コモンモードフィルタ
【課題】 超高速差動信号を通過させ、コモンモードノイズを通過させ難くする。
【解決手段】 集中定数差動遅延線DLは、差動線路1、3中に配置された受動直列素子および受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において、受動直列素子にインダクタLoを、受動並列素子にキャパシタCoを配置して形成される。集中定数差動遅延線DLは、並列素子としてのキャパシタCoが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタCo/2とCo/2、又はCoとCoからなる。コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4は、直列接続されたキャパシタCo/2どうし又はCoどうしの接続点T1〜T4とグランド電位との間に接続され、キャパシタCo/2、Coとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成する。
【解決手段】 集中定数差動遅延線DLは、差動線路1、3中に配置された受動直列素子および受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において、受動直列素子にインダクタLoを、受動並列素子にキャパシタCoを配置して形成される。集中定数差動遅延線DLは、並列素子としてのキャパシタCoが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタCo/2とCo/2、又はCoとCoからなる。コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4は、直列接続されたキャパシタCo/2どうし又はCoどうしの接続点T1〜T4とグランド電位との間に接続され、キャパシタCo/2、Coとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコモンモードフィルタに係り、特に、超高速差動線路を伝搬する望ましい超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを遮断し、電磁障害も引き起こし難いコモンモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においてノイズは有害な存在であることから、ノイズを除去するための多くの提案がなされている。
【0003】
一般に、ノイズには差動モードノイズ(ノーマルモードノイズ)およびコモンモードノイズがあり、このノイズが存在する周波数範囲およびノイズを除去する構成を分類すると、以下のようになる。
【0004】
(1)ノイズが特定の周波数範囲に存在し、伝送信号成分はそれよりも遥かに低い場合
第1の構成としては、インダクタとキャパシタを組合わせた集中定数型の共振回路を形成し、その共振周波数近辺の周波数成分を除去するものがある。
【0005】
この種の公知例として、例えば特開昭53−25333号公報(特許文献1)がある。
この特許文献1は、コンデンサ2個とコイル1個をY形に結線して直列共振回路を複数形成し、携帯用電動工具から出る特定範囲のノイズを除去し、ノイズが電力線に出力されるのを防ぐものである。
【0006】
第2の構成は、インダクタとキャパシタを組合わせた集中定数型のローパスフィルタを構成し、フィルタの遮断周波数以上の周波数成分を除去するものである。
【0007】
この種の公知例として、例えば特開2008−78717号公報(特許文献2)がある。
この特許文献2は、インダクタとキャパシタを組合わせたローパスフィルタによってノーマルモードノイズを除去し、コモンモード・チョークコイルによってコモンモードノイズを除去し、スイッチング電源ノイズが電力線に出力されるのを防ぐものである。
【0008】
(2)ノイズおよび伝送すべき差動信号がとともに特定の同じ周波数範囲に存在し、差動信号がノーマルモード信号の場合
【0009】
このような場合、コモンモード・チョークコイルが使用される。
この種の公知例として、特開2004−266634号公報(特許文献3)のように、ノーマルモード信号の周波数帯域の下限を2MHzとした構成や、特開2000−58343号公報(特許文献4)のように、差動信号伝送用のコモンモード・チョークコイルをトロイダルコアに巻線する構成がある。
【0010】
近年、使用される周波数帯域が高くなり、例えば、2000年4月に策定されたUSB(universal serial bus )2.0仕様は、最大データ伝送速度を480Mビット/秒(クロック周波数240MHz)とし、その周波数帯域においては伝送すべき信号として差動信号が使用される。
【0011】
ところで、理想的なコモンモード・チョークコイルは、図18の等価回路に示すように、磁性体磁芯に巻かれ結合係数が「1」に近い1対のコイルと、入出力間の線間容量を低く抑えたコイル間容量とによって伝送線路を形成し、特性インピーダンスを管理する構成である。
【0012】
このコモンモード・チョークコイルでは、コモンモードノイズに対して、伝送線路上に挿入される等価なインダクタンスが大きい値となり、図19の符号Scc21に示す特性のように、コモンモードノイズの通過阻止が可能である。
【0013】
他方、コモンモード・チョークコイルは、差動信号(ノーマルモード信号)に対して、インダクタンスが零に近く、しかもライン間容量と組み合わせて低損失伝送線路を形成するため、図19の符号Sdd21に示す特性のように、少ない損失で通過する。
【0014】
このような理想的なコモンモード・チョークコイルは、現状では製品化されていないが、通過帯域を15GHzに設定し、本発明の効果と比較するために説明したものである。
【0015】
従来は、コモンモード・チョークコイルは、構造がシンプルであるうえ、高速の差動信号を損失なく通過させて、同じ周波数帯域のコモンモードノイズを阻止可能であることから、高速シリアル伝送インターフェースにおけるノイズ対策に広く使われてきた。
【0016】
最新、インターフェースUSB3.0(最大データ伝送速度が5Gビット/秒=クロック周波数2.5GHz)仕様が2008年11月に策定された。
【0017】
クロック周波数が2.5GHzの場合、波形劣化を防ぐには、少なくともその3倍の高調波である7.5GHzまでは、インターフェースラインとして差動信号を振幅劣化なく、かつ群遅延特性を平坦に通過させることが望ましく、同じ帯域のコモンモードノイズも遮断させねばならない。
【0018】
しかし、このようなGHz帯では磁性体の透磁率が低下し、インダクタ間の結合係数も低下するし、分布容量の存在の影響も大きい。
【0019】
具体的にシュミレーションしてみると、そのやり方にもよるが、図18においてインダクタ間の結合係数が0.98から0.97に下がるだけで、差動信号に対する通過帯域は半分に激減する。
【0020】
差動伝送線路で問題となるノイズは、主としてコモンモードノイズであり、上記USB3.0仕様が策定される前から、コモンモード・フィルタとして多数の提案がなされているその殆どは、コモンモード・チョークコイルに関するものである。
【0021】
その他の提案を含めても上記ノイズ除去手段で述べたようなインダクタンスとキャパシタンスを組合わせた集中定数型の共振回路又はローパスフィルタの構成は見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開昭53−25333号公報
【特許文献2】特開2008−78717号公報
【特許文献3】特開2004−266634号公報
【特許文献4】特開2000−58343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述したコモンモード・チョークコイルは、本来、差動信号に対してインダクタンスが零で、コモンモードノイズに対しては大きいインダクタンスを持つことでその機能を発揮するものである。
【0024】
しかし、扱う周波数が5GHzを超えると磁性体の透磁率の低下により、差動信号回路に直列に等価的なインダクタンスが挿入されることが避けられなくなる。それに分布容量が加わり、差動信号の振幅特性の劣化と、それに伴う群遅延特性の直線性劣化が避けられない。従って、コモンモード・チョークコイルの性能向上への限界がある。
【0025】
さらに、コモンモード・チョークコイルは、コモンモードノイズに対し、大きなインダクタンスすなわち高い直列インピーダンスで遮断するため、コモンモードノイズから見ると、入力端子部の内部は終端開放に近くなり、入力端子に印加されたコモンモードノイズが、入力端子部で終端開放線路と同様の応答を示す。
【0026】
そのため、入力端子部に印加されたコモンモードノイズと、入力端子から内部をみたときの高インピーダンスによって反射された反射コモンモードノイズとが重畳され、入力端子部でのコモンモードノイズのピーク電圧が上昇する。
【0027】
入力端子部は、実装を容易にするためむき出しで、シールドすることが困難なため、ここから電磁放射され易く、電磁障害を引き起こす要因となり得るから、入力端子部でのコモンモードノイズのピーク電圧上昇は好ましくない。
【0028】
本発明はそのような課題を解決するためになされるもので、超高速差動線路における超高速差動信号の伝送を確保し、コモンモードノイズを減衰させることが可能で、電磁障害を引き起こし難いコモンモードフィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
そのような課題を解決するために本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタは、差動線路中に直列的に配置された受動直列素子および当該差動線路間に並列的に配置された受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において受動直列素子にインダクタを、その受動並列素子にキャパシタを配置してなる集中定数差動遅延線であって、その並列素子としてのキャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタからなる集中定数差動遅延線と、直列接続された当該キャパシタどうしの接続点とグランド電位との間に接続され、それらのキャパシタとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成するコモンモードノイズ減衰用インダクタと、を具備している。
【0030】
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、定K型構成となっている。
【0031】
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、誘導m型構成となっている。
【0032】
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、全域通過型構成となっている。
【0033】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線およびノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、その差動線路にその差動遅延素子が梯子状に複数直列配置され複数区間を構成している。
【0034】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、定K型、誘導m型および全域通過型のそれら差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合して構成されている。
【0035】
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタは、上記差動遅延素子における減衰極周波数を異ならせて構成されている。
【0036】
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタは、上記差動線路の入出力側の差動遅延素子における減衰極の周波数を、これらの間の差動遅延素子における減衰極の周波数より高く設定して構成されている。
【発明の効果】
【0037】
このような本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタでは、受動直列素子にインダクタを、受動並列素子にキャパシタを配置した集中定数差動遅延線を用い、その並列素子としてのキャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタで形成されるとともに、直列接続されたキャパシタどうしの接続点とグランド電位との間にコモンモードノイズ減衰用インダクタを接続したから、超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを遮断し、入力端子部におけるコモンモードノイズのピーク電圧を低減し、電磁障害も引き起こし難い。
【0038】
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を定K型で構成するから、定K型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0039】
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を誘導m型で構成するから、誘導m型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0040】
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を全域通過型で構成するから、全域通過型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0041】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線およびノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、その差動線路に差動遅延素子を梯子状に複数直列配置し複数区間を構成するから、上述した効果に加えて、種々の特性を得ることが可能である。
【0042】
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線として、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合して構成するから、種々の通過型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0043】
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタでは、上記差動遅延素子における減衰極周波数を異ならせてなるから、コモンモードノイズの通過特性を所望の特性に形成し易く、さらに入力端子部におけるコモンモードノイズのピーク電圧が周波数成分毎に分散される等、種々の特性を得ることが可能で、確実に電磁障害も引き起こし難い。
【0044】
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタでは、上記差動線路の入出力側の差動遅延素子における減衰極の周波数を、これらの間の差動遅延素子における減衰極の周波数より高く設定してなるから、ノイズ減衰用インダクタの値が大きくなるのを抑え、これらの値を揃え易い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のコモンモードフィルタの基となる集中定数差動遅延線の例を示す回路図である。
【図2】本発明に係るコモンモードフィルタの第1の実施の形態を示す回路図である。
【図3】図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図4】図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図5】本発明に係るコモンモードフィルタの第2の実施の形態を示す回路図である。
【図6】図5に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図7】図5に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図8】本発明に係るコモンモードフィルタの第3の実施の形態を示す回路図である。
【図9】図8に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図10】図8に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図11】本発明のコモンモードフィルタの動作を説明するための回路図である。
【図12】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるパルス応答波形である。
【図13】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるパルス応答波形である。
【図14】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるコモンモードノイズ波形である。
【図15】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるコモンモードノイズ波形である。
【図16】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるコモンモードノイズスペクトルである。
【図17】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるコモンモードノイズスペクトルである。
【図18】従来のコモンモード・チョークコイルの等価回路である。
【図19】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係るコモンモードフィルタの実施の形態を図面を参照して説明する。
【0047】
まず、本発明のコモンモードフィルタの基となる集中定数差動遅延線を説明する。
【0048】
図1は本発明のコモンモードフィルタに適用する集中定数差動遅延線の一例を示す回路図である。
【0049】
図1において、差動入力端子1A、1Bと差動出力端子2A、2B間の差動線路1、3には梯子型差動4端子網5が形成されている。
【0050】
梯子型差動4端子網5は、それら差動線路1、3中に直列的に配置された受動直列素子と、これら差動線路1、3間に並列的に配置された受動並列素子を組合せ接続して梯子状に構成されている。
【0051】
すなわち、差動入出力端子1A、2A間の差動線路1および差動入出力端子1B、2B間の差動線路3において、受動直列素子としてのインダクタLoが複数個、例えば3個ずつ直列接続され、個々のインダクタLoの両端には受動並列素子としてキャパシタCo/4、Co/2が接続されている。
【0052】
差動線路1、3における同位置の各インダクタLoの両端間には、それらキャパシタCo/4、Co/2が接続され、3区間からなる定Kπ型集中定数差動遅延線DLが構成されている。
【0053】
この集中定数差動遅延線DLにおける1区間分の差動遅延素子dl1、dl2、dl3は、梯子型差動4端子回路であり、差動線路1、3における一対のインダクタLoとこの両端の2個のキャパシタCo/4、Co/2によって形成されている。隣合う差動遅延素子dl1とdl2、dl2とdl3のキャパシタCo/2は、共用されている。
【0054】
しかも、差動入出力端子1A、1B、2A、2B側の差動遅延素子dl1、dl3におけるキャパシタCo/4の容量値は中間の差動遅延素子dl2との共用がないため、中間の差動遅延素子dl2のキャパシタCo/2に比べて半分になっている。各差動遅延素子dl1〜dl3の遅延時間tdは、「数1」のように示される。
【0055】
【数1】
【0056】
各差動遅延素子dl1〜dl3の特性インピーダンスZcは、「数2」のように示される。
【0057】
【数2】
【0058】
図1において、差動遅延素子dl1〜dl3の1区間分のキャパシタの容量もCo/4、Co/2と表記することで、遅延時間tdの表記が一般に知られたシングルエンド遅延線における数式に一致している。
【0059】
なお、図1中、差動入力端子1A、1B側の符号+vdと−vdはインピーダンスZoの差動電源であり、差動出力端子2A、2B側の符号Zoは終端インピーダンスである。
【0060】
次に、本発明に係るコモンモードフィルタを詳細に説明する。
【0061】
図2は、本発明のコモンモードフィルタに係る第1の構成を説明する回路図であり、図1の集中定数差動遅延線を改良したものである。符号Vcはコモンモードノイズ源である。
【0062】
上述した図1の各差動遅延素子dl1〜dl3における差動線路1、3上の一対のインダクタLo両端間を結ぶキャパシタCo/4、Co/2は、図2に示すように、直列接続された2個のキャパシタCo/2とCo/2、又はCoとCoに分割されている。しかも、キャパシタCo/2とCo/2の直列合成容量がキャパシタCo/4と等価的に、同様に、キャパシタCoとCoの直列合成容量がキャパシタCo/2と等価的になっている。
【0063】
すなわち、分割された2個のキャパシタCo/2、Coの容量は、分割前の1個のキャパシタCo/4、Co/2の2倍の容量値を有している。
【0064】
各差動遅延素子dl1〜dl3において、キャパシタCo/2とCo/2どうし、又はCoとCoどうしの各接続点T1、T2、T3、T4とグランド電位との間には、コモンモードノイズ減衰用インダクタL1、L2、L3、L4が接続されている。
【0065】
コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4は、各々これに接続されたキャパシタCo/2、Coとの組合せによって直列共振回路を形成し、この共振周波数がコモンモードノイズ減衰極周波数に設定されている。その他の構成は図1と同様である。
【0066】
このようなコモンモードフィルタでは、差動線路1、3中に形成する梯子型の差動4端子網5として、上述した梯子型4端子回路である集中定数型の差動遅延素子dl1〜dl3を用い、差動線路1、3を伝搬する差動信号を設計目標通りの振幅特性と群遅延特性で通過させることが可能である。
【0067】
すなわち、この第1の構成では、差動線路1、3を伝送する差動信号が、互いに逆位相信号であるから、これらがキャパシタCo/2どうしやCoどうしの各接続点T1〜T4に達しても互いに打ち消し合って消失する。そのため、差動信号に対しては、直列共振回路は寄与しないことになり、差動遅延素子dl1〜dl3の設計通り、劣化なく差動信号が伝送される。
【0068】
他方、第1の構成では、差動遅延素子dl1〜dl3を形成する並列素子である2個のキャパシタCo/2やCoと、これらの接続点T1〜T4に接続されたコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4とにより、コモンモードノイズに対する直列共振回路が形成されるから、コモンモードノイズが減衰遮断され、コモンモードノイズを設計通りに減衰させることが容易である。
【0069】
さらに、遮断されたコモンモードノイズは、差動遅延素子dl1〜dl3中を伝搬し、往復で2倍の伝播遅延時間をもって差動入力端子1A、1Bへ戻るため、差動入力端子1A、1Bに印加されたコモンモードノイズと、反射して戻ってきたコモンモードノイズとは位相がずれた状態で重畳される。
【0070】
そのため、差動入力端子1A、1Bにおいてコモンモードノイズのピーク電圧上昇が回避可能になり、差動入力端子1A、1Bの部分においてノイズが電磁放射され難い。
【0071】
しかも、差動遅延素子dl1〜dl3で複数区間が構成されているから、区間毎に共振周波数が異なるように直列共振回路の定数を設定することにより、コモンモードノイズが周波数成分毎に異なった直列共振回路で遮断され、周波数成分毎に異なった伝播遅延時間で差動入力端子1A、1Bに戻る。そのため、差動入力端子1A、1Bにおけるコモンモードノイズの各周波数成分が時間的に分散され、そのピーク電圧がより一層低減される。
【0072】
図3は、図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図であり、同図中の符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性である。図3の特性は、1区間の遅延時間が30ps、特性インピーダンスは100Ωとなるよう各素子の定数を設定したものである。
【0073】
さらに、各直列共振回路の各共振周波数fc1〜fc4を、
fc1は、L3と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.5GHz
fc2は、L2と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.76GHz
fc3は、L4とCoで決まる直列共振周波数で、ここでは3.25GHz
fc4は、L1とCoで決まる直列共振周波数で、ここでは4.5GHz
となるように設定した結果、2.47GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−12dB以上とすることができた。
【0074】
ここで、直列共振周波数を決定する容量は、両差動線路1、3に接続されたキャパシタCoの並列接続分に相当している。その理由は、コモンモードノイズが両差動線路1、3に同相で印加されることから、両両差動線路1、3のキャパシタはコモンモードノイズに対して並列接続されたことと等価となるためである。
【0075】
また、直列共振周波数の低いfc1とfc2を中間区間に設定することにより、中間区間の共振容量が両端区間容量より大きいので、共振のためのインダクタンスが大きくなるのを抑えて、インダクタンスを揃えることが可能である。
【0076】
図4は、図2の本発明に係るコモンモードフィルタの差動信号に対する群遅延特性である。
【0077】
図5は本発明のコモンモードフィルタに係る第2の実施の形態であり、4区間からなる誘導mT型集中定数差動遅延線を基にしたものである。
【0078】
すなわち、4個の差動遅延素子dl1〜dl4からなり、各差動遅延素子dl1〜dl4において、受動直列素子を形成するインダクタLoを2等分し、2等分されたインダクタLo/2どうしを直列接続するとともに互いに相互誘導m結合させ、2等分されたインダクタLo/2どうしの接続点の間を、上述したキャパシタの直列回路で接続した構成を有している。その他の構成は、図1と同様である。
【0079】
この図5の構成においても、各差動4端子回路の並列素子を2倍の容量値を有する2個のキャパシタCoとCoの直列回路に変換し、直列接続されたキャパシタCoどうしの接続点T1、T2、T3、T4とグランド電位との間に、上述したコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4が接続されている。
【0080】
このような構成において、梯子型差動4端子網5の受動直列素子を構成するインダクタは等価的に(Lo+2m)となり、受動並列素子は等価的にキャパシタCoと負のインダクタ成分−mとが直列接続された回路となる。
【0081】
各差動遅延素子dl1〜dl4の1区間の遅延時間tdは、「数3」で示される。
【0082】
【数3】
【0083】
各差動遅延素子dl1〜dl4の特性インピーダンスZcは、「数4」で示される。
【0084】
【数4】
【0085】
図6は図5に示すコモンモードフィルタの特性図であり、同図中の符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性であり、1区間の遅延時間が37.5psで、特性インピーダンスは100Ωとなるように各素子の定数を定めた例である。
【0086】
なお、回路解析においては、相互誘導mの値に代わって後述する「数5」に示すように、相互誘導mとインダクタLo/2に対する比、すなわち結合係数kを用いることが一般的であり、ここではk=0.24である。
【0087】
【数5】
【0088】
この場合、図中のfc1〜fc4を決める直列共振周波数は、コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4の各値からm/2を差し引いた値と2×Coで決定される。そこで差動遅延素子dl1〜dl4の各共振周波数を、
fc1は (L4−m/2)と2×Co決まる直列共振周波数で、ここでは2.39GHz
fc2は (L3−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.54GHz
fc3は (L2−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.94GHz
fc4は (L1−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは3.99GHz
となるように設定すると、2.36GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−23dB以上が得られる。
【0089】
図7は、図5のコモンモードフィルタが示す差動信号に対する群遅延特性である。誘導m型の構成では、群遅延特性が定K型より良いといわれており、ここでも図4との比較でそれが実証されている。
【0090】
図8は本発明のコモンモードフィルタに係る第3の実施の形態である。
【0091】
すなわち、4個の差動遅延素子dl1〜dl4からなり、各差動遅延素子dl1〜dl4において、受動直列素子を形成するインダクタLoを2等分し、2等分されたインダクタLo/2どうしを直列接続するとともに互いに相互誘導m結合させ、更に、直列接続されたインダクタLo/2の両端をキャパシタCaで橋絡し、差動線路1、3の当該接続点どうしを上述したキャパシタCoの直列回路で接続したものであり、全域通過型集中定数差動遅延線の構成を有している。その他の構成は、図5と同様である。
【0092】
このような構成では、梯子型差動4端子回路の受動直列素子を構成するインダクタは、1区間の遅延時間を決めるインダクタが等価的に(Lo+2m)となり、並列素子は等価的にキャパシタCoと負のインダクタ成分−mとが直列接続された回路となる。
【0093】
この構成でも、並列素子を2倍の容量値のキャパシタ2個の直列接続に変換し、2個の直列接続されたキャパシタCoの接続点を差動入力端1A、1B側から順にT1、T2、T3、T4とし、これらの各接続点T1〜T4とグランド電位間にコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4が接続されている。その他の構成は図5と同様である。
【0094】
この構成の各差動遅延素子dl1〜dl4における1区間の遅延時間tdは、「数6」で示される。
【0095】
【数6】
【0096】
各差動遅延素子dl1〜dl4における特性インピーダンスZcは、「数7」で示される。
【0097】
【数7】
【0098】
図9は図8に示すコモンモードフィルタの特性図であり、符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性である。図9の特性は、1区間の遅延時間が37.5psで、特性インピーダンスは100Ωとなるように各素子の定数を定めた例である。
【0099】
この図8に構成においても、図5の場合と同様に、相互誘導mの代わりに結合係数kを用い、この場合はk=0.42である。図8の全域通過型集中定数差動遅延線の場合、結合係数は誘導m型の場合より大きい値とすることが好ましい。
【0100】
さらに、橋絡容量Caが配置されているが、結合係数kが0.42の場合、橋絡容量Caは、キャパシタCoの1/10程度の値が使用される。この場合fc1〜fc4を決める直列共振周波数はL1〜L4の各値からm/2を差し引いた値と2×Coで決定される。
【0101】
そこで、各共振周波数を、
fc1は (L4−m/2)と2×Co決まる直列共振周波数で、ここでは2.39GHz
fc2は (L3−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.53GHz
fc3は (L2−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.9GHz
fc4は (L1−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは3.9GHz
となるように設定すると、2.36GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−25dB以上が得られる。
【0102】
全域通過型集中定数遅延線では差動信号の振幅特性が非常に平坦であり、殆ど振幅変動がない。
【0103】
図10は、図8のコモンモードフィルタが示す差動信号に対する群遅延特性である。誘導m型よりも更に平坦な特性が得られている。
【0104】
図9から分かるように、13GHz以上ではコモンモードノイズが通過するようになるが、2.5GHzに対しては5倍以上の高調波に当たるので通常は殆ど問題とならない。もし問題となる場合には、全域通過型集中定数差動遅延線とその他の低域通過型の遅延線を組合わせることも可能である。
【0105】
次に、本発明に係るコモンモードフィルタについて、例えば5Gビット/秒のデータ信号に対する反射コモンモードノイズの抑圧効果を確認する。
【0106】
図11に示すように、差動電源+vd、−vdにコモンモードフィルタ又はコモンモード・チョークコイル等の挿入部品が接続され、出力が整合終端されている構成を想定する。図11中の符号Vcはコモンモードノイズ源である。
【0107】
コモンモードノイズは、差動信号に同期している場合と同期してない場合があるが、説明を容易とするため同期している例を説明する。
【0108】
ここで、差動電源+vd、−vdは、正相と負相間で位相がずれる、いわゆる差動スキューが発生し、正相と負相間で同相成分の電圧が発生するものとする。この同相成分がコモンモードノイズとなる。
【0109】
図11において、差動入力端子1A、1Bの電位をV1、V3、差動出力端子2A、2Bの電位をV2、V4とし、差動スキューが50ps発生した場合の、出力波形V1〜V4、入力端子部のコモンモードノイズV1+V3、出力端子部のコモンモードノイズV2+V4を求め、図12〜図19に示す。なお、信号パターンを簡単化するため、「0」と「1」の繰り返し信号(2.5GHzクロック相当)とする。
【0110】
この確認は、本発明の上述した図8の第3の構成で行う。その理由は、図8の構成が、コモンモードノイズの遮断特性が最も優れており、逆に反射コモンモードノイズ電力が最も大きく、従来例の遮断特性を示す図19と比較しても遜色のない反射コモンモードノイズ電力を有しており、比較に適しているからである。
【0111】
各図の意味は「表1」に示す通りである。
【0112】
【表1】
【0113】
図12と図13を比較すると、従来例である図18のコモンモード・チョークコイルを挿入した場合は、入力側の信号V1およびV3にスパイク状のノイズが重畳されていることが分かる。
【0114】
そこで、入出力波形から、同相成分すなわちコモンモードノイズのみを抽出した波形を図14および図15に示す。図15に示されるように、図18のコモンモード・チョークコイルを挿入した場合は、入力側のコモンモードノイズが大きいピーク電圧を示し、遮断されたコモンモードノイズが入力端子で重畳されていることが分かる。
【0115】
一方、図8の本発明によるコモンモードフィルタを挿入した場合は、図14に示されるように、遮断により反射してきたコモンモードノイズが、時間的に分散されている様子が示されている。
【0116】
そこで、入力側でのコモンモードノイズの周波数スペクトルを調べると、図16および図17の比較で分かるとおり、図8の本発明によるコモンモードフィルタの方が、明らかにピーク値が低いことが分かる。
【0117】
以上、反射コモンモードノイズピーク値の抑圧効果を、コモンモードノイズが差動信号に同期している場合で示した。この効果は、集中定数差動遅延線において、減衰極周波数の異なる複数のコモンモードノイズ減衰用の減衰極を、遅延時間差を設けて配置することで得られるので、コモンモードノイズと差動信号が同期していない場合も同様な抑制効果が得られることが分かる。
【0118】
また、この効果を本発明である図8の場合で解析した結果で示したが、集中定数差動遅延線であれば、全てに同様な抑制効果が得られることも分かる。
【0119】
さらに、本発明のコモンモードフィルタでは、集中定数差動遅延線として定K型、誘導m型又は全域通過型の3種で説明したが、その他の構成でも可能である。
【0120】
例えば、誘導m型が梯子型集中定数差動遅延線の直列素子であるインダクタの隣接区間で相互誘導を持つのに対し、例示はしないが、2区間以上離れた区間のインダクタ間に相互誘導を持たせた構成も知られており、このような構成においても本発明に係る構成の応用が可能であり、同様の効果を得ることが可能である。
【0121】
要は、集中定数差動遅延線が、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から、例えば2個の定K型差動遅延素子と3個の誘導m型差動遅延素子を梯子状に接続する等、異なる2個又は3個を複合した構成であれは本発明の目的達成が可能である。
【0122】
また、例示しないが、他の集中定数差動遅延線として群遅延平坦型ローパスフィルタを用いることも可能である。
【0123】
ただし、この群遅延平坦型ローパスフィルタの構成は、一見、定K型に類似しているが、複数区間からなる構成において、シングルエンドで構成した場合の受動直列素子であるインダクタと受動並列素子であるキャパシタの値が全て異なった構成となるので、商品化する場合には煩雑となる。
【0124】
以上のことから、梯子型の差動4端子回路でその受動直列素子にインダクタを、その受動並列素子にキャパシタを配置した集中定数差動遅延線を基に構成した本発明のコモンモードフィルタは、超高速差動伝送線路を伝搬する望ましい超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを減衰させて通過させず、更に反射コモンモードノイズのピーク値を抑圧して、遮断された反射コモンモードノイズの電磁放射強度を低く抑えることが可能である。
【0125】
さらに、本発明の実施例は全て集中定数差動遅延線が複数区間構成の場合で説明した。しかし、コモンモードノイズが特定の周波数にしか存在しない場合もあり得る。その場合、例えば、図4の集中定数差動遅延線として誘導mT型1区間だけの構成とし、1つ存在する減衰極周波数をコモンモードノイズの周波数に一致させればよい。
【0126】
なお、本発明のコモンモードフィルタにおいて、複数区間を構成する場合、従来の差動遅延線、例えばコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4を省略したものを一部に用いて直列接続することも可能である。
【符号の説明】
【0127】
1A、1B 差動入力端子(入力側)
2A、2B 差動出力端子(出力側)
1、3 差動線路
5 梯子型差動4端子網
Co、Co/2、Co/4、Ca キャパシタ
DL 集中定数差動遅延線
dl1、dl2、dl3、dl4 差動遅延素子(差動4端子回路)
Lo、Lo/2 インダクタ
L1、L2、L3、L4 コモンモードノイズ減衰用インダクタ
T1、T2、T3、T4 接続点
+vd、−vd 差動電源
Vc コモンモードノイズ源
【技術分野】
【0001】
本発明はコモンモードフィルタに係り、特に、超高速差動線路を伝搬する望ましい超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを遮断し、電磁障害も引き起こし難いコモンモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においてノイズは有害な存在であることから、ノイズを除去するための多くの提案がなされている。
【0003】
一般に、ノイズには差動モードノイズ(ノーマルモードノイズ)およびコモンモードノイズがあり、このノイズが存在する周波数範囲およびノイズを除去する構成を分類すると、以下のようになる。
【0004】
(1)ノイズが特定の周波数範囲に存在し、伝送信号成分はそれよりも遥かに低い場合
第1の構成としては、インダクタとキャパシタを組合わせた集中定数型の共振回路を形成し、その共振周波数近辺の周波数成分を除去するものがある。
【0005】
この種の公知例として、例えば特開昭53−25333号公報(特許文献1)がある。
この特許文献1は、コンデンサ2個とコイル1個をY形に結線して直列共振回路を複数形成し、携帯用電動工具から出る特定範囲のノイズを除去し、ノイズが電力線に出力されるのを防ぐものである。
【0006】
第2の構成は、インダクタとキャパシタを組合わせた集中定数型のローパスフィルタを構成し、フィルタの遮断周波数以上の周波数成分を除去するものである。
【0007】
この種の公知例として、例えば特開2008−78717号公報(特許文献2)がある。
この特許文献2は、インダクタとキャパシタを組合わせたローパスフィルタによってノーマルモードノイズを除去し、コモンモード・チョークコイルによってコモンモードノイズを除去し、スイッチング電源ノイズが電力線に出力されるのを防ぐものである。
【0008】
(2)ノイズおよび伝送すべき差動信号がとともに特定の同じ周波数範囲に存在し、差動信号がノーマルモード信号の場合
【0009】
このような場合、コモンモード・チョークコイルが使用される。
この種の公知例として、特開2004−266634号公報(特許文献3)のように、ノーマルモード信号の周波数帯域の下限を2MHzとした構成や、特開2000−58343号公報(特許文献4)のように、差動信号伝送用のコモンモード・チョークコイルをトロイダルコアに巻線する構成がある。
【0010】
近年、使用される周波数帯域が高くなり、例えば、2000年4月に策定されたUSB(universal serial bus )2.0仕様は、最大データ伝送速度を480Mビット/秒(クロック周波数240MHz)とし、その周波数帯域においては伝送すべき信号として差動信号が使用される。
【0011】
ところで、理想的なコモンモード・チョークコイルは、図18の等価回路に示すように、磁性体磁芯に巻かれ結合係数が「1」に近い1対のコイルと、入出力間の線間容量を低く抑えたコイル間容量とによって伝送線路を形成し、特性インピーダンスを管理する構成である。
【0012】
このコモンモード・チョークコイルでは、コモンモードノイズに対して、伝送線路上に挿入される等価なインダクタンスが大きい値となり、図19の符号Scc21に示す特性のように、コモンモードノイズの通過阻止が可能である。
【0013】
他方、コモンモード・チョークコイルは、差動信号(ノーマルモード信号)に対して、インダクタンスが零に近く、しかもライン間容量と組み合わせて低損失伝送線路を形成するため、図19の符号Sdd21に示す特性のように、少ない損失で通過する。
【0014】
このような理想的なコモンモード・チョークコイルは、現状では製品化されていないが、通過帯域を15GHzに設定し、本発明の効果と比較するために説明したものである。
【0015】
従来は、コモンモード・チョークコイルは、構造がシンプルであるうえ、高速の差動信号を損失なく通過させて、同じ周波数帯域のコモンモードノイズを阻止可能であることから、高速シリアル伝送インターフェースにおけるノイズ対策に広く使われてきた。
【0016】
最新、インターフェースUSB3.0(最大データ伝送速度が5Gビット/秒=クロック周波数2.5GHz)仕様が2008年11月に策定された。
【0017】
クロック周波数が2.5GHzの場合、波形劣化を防ぐには、少なくともその3倍の高調波である7.5GHzまでは、インターフェースラインとして差動信号を振幅劣化なく、かつ群遅延特性を平坦に通過させることが望ましく、同じ帯域のコモンモードノイズも遮断させねばならない。
【0018】
しかし、このようなGHz帯では磁性体の透磁率が低下し、インダクタ間の結合係数も低下するし、分布容量の存在の影響も大きい。
【0019】
具体的にシュミレーションしてみると、そのやり方にもよるが、図18においてインダクタ間の結合係数が0.98から0.97に下がるだけで、差動信号に対する通過帯域は半分に激減する。
【0020】
差動伝送線路で問題となるノイズは、主としてコモンモードノイズであり、上記USB3.0仕様が策定される前から、コモンモード・フィルタとして多数の提案がなされているその殆どは、コモンモード・チョークコイルに関するものである。
【0021】
その他の提案を含めても上記ノイズ除去手段で述べたようなインダクタンスとキャパシタンスを組合わせた集中定数型の共振回路又はローパスフィルタの構成は見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開昭53−25333号公報
【特許文献2】特開2008−78717号公報
【特許文献3】特開2004−266634号公報
【特許文献4】特開2000−58343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述したコモンモード・チョークコイルは、本来、差動信号に対してインダクタンスが零で、コモンモードノイズに対しては大きいインダクタンスを持つことでその機能を発揮するものである。
【0024】
しかし、扱う周波数が5GHzを超えると磁性体の透磁率の低下により、差動信号回路に直列に等価的なインダクタンスが挿入されることが避けられなくなる。それに分布容量が加わり、差動信号の振幅特性の劣化と、それに伴う群遅延特性の直線性劣化が避けられない。従って、コモンモード・チョークコイルの性能向上への限界がある。
【0025】
さらに、コモンモード・チョークコイルは、コモンモードノイズに対し、大きなインダクタンスすなわち高い直列インピーダンスで遮断するため、コモンモードノイズから見ると、入力端子部の内部は終端開放に近くなり、入力端子に印加されたコモンモードノイズが、入力端子部で終端開放線路と同様の応答を示す。
【0026】
そのため、入力端子部に印加されたコモンモードノイズと、入力端子から内部をみたときの高インピーダンスによって反射された反射コモンモードノイズとが重畳され、入力端子部でのコモンモードノイズのピーク電圧が上昇する。
【0027】
入力端子部は、実装を容易にするためむき出しで、シールドすることが困難なため、ここから電磁放射され易く、電磁障害を引き起こす要因となり得るから、入力端子部でのコモンモードノイズのピーク電圧上昇は好ましくない。
【0028】
本発明はそのような課題を解決するためになされるもので、超高速差動線路における超高速差動信号の伝送を確保し、コモンモードノイズを減衰させることが可能で、電磁障害を引き起こし難いコモンモードフィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
そのような課題を解決するために本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタは、差動線路中に直列的に配置された受動直列素子および当該差動線路間に並列的に配置された受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において受動直列素子にインダクタを、その受動並列素子にキャパシタを配置してなる集中定数差動遅延線であって、その並列素子としてのキャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタからなる集中定数差動遅延線と、直列接続された当該キャパシタどうしの接続点とグランド電位との間に接続され、それらのキャパシタとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成するコモンモードノイズ減衰用インダクタと、を具備している。
【0030】
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、定K型構成となっている。
【0031】
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、誘導m型構成となっている。
【0032】
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、全域通過型構成となっている。
【0033】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線およびノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、その差動線路にその差動遅延素子が梯子状に複数直列配置され複数区間を構成している。
【0034】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタは、上記集中定数差動遅延線が、定K型、誘導m型および全域通過型のそれら差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合して構成されている。
【0035】
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタは、上記差動遅延素子における減衰極周波数を異ならせて構成されている。
【0036】
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタは、上記差動線路の入出力側の差動遅延素子における減衰極の周波数を、これらの間の差動遅延素子における減衰極の周波数より高く設定して構成されている。
【発明の効果】
【0037】
このような本発明の請求項1に係るコモンモードフィルタでは、受動直列素子にインダクタを、受動並列素子にキャパシタを配置した集中定数差動遅延線を用い、その並列素子としてのキャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタで形成されるとともに、直列接続されたキャパシタどうしの接続点とグランド電位との間にコモンモードノイズ減衰用インダクタを接続したから、超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを遮断し、入力端子部におけるコモンモードノイズのピーク電圧を低減し、電磁障害も引き起こし難い。
【0038】
本発明の請求項2に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を定K型で構成するから、定K型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0039】
本発明の請求項3に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を誘導m型で構成するから、誘導m型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0040】
本発明の請求項4に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線を全域通過型で構成するから、全域通過型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0041】
本発明の請求項5に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線およびノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、その差動線路に差動遅延素子を梯子状に複数直列配置し複数区間を構成するから、上述した効果に加えて、種々の特性を得ることが可能である。
【0042】
本発明の請求項6に係るコモンモードフィルタでは、上記集中定数差動遅延線として、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合して構成するから、種々の通過型構成において上述した効果を得ることが可能である。
【0043】
本発明の請求項7に係るコモンモードフィルタでは、上記差動遅延素子における減衰極周波数を異ならせてなるから、コモンモードノイズの通過特性を所望の特性に形成し易く、さらに入力端子部におけるコモンモードノイズのピーク電圧が周波数成分毎に分散される等、種々の特性を得ることが可能で、確実に電磁障害も引き起こし難い。
【0044】
本発明の請求項8に係るコモンモードフィルタでは、上記差動線路の入出力側の差動遅延素子における減衰極の周波数を、これらの間の差動遅延素子における減衰極の周波数より高く設定してなるから、ノイズ減衰用インダクタの値が大きくなるのを抑え、これらの値を揃え易い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のコモンモードフィルタの基となる集中定数差動遅延線の例を示す回路図である。
【図2】本発明に係るコモンモードフィルタの第1の実施の形態を示す回路図である。
【図3】図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図4】図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図5】本発明に係るコモンモードフィルタの第2の実施の形態を示す回路図である。
【図6】図5に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図7】図5に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図8】本発明に係るコモンモードフィルタの第3の実施の形態を示す回路図である。
【図9】図8に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図10】図8に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図である。
【図11】本発明のコモンモードフィルタの動作を説明するための回路図である。
【図12】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるパルス応答波形である。
【図13】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるパルス応答波形である。
【図14】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるコモンモードノイズ波形である。
【図15】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるコモンモードノイズ波形である。
【図16】図8に示す本発明のコモンモードフィルタにおけるコモンモードノイズスペクトルである。
【図17】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルにおけるコモンモードノイズスペクトルである。
【図18】従来のコモンモード・チョークコイルの等価回路である。
【図19】図18に示す従来のコモンモード・チョークコイルの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係るコモンモードフィルタの実施の形態を図面を参照して説明する。
【0047】
まず、本発明のコモンモードフィルタの基となる集中定数差動遅延線を説明する。
【0048】
図1は本発明のコモンモードフィルタに適用する集中定数差動遅延線の一例を示す回路図である。
【0049】
図1において、差動入力端子1A、1Bと差動出力端子2A、2B間の差動線路1、3には梯子型差動4端子網5が形成されている。
【0050】
梯子型差動4端子網5は、それら差動線路1、3中に直列的に配置された受動直列素子と、これら差動線路1、3間に並列的に配置された受動並列素子を組合せ接続して梯子状に構成されている。
【0051】
すなわち、差動入出力端子1A、2A間の差動線路1および差動入出力端子1B、2B間の差動線路3において、受動直列素子としてのインダクタLoが複数個、例えば3個ずつ直列接続され、個々のインダクタLoの両端には受動並列素子としてキャパシタCo/4、Co/2が接続されている。
【0052】
差動線路1、3における同位置の各インダクタLoの両端間には、それらキャパシタCo/4、Co/2が接続され、3区間からなる定Kπ型集中定数差動遅延線DLが構成されている。
【0053】
この集中定数差動遅延線DLにおける1区間分の差動遅延素子dl1、dl2、dl3は、梯子型差動4端子回路であり、差動線路1、3における一対のインダクタLoとこの両端の2個のキャパシタCo/4、Co/2によって形成されている。隣合う差動遅延素子dl1とdl2、dl2とdl3のキャパシタCo/2は、共用されている。
【0054】
しかも、差動入出力端子1A、1B、2A、2B側の差動遅延素子dl1、dl3におけるキャパシタCo/4の容量値は中間の差動遅延素子dl2との共用がないため、中間の差動遅延素子dl2のキャパシタCo/2に比べて半分になっている。各差動遅延素子dl1〜dl3の遅延時間tdは、「数1」のように示される。
【0055】
【数1】
【0056】
各差動遅延素子dl1〜dl3の特性インピーダンスZcは、「数2」のように示される。
【0057】
【数2】
【0058】
図1において、差動遅延素子dl1〜dl3の1区間分のキャパシタの容量もCo/4、Co/2と表記することで、遅延時間tdの表記が一般に知られたシングルエンド遅延線における数式に一致している。
【0059】
なお、図1中、差動入力端子1A、1B側の符号+vdと−vdはインピーダンスZoの差動電源であり、差動出力端子2A、2B側の符号Zoは終端インピーダンスである。
【0060】
次に、本発明に係るコモンモードフィルタを詳細に説明する。
【0061】
図2は、本発明のコモンモードフィルタに係る第1の構成を説明する回路図であり、図1の集中定数差動遅延線を改良したものである。符号Vcはコモンモードノイズ源である。
【0062】
上述した図1の各差動遅延素子dl1〜dl3における差動線路1、3上の一対のインダクタLo両端間を結ぶキャパシタCo/4、Co/2は、図2に示すように、直列接続された2個のキャパシタCo/2とCo/2、又はCoとCoに分割されている。しかも、キャパシタCo/2とCo/2の直列合成容量がキャパシタCo/4と等価的に、同様に、キャパシタCoとCoの直列合成容量がキャパシタCo/2と等価的になっている。
【0063】
すなわち、分割された2個のキャパシタCo/2、Coの容量は、分割前の1個のキャパシタCo/4、Co/2の2倍の容量値を有している。
【0064】
各差動遅延素子dl1〜dl3において、キャパシタCo/2とCo/2どうし、又はCoとCoどうしの各接続点T1、T2、T3、T4とグランド電位との間には、コモンモードノイズ減衰用インダクタL1、L2、L3、L4が接続されている。
【0065】
コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4は、各々これに接続されたキャパシタCo/2、Coとの組合せによって直列共振回路を形成し、この共振周波数がコモンモードノイズ減衰極周波数に設定されている。その他の構成は図1と同様である。
【0066】
このようなコモンモードフィルタでは、差動線路1、3中に形成する梯子型の差動4端子網5として、上述した梯子型4端子回路である集中定数型の差動遅延素子dl1〜dl3を用い、差動線路1、3を伝搬する差動信号を設計目標通りの振幅特性と群遅延特性で通過させることが可能である。
【0067】
すなわち、この第1の構成では、差動線路1、3を伝送する差動信号が、互いに逆位相信号であるから、これらがキャパシタCo/2どうしやCoどうしの各接続点T1〜T4に達しても互いに打ち消し合って消失する。そのため、差動信号に対しては、直列共振回路は寄与しないことになり、差動遅延素子dl1〜dl3の設計通り、劣化なく差動信号が伝送される。
【0068】
他方、第1の構成では、差動遅延素子dl1〜dl3を形成する並列素子である2個のキャパシタCo/2やCoと、これらの接続点T1〜T4に接続されたコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4とにより、コモンモードノイズに対する直列共振回路が形成されるから、コモンモードノイズが減衰遮断され、コモンモードノイズを設計通りに減衰させることが容易である。
【0069】
さらに、遮断されたコモンモードノイズは、差動遅延素子dl1〜dl3中を伝搬し、往復で2倍の伝播遅延時間をもって差動入力端子1A、1Bへ戻るため、差動入力端子1A、1Bに印加されたコモンモードノイズと、反射して戻ってきたコモンモードノイズとは位相がずれた状態で重畳される。
【0070】
そのため、差動入力端子1A、1Bにおいてコモンモードノイズのピーク電圧上昇が回避可能になり、差動入力端子1A、1Bの部分においてノイズが電磁放射され難い。
【0071】
しかも、差動遅延素子dl1〜dl3で複数区間が構成されているから、区間毎に共振周波数が異なるように直列共振回路の定数を設定することにより、コモンモードノイズが周波数成分毎に異なった直列共振回路で遮断され、周波数成分毎に異なった伝播遅延時間で差動入力端子1A、1Bに戻る。そのため、差動入力端子1A、1Bにおけるコモンモードノイズの各周波数成分が時間的に分散され、そのピーク電圧がより一層低減される。
【0072】
図3は、図2に示す本発明のコモンモードフィルタの特性図であり、同図中の符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性である。図3の特性は、1区間の遅延時間が30ps、特性インピーダンスは100Ωとなるよう各素子の定数を設定したものである。
【0073】
さらに、各直列共振回路の各共振周波数fc1〜fc4を、
fc1は、L3と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.5GHz
fc2は、L2と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.76GHz
fc3は、L4とCoで決まる直列共振周波数で、ここでは3.25GHz
fc4は、L1とCoで決まる直列共振周波数で、ここでは4.5GHz
となるように設定した結果、2.47GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−12dB以上とすることができた。
【0074】
ここで、直列共振周波数を決定する容量は、両差動線路1、3に接続されたキャパシタCoの並列接続分に相当している。その理由は、コモンモードノイズが両差動線路1、3に同相で印加されることから、両両差動線路1、3のキャパシタはコモンモードノイズに対して並列接続されたことと等価となるためである。
【0075】
また、直列共振周波数の低いfc1とfc2を中間区間に設定することにより、中間区間の共振容量が両端区間容量より大きいので、共振のためのインダクタンスが大きくなるのを抑えて、インダクタンスを揃えることが可能である。
【0076】
図4は、図2の本発明に係るコモンモードフィルタの差動信号に対する群遅延特性である。
【0077】
図5は本発明のコモンモードフィルタに係る第2の実施の形態であり、4区間からなる誘導mT型集中定数差動遅延線を基にしたものである。
【0078】
すなわち、4個の差動遅延素子dl1〜dl4からなり、各差動遅延素子dl1〜dl4において、受動直列素子を形成するインダクタLoを2等分し、2等分されたインダクタLo/2どうしを直列接続するとともに互いに相互誘導m結合させ、2等分されたインダクタLo/2どうしの接続点の間を、上述したキャパシタの直列回路で接続した構成を有している。その他の構成は、図1と同様である。
【0079】
この図5の構成においても、各差動4端子回路の並列素子を2倍の容量値を有する2個のキャパシタCoとCoの直列回路に変換し、直列接続されたキャパシタCoどうしの接続点T1、T2、T3、T4とグランド電位との間に、上述したコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4が接続されている。
【0080】
このような構成において、梯子型差動4端子網5の受動直列素子を構成するインダクタは等価的に(Lo+2m)となり、受動並列素子は等価的にキャパシタCoと負のインダクタ成分−mとが直列接続された回路となる。
【0081】
各差動遅延素子dl1〜dl4の1区間の遅延時間tdは、「数3」で示される。
【0082】
【数3】
【0083】
各差動遅延素子dl1〜dl4の特性インピーダンスZcは、「数4」で示される。
【0084】
【数4】
【0085】
図6は図5に示すコモンモードフィルタの特性図であり、同図中の符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性であり、1区間の遅延時間が37.5psで、特性インピーダンスは100Ωとなるように各素子の定数を定めた例である。
【0086】
なお、回路解析においては、相互誘導mの値に代わって後述する「数5」に示すように、相互誘導mとインダクタLo/2に対する比、すなわち結合係数kを用いることが一般的であり、ここではk=0.24である。
【0087】
【数5】
【0088】
この場合、図中のfc1〜fc4を決める直列共振周波数は、コモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4の各値からm/2を差し引いた値と2×Coで決定される。そこで差動遅延素子dl1〜dl4の各共振周波数を、
fc1は (L4−m/2)と2×Co決まる直列共振周波数で、ここでは2.39GHz
fc2は (L3−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.54GHz
fc3は (L2−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.94GHz
fc4は (L1−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは3.99GHz
となるように設定すると、2.36GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−23dB以上が得られる。
【0089】
図7は、図5のコモンモードフィルタが示す差動信号に対する群遅延特性である。誘導m型の構成では、群遅延特性が定K型より良いといわれており、ここでも図4との比較でそれが実証されている。
【0090】
図8は本発明のコモンモードフィルタに係る第3の実施の形態である。
【0091】
すなわち、4個の差動遅延素子dl1〜dl4からなり、各差動遅延素子dl1〜dl4において、受動直列素子を形成するインダクタLoを2等分し、2等分されたインダクタLo/2どうしを直列接続するとともに互いに相互誘導m結合させ、更に、直列接続されたインダクタLo/2の両端をキャパシタCaで橋絡し、差動線路1、3の当該接続点どうしを上述したキャパシタCoの直列回路で接続したものであり、全域通過型集中定数差動遅延線の構成を有している。その他の構成は、図5と同様である。
【0092】
このような構成では、梯子型差動4端子回路の受動直列素子を構成するインダクタは、1区間の遅延時間を決めるインダクタが等価的に(Lo+2m)となり、並列素子は等価的にキャパシタCoと負のインダクタ成分−mとが直列接続された回路となる。
【0093】
この構成でも、並列素子を2倍の容量値のキャパシタ2個の直列接続に変換し、2個の直列接続されたキャパシタCoの接続点を差動入力端1A、1B側から順にT1、T2、T3、T4とし、これらの各接続点T1〜T4とグランド電位間にコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4が接続されている。その他の構成は図5と同様である。
【0094】
この構成の各差動遅延素子dl1〜dl4における1区間の遅延時間tdは、「数6」で示される。
【0095】
【数6】
【0096】
各差動遅延素子dl1〜dl4における特性インピーダンスZcは、「数7」で示される。
【0097】
【数7】
【0098】
図9は図8に示すコモンモードフィルタの特性図であり、符号Sdd21は差動信号通過特性、符号Scc21はコモンモードノイズ通過特性である。図9の特性は、1区間の遅延時間が37.5psで、特性インピーダンスは100Ωとなるように各素子の定数を定めた例である。
【0099】
この図8に構成においても、図5の場合と同様に、相互誘導mの代わりに結合係数kを用い、この場合はk=0.42である。図8の全域通過型集中定数差動遅延線の場合、結合係数は誘導m型の場合より大きい値とすることが好ましい。
【0100】
さらに、橋絡容量Caが配置されているが、結合係数kが0.42の場合、橋絡容量Caは、キャパシタCoの1/10程度の値が使用される。この場合fc1〜fc4を決める直列共振周波数はL1〜L4の各値からm/2を差し引いた値と2×Coで決定される。
【0101】
そこで、各共振周波数を、
fc1は (L4−m/2)と2×Co決まる直列共振周波数で、ここでは2.39GHz
fc2は (L3−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.53GHz
fc3は (L2−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは2.9GHz
fc4は (L1−m/2)と2×Coで決まる直列共振周波数で、ここでは3.9GHz
となるように設定すると、2.36GHz以上の周波数でコモンモードノイズの減衰は−25dB以上が得られる。
【0102】
全域通過型集中定数遅延線では差動信号の振幅特性が非常に平坦であり、殆ど振幅変動がない。
【0103】
図10は、図8のコモンモードフィルタが示す差動信号に対する群遅延特性である。誘導m型よりも更に平坦な特性が得られている。
【0104】
図9から分かるように、13GHz以上ではコモンモードノイズが通過するようになるが、2.5GHzに対しては5倍以上の高調波に当たるので通常は殆ど問題とならない。もし問題となる場合には、全域通過型集中定数差動遅延線とその他の低域通過型の遅延線を組合わせることも可能である。
【0105】
次に、本発明に係るコモンモードフィルタについて、例えば5Gビット/秒のデータ信号に対する反射コモンモードノイズの抑圧効果を確認する。
【0106】
図11に示すように、差動電源+vd、−vdにコモンモードフィルタ又はコモンモード・チョークコイル等の挿入部品が接続され、出力が整合終端されている構成を想定する。図11中の符号Vcはコモンモードノイズ源である。
【0107】
コモンモードノイズは、差動信号に同期している場合と同期してない場合があるが、説明を容易とするため同期している例を説明する。
【0108】
ここで、差動電源+vd、−vdは、正相と負相間で位相がずれる、いわゆる差動スキューが発生し、正相と負相間で同相成分の電圧が発生するものとする。この同相成分がコモンモードノイズとなる。
【0109】
図11において、差動入力端子1A、1Bの電位をV1、V3、差動出力端子2A、2Bの電位をV2、V4とし、差動スキューが50ps発生した場合の、出力波形V1〜V4、入力端子部のコモンモードノイズV1+V3、出力端子部のコモンモードノイズV2+V4を求め、図12〜図19に示す。なお、信号パターンを簡単化するため、「0」と「1」の繰り返し信号(2.5GHzクロック相当)とする。
【0110】
この確認は、本発明の上述した図8の第3の構成で行う。その理由は、図8の構成が、コモンモードノイズの遮断特性が最も優れており、逆に反射コモンモードノイズ電力が最も大きく、従来例の遮断特性を示す図19と比較しても遜色のない反射コモンモードノイズ電力を有しており、比較に適しているからである。
【0111】
各図の意味は「表1」に示す通りである。
【0112】
【表1】
【0113】
図12と図13を比較すると、従来例である図18のコモンモード・チョークコイルを挿入した場合は、入力側の信号V1およびV3にスパイク状のノイズが重畳されていることが分かる。
【0114】
そこで、入出力波形から、同相成分すなわちコモンモードノイズのみを抽出した波形を図14および図15に示す。図15に示されるように、図18のコモンモード・チョークコイルを挿入した場合は、入力側のコモンモードノイズが大きいピーク電圧を示し、遮断されたコモンモードノイズが入力端子で重畳されていることが分かる。
【0115】
一方、図8の本発明によるコモンモードフィルタを挿入した場合は、図14に示されるように、遮断により反射してきたコモンモードノイズが、時間的に分散されている様子が示されている。
【0116】
そこで、入力側でのコモンモードノイズの周波数スペクトルを調べると、図16および図17の比較で分かるとおり、図8の本発明によるコモンモードフィルタの方が、明らかにピーク値が低いことが分かる。
【0117】
以上、反射コモンモードノイズピーク値の抑圧効果を、コモンモードノイズが差動信号に同期している場合で示した。この効果は、集中定数差動遅延線において、減衰極周波数の異なる複数のコモンモードノイズ減衰用の減衰極を、遅延時間差を設けて配置することで得られるので、コモンモードノイズと差動信号が同期していない場合も同様な抑制効果が得られることが分かる。
【0118】
また、この効果を本発明である図8の場合で解析した結果で示したが、集中定数差動遅延線であれば、全てに同様な抑制効果が得られることも分かる。
【0119】
さらに、本発明のコモンモードフィルタでは、集中定数差動遅延線として定K型、誘導m型又は全域通過型の3種で説明したが、その他の構成でも可能である。
【0120】
例えば、誘導m型が梯子型集中定数差動遅延線の直列素子であるインダクタの隣接区間で相互誘導を持つのに対し、例示はしないが、2区間以上離れた区間のインダクタ間に相互誘導を持たせた構成も知られており、このような構成においても本発明に係る構成の応用が可能であり、同様の効果を得ることが可能である。
【0121】
要は、集中定数差動遅延線が、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から、例えば2個の定K型差動遅延素子と3個の誘導m型差動遅延素子を梯子状に接続する等、異なる2個又は3個を複合した構成であれは本発明の目的達成が可能である。
【0122】
また、例示しないが、他の集中定数差動遅延線として群遅延平坦型ローパスフィルタを用いることも可能である。
【0123】
ただし、この群遅延平坦型ローパスフィルタの構成は、一見、定K型に類似しているが、複数区間からなる構成において、シングルエンドで構成した場合の受動直列素子であるインダクタと受動並列素子であるキャパシタの値が全て異なった構成となるので、商品化する場合には煩雑となる。
【0124】
以上のことから、梯子型の差動4端子回路でその受動直列素子にインダクタを、その受動並列素子にキャパシタを配置した集中定数差動遅延線を基に構成した本発明のコモンモードフィルタは、超高速差動伝送線路を伝搬する望ましい超高速差動信号を通過させる一方、望ましくないコモンモードノイズを減衰させて通過させず、更に反射コモンモードノイズのピーク値を抑圧して、遮断された反射コモンモードノイズの電磁放射強度を低く抑えることが可能である。
【0125】
さらに、本発明の実施例は全て集中定数差動遅延線が複数区間構成の場合で説明した。しかし、コモンモードノイズが特定の周波数にしか存在しない場合もあり得る。その場合、例えば、図4の集中定数差動遅延線として誘導mT型1区間だけの構成とし、1つ存在する減衰極周波数をコモンモードノイズの周波数に一致させればよい。
【0126】
なお、本発明のコモンモードフィルタにおいて、複数区間を構成する場合、従来の差動遅延線、例えばコモンモードノイズ減衰用インダクタL1〜L4を省略したものを一部に用いて直列接続することも可能である。
【符号の説明】
【0127】
1A、1B 差動入力端子(入力側)
2A、2B 差動出力端子(出力側)
1、3 差動線路
5 梯子型差動4端子網
Co、Co/2、Co/4、Ca キャパシタ
DL 集中定数差動遅延線
dl1、dl2、dl3、dl4 差動遅延素子(差動4端子回路)
Lo、Lo/2 インダクタ
L1、L2、L3、L4 コモンモードノイズ減衰用インダクタ
T1、T2、T3、T4 接続点
+vd、−vd 差動電源
Vc コモンモードノイズ源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動線路中に直列的に配置された受動直列素子および前記差動線路間に並列的に配置された受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において、前記受動直列素子にインダクタを、前記受動並列素子にキャパシタを配置してなる集中定数差動遅延線であって、前記受動並列素子としての前記キャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタからなる集中定数差動遅延線と、
直列接続された前記キャパシタどうしの接続点とグランド電位との間に接続され、前記キャパシタとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成するコモンモードノイズ減衰用インダクタと、
を具備することを特徴とするコモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記集中定数差動遅延線は、定K型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記集中定数差動遅延線は、誘導m型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記集中定数差動遅延線は、全域通過型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項5】
前記集中定数差動遅延線および前記ノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、前記差動線路に前記差動遅延素子が梯子型に複数直列配置され複数区間が構成された請求項1〜4いずれか1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項6】
前記集中定数差動遅延線は、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合した構成である請求項5記載のコモンモードフィルタ。
【請求項7】
前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数を異ならせてなる請求項5又は6記載のコモンモードフィルタ。
【請求項8】
前記差動線路の入出力側の前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数を、これらの間の前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数より高く設定してなる請求項7記載のコモンモードフィルタ。
【請求項1】
差動線路中に直列的に配置された受動直列素子および前記差動線路間に並列的に配置された受動並列素子からなる梯子型の差動4端子回路において、前記受動直列素子にインダクタを、前記受動並列素子にキャパシタを配置してなる集中定数差動遅延線であって、前記受動並列素子としての前記キャパシタが、当該キャパシタと等価にして値の等しい2個の直列接続されたキャパシタからなる集中定数差動遅延線と、
直列接続された前記キャパシタどうしの接続点とグランド電位との間に接続され、前記キャパシタとともにコモンモードノイズ減衰用減衰極を形成するコモンモードノイズ減衰用インダクタと、
を具備することを特徴とするコモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記集中定数差動遅延線は、定K型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記集中定数差動遅延線は、誘導m型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記集中定数差動遅延線は、全域通過型構成である請求項1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項5】
前記集中定数差動遅延線および前記ノイズ減衰用インダクタを1区間の差動遅延素子とし、前記差動線路に前記差動遅延素子が梯子型に複数直列配置され複数区間が構成された請求項1〜4いずれか1記載のコモンモードフィルタ。
【請求項6】
前記集中定数差動遅延線は、定K型、誘導m型および全域通過型の差動遅延素子中から異なる2個又は3個を複合した構成である請求項5記載のコモンモードフィルタ。
【請求項7】
前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数を異ならせてなる請求項5又は6記載のコモンモードフィルタ。
【請求項8】
前記差動線路の入出力側の前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数を、これらの間の前記差動遅延素子における前記減衰極の周波数より高く設定してなる請求項7記載のコモンモードフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−71710(P2011−71710A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220549(P2009−220549)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000103253)エルメック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000103253)エルメック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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