説明

サスペンション装置

【目的】 減衰力調整アクチュエータを高速で切り替える必要をなくし、その切り替え頻度を低減して機器の耐久性を向上させるとともに、車高センサを不要にして、構成の簡素化およびローコスト化を図る。
【構成】 シリンダ11内を上下2室A,Bに隔成するピストン12を取り付けたピストンロッド13に伸側および圧側ごとに独立してもうけられ、かつ上記2室A,Bを連通する連通孔35,36と、伸側の上記連通孔35を閉じたとき圧側の上記連通孔36を開き、伸側の上記連通孔35が開いたとき圧側の上記連通孔36を閉じるとともに、必要に応じ上記伸側および圧側の各連通孔35,36を開くロータリーバルブ37とを備え、コントローラ9を用いて、上記車体速度の大きさに応じて、上記伸側および圧側の連通孔35,36を開閉するように上記ロータリーバルブ37の回動量を制御可能にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、車体速度に応じて伸側減衰力および圧側減衰力を切り替え制御するサスペンション装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図5は従来のサスペンション装置を示すブロック図である。これについて述べると、1は車体、2は車輪であり、これらの間には、ばね3,減衰力可変ダンパ4,車高センサ5が装着され、また、車体1には上下方向の加速度を検出する加速度センサ6が設けてある。
【0003】また、車輪2と路面7との間には、ばね要素としてのタイヤ8が存在する。加速度センサ6,車高センサ5の信号はコントローラ9に入力され、コントローラ9は減衰力可変ダンパ4に設けられた減衰力切り替えアクチュエータを駆動し、減衰力を高低2段階に切り替えるようになっている。
【0004】次に、従来のサスペンション装置に用いられる減衰力可変ダンパ4について、図6に基づき説明する。シンリダ11内はピストン12により上下2室としてのA室,B室に仕切られている。シリンダ11とアウターシェル12によりリザーバたるC室が形成されている。
【0005】また、ピストン12はピストンロッド13の一端にねじで締結され、ピストンロッド13の他端はベアリング14およびシール15を貫通して突出し、車体1側に取り付けられる。
【0006】一方、シリンダ11側はアウターシェル12下部に溶接されたアイ16により車輪側に取り付けられる。シリンダ11下部には圧縮時に減衰力を発生する圧バルブ17と、伸張時にC室からB室に油を吸い込むチェックバルブ18とにより構成されるベースバルブが設けてある。
【0007】また、ピストン12には、伸張時にA室からB室へ油が流れる時の通路となる伸ポート19と伸側減衰力を発生する伸バルブ20とが、圧縮時にB室からA室へ油が流れる時の通路となる圧ポート21と圧側減衰力を発生する圧バルブ22とが設けられている。
【0008】そして、上記ピストンロッド13内は中空となっており、内部にコントロールロッド23とロータリーバルブ24が結合されて挿入され、このロータリーバルブ24の脱落防止のためのロータリーバルブストッパ25が圧入されている。
【0009】また、上記ピストンロッド13にはA室側に連通孔26が設けられ、ロータリーバルブ24には連通孔を開閉するオリフィス27が設けられていて、開状態ではA室とB室がピストンロッド13内のバイパス通路28を介して連通し、ロータリーバルブ13に設けた上記オリフィス27がバイパス流量を規制する。
【0010】また、上記コントロールロッド23は上部ピストンロッド13内に設けたOリング29によりシールされ、減衰力切り替えアクチュエータ30のシャフトと嵌合し、このアクチュエータ30を駆動してコントロールロッド23を回転させることにより、バイパス通路28の開閉を可能にする。
【0011】次に、減衰力可変ダンパの動作について説明する。まず、高減衰力を得るには減衰力切り替えアクチュエータ30を駆動してロータリーバルブ24を回転させ、バイパス通路28を閉じる。伸行程では、A室の油が伸ポート19,伸バルブ20を通りB室に流れる。
【0012】このため、発生するA,B室の差圧により伸側減衰力が発生する。ここでピストンロッド13がシリンダ11外に突出した体積に相当する油が、C室よりベースバルブのチェックバルブ18を通りB室に補充される。
【0013】一方、圧縮行程では、ピストンロッド13がシリンダ11内に侵入した分の油が、ベースバルブの圧バルブ17を通りC室へ流れる。このとき、圧バルブ17の発生する差圧によりB室の圧力は上昇する。
【0014】一方、B室の油は圧ポート21,圧バルブ22を通りA室にも流れる。このとき発生するA,B室の差圧とB室の圧力により、圧側減衰力が発生する。これがハード状態となる。
【0015】次に、ロータリーバルブ24を回転させ、バイパス通路28を連通させると、上記高減衰力時に対し、ピストン12の伸、圧バルブ20,22をバイパスする油の流れが発生する。
【0016】この流れは各バルブに対し並列流れとなるので、ピストン12の伸,圧バルブ20,22を流れる流量はバイパス流量分だけ少なくなり、伸行程,圧行程ともA−B室間の差圧が小さくなる。その結果、高減衰力時に対し、低い減衰力、すなわちソフトの減衰力となる。
【0017】このときの減衰力特性を図7に示す。この図から分かるように、伸側減衰力がハードの時には縮み側減衰力もハードになり、伸側減衰力がソフトの時には縮み側減衰力もソフトになる。これが従来の減衰力可変ダンパの特徴である。
【0018】次に、上記減衰力可変ダンパ4の制御方法について説明する。図1に示すように、車体1および車輪2の変位を便宜上x,yと定め(矢印方向を正とする)、xa,yaはそれぞれの速度、xb,ybはそれぞれの加速度を示す。
【0019】そこで、車体1に作用する力に着目すると、x>0(車体1が上方に動いている)の時xa−ya>0(ダンパが伸びている)ならば、車体1の運動方向と反対側(下側)の向きに減衰力が作用し、車体に対し制振力となるが、xa−ya<0(ダンパが縮んでいる)場合は、減衰力が車体1の運動方向に作用し、結果として減衰力が加振力となる。xa<0の場合も同様に、減衰力が制振力と加振力になる場合がある。
【0020】そこで、xaを縦軸,xa−yaを横軸として4つの象限に分けると図8(a)に示すように、第1,第3象限は制振作用、第2,第4象限は加振作用を与えることになる。
【0021】そこで、図8(b)に示すように減衰力が制振力として作用する場合は、減衰力をハード、加振力として作用する場合はソフトにするという制御方法が提唱されている。
【0022】これを式で表わすと、xa(xa−ya)>0の時減衰力がハード、xa(xa−ya)<0の時減衰力がソフトということになる。この様に制御することにより、車両の乗心地が向上することになる。
【0023】ここでxaの値は加速度センサの信号xbをコントローラ9内の積分器9aにて積分することにより得られ、xa−yaの値は車高センサの信号x−yを微分器9bにて微分することにより得られる。そして、演算処理・駆動回路9cはこれらの微分器9bおよび微分器9aの出力にもとづき、所定の減衰力調整信号を出力する。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、一般に、xaは車体質量と懸架ばね定数で決まる固有振動数である1Hzの振動数で変化するが、xa−yaは路面7からの瞬間的な入力や、車輪2とタイヤ8との共振等により、かなり多い頻度で正負(伸,圧)の符号が変化する。
【0025】それ故、かなりの頻度で減衰力を切り替える必要がある。そのために、減衰力調整アクチュエータを高速で切り替え動作させなければ、制御効果が低減するし、これによりアクチュエータ,ダンパにかなりの耐久性が必要となるほか、制御に際し、車体1と車輪2の相対速度(xa−ya)が必要なため、車高センサ(もしくは相対速度センサ)5を各車輪2ごとに必要となり、システムのコストが高くなるという問題点があった。
【0026】この発明は上記のような従来の問題点に着目してなされたものであり、減衰力調整アクチュエータを高速で切り替える必要をなくし、その切り替え頻度を低減して機器の耐久性を向上させることができるとともに、車高センサを不要にして、構成の簡素化およびローコスト化を図ることができるサスペンション装置を得ることを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】この発明にかかるサスペンション装置は、車輪側に取り付けられるシリンダ内を上下2室に隔成するピストンと、該ピストンを一端に有し、他端が車体側に取り付けられるピストンロッドと、該ピストンロッドに伸側および圧側ごとに独立して設けられ、かつ上記2室を連通する連通孔と、伸側の上記連通孔を閉じたとき圧側の上記連通孔を開き、伸側の上記連通孔が開いたとき圧側の上記連通孔を閉じるとともに、必要に応じ上記伸側および圧側の各連通孔を開くロータリーバルブとを備え、コントローラを用いて、上記車体速度の大きさに応じて、上記伸側および圧側の連通孔を開閉するように、上記ロータリーバルブの回動量を制御するものである。
【0028】
【作用】この発明におけるコントローラは、車体速度の大きさに応じて、ロータリーバルブの回動量を制御して伸側および圧側の連通孔を開閉し、このときの開閉動作が、伸側減衰力がハードのとき圧側減衰力をソフトにし、伸側減衰力がソフトのとき圧側減衰力をハードとなるようにする。
【0029】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図について説明する。図1において、1は車体、2は車輪であり、これらの間には、ばね3,減衰力可変ダンパ4が装着され、また、車体1には上下方向の加速度を検出する加速度センサ6が設けてある。
【0030】また、車輪2と路面7との間には、ばね要素としてのタイヤ8が存在する。加速度センサ6の信号はコントローラ9に入力され、コントローラ9は減衰力可変ダンパ4に設けられた減衰力切り替えアクチュエータを駆動し、減衰力を高低2段階に切り替えるようになっている。
【0031】また、9aは加速度センサ6の出力を積分する積分器、9cはこの積分器9aの出力にもとづいて減衰力可変ダンパ4の減衰力調整信号を演算し出力する演算処理・駆動回路である。なお、この発明では図5における微分器9bおよび車高センサ5が省かれている。
【0032】また、図2はこの発明において使用する減衰力可変ダンパの詳細を示し、図6について説明したものと同一の構成部分には同一符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0033】すなわち、この発明では、ピストン部に伸バイパス通路31と圧バイパス通路32の2つを設け、各バイパス通路31,32端に伸サブバルブ33および圧サブバルブ34が設けてある。
【0034】また、ピストンロッド13には伸連通孔35と圧連通孔36とが設けられており、それぞれロータリーバルブ24により開閉されるようになっている。ロータリーバルブ37の開口部は、図3に示すようにP−P断面,Q−Q断面でそれぞれ位相をずらして設けてあり、3つの減衰力のモードを取り得るようになっている。
【0035】すなわち、図3において、モードRでは伸連通孔35は閉、圧連通孔36は開であり、モードSでは伸,圧連通孔35,36共開であり、モードCでは伸連通孔35は開、圧連通孔36は閉の状態となるように設定されている。また、減衰力アクチュエータ38は3段階に切り替え可能なもので、各モードを選択できるようになっている。
【0036】次に動作について説明する。まず、減衰力可変ダンパの作動について述べる。モードRでは伸連通孔35は閉じ、圧連通孔36は開いた状態になっている。
【0037】それ故、伸行程では伸バイパス通路31に油が流れず、A室の油はピストン12の伸ポート19,伸バルブ20を通りB室に流れる。このときの差圧により伸側減衰力が発生し、この減衰力がハード特性となる。
【0038】一方、圧行程では圧連通孔36が開いているので、B室からA室への油の流れはピストン12の圧ポート21および圧バルブ22を通る流れと、圧バイパス通路32から圧連通孔36,圧サブバルブ34を通る流れとに分かれる。その結果、A,B室の差圧は小さくなり、ソフトな減衰力となる。
【0039】また、モードSでは伸連通孔35,圧連通孔36が共に開いた状態にあり、共にピストン部をバイパスする流れが生じるために、伸側,圧側減衰力共にソフトの状態となる。モードCでは伸連通孔35は開き圧連通孔36は閉じた状態になっている。それ故、伸行程の時のみピストン部をバイパスする流れが生じ、その結果、伸側減衰力がソフト、圧側減衰力がハードの状態となる。
【0040】さらに、いずれのモードでも、伸行程ではピストンロッド13が突出した分の油がC室からベースバルブのチェックバルブ18を通りB室に補充され、圧縮行程ではピストンロッド13の侵入分の油が、ベースバルブの圧バルブ17を通りC室へ流れ、その時に発生する差圧により、B室の圧力が上昇することは、従来と同様である。
【0041】次に制御方法について説明する。従来の制御方法ではxa>0のとき、xa−ya>0(ダンパ伸状態)の時はハード、xa−ya<0(ダンパ圧縮状態)の時はソフトに制御するようになっている。
【0042】これは、従来の減衰力可変ダンパが伸行程でハードの時は、圧縮行程でもハードになっているからxa−yaの正負により切り替える必要が生じるものである。
【0043】この発明の減衰力可変ダンパでは、伸行程でハードの時は、圧行程は自動的にソフトになっているので、xa−yaの正負により減衰力を切り替える必要がなく、xa>0の時は伸側減衰力をハード(モードR)に制御しておけばよいことになる。同様に、xa<0の時は圧側減衰力をハード(モードC)に制御すればよい。
【0044】すなわち、車体1と車輪2の相対速度xa−Yaに関係なく、車体1の速度xaの正負でモードR,モードCを選択すれば、従来と同様の制御効果を得ることができる。しかも、車体1の速度変化は1Hz位と比較的ゆっくりした振動なので、アクチュエータの減衰力切替速度が比較的遅くても十分な効果が得られ、しかも切り替え頻度も少なくてすむ。
【0045】さらに、路面7からの入力周波数が高周波になると、減衰力は低い方が車体1への伝達力が小さくなり、乗心地はよくなる。高周波になると車体速度xaが小さくなるので、伸側,圧側とも減衰力の低いモードSに切り替える。
【0046】図4に以上の制御則をまとめたものを示す。このように制御することにより、乗心地を向上させることが可能となり、切り替え頻度も極めて少なくすることができる。
【0047】なお、上記実施例では減衰力を3段階に切り替えるものを示したが、2段切り替えとし、モードRとモードCを車体の速度xaの正負だけで切り替えてもよいことは勿論のことである。
【0048】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、車輪側に取り付けられるシリンダ内を上下2室に隔成するピストンと、該ピストンを一端に有し、他端が車体側に取り付けられるピストンロッドと、該ピストンロッドに伸側および圧側ごとに独立して設けられ、かつ上記2室を連通する連通孔と、伸側の上記連通孔を閉じたとき圧側の上記連通孔を開き、伸側の上記連通孔が開いたとき圧側の上記連通孔を閉じるとともに、必要に応じ上記伸側および圧側の各連通孔を開くロータリーバルブとを備え、コントローラを用いて、上記車体速度の大きさに応じて、上記伸側および圧側の連通孔を開閉するように上記ロータリーバルブの回動量を制御するように構成したので、車体速度の大きさのみで減衰力を切り替えることにより、アクチュエータを高速で切り替える必要がなく、小型で安価なアクチュエータが使用でき、さらに減衰力の切り替え頻度が少なくなるので機器の耐久性が向上し、車高センサが不要となるので、システムが安価に構成できるという実用上の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例によるサスペンション装置を示すブロック図である。
【図2】この発明における減衰力可変ダンパを示す断面図である。
【図3】この発明における減衰力可変ダンパの伸圧連通孔の開閉状態および伸圧の減衰力の関係を示す説明図である。
【図4】この発明によるダンパモードにおける車体速度の制限則を示す説明表図である。
【図5】従来のサスペンション装置を示すブロック図である。
【図6】図5における減衰力可変ダンパを示す断面図である。
【図7】従来の減衰力可変ダンパの減衰力特性を示すグラフである。
【図8】従来の減衰力可変ダンパ動作による車体への作用力と制御則の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1 車体
2 車輪
9 コントローラ
11 シリンダ
12 ピストン
13 ピストンロッド
35,36 連通孔
37 ロータリーバルブ
A,B 2室

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車輪側に取り付けられるシリンダ内を上下2室に隔成するピストンと、該ピストンを一端に有し、他端が車体側に取り付けられるピストンロッドと、該ピストンロッドに伸側および圧側ごとに独立して設けられ、かつ上記2室を連通する連通孔と、伸側の上記連通孔を閉じた時圧側の上記連通孔を開き、伸側の上記連通孔が開いた時圧側の上記連通孔を閉じるとともに、必要に応じ上記伸側および圧側の各連通孔を開くロータリーバルブと、上記車体速度の大きさに応じて、上記伸側および圧側の連通孔を開閉するように上記ロータリーバルブの回転量を制御するコントローラとを備えたサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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