説明

コーン加工品の製造方法

【課題】 加工処理工程におけるビタミンCの損失が抑制された、栄養価にすぐれたコーン加工品及びそれを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 コーンにβ−グルコシダーゼを作用させてコーン加工品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工処理工程におけるビタミンCの損失が抑制された、栄養価に優れたコーン加工品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にコーンパウダー、コーンペースト等のコーン加工品は、原料コーンを収穫後、剥皮、脱粒、粉砕、ブランチングなどの処理をすることにより製造される。コーンペーストは、ブランチングにより加熱処理されたペースト状態のものであり、コーンパウダーは、コーンペーストを更にドラムドライヤー等で乾燥させたものである。これらコーンペーストやコーンパウダーは、良好な風味や栄養価の高さから、スープ類、ソース類、菓子類等の幅広い用途に供されている。
コーンペースト、コーンパウダー等のコーン加工品の加工法については、風味改善や分散性向上を目的として様々な改良が検討されている。
【0003】
例えば、コーンカーネルを水分の存在下に90℃以上に加熱し、次いでα−アミラーゼによりその至適温度において酵素処理した後、乾燥粉末化処理することを特徴とするコーンパウダーの製造方法が提案されている(特許文献1)。この方法により、分散性に優れ、かつ、風味が良好なコーンパウダーが得られる。
【0004】
また、コーンカーネル或いはコーンペーストをクッキング・バリューが18〜60となるように加熱処理後、真空凍結乾燥或いは真空ドラムドライヤー乾燥させ粉末化しn−ヘキサナール含量2.0ppm未満とすることを特徴とするコーンパウダーの製造方法が提案されている(特許文献2)。この方法により、茹でとうもろこし風味の付与された風味良好なコーンパウダーが得られる。
【0005】
また、スイートコーン原料を圧力容器で110℃〜140℃に加圧蒸煮することを特徴とするスイートコーン原料の処理法が提案されている(特許文献3)。これにより、スイートコーン原料に焼きとうもろこし風味を付与することができる。
【0006】
酵素を用いる方法としては、コーンもしくはコーン含有材料を、プロテアーゼ単独、または、プロテアーゼとアミラーゼまたはセルラーゼを併用し、酵素処理することを特徴とするコーンの風味改善方法が提案されている(特許文献4)。
【0007】
これらの方法では、風味の改善されたコーン加工品が得られるが、コーンの栄養価に着目したコーン加工法に関する検討はなされていないのが現状である。
近年、健康志向の向上により、農作物本来のもつ栄養価をそのまま体に取り入れたいというニーズが高まりつつある。
一方で、コーン加工品の製造においては、その処理工程、特にブランチングや乾燥といった加熱工程を経ることにより、コーンのビタミンCが減少するという課題がある。従って、加熱処理後もコーン本来のもつビタミンCを出来るだけ多く維持したコーン加工品が望まれている。
【0008】
一方、β−グルコシダーゼは、そのアグリコンと糖の結合を分解する働きを利用し、種々の植物原料をβ−グルコシダーゼ処理することにより、植物原料中のテルペノイド配糖体、フラボノイド配糖体およびその他の機能性成分の配糖体をアグリコンとし、より健康機能性効果を向上させる検討が行われている(特許文献5、特許文献6)。
また、植物原料に対してβ−グルコシダーゼ処理を行うことで香味を増強する検討も多く行なわれおり、例えば、乾燥玉ねぎなどの乾燥食品素材をβ−グルコシダーゼ処理することによる香味増強方法が提案されている(特許文献7)。また、植物全般の香気前駆体としての配糖体の利用に関して、植物の香気配糖体からβ‐グルコシダーゼの加水分解反応によって香気化合物を製造する方法が提案されている(特許文献8)。
【0009】
しかしながら、上記β−グルコシダーゼを用いた検討は、植物原料中に存在する配糖体をアグリコンとすることにより健康機能性効果を高めたり、香味を増強することを目的として行われているものであり、植物本来のもつ栄養価がその加工処理工程において損なわれることを防止するために行われているものとは異なるものである。また、酵素処理の対象物もタマネギやクコの実、乾燥食品素材などであり、それぞれの対象物に特有の課題の解決に対するものである。そのため、コーンに対してβ−グルコシダーゼ処理を施す検討は未だなされていない。
【0010】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−141287号公報
【特許文献2】特開2005−176683号公報
【特許文献3】特開昭58−56648号公報
【特許文献4】特開昭60−19461号公報
【特許文献5】特開2008−201763号公報
【特許文献6】特開2008−74844号公報
【特許文献7】特開2009−153480号公報
【特許文献8】特開平09−028389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、加工処理工程におけるビタミンCの損失が抑制された、栄養価にすぐれたコーン加工品及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、コーンにβ−グルコシダーゼを作用させることにより、コーン加工処理工程におけるビタミンCの損失を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
[1]コーンに0〜50℃の温度でβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とするコーン加工品の製造方法。
[2]コーン1gあたり0.01〜100Uのβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とする上記[1]に記載のコーン加工品の製造方法。
[3]β−グルコシダーゼを5分〜10時間作用させることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のコーン加工品の製造方法。
[4]コーンカーネルにβ−グルコシダーゼを添加したのち、これを粉砕し、25〜40℃で15分〜5時間β−グルコシダーゼを作用させることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のコーン加工品の製造方法。
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の方法により製造されたコーン加工品。
[6]コーン加工品が、コーンパウダーまたはコーンペーストである上記[5]に記載のコーン加工品。
[7]上記[5]又は[6]に記載のコーン加工品を含有する飲食品。
[8]飲食品がスープである上記[7]記載の飲食品。
[9]コーンに0〜50℃の温度でβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とするコーン中のビタミンCの安定化方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブランチングや加熱乾燥といった加熱工程を経てもビタミンCの損失が抑制された、栄養価に優れたコーン加工品の提供が可能となる。更には、該コーン加工品を利用した栄養価に優れた食品の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する
本発明で用いるβ−グルコシダーゼとは加水分解反応により、非還元末端のβ‐D‐グルコシル残基からβ−D−グルコースを遊離する酵素であり、β−D−グルコシドグルコヒドラーゼ、アミグダラーゼ、ゲンチオビアーゼ、セロビアーゼ等の異名がある。
β-グルコシダーゼとしては、動物、植物、微生物など種々の起源のものが知られているが、本発明においては、β−グルコシダーゼ活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、スイートアーモンド由来、アスペルギルス属由来、ペニシリウム属由来、トリコデルマ属由来、のものが知られているが、いずれも使用することができる。また、市販されている酵素製剤を使用することもできる。「β-Glucosidase from Almonds」という製品名で東京化成工業株式会社より販売されているアーモンド由来のβ−グルコシダーゼはその一例である。
【0016】
本発明において原料として用いるコーンは、未加熱のものであればよく、生のコーンや冷凍コーンを用いることができる。ここで未加熱とは、加熱処理を施していないことを意味する。また、コーンの産地、品種等には特に限定されない。原料コーンの形態は未加熱のものであれば特に限定されず、コーンを脱粒した生コーンカーネル、種皮を除いたもの、これらをミキサー等で粉砕した粉砕物などを用いることができる。また、未加熱のコーンに加えその他の副原料を含むものを原料として用いることができる。
【0017】
本発明のコーン加工品の製造方法において、β−グルコシダーゼをコーンに作用させる方法は、未加熱のコーンに作用させるのであればコーンの形態は特に限定されない。すなわち、生コーンカーネルに作用させてもよいし、種皮を除いたコーンカーネルに作用させてもよいし、コーンの粉砕物に作用させてもよい。酵素作用の効果、効率の点から、コーンの粉砕物に作用させることが好ましい。
【0018】
本発明において、コーンに作用させるβ−グルコシダーゼの添加量は、本発明の効果が得られれば特に限定はないが、原料コーン1g当たり、0.01U〜100U、好ましくは0.1U〜10U、更に好ましくは1〜10Uの範囲が適正である。β−グルコシダーゼが0.01U以下だと、反応が不完全になるという点で好ましくなく、逆に100U以上でも製造コストが上がり、またコーンの風味が低下するため好ましくない。ここで、β−グルコシダーゼの酵素活性については、p-ニトロフェニル‐β‐D‐グルコピラノシドを基質として、酸素加水分解によって、p‐ニトロフェノールを1分間に1μmol生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0019】
本発明のコーン加工品の製造方法においては、酵素を作用させる温度(インキュベート温度)を特定の範囲とすることが重要である。インキュベート温度は、0〜50℃、好ましくは15〜45℃、更に好ましくは25〜40℃である。インキュベート温度が55℃以上である場合は、ビタミンCの損失が抑制されず、β−グルコシダーゼによる効果が得られない。
【0020】
本発明において、インキュベート時間は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限定されないが、現実的な作用時間としては5分〜10時間であり、より好ましくは15分〜5時間である。反応時間が10時間以上だと、製造効率の観点およびコーンの風味低下の観点から好ましくない。
【0021】
本発明において、β−グルコシダーゼの効果を損なわない範囲で、他の酵素を併用することができる。併用することができる酵素としては、特に限定はないが、α‐アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ガラクトマンナーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ペクチナーゼ、リボヌクレアーゼ、デアミナーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、リパーゼ、ガラクトシダーゼ、ラクターゼ、タンナーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、キチナーゼ、インベルターゼ、イヌリナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ 等が挙げられる。
【0022】
本発明におけるコーン加工品の製造方法は、特定の温度でコーンにβ−グルコシダーゼを作用させること以外は、既知の方法により行いうる。例えば、コーンペーストは、原料コーンを収穫後、剥皮、脱粒、粉砕、ブランチングなどの処理をすることにより製造することができる。コーンパウダーは、コーンペーストを更にドラムドライヤー等で乾燥させることにより製造することができる。
【0023】
本発明において、コーン加工品とは原料コーンにブランチング等の加熱処理を施したものをいう。本発明におけるコーン加工品の形態としては特に限定されず、軸付きコーン、コーンカーネル、コーンペースト、コーンパウダーなどの形態が挙げられる。また、これらの冷凍品、容器包装詰加圧加熱品(レトルトパウチ品、缶詰品等)、乾燥品も含まれる。
【0024】
本発明のコーン加工品は、スープ類、ソース類、菓子類、飲料類等の飲食品に広く使用することができる。飲食品の形態は特に限定されず、例えば、粉末状、顆粒状、液状、ペースト状、固型状等が挙げられる。コーンの栄養を手軽に摂取することができるという観点からは、インスタントスープに使用することが好ましい。
【0025】
飲食品に用いる場合には、本発明のコーン加工品とともに、通常飲食品に使用される何れの原料も用いることができる。使用される原料としては、例えば、水、食塩、調味料、油脂、蛋白質、乳化剤、糖類、澱粉、増粘剤、乾燥野菜、フレーバー、乳、畜肉エキス、香辛料、酵母 等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
以下に実施例を挙げ、本発明について更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0027】
(インキュベート時間および温度がコーンペーストのビタミンC残存率に与える影響)
実施例1 コーンペーストの調整
原料コーンとしては、2010年8月に収穫した青森県産のスイートコーン 味来品種を脱粒し、試験に用いるまで−20℃で冷凍保存した冷凍生コーンカーネルを使用した。冷凍生コーンカーネルに所定量のβ−グルコシダーゼ(アーモンド由来、3064unit/mg、東京化成工業(株)製)を添加し、半解凍の状態で、LaboMilser(岩谷産業(株)製)にて1分間粉砕し、これを15gずつ量りとり、所定のインキュベート条件でインキュベートした後、87℃で1時間加熱し、コーンペーストを調整した。
【0028】
比較例1
実施例1において、β−グルコシダーゼを添加しない以外は実施例1と同様にしてコーンペーストを調整した。
【0029】
参考例1
実施例と同様の冷凍生コーンカーネルを、半解凍の状態で、LaboMilser(岩谷産業(株)製)にて1分間粉砕して得た粉砕直後(未加熱)のコーン粉砕物をコントロールとした。
【0030】
試験例1 ビタミンC含量の測定
実施例1、比較例1および参考例1で得られたコーンペーストおよびコーン粉砕物に対し、10%メタリン酸(関東化学(株))水溶液(w/v)を同量加えて攪拌し、遠心分離(9000×g、5分)した後、回収した上清を測定サンプルとした。ビタミンC含量は、ビタミンC定量キット((株)シマ研究所製)を用いて添付のマニュアルに従い測定した。具体的には、コーン中のビタミンCを酸化剤によって全てデヒドロアスコルビン酸に酸化させ、さらに加水分解によってケト体に変換した。これを、530 nm付近に吸収波長を持つ2,4‐ジニトロフェニルヒドラジンに誘導化し、比色定量により測定した。参考例1の粉砕直後(未加熱)のビタミンC含量を100%とし、コントロールに対するビタミンC残存率を算出した。
各測定サンプルのインキュベート時間、温度およびビタミンC残存率を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示した通り、インキュベート温度25℃、40℃でβ−グルコシダーゼ処理を施したコーンペーストでは、無処理のものと比べて全てのインキュベート時間においてビタミンC残存率が高く、加熱処理工程におけるビタミンC損失の抑制効果が認められた。一方、インキュベート温度が55℃の場合には効果は認められなかった。また、インキュベート時間が長いほど、ビタミンC損失の抑制効果は増大する傾向であった。
【0033】
(コーンパウダーにおけるビタミンC残存率の確認)
実施例2 コーンパウダーの調整
実施例1の方法で調整したコーンペーストを蒸気圧0.15 MPa、表面温度125℃、クリアランス幅0.3 mm、回転速度0.05rpmに設定したダブルドラムドライヤー(ジョンソンボイラ(株)、JM-T型)に供し、加熱乾燥した。これを粉砕し、30メッシュ(目開き500μm)の篩にかけ、コーンパウダーを調製した。
【0034】
比較例2
比較例1で調整したコーンペーストを使用する以外は、実施例2と同様にしてコーンパウダーを調整した。
【0035】
試験例2 ビタミンC含量の測定
実施例2および比較例2を用いる以外は試験例1と同様にしてビタミンC含量を測定し、ビタミンC残存率を算出した。
各測定サンプルのインキュベート時間、温度およびビタミンC残存率を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示した通り、コーンパウダーにおいても、β−グルコシダーゼ処理を施したものは、無処理のものと比べて全てのインキュベート温度・時間においてビタミンC残存率が高く、加熱処理工程におけるビタミンC損失の抑制効果が認められた。また、コーンに対するβ−グルコシダーゼの濃度を変化させた場合でも全ての濃度で効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、加工処理工程におけるビタミンCの損失が抑制された、コーン加工品及びその製造方法に関する。本発明のコーン加工品は、美味しさを損なうことなく、コーン本来の持つ栄養価を維持しているため、各種食品の原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンに0〜50℃の温度でβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とするコーン加工品の製造方法。
【請求項2】
コーン1gあたり0.01〜100Uのβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とする請求項1に記載のコーン加工品の製造方法。
【請求項3】
β−グルコシダーゼを5分〜10時間作用させることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーン加工品の製造方法。
【請求項4】
コーンカーネルにβ−グルコシダーゼを添加したのち、これを粉砕し、25〜40℃で15分〜5時間β−グルコシダーゼを作用させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコーン加工品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法により製造されたコーン加工品。
【請求項6】
コーン加工品が、コーンパウダーまたはコーンペーストである請求項5記載のコーン加工品。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のコーン加工品を含有する飲食品。
【請求項8】
飲食品がスープである請求項7の飲食品。
【請求項9】
コーンに0〜50℃の温度でβ−グルコシダーゼを作用させることを特徴とするコーン中のビタミンCの安定化方法。

【公開番号】特開2012−200197(P2012−200197A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67279(P2011−67279)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】