説明

コンクリート床構造体及びその施工方法

【課題】多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜を有するコンクリート床の上面に、平坦性に優れるとともに、強固に一体化され高い強度性状を有する塗り床仕上げのコンクリート構造体の施工方法を提供する。
【解決手段】既存建築物又は新設建築物のコンクリート床の上面にセルフレベリング材用プライマー層34を設ける工程と、前記プライマー層34上面にセルフレベリング材スラリー35を打設して硬化させる工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体36表面を鏝押え処理及び/又は研磨処理する工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層36の上面に塗り床材用プライマー層37を設ける工程と、塗り床材用プライマー層37の上面に塗り床材38を施工して硬化させる工程とを有することを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の床面にセルフレベリング材と塗り床材とを組合せて施工するコンクリート床構造体の施工方法およびそのコンクリート床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫などの構造物のコンクリート床では、一般的にコンクリート床面の仕上げに各種樹脂を含む塗り床材が用いられることが多い。
各種樹脂を含む塗り床材を仕上げ材として用いた場合、床面の耐磨耗性や耐薬品性などが向上する効果が得られる一方で、各種樹脂を含む塗り床材の塗膜硬化層が通気性に乏しく、塗り床材の下地層であるコンクリート床に含まれる水分が蒸発した際に、コンクリート床の表面と塗り床材の塗膜硬化層との間に蒸発した水分が蒸気として閉じ込められ、コンクリート床表面と塗り床材の塗膜硬化層との間に充分な接着力が得られていない箇所では、上塗り材の塗膜硬化層にふくれが発生する等のトラブルがしばしば見られている。
【0003】
このような問題を解決する方法として、特許文献1および特許文献2に、コンクリート下地面の上に通気性を備えた単独層を新たに打ち継ぎ、この上に非通気性床仕上げ材を施工することにより、非通気性床仕上げ材の下に位置する該通気層に、下地コンクリート組織内部の水分を散逸させる方法が開示されている。
また、特許文献3および特許文献4には、コンクリート下地面の上に設ける通気性下地層に、微細発泡剤を添加したセルフレベリング性材料を用いることにより、打設段階ではセルフレベリング性を有しながら、硬化時点には確実に透気・透湿層を備えた多孔質組織体を形成でき、該多孔質層を通じて下地コンクリート組織内部の水分を散逸させる方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−45054号公報
【特許文献2】特公平6−21512号公報
【特許文献3】特開平10−317656号公報
【特許文献4】特開平10−317657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にコンクリート床に塗り床材を施工して仕上げる場合、コンクリート床の表面にプライマー層を設け、ベースコート層、さらにトップコート層が施工される。塗り床材の種類を選定することにより、耐過重性、耐磨耗性、耐衝撃性、耐水性、耐薬品性、耐候性、美観性、防音性等の機能を有するコンクリート床を形成できる。
塗り床材を施工して得られるこれらの多様な機能や性能は、塗り床材の硬化層の性状、すなわち、塗り床材の硬化層の厚さ、均一さなどに大きく依存する。また、この塗り床材の硬化層の性状は、下地を形成しているコンクリートの強度や表面性状によっても大きく影響される。
通常、新設建築物のコンクリート床は、生コンクリートを打設・締固めを行ってある程度の平面性を持たせた後、コンクリート表面の水が引いた段階で左官鏝などを用いて表面を均し、粗い凹凸を均す作業を行って、コンクリートを養生して硬化させており、塗り床材を施工する段階の硬化したコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
また、既設の建築物のコンクリート床を改修するような場合、以前施工されていた塗り床材や貼り床材を除去し、コンクリート床面を研磨処理して粗い凹凸を均す作業を行った上で新たに塗り床材が施工されるが、この場合もコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
【0006】
図1に示すように、上記のようなコンクリート床11に塗り床材12を施工した場合、塗り床材12の性能を充分引き出そうとして、プライマー層13、ベースコート層14、トップコート層15の施工厚さが一定になるように施工すると、塗り床材12を施工した床面16は、下地であるコンクリート床11表面の多種多様な小さな凹凸17や微妙な傾斜18がそのまま反映されたものとなり、塗り床を施工したコンクリート床面を実際に供用する上で、また、美観上も好ましくない仕上り状態になる。
一方、塗り床材12を施工した床面16の平面性を高め、供用性や美観の良好な仕上りを求める場合、プライマー層13、ベースコート層14、トップコート層15を施工する過程で、コンクリート床11表面の多種多様な小さな凹凸17や微妙な傾斜18を塗り床材12、具体的にはベースコート層14の施工量を調整して、ベースコート層14の表面の平面性を調整する必要があり、塗り床材12の施工量に過不足が生じることになる。
図2に示すように、安全を見て塗り床材12を過剰に施工した場合には、所定の機能や性能は得られるものの、塗り床材12使用量が増加して経済性が低下するという問題があり、逆に図3のように、塗り床材12の使用量を、単位面積当たり推奨されている施工量とした場合、塗り床材12の硬化層の厚さが、凹部19では厚く、凸部20では薄くなり、特に塗り床材12の施工量が少ない凸部20では塗り床材12を所定量施工した場合と比較して適正な機能や性能が得られない事態も発生することになる。
【0007】
本発明は、多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜を有するコンクリート床の上面に、平面性に優れるとともに、強固に一体化され高い接着強度特性を有する塗り床仕上げのコンクリート床構造体の施工方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行った結果、速硬性を有する水硬性成分を含み、水平レベル精度が優れたセルフレベリング材を用いて、高い施工効率を実現しながら良好な平面性を有する塗り床材下地層を形成するとともに、前記セルフレベリング材の表層に特定の加工処理を行うことにより、塗り床材硬化体層とセルフレベリング材硬化体層との間に高い接合性が得られ、卓越した接着強度特性を有する塗り床仕上げコンクリート構造体を形成できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の第1は、
既存建築物又は新設建築物のコンクリート床の上面に、セルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材硬化体層と設ける工程とを含むコンクリート床構造体の施工方法であって、セルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程は、建築物のコンクリート床の上面に、セルフレベリング材用プライマー層を設ける工程と、前記プライマー層上面にセルフレベリング材スラリーを打設して硬化させてセルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程、前記セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面を鏝押え処理及び/又は研磨処理する工程とを含み、塗り床材硬化体層を設ける工程は、鏝押え処理及び/又は研磨処理したセルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材用プライマー層を設ける工程と、塗り床材用プライマー層の上面に塗り床材用ベースコートを施工して硬化させて塗り床材用ベースコート層を設ける工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
本発明の第2は、上記の本発明のコンクリート床構造体の施工方法によって得られる塗り床仕上げコンクリート床構造体である。
【0010】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法の好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合わせることができる。
1)セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が1〜15の間に硬化体表面を鏝押え処理すること。
2)セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が35〜80の間に硬化体表面を研磨処理すること。
3)セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が1〜15の間に硬化体表面を鏝押え処理し、さらに、スラリー硬化体層の表面のショア硬度が35〜80の間に硬化体表面を研磨処理すること。
4)セルフレベリング材は、アルミナセメントを含むこと。
5)セルフレベリング材は、セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とを含むこと。
6)塗り床材は、樹脂系塗り床材又はセメント系塗り床材であること。
7)塗り床材硬化体層を設ける工程は、
塗り床材用ベースコート層の上面に、さらに塗り床材用トップコートを塗布して乾燥させて塗り床材用トップコート層を設ける工程と含むこと。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルフレベリング材と塗り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法によれば、通常、多種多様の小さな凹凸や微妙な傾斜を有するコンクリート床の上面に、水平レベル精度が優れたセルフレベリング材スラリーを施工・硬化させて高い平面性を有するコンクリート下地を形成した後に塗り床材を施工するため、塗り床材の仕上り面もまた高い平面性を有し、良好な供用性と美観が得られのみならず、本来塗り床材が有している機能や性能を十二分に発揮させることができる。
さらに、本発明ではアルミナセメントを含み速硬性に優れ、高い平面性を有する床面を形成できるセルフレベリング材を選択して用いることによって、高い施工効率と優れた水平レベル精度とが両立した塗り床下地層の形成が可能となる。
また、本発明では、セルフレベリング材スラリー硬化体の表面を鏝押え処理して、及び/又は、セルフレベリング材スラリー硬化体の表面を研磨処理して、極めて緻密で高強度なセルフレベリング材のスラリー硬化体層を、下地コンクリートと塗り床材硬化体層との中間層に形成することによって、従来課題となることがあったコンクリート床から離脱しようとする水分による塗り床材硬化層の膨れについても解消することができ、優れた耐久特性を有する塗り床仕上げコンクリート床構造体が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、
既存建築物又は新設建築物のコンクリート床の上面に、セルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材硬化体層とを設ける工程と含むコンクリート床構造体の施工方法であって、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面を鏝押え処理及び/又は研磨処理する工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
本発明のセルフレベリング材と塗り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法および塗り床仕上げコンクリート床構造体について、図4a〜図4dに示す図面を参照して実施形態について説明する。
【0013】
図4aは、コンクリート床30の部分断面図を示している。
本発明では、まず図4bに示すように、小さな凹凸32や微妙な傾斜33を有するコンクリート床31上面に、セルフレベリング材用プライマー34を施工する。
次に、セルフレベリング材用プライマー34が乾燥して造膜したのち、その上面に図4cに示すようにセルフレベリング材スラリー35を打設する。
本発明では、セルフレベリング材スラリー35の硬化初期、すなわちセルフレベリング材スラリー硬化体層36の表面のショア硬度が1から15の間に、左官鏝などを用いてスラリー硬化体層の表面全体を鏝押え処理する。
セルフレベリング材スラリー硬化体36の硬化がさらに進行したのち、セルフレベリング材スラリー硬化体層36の上面に、図4dに示すように塗り床材用プライマー層37を設け、その上面に塗り床材のベースコート38を打設して硬化させることが好ましい。
【0014】
また、本発明では、コンクリート床31上面に、セルフレベリング材用プライマー34を施工し、セルフレベリング材スラリー35を打設して硬化させ、スラリー硬化体層の表面のショア硬度が35から80の間にスラリー硬化体層36の表面を研磨処理し、その上面に塗り床材用プライマー層を設け、塗り床材のベースコート38を打設して硬化させることが好ましい。
【0015】
さらに本発明では、コンクリート床31上面に、セルフレベリング材用プライマー34を施工して、セルフレベリング材スラリー35を打設し、セルフレベリング材スラリー35の硬化初期、すなわちセルフレベリング材スラリー硬化体層36の表面のショア硬度が1から15の間に、左官鏝などを用いてスラリー硬化体層の表面全体を鏝押え処理し、スラリー硬化体の硬化がさらに進行して、硬化体表面のショア硬度が35から80の間にスラリー硬化体層36の表面を研磨処理したのち、その上面に塗り床材用プライマー層37を設け、塗り床材のベースコート38を打設して硬化させることがさらに好ましい。
【0016】
本発明では、塗り床材のベースコート層38の上面にトップコート層39を設けることができる。該トップコート層39は、塗り床材のベースコート層38を保護する機能のみならず、塗り床仕上げコンクリート床構造体の表面40の耐久性向上効果を付与するものである。
【0017】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法では、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面に特定のタイミングで鏝押え処理及び/又は研磨処理を行うことが好ましい。
次に本発明で行う鏝押え処理及び/又は研磨処理について説明する。
【0018】
本発明では、セルフレベリング材スラリーの硬化途中で、セルフレベリング材スラリー硬化体表面に鏝押え処理を行うことが好ましい。
鏝押え処理を行うタイミングとしては、セルフレベリング材スラリー硬化体表面のショア硬度が、好ましくは1〜15の間、より好ましくは2〜14の間、特に好ましくは3〜13の間の値を示す状態で、左官鏝等を用いてスラリー硬化体の表面全体を鏝押え処理を行うことにより、セルフレベリング材スラリー硬化体の表層組織が圧密されることによってより緻密化して、より高い強度を得ることができる。
【0019】
また、本発明では、セルフレベリング材スラリーが硬化したのち、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面を研磨処理することが好ましい。
研磨処理するタイミングとしては、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、好ましくは35〜80の間、より好ましくは38〜77の間、特に好ましくは40〜75の間の値を示す状態で、ライナックス社製研磨機等を使用して研磨処理することが好ましい。
研磨処理する深さとしては、好ましくは0.02〜1.0mm、さらに好ましくは0.05〜0.7mm、特に好ましくは0.1〜0.5mmの深さまで研磨することが好ましい。
スラリー硬化体層の表面を研磨処理することによって適度に硬化体表面の粗度を高めることができ、硬化体の上面の塗り床材層との接合性を向上させる効果がある。これは接合界面のアンカー効果が向上することによるものと推考される。
【0020】
本発明では、セルフレベリング材スラリーの硬化途中で、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面に鏝押え処理を行い、さらに、スラリー硬化体層の表面を研磨処理することが好ましい。
鏝押え処理は、セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、好ましくは1〜15の間、より好ましくは2〜14の間、特に好ましくは3〜13の間の値を示す状態で、左官鏝等を用いてスラリー硬化体の表面全体を鏝押え処理を行い、スラリー硬化体層の表層組織を圧密し、さらに、スラリー硬化体表面のショア硬度が、好ましくは35〜80の間、より好ましくは38〜77の間、特に好ましくは40〜75の間の値を示す状態で、ライナックス社製研磨機等を使用して研磨処理することが好ましい。
鏝押え処理による硬化体組織の緻密化効果と、さらに、研磨処理による硬化体表面の接合力の向上効果とが得られ、スラリー硬化体層の上面と塗り床材の硬化体層の下面との間に強力な接合状態を形成できる。
【0021】
次に、本発明のコンクリート床構造体の施工方法で使用する材料について説明する。
本発明で使用するセルフレベリング材用プライマーは、セルフレベリング材スラリーを打設した際に、スラリー中の水分がコンクリート床に浸透する作用を防止する効果、及び、コンクリート床の細孔中の空気がセルフレベリング材スラリー中を通過してスラリー層表面に気泡を形成することを防止する効果、さらにコンクリート床とセルフレベリング材スラリー硬化体とを強固に接着する効果を有している。
セルフレベリング材用プライマーとしては、スチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂やエチレン/酢酸ビニルエステル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にスチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
プライマーの塗布量は、好ましくは20〜240g/m、さらに好ましくは30〜200g/m、より好ましくは40〜150g/m、特に好ましくは45〜120g/m塗布することが良好な接着強度を安定して得るために好ましい。
プライマー塗布後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には3時間〜8時間、冬季には5時間〜12時間乾燥することが好ましい。
【0022】
次に、本発明で用いるセルフレベリング材について詳しく説明する。
【0023】
本発明で使用するセルフレベリング材としては、セルフレベリング材スラリー硬化体が硬化初期にその硬化体層の表層に適度な保水性を有しつつ、緩やかに硬度が高まる特性を有して、鏝押え処理による表層組織の緻密化効果を充分に発揮でき、さらに、鏝押え処理に好ましい表面硬度を超えたのちは、良好な速効性を発現して優れた施工効率が得られることが好ましいことから、特定のセルフレベリング材を選択して用いることが好ましい。
【0024】
本発明で用いるセルフレベリング材としては、水硬性成分としてアルミナセメントを含むセルフレベリング材が、優れた速硬性を有することから好ましく用いることができる。
さらに、本発明で用いるセルフレベリング材としては、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とを含むセルフレベリング材が、セルフレベリング材スラリー硬化体が硬化初期にその硬化体層の表層に適度な保水性を有しつつ、緩やかに硬度が高まる特性を有して、鏝押え処理による表層組織の緻密化効果を充分に発揮でき、さらに、鏝押え処理に好ましい表面硬度を超えたのちは、良好な速効性を発現して優れた施工効率が得られることから特に好ましく用いることができる。
【0025】
<水硬性成分>
本発明で用いるセルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とを含むことが好ましい。
【0026】
本発明で用いるセルフレベリング材では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが、優れた鏝押え作業性と速硬性とを有するセルフレベリング材が得られることから特に好ましい。したがって、本発明で用いるセルフレベリング材に対して、カルシウムフロロアルミネート系クリンカーなどのその他の水硬性成分を添加することは好ましくない。水硬性成分の組成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計質量を100質量%とした場合に、好ましくはアルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント5〜70質量%及び石膏5〜45質量%である。また、水硬性成分の組成は、さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量%、ポルトランドセメント15〜60質量%及び石膏10〜40質量%である。また、水硬性成分の組成は、より好ましくはアルミナセメント30〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏15〜35質量%である。また、水硬性成分の組成は、特に好ましくはアルミナセメント35〜45質量%、ポルトランドセメント30〜40質量%及び石膏20〜30質量%である。このような組成のセルフレベリング材を用いることにより、自己流動性に優れるセルフレベリング材スラリーを得ることができ、さらに速硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0027】
本発明で用いるセルフレベリング材の水硬性成分の一つであるポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントを用いることができる。また、本発明で用いるセルフレベリング材の水硬性成分として、ポルトランドセメントと他の成分を混合した混合セメント、例えば、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0028】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0029】
石膏は、無水石膏、半水石膏及び2水石膏などの各種石膏が、その種を問わず、これら各種石膏のうちの1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は、セルフレベリング材と、水とを混練して得られるセルフレベリング材スラリーが硬化した後の寸法安定性を保持するという機能を有する成分である。
【0030】
本発明で用いることができる無水石膏は、その製法について特に限定されるものではなく、天然無水石膏、フッ酸製造工程で副産されるフッ酸石膏(無水石膏)及び排煙脱硫過程で生成する排脱石膏(無水石膏)などを用いることができ、特に入手容易性、経済性及び環境対応の観点から、フッ酸石膏(無水石膏)を好適に用いることができる。
【0031】
<水酸化カルシウム微粉末>
本発明で用いるセルフレベリング材に含まれる水酸化カルシウム微粉末は、初期の軽歩行可能となるセルフレベリング材スラリー表面硬度の発現時間を調整するという機能を有する成分である。水酸化カルシウム微粉末を水硬性成分に対して適正量を配合することによって、凝結促進剤として有効に機能し、セルフレベリング材スラリーを施工後、早期に施工表面を鏝押え処理することができるセルフレベリング材やセルフレベリング材スラリーを得ることができる。水酸化カルシウム微粉末の製造方法は、特に限定されるものではなく、市販のものを使用することができる。
【0032】
本発明で用いるセルフレベリング材は、水硬性成分100質量部に対し、水酸化カルシウム微粉末を、好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.05〜0.8質量部、さらに好ましくは0.1〜0.5質量部、特に好ましくは0.2〜0.3質量部含む。本発明で用いるセルフレベリング材中の水酸化カルシウム微粉末がこのような範囲であると、水硬性成分の水和初期段階において、適度な速硬性を付与することができ、セルフレベリング材スラリーの硬化開始から早期に軽歩行が可能となることから好ましい。水酸化カルシウム微粉末の添加量が、前記範囲より少ないと早期のスラリー硬化体表面硬度が得られず、また前記範囲を超えて添加すると硬化促進効果が過剰となり、スラリー硬化体表面を鏝押え処理するために充分な時間を確保しづらくなるという問題が生じる可能性があるため、水酸化カルシウム微粉末の添加量は上記の範囲が好ましい。
【0033】
水酸化カルシウム微粉末としては、ブレーン比表面積5000〜30000cm/gの粉末、好ましくはブレーン比表面積10000〜25000cm/gの粉末、さらに好ましくはブレーン比表面積12000〜20000cm/gの粉末、特に好ましくはブレーン比表面積14000〜18000cm/gの粉末を主成分としていることが好ましい。なお、水酸化カルシウム微粉末のブレーン比表面積は、JIS・R−5201に規定される方法にて測定する。
【0034】
本発明で用いるセルフレベリング材に含まれる水酸化カルシウム微粉末の粒子径範囲は、水酸化カルシウム微粉末100質量%中に、粒子径が1μmを超えて、48μm以下の粒子を80質量%以上含み、粒子径が1μmを超えて、4μm以下の粒子が20〜40質量%の範囲であり、粒子径4μmを超えて、12μm以下の粒子が25〜45質量%の範囲であり、粒子径12μmを超えて、48μm以下の粒子が20〜40質量%の範囲であることが好ましい。特に、本発明で用いるセルフレベリング材に含まれる水酸化カルシウム微粉末の粒子径範囲は、水酸化カルシウム微粉末100質量%中に、粒子径が1μmを超えて、48μm以下の粒子を90質量%以上含み、粒子径が1μmを超えて、4μm以下の粒子が28〜33質量%の範囲であり、粒子径4μmを超えて、12μm以下の粒子が33〜38質量%の範囲であり、粒子径12μmを超えて、48μm以下の粒子が25〜30質量%の範囲であることがさらに好ましい。本発明では、このような粒子径範囲の水酸化カルシウム微粉末を、セルフレベリング材中に適正量含有させることによって、水硬性成分の水和初期段階において、緩やかな速硬性を付与することができ、スラリー硬化体表面の鏝押え作業に適した半硬化状態を確保することができる。なお、粒子径の測定は、レーザー回折式粒子径測定装置を用いて行うことができる。
【0035】
<フライアッシュ微粉末>
本発明で用いるセルフレベリング材に含まれるフライアッシュ微粉末は、硬化初期のスラリー硬化体表層の保水性を適正に長時間維持し、鏝押え処理が容易な施工表面を形成させる効果を付与できことから、保水性付与材として、水硬性成分に対して適正量のフライアッシュ微粉末を配合する。
【0036】
本発明で用いるセルフレベリング材中のフライアッシュ微粉末の適正量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは1〜4質量部、さらに好ましくは1.5〜3.5質量部、特に好ましくは2〜3質量部である。セルフレベリング材中のフライアッシュ微粉末がこのような範囲であると、硬化開始初期のスラリー硬化体表面に適度な保水性を安定して維持でき、良好な鏝押え作業性が得られることから好ましい。
【0037】
フライアッシュ微粉末としては、ブレーン比表面積2500〜7000cm/gの粉末、好ましくはブレーン比表面積2800〜6500cm/gの粉末、さらに好ましくはブレーン比表面積3000〜6000cm/gの粉末、特に好ましくはブレーン比表面積3300〜5500cm/gの粉末を主成分としていることが好ましい。なお、フライアッシュ微粉末のブレーン比表面積は、JIS・R−5201に規定される方法にて測定する。
【0038】
本発明で用いるセルフレベリング材に含まれるフライアッシュ微粉末の粒子径範囲は、フライアッシュ微粉末100質量%中に、粒子径が2μmを超えて、48μm以下の粒子を80質量%以上含み、粒子径が2μmを超えて、12μm以下の粒子が30〜50質量%の範囲であり、粒子径が12μmを超えて、24μm以下の粒子が20〜40質量%の範囲であり、粒子径が24μmを超えて、48μm以下の粒子が15〜35質量%の範囲であることが好ましい。特に、本発明で用いるセルフレベリング材に含まれるフライアッシュ微粉末の粒子径範囲は、フライアッシュ微粉末100質量%中に、粒子径が2μmを超えて、48μm未満の粒子を90質量%以上含み、粒子径が2μmを超えて、12μm以下の粒子が38〜42質量%の範囲であり、粒子径が12μmを超えて、24μm以下の粒子が28〜32質量%の範囲であり、粒子径が24μmを超えて、48μm以下の粒子が22〜26質量%の範囲であることがさらに好ましい。本発明では、このような粒子径範囲のフライアッシュ微粉末をセルフレベリング材中に適正量含有させることによって、硬化開始初期のスラリー硬化体表面に適度な保水性を安定して維持でき、良好な鏝押え作業性を得ることができる。なお、粒子径の測定は、レーザー回折式粒子径測定装置を用いて行うことができる。
【0039】
本発明では、水酸化カルシウム微粉末とフライアッシュ微粉末とを併せて用いることにより、早期に鏝押え作業が可能となる速硬性を有しつつ、鏝押え作業が可能となってから数十分の間、スラリー硬化体表面を適度に保水した状態を長く維持することができ、スラリー硬化体表面の鏝押え作業が容易に行うことができる。
【0040】
<その他の任意成分>
本発明で用いるセルフレベリング材は、水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とに加え、細骨材と、流動化剤とを含むことが好ましい。また、さらに無機成分、凝結遅延剤、樹脂粉末、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含み、本発明で用いるセルフレベリング材と、水とを混練して調製したセルフレベリング材スラリーが、自己流動性を有することが好ましい。なお、本明細書で「自己流動性を有する」セルフレベリング材スラリーとは、後述するフロー値が、190mm以上の値であるセルフレベリング材スラリーのことをいう。
【0041】
<細骨材>
本発明で用いるセルフレベリング材は、細骨材を、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは50〜500質量部、より好ましくは100〜400質量部、さらに好ましくは150〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部含む。
【0042】
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.1〜2mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.2〜1.5mmの骨材、特に好ましくは0.3〜1mmの骨材を主成分としている。細骨材の粒径は、JIS・Z−8801で規定される、呼び寸法の異なる数個のふるいを用いる方法によって測定することができる。
【0043】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒及び石灰石などの無機質材、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。特に細骨材としては、砂類、石英粉末及びアルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
【0044】
<流動化剤>
本発明で用いるセルフレベリング材に対して流動化剤を添加することにより、本発明で用いるセルフレベリング材に自己流動性を付与することができる。そのため、本発明で用いるセルフレベリング材に対する流動化剤の添加は、施工の際の作業性を向上することができるため好ましい。
【0045】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系など、ポリエーテルポリカルボン酸系、リグニンスルホン酸系などが、その種類を問わず使用でき、これらの市販のものを使用できる。また、本発明では、これらの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができ、特にポリカルボン酸系流動化剤と、リグニンスルホン酸系流動化剤とを併用して用いることが好適な流動特性を安定して得られることから好ましい。
【0046】
流動化剤は、本発明で用いるセルフレベリング材に用いる水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。具体的には、本発明で用いるセルフレベリング材に対して、流動化剤を、水硬性成分100質量部に対し、0.01〜5質量部、さらに好ましくは0.05〜3質量部、より好ましくは0.1〜2質量部、特に好ましくは0.2〜1質量部添加する。添加量が、これらの範囲の下限値以上であれば、自己流動性向上について十分な効果が発現でき、また、これらの範囲の上限値以下であると添加量に見合った効果は期待することができるので経済であり、所要の流動性を得るための混練水量が増大することなく、同時に粘稠性も大きくならず、充填性が悪化することもないと考えられる。
【0047】
<無機成分>
本発明で用いるセルフレベリング材は、無機成分として、高炉スラグ微粉末、石灰石粉、シリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含み、特に高炉スラグ微粉末を含む。これらの無機成分を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができ、かつコストが低減でき、経済的である。
【0048】
本発明で用いるセルフレベリング材に対して、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。
【0049】
セルフレベリング材において、無機成分が高炉スラグ微粉末である場合には、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、これらの範囲の下限値以上であれば、硬化体の乾燥収縮が大きくなく適当な値となり、これらの範囲の上限値以下であると初期強度の低下を招くことがない。
【0050】
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0051】
<凝結遅延剤>
本発明で用いるセルフレベリング材に添加する凝結遅延剤は、セルフレベリング材に使用する水硬性成分及び水硬性成分以外の成分などに応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。また、凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することによって、本発明で用いるセルフレベリング材の可使時間と速硬性とを調整することができる。セルフレベリング材に対する凝結遅延剤の添加によって、セルフレベリング材スラリー(自己流動性スラリー)としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0052】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類を代表とする有機酸やそのナトリウム塩、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。特に、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から、凝結遅延剤が、有機酸及び/又は無機酸のナトリウム塩であることが好ましく、有機酸と無機酸のナトリウム塩とを併用することがさらに好ましい。
【0053】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸及びリンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸などの芳香族オキシ酸などを挙げることができる。
【0054】
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩など)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩など)などを挙げることができる。
【0055】
本発明で用いるセルフレベリング材に添加する凝結遅延剤は、セルフレベリング材中の水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.5質量部の範囲、より好ましくは0.1〜1.2質量部の範囲、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部の範囲、特に好ましくは0.3〜0.8質量部の範囲で用いることができる。凝結遅延剤の添加がこれらの範囲であると、好適な流動性が得られるとともに、硬化開始時間を大きく遅らせることなく硬化時の表面硬度の発現を緩やかにすることができ、軽歩行が可能なスラリー硬化体表面硬度が得られて以降の補修時間を充分に確保できることから好ましい。
【0056】
<増粘剤>
本発明で用いるセルフレベリング材に添加する増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
【0057】
本発明で用いるセルフレベリング材に対する増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。セルフレベリング材に対する増粘剤の添加量が多くなると、セルフレベリング材スラリー粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために、上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0058】
本発明で用いるセルフレベリング材において、増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、セルフレベリング材の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0059】
<消泡剤>
本発明で用いるセルフレベリング材に添加する消泡剤は、シリコン系、アルコール系及びポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
【0060】
本発明で用いるセルフレベリング材に対する消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜4質量部、さらに好ましくは0.005〜2.5質量部、より好ましくは0.01〜2質量部、特に0.02〜1.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量が上記範囲内であると、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0061】
本発明で用いるセルフレベリング材では、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果があることから樹脂粉末を用いることが好ましい。
樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特に限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0062】
樹脂粉末としては、酢酸ビニルエステル重合体樹脂系、エチレン/酢酸ビニルエステル共重合体樹脂系、アクリル酸エステル/酢酸ビニルエステル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体樹脂系、アクリル酸エステル共重合体樹脂系、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂系、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体樹脂系の再乳化型樹脂粉末を用いることができ、特に酢酸ビニルエステル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体樹脂系の再乳化形樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0063】
樹脂粉末の粒子径は、315μmふるい上残分が3%以下、さらに300μmふるい上残分が3%以下、特にさらに300μmふるい上残分が2%以下のものを好ましく用いることが出来る。
【0064】
樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.6〜4.5質量部、さらに好ましくは0.7〜4質量部、特に好ましくは0.8〜3.5質量部を配合したものを用いることができる。
【0065】
<その他の任意成分>
本発明で用いるセルフレベリング材では、乾燥クラックの防止・抑制効果をより高める場合などには、収縮低減剤及びシリコーンオイルなどを適宜選択して用いることができる。
【0066】
<好適な成分構成>
本発明で用いるセルフレベリング材を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、水酸化カルシウム微粉末、フライアッシュ微粉末、硅砂などの細骨材、流動化剤、無機成分、凝結遅延剤、樹脂粉末、増粘剤及び消泡剤を含むものである。
【0067】
さらに本発明で用いるセルフレベリング材中の水酸化カルシウム微粉末とフライアッシュ微粉末との配合割合を所定の値に調節し、本発明で用いるセルフレベリング材と、水とを混練して調製したセルフレベリング材スラリーを施工して2時間後に、セルフレベリング材スラリー硬化体表面のショア硬度が10以上であることが好ましい。
【0068】
施工後のセルフレベリング材スラリーが、優れた速硬性を有しつつ、硬化開始後に緩やかに硬化が進行し、その間にスラリー硬化体表面が適度な保水性を維持して、スラリー硬化体表面の鏝押えを容易にかつ確実に実施できるようにするために、本発明で用いるセルフレベリング材と、水とを混練して調製したセルフレベリング材スラリーの硬化体は、セルフレベリング材スラリーを施工後、65分〜120分の間に鏝押え作業が可能であることが好ましい。
【0069】
<製造方法>
所定量の水硬性成分、水酸化カルシウム微粉末、フライアッシュ微粉末、無機成分、細骨材、流動化剤、無機成分、凝結遅延剤、樹脂粉末、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合することによって、本発明で用いるセルフレベリング材のプレミックス粉体を得ることができる。
【0070】
本発明で用いるセルフレベリング材のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、セルフレベリング材スラリーを製造することができ、そのセルフレベリング材スラリーを施工・硬化させることによってセルフレベリング材の硬化体を得ることができる。また、特に、そのセルフレベリング材スラリーをコンクリート上に施工・硬化させることで、本発明で用いるセルフレベリング材を用いたセルフレベリング材スラリーの硬化体層を表層に有する水平レベル精度が優れるコンクリート床構造体を得ることができる。
【0071】
本発明で用いるセルフレベリング材は、水と混合・攪拌してセルフレベリング材スラリーを製造することができ、水の添加量を調整することにより、セルフレベリング材スラリーの流動性、可使時間、材料分離性、硬化体の強度などを調整することができる。本発明で用いるセルフレベリング材に対する水の添加量は、セルフレベリング材100質量部に対し、好ましくは10〜36質量部、さらに好ましくは14〜32質量部、より好ましくは18〜28質量部、特に好ましくは22〜26質量部の範囲で添加して用いることが好ましい。
【0072】
セルフレベリング材スラリーの施工厚さは、コンクリート床スラブ表面の凹凸状態やスラブ面の傾斜状態によって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ2mm〜70mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ3mm〜50mmの範囲、より好ましくは施工厚さ4mm〜40mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ5mm〜30mmの範囲で流し込み施工することが好ましい。
【0073】
セルフレベリング材スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして2mm〜5mmの高さまで薄く施工する場合は、前記スラリーを流し込み施工しながら、スパイクローラー、とんぼ、コテなどを用いてスラリーを均等に広げる操作を行うことが好ましい。前記の操作を行うことにより、床スラブ全体に高い水平レベル精度を有する薄層のセルフレベリング材スラリー硬化体層を形成することができる。
セルフレベリング材スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして5mm〜70mmの高さまで厚く施工する場合には、前記スラリーを流し込み施工しながら、とんぼなどを用いてスラリーが均等に広がるように補助的な操作を行うことが好ましい。前記の操作を行うことにより、床スラブ全体に高い水平レベル精度を有する厚層のセルフレベリング材スラリー硬化体層を形成することができる。
【0074】
次に、本発明で用いる塗り床材について説明する。
本発明で用いる塗り床材は、一般にプライマー層、ベースコート層およびトップコート層から構成される。また、目的・用途によってはプライマー層とベースコート層とを用いて構成され、さらにプライマー層を設けたのち、ベースコート層およびトップコート層をそれぞれ複数層設けて構成される。
本発明で用いる塗り床材の種類としては、要求される特性に応じて有機質系塗り床材又は無機質系塗り床材から適宜選択して用いることができる。
【0075】
本発明で用いる塗り床材プライマー層は、塗り床材の下地との付着性向上や下地への吸い込み防止、塗り床材のピンホール防止のために用いられる。
本発明で用いる有機質系塗り床材用プライマーは、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系とセメントの混合物、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系とセメントの混合、無溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系とセメントの混合、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系等を用いることができる。また、用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材を含有した塗り床材用プライマーを用いることができる。
本発明で用いる無機質系塗り床材用プライマーは水形エチレン酢酸ビニル樹脂系、水形アクリル樹脂系、溶剤形エポキシ樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系等を用いることができる。
本発明で用いる塗り床材用プライマーの施工は、各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、はけやローラーを適宜選択して使用することが出来る。
【0076】
本発明で使用する塗り床材ベースコート層は、塗り床材の耐久性、機械的強度、弾性等の主な機能を付与するために用いられる。
本発明で用いる有機質系塗り床材用ベースコートは、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニルエステル樹脂系等を用いることができる。また用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材さらには細骨材を含有した有機質系塗り床材用ベースコートを用いることができる。
【0077】
本発明で用いる無機質系塗り床材用ベースコートは、ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、超速硬セメント、特殊速硬形セメントおよびアルミナセメントからなる1種あるいは2種以上を組み合わせたセメント質、およびエチレン酢酸ビニル、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリル、エポキシ等の合成樹脂エマルションからなる1種あるいは2種以上を組み合わせた樹脂質から構成される塗り床材用ベースコートを用いることができる。また、用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材を含有した無機質系塗り床材用ベースコートを用いることができる。
本発明で用いる塗り床材用ベースコートの施工は各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、コテ、ローラーあるいははけを適宜選択して使用することが出来る。
【0078】
本発明で用いる塗り床材トップコート層は、耐候性、耐汚染性、防滑性あるいはつや消し仕上げ等のベースコート層の保護や各種機能を付与することを目的として用いられる。
本発明で用いる有機質系または無機系の塗り床材用トップコートとしては、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニルエステル樹脂系等から選ばれる1種又は2種以上のトップコートを適宜選択し、1層又は2層以上施工して用いることができる。
本発明で用いる塗り床材用トップコートの施工は、各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、コテ、ローラーあるいははけ等を適宜選択して使用することが出来る。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0080】
(1)セルフレベリング材スラリーの評価:
評価に用いるセルフレベリング材スラリーは、セルフレベリング材と、水とを混練して調製した混練直後のセルフレベリング材スラリーを用いる。
【0081】
・セルフレベリング性(自己流動性):フロー値及びSL値
フロー値は、JASS・15M−103に準拠して測定した。すなわち、厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、練り混ぜたセルフレベリング材スラリーを充填した後、パイプを引き上げた。セルフレベリング材スラリーの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とした。
【0082】
SL値の測定には、図1に示すSL測定器を使用した。SL測定器は、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレール及びレールの先端より長さ150mmのところに堰板を設けた構造である。混練直後のセルフレベリング材スラリーを、レールの先端と堰板との間に所定量満たすことにより、セルフレベリング材スラリーを成形した。セルフレベリング材スラリー成形直後に堰板を引き上げて、セルフレベリング材スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からセルフレベリング材スラリーの流れの先端の最も標点に近い部分(最短部)までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とした。同様に成形後5分後に堰板を引き上げて、セルフレベリング材スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からセルフレベリング材スラリーの流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL5とした。
【0083】
(2)水引き時間
調製したセルフレベリング材スラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込んだ後、凝結開始に伴いセルフレベリング材スラリー表面水が消失(光の反射が失われ曇った状態)した時間を水引き時間とした。セルフレベリング材スラリー硬化体表面の状態は、目視により評価した。
【0084】
(3)鏝押え作業性評価
上記の水引き時間を測定したサンプルを用いて、コテを使用した鏝押え作業性を評価した。セルフレベリング材スラリー表面の水引き後、コテを試料表面に押し当てた時に硬化したセルフレベリング材スラリーがコテに付着しなくなる時間を鏝押え作業開始時間とし、その後の作業性を評価した。コテ押さえの繰り返しにより水浮きが多く発生する場合は鏝押え作業が容易となり、高得点となる。評価は5段階で、5点が最も高い評価とした。なお、鏝押え作業性終了時間は、スラリー硬化体表面のショア硬度=15とし、鏝押え作業開始から鏝押え作業終了の時間を鏝押え作業可能時間とした。なお、コテ押えの繰返しによる水浮きとは、モルタル硬化体層の表層を、繰返しコテ押えを行った時に、モルタルが遊離水を含んだ状態になることをいう。
【0085】
(4)スラリー硬化体表面のショア硬度
セルフレベリング材スラリー打設後からの所定の経過時間において、硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計の読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とした。
【0086】
(5)硬化体表面の仕上り状態
上記サンプルにおいて、硬化後材齢24時間で、鏝押えを加えていない部分の表面仕上りを目視などで観察することで評価した。評価は5段階評価とし、5点が最も高い評価とした。
(6)塗り床材との接着強さの測定法
NNK−005:2000の塗り床材の付着強さ試験方法に準拠して測定する。セルフレベリング材スラリー流し込み後から材齢14日後のセルフレベリング材スラリー硬化体層の上に、塗り床材用プライマー層を設け、その上にセメント系塗り床材を塗布し硬化体層を設ける。材齢7日後のセメント系塗り床材硬化体層に付着面が40mm×40mmの正方形の鋼製ジグを接着剤にて5ヶ所に接着させる。接着剤が硬化した後、鋼製ジグの周囲に沿ってセルフレベリング材スラリー硬化体層に達するまでダイヤモンドカッターなどで切り込みを入れ、鋼製ジグを建研式接着試験機に取り付て徐々に荷重を加え、破断するまで加圧を行なう。破断するまでの最大荷重を最大引張り荷重とする。塗り床材との接着強さは数式(4)に従い算出する。
【0087】
塗り床材との接着強さ(N/mm)=T/1600 ・・・ 数式(4)
(但し、T:最大引張り荷重(N)である。)
5ヶ所の平均値を塗り床材との接着強さとし、接着強さを評価する。
【0088】
実施例及び比較例の原料は、以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(旭硝子社製、ブレーン比表面積3600cm/g)。
2)水酸化カルシウム微粉末(宇部マテリアルズ社製、ブレーン比表面積16020cm/g、平均粒子径=7.0μm、粒子径分布を表3に示す。なお、粒子径の測定は、下記のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて行った。)。
一般名 : レーザー回折・散乱式粒度分布測定器
メーカー: 株式会社 セイシン企業
製品名 : レーザー・マイクロン・サイザー
型式 : LMS−30
3)フライアッシュ(常磐フライアッシュ、常磐火力産業製、ブレーン比表面積3660cm/g、平均粒子径=14.6μm、粒子径分布を表3に示す。なお、粒子径の測定は、水酸化カルシウム微粉末の場合と同様に、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて行った。)。
4)細骨材
・珪砂:6号珪砂。
5)流動化剤
・流動化剤A:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・流動化剤B:リグニンスルホン酸カルシウム系流動化剤(BASFポゾリス社製)。
6)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
7)凝結遅延剤
・グルコン酸ナトリウム(富田製薬社製)。
・ポリリン酸ナトリウム(オルガノ社製)。
・トリポリリン酸ナトリウム(太洋化学工業社製)。
8)増粘剤:ヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズ65MP−400、松本油脂社製)。
9)消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(ADEKA社製)。
10)樹脂粉末:酢酸ビニルエステル/バーサチック酸ビニルエステルの共重合体(ニチゴー・モビニール社製)。
11)塗り床材A
・塗り床材用プライマーA : ABC商会社製、スムースコートプライマー。
・塗り床材用ベースコートA : ABC商会社製、スムースコート。
・塗り床材用トップコートA : ABC商会社製、ニューキュアコートF。
12)塗り床材B
・塗り床材用プライマーB : 富士丸化学工業社製、インフィックスEF。
・塗り床材用ベースコートB : 富士丸化学工業社製、オンクリート73R。
・塗り床材用トップコートB : 富士丸化学工業社製、オンクリート#58。
【0089】
(使用器具、機材)
・左官鏝 : アローライン工業社製、シゴキ鏝
・研磨機 : ライナックス社製、研磨機
【0090】
<実施例1、比較例1及び2>
表1に示す水硬性成分、細骨材、流動化剤、無機成分、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練してセルフレベリング材を調製し、さらに水390gを加えて3分間混練して、セルフレベリング材スラリーを得た。セルフレベリング材及びセルフレベリング材スラリーの調製及び養生は、全て、温度20℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
【0091】
上記の調製、混練及び養生によって得られたセルフレベリング材スラリーを用いて、セルフレベリング性、水引き時間、鏝押え性、ショア硬度及び硬化体表面仕上り状態の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
比較例1に示すように、セルフレベリング材に対して水酸化カルシウム微粉末とフライアッシュ微粉末とが共に無添加の場合には、セルフレベリング材スラリーの凝結開始に伴う水引きが遅く、水引き後のセルフレベリング材スラリーの表層も脆弱なため、硬化材料が剥離付着することで鏝押え作業を行うことは困難であった。
【0097】
また、比較例2に示すように、セルフレベリング材に対して水酸化カルシウム微粉末のみ添加し、フライアッシュ微粉末が無添加である場合には、セルフレベリング材スラリーの凝結が速く水引きまでの時間は早く、鏝押え作業も早期に可能となるが、鏝押え作業が可能な時間が30分間と短く、実用上充分な作業時間を確保できなかった。
【0098】
これらに対して実施例1に示すように、水酸化カルシウム微粉末とフライアッシュ微粉末とが共に適切な添加量であった場合には、凝結促進効果が高く早期に鏝押え作業が実施可能となるとともに、実現場での鏝押え作業に充分な時間(55分)を確保することができた。
【0099】
[実施例2〜4、参考例1]
(セルフレベリング材のスラリー調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、実施例1のセルフレベリング材100質量部と水23.5質量部を配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、セルフレベリング材スラリーを調製した。
【0100】
(塗り床材Aの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材の粉体部(1.5kg/m2)と液部(0.5kg/m2)とを配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材Aを調製した。
【0101】
(塗り床材Bの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、プライマーA剤とB剤とを質量比で2:1の割合で混錬してプライマーAを調製した。塗り床材の基材と硬化剤と6号砂とを、質量比で4:4:1の割合で混合した後、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材Bを調製した。トップコートの基剤と硬化剤とを質量比で8:1の割合で混練して表面仕上げ材Bを調製した。
【0102】
(供試体調整方法)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS・A5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板4枚にセルフレベリング材用プライマーの3倍液(原液90g/mに水を180g/m加える)を塗布した。
プライマー造膜後、セルフレベリング材スラリーを10mmになるよう流し込んだ。
セルフレベリング材スラリー硬化体層表面のショア硬度が10に達した時点(材齢1.5〜2時間)で、実施例3および実施例4のサンプルについて金ゴテを用いて鏝押え処理を行なった。
さらに材齢14日間養生した実施例2および実施例4のセルフレベリング材スラリー硬化体サンプル表面の研磨処理を行ない、表面処理の条件を変えたセルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。
なお、セルフレベリング材スラリー硬化体層表面に、金ゴテを用いて鏝押え処理を行わず、硬化体表面の研磨処理も行わないものを参考例とした。
スラリー硬化体の表面に処理を行っていないもの、コテ押え処理したもの、研磨処理したもの、コテ押え処理と研磨処理したもの、4種類のサンプルの上面に、塗り床材Aと塗り床材Bとをサンプルの左半分と右半分に施工した。
塗り床材の施工では、それぞれの塗り床材用のプライマーを塗布・乾燥した後、塗り床材のベースコートを厚さが1mmになるように金ゴテで塗り付け、塗り床材が硬化した後に表面仕上げ材(100g/m)を短毛ローラー刷毛で塗り付け、材齢7日間養生した。
(試験手順)
材齢7日後の2種類の塗り床材を施工した硬化体層に、付着面が40mm×40mmの正方形の鋼製ジグをエポキシ系接着剤にてそれぞれ5ヶ所接着した。接着剤が硬化した後、鋼製ジグの周囲に沿ってセルフレベリング材スラリー硬化体層に達するまでダイヤモンドカッターなどで切り込みを入れ、鋼製ジグを建研式接着試験機に取り付て徐々に荷重を加え、破断するまで加圧を行なった。
【0103】
セルフレベリング材スラリー硬化体の材齢1日と材齢14日のショア硬度、コンクリート板とセルフレベリング材スラリー硬化体と塗り床材硬化体とからなるコンクリート構造体に関する接着強度の評価結果を表3に示す。
【0104】
【表5】

【0105】
(1)セルフレベリング材のスラリー硬化体表面に鏝押え処理と研磨処理の両方の処理行わなかった参考例の場合、材齢1日でショア硬度49を発現しており、材齢14日ではショア硬度61と高い硬度が得られた。また、セメント系及びエポキシ系の塗り床材を施工した場合の接着強さについては、いずれの塗り床材に対しても1N/mm以上の高い接着強度が得られた。
(2)セルフレベリング材のスラリー硬化体表面に鏝押え処理を行った場合、材齢1日のショア硬度は無処理の場合と比較して24%以上向上し、材齢14日のショア硬度についても無処理の場合と比較して20%近く向上した。
(3)セルフレベリング材のスラリー硬化体表面に鏝押え処理、研磨処理、又は、鏝押え処理と研磨処理の両方の処理を行った実施例2〜4の場合、セメント系及びエポキシ系の塗り床材を施工した場合の接着強さについては、無処理の参考例の場合と比較して54%〜74%接着強度が向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図2】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図3】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図4】コンクリート床にセルフレベリング材を施工し、塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図5】SL測定器を用いて水硬性スラリーのセルフレベリング性を評価する概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0107】
10:コンクリートスラブ
11:コンクリート床
12:塗り床材
13:プライマー層
14:ベースコート層
15:トップコート層
16:塗り床材を施工した床面
17:小さな凹凸
18:微妙な傾斜
19:凹部
20:凸部
30:コンクリートスラブ
31:コンクリート床
32:小さな凹凸
33:微妙な傾斜
34:セルフレベリング材用プライマー
35:セルフレベリング材スラリー
36:セルフレベリング材スラリー硬化体
37:塗り床材用プライマー層
38:セメント系塗り床材
39:セメント系塗り床材の硬化体層
40:表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建築物又は新設建築物のコンクリート床の上面に、セルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材硬化体層を設ける工程とを含むコンクリート床構造体の施工方法であって、セルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程は、建築物のコンクリート床の上面に、セルフレベリング材用プライマー層を設ける工程と、前記プライマー層上面にセルフレベリング材スラリーを打設して硬化させてセルフレベリング材スラリー硬化体層を設ける工程、前記セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面を鏝押え処理及び/又は研磨処理する工程とを含み、塗り床材硬化体層を設ける工程は、鏝押え処理及び/又は研磨処理したセルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材用プライマー層を設ける工程と、塗り床材用プライマー層の上面に塗り床材用ベースコートを施工して硬化させて塗り床材用ベースコート層を設ける工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項2】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が1〜15の間に、硬化体層の表面を鏝押え処理することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項3】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が35〜80の間に、硬化体層の表面を研磨処理することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項4】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が1〜15の間に、硬化体層表面を鏝押え処理し、さらに、スラリー硬化体層の表面のショア硬度が35〜80の間に硬化体層の表面を研磨処理することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項5】
セルフレベリング材は、アルミナセメントを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項6】
セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、水酸化カルシウム微粉末と、フライアッシュ微粉末とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項7】
塗り床材は、樹脂系塗り床材又はセメント系塗り床材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項8】
塗り床材硬化体層を設ける工程は、塗り床材用ベースコート層の上面に、さらに塗り床材用トップコートを塗布して乾燥させて塗り床材用トップコート層を設ける工程と含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の施工方法によって得られる塗り床仕上げコンクリート床構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−215812(P2009−215812A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62028(P2008−62028)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】