説明

コンバインの油圧回路

【課題】一台の油圧ポンプから吐出する圧油を分流弁で走行油圧変速装置と刈取油圧変速装置に供給する油圧回路構成とし、分流弁が故障しても走行を支障なく行えるようにする。
【解決手段】走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行うメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設け、サブ油圧ポンプ(22)の圧油を変速分流弁(23)で走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に分配し、サブ油圧ポンプ(22)から変速分流弁(23)に圧油を送る変速供給管路(41)と変速分流弁(23)から走行無段変速回路(1)に圧油を送る走行分配管路(43)とを所定圧で解放作動する緊急チェック弁(40)を介した緊急路(46)で連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインにおいて刈取装置の昇降制御や機体前後左右の安定制御に用いられる油圧回路の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインの油圧回路は、例えば、下記特許文献1や特許文献2に記載されている如く、走行ブレーキや旋回ブレーキを制御する走行油圧回路と刈取装置を昇降制御する刈取昇降油圧回路と機体のローリングとピッチングを制御する機体制御油圧回路と穀粒排出用オーガの昇降を制御するオーガ昇降油圧回路等の多くの油圧回路で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−206907号公報
【特許文献2】特開2009−118787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記コンバインの油圧回路では、走行油圧変速装置と刈取油圧変速装置に一台の油圧ポンプから吐出される圧油を分流弁で適宜に分配して供給しているので、分流弁が故障すると走行変速と刈取変速に支障となる。例えば、走行油圧変速装置への圧油供給が低下すると走行速度が低下したり変速が行えなくなったりする。
【0005】
そこで、本発明では、コンバインにおいて、一台の油圧ポンプから吐出する圧油を分流弁で走行油圧変速装置と刈取油圧変速装置に供給する油圧回路構成で、分流弁が故障しても走行を支障なく行えるようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行うメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設けたコンバインの油圧回路において、サブ油圧ポンプ(22)の圧油を変速分流弁(23)で走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に分配し、サブ油圧ポンプ(22)から変速分流弁(23)に圧油を送る変速供給管路(41)と変速分流弁(23)から走行無段変速回路(1)に圧油を送る走行分配管路(43)とを所定圧で解放作動する緊急チェック弁(40)を介した緊急路(46)で連通したことを特徴とするコンバインの油圧回路とした。
【0007】
この構成で、変速分流弁(23)の流れが悪くなって変速供給管路(41)の圧が上昇すると緊急チェック弁(40)が作動して緊急路(46)から走行無段変速回路(1)に圧油を供給して走行変速を支障なく行える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記変速分流弁(23)と緊急チェック弁(40)を、一体形成される分配油圧ブロック(45)内に設けたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインの油圧回路とした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によると、変速分流弁(23)が作動不良となっても、緊急路(46)を通って走行無段変速回路(1)に圧油が供給されて走行が行え、圃場から修理場まで移動して修理が可能になり、コンバインの作業能率を高めることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、上記請求項1に記載の発明の効果を奏するうえに、緊急路(46)を分配油圧ブロック(45)内に設けているので、配管が不要になり、全体の油圧配管構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施例を示すコンバインの油圧回路図である。
【図2】本発明実施例を示すコンバインの油圧回路の部分拡大図である。
【図3】別実施例を示す油圧回路の部分拡大図である。
【図4】分配油圧ブロックの拡大断面図である。
【図5】リリーフ弁の側断面図である。
【図6】別実施例を示すリリー弁の側断面図である。
【図7】別実施例を示すリリー弁の側断面図である。
【図8】油圧シリンダの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
コンバインの油圧制御回路は、図1に示す如く、油タンク10から走行無段変速回路1を介してメイン油圧ポンプ11で供給される圧油を第一減圧弁12で所定の圧にして、パイロット弁24から走行クラッチ操作油圧回路Tに向かう流れと、パイロット切換弁5からメイン油圧回路Wに向かう流れに分岐する。
【0013】
パイロット弁24を通って走行クラッチ操作油圧回路Tに向かう圧油は、左第一絞り8Lを介して左パイロット圧切換弁16Lへ向かう流れと右第一絞り8Rを介して右パイロット圧切換弁16Rへ向かう流れに分岐する。
【0014】
左パイロット圧切換弁16Lでは、左第二絞り7Lを通って左電磁比例弁17Lへ供給され、さらに左走行ブレーキシリンダ18Lへ向かう流れと、左電磁比例弁17Lの供給側の圧油を左クラッチ切換電磁弁14Lに向かう流れに切換える。左走行ブレーキシリンダ18Lの戻り油は、左電磁比例弁17Lから油タンク10へ戻される。
【0015】
左クラッチ切換電磁弁14Lには、前記左第一絞り8Lを通った二次圧力の圧油が左チェック弁9Lを通って供給される。左クラッチ切換電磁弁14Lでは、左操向クラッチシリンダ15Lの一方へ圧油が供給されたり、左パイロット圧切換弁16Lのパイロット圧として左パイロット圧切換弁16Lを切り換えて前記左第二絞り7Lを通った圧油が左操向クラッチシリンダ15Lの他方へ供給されたりする。
【0016】
以上の左パイロット圧切換弁16Lと左電磁比例弁17Lと左クラッチ切換電磁弁14Lと左チェック弁9Lが一体の左油圧制御ブロック35Lとして組み込まれている。
また、右パイロット圧切換弁16Rでは、右第二絞り7Rを通って右電磁比例弁17Rへ供給されさらに右走行ブレーキシリンダ18Rへ向かう流れと、右電磁比例弁17Rの供給側の圧油を右クラッチ切換電磁弁14Rに向かう流れに切換える。右走行ブレーキシリンダ18Rの戻り油は、右電磁比例弁17Rから油タンク10へ戻される。
【0017】
右クラッチ切換電磁弁14Rには、前記右第一絞り8Rを通った二次圧力の圧油が右チェック弁9Rを通って供給される。右クラッチ切換電磁弁14Rでは、右操向クラッチシリンダ15Rの一方へ圧油が供給されたり、右パイロット圧切換弁16Rのパイロット圧として右パイロット圧切換弁16Rを切り換えて前記右第二絞り7Rを通った圧油が右横向クラッチシリンダ15Rの他方へ供給されたりする。
【0018】
以上の右パイロット圧切換弁15Rと右電磁比例弁17Rと右クラッチ切換電磁弁14Rと右チェック弁9Rが一体の右油圧制御ブロック35Rとして組み込まれている。
なお、第一減圧弁12の圧油供給側に電磁開閉バルブを介して油タンク10に通じるドレン油路を設け、走行系回路Tと作業系回路Wの油圧シリンダを使用しない場合にこの電磁開閉バルブを開いて圧油を直ちに油タンク10に戻すようにすれば、メイン油圧ポンプ11の駆動負荷を軽減する。なお、刈取昇降シリンダ28aとオーガ昇降シリンダ28bと左ローリングシリンダ28cと右ローリングシリンダ28dとピッチングシリンダ28eを使用する場合には、前記電磁開閉バルブを閉じて圧油を第一減圧弁12の圧力に保持する。
【0019】
メイン油圧ポンプ11から出た圧油がパイロット切換弁5と電磁切換弁6を介して比例流量制御弁26に送られ、オーガ昇降シリンダ28bと左ローリングシリンダ28cと右ローリングシリンダ28dとピッチングシリンダ28eを制御するメイン油圧回路Wに流れる。
【0020】
電磁切換弁6は、前記走行クラッチ操作油圧回路Tへの圧油供給と刈取・オーガ昇降制御と機体のローリング・ピッチング制御を切り換え、第一パイロット弁19と第二パイロット弁20に送られる。
【0021】
パイロット切換弁5から圧油は、手動切換弁21を介して比例流量制御弁26に送られる。
比例流量制御弁26に送られた圧油は、上昇用切換弁26a、下降用切換弁26b、リリーフ弁26eと、これら上昇用切換弁26aと下降用切換弁26bをパイロット圧によって可変調整する上昇用調整弁26cと下降用調整弁26dとにより制御された制御流の一方が第一パイロットチェック弁30aを介して刈取昇降シリンダ28aへ送油可能に接続すると共に、比例流量制御弁26の制細流の他方が第二パイロットチェック弁30bを介してオーガ昇降シリンダ28bへ送油可能に接続する。
【0022】
パイロット切換弁5から手動切換弁21を介して送られる圧油が、比例流量制御弁26を介して左ローリング切換電磁弁27cと右ローリング切換電磁弁27dとピッチング切換電磁弁27eへの車体制御回路に送られる。この車体制御回路には車体制御用リリーフ弁54を設けて供給圧油の圧力安定を行っている。
【0023】
手動切換弁21は、油圧回路のトラブル時に手動で中立にすると車体のローリングやピッチングが人力で操作可能になるが、その構造は、図2に示す如く、中立時に圧力供給側のオイル供給を遮断するようにしている。
【0024】
左ローリング切換電磁弁27cへ送られた圧油は、第三パイロットチェック弁30cと第二チェック付き絞り弁29cを介して左ローリングシリンダ28cへ送油可能に接続し、右ローリング切換電磁弁27dへ送られた圧油は、第四パイロットチェック弁30dと第三チェック弁付き絞り弁29dを介して右ローリングシリンダ28dへ送油可能に接続し、ピッチング切換電磁弁27eへ送られた圧油は、第五パイロットチェック弁30eと第五チェック付き絞り弁29eを介してピッチングシリンダ28eへ送油可能に接続している。
【0025】
なお、図3に示す如く、電磁切換弁6から第一パイロット弁19と第二パイロット弁20の間に切換電磁弁52を設けると、オーガ昇降シリンダ28bの下げ動作時にも刈取昇降シリンダ28aを昇降動作できる。
【0026】
また、この回路構成で、第二パイロット弁20への圧油供給路に刈取・オーガ用リリーフ弁53を設けることで、左ローリングシリンダ28c等車体制御回路の高圧が刈取昇降シリンダ28aとオーガ昇降シリンダ28bに加わることを防げる。
【0027】
走行無段変速回路1内のサブ油圧ポンプ22から吐出する圧油が変速供給管路41から変速分流弁23に供給されて分配され、変速供給管路41から圧油の略7割が走行無段変速回路1に送られ、残り3割の圧油が刈取変速管路42から刈取無段変速回路2に送られる。
【0028】
図2に示す如く、変速供給管路41と走行分配管路43は緊急チェック弁40を介して緊急路46で連結され、変速分流弁23が詰まったり流量が減少したりして変速供給管路41の圧が高まると緊急チェック弁40が開き、緊急路46から直接走行無段変速回路1に圧油を送って走行変速を可能にする。
【0029】
また、緊急チェック弁40は、図4に示す如く、変速分流弁23と第七チェック弁25を収納する鋳鉄製の分配油圧ブロック45内に収納され、配管する必要が無い。
前記の刈取昇降シリンダ28aとオーガ昇降シリンダ28bを制御する比例流量制御弁26のリリーフ弁26eの圧油リターン流路に第六調圧チェック弁34でクラッキング圧をかけて、第七チェック弁25を介して補給油路70から刈取無段変速回路2の供給路に合流している。この第六調圧チェック弁34のクラッキング圧は、刈取用油圧変速チャージ回路2のチャージ圧よりも低く設定する。(例えば、チャージ圧5kgf/cmに対してクラッキング圧を2kgf/cmとする。)
第六調圧チェック弁34と第七チェック弁25は、手動切換弁21を組み込む油圧ブロックに一体的に組みこんでも良い。
【0030】
図5は、第一パイロット弁19や第二パイロット弁20の断面構造を示している。バルブボデー47内で流路を切り換えるスプール48の第一端面プレート50aをバネ49で弾発している。この第一端面プレート50aをスプール48にカシメ加工で取り付けることで、スプール48の切削加工部分を少なくして製作コストを低減している。
【0031】
図6は、パイロット弁を油圧ブロック51内に設けた例で、スプール48の端部にカシメ加工で取り付けた第二端面プレート50bをバルブボデー47の端面47aに当てて移動規制している。
【0032】
図7は、リリーフ弁の断面図を示し、バルブボデー61の内部で、リリーフ孔66を設けたリリーフ座64に対してスチールボール65をバネ63でボール受け62を弾発しているが、リリーフ座64のバルブボデー61への差し込み部全体の約半分の一部差し込み部Lをバルブボデー61の差し込み孔径との径差を僅かにしている。この構造で、オーバーライドが良くリリーフ鳴きが生じない。
【0033】
図8は、サイドクラッチ等を作動する油圧シリンダのピストンロッド55のシール構造を示している。ミッションケース59にシリンダヘッド56を嵌合し、このシリンダヘッド56に嵌合するピストンロッド55の出口側でシリンダヘッド56にダストシール60を嵌合し、シリンダヘッド56の端面とダストシール60を座金57で受け、この座金57をC型止め輪58でミッションケース59に固定している。この構造で、シリンダヘッド56にダストシール60を固定するC型止め輪が不要となり、コストダウンとなる。
【0034】
走行無段変速回路1の閉回路を流れるオイルを車体のオイルサスペンションや座席のオイルサスペンション或いはブレーキペダルのオイル支持部に供給して振動の吸収に利用出来る。
【符号の説明】
【0035】
1 走行無段変速回路
2 刈取無段変速回路
11 メイン油圧ポンプ
22 サブ油圧ポンプ
23 変速分流弁
40 緊急チェック弁
41 変速供給管路
43 走行分配管路
45 分配油圧ブロック
46 緊急路
70 補給油路
T 走行クラッチ操作油圧回路
W メイン油圧回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行クラッチ操作油圧回路(T)と機体姿勢制御および刈取・オーガ昇降制御を行うメイン油圧回路(W)とに圧油を送るメイン油圧ポンプ(11)を設け、走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に圧油を送るサブ油圧ポンプ(22)を設けたコンバインの油圧回路において、サブ油圧ポンプ(22)の圧油を変速分流弁(23)で走行無段変速回路(1)と刈取無段変速回路(2)に分配し、サブ油圧ポンプ(22)から変速分流弁(23)に圧油を送る変速供給管路(41)と変速分流弁(23)から走行無段変速回路(1)に圧油を送る走行分配管路(43)とを所定圧で解放作動する緊急チェック弁(40)を介した緊急路(46)で連通したことを特徴とするコンバインの油圧回路。
【請求項2】
前記変速分流弁(23)と緊急チェック弁(40)を、一体形成される分配油圧ブロック(45)内に設けたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインの油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−112179(P2011−112179A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270247(P2009−270247)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】