説明

ゴルフシャフト

複数の繊維強化樹脂層を積層してなる繊維強化樹脂製のゴルフシャフトが提供される。繊維強化樹脂層は4軸織物を成形用樹脂で強化した4軸織物層を備えている。4軸織物は、シャフトの長手方向に平行に延びる複数の縦軸糸、シャフトの長手方向に直交する方向に沿って延びる複数の横軸糸、シャフトの長手方向に対して左右に斜交する一組の複数の斜交軸糸から構成されている。縦軸糸、横軸糸、及び斜交軸糸の内、少なくとも一種類の軸糸が、他の軸糸とは異なる特性を有する強化繊維により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィーリングの良い振動特性を持ち、かつタイミングのとりやすさを向上させたゴルフシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブのスイング時におけるタイミングの取り方は、プレーヤーやゴルフシャフトの特性、重量、長さ、重心、硬さ等によりそれぞれ異なる。このタイミングを取りやすくするために、ゴルフシャフトにはいろいろな改良が加えられている。タイミングに関連するゴルフシャフトの設計項目にシャフトフレックスがある。このシャフトフレックスは、ゴルフシャフトをそのグリップ近傍において固定し、ゴルフシャフトの先端部に一定の重量を付加したときのしなり量や、固有振動数によって管理されることが知られている。
【0003】
スイング中のシャフトのしなり量は、ゴルフシャフトの軸線に沿った方向の曲げによる変形と、前記軸線に直交する径方向に沿った圧縮による変形が複合されたものである。そのため、圧縮による変形が大きいと、曲げによる変形の邪魔をして、ゴルファーがしなり感を感じ難くなると共に、ゴルフシャフトの復元力も小さくなり、飛距離をロスするという問題が生じる。
【0004】
従って、ゴルファーがタイミングの取りやすいフレックスを選定する際には、ゴルフシャフトの径方向の剛性も考慮する必要がある。これら曲げによる変形と、径方向の変形とに対する要求を同時に満足させるには、厚みの薄いプリプレグを幾重にも積層した多層材をシャフトの素材として採用したり、もしくは、多軸織物を採用したりすることが知られている。
【0005】
繊維強化樹脂製のゴルフシャフトにおいて、織物、特に3軸を主とした多軸織物を用いたシャフトに関しては、特開昭58−76559号公報、特開平3−151989号公報、及び、実開平4−51970号公報に記載されている。これらの文献に記載のゴルフシャフトでは、3軸織物の特徴を利用し、構造物の補強、もしくは生産性向上を目的として多軸織物が用いられている。
【0006】
また、福田博、「複合材料の設計」、繊維機械学会誌、社団法人日本繊維機械学会、平成6年11月25日、第47巻、第11号、p.467−472によると、4軸織物は擬似等方性材としての効果を有し、「どの方向から負荷が作用しても同様の特性を発揮する」との記載があり、構造物としての利点が論じられている。
【0007】
さらに、特開2000−245880号公報には、4軸織物を使用したゴルフシャフトが記載されている。このゴルフシャフトは、4軸織物を用いることにより、曲げ、捩り、圧縮剛性に優れ、あらゆる方向の力が付加されても充分に強度があり、反応性が高く、復元力の良好なバランスのとれたゴルフシャフトが得られる、とされている。
【発明の開示】
【0008】
前記3軸織物又は4軸織物等の多軸織物を用いたゴルフシャフトは、構造物としての特徴である擬似等方性等を利用したものである。ゴルフシャフトに負荷をかけたときに、シャフトの長手方向、すなわち、縦方向、該長手方向に垂直な横方向、長手方向に対して所定の角度を有する斜交方向には、それぞれ異なる応力が加わり、これらに対応するためには、各方向においてそれぞれ異なる特性が必要とされる。しかし、前述した各文献においては、このような問題点について、何ら開示されていない。
【0009】
また、ゴルフシャフトの性能を特定する際、前記機械的特性のほかに、「弾く」、「粘る」など官能表現が用いられている。このような官能表現はゴルファーの内、特に上級者に多く用いられるが、いまだに物理量として特定されてはいない。よって、「弾く」シャフトを案出するための手段は明確になっていないのが現状である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、優れた機械的特性を備え、かつ、「弾き」のような官能表現に基づく特性や安定感に関する要望を満たすことができるようにしたゴルフシャフトを提供しようとするものである。
【0011】
本発明は前記の目的を達成するためになされたものであり、本発明の一実施態様のゴルフシャフトは、複数の繊維強化樹脂層を積層してなる繊維強化樹脂製である。繊維強化樹脂層は4軸織物を成形用樹脂で強化した4軸織物層を含み、4軸織物は、シャフトの長手方向に平行に延びる複数の縦軸糸、シャフトの長手方向に直交する方向に沿って延びる複数の横軸糸、シャフトの長手方向に対して左右に斜交する一組の複数の斜交軸糸から構成されている。縦軸糸、横軸糸、及び斜交軸糸の内、少なくとも一種類の軸糸が、他の軸糸とは異なる特性を有する強化繊維により形成されている。
【0012】
前記縦軸糸の強化繊維は、その引張強度が4000MPa〜7000MPaの炭素繊維からなり、横軸糸の強化繊維は、その引張弾性率が240GPa〜800GPaの炭素繊維からなり、斜交軸糸の強化繊維は、その引張弾性率が400GPa〜800GPaの炭素繊維からなることが好ましい。
【0013】
前記4軸織物層の強化繊維の繊度は、50tex〜200tex(g/ 1000m)であることが好ましい。
前記4軸織物層は、最外層または最外層から2層目に配置することが好ましい。
前記ゴルフシャフトの繊維強化樹脂層の樹脂含有量は、前記ゴルフシャフトの全重量の20%〜30%であることが好ましい。
【0014】
前記ゴルフシャフトはその先端から後端に向かって漸次外径が大きくなるテーパー状を有していてもよい。
上述したいずれかの好ましいゴルフシャフトの先端にヘッドを装着し、その後端にグリップを装着してゴルフクラブを構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態のゴルフシャフトを示す正面図。
【図2】図1のゴルフシャフトに用いる繊維強化樹脂プリプレグを説明するための図。
【図3】4軸織物の構成を示す図。
【図4】シャフトの振動減衰特性の測定方法を説明するための斜視図。
【図5】シャフトのEI値の測定方法を説明するための図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るゴルフシャフトを示す。ゴルフシャフト1は、複数の繊維強化樹脂層を積層して形成したもので、全長が1143mmである。ゴルフシャフト1は、その先端から後端に向かって漸次外径が大きくなるテーパー状を有していて、その小径側の先端にはヘッド2が装着され、大径側の後端にはグリップ3が装着されている。
【0017】
前記繊維強化樹脂層は、複数の繊維強化樹脂プリプレグを用いて形成されている。これらの繊維強化樹脂プリプレグは、図2に示すように、その強化繊維の配向角度が所定の角度となるような形状に切り出した第1〜第5繊維強化樹脂プリプレグ11〜15と、4軸織物強化プリプレグ10とからなる。これらのプリプレグ10、11〜15をマンドレル7に順次巻きつけて積層することにより、ゴルフシャフト1が形成されている。
【0018】
通常、ゴルフシャフト1の成形には、これらのプリプレグ10、11〜15のほかに、補強用として、シャフト1の先端側や後端側に部分的に別のプリプレグを配置するが、ここでは、その説明を省略する。
【0019】
第1〜第5繊維強化樹脂プリプレグ11〜15及び4軸織物強化プリプレグ10では、強化繊維としていずれも炭素繊維を用い、マトリックス樹脂としてエポキシ系樹脂を用いている。強化繊維としては、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、超高分子ポリエチレン繊維等も用いることができる。
【0020】
また、マトリックス樹脂としては、前記エポキシ系樹脂に代表される熱硬化性樹脂が好ましく、たとえば、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。
【0021】
4軸織物強化プリプレグ10を形成する4軸織物層4は、図3に示すように、相互に直交するように織られた複数の縦軸糸41と複数の横軸糸42とを備え、さらに、これらの縦軸糸41及び横軸糸42に対して左右(+方向と−方向)に交差するように織られた一組の複数の斜交軸糸43を備えている。前記4軸織物層4の縦軸糸41はシャフト1の長手方向に対して平行に配置され、横軸糸42はシャフトの長手方向に対して垂直に配置され、斜交軸糸43はシャフトの長手方向に対して斜交するように配置される。
【0022】
縦軸糸41には、シャフト1の軸線に沿った曲げに対しては強度が必要であるため、その強化繊維には高強度の強化繊維を用いる。たとえば、引張強度が3500〜7000MPaの炭素繊維が好ましく用いられる。横軸糸42には、ゴルファーの力量が高くなるほどバネ定数の高い材料が必要である。ゴルファーの力量は、ヘッドスピードとスイング時のシャフト1の最大たわみ量とによって表すことができる。ヘッドスピードが速くなるほど、また、シャフト1の最大たわみ量が多くなるほど、重く、かつ、硬いシャフトが必要とされる。よって、シャフト1が重くなるほど、また、硬くなるほど、横軸糸42に採用する強化繊維の弾性率は高い方が良い。横軸糸42を構成する強化繊維に炭素繊維を用いた場合は、引張弾性率が240〜800GPaの炭素繊維が好ましい。同様の効果を得るため、炭素繊維の繊度を上げたり、一本の横軸糸42を構成するために収束される繊維数を多くしたりすることも可能である。その場合、シャフト表面の凹凸が大きくなるため、最外層の研磨代を多くする必要がある。このような観点から、前記4軸織物層の強化繊維の繊度は、50tex〜200texであることがこのましい。繊度の単位texは繊維1000m当たりのg数に等しい値である(1tex=1g/ 1000m)。
【0023】
前記強化繊維は、ゴルファーの力量が高くなるほど、引張弾性率が高い方が好ましいが、高い弾性率の繊維ほど、繊維の引張強度が低くなる傾向にあるため、横軸方向に繊維を織る工程において、繊維の破断による歩留まりの影響が大きくなる。よって、横軸糸42の引張弾性率に関しては、240〜500GPaの炭素繊維が更に好ましい。
【0024】
斜交軸糸43は、曲げ振動の減衰に最も影響を与える軸糸である。本実施形態においては、「弾く」という特性により、シャフトの挙動を特定できるとみなしている。すなわち、本実施形態では、スイング中のシャフトのしなりを表す振動がゴルファーによって感知され、かつ、打球したことによる振動が感応される。
【0025】
シャフトにこのような「弾く」、さらに「安定」という官能表現による特性を求める場合、曲げ振動の減衰比をできるだけ小さくするために、斜交軸糸43を構成する強化繊維に高い弾性率の強化繊維を用い、シャフト1の軸線に対する配向角度が±45度となるように配置している。この強化繊維としては、引張弾性率が400〜800GPaの炭素繊維を用いるのが好ましい。引張弾性率が高いほど好ましいが、斜交軸に沿って繊維を織る工程において、高い弾性率の繊維ほど、繊維の引張強度が低くなる傾向にあるため、400〜500GPaの炭素繊維が更に好ましい。また、斜交軸糸43に用いられる強化繊維は、+方向斜交軸と−方向斜交軸とにおける特性を同一にすることが好ましい。+方向と−方向とで特性が異なると、捻り特性において異方性が生じるためである。
【0026】
前記4軸織物層は、所望の振動特性である「弾く」ことに関して効果を得るためには、振動減衰率を低くすることが好ましく、そのためには、プリプレグの樹脂量も少なくする必要がある。これは、樹脂自体の減衰係数が強化繊維に比べて低いためである。また、4軸織物層4を含めた他の繊維強化樹脂層を形成するプリプレグ10〜15に関し、その樹脂含有量は、各プリプレグの重量の20〜50重量%の範囲であれば、シャフトの特性の上でも、製造する上でも適している。すべてのプリプレグ10〜15に使用される樹脂のゴルフシャフト1全体に占める割合は、20〜30重量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の目的を効率的に達成するためには、4軸織物層4を最外側に配置するのがより効果的であるが、製法や外観上の要求によっては、最外側ではなく、最外側により近い位置に配置するのが好ましく、最外側の層から2層目までに配置するのが好ましい。
【0028】
繊維強化樹脂製のシャフト1を、いわゆるシートラッピング製法で形成する場合は、複数のプリプレグ10−15をマンドレル7に順次卷回した後、ラッピングテープを巻き付けて固定し、これを硬化成形した後、そのラッピングテープを取り除き、表面を研磨し、塗装して完成品のシャフトを得ている。
【0029】
このような製法を採用する場合には、研磨代を確保するために、4軸織物層4を備えたプリプレグ10の外側に、一つのプリプレグ15の層が設けられている。このプリプレグ15の厚みは0.02mm〜0.15mmであることが好ましい。このプリプレグ15の厚みが0.02mm以下であると、研磨により4軸織物層4の強化繊維が誤って研磨されてしまい、シャフト1の性能に悪影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。プリプレグ15の厚みが0.15mm以上であると、プリプレグ15の表面から4軸織物層4までの距離が大きくなるので、4軸織物層4を配置する効果が得られ難い。
【0030】
一方、以下の場合には、プリプレグ15の厚みの大きいものが必要とされる。すなわち、4軸織物層4の各軸糸41、42、43は、1000本〜6000本の炭素繊維を収束して形成されるが、各軸糸41、42、43を、例えば引張り弾性率が240GPaの炭素繊維を3000本収束させて用いた場合と、1000本収束させて用いた場合とでは、3000本収束させて用いた場合の方が、各軸糸41、42、43の交点における4軸織物層4の厚みが大きくなる。そのため、シャフト表面を滑らかにする場合には研磨代を多く取る必要がある。よって、このような場合に、プリプレグ15の厚みを厚くする必要がある。ここで、3000本の炭素繊維を収束した束を一般的に3Kと言う。Kは1000に対応する。
【0031】
硬化成形後の研磨を必要としない製法、たとえば、ラッピングテープの代わりに伸縮自在のチューブでプリプレグを被覆して成形する方法や、内圧成形法による場合、あるいは、前記シートラッピング製法であっても研磨を必要としない場合などには、最外層に4軸織物強化プリプレグ10を用いることができる。
【0032】
第1及び第2繊維強化樹脂プリプレグ11、12は、シャフトの全長にわたり、2〜4回巻回して配設するもので、強化繊維がシャフト1の長手方向に対して±30°〜±65°の角度をなすように配置されている。第3繊維強化樹脂プリプレグ13は、シャフト1の全長にわたり、1回巻回して配設するもので、強化繊維がシャフト1の長手方向に対して略90度の角度をなすように配置されている。第4及び第5繊維強化樹脂プリプレグ14、15は、シャフト1の全長にわたり、1〜2回巻回して配設するもので、強化繊維がシャフト1の長手方向に対して略平行となるように配置されている。ただし、第5繊維強化樹脂プリプレグ15は、上述したように、製法によっては使用されない場合がある。
【0033】
本実施形態のシャフト1はシートワインディング製法で成形されている。シャフト1の成形に当たり、マンドレル7に第1乃至第4繊維強化樹脂プリプレグ11〜14、4軸織物プリプレグ10、及び第5繊維強化樹脂プリプレグ15をこの順で巻き付けて積層し、その外周にラッピングテープを巻き締めて積層体を得る。その状態で、積層体を加熱及び加圧し、硬化させて成形し、その後、マンドレルを積層体から引き抜いて、シャフト1を得ている。
【0034】
本発明のゴルフシャフト1は、前記したように、シャフト1の各軸糸について必要な要件を満たすように、各軸糸に特性の異なる強化繊維を用い、それらを織布することで一つの4軸織物層4内に同時に存在させ、かつ、このような4軸織物層4をプリプレグの積層体内においてより外層に近い位置に配置している。それにより、そのゴルフシャフトに設定した仕様において、バネ定数を大きく、かつ、1次、2次の振動モードでの損失係数を小さくして、スイング時のシャフトの挙動を感応できるようにし、いわゆる「弾き」感を感応できると同時に、より安定性のあるシャフトを製造することができる。
【0035】
以下、本発明のゴルフシャフトの実施例1〜4、および比較例1について説明する。
各実施例で用いた4軸織物強化プリプレグ10の構成および比較例で用いた繊維強化樹脂プリプレグの積層条件を表1及び表2に示す。シャフトの長さはいずれも45インチ(1143mm)である。
【0036】
【表1】

【表2】

(実施例1)
図2に示す実施形態におけるプリプレグの積層構成を採用し、第1〜第5繊維強化樹脂プリプレグ11〜15、および、表1の実施例1の欄に示す構成の4軸織物プリプレグ10をマンドレル7に巻き付けて積層した。4軸織物強化プリプレグ10として、斜交軸糸43の強化繊維には、引張り弾性率;385GPaの炭素繊維を3000本収束した繊維を使用した。縦軸糸41および横軸糸42には、強化繊維として引張り弾性率;240GPaの炭素繊維を1000本収束した繊維を使用した。表1中、1000本の束を1Kで示す。
【0037】
第1、第2繊維強化樹脂プリプレグ11、12としては、引張り弾性率;445GPaの炭素繊維に合成樹脂をその樹脂含有率が25wt%となるように含浸させたプリプレグを使用した。該プリプレグの成形後の厚みは0.061mmである。また、該プリプレグ11、12における強化繊維の配向角度は、シャフト長手方向に対してそれぞれ+45°及び−45°である。
【0038】
第3繊維強化樹脂プリプレグ13としては、強化繊維として引張り弾性率;240GPaの炭素繊維に、合成樹脂をその樹脂含有率が25wt%となるように含浸させたプリプレグを使用した。該プリプレグの成形後の厚みは0.045mmである。
【0039】
第4繊維強化樹脂プリプレグ14としては、強化繊維として引張り弾性率;300GPaの炭素繊維に、合成樹脂をその樹脂含有率が25wt%となるように含浸させたプリプレグを使用した。該プリプレグの成形後の厚みは0.081mmである。
【0040】
前記4軸織物強化プリプレグ10を積層体の最外層に配置してシャフトを形成した。また、そのシャフトの重量は63gとした。
(実施例2)
実施例1の4軸織物強化プリプレグ10の横軸糸42の強化繊維を、引張り弾性率;240GPaの炭素繊維を3000本収束した繊維に変更した。その他は実施例1と同一とした。
【0041】
(実施例3)
実施例1の4軸織物強化プリプレグ10の横軸糸42の強化繊維を、引張り弾性率;385GPaの炭素繊維を3000本収束した繊維に変更した。その他は実施例1と同一とした。
【0042】
(実施例4)
実施例1の4軸織物強化プリプレグ10の斜交軸糸43を、引張り弾性率;240GPaの炭素繊維を1000本収束した繊維に変更した。その他は実施例1と同一とした。
(比較例1)
実施例1から4軸織物層4をなくし、第4繊維強化樹脂プリプレグ14を変更した。4軸織物層4をなくすことで、実施例1〜4とEI値、シャフト重量、及び、外径が大きく異ならないようにするために、第4繊維強化樹脂プリプレグ14としては、強化繊維として引張り弾性率;300GPaの炭素繊維に、合成樹脂をその樹脂含有率が25wt%となるように含浸させたプリプレグを使用した。該プリプレグの成形後の厚みは0.081mmおよび0.101mmの2種類である。その他は実施例1から4と同一とした。
【0043】
前記実施例1〜4、比較例1の各ゴルフシャフトについて後述する方法で振動減衰性、EI値、バネ定数の測定および評価を行った。各評価結果は表1および表2の下欄に記載している。また、官能テストのうち、安定性に関するテストについては表3に示す。
【0044】
(振動減衰性の測定)
図4に示すように、振動減衰性は、ゴルフシャフト1の重心位置を加振器5に固定して、そのシャフト1を加振し、その振動伝達をシャフト1に取り付けられた加速度ピックアップ(図示略)で検出し、検出したデータから損失係数測定器6により、損失係数ηを算出した。一次及び二次の損失係数の算出には以下の式を使用した。ξは減衰率を示す。
【0045】
η=2ξ
(EI値(曲げ剛性値)の測定)
図5に示すように、財団法人製品安全協会(CONSUMER PRODUCT SAFETY ASSOCIATION) によって規定されたゴルフクラブ用シャフトの3点曲げ試験方法により、ゴルフシャフト1のグリップ端から200mm離れた位置で、シャフトをたわませて、そのたわみ量を測定した。図5に示すように、シャフト1は2つの支持体61、62によって支持された状態で、加圧部材63により加圧される。2つの支持体62の間のスパンはLで表され、加圧位置はそのスパンLの中間に設定される。従って、加圧位置から右側支持体61までの長さL1と、加圧位置から左側支持体62までの長さL2は等しい。
【0046】
そして、シャフト1の加圧時におけるたわみ量δ及び荷重Wの関係を示す以下の計算式により、曲げ剛性値、すなわち、EI値を求めた。
EI=W/δ x L
(バネ定数の測定)
バネ定数の測定方法はゴルフクラブの認定基準及び基準確認方法(財団法人製品安全協会)のS型シャフトのへん平試験に準ずる。そのへん平試験法では、グリップ端から50mmの範囲において、負荷速度5mm/分で一定の荷重Pを加えた時、次式により、荷重Pとその時の変位量Δとからバネ定数Kが求められる。
【0047】
K=P/Δ
バネ定数Kは、シャフトの「安定感」及び「しっかり感」の指標として使用するために、測定した。
各種特性の測定結果については、表1及び表2に示されている。
実施例1〜4と比較例1とを比較すると、シャフトの曲げ剛性(EI値)、捩り剛性(トルク)、及び、重量が同程度である。尚、トルクはシャフトの先端及び後端を固定し、そのシャフトに対して1フィート(約0.3m)につき1ポンド(約0.45kg)のねじれ荷重を加えた時、シャフトがねじれた角度(゜)で表される。
【0048】
(官能テスト)
各実施例及び各比較例のシャフトに、ヘッドとグリップを装着してゴルフクラブを製作した。そして、ゴルファー4人によりテストを行った。官能テストにより、「安定感」、「弾き」及び「粘り」について、試打による評価を行った。
【0049】
「弾き」及び「粘り」についての官能テストの結果、実施例3のシャフトについて、「弾く」「安定性がある」との、最も高い評価が得られ、次いで、実施例2,1,4、比較例1の順であった。つまり、4軸織物層4を有するシャフト、更には斜交軸糸及び横軸糸の強化繊維の引張り弾性率が高いシャフトの方が「弾き」感が向上した。
【0050】
次に、これらのシャフト重心に加振器を取り付け、振動特性(振動減衰)について調査した。実施例1−4及び比較例1のシャフトについては、重量、剛性共に同等であるため、固有振動数の差は認めらない。しかし、各振動モードでの減衰比を表す損失係数が異なることがわかる。振動減衰について、減衰比ζは以下の式で求めることができる。
【0051】
ζ=c/2(mk)1/2
ここで、c は材料によって定まる減衰係数、mは重量、kは弾性率を示す。減衰比が小さいシャフトほど、より「弾く」という官能評価が高くなる。「弾き」がよいという官能評価を得るには、減衰比を小さくする必要があり、それは弾性率の高い材料を使用することで達成できる。
【0052】
官能テストの内、「安定感」に関しては、実施例1〜4と比較例1の比較評価を行った。その結果を表3に示す。比較例1と比べて、フィーリングの最も良いものを1、良いもの2、どちらかといえばよいものを3、同等のものを4として評価をした。
【0053】
【表3】

表3からわかるように、プロゴルファーによる試打評価の結果、「かたさ感」に影響する曲げ剛性値(表1、2中のEI値)は、各実施例1から4において、ほとんど同等であるにもかかわらず、「安定感」はかなり異なる評価であった。この中でも、ヘッドスピード(H/S)の速い、もしくはスイングテンポの速いプロゴルファーB及びAには、バネ定数の高い実施例2及び実施例3のシャフトは、「しっかりしている」と感じられるために、「安定感」について高評価であった。
【0054】
本発明者は、スイングテンポはシャフトの最大たわみ量で表すことができるとの知見をもっている。すなわち、ヘッドスピードが速い、もしくはスイングテンポが速いと、スイング中にシャフトにかかる曲げモーメントが増大し、その結果、シャフトのしなり量が増え、スイングテンポが速い人ほどしなり量を少なくするために、かたいシャフトが必要であると考えている。これを判別する装置として、本発明者らは特許3061640(WO96/11726)を発明した。
【0055】
以上の結果から、シャフトのしなりだけでなく、バネ定数に関しても安定性に影響することがわかる。よって、「弾き」が良く、より安定感のあるシャフトを得るには、曲げ振動減衰を小さくし、かつ、バネ定数を、ゴルファーの力量に応じて設定する必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維強化樹脂層を積層してなる繊維強化樹脂製のゴルフシャフトであって、前記繊維強化樹脂層は4軸織物を成形用樹脂で強化した4軸織物層を含み、前記4軸織物は、シャフトの長手方向に平行に延びる複数の縦軸糸、シャフトの長手方向に直交する方向に沿って延びる複数の横軸糸、シャフトの長手方向に対して左右に斜交する一組の複数の斜交軸糸から構成され、前記縦軸糸、横軸糸、及び斜交軸糸の内、少なくとも一種類の軸糸が、他の軸糸とは異なる特性を有する強化繊維により形成されていることを特徴とするゴルフシャフト。
【請求項2】
前記縦軸糸の強化繊維は、その引張強度が4000MPa〜7000MPaの炭素繊維からなり、横軸糸の強化繊維は、その引張弾性率が240GPa〜800GPaの炭素繊維からなり、斜交軸糸の強化繊維は、その引張弾性率が400GPa〜800GPaの炭素繊維からなることを特徴とする請求項1に記載のゴルフシャフト。
【請求項3】
前記4軸織物層の強化繊維の繊度は、50tex〜200tex(g/1000m)であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴルフシャフト。
【請求項4】
前記4軸織物層は、最外層または最外層から2層目に配置したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のゴルフシャフト。
【請求項5】
前記ゴルフシャフトの繊維強化樹脂層の樹脂含有量は、前記ゴルフシャフトの全重量の20%〜30%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のゴルフシャフト。
【請求項6】
前記ゴルフシャフトはその先端から後端に向かって漸次外径が大きくなるテーパー状を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のゴルフシャフト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のゴルフシャフトを備え、その先端にヘッドが装着され、その後端にグリップが装着されたゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/065785
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516788(P2005−516788)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008815
【国際出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【出願人】(302019599)ミズノ テクニクス株式会社 (47)
【Fターム(参考)】