チョコレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、保存中のチョコレート中及び表面上にコエンザイムQ10の結晶が析出しにくく、見た目も良く、且つコエンザイムQ10の体内への吸収性が低下しないことを特徴とするコエンザイムQ10含有チョコレートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10はベンゾキノン誘導体であり、ユビキノン(酸化型コエンザイムQ10)と命名された。コエンザイムQ10は、生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成成分として存在する生理学的成分であり、生体内において酸化と還元を繰り返すことで電子伝達系における伝達成分としての機能を担っている。
コエンザイムQ10は生体内において、エネルギー生産及び抗酸化活性を示すことから、その有用性は広く知られている。コエンザイムQ10はヒトの体内で生合成される分子であるが、加齢と共に生合成量が低下すること、あるいはさまざまな疾患における生体中のコエンザイムQ10量の減少が報告されている。このような疾患では外部からのコエンザイムQ10の供給が良好な結果をもたらしている。更に、罹患時だけでなく老人あるいは肉体的に疲労したときなど、平常時でもコエンザイムQ10の補給が必要であると考えられている。また、スポーツ選手あるいは一般人でも運動後には体内のコエンザイムQ10量が減少することが知られている。
【0003】
生体の機能維持に必要不可欠で加齢やストレスにより減少し不足しがちなコエンザイムQ10を補給する方法としては、錠剤、カプセル剤や食品の形態で補給する方法が既に実施されているが、不足の度合いが軽度で医療の対象とならない健康人にとって、錠剤やカプセルとして摂取するよりも、通常の食品と同様に摂取する方が簡便である。また食品の中でも、菓子等の嗜好品として摂取できれば、継続して利用しても飽きが来ずメリットが多い。また、このコエンザイムQ10は、そのまま摂取すると体内吸収率が低いことから、コエンザイムQ10を高濃度に含有し且つ、コエンザイムQ10の吸収性を改善する方法が研究されている。
【0004】
コエンザイムQ10の吸収改善方法については、多くの報告がある。例えば特許文献1は、コエンザイムQ10を落花生油に30〜10重量%を含有させたものは、大豆油に含有させたものに比べて効率よく体内に吸収させ得ることを開示する。特許文献2は、コエンザイムQ10を油脂に混合した後、加熱溶解し、冷却して結晶を析出させたものをカプセル化して摂取すると、吸収性が高まる事等が示されている。コエンザイムQ10を食品形態にして摂取する方法について、特許文献3は、コエンザイムQ10を含有させた油を食品粉末と混合して製剤化することについて開示する。
【0005】
特許文献4の実施例8には、コエンザイムQ10を配合したチョコレートが開示され、油脂として全脂粉乳、レシチンが使用されているが、液体脂は使用されず、保存中にコエンザイムQ10の析出が起こると予測される。
【特許文献1】特開2003−88330
【特許文献2】特開2003−125734
【特許文献3】特開昭57−142911
【特許文献4】WO2003/061396
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コエンザイムQ10は単に食品に添加した場合、食品中でコエンザイムQ10が均一に溶解或いは分散し難く、また、一度食品に均一に溶解した場合でも、保存中にコエンザイムQ10が析出したり、食品中での局在化が起こり、食品の風味及び外観的に問題となる事が多かった。特にチョコレートに於いては、チョコレートが結晶性ココアバター(CB)を連続相とし、この中にカカオ豆や砂糖等の固体粒子が分散した構造を有する固体脂食品であるという特長上、製造後の保管中に、カカオバターの結晶化と共に、コエンザイムQ10の結晶化が起こり、それが表面上に黄色く析出し、商品価値をなくしてしまう現象が起こっていた。また先行文献のように、予めコエンザイムQ10を食用油脂に溶解させた食用油脂組成物を添加しても、場合によってコエンザイムQ10の析出が起こっていた。これは、コエンザイムQ10の常温における油脂類に対する溶解度が著しく低いことに起因している。
【0007】
これらの事により、従来のコエンザイムQ10配合のチョコレートでは、コエンザイムQ10を高濃度に配合することは出来なかった。また、コエンザイムQ10が析出したチョコレートでは摂取時の吸収性が十分ではなかった。従って、従来の技術を用いたコエンザイムQ10を含有したチョコレートよりも、コエンザイムQ10を高濃度に配合してもコエンザイムQ10の結晶が析出せず、体内への吸収率も低下しないチョコレートおよびその製造方法の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する為に、本願発明者は鋭意研究した結果、コエンザイムQ10を、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%含有し、液体脂をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%含有するコエンザイムQ10含有チョコレートを製造した。
【0009】
本発明は、以下のコエンザイムQ10含有チョコレートおよびその製造方法、コエンザイムQ10含有チョコレートを使用したチョコレート被覆菓子に関する。
1. コエンザイムQ10を、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%、液体脂をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%含有する、コエンザイムQ10含有チョコレート。
2. 液体脂が、液体植物油、魚油および鯨油からなる群から選ばれる、項1に記載のコエンザイムQ10含有チョコレート。
3. チョコレートが、ビターチョコレート、ミルクチョコレート 、ホワイトチョコレート、準チョコレート、純チョコレート、生チョコレートからなる群から選ばれる、項1または2に記載のコエンザイムQ10含有チョコレート。
4. 項1から3のいずれかに記載のチョコレートを用いることを特徴とするコエンザイムQ10含有チョコレート被覆菓子。
5. チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%のコエンザイムQ10をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%の液体脂に溶解し、チョコレート成分と混合することを特徴とするコエンザイムQ10含有チョコレートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コエンザイムQ10がチョコレート中に均一に溶解・分散し、且つチョコレート保存中にもコエンザイムQ10の析出や局在化も起こらず、見かけ上の商品価値を下げることなく、また、光安定性にも優れており、長期の保存後においても、コエンザイムQ10の体内吸収性が低下しないチョコレートが得られる。
【0011】
チョコレートは通常の流通温度で溶けないように25℃以上の融解/軟化温度が望ましいとされているが、25℃より低い温度で流通させる場合は、融解/軟化温度が25℃未満であってもよい。ここで、「28℃以下で流通可能なチョコレート」は、28℃で包装にチョコレートが付着しなければよく、多少軟らかくなっていても問題ない。
本発明のチョコレートは、流通に必要な融解/軟化温度を有し、かつ、コエンザイムQ10の析出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
コエンザイムQ10を、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%含有し、且つ液体脂重量をコエンザイムQ10量に対して10倍量以上含有するコエンザイムQ10含有チョコレートは、コエンザイムQ10を液体脂に溶解し、得られた混合物をチョコレートに添加して製造することもでき、コエンザイムQ10と液体脂を他の原料と同様に、通常通り混合するという常法によって製造することもできる。
本発明のチョコレートは、約25℃以下で流通可能である。換言すれば、本発明のチョコレートの融解/軟化温度は約25℃以上である。本発明のチョコレートは、好ましくは約26℃以下、より好ましくは約27℃以下、さらに好ましくは約28℃以下、特に30℃以下で固形(すなわち、包装にチョコレートがほとんど或いは全く付着しない)である。これらの温度で固形であれば、例えば板チョコレートの形状は、これらの温度で保存されてもほとんど或いは全く変化しない。
【0013】
本発明のチョコレートにおけるコエンザイムQ10の配合量は、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%程度、好ましくは0.2〜0.9重量%程度、より好ましくは0.3〜0.8重量%程度、特に0.5〜0.7重量%程度である。コエンザイムQ10の配合量が多すぎると、液体脂の配合量も多くなるため、チョコレートが25℃以下の温度で軟らかくなり変形する可能性があるため望ましくない。また、コエンザイムQ10の配合量が少なすぎると、有効なコエンザイムQ10の1日の摂取量を満足するために多量のチョコレートの摂取が必要になるため好ましくない。
本発明のチョコレートにおける液体脂の配合量は、コエンザイムQ10に対して10倍量以上かつチョコレート総重量に対して1〜10重量%程度、好ましくは2〜9重量%程度、より好ましくは3〜8重量%程度、特に5〜7重量%程度である。液体脂の配合量が多すぎると、チョコレートが軟らかくなり、流通温度(例えば25℃)でチョコレートの変形が生じる可能性がある。液体脂の配合量が少なすぎると、析出を防止して配合可能なコエンザイムQ10の配合量が少なくなる。
【0014】
液体脂とは、食用油脂として一般に調理油として用いられている油脂、例えば菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに魚油、鯨油等の動物性油脂、これらを水添やエステル交換等により加工し且つ液体の油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(例えば、6〜12、好ましくは8〜12の炭素原子を有する脂肪酸のトリグリセリド);脂肪酸の部分グリセリド(モノグリセリドやジグリセリド、例えば、6〜18、好ましくは6〜12の炭素原子を有する脂肪酸のモノグリセリドやジグリセリド)が挙げられる。
【0015】
本明細書において、「液体脂」とは、20℃で液体の油脂をいう。
【0016】
本発明でいうチョコレートとは、チョコレート、およびそれと同等の物性を有する食品を言う。すなわち、チョコレート規約に言うチョコレートや準チョコレートのみならず、カカオ分を少量しか、あるいは全く含まず、カカオ脂代替用として開発された油脂(以下、カカオ代用脂と称する)、及び/又はそれらと同等の融点を有するノーテンパ型油脂(チョコレートの結晶をつくるための品温操作、いわゆるテンパリング操作が不要な油脂)をカカオ脂及びカカオ代用脂の代わりに用いることにより、40℃以上で油脂が完全に溶解するチョコレート様食品も包含する。また、これらの配合や製造方法は特別なものでなくてよく、常法によって製造してよい。
【0017】
チョコレートとしては、ビターチョコレート、ブラックチョコレート、ミルクチョコレート、クリームチョコレート、ホワイトチョコレート、生チョコレートなどが挙げられ、例えば板チョコレート、チョコレートバー、シェルチョコレート(チョコレートを型に流し込み、殻(シェル)をつくり、この中にクリーム、ジャム、ナッツ類、フルーツ類などを入れ、さらにチョコレートで蓋をしたもの)、エンローバー(被覆)チョコレート、ホローチョコレート、掛けもの(パンワーク)チョコレート(アーモンドチョコレート、ピーナッツチョコレート、マーブルチョコレートなど)、チョコレートスナックなどが挙げられる。
【0018】
本願発明におけるチョコレートとは、チョコレート生地を利用して作られた全ての食品をいい、チョコレート規約におけるチョコレート加工品だけに制限されるものではない。
本願発明において、液体脂とコエンザイムQ10以外のチョコレート生地とは、カカオマス製品又はココアバターと糖類、乳製品、レシチン等を原料とし、必要により他の食用油脂(20℃で固体のもの)、果汁、香料、調味料等を必要に応じて加えて通常の工程を経て製造されたものや、ココアバターの代わりに代用脂として、動植物由来のテンパリング、ノーテンパリング又はそれらを混合した油脂を使用したチョコレート生地等、各種チョコレートを含み、チョコレート規約におけるチョコレート生地だけに制限されるものではない。ココアバターの代わりに代用脂としては、シア脂、サル脂、イリッペ脂などが挙げられる。
【0019】
本発明の1つの好ましい実施形態において、チョコレートは、チョコレート総重量に対して、カカオマスとカカオバター或いはこれらの代用脂の合計が35〜97重量%、乳製品(乳脂肪と乳固形分の合計)0〜25重量%、砂糖などの糖類0〜45重量%、その他(レシチン、香料、融点20℃を超える食用油脂等の他の成分の合計量) 0〜40重量%、コエンザイムQ10を0.1〜1.0重量%、液体脂を1〜10重量%使用する。
カカオマス製品とはカカオマス、ココアケーキ、ココアパウダーなど一般にカカオマスの固形分を含むものをいう。
【0020】
カカオマスとは、通常、カカオビーンズからシェルを技術的に可能な限り除いたもの(カカオニブ)を、そのいかなる構成成分も除去又は添加することなく、機械的方法により磨砕したもの(アルカリ処理等をしたものを含む)をいい、ココアバターとは、通常、カカオビーンズ、カカオニブ又はカカオマスから得られた油脂であって、シェル又はジャームの脂肪分を天然に含んでいる量以上含まないものをいい、ココアケーキとは、通常、カカオニブ又はカカオマスから機械的方法により、脂肪分の一部を除いたものをいい、ココアパウダーとは、通常、ココアケーキを粉砕し、必要により乾燥させた微粉末のものをいう。
【0021】
乳製品とはクリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、発酵乳、発酵乳パウダー、ミルククラム、ブロックミルク、牛乳等一般に乳製品といわれるものをいう。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、これら例示に限定されるものではない。単位は特に記載がない場合は、質量を基準とする。
実施例1および比較例1
表1に示す各成分を各比率で配合して実施例1及び比較例1のチョコレートを各々調製した。具体的には、コエンザイムQ10を液体脂に溶解し、得られた混合物を、カカオマス、ココアバター、砂糖、全粉乳から構成されるチョコレートに配合して製造した。比較例1では、実施例1のチョコレートの液体脂の代わりにココアバターを使用した。 なお、表1において、液体脂としては、なたね油を使用した。
【0023】
実施例1及び比較例1のチョコレートサンプルを20℃で3ヶ月間保管し、コエンザイムQ10の析出の有無を観察した。結果を図1に示す。
【0024】
図1に示すように、比較例のサンプルでは、コエンザイムQ10の結晶が表面上に黄色く析出し、商品価値をなくしてしまう現象が起こっていた。一方、実施例1のサンプルでは、3ヶ月の保存後でさえコエンザイムQ10の析出は見られなかった
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1と比較例1のチョコレートサンプルの3ヶ月貯蔵後の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10を、チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%、液体脂をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%含有する、コエンザイムQ10含有チョコレート。
【請求項2】
液体脂が、液体植物油、魚油および鯨油からなる群から選ばれる、請求項1に記載のコエンザイムQ10含有チョコレート。
【請求項3】
チョコレートが、ビターチョコレート、ミルクチョコレート 、ホワイトチョコレート、準チョコレート、純チョコレート、生チョコレートからなる群から選ばれる、請求項1または2に記載のコエンザイムQ10含有チョコレート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のチョコレートを用いることを特徴とするコエンザイムQ10含有チョコレート被覆菓子。
【請求項5】
チョコレート総重量に対して0.1〜1.0重量%のコエンザイムQ10をコエンザイムQ10に対して10倍量以上かつ1〜10重量%の液体脂に溶解し、チョコレート成分と混合することを特徴とするコエンザイムQ10含有チョコレートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−5813(P2008−5813A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182411(P2006−182411)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】