説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】ボールを打撃する際に生ずる衝撃振動を減衰させることで、プレイヤーに伝わる不快感を低減し、かつ、振動減衰によるエネルギー消費量に影響されないゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体10のバック部7の位置には、振動減衰体20が装着されて構成されており、この振動減衰体20は、弾性体21と、この弾性体21を介して支持される所定の質量を有する質量体22とを含む構成からなり、ボール打撃時に、質量体22の慣性力により、弾性体21が変形するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は打球時の不快な振動を減衰させるゴルフクラブヘッドに関し、更に詳しくは、振動減衰構造を備えたゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブには、大きなボールの飛距離や高い方向性と共に、快適な打球感が要求される。打球感とは、ボールを打撃したときにプレイヤーが感じる衝撃振動の感触である。
一般的にゴルフクラブヘッドのスイートスポットで打球したときは快適な打球感が得られるが、打球点がスイートスポットから外れると、大きな衝撃振動が長く持続し、不快な打球感を得ることになる。
【0003】
不快な打球感がゴルフクラブヘッドの衝撃振動に起因していることから、近年、ゴルフクラブヘッドの打球時の衝撃振動を減衰させる試みがなされている。
【0004】
例えば、特表平6−510689号公報には、ゴルフクラブヘッドの所定の位置、好ましくはフェースの裏面に厚さ1.0mm以下の粘弾性材を介して固着された厚さ0.5mm〜2.0mmの高ヤング率の堅い応力板によって構成される、総重量2〜2.5グラム程度の消振ダンパを取り付けることによって打撃時に発生する振動を減衰させることが開示されている。
【特許文献1】特表平6−510689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
振動工学によれば、弾性体の変形による振動減衰は「内部摩擦減衰」に分類され、振動減衰によって生じる消費エネルギーは、弾性体の損失係数およびバネ定数に比例し、変位振幅の2乗に比例することが知られている。
【0006】
従って、前記特表平6−510689号公報では、粘弾性板の大きな損失係数と、バネ定数により、ある程度のエネルギーが消費されるのではあるが、粘弾性板の変位振幅は非常に小さいために大きな振動減衰効果を得ることはできない。
粘弾性板の変位振幅をより大きくするためには、該粘弾性板に加える力を大きくする必要がある。ボール打撃時のこの力は主に応力板の慣性力であり、加速度を一定とすれば、該粘弾性板の変位振幅は、応力版の質量に比例する。つまり粘弾性板の変位振幅を大きくするためには応力板の質量を大きくすればよいといえる。
また、前記特表平6−510689号公報では、消振ダンパの重さは、総重量2〜2.5g程度で、ヘッドの重量に対して無視し得る程度である。従って、前記応力板の質量が軽量すぎて、該応力板では、粘弾性板の変位振幅を大きくすることは困難であり、実際にプレイヤーが、ゴルフクラブヘッドにボールを打撃した際の振動減衰効果を感じることが殆どできない。
【0007】
更に、前記消振ダンパが、フェースの裏面に取り付けられた場合、フェースでボールを打撃するため、打撃後の残留振動を減衰させるばかりか、直接打撃時のエネルギー損失を大きくするので、ヘッドとボールの反発係数を減少させ打球の飛距離がロスするといった問題が発生する可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前記問題を解決することで、ボールを打撃する際に生ずる衝撃振動を減衰させることでプレイヤーの不快感を低減し、かつ、振動減衰によってボールの飛距離に悪影響を及ぼさないゴルフクラブヘッドを提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、ヘッド本体に振動減衰体を装着したゴルフクラブヘッドであって、前記振動減衰体は、弾性体と質量体を含む構成であり、該質量体は、前記ゴルフクラブヘッド全質量の10%〜30%の質量を有し、且つ、前記ヘッド本体と質量体との間に前記弾性体を介在させることで、前記ヘッド本体に非接触状態で装着されていることを特徴とするゴルフクラブヘッドである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載のゴルフクラブヘッドであって、前記質量体及び弾性体には、貫通孔が形成され、該貫通孔に挿通された取付け部材を介して振動減衰体をヘッド本体に固定されていることを特徴とするゴルフクラブヘッドである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1、2記載のゴルフクラブヘッドであって、前記弾性体は、弾性率が1Mpa〜5000Mpaで、厚みが0.5mm〜3.0mmであることを特徴とするゴルフクラブヘッドである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1、2または3記載のゴルフクラブヘッドであって、前記振動減衰体は、ゴルフクラブヘッドの重心よりバック部側に装着されることを特徴とするゴルフクラブヘッドである。
【発明の効果】
【0013】
ヘッド本体に、振動減衰体を装着することにより、ボールを打撃した時のゴルフクラブヘッドの振動時に、該ゴルフクラブヘッドの全質量の10%〜30%を有する質量体によって、弾性体の変位振幅量が大きくなることでゴルフクラブヘッドの振動を減衰させることができる。
【0014】
また、振動減衰体は、取付け部材によって、ヘッド本体に固定されているので、この場合、質量体は取付け部材の軸方向のみヘッド本体から移動できないよう固定さているので脱落を防止できる。
【0015】
また、振動減衰体がヘッド本体に装着される部位は、ゴルフクラブヘッドの重心からバック部側の部位であることから、フェース部から振動減衰体までの距離が長いために、打球の反発係数に悪影響を及ぼす可能性が低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して本発明のゴルフクラブヘッドを詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一例としてウッド型のゴルフクラブヘッド1として示した斜視図である。
図1に示すように、ヘッド本体10は、ゴルフボールを打撃するフェース部2と、ゴルフクラブヘッド1の上面をなすクラウン部3と、ゴルフクラブヘッド1の下面をなすソール部4と、前記クラウン部3とソール部4との間をトウ部5側からバック部7側を通りヒール部6側までのびるサイド部8と、ゴルフシャフトが装着されるホーゼル部9で構成されている。
そして、前記ヘッド本体10のバック部7の位置には、振動減衰体20が装着されてゴルフクラブヘッド1が構成されている。
また、前記ヘッド本体10は、内部が中空の構造であり、軟鉄、炭素鋼、ステンレス、アルミ合金、マグネシウム合金、チタン又はチタン合金等の金属材料又は繊維強化樹脂材料によって形成されている。
【0018】
図2は、図1の振動減衰体20がヘッド本体10に装着された部分の断面図である。
図2に示すように、この振動減衰体20は、弾性体21と、この弾性体21に支持される所定の質量を有する質量体22を含む構成からなり、ボール打撃時に、質量体の慣性力により、弾性体が変形によってエネルギーを消散させるように構成されている。このとき質量体の質量が大きいほど、慣性力は大きくなり、弾性体の変位振幅も大きくなる。
【0019】
また、前記質量体22は、前記ヘッド本体10と質量体22との間に前記弾性体21を介在させることで、ヘッド本体10に非接触状態で装着され、どの方向に撃力を加えられても、弾性体21を収縮させる構造となっている。
【0020】
次に、本発明に係る前記振動減衰体の質量体の質量として、好ましくは、ゴルフクラブヘッド全体の質量の10%〜30%とする。30%を上回ると、エネルギー消費量が大きくなりすぎ、ヘッドとボールの反発係数を減少させ、打球の飛距離がロスするので好ましくない。一方、10%未満であると、質量が軽すぎるため、弾性体の変位振幅を大きくすることは困難であり、実際にプレイヤーが、ゴルフクラブヘッドにボールを打撃した際の振動減衰効果を感じることが殆どできない。
なお、質量体の材料としては、金属材料が好ましく、例えば、軟鉄、タングステン、ステンレス、アルミ合金、チタン又はチタン合金等が挙げられる。
【0021】
また、前記弾性体は、弾性率が1Mpa〜5000Mpaからなる弾性を有する樹脂、例えば、天然ゴム、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル共重合体、ポリオレフィン系、さらには合成ゴム例えばEPDM、スチレンブタジェン系、ニトレル系、イソプレン系、クロロプレン系、プロピレン系、シリコーン系等のゴムなどを使用することができる。
質量体とヘッド本体の間に相当する弾性体の厚さとしては、0.5mm〜3.0mmが好ましい。前記厚みが0.5mm以下では、厚みが薄くなりすぎるため、弾性体の変位振幅量が少なく振動減衰性能は低下する。一方、3.0mm以上では、エネルギー消費量が大きくなりすぎ、ヘッドとボールの反発係数を減少させ、打球の飛距離がロスするので好ましくない。
【0022】
上記のように、ヘッド本体に、振動減衰体を装着することにより、ボールを打撃した時のゴルフクラブヘッドの振動時に該ゴルフクラブヘッドの全質量の10%〜30%を有する質量体によって、弾性体の変位振幅量を大きくすることでゴルフクラブヘッド1の振動を減衰させることができる。
【0023】
次に、前記振動減衰体のヘッド本体への固定構造について説明する。
図2に示すように、前記振動減衰体20は、取付け部材30によって、ヘッド本体10に固定されている。なお、本実施例においては、2本の取付ボルト31によって、ヘッド本体10にネジ止めで固定されている。
【0024】
また、質量体22及び弾性体21には、前記取付ボルト31を挿通するための貫通孔23が2つ形成され、該貫通孔23には、該取付ボルト31の頭部31aが位置される大径孔24と、軸部31bが位置される小径孔25とによって段差状に形成されている。
そして、取付ボルト31の先端には、前記軸部31bより小径のネジ部31cが形成され、該ネジ部31cが、ヘッド本体10に形成された雌ネジ部26に螺挿されることで、貫通孔23に挿通された取付ボルト31を介して、振動減衰体20がヘッド本体10に挟持固定される。
【0025】
また、取付ボルト31が雌ネジ部26に螺挿された際に、図3に示す、取付ボルトの頭部31aと軸部31bの段差部32aと軸部31bとネジ部31cとの段差部分32bとの距離Lによって、振動減衰体20は、取付ボルト31の軸方向のみヘッド本体から移動できないよう固定され、その他の方向は、移動可能な非拘束状態となっている。
そして、前記大径孔24および小径孔25は、前記頭部31aおよび軸部31bに比較して十分に大きな径に設定されるため、振動時に質量体22が移動することで、更に弾性体21の変位振幅量を大きくすることができる。
また、前記取付けボルト31の距離Lの設定によって、予め質量体の移動による弾性体を変形させる変位量を制御することが出来るため、打撃時の変位振幅を調整することができる。
なお、取付ボルト31の頭部31aは、小径孔25の幅より大きく大径孔24の幅より小さい為、大径孔24と小径孔25の段差部分で止まる。
【0026】
また、本実施例において振動減衰体とヘッド本体の固定は、取付ボルトによってネジ止めで固定されているが、質量体の脱落を防止するものであれば、これに限定することなく例えば、リベットによるカシメ加工等で固定を行っても良い。
【0027】
上記より、振動減衰体20は、2本の取付ボルト31によって、ヘッド本体10にネジ止めで固定されているので、この場合、質量体22は、取付ボルト31の軸方向のみヘッド本体から移動できないよう固定さているので脱落を防止できる。
【0028】
また、振動減衰体20がヘッド本体10に装着される部位は、ゴルフクラブヘッドの重心回りの慣性モーメントを大きくする効果と、ボールを打撃する際のボールの飛距離に与える影響を考慮し、ゴルフクラブヘッド1の重心Gからバック部7側の部位であることが好ましい。
なお、本実施例および図面おいて、振動減衰体20はバック部7の位置に装着されているが、ゴルフクラブヘッド1の重心Gからバック部7側であればこれに限定されない。
【0029】
次に他の実施例を説明する。
図6は、他の実施例を示すゴルフクラブヘッド1の斜視図、図4、図5は、振動減衰体20が装着された部分の断面図である。
【0030】
図4、図6に示すように、ヘッド本体10のソール部4のバック部7側の位置には、振動減衰部体20全体を内装できる程度の深さと幅とを有するように構成された凹部11を設け、該凹部11の内部に振動減衰体20が装着されている。
そして、前記凹部11の底壁面12、側壁面13の接するように、弾性体21を配設し、該弾性体21の凹部21a内に質量体22が挿入されている。
【0031】
この実施例では、質量体22と弾性体21が接触する面のフェース・バック方向に垂直な部位で、しかもフェース部側のみの、側壁部13に接する弾性体21の厚みtを他の部位と比べて厚くした。
また、図5に示すように、ヘッド本体10に振動減衰部体20全体を配設できる程度の段差部14を設け、該段差部14に振動減衰体20が装着されている場合、フェース部側のみの側壁面13に接する弾性体21の厚tみを他の部位と比べて厚くし、バック部7側に弾性体21を配設しないことも可能である。
これは、ゴルフクラブヘッドのボールを打撃した時の撃力は、フェース部からバック部方向に加わるため、撃力以外の方向には、余計な変位をさせないためである。
従って、フェース・バック方向のみの振動減衰を行い、他方向のエネルギー損失の発生を抑えることができる。
【0032】
また、図4〜図6に示すように、大径孔24および小径孔25は、フェース・バック方向に垂直な方向に取付けボルト31の頭部31aおよび軸部31bに比較して十分に大きな径に設定される長孔23aを形成する。
これも、前記同様にフェース・バック方向のみの振動減衰を行い、他方向のエネルギー損失の発生を抑えることができる。
【0033】
なお、図4〜図6に示す振動減衰体20のヘッド本体10への固定構造については、上記した実施例と同様であるため省略する。
【0034】
また、本発明のゴルフクラブヘッドによれば、プレイヤーが日常的にヘッドの質量を調整する場合、質量体を取り外し、同形状で別の質量体の取り替えることや、また、質量体の内部に高比重金属、例えば、鉛やタングステンを挿入すれば外観を損ねることなく容易に質量調整を行うことが出来る。
振動減衰の効果についても同様に、取付け部材を抜いて弾性体を取り外し、同形状で別の弾性率あるいは損失係数の材料に交換することにより、任意に振動減衰効果を調整することができる。また、プレイヤーのヘッドスピードによって、打撃時に質量体に加わる慣性力、つまり弾性体の変位振幅量は大きく異なるので、こうした材料交換による調整は有意義である。
【0035】
また、本実施例および図面において、ウッド型のゴルフクラブヘッドを基に説明したが、これに限定されることなく、アイアン型のゴルフクラブヘッド等に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のゴルフクラブヘッドを説明する斜視図。
【図2】振動減衰体が装着された部分の断面図。
【図3】取付けボルトを示す説明図。
【図4】他の実施例を説明する断面図。
【図5】他の実施例を説明する断面図。
【図6】他の実施例を説明する斜視図。
【符号の説明】
【0037】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェース部
3 クラウン部
4 ソール部
5 トウ部
6 ヒール部
7 バック部
8 サイド部
9 ホーゼル部
10 ヘッド本体
11 凹部
12 底壁面
13 側壁面
14 段差部
20 振動減衰体
21 弾性体
21a 凹部
22 質量体
23 貫通孔
23a 長孔
24 大径孔
25 小径孔
26 雌ネジ
30 取付け部材
31 取付けボルト
31a 頭部
31b 軸部
31c ネジ部
32a 段差部
32b 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体に振動減衰体を装着したゴルフクラブヘッドであって、前記振動減衰体は、弾性体と質量体を含む構成であり、該質量体は、前記ゴルフクラブヘッド全質量の10%〜30%の質量を有し、且つ、前記ヘッド本体と質量体との間に前記弾性体を介在させることで、前記ヘッド本体に非接触状態で装着されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記質量体及び弾性体には、貫通孔が形成され、該貫通孔に挿通された取付け部材を介して振動減衰体をヘッド本体に固定されていることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記弾性体は、弾性率が1Mpa〜5000Mpaで、厚みが0.5mm〜3.0mmであることを特徴とする請求項1、2記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記振動減衰体は、ゴルフクラブヘッドの重心よりバック部側に装着されることを特徴とする請求項1、2または3記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−435(P2006−435A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180569(P2004−180569)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】