説明

コンクリート壁体の構築方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、サイロ、地下駐車場、煙突、橋脚などの中空構造物のコンクリート壁体を構築する方法に関し、特に、コンクリート壁体を下方から上方へと段階的に構築するにあたり型枠ステージを順次上方へ引き上げて固定する技術の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】この種のコンクリート壁体の構築方法としては、特開昭64−52957号公報(E04G 11/28)に示されている次のような方法が一般的である。図3に示すように、コンクリート壁体を下方から上方へと段階的に構築するにあたり、壁体の既設部分1aの壁面の所定位置にブラケット2を取り付けておき、チェーンブロック、ジャッキ等の揚重機(以下、チェーンブロック等という)で吊り下げた型枠ステージ3を既設壁体1aのブラケット2aを支点として固定する。このステージ3に設けた足場4を使って既設壁体1aの上に新設する壁体1b用の型枠(図示省略)を設置し、その新設壁体1bの施工後にステージ3を引き上げて、新設壁体1bの壁面に設けたブラケット2bを支点としてステージ3を固定する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記の従来工法において、図3(B)に示すように、新設壁体1bの施工後にステージ3をブラケット2aで固定したままの状態で、足場4を使って新たなブラケット2bを壁体1bに取り付けるようにすれば、作業を安全に行なえるとともに作業の流れがスムーズである。しかしブラケット2bを取り付けてからステージ3を引き上げるのでは、ステージ3がブラケット2bに引っ掛かるので、この作業手順は取れない。
【0004】そこで図3(C)に示すように、ステージ3をブラケット2bの設置位置より引き上げておき、その状態でステージ3の下方において壁体1bにブラケット2bを取り付け、その後ステージ3を少し下降させてブラケット2b上に固定することになる。このため、チェーンブロック等で吊り下げた状態のステージ3の下方の吊下げ式の足場を使ってブラケット2bを壁面に取り付けるのであるが、この作業には危険が伴うし能率もあまり良くない。
【0005】この発明は前述した従来の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、コンクリート壁体を下方から上方へと段階的に構築するにあたり、工事の進行に伴って型枠ステージを壁面に沿って引き上げて既設の壁体を支点として固定するという繰返し作業を、安全にかつ能率よく行えるようにしたコンクリート壁体の構築方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこでこの発明では、前記壁体の施工時に壁面の所定位置に欠き込み凹部を形成しておき、側方に突出した爪先部分が下方に回動し上方には回動しない構成のラチェット爪を前記ステージの側端部に設け、前記ステージを前記壁面に沿って上方に引き上げて前記ラチェット爪が前記欠き込み凹部に係合した位置にてこの凹部とラチェットとの係合を支点として前記ステージを固定するようにした。
【0007】
【作用】この発明の方法では、前記壁体と前記ステージとの間で直動式ラチェット機構が構成され、チェーンブロック等でステージを自由に引き上げることができるが、前記ステージを下降させると、前記ラチェット爪が前記壁面の切欠き凹部に係合し、その位置より下へは下がらない。
【0008】
【実施例】図1に本発明の一実施例によるコンクリート壁体の構築方法の手順を示している。図おいて、1a、1bは下方から上方へと段階的に構築されるコンクリート壁体を示し、5a、5bはそれぞれ壁体1a、1bの壁面の所定位置に形成された欠き込み凹部である。欠き込み凹部5a、5bは水平な下面とそこから上方に傾斜した斜面とからなっており、水平な下面部分には金属プレートが埋め込まれている。
【0009】3はチェーンブロック等で吊り下げられた型枠ステージ、4はステージ3に設けられた足場である。この発明の方法ではステージ3の側端部に複数個のラチェット爪6を設ける。ラチェット爪6はピン6aを中心に回動自在であり、爪先部分はステージ3の側端面より突出している。回動中心のピン6aの前後の重量バランスにより、ラチェット爪6の爪先部分(根元側より軽い)が上方へ回動するように常時付勢されているとともに、ストッパ6bによってラチェット爪6が水平になった状態より爪先部分が上方へ回動しないようになっている。ストッパ6bはラチェット爪6の爪先部分が下方に回動する際はストッパとして作用せず、爪先部分の下方回動は妨げられない。
【0010】図1(A)に示すように、ラチェット爪6が水平に側方に突出し、その爪先部分がコンクリート壁1aの壁面の欠き込み凹部5aに入り込んだ状態で爪6にステージ3の重量が加わると、爪6と凹部5aとの係合を支点としてステージ3が壁面の所定位置に固定される。このステージ3に設けた足場4を使って既設壁体1aの上に新設する壁体1b用の型枠を設置し、その新設壁体1bの施工後にチェーンブロック等でステージ3を引き上げる。
【0011】すると図1(B)のように、ラチェット爪6の爪先部分が相対的に下方に回動して壁面を擦りながらステージ3が上昇する。そして図1(C)に示すように新設壁体1bの施工時にこれに形成した欠き込み凹部5bの位置を爪6が少し過ぎたところでステージ3を下降させると、爪6の爪先部分が上方に回動しながら欠き込み凹部5bに係合し、この係合によってステージ3が壁面に固定される。
【0012】図2に本発明の方法のより具体的な実施形態を示している。ここでは筒状に形成された地中連続壁7の内側に内巻工法でコンクリートを壁体1a、1b、……を下方から上方へと段階的に構築する。図の状態では壁体1bの欠き込み凹部5bにラチェット爪6を係合させて型枠ステージ3を壁面に固定し、壁体1bの上に次に形成する壁体用の型枠8を足場4を使って設置し、この型枠8と地中連続壁7との間にコンクリートを打設することになる。なお型枠8の所定位置には前述の欠き込み凹部5a、5b、……を形成するための三角形状の突起8aが設けられている。
【0013】
【発明の効果】この発明の方法では、壁体の施工時に壁面の所定位置に形成していく欠き込み凹部と、型枠ステージに設けたラチェット爪とによって直動式のラチェット機構が構成され、チェーンブロック等でステージを自由に上方へ引き上げることができるとともに、所定位置にてステージを若干下降させるとラチェット爪が壁面の欠き込み凹部に係合し、その係合によってステージが支持されて壁面の所定位置に固定される。したがって壁体を下方から上方へと段階的に構築するのに伴ってステージを引き上げて所定の位置に固定するという繰返し作業を極めて能率的にしかも安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例によるコンクリート壁体の構築方法の概略図である。
【図2】同上構築方法のより具体的な実施形態を示す図である。
【図3】従来方法の概要とその問題点を示すための図である。
【符号の説明】
1a、1b コンクリート壁体
2a、2b ブラケット
3 型枠ステージ
4 足場
5a、5b 欠き込み凹部
6 ラチェット爪
6a ピン
6b ストッパ
7 地中連続壁
8 型枠
8a 欠き込み形成用突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンクリート壁体を下方から上方へと段階的に構築するにあたり、壁体の既設部分を支点として型枠ステージを所定位置に固定し、このステージに設けた足場を使って前記既設壁体の上に新設する壁体用の型枠を設置し、その新設壁体の施工後に前記ステージを所定位置まで引き上げて前記壁体を支点として固定するという手順を繰り返す方法において、前記壁体の施工時に壁面の所定位置に欠き込み凹部を形成しておき、側方に突出した爪先部分が下方に回動し上方には回動しない構成のラチェット爪を前記ステージの側端部に設け、前記ステージを前記壁面に沿って上方に引き上げて前記ラチェット爪が前記欠き込み凹部に係合した位置にてこの凹部とラチェットとの係合を支点として前記ステージを固定することを特徴とするコンクリート壁体の構築方法。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図2】
image rotate


【特許番号】第2776031号
【登録日】平成10年(1998)5月1日
【発行日】平成10年(1998)7月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−13068
【出願日】平成3年(1991)1月10日
【公開番号】特開平4−238961
【公開日】平成4年(1992)8月26日
【審査請求日】平成7年(1995)1月20日
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【参考文献】
【文献】実開 昭64−31837(JP,U)