説明

サイレントチェーン伝動装置

【課題】サイレントチェーンのガイドプレートがリンクプレートよりも先にスプロケット歯に接触することを防止することで、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能の向上を図る。
【解決手段】サイレントチェーン伝動装置1は、サイレントチェーン2と、該サイレントチェーン2と噛み合うスプロケット7とを備える。サイレントチェーン2は、1対のガイドプレート10および複数のミドルリンクプレート30から構成されるガイド列3と、複数のインナリンクプレート40から構成される非ガイド列4とを有する。ミドルリンクプレート30におけるスプロケット歯8との噛合い開始点P3と、インナリンクプレート40におけるスプロケット歯8との噛合い開始点は、サイレントチェーン2の横振れ状態時に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが各リンクプレート30,40とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドプレートを有するサイレントチェーンと、該サイレントチェーンが噛み合うスプロケットとを備えるサイレントチェーン伝動装置に関する。そして、該サイレントチェーン伝動装置は、例えば自動車(例えば、内燃機関のタイミングチェーン装置)や産業機械などに使用される。
【背景技術】
【0002】
サイレントチェーンおよびスプロケットを備えるサイレントチェーン伝動装置において、サイレントチェーンが、1対のガイドプレートおよび該1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と、複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列と、前記1対のガイドプレートに設けられた1対の連結ピンとを有し、ガイド列および非ガイド列が前記1対の連結ピンにより連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖しているものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3054144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記サイレントチェーン伝動装置の作動時に、サイレントチェーンの走行状態は様々に変化し、例えば、サイレントチェーンに、チェーン幅方向での振れ(以下、「横振れ」という。)が発生することがある。
そして、図5に示されるように、1対のガイドプレート03および複数のミドルリンクプレート04から構成されるガイド列02と、複数のインナリンクプレート06から構成される非ガイド列05と、1対のガイドプレート03に設けられた1対の連結ピン07とを有するサイレントチェーン01において、ガイド列02が駆動スプロケット08に噛み合い始めるときに、ガイドプレート03の内方輪郭面の内方端面03aがミドルリンクプレート04の内側フランク面04aにおけるスプロケット歯09との噛合い開始点04pの近傍に位置する場合には、前述の横振れが発生すると、ミドルリンクプレート04がスプロケット歯09に接触するよりも前に、ガイドプレート03がスプロケット歯09に接触することがある。
また、図6に示されるように、非ガイド列05が駆動スプロケット08に噛み合い始めるときに、ガイドプレート03の内方輪郭面の内方側端面03bがインナリンクプレート06の内側フランク面06aにおけるスプロケット歯09との噛合い開始点06pよりもスプロケット歯09に向って突出している場合には、前述の横振れが発生すると、インナリンクプレート06がスプロケット歯09に接触するよりも前に、ガイドプレート03がスプロケット歯09に接触することがある。
【0005】
このように、サイレントチェーンがスプロケットに噛み合い始めるときに、チェーンの騒音低減のために、本来であれば、ガイドプレートに接触することなく、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートに接触して噛合いを開始するスプロケット歯が、それらミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートよりも先にガイドプレートに接触すると、ガイドプレートとスプロケット歯との接触に起因する騒音が発生して、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能の低下を招来する。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、すなわち、本発明の目的は、サイレントチェーンのガイドプレートがリンクプレートよりも先にスプロケット歯に接触することを防止することで、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能の向上を図ることである。 さらに、本発明の別の目的は、前述の目的をガイドプレートの形状により、簡単な構造で実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、1対のガイドプレート(10)および前記1対のガイドプレート(10)間に配置されたミドルリンクプレート(30)から構成されるガイド列(3)と複数のインナリンクプレート(40)から構成される非ガイド列(4)とが、前記1対のガイドプレート(10)にチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピン(5)により連結されて前記チェーン走行方向に交互に連鎖しているサイレントチェーン(2)と、前記サイレントチェーン(2)が噛合い可能な複数のスプロケット歯(8)を有するスプロケット(7)と、を備えるサイレントチェーン伝動装置において、前記ミドルリンクプレート(30)および前記インナリンクプレート(40)の少なくとも一方のリンクプレート(30,40)における前記スプロケット歯(8)との噛合い開始点(P3,P4)は、前記サイレントチェーン(2)の横振れ状態時に、前記一方のリンクプレート(30,40)と前記スプロケット歯(8)との噛合い開始以前における前記ガイドプレート(10)と前記スプロケット歯(8)との接触を回避する位置に設定されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置において、前記ガイドプレート(10)の形状は、前記横振れ状態時に、前記一方のリンクプレート(30,40)と前記スプロケット歯(8)との噛合い開始以前における前記ガイドプレート(10)と前記スプロケット歯(8)との接触を回避する形状であることにより、前述した課題を解決するものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置において、前記一方のリンクプレート(30,40)が前記ミドルリンクプレート(30)である場合に、前記ガイドプレート(10)の形状は、前記横振れ状態時に、前記ミドルリンクプレート(30)の内側フランク面(34,35)と前記スプロケット歯(8)との噛合い開始以前における前記ガイドプレート(10)と前記スプロケット歯(8)との接触を回避する形状であることにより、前述した課題を解決するものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置において、前記一方のリンクプレート(30,40)が前記インナリンクプレート(40)である場合に、前記ガイドプレート(10)の形状は、前記横振れ状態時に、前記インナリンクプレート(40)の内側フランク面(44,45)と前記スプロケット歯(8)との噛合い開始以前における前記ガイドプレート(10)と前記スプロケット歯(8)との接触を回避する形状であることにより、前述した課題を解決するものである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のサイレントチェーン伝動装置において、前記ガイドプレート(10)の形状は、前記横振れ状態時に、前記インナリンクプレート(40)の前記内側フランク面(44,45)と前記スプロケット歯(8)との噛合い開始から前記ミドルリンクプレート(30)の外側フランク面(36,37)がスプロケット(7)に着座するまでの間における前記ガイドプレート(10)と前記スプロケット歯(8)との接触を回避する形状であることにより、前述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、サイレントチェーンの一方のリンクプレートにおけるスプロケット歯との噛合い開始点は、サイレントチェーンの横振れ状態時において、該一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に、ガイドプレートとスプロケット歯とが接触しない位置にあるので、走行しているサイレントチェーンが横振れ状態でスプロケット歯との噛合いを開始するときに、一方のリンクプレートのフランク面との噛合いを開始するまで、スプロケット歯がガイドプレートと接触することが防止される。
この結果、サイレントチェーンとスプロケット歯との噛合い開始時の前後において、サイレントチェーンが横振れ状態になっているときにも、サイレントチェーンとスプロケット歯との噛合い開始以前には、ガイドプレートとスプロケット歯との接触が防止されて、サイレントチェーンが正規の位置で走行しているときと同様に、サイレントチェーンのリンクプレートがスプロケット歯に最初に接触するという設計思想に沿った噛合い開始形態が維持されること、および、噛合い開始以前におけるガイドプレートとスプロケット歯との接触に起因する騒音が防止されることから、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能を向上させることができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。
一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始点を、サイレントチェーンの横振れ状態時に、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する位置に設定することを、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する形状を有するガイドプレートを使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。
内股噛合いタイプのサイレントチェーンにおいて、ミドルリンクプレートの内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始点を、サイレントチェーンの横振れ状態時に、該内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する位置に設定することを、該内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する形状を有するガイドプレートを使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。
内股噛合いタイプのサイレントチェーンにおいて、インナリンクプレートの内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始点を、サイレントチェーンの横振れ状態時に、内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する位置に設定することを、内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する形状を有するガイドプレートを使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。
サイレントチェーンの横振れ状態時に、インナリンクプレートの内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始後においても、ミドルリンクプレートの外側フランク面がスプロケットに着座するまでは、インナリンクプレートの内側フランク面とスプロケット歯との噛合い開始以前と同様に、ガイドプレートとスプロケット歯とが接触しない。この結果、インナリンクプレートとスプロケット歯との噛み合い開始後においても、ガイドプレートとスプロケット歯との接触に起因する騒音が防止されるので、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能を一層向上させることができる。
しかも、インナリンクプレートとスプロケットとの噛合い開始後からミドルリンクプレートがスプロケットに着座するまでの間のガイドプレートとスプロケット歯との非接触状態を、インナリンクプレートとスプロケットとの噛合い開始後からミドルリンクプレートがスプロケットに着座するまでの間でガイドプレートとスプロケット歯とが接触することを回避する形状を有するガイドプレートを使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係るサイレントチェーン伝動装置の要部側面図。
【図2】図1のサイレントチェーン伝動装置において、サイレントチェーンの、回動中心線を含むとともにチェーン走行方向に沿った平面での要部断面図。
【図3】図1のサイレントチェーン伝動装置において、サイレントチェーンのガイド列付近の図であり、(a)は、要部拡大側面図、(b)は、(a)のb−b断面図。
【図4】図1のサイレントチェーン伝動装置において、サイレントチェーンの非ガイド列付近の要部拡大側面図。
【図5】従来のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンのガイド列付近の要部拡大側面図。
【図6】図5のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンの非ガイド列付近の要部拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のサイレントチェーン伝動装置は、1対のガイドプレートおよび前記1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、前記1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されて前記チェーン走行方向に交互に連鎖しているサイレントチェーンと、前記サイレントチェーンが噛合い可能な複数のスプロケット歯を有するスプロケットとを備え、前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方のリンクプレートにおける前記スプロケット歯との噛合い開始点は、前記サイレントチェーンの横振れ状態時に、前記一方のリンクプレートと前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する位置に設定されるものであり、サイレントチェーンのガイドプレートがリンクプレートよりも先にスプロケット歯に接触することが防止されて、サイレントチェーン伝動装置の騒音性能を向上させるものであれば、その具体的な態様は如何なるものであっても構わない。
【0019】
例えば、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始点を、サイレントチェーンの横振れ状態時に、ガイドプレートとスプロケット歯とが一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定するために、ガイドプレートの形状以外に、スプロケット歯の形状が、サイレントチェーンの横振れ状態時に、一方のリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前にガイドプレートとスプロケット歯との接触を回避する形状であってもよい。
また、サイレントチェーンは、内股噛合い・外股着座タイプである、以外のもの、例えば外股噛合い・外股着座タイプや内股噛合い・内股着座タイプであってもよい。
サイレントチェーンは、無端のチェーンおよび往復運動する有端のチェーンのいずれであってもよい。
スプロケットは、駆動スプロケットおよび被動スプロケットのいずれでもよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を図1〜図4を参照して説明する。
ここで、図1は、本発明の実施例に係るサイレントチェーン伝動装置1の要部側面図、図2は、図1のサイレントチェーン伝動装置1において、サイレントチェーン2の要部断面図、図3は、サイレントチェーン2のガイド列3付近の図であり、(a)は、要部拡大側面図、(b)は、(a)のb−b断面図、図4は、サイレントチェーン2の非ガイド列4付近の要部拡大側面図である。
【0021】
図1,図2に示されるように、サイレントチェーン伝動装置1は、複数のガイド列3および複数の非ガイド列4が、複数の連結ピン5により屈曲可能に連結されてチェーン走行方向に交互に連鎖しているサイレントチェーン2と、該サイレントチェーン2が巻き掛けられる1以上のスプロケットから構成されるスプロケット構造体6とを備える。
そして、前記スプロケットは、サイレントチェーン2が噛合い可能な複数のスプロケット歯を有している。
【0022】
サイレントチェーン2は、この実施例では、ガイド列3および非ガイド列4が連結ピン5により無端状に連結された無端チェーンである。
また、スプロケット構造体6は、この実施例では、複数の前記スプロケット、具体的には1以上の駆動スプロケットおよび1以上の被動スプロケットから構成される。
そして、図1には、前記スプロケットの一例として、複数のスプロケット歯8を有する駆動スプロケットであり、かつ回転中心線Lsを中心にして回転方向Rに回転するスプロケット7が示されている。
【0023】
ここで、チェーン走行方向は、スプロケット7に噛み合っているサイレントチェーン2が移動する方向であり、チェーン幅方向は、連結ピン5により規定されるガイド列3および非ガイド列4の屈曲中心線Lcに平行な方向、またはスプロケット7の回転中心線Lsに平行な方向である。そして、前後方向は、チェーン走行方向での前方および後方である。
また、側面視は、回転中心線Lsに平行な方向から見ることであり、径方向は、スプロケット7の回転中心線Lsを中心とする径方向である。
さらに、サイレントチェーン2の横振れ状態とは、走行状態にあるサイレントチェーン2がチェーン幅方向に振れる状態を意味している。
【0024】
サイレントチェーン2は、1対のガイドプレート10および第1所定数としての1以上の、ここでは4つのミドルリンクプレート30を有するガイド列3と、前記第1所定数よりも1つ大きい第2所定数としての複数の、ここでは5つのインナリンクプレート40を有する非ガイド列4と、1つのガイド列3毎の1対のガイドプレート10にチェーン走行方向に離隔して保持されるとともにミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40を回動可能に連結する1対の連結ピン5とを有している。
【0025】
各ガイド列3において、複数のミドルリンクプレート30は、チェーン幅方向で1対のガイドプレート10の間に配置されている。各ガイドプレート10には、チェーン走行方向(または、前後方向)で離隔した位置に、1対の連結ピン5を保持する1対の保持部としてのピン保持孔11が設けられている。
各連結ピン5は、チェーン幅方向での両端部において、ピン保持孔11に挿入された状態で、固定手段(例えば、圧入またはカシメ)により、ガイドプレート10に固定されている。
【0026】
各非ガイド列4において、複数のインナリンクプレート40は、チェーン走行方向で隣接するガイド列3に跨って、かつチェーン幅方向で1対のガイドプレート10の間に配置されている。
そして、前記第1所定数のミドルリンクプレート30および前記第2所定数のインナリンクプレート40は、1対のガイドプレート10の間で、チェーン幅方向に交互に積層された状態で配置されている。
【0027】
併せて、図3,図4を参照すると、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40のそれぞれは、径方向内方に突出していてスプロケット歯8と噛み合う、または接触する1対のリンク歯32,33;42,43を有している。
1対のリンク歯32,33は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部リンク歯32および後方側の後部リンク歯33であり、1対のリンク歯42,43は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部リンク歯42および後方側の後部リンク歯43である。
各リンク歯32;33は、スプロケット歯8と接触可能な内側フランク面34;35および外側フランク面36;37を有し、各リンク歯42;43は、スプロケット歯8と接触可能な内側フランク面44;45および外側フランク面46;47を有している。
【0028】
各リンクプレート30;40における1対の内側フランク面34,35;44,45は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部内側フランク面34;44および後方側の後部内側フランク面35;45であり、1対の外側フランク面36,37;46,47は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部外側フランク面36;46および後方側の後部外側フランク面37;47である。
また、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40のそれぞれには、チェーン走行方向に離隔した位置に、連結ピン5が挿通されるピン挿通孔31,41(図2参照)が設けられている。
【0029】
1つのガイド列3における1対のガイドプレート10に保持された1対の連結ピン5は、1対のガイドプレート10の間で、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40からなるリンクプレート群を、各連結ピン5がピン挿通孔31およびピン挿通孔41を貫通した状態で連結する。
ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40は、連結ピン5により連結された状態で、連結ピン5により規定される屈曲中心線Lcでもある回動中心線を中心に回動可能または屈曲可能である。
連結ピン5は、この実施例では、単一の丸ピンであるが、別の例として、複数のピンにより構成されるロッカーピンであってもよい。
【0030】
図4,図5に示されるように、サイレントチェーン2が正規の位置(以下、「正規位置」という。)で走行している場合に、ガイド列3および非ガイド列4がスプロケット歯8に噛み合うときには、各リンクプレート30,40の前部内側フランク面34,44がスプロケット歯8に接触して噛合いが開始した後に、この噛合いの進行に伴って噛合い点がスプロケット歯8に沿って径方向内方に移動する過程で、各リンクプレート30;40における噛合い点が内側フランク面34;44からそれぞれの1対の外側フランク面36,37;46,47に移行して、噛合い終了時に各リンクプレート30;40の両外側フランク面36,37;46,47がスプロケット歯8に接触し、ミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座する。それゆえ、サイレントチェーン2は、いわゆる内股噛合い・外股着座タイプである。
【0031】
ここで、正規位置とは、スプロケット歯8が、ガイド列3毎の1対のガイドプレート10の、チェーン幅方向での間隔W(図2参照)内に位置するときの位置であり、換言すれば、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが、チェーン幅方向で同じ位置を占めない(または、チェーン幅方向での位置で重ならない)ときの位置である。
そして、サイレントチェーン2が横振れ状態にあるときは、サイレントチェーン2が、スプロケット歯8に対してチェーン幅方向に正規位置から相対的に移動して、正規位置を占めていないことを意味している。
したがって、横振れ状態にあるときに、サイレントチェーン2は、チェーン幅方向で、正規位置から、スプロケット歯8に対して相対的に移動して、ガイドプレート10が間隔W内に位置しない状態としての幅方向相対移動状態にある。
なお、図1〜図4には、正規位置にあるサイレントチェーン2が示されている。
【0032】
図2に示されるように、各ガイドプレート10は、チェーン幅方向での側面である外側面12(図3も参照)および内側面13を有している。
また、図3(a),図4に示されるように、側面視でのガイドプレート10の輪郭面20は、ガイドプレート10においてチェーン走行方向での最大幅を有する部分である最大幅部15を境に、スプロケット歯8が位置する側(すなわち、径方向内方)の内方輪郭面22と、該内方輪郭面22とは反対側(すなわち、径方向外方)の外方輪郭面21とに分けられる。そして、内方輪郭面22は、該内方輪郭面22において径方向で最も内方に位置する部分を有する内方端面23と、内方端面23から最大幅部15までの1対の内方側端面24,25とを有している。
内方端面23は、側面視で、内方輪郭面22とミドルリンクプレート30の1対の内側フランク面44,45との交差部22a,22bまたは該交差部22a,22bの近傍が、チェーン走行方向での両端部となる部分であり、1対の内方側端面24,25よりも径方向内方に位置する。
また、1対の内方側端面24,25は、チェーン走行方向に関して、前方側の前部内方側端面24および後方側の後部内方側端面25である。
【0033】
そして、サイレントチェーン2がスプロケット7により駆動されて走行状態にあるとき、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40のそれぞれの前部内側フランク面34,44におけるスプロケット歯8との噛合い開始点P3,P4は、サイレントチェーン2が横振れ状態にあるときに、サイレントチェーン2が正規位置を占めているときと同様に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが各リンクプレート30,40の前部内側フランク面34,44とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触することを回避する位置、換言すれば、各リンクプレート30,40の前部内側フランク面34,44とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触しない位置に設定されている。
このため、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40がスプロケット歯8に噛み合い始めるときには、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40が、常にガイドプレート10よりも先にスプロケット歯8に接触することになる。
【0034】
そして、ガイドプレート10の形状は、サイレントチェーン2の横振れ状態時にも、噛合い開始点P3,P4が、ガイドプレート10とスプロケット7とが各リンクプレート30,40とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触することを回避する位置になるように、換言すれば、ガイドプレート10とスプロケット7とが各リンクプレート30,40とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触しない位置になるように設定されている。
具体的には、図3(a)に示されるように、ガイドプレート10の形状は、ミドルリンクプレート30がスプロケット歯8に噛み合い始めるときには、横振れ状態時において、ミドルリンクプレート30の前部内側フランク面34とスプロケット歯8aとの噛合い開始以前に、内方端面23および両内方側端面24,25とスプロケット歯8aとが接触しない形状である。
このため、前部内側フランク面34とスプロケット7との噛合い開始以前には、内方輪郭面22は、内方端面23を含むその全体において、噛合い開始点P3よりも径方向外方に位置している。
そして、図3(a)に示されるように、側面視で、ガイドプレート10がスプロケット歯8と重なる重なり部17を有する場合には、前部内側フランク面34とスプロケット歯8aとの噛合い開始以前における内方端面23とスプロケット歯8aとの接触を回避するために、横振れ状態時においても、重なり部17においてスプロケット歯8が間隔W内に位置するように内側端面23の形状が設定される(図3(b)参照)。
なお、別の例として、ガイドプレート10の形状は、ミドルリンクプレート30とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート10の全体とスプロケット歯8とが重ならない形状であってもよい。
【0035】
また、図4に示されるように、ガイドプレート10の形状は、非ガイド列4のインナリンクプレート40がスプロケット歯8に噛み合い始めるときには、横振れ状態時において、内方端面23および両内方側端面24,25とスプロケット歯8とがインナリンクプレート40の前部内側フランク面44とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触することを回避する形状である。
このため、前部内側フランク面44とスプロケット歯8との噛合い開始以前には、内方輪郭面22は、後部内方側端面25を含むその全体において、噛合い開始点P4よりも径方向外方に位置していて、側面視でガイドプレート10の全体とスプロケット歯8とが重ならない(すなわち、ガイドプレート10の全体がスプロケット歯8の径方向外方に位置する)。
【0036】
さらに、ガイドプレート10の形状は、インナリンクプレート40とスプロケット歯8との噛合いが進行して、インナリンクプレート40の前部内側フランク面44とスプロケット歯8bとの噛合い開始から、該インナリンクプレート40よりも前方に位置する(すなわち、先行する)ミドルリンクプレート30の両外側フランク面36,37が、スプロケット歯8aよりも前方のスプロケット歯8cとスプロケット歯8bとにそれぞれ接触してスプロケット7に着座するまでの間において、ガイドプレート10の内方輪郭面22とスプロケット歯8bとが接触することを回避する形状であり、または側面視でガイドプレート10とスプロケット歯8とが重ならない形状である。
したがって、後部内方側端面25の形状は、インナリンクプレート40とスプロケット歯8との噛合い開始から、該インナリンクプレート40よりも前方に位置するミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座するまでの間において、後部内方側端面25とスプロケット歯8とが接触することを回避する形状であり、または、側面視で後部内方側端面25とスプロケット歯8とが重ならない形状である。
【0037】
そして、噛合い開始点P3,P4の前述の位置、および、スプロケット歯8に対するガイドプレート10の前述の形状により、サイレントチェーン伝動装置1の作動時に、走行中のサイレントチェーン2が横振れ状態であるときにも、ガイドプレート10がミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40よりも先にスプロケット歯8に接触することが防止される。
【0038】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
サイレントチェーン2および該サイレントチェーン2と噛み合うスプロケット7とを備えるサイレントチェーン伝動装置1において、ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40のそれぞれにおけるスプロケット歯8との噛合い開始点P3,P4は、サイレントチェーン2の横振れ状態時に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが各リンクプレート30,40とスプロケット歯8との噛合い開始以前に接触することを回避する位置に設定されている。
【0039】
この構造により、サイレントチェーン2の各リンクプレート30,40におけるスプロケット歯8との噛合い開始点P3,P4は、サイレントチェーン2の横振れ状態時において、各リンクプレート30,40とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触しない位置にあるので、走行しているサイレントチェーン2が、横振れ状態でスプロケット歯8a,8bとの噛合いを開始するときに、スプロケット歯8a,8bは、各リンクプレート30,40の内側フランク面34,44との噛合いを開始するまで、ガイドプレート10と接触することが防止される。
この結果、サイレントチェーン2とスプロケット歯8との噛合い開始時の前後において、サイレントチェーン2が横振れ状態になっているときにも、サイレントチェーン2とスプロケット歯8との噛合い開始以前には、ガイドプレート10とスプロケット歯8との接触が防止されて、サイレントチェーン2が正規位置で走行しているときと同様に、サイレントチェーン2の各リンクプレート30,40がスプロケット歯8に最初に接触するという設計思想に沿った、サイレントチェーン2の本来の噛合い開始形態が維持されること、および、噛合い開始以前におけるガイドプレート10とスプロケット歯8との接触に起因する騒音が防止されることから、サイレントチェーン伝動装置1の騒音性能を向上させることができる。
【0040】
ガイドプレート10の形状は、横振れ状態時において、ミドルリンクプレート30の内側フランク面34とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、かつインナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触することを回避する形状である。
これにより、内股噛合いタイプのサイレントチェーン2において、ミドルリンクプレート30の内側フランク面34とスプロケット歯8との噛合い開始点P3、およびインナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8との噛合い開始点P4を、サイレントチェーン2の横振れ状態時に、各内側フランク面34,44とスプロケット歯8との噛合い開始以前にガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触することを回避する位置に設定することを、各内側フランク面34,44とスプロケット歯8との噛合い開始以前にガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート10を使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
また、ガイドプレート10の形状が、横振れ状態時において、ミドルリンクプレート30の内側フランク面34とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート10とスプロケット歯8とが重なることがなく、かつインナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8との噛合い開始以前に、側面視でガイドプレート10とスプロケット歯8とが重なることがない形状である場合にも、前述の効果が奏される。

【0041】
さらに、ガイドプレート10の形状は、サイレントチェーン2が横振れ状態にあるときに、インナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8bとの噛合い開始からミドルリンクプレート30の両外側フランク面36,37がスプロケット7に着座するまでの間におけるガイドプレート10とスプロケット歯8との接触を回避する形状である。
これにより、内股噛合い・外股着座タイプのサイレントチェーン2において、サイレントチェーン2の横振れ状態時に、インナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8bとの噛合い開始後においても、ミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座するまでは、インナリンクプレート40の内側フランク面44とスプロケット歯8bとの噛合い開始以前と同様に、ガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触しない。この結果、インナリンクプレート40とスプロケット歯8との噛み合い開始後においても、ガイドプレート10とスプロケット歯8との接触に起因する騒音が防止されるので、サイレントチェーン伝動装置1の騒音性能を一層向上させることができる。
しかも、インナリンクプレート40とスプロケット7との噛合い開始後からミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座するまでの間のガイドプレート10とスプロケット歯8との非接触状態を、インナリンクプレート40とスプロケット7との噛合い開始後からミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座するまでの間でガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート10を使用することにより、簡単な構造で実現することができる。
【0042】
また、内方輪郭面22の全体が噛合い開始点P3,P4よりも径方向外方に位置することにより、ガイドプレート10を径方向で小型化することができて、ガイドプレート10の軽量化が可能になる。さらに、インナリンクプレート40とスプロケット7との噛合い開始後からミドルリンクプレート30がスプロケット7に着座するまで、ガイドプレート10の後部内方側端面25とスプロケット歯8とが接触することを回避する形状を有するガイドプレート10であることにより、ガイドプレート10を径方向で一層小型化することができる。
【0043】
以下、前記した実施例の一部が変更された例について、変更された部分を中心に説明する。
ミドルリンクプレート30およびインナリンクプレート40の一方のリンクプレートにおけるスプロケット歯8との噛合い開始点P3または噛合い開始点P4が、サイレントチェーン2の横振れ状態時に、前記一方のリンクプレートとスプロケット歯8との噛合い開始以前にガイドプレート10とスプロケット歯8とが接触することを回避する位置に設定されていてもよい。この場合にも、サイレントチェーンの横振れ状態時に、ミドルリンクプレートおよびインナリンクプレートとスプロケット歯との噛合い開始以前に、ガイドプレートとスプロケット歯とが接触する技術に比べて、ガイドプレート10とスプロケット歯8との接触に起因する騒音を低減することができる。
スプロケット7が被動スプロケットである場合、噛合い開始点P3,P4は、後部内側フランク面35,45に位置する。
【符号の説明】
【0044】
1 サイレントチェーン伝動装置
2 サイレントチェーン
3 ガイド列
4 非ガイド列
5 連結ピン
7 スプロケット
8 スプロケット歯
10 ガイドプレート
23 内方端面
24,25 内方側端面
30 ミドルリンクプレート
34,35 内側フランク面
36,37 外側フランク面
40 インナリンクプレート
44,45 内側フランク面
46,47 外側フランク面
P3,P4 噛合い開始点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のガイドプレートおよび前記1対のガイドプレート間に配置されたミドルリンクプレートから構成されるガイド列と複数のインナリンクプレートから構成される非ガイド列とが、前記1対のガイドプレートにチェーン走行方向で離隔して保持される1対の連結ピンにより連結されて前記チェーン走行方向に交互に連鎖しているサイレントチェーンと、前記サイレントチェーンが噛合い可能な複数のスプロケット歯を有するスプロケットと、を備えるサイレントチェーン伝動装置において、
前記ミドルリンクプレートおよび前記インナリンクプレートの少なくとも一方のリンクプレートにおける前記スプロケット歯との噛合い開始点は、前記サイレントチェーンの横振れ状態時に、前記一方のリンクプレートと前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する位置に設定されていることを特徴とするサイレントチェーン伝動装置。
【請求項2】
前記ガイドプレートの形状は、前記横振れ状態時に、前記一方のリンクプレートと前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する形状であることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置。
【請求項3】
前記一方のリンクプレートが前記ミドルリンクプレートである場合に、
前記ガイドプレートの形状は、前記横振れ状態時に、前記ミドルリンクプレートの内側フランク面と前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する形状であることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置。
【請求項4】
前記一方のリンクプレートが前記インナリンクプレートである場合に、
前記ガイドプレートの形状は、前記横振れ状態時に、前記インナリンクプレートの内側フランク面と前記スプロケット歯との噛合い開始以前における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する形状であることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン伝動装置。
【請求項5】
前記ガイドプレートの形状は、前記横振れ状態時に、前記インナリンクプレートの前記内側フランク面と前記スプロケット歯との噛合い開始から前記ミドルリンクプレートの外側フランク面がスプロケットに着座するまでの間における前記ガイドプレートと前記スプロケット歯との接触を回避する形状であることを特徴とする請求項4記載のサイレントチェーン伝動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−159147(P2012−159147A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19814(P2011−19814)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)