説明

ゴルフクラブシャフト

【課題】
シャフト長手方向への曲げ負荷による屈服座屈により、シャフトのしなり量が局部的に増え、エネルギーロスが生じるとともにタイミングが取り難くスイングが安定しなくなる。本発明は、かかる課題を解決するために、シャフトのポアソン比を位置に拠らず一定の範囲に収まるようにして、ヘッドスピードを高めるとともに、安定したスイングができるゴルフクラブシャフトの提供を目的とする。
【解決手段】
繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、少なくともグリップを取付けるシャフトのバット端Bより200mmの位置から、ヘッドを取付けるシャフトのチップ端Tより225mm迄の範囲Rにおいて、シャフトに静的な曲げ負荷を加えたときのシャフトの軸方向の歪をεa、シャフトの周方向の歪をεbとしたとき、シャフトのポアソン比σ=εb/εaの最小値と最大値の差が0.1以下であることを特徴とするゴルフクラブシャフトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトに関し、特にシャフト断面の変形量をシャフトの位置に拠らず一定の範囲に収めることでヘッドスピードを高めるとともにスイングを容易にした、繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフトには、ボール打撃までの遠心力、ヘッドの加速または減速による慣性力、ボール打撃時の衝撃力がかかると考えられる。これらの力のうち、ボール打撃に至るまでは遠心力と慣性力がかかり、シャフト断面を楕円形に変形させることが知られている。とくに、シャフト長手方向への曲げ負荷による圧縮側の変化が大きいと、シャフト断面の変形は屈服座屈という現象がおこる。屈服座屈は荷重と変形量は比例関係ではなく、荷重が増加するほど変形率が大きくなることが解っている。
【0003】
これは、ゴルフクラブシャフトは断面の変形がなければ荷重(曲げモーメント)に比例してしなるが、前述のようにシャフト断面が変形すると、変形点でシャフトのしなり量が局部的に増えるので、エネルギーロスが生じるとともにタイミングが取り難くスイングが安定しないことを示している。この問題を解消し、安定したスイングができるシャフトを提供するには、シャフト断面の変形が起きないようにするか、シャフトの位置に拠らずシャフト断面の変形量が一定になるようにすればよい。
【0004】
ところで出願人は、特許文献1においてシャフト断面の変形量を評価する方法として、シャフトのポアソン比を利用できることを開示した。すなわち、前述したスイングを容易にしたシャフトとは、ポアソン比が小さいか、シャフトの位置に拠らず一定のポアソン比を有するシャフトと言い換えることができる。
【0005】
また、繊維強化樹脂を積層して形成されるシャフト断面の変形を抑えるいくつかの試みがなされており、例えば特許文献2には、軽量性を維持しながら優れた曲げ強度、曲げ剛性、ねじれ強度、ねじれ剛性、つぶし強度、つぶし剛性を備え、ヘッドの返りがよく打感も良好なゴルフクラブシャフトの提供を目的として、つぶし破壊しやすいシャフト大径側、特にシャフト内径が9mm以上の大径側全領域を含むように、つぶし強度・つぶし剛性の向上に影響するフープ層を形成し、大径側のつぶし強度・つぶし剛性を高めることが記載されている。
【0006】
さらに、フープ層はシャフト内周面及びシャフト外周面からシャフトの厚さの25%以内の位置、即ち、厚さ方向の内側と外側との両方のみに少なくとも2層形成されるため、少ないフープ層で、効果的につぶし強度・つぶし剛性を高めることができると記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のシャフトは、繊維強化樹脂の積層構成のうち、フープ層の位置のみを限定するものであるから、フープ層が設けられる内径9mm以上の部位と内径が9mmよりも小さい部位では、ポアソン比が大きく異なるものと思われる。このため、シャフト断面の変形は抑えられるものの、シャフトの変形率が異なるので、安定したスイングを得るには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−219200
【特許文献2】特開2007−117306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、シャフトのポアソン比を位置に拠らず一定の範囲に収まるようにして、ヘッドスピードを高めるとともに、安定したスイングができるゴルフクラブシャフトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するための請求項1に係わる発明は、繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、少なくともグリップを取付けるシャフトのバット端Bより200mmの位置から、ヘッドを取付けるシャフトのチップ端Tより225mm迄の範囲Rにおいて、シャフトに静的な曲げ負荷を加えたときのシャフトの軸方向の歪をεa、シャフトの周方向の歪をεbとしたとき、シャフトのポアソン比σ=εb/εaの最小値と最大値の差が0.1以下であることを特徴とするゴルフクラブシャフトである。
【0011】
請求項2に係わる発明は、前記ポアソン比の範囲が、0.3乃至0.5の範囲であることを特徴とするゴルフクラブシャフトである。
【0012】
請求項3に係わる発明は、繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、積層の最内層に、シャフト後端からシャフト全長の40乃至60%の範囲に第一のフープ層を有し、第一フープ層との間に1層乃至3層のフープ層以外の層を介して、シャフト後端から第一フープ層よりも長い範囲に第二のフープ層を有し、積層の最外層または最外層から1層乃至3層内側に、シャフト全長に亘り第三のフープ層を有することを特徴とする、請求項1または請求項2のゴルフクラブシャフトである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係わるゴルフクラブシャフトは、上記のようにシャフトの位置に拠らずポアソン比が一定の範囲内に収まるようにしたので、スイング中にシャフトに加わる様々な荷重に対して、局所的にシャフト断面が変形することがなく、エネルギーロスを抑え、インパクトのタイミングが取りやすく、スイングを容易にしたシャフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のシャフトのポアソン比分布図
【図2】試験装置の模式図
【図3】歪み測定方向の説明図
【図4】本発明のシャフトのプリプレグ積層図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のゴルフクラブシャフトの実施の形態を、図1を用いて説明する。本発明のゴルフクラブシャフト1は、繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、
少なくともグリップを取付けるシャフトのバット端Bより200mmの位置から、ヘッドを取付けるシャフトのチップ端Tより225mm迄の範囲Rにおいて、シャフトに静的な曲げ負荷を加えたときのシャフトの軸方向の歪をεa、シャフトの周方向の歪をεbとしたとき、シャフトのポアソン比σ=εb/εaの最小値と最大値の差が0.1以下であることを特徴とするゴルフクラブシャフトである。
【0016】
図1は、全長1150mmの本発明のゴルフクラブシャフトのポアソン比分布図で、S1はポアソン比の平均値が0.478、最小値が0.47、最大値が0.49のゴルフクラブシャフトである。S2はポアソン比の平均値が0.654、最小値が0.64、最大値が0.69のゴルフクラブシャフトである。S3はポアソン比の平均値が0.734、最小値が0.72、最大値が0.77のゴルフクラブシャフトである。
【0017】
ここでシャフトのポアソン比の測定方法を説明する。まず、ポアソン比を測定するシャフト1にチップ端Tから100mmの位置を第一測定点とし、前記第一測定点からバット端Bに向けて150mm毎の位置を第二以降の測定点とし、前記バット端Bから200mm以内に入った位置を最終の測定点とする。各々の測定点にシャフト軸の方向とシャフトの周方向に歪みゲージを貼付する。
【0018】
図2に示すように、前記ゴルフクラブシャフト1のバット端Bから固定用のシャフト12を挿入し、前記固定用シャフト12のみを測定装置の固定部11に固定し、前記ゴルフクラブシャフト1の先端から10mmの位置に9.8Nの力Fを加えてシャフトに曲げモーメントMを与え、各測定点の歪みを歪みゲージで測定する。シャフトの軸方向の歪みをεa、シャフトの周方向の歪みをεbとしたとき、ポアソン比σ=εb/εaで算出した。図1は各測定点とポアソン比の値をプロットし、隣り合うプロットを直線近似したものである。このうち、前記チップ端Tより225mmの位置から前記バット端Bより200mmの位置までの範囲Rに含まれるプロットの最小値と最大値が0.1以下のものをポアソン比が安定しているゴルフクラブシャフトとした。
【0019】
バット端Bから200mmの区間を除外したのは、ゴルファーがシャフトを握る部分であるので、ポアソン比を安定させる必要が無いためである。チップ端Tから225mmの区間を除外したのは、強度上の必要性から補強部材が挿入されるためポアソン比は低い値になっており、屈服座屈が生じ難い領域だからである。
【0020】
本発明のゴルフクラブシャフトS1、S2と従来のシャフトを装着したゴルフクラブを用いて5名の被験者によるヘッドスピード測定及び官能試験を行った。クラブ1にはシャフトS1を、クラブ2にはシャフトS2を、クラブ3にはポアソン比の平均値が0.663、最小値が0.61、最大値が0.72の従来のシャフトを装着した。測定に使用したゴルフクラブは、クラブ長さは45インチ、スイングバランスはD1.5〜D2.0、クラブ総質量は315〜320g、クラブ振動数は260〜270cpm、ヘッド質量は202〜206gであり、グリップやヘッドは同一仕様のものを使用した。
【0021】
表1に試験結果を示す。クラブ2とクラブ3の試打結果から、ポアソン比の平均値が同等であれば、ポアソン比の最小値と最大値の差を0.1以内に収めた本発明のゴルフクラブシャフトの方が、従来のシャフトに比べてヘッドスピードが約5%速くなることがわかる。また、クラブ1とクラブ2に対する試打者の意見によれば、本発明のゴルフクラブシャフトにおいては、クラブ1の評価が高く、ポアソン比の値が0.5以下のシャフトでスイングが安定すると感じていることがわかる。なお、現在の炭素繊維の物性でポアソン比を0.3以下で安定させることは難しい。したがって、ゴルフクラブシャフトのポアソン比は0.3乃至0.5の範囲にすることが望ましい。
【0022】
【表1】

【実施例1】
【0023】
図4を用いて、本発明のシャフトの積層構成をプリプレグ積層例に置き換えて説明する。全長1200mmのシャフトをシートラッピング法により製造する場合、シャフトの内側から順に、第一フープ層H1としてバット端から650mmの位置に3051S−5を1層、バイアス層b1として繊維の配向角度を+45度としたE5026D−10Hを3層、第二のフープ層H2としてシャフト先端から225mmを除く領域に3051S−5を1層、バイアス層b2として繊維の配向角度を−45度としたE5026D−10Hを3層、ストレート層s1としてQC11H−1480を1層と3051S−5を1層、第三フープ層H3として3051S−5を1層、チップストレート補強層sa1としてチップ端から325mmの位置にQU35H−10を2層、ストレート層s2としてQC11H−1480を2層、チップストレート補強層sa2としてチップ端Tから160mmの位置にQ111B−1200を6層、バット側フープ補強層Haとしてバット端から200mmの位置にL3051S−5を1層配置した。
【0024】
ここで、3051S−5は東レ製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が235GPa、E5026D−10Hは日本グラファイトファイバー製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が500GPa、QC11H−1080は東邦製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が290GPa、QC11H−1480は東邦製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が290GPa、Q111B−1200は東邦製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が240GPa、L3051S−5は東レ製のプリプレグで強化繊維の引張弾性率が235GPaである。
【0025】
また、ストレート層とはシャフトの中心軸に対して強化繊維の配向角度が0度±10度である層をいい、フープ層とはシャフトの中心軸に対して強化繊維の配向角度が90度±10度である層をいい、バイアス層とは、シャフトの中心軸に対して強化繊維が45度±10度である層を言う。特に補強層と表示しない層は、シャフト全長に亘り設けられている。
【0026】
上記のように積層したプリプレグを、後端側の径が13.5mm、先端側径が5.07mm、テーパー約8/1000のマンドレルに旋廻被覆したのち加熱硬化させ、ゴルフクラブシャフトを成形した。シャフトの外形は後端側で15.6mm、先端側で8.6mm、テーパーは約7/1000であった。本実施例のシャフトのポアソン比は、図1のS1であり、中心値が0.478で、最小値が0.47、最大値が0.49であった。
【0027】
本実施例のように、本発明のゴルフクラブシャフト1の3つのフープ層を設ける長さをH1<H2<H3となるように設定することで前記ゴルフクラブシャフト1のポアソン比を位置に拠らず一定の範囲に収めることができ、積層したプリプレグをマンドレルに容易に被覆できるようになる。
【符号の説明】
【0028】
1 シャフト、2 シャフト軸線、10 荷重、11 固定部、12 固定用シャフト、T シャフトチップ端、B シャフトバット端、R ポアソン比安定範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、
少なくともグリップを取付けるシャフトのバット端Bより200mmの位置から、ヘッドを取付けるシャフトのチップ端Tより225mm迄の範囲Rにおいて、シャフトに静的な曲げ負荷を加えたときのシャフトの軸方向の歪をεa、シャフトの周方向の歪をεbとしたとき、シャフトのポアソン比σ=εb/εaの最小値と最大値の差が0.1以下であることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記ポアソン比の範囲が、0.3乃至0.5の範囲であることを特徴とする請求項1のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
繊維強化樹脂層を積層してなるゴルフクラブシャフトであって、
前記積層の最内層に、シャフト後端からシャフト全長の40乃至60%の範囲に第一のフープ層を有し、
前記第一フープ層との間に1層乃至3層のフープ層以外の層を介して、シャフト後端から前記第一フープ層よりも長い範囲に第二のフープ層を有し、
前記積層の最外層または最外層から1層乃至3層内側に、シャフト全長に亘り第三のフープ層を有することを特徴とする、請求項1または請求項2のゴルフクラブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−220667(P2010−220667A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68522(P2009−68522)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】