説明

コルピッツ型発振回路

【課題】圧電振動子を励振するドライブレベルの周囲温度変化に対する変動を抑圧したコルピッツ型発振回路を提供する。
【解決手段】発振用トランジスタTR1のベースと接地間に負荷容量の一部となるコンデンサC1とコンデンサC2との直列回路を接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR1のエミッタとを接続し、更に、エミッタと接地との間にエミッタ抵抗R1を接続する。そして、エミッタ抵抗R1に並列に抵抗R2とサーミスタTH1の直列回路を接続している。発振用トランジスタTR1のベースに抵抗R3及び抵抗R4とからなるベースバイアス回路を接続すると共に、発振用トランジスタTR1のベース−接地間に圧電振動子X1を接続するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコルピッツ型発振回路に関し、特に発振回路のドライブレベル(圧電振動子に
流れる振動子電流)を極力低減すると共に、ドライブレベルの周囲温度変化に対する変動
を抑圧したコルピッツ型発振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安定した周波数信号を供給する圧電発振器は、移動体通信の移動局や基地局の基準発振
器として、また、コンピュータなどの基準クロック源として広く使用されている。近年、
移動体通信機器や伝送通信機器に対する小型化、高性能化の要請に伴い、これらの機器に
使用されている圧電発振器に対しても、小型化、安定化が強く求められている。圧電発振
器に使用される圧電振動子は、電気機械振動子であり、ドライブレベルが少ないことが経
年変化等に対して高い信頼性を得ることにつながることが知られている。
一方、圧電発振器の発振回路構成としては、一般に、トランジスタを増幅器としたコル
ピッツ型発振回路が多く使用される。
【0003】
図6は、特許文献1に開示されている従来のコルピッツ型発振回路の回路構成図である
。コルピッツ型発振回路101は、発振用トランジスタTR101のベースと接地(GN
D)間に負荷容量の一部となるコンデンサC101とコンデンサC102との直列回路を
接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR101のエミッタとを接続し
、更にエミッタと接地間にエミッタ抵抗R101を接続している。そして、発振用トラン
ジスタTR101のベースに抵抗R102及び抵抗R103とからなるベースバイアス回
路を接続すると共に、発振用トランジスタTR101のベースと接地間に圧電振動子X1
01とコンデンサCv103との直列回路を接続している。また、発振用トランジスタT
R101のコレクタと電源電圧(Vcc)ラインとの間に抵抗R104を接続すると共に
、コレクタとエミッタ間にコンデンサC104を接続し、更に、コレクタより、直流カッ
ト用のコンデンサC105を介して出力信号を得ている。
図6に示したコルピッツ型発振回路101は、発振用トランジスタTR101のコレク
タとエミッタ間にコンデンサC104を接続したことである。発振用トランジスタTR1
01のエミッタ出力とコレクタ出力の位相は、180°ずれているため、この両出力端を
コンデンサC104にて接続することにより負帰還回路が構成される。そして、負帰還回
路により出力が抑圧される結果、急激にドライブレベルを低下させると共に、負性抵抗値
を増加させることが可能である。
【0004】
次に、図7は特許文献2に開示されているコルピッツ型発振回路の他の回路構成図であ
る。図7に示すコルピッツ型発振回路は、発振回路を構成するトランジスタと、ベース接
地された増幅回路を構成するトランジスタとをカスケードに接続した構成を有している。
コルピッツ型発振回路111は、発振用トランジスタTR111のベースと接地(GND
)間に負荷容量の一部となるコンデンサC111とコンデンサC112との直列回路を接
続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR111のエミッタとを接続し、
更にエミッタと接地間にエミッタ抵抗R111を接続している。そして、発振用トランジ
スタTR111のベースと接地間に圧電振動子X111と圧電振動子の温度補償を行う回
路網Z111との直列回路を接続している。
また、発振用トランジスタTR111のコレクタを増幅用トランジスタTR112のエ
ミッタと接続し、増幅用トランジスタTR112のコレクタと電源電圧(Vcc)ライン
との間にコレクタ抵抗R112を接続している。更に、電源電圧ラインと接地間に、発振
用トランジスタTR111と増幅用トランジスタTR112のベースバイアス抵抗として
、電源電圧ライン側より、抵抗R113とサーミスタTH111の並列回路と、抵抗R1
14と、抵抗R115と、抵抗R116とを直列に接続している。そして、抵抗R115
と抵抗R116の接続点を発振用トランジスタTR111のベースに接続すると共に、抵
抗R114と抵抗R115の接続点を増幅用トランジスタTR112のベースに接続して
いる。また、増幅用トランジスタTR112のベースと接地間には、コンデンサC113
が接続されている。そして、増幅用のトランジスタTR112のコレクタより、直流カッ
ト用のコンデンサC114を介して出力信号を得ている。
【0005】
サーミスタTH111は、周囲温度が下がるとその抵抗値が下がり、周囲温度が上がる
とその抵抗値が上がる特性を有したものを使用している。そこで、バイアス抵抗R114
と電源電圧ラインとの間に、サーミスタTH111と抵抗R113との並列回路(サーミ
スタ回路)を設けているので、例えば、周囲温度が上昇すると、サーミスタTH111の
抵抗値が上昇して、電源電圧ラインから発振用トランジスタTR111と増幅用トランジ
スタTR112に流れるベース電流が減少することになる。その結果、発振用トランジス
タTR111と増幅用トランジスタTR112のベース電位は、周囲温度の変化に対して
トランジスタの特性変動を減少させるよう変化するので、コルピッツ型発振回路111は
、安定した発振出力が得られるよう機能する。即ち、発振用トランジスタTR111のベ
ース電位を変化させてベース−エミッタ間電圧を制御することにより、エミッタ電流を調
整し、周囲温度変化に伴うコルピッツ型発振回路の負性抵抗値の変動を抑圧し、ドライブ
レベルの温度変動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−48629号公報
【特許文献2】特開2003−152456公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示したコルピッツ型発振回路は、ドライブレベルを低減す
る特性を有しているが、周囲温度変化の影響について考慮されていない。従って、従来の
コルピッツ型発振回路は、周囲温度が変化すると発振出力レベルが変動する。その結果、
発振出力レベルの変動に伴い、ドライブレベルが変動し、ドライブレベルが増加する現象
が発生する。ドライブレベルが設定値より増加すると、圧電振動子に固有の特性の経年変
化が大きくなり、発振周波数が変動するという問題点があった。
また、特許文献2に示したコルピッツ型発振回路は、発振用トランジスタのエミッタ電
流の調整を、ベース電位の制御により行っているので、周囲温度変化に対する感度が低く
、圧電振動子を励振するドライブレベルの変動の抑制効果は不十分であった。
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであって、圧電振動子を
励振するドライブレベルの周囲温度変化に対する変動を抑圧したコルピッツ型発振回路を
提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]発振用トランジスタと、前記発振用トランジスタのベースと−エミッタ間
に接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した
第2のコンデンサと、前記発振用トランジスタのベース−接地間に接続した圧電振動子と
、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した抵抗値が負の温度係数を有する
第1の抵抗回路と、を備えているコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0010】
このような本発明によれば、発振用トランジスタのエミッタと接地間に、温度補償回路
を含む第1の抵抗回路を接続し、周囲温度が変化した際に、第1の抵抗回路の抵抗値を変
動させることにより発振用トランジスタのエミッタ電流を制御するようしている。従って
、周囲温度が変化した際に、発振回路の負性抵抗値の変動を抑制し、圧電振動子を励振す
るドライブレベルの変動を低減させることができる。その結果、従来のコルピッツ型発振
回路と比べて、発振回路を低ドライブレベルで動作させることができ、コルピッツ型発振
回路の位相雑音特性やエージング特性を向上させることが可能となる。
【0011】
[適用例2]前記第1の抵抗回路は、エミッタ抵抗と第1のサーミスタの並列回路から
なる適用例1に記載のコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0012】
このような本発明によれば、抵抗値が負の温度係数を有する第1の抵抗回路を、サーミ
スタを含む回路により構成したので、所定の特性のサーミスタを選択することにより、容
易に所望の特性を有する第1の抵抗回路を構成することができるので、発振用トランジス
タのエミッタ電流を制御することが可能となる。
【0013】
[適用例3]前記第1の抵抗回路は、エミッタ抵抗に、第1のサーミスタと第1の抵抗
との直列回路を並列に接続した適用例1に記載のコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0014】
このような本発明によれば、第1の抵抗回路に備えたサーミスタに直列に抵抗を接続し
、サーミスタの特性を調整可能としたことで、容易に所望の特性を有する第1の抵抗回路
を構成することができるので、発振用トランジスタのエミッタ電流を制御することが可能
となる。
【0015】
[適用例4]発振用トランジスタと、前記発振用トランジスタのベース−エミッタ間に
接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのエミッタ−接地間に接続した第
2のコンデンサと、前記発振用トランジスタのベースと接地間に接続した圧電振動子と、
前記圧電振動子に直列接続され抵抗値が負の温度係数を有する第2の抵抗回路と、を備え
たコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0016】
このような本発明によれば、圧電振動子に直列に温度補償回路となる第2の抵抗回路を
接続したので、周囲温度が変化した際に、圧電振動子を励振するドライブレベルの変動を
直接抑制することができる。その結果、従来のコルピッツ型発振回路と比べて、発振回路
を低ドライブレベルで動作させることができ、コルピッツ型発振回路の位相雑音特性やエ
ージング特性を向上させることが可能となる。
【0017】
[適用例5]前記第2の抵抗回路は、第2の抵抗と第2のサーミスタを並列接続した適
用例4に記載のコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0018】
このような本発明によれば、抵抗値が負の温度係数を有する第2の抵抗回路を、サーミ
スタを含む回路により構成したので、所定の特性のサーミスタを選択することにより、容
易に所望の特性を有する第2の抵抗回路を構成することができるので、発振用トランジス
タのエミッタ電流を制御することが可能となる。
【0019】
[適用例6]前記第2の抵抗回路は、第2の抵抗に、第2のサーミスタと第3の抵抗の
直列回路を並列接続した適用例4に記載のコルピッツ型発振回路を特徴とする。
【0020】
このような本発明によれば、第2の抵抗回路に備えたサーミスタに直列に抵抗を接続し
、サーミスタの特性を調整可能としたことで、容易に所望の温度特性を有する第2の抵抗
回路を構成することができるので、発振用トランジスタのエミッタ電流を制御することが
可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るコルピッツ型発振回路の第1の実施形態を示す回路構成図である。
【図2】コルピッツ型水晶発振回路において、水晶振動子を励振するドライブレベルを変化させた際の発振周波数の変動特性を示した図である。
【図3】コルピッツ型発振回路の温度補償に対する評価試験結果を示した図である。
【図4】本発明に係るコルピッツ型発振回路の第2の実施形態を示す回路構成図である。
【図5】コルピッツ型発振回路のドライブレベルの周囲温度変化に対する変動を示す特性図である。
【図6】従来のコルピッツ型発振回路の回路構成図である。
【図7】従来のコルピッツ型発振回路の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係るコルピッツ型発振回路の第1の実施形態を示す回路構成図である

この図1に示すコルピッツ型発振回路1は、発振用トランジスタTR1のベースと接地
(GND)間に負荷容量の一部となる第1のコンデンサC1と第2のコンデンサC2との
直列回路を接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR1のエミッタとを
接続している。そして、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間に、エミッタ抵抗
R1と、エミッタ抵抗R1に並列に接続した抵抗(第1の抵抗)R2とサーミスタ(第1
のサーミスタ)TH1の直列回路と、からなる温度補償回路(第1の抵抗回路)11を接
続する。更に、発振用トランジスタTR1のベースに抵抗R3及び抵抗R4とからなるベ
ースバイアス回路を接続すると共に、発振用トランジスタTR1のベースと接地間に圧電
振動子X1を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタを電源電圧(V
cc)ラインに接続すると共に、発振用トランジスタTR1のエミッタより、直流カット
用のコンデンサC3を介して出力信号を得ている。
このように構成される第1の実施形態に係るコルピッツ型発振回路1は、エミッタ抵抗
R1に並列に抵抗R2とサーミスタTH1の直列回路からなる温度補償回路11を接続し
た点に特徴である。
【0023】
ここで、圧電振動子を励振するドライブレベルが発振回路の発振特性に与える影響につ
いて説明する。
図2は、コルピッツ型水晶発振回路において、水晶振動子を励振するドライブレベルを
変化させた際の発振周波数の変動特性を示した図である。
図2は横軸に水晶振動子を励振するドライブレベル(mA)を示し、縦軸に発振回路の
発振周波数の変動(ppm)を示す。図2は圧電振動子の例として、ATカットされた基
本波水晶振動子を用いたコルピッツ型発振回路の特性を示し、発振周波数は、52MHz
の場合と、230MHzの場合を示す。
図2によると52MHzのように発振周波数が比較的に低い場合には、ドライブレベル
を変化させても発振周波数の変動はほとんど生じていないが、230MHzのように発振
周波数が高くなると、ドライブレベルを増加させると、発振周波数は、上昇する方向に大
きく変化している。
従って、コルピッツ型発振回路を高周波帯域で使用する場合は、発振回路の位相雑音特
性やエージング特性などを向上させるため、低いドライブレベルで水晶振動子を励振させ
ることが重要となる。
一般的なコルピッツ型発振回路は、周囲温度が上昇すると負性抵抗値が減少し、周囲温
度が下降すると負性抵抗値が増加するという特性を有している。このため、周囲温度が上
昇して負性抵抗値が減少しても発振回路が安定して動作するように、負性抵抗値をなるべ
く大きくとるよう回路設計をする場合が多い。
その結果、周囲温度が低温になると、発振回路の負性抵抗値が増加するため、負性抵抗
値が必要以上に大きくなるという現象が生じ、それに伴い圧電振動子を励振するドライブ
レベルも増加するという弊害が発生する。
従って、コルピッツ型発振回路を安定動作させるためには、圧電振動子を励振するドラ
イブレベルを、低ドライブレベル化すると共に、周囲温度の変化に対して変動を少なくす
ることが必要となる。
【0024】
次に、上述した内容について数式を用いて説明する。
なお、数式で示すコルピッツ型発振回路は、温度補償を行う前の基本回路の場合を示し
、発振用トランジスタのエミッタ抵抗に温度補償回路となる抵抗R2とサーミスタTH1
の直列回路を並列接続していない場合について示している。
先ず、発振回路の負性抵抗Rnは、gmを発振用トランジスタTR1の相互コンダクタ
ンスとすると、式(1)で求められる。
【0025】
【数1】

また、相互コンダクタンスgmは、式(2)で求められる。
【0026】
【数2】

式(2)に示すように、相互コンダクタンスgmは、周囲温度が上昇すると減少すると
いう特性を有している。
次に、ドライブレベルIsは、式(3)により求めることができる。
【0027】
【数3】

式(3)において、発振回路中の損失であるReは周囲温度の上昇により増加するので
、式(3)に示すように、ドライブレベルIsは、周囲温度が上昇すると減少する。
【0028】
以上の結果より、周囲温度が変化しても変動の少ないドライブレベルを確保するために
は、周囲温度が変化した際に、その変化に対応してエミッタ電流Ieを調整できればよい
ことがわかる。即ち、例えば、周囲温度が上昇したときに、それに伴って、エミッタ電流
Ieも増加させるように変化させるとドライブレベルIsの変動が抑制される。
そこで、第1の実施形態のコルピッツ型発振回路1においては、発振用トランジスタT
R1のエミッタ抵抗R1に並列に抵抗R2とサーミスタTH1の直列回路からなる温度補
償回路を接続した。第1の実施形態のコルピッツ型発振回路1において使用されるサーミ
スタTH1は、抵抗値が負の温度係数を備えた特性を有するものである。
その結果、周囲温度が上昇するとサーミスタTH1の抵抗値は減少するので、発振用ト
ランジスタTR1のエミッタ電流を増加させ、一方、周囲温度が下降するとサーミスタT
H1の抵抗値は増加するので、発振用トランジスタTR1のエミッタ電流を減少させるこ
とが可能となった。従って、周囲温度の変化に対する負性抵抗値の変動を抑制し、圧電振
動子を励振するドライブレベルの変動を低減させることができる。
なお、サーミスタTH1と直列に接続されている抵抗R2は、サーミスタTH1の特性
を調整するためのものであるが、抵抗R2を接続しないでエミッタ抵抗R1に並列にサー
ミスタTH1のみを接続してもよい。
【0029】
次に、コルピッツ型発振回路の温度補償前と第1の実施形態による温度補償後の特性に
ついて評価試験を行った。図3はその評価試験結果を示した図である。
なお、図3には温度補償を行う前のコルピッツ型発振回路の基本回路の特性、第1の実
施形態のコルピッツ型発振回路の特性、及び特許文献2(従来の第2の事例)において説
明したコルピッツ型発振回路の特性が示されている。ここでのコルピッツ型発振回路は、
ATカット水晶振動子を用いた発振回路であり、発振周波数は、311MHzである。
図3に示す評価試験結果より分かるように、第1の実施形態によるコルピッツ型発振回
路では、エミッタ電流Ieが周囲温度の上昇と共に増加しており、それに伴って、負性抵
抗Rnの変化量が減少している。そして、ドライブレベルIsは、周囲温度の変化に対し
て、温度補償を行うと変動値は0.14mA以内に収まり、温度補償前の変動値が0.4
7mAであることと比較して大きく改善されている。
一方、従来の第2の事例のコルピッツ型発振回路は、発振用トランジスタのエミッタ電
流Ieの調整をベース電位の制御により行っているので周囲温度変化に対する感度が低く
、周囲温度の変化に対してドライブレベルIsの変動値は、0.30mAとなり、第1の
実施形態による温度補償を行った場合と比べて改善度は低いことが分かる。
【0030】
次に本発明に係るコルピッツ型発振回路の第2の実施形態について説明する。
図4は第2の実施形態に係るコルピッツ型発振回路の回路構成図である。
この図4に示すコルピッツ型発振回路2は、発振用トランジスタTR1のベースと接地
(GND)間に負荷容量の一部となる第1のコンデンサC1と第2のコンデンサC2との
直列回路を接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR1のエミッタとを
接続し、更に、エミッタと接地間にエミッタ抵抗R1を接続している。そして、発振用ト
ランジスタTR1のベースに抵抗R3及び抵抗R4とからなるベースバイアス回路を接続
する。また、発振用トランジスタTR1のベースと接地間に、圧電振動子X1と、圧電振
動子X1を励振するドライブレベルを直接調整するために、抵抗(第2の抵抗)R5と、
抵抗R5に並列に接続した抵抗(第3の抵抗)R6とサーミスタ(第2のサーミスタ)T
H2の直列回路と、からなる温度補償回路(第2の抵抗回路)12を直列に接続している
。そして、発振用トランジスタTR1のコレクタを電源電圧(Vcc)ラインに接続する
と共に、発振用トランジスタTR1のエミッタより、直流カット用のコンデンサC3を介
して出力信号を得ている。
このように構成される第2の実施形態に係るコルピッツ型発振回路2は、圧電振動子X
1を励振するドライブレベルを調整するために、抵抗R5と抵抗R6とサーミスタTH2
からなる温度補償回路12を圧電振動子X1と接地間に直列に挿入接続した点に特徴があ
る。
【0031】
次に、第2の実施形態における温度補償回路の動作について説明する。
第1の実施形態において説明したように、コルピッツ型発振回路は、周囲温度が上昇す
ると発振回路の負性抵抗値は減少し、圧電振動子X1を励振するドライブレベルも減少す
る。そして、周囲温度が下降すると発振回路の負性抵抗値は増加し、圧電振動子X1を励
振するドライブレベルも増加する。
そこで、抵抗R5と抵抗R6とサーミスタTH2からなる抵抗回路を温度補償回路とし
て圧電振動子X1に直列に挿入接続し、周囲温度が変化した際に、圧電振動子X1を励振
するドライブレベルを調整するようにした。
第2の実施形態のコルピッツ型発振回路2において使用されるサーミスタTH2は、抵
抗値が負の温度係数を備えた特性を有するものである。
従って、温度補償回路は、周囲温度が上昇するとサーミスタTH2の抵抗値が減少する
ことにより、抵抗値が減少するので、圧電振動子X1を励振するドライブレベルが増加す
る方向に機能する。そして、温度補償回路は、周囲温度が下降するとサーミスタTH2の
抵抗値が増加することにより、抵抗値が増加するので、圧電振動子X1を励振するドライ
ブレベルを減少させる方向に機能する。
その結果、温度補償回路をこのように動作させることにより、圧電振動子X1を励振す
るドライブレベルを直接制御し、周囲温度が変化しても、ドライブレベルの変動を低下さ
せることができる。なお、圧電振動子X1に直列に温度補償回路を挿入すると、発振回路
の損失が増加するので、発振回路の負性抵抗値は、十分確保しておく必要がある。
また、温度補償回路において、サーミスタTH2と直列に接続されている抵抗R6は、
サーミスタTH2の特性を調整するためのものであるが、削除してサーミスタTH2のみ
を抵抗R5に並列に接続してもよい。
【0032】
図5は、コルピッツ型発振回路のドライブレベルの周囲温度変化に対する変動を示す特
性図であり、(a)は数値データを、(b)はグラフにより示した図である。図5には、
コルピッツ型発振回路の基本回路、従来例の第2の事例のコルピッツ型発振回路、本発明
の第1及び第2の実施形態に係るコルピッツ型発振回路の比較結果が示されている。
この場合のコルピッツ型発振回路は、ATカット水晶振動子を用いた発振回路であり、
その発振周波数は311MHzとする。また、(b)では、横軸に周囲温度(℃)を、縦
軸にドライブレベル(mA)がそれぞれ示されている。
数値データに示すように、基本回路においては、周囲温度が変化したときにドライブレ
ベルは0.47mA変動しているが、第1の実施形態によるコルピッツ型発振回路1では
、ドライブレベルの変動は0.14mA、第2の実施形態によるコルピッツ型発振回路2
では、ドライブレベルの変動は0.22mAとなり、大きく改善されていることが分かる

また、従来の第2の事例による発振回路では、ドライブレベルの変動は、0.30mA
となり本実施形態のコルピッツ型発振回路と比べて改善度が低いことが分かる。
次に、図5(b)に示すように第1及び第2の実施形態に係るコルピッツ型発振回路は
、全周囲温度範囲においてドライブレベルの変動は僅かである。
一方、従来の第2の事例によるコルピッツ型発振回路は、第1及び第2の実施形態によ
る温度補償を行った発振回路による温度特性と比べて改善度は小さいことが分かる。
なお、本実施形態においては、温度補償回路にサーミスタを使用する場合を例に挙げて
説明したが、これはあくまでも一例であって、周囲温度変動により負の温度係数を有して
抵抗値が変化する抵抗体などを用いることも可能である。
また、本実施形態のコルピッツ型発振回路の構成は、あくまでも一例であり、発振回路
は、少なくとも、発振用のトランジスタと、トランジスタのベース−エミッタ間に接続し
たコンデンサと、トランジスタのエミッタ−接地間に接続したコンデンサと、トランジス
タのベースと接地間に接続した圧電振動子とを備えたコルピッツ型発振回路であれば適用
可能である。
【符号の説明】
【0033】
1、2…コルピッツ型発振回路、C1、C2、C3…コンデンサ、R1、R2、R3、
R4、R5、R6…抵抗、TH1、TH2…サーミスタ、TR1…トランジスタ、X1…
圧電振動子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振用トランジスタと、前記発振用トランジスタのベースと−エミッタ間に接続した第
1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した第2のコンデ
ンサと、前記発振用トランジスタのベース−接地間に接続した圧電振動子と、前記発振用
トランジスタのエミッタと接地間に接続した抵抗値が負の温度係数を有する第1の抵抗回
路と、を備えていることを特徴とするコルピッツ型発振回路。
【請求項2】
前記第1の抵抗回路は、エミッタ抵抗と第1のサーミスタの並列回路からなることを特
徴とする請求項1に記載のコルピッツ型発振回路。
【請求項3】
前記第1の抵抗回路は、エミッタ抵抗に、第1のサーミスタと第1の抵抗との直列回路
を並列に接続したことを特徴とする請求項1に記載のコルピッツ型発振回路。
【請求項4】
発振用トランジスタと、前記発振用トランジスタのベース−エミッタ間に接続した第1
のコンデンサと、前記発振用トランジスタのエミッタ−接地間に接続した第2のコンデン
サと、前記発振用トランジスタのベースと接地間に接続した圧電振動子と、前記圧電振動
子に直列接続され抵抗値が負の温度係数を有する第2の抵抗回路と、を備えたことを特徴
とするコルピッツ型発振回路。
【請求項5】
前記第2の抵抗回路は、第2の抵抗と第2のサーミスタを並列接続したことを特徴とす
る請求項4に記載のコルピッツ型発振回路。
【請求項6】
前記第2の抵抗回路は、第2の抵抗に、第2のサーミスタと第3の抵抗の直列回路を並
列接続したことを特徴とする請求項4に記載のコルピッツ型発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−205713(P2011−205713A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157603(P2011−157603)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【分割の表示】特願2008−185670(P2008−185670)の分割
【原出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】