説明

サンゴ着生用構造体並びにこれを用いたサンゴ着生方法及びサンゴ礁育成方法

【課題】筒体1の内面にサンゴを着生させることにより、設置が容易で安価なサンゴ着生用構造体並びにこれを用いたサンゴ着生方法及びサンゴ礁育成方法を提供する。
【解決手段】筒体1の周側壁を幅の広い縦糸2と幅の狭い横糸3からなる網体によって構成したサンゴ着生用構造体を海底に設置し、縦糸2の内面にサンゴが着生し成長した後に、筒体1をこの縦糸2ごとに分離して、内面であった側を表にして再度海底に設置することによりサンゴ礁を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴを着生させるサンゴ着生用構造体並びにこれを用いたサンゴ着生方法及びサンゴ礁育成方法に関するものである。なお、サンゴは通常、産卵後に孵化したプラヌラ幼生が海底等に着生して成長するが、本願ではサンゴとその幼生を特に区別せずに単に「サンゴ」と称する。
【背景技術】
【0002】
豊かな自然の象徴とされるサンゴ礁は、近年、海水温の上昇等による白化現象や、外敵となるオニヒトデの大量発生による食害のため、大規模な被害が多く報告されている。そこで、地球環境の保護のために、このように被害を受けたサンゴ礁の再生の要請が高まっている。
【0003】
上記サンゴ礁の再生のために、着生基盤や網状構造体を用いるサンゴ礁の育成方法が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、着生基盤として用いる消波ブロック等を筒状やシート状の網状構造体で覆って、この消波ブロック等に着生したサンゴを網状構造体でオニヒトデやウニ等の外敵から保護したり(特許文献1の第1図等)、シート状の網状構造体の裏面にサンゴを着生させ、外敵による食害を受けにくい大きさにまで成長させてからこの網状構造体を反転させて水中に設置するものである(特許文献1の請求項4や第5図)。
【0004】
ところが、上記従来のサンゴ礁の育成方法では、消波ブロック等の着生基盤が必要となるので、設置が大がかりな工事となり、設置コストが高くなるという問題があった。また、シート状の網状構造体を設置する場合にも、例えば方形シート状の場合には、着生基盤や他の網状構造体との間に隙間をあけて少なくとも四隅をしっかり支持する必要があるので、構造が複雑となり、製造コストが高くなるという問題もあった。
【特許文献1】特開2007−135511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複数の開口孔を形成した筒体や網体からなる筒体の内面にサンゴを着生させることにより、設置が容易で安価なサンゴ着生用構造体並びにこれを用いたサンゴ着生方法及びサンゴ礁育成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のサンゴ着生用構造体は、合成樹脂製又は天然樹脂製の筒体の周側壁の一部に複数の開口孔を形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項2のサンゴ着生用構造体は、前記筒体が、複数の開口孔を有するシート体を1巻回以上丸めて、重なり合った一部を接着、融着又は係止具により止め付けたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3のサンゴ着生用構造体は、前記開口孔が、筒体の周側壁におけるこの筒体の周方向に沿った複数の位置に、それぞれこの筒体の軸方向に沿って並んで複数形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4のサンゴ着生用構造体は、合成樹脂製又は天然樹脂製の筒体の周側壁を網体によって構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項5のサンゴ着生用構造体は、前記筒体が、シート状の網体を1巻回以上丸めて、重なり合った一部を接着、融着又は係止具により止め付けたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項6のサンゴ着生用構造体は、前記網体が、筒体の軸方向に沿った縦糸と周方向に沿った横糸とを交差させたものであり、かつ、縦糸の周方向の幅が横糸の軸方向の幅よりも広いものであることを特徴とする。
【0012】
請求項7のサンゴ着生用構造体は、前記縦糸の内面が凹凸面であることを特徴とする。
【0013】
請求項8のサンゴ着生用構造体は、前記筒体の周側壁の内面が凹凸面であることを特徴とする。
【0014】
請求項9のサンゴ着生用構造体は、前記筒体が、カルシウム化合物を添加した合成樹脂製であることを特徴とする。
【0015】
請求項10のサンゴ着生用構造体は、前記合成樹脂製の筒体が生分解性ポリマーからなることを特徴とする。
【0016】
請求項11のサンゴ着生用構造体は、筒体が、植物性又は動物性の天然樹脂製であることを特徴とする。
【0017】
請求項12のサンゴ着生方法は、前記サンゴ着生用構造体を海中に設置して、このサンゴ着生用構造体の周側壁の内面にサンゴを着生させることを特徴とする。
【0018】
請求項13のサンゴ礁育成方法は、前記海中に設置したサンゴ着生用構造体を、少なくとも筒体の軸方向に沿って複数箇所で切断して複数のシート体若しくは網体に分離し、又は、丸めた筒体の止め付けを外して展開すると共にさらに切断して複数のシート体若しくは網体に分離し、このように分離したシート体若しくは網体を筒体の内面であった側を表にして海中に設置することによりサンゴ礁を育成することを特徴とする。
【0019】
請求項14のサンゴ礁育成方法は、前記海中に設置したサンゴ着生用構造体を、筒体の軸方向に沿って一箇所で切断してシート体若しくは網体に展開し、又は、丸めた筒体の止め付けを外してシート体若しくは網体に展開し、このように展開したシート体若しくは網体を筒体の内面であった側を表にして海中に設置することによりサンゴ礁を育成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、筒体を海中に設置することにより周側壁にサンゴを着生させることができ、しかも、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴは、この筒体の内部に入り込むことができない大きさの外敵を避けることができるので、食害の影響を受けることなく育成されるようになる。また、筒体は、両端の開口部だけでなく、周側壁にも複数の開口孔が形成されているので、酸素を含む新鮮な海水が筒内を自由に流通すると共に、紫外線を含む日光が筒内に満遍なく照射される(造礁サンゴに共生する褐虫藻の光合成を可能とする光環境が確保される)ので、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴを確実に育成することができる。さらに、筒体は、合成樹脂製又は天然樹脂製であるため、製造が容易かつ安価であり、軽量で取り扱いも容易となり、環境に負担をかけない素材選択の自由度も高くなる。
【0021】
請求項2の発明によれば、シート体を丸めて筒体とするので、直接筒体に成形する場合に比べ、製造がさらに容易となる。
【0022】
請求項3の発明によれば、筒体を軸方向に並んだ複数の開口孔に沿って切断すれば、この筒体を周方向に沿った複数の位置で容易に分割することができる。この筒体は、周側壁の内面に着生したサンゴが十分に成長すると、このように分割した後に、内面であった側を表にして再度海中に設置することにより、サンゴ礁として育成することができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、筒体を海中に設置することにより網体の周側壁にサンゴを着生させることができ、しかも、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴは、この筒体の内部に入り込むことができない大きさの外敵を避けることができるので、食害の影響を受けることなく育成されるようになる。また、筒体は、両端の開口部だけでなく、網体の周側壁の多数の網目を通しても、酸素を含む新鮮な海水が筒内を自由に流通すると共に、紫外線を含む日光が筒内に満遍なく照射される(造礁サンゴに共生する褐虫藻の光合成を可能とする光環境が確保される)ので、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴを確実に育成することができる。さらに、筒体は、合成樹脂製又は天然樹脂製であるため、製造が容易かつ安価であり、軽量で取り扱いも容易となり、環境に負担をかけない素材選択の自由度も高くなる。
【0024】
請求項5の発明によれば、シート状の網体を丸めて筒体とするので、直接筒体に成形する場合に比べ、製造がさらに容易となる。
【0025】
請求項6の発明によれば、幅の広い縦糸の各間に沿って幅の狭い横糸を切断すれば、この筒体を幅の広い縦糸ごとに容易に分割することができる。この筒体は、周側壁の内面に着生したサンゴが十分に成長すると、このように幅の広い縦糸ごとに分割した後に、各縦糸を内面であった側を表にして再度海中に設置することにより、サンゴ礁として育成することができる。
【0026】
請求項7の発明によれば、網体の縦糸の内面が凹凸面となるので、サンゴが着生しやすくなる。筒体は、着生したサンゴが十分に成長すると、網体の縦糸の内面であった側を表にして再度海中に設置してサンゴ礁として育成するので、この縦糸の内面にサンゴが多く着生すると、効果的に育成を行うことができる。なお、この筒体は、少なくとも網体の縦糸の内面が凹凸面であればよいので、製造等の都合により横糸の内面や縦糸と横糸の外面等まで凹凸面となることは排除しない。
【0027】
請求項8の発明によれば、筒体の周側壁の内面が凹凸面となるので、サンゴが着生しやすくなる。この筒体は、着生したサンゴが十分に成長すると、周側壁の内面であった側を表にして再度海中に設置してサンゴ礁として育成するので、この周側壁の内面にサンゴが多く着生すると、効果的に育成を行うことができる。なお、この筒体は、少なくとも周側壁の内面が凹凸面であればよいので、製造等の都合により周側壁の外面等まで凹凸面となることは排除しない。
【0028】
請求項9の発明によれば、筒体の合成樹脂がカルシウム化合物を含むので、サンゴの育成を促進させることができるようになる。
【0029】
請求項10の発明によれば、筒体が生分解性ポリマーからなり、年月を経て無害な状態で分解消失するので、環境に不要な負担をかけるおそれがなくなる。
【0030】
請求項11の発明によれば、筒体が植物性又は動物性の天然樹脂製であるため、環境に加わる負担を軽減することができる。
【0031】
請求項12の発明によれば、サンゴ着生用構造体を海底等の海中に設置することにより筒体の周側壁にサンゴを着生させることができ、しかも、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴは、この筒体の内部に入り込むことができない大きさの外敵を避けることができるので、食害の影響を受けることなく育成されるようになる。また、筒体は、両端の開口部だけでなく、周側壁にも複数の開口孔や網目があるので、酸素を含む新鮮な海水が筒内を自由に流通すると共に、紫外線を含む日光が筒内に満遍なく照射される(造礁サンゴに共生する褐虫藻の光合成を可能とする光環境が確保される)ので、筒体の周側壁の内面に着生したサンゴを確実に育成することができる。さらに、筒体は、合成樹脂製又は天然樹脂製であるため、製造が容易かつ安価であり、軽量で取り扱いも容易となり、環境に負担をかけない素材選択の自由度も高くなる。
【0032】
請求項13の発明によれば、サンゴ着生用構造体を複数のシート体又は網体に分離して、筒体の内部に入り込むことができない大きさの外敵を避けて食害の影響を受けることなくサンゴを育成した側、即ち筒体の内面であった側を表にして海底等の海中に設置するので、効果的にサンゴ礁を育成することができる。
【0033】
請求項14の発明によれば、サンゴ着生用構造体をシート体又は網体に展開して、筒体の内部に入り込むことができない大きさの外敵を避けて食害の影響を受けることなくサンゴを育成した側、即ち筒体の内面であった側を表にして海底等の海中に設置するので、効果的にサンゴ礁を育成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図3を参照して説明する。
【0035】
本実施形態では、図1に示すように、筒体の周側壁が網体によって構成されたサンゴ着生用構造体並びにこれを用いたサンゴ着生方法及びサンゴ礁育成方法について説明する。
【0036】
このサンゴ着生用構造体は、合成樹脂製の筒体1からなり、この筒体1の周側壁は、幅の広い縦糸2と幅の狭い横糸3とを交差させた網体によって構成されている。縦糸2は、筒体1の軸方向に沿って配置された細長い方形の薄板状の部分であり、横糸3は、筒体1の周方向に沿って環状に配置された細い棒状の部分である。従って、縦糸2の周方向の幅は、横糸3の軸方向の幅よりも十分に広くなっている。これらの縦糸2と横糸3は、交差することにより網体となり、筒体1の周側壁を構成する。なお、本実施形態のサンゴ着生用構造体では、筒体1がこの網体の周側壁のみで構成される場合を示す。
【0037】
上記網体は、それぞれ別個に複数ずつ成形された縦糸2と横糸3を用い、筒状に配置した複数の縦糸2の内側と外側に交互に各横糸3を適宜交差させて本来の網構造とすることもできる。ただし、本実施形態では、筒体1を一体成形しているので、この網体も、一体成形された合成樹脂成形品が縦糸2の部分と横糸3の部分のみによって構成された網状である場合を示す。
【0038】
また、本実施形態では、これらの縦糸2と横糸3が筒体1の同じ円周上に配置され、交差部分が縦糸2と横糸3で完全に共用されている場合を示したが、例えば横糸3は、縦糸2よりも少し外周寄り又は内周寄りに配置されたり、縦糸2の外周側又は内周側に隣接して配置されるようになっていてもよい。
【0039】
上記縦糸2は、後に説明するように、筒体1から分離してそれぞれ海底に設置するので、この海底に沿うように平坦な薄板状であることが望ましい。このため、本実施形態でも、図1(b)に示すように、縦糸2は平坦な薄板状であるのに対して、これらの縦糸2の間を繋ぐ横糸3は円弧状に湾曲した棒状となっているので、筒体1は、正確な円筒形にはなっていない。なお、横糸3が縦糸2の間を直線状に繋ぐような棒状であれば、筒体1は多角筒形となり、縦糸2が横糸3と同様に円弧状に湾曲した薄板状であれば、筒体1は円筒形となる。
【0040】
上記筒体1の合成樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン又はポリプロピレン等)や生分解性ポリマー(乳酸系、澱粉系、共重合ポリエステル系、ポリブチレンサクシネート系若しくはポリカプロラクトン系等又はこれらの複合系のポリマー)等が好適に用いられる。特に、生分解性ポリマーを用いた場合には、筒体1を海底に設置後、サンゴ礁が十分に育成する頃までに分解し、無害な状態で海水に溶けたり海底に沈殿して消失するので、筒体1の設置によって環境に不要な負担をかけるおそれがなくなる。本実施形態では、周側壁が網体で構成された複雑な構造の筒体1を一体成形するので、このような生分解性ポリマーとしては、押出成形による成形性に優れるポリブチレンサクシネート系のポリマーが最適である。
【0041】
上記筒体1の合成樹脂には、カルシウム化合物を添加することが好ましい。サンゴは、主に炭酸カルシウムからなるサンゴ礁の骨格を形成するので、筒体1の合成樹脂からカルシウムを取り込むことができれば、サンゴの育成を促進させることができるからである。合成樹脂に添加するカルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又は硫化カルシウム等を用いることが可能であるが、環境への影響を考えれば炭酸カルシウムが最も好ましい。このようなカルシウム化合物は、サンゴの育成に効果を発揮させるためには5%以上添加することが必要であるが、多すぎても合成樹脂の成形体が脆くなり破損のおそれが大きくなるので、添加量は70%以下に止めるべきである。
【0042】
上記筒体1の縦糸2の内面は、凹凸面であることが好ましい。凹凸面にすれば、サンゴが着生しやすいように表面積が大きくなるからである。この凹凸面は、凸部及び/又は凹部が多数設けられたものや、凸条及び/又は凹条が多数設けられたものでもよく、エンボス加工等による凹凸面であってもよい。このような凹凸面は、金型に凹凸面を設けておくことにより、成形によって形成されるようにしてもよいし、成形後に追加工によって凹凸面を形成してもよい。また、本実施形態の場合には、筒体1の合成樹脂を発泡体とすることにより、縦糸2の内面が発泡によって凹凸面となるようにしている。なお、この場合、縦糸2の内面だけが発泡によって凹凸面となるようにすることも可能であるが、本実施形態の場合には、製造を容易にするために、筒体1の合成樹脂を全て発泡体としているので、実際には、縦糸2の内面だけでなく、この縦糸2の外面や横糸3の内外面も同様に凹凸面となる。
【0043】
上記筒体1の軸方向の両端は、本実施形態では開口しているが、外敵の内部への浸入を確実に防ぐために、図示しない蓋を取り付けて塞ぐようにしてもよい。この蓋は、海水や日光が通るように、網体からなるものや多数の開口孔を有するものであることが好ましいが、実際には、海水や日光は筒体1の周側壁の網体の網目を通るものがほとんどであるため、海水や日光の通らないものであってもよい。また、この蓋は、筒体1から縦糸2を分離する際の作業の障害とならないように、簡単に外れるように取り付けることが好ましい。
【0044】
本実施形態の筒体1は、直径が約100mm、長さが約1000mmである。なお、図1では、図面を見やすくするために、直径に比べて長さを短縮して図示している。この筒体1の直径は、サンゴが成長するために十分な空間を確保するために、50mm以上であることが好ましく、この直径が大きすぎると、オニヒトデだけでなくウニや魚等の外敵が内部に浸入して食害の被害を被るおそれがあるので、300mm以下とすることが好ましい。ただし、筒体1の両端に上記蓋を取り付けた場合には、外敵の浸入のおそれがなくなるので、筒体1の直径はさらに大きくすることもできる。
【0045】
本実施形態の筒体1は、縦糸2の周方向の幅が約10mmであり、各縦糸2の間の周方向の間隔も約10mmである。なお、図1では、図面を見やすくするために、縦糸2を周方向に沿って6本だけ配置しているが、実際には、筒体1の円周の長さが約314mm(=100×π)であるため、この縦糸2は周方向に沿って15〜16本(314÷20=15.7)配置されている。また、横糸3は、直径が2〜3mmの丸棒状であり、軸方向の幅も2〜3mmとなる。従って、筒体1の周側壁の網体の開口率は、横糸3の軸方向の幅をほとんど無視でき、縦糸2が周方向の幅と同じ間隔で配置されるので、ほぼ50%となる。
【0046】
上記縦糸2の周方向の幅は、横糸3の周方向の長さ(筒体1の全周の長さ)の1/2未満とすべきである。縦糸2が平坦な帯状である場合、筒体1を構成するには少なくとも2本の縦糸2が必要となり、しかも、これら2本の縦糸2の間には隙間が必要となるので、このときの縦糸2の周方向の幅は横糸3の周方向の長さの1/2より狭くなるからである。このように縦糸2が2本の場合の筒体1は、図2に示すように、ほぼ四角筒形となる。また、現実には、縦糸2の周方向の幅は、横糸3の周方向の長さの1/4以下、1/40以上が適当である。横糸3の長さの1/4以下とするのは、縦糸2の間隔を広くして開口率を高めるためであり、1/40以上とするのは、縦糸2の周方向の幅があまりにも狭いと、サンゴを十分な数だけ着生させることができないからである。本実施形態の場合、横糸3の長さは約314mmであり、縦糸2の周方向の幅は約10mmとなるので、この割合は1/30より少し小さい程度である。
【0047】
上記横糸3の軸方向の幅は、筒体1を維持するための強度を確保するためと、縦糸2を分離する際の鋏等による切断のしやすさのために、0.5mm以上、30mm以下が適当である。また、筒体1の周側壁の網体の開口率は、十分に海水や日光が通るように10%以上であることが好ましく、サンゴが着床する面積を確保するために50%以下であることが好ましい。
【0048】
上記構成のサンゴ着生用構造体を用いたサンゴ着生方法について説明する。このサンゴ着生用構造体は、U字形のアンカーを用いて海底に設置する。設置場所は、例えばオニヒトデ等の食害を受けたサンゴ礁の近辺等である。また、アンカーを打ち込む海底は砂地が好ましい。岩場の場合、アンカー等を打ち込んだときに岩が破損して、自然の状態が大きく損なわれるおそれがあるからである。
【0049】
なお、サンゴ着生用構造体の設置には、U字形のアンカーに限らず、他の形状のアンカーや、アンカー以外の設置器具を用いてもよい。また、本実施形態では、金属製のアンカーを用いるが、このアンカーやその他の設置器具の材質は、環境を汚染するおそれがない限り何を用いてもよい。特に、生分解性のものを用いた場合には、環境への負担を軽減することができる。さらに、このサンゴ着生用構造体の設置は、海底には限らず、例えば構造体等を介してこの海底よりも少し海面に近い海中に設置することもできる。
【0050】
上記サンゴ着生用構造体とこれを用いたサンゴ着生方法によれば、サンゴ着生用構造体の筒体1の縦糸2の内面にサンゴを着生させることができる。しかも、この縦糸2の内面は、凹凸面となるので、このサンゴがさらに着生しやすくなる。そして、オニヒトデやウニ、魚等の外敵は、筒体1の内部に入り込むことができないので、この縦糸2の内面に着生したサンゴは、これらの外敵による食害の影響を受けることなく育成される。しかも、筒体1の合成樹脂は、カルシウム化合物を含むので、サンゴの育成を促進させることができる。
【0051】
また、筒体1は、両端の開口部だけでなく、網体の周側壁の縦糸2と横糸3の間の多数の網目を通しても、酸素を含む新鮮な海水が筒内を自由に流通すると共に、紫外線を含む日光が筒内に満遍なく照射され、造礁サンゴに共生する褐虫藻の光合成を可能とする光環境が確保されるので、縦糸2の内面に着生したサンゴを確実に育成することができる。
【0052】
さらに、筒体1は、合成樹脂製であるため、製造が容易かつ安価であり、軽量で取り扱いも容易となり、生分解性ポリマーを用いることにより、環境に負担をかけないようにすることもできる。
【0053】
上記サンゴ礁育成方法によりサンゴを着生させたサンゴ着生用構造体を用いたサンゴ礁育成方法について説明する。サンゴ着生用構造体は、筒体1の縦糸2の内面に着生したサンゴが数年程度経過すると、外敵による食害を受けにくい大きさにまで成長する。そこで、各縦糸2の間の複数本ずつの横糸3を筒体1の軸方向に沿って鋏等で切断することにより、この筒体1を各縦糸2ごとに分離する。そして、これらの縦糸2を筒体1の内面であった側を表にし、U字形のアンカーを用いて再度海底に設置する。
【0054】
筒体1を縦糸2ごとに分離する作業と、これらの縦糸2を再度海底等に設置する作業は、通常は作業者が海中に潜って行う。この際、細い横糸3だけを網目に沿って鋏等で切断すればよいので、作業が容易となり、海中であっても作業能率を高めることができる。また、筒体1の両端に蓋を取り付けて塞ぐようにしている場合には、この蓋を取り外してから筒体1を縦糸2ごとに分離する作業を行う。取り外した蓋の内面にサンゴが着生している場合には、この蓋を再度海底等に設置してもよい。縦糸2等の再度の設置場所は、サンゴの種が地域ごとに異なるので、生態系の保護の観点から、最初にサンゴ着生用構造体を設置した場所の近辺とすることが好ましい。
【0055】
なお、上記サンゴ着生方法の場合と同様に、アンカーを打ち込む海底は砂地が好ましく、海底以外の海中であってもよい。ここで、縦糸2を筒体1の内面であった側を表にして設置するとは、例えば水平な砂地の海底に設置する場合には、筒体1の内面であった側を上向きにして設置することを意味し、例えば垂直な岩場や構造体等の壁面に設置する場合には、筒体1の外面であった側を壁面に向けて設置することを意味する。また、U字形のアンカーに代えて、他の形状のアンカーや、アンカー以外の設置器具を用いてもよく、これらの材質についても、生分解性のものを含め、環境を汚染するおそれがない限り何を用いてもよい。
【0056】
上記サンゴ礁育成方法によれば、外敵による食害を受けにくい大きさにまで成長したサンゴが縦糸2に着生した状態で海底等に設置されるので、このサンゴがさらに成長し、その場にサンゴ礁を育成することができるようになる。しかも、縦糸2の合成樹脂は、カルシウム化合物を含むので、サンゴがこのカルシウムを取り込んでサンゴ礁の骨格を形成することにより、このサンゴ礁の育成を促進させることができる。また、この縦糸2の合成樹脂として生分解性ポリマーを用いることにより、この縦糸2が年月を経て無害な状態で分解消失するので、環境に負担をかけないようにすることもできる。
【0057】
なお、上記実施形態では、筒体1の縦糸2の周方向の幅が横糸3の軸方向の幅よりも広い場合を示したが、逆に横糸3の軸方向の幅が縦糸2の周方向の幅よりも広くなっていてもよく、この場合、サンゴは主に横糸3の内面に着生する。ただし、縦糸2の分離の際には、幅の広い横糸3を鋏等で切断する必要がある。また、縦糸2の周方向の幅と横糸3の軸方向の幅を同じにして、これら縦糸2と横糸3からなる網体の内面全体にサンゴを着生させるようにすることもできる。さらに、上記では、全ての縦糸2の周方向の幅が同じであり、全ての横糸3の軸方向の幅が同じである場合を示したが、これらは必ずしも同じ幅である必要はなく、例えば一部の縦糸2の周方向の幅のみが広く、他の縦糸2の周方向の幅は狭くなっていてもよい。さらに、各縦糸2や各横糸3は、全長にわたって同じ幅である必要はなく、幅に広狭があってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、サンゴ着生用構造体の筒体1を1本の縦糸2ごとに分離する場合を示したが、2本以上の縦糸2を一体として分離することもできる。この場合、2本以上の縦糸2は、これらの間の横糸3を切断しない状態で一体とする。
【0059】
また、上記実施形態では、筒体1の軸方向に沿った縦糸2と周方向に沿った横糸3とを交差させた網体を用いた場合を示したが、この網体の構成は任意であり、例えば網目が方形になる場合に限らず、平行四辺形や多角形状となるようなものであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、筒体1の周側壁が網体によって構成される場合を示したが、図3に示すように、筒体1の周側壁の一部に複数の開口孔4を形成することもできる。この場合も、複数の開口孔4が網体の網目の代わりに海水や日光を通すことができる。しかも、図3に示すように、開口孔4を筒体1の軸方向に沿って並んで複数形成すれば、これらの開口孔4に沿って鋏等で切ることにより筒体1の周側壁を容易に切断することができる。そして、このような筒体1の軸方向に沿って並んだ複数の開口孔4を、筒体1の周方向に沿った複数の位置に形成すれば(図3の場合は周方向に沿った6箇所の位置)、それぞれ筒体1の軸方向に沿って並んだ複数の開口孔4ごとに切断することにより、この筒体1の周側壁を複数に分割することができる。図3では、開口孔4が丸孔である場合を示したが、この孔形状は任意であり、矩形であってもよい。ところで、図1に示した筒体1の場合は、縦糸2と横糸3とが交差した網体と解釈する代わりに、周側壁に矩形の開口孔4が複数形成されていると解釈することもできる。なお、複数の開口孔4による筒体1の周側壁の開口率は、前述したように、10〜50%であることが好ましい。
【0061】
また、上記実施形態では、合成樹脂の一体成形により筒体1を作製する場合を示したが、シート状の網体や複数の開口孔4を有するシート体を1巻回以上丸めて止め付けることにより筒体1を作製することもできる。シート状の網体やシート体は、重なり合った一部を接着、融着又は係止具により止め付ける。
【0062】
また、上記実施形態では、筒体1が合成樹脂製である場合を示したが、この筒体1は天然樹脂製であってもよい。この天然樹脂は、植物性天然樹脂としてはロジン、カナダバルサム、サンダラック、グッタペルカ又はチクル等が好ましく、動物性天然樹脂としてはセラック等が好ましい。
【0063】
また、上記実施形態では、筒体1を複数に分離する場合を示したが、軸方向に沿って一箇所で切断することによりシート体若しくは網体に展開し、又は、丸めた筒体1の止め付けを外してシート体若しくは網体に展開したものを、筒体1の内面であった側を表にして海底等に設置することもできる。さらに、丸めた筒体1の止め付けを行う係止具を生分解性のものにすれば、適当な年月を経ることによりこの係止具が分解消失し、この筒体1が海底等に設置された状態で自然に展開するので、サンゴ礁育成方法による切断等や再度の設置の作業を行う必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、筒体の周側壁が網体によって構成されたサンゴ着生用構造体を示す側面図(a)と正面図(b)である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、筒体の縦糸が2本であるサンゴ着生用構造体を示す側面図(a)と正面図(b)である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであって、筒体の周側壁の一部に複数の開口孔が形成されたサンゴ着生用構造体を示す側面図(a)と正面図(b)である。
【符号の説明】
【0065】
1 筒体
2 縦糸
3 横糸
4 開口孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製又は天然樹脂製の筒体の周側壁の一部に複数の開口孔を形成したことを特徴とするサンゴ着生用構造体。
【請求項2】
前記筒体が、複数の開口孔を有するシート体を1巻回以上丸めて、重なり合った一部を接着、融着又は係止具により止め付けたものであることを特徴とする請求項1に記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項3】
前記開口孔が、筒体の周側壁におけるこの筒体の周方向に沿った複数の位置に、それぞれこの筒体の軸方向に沿って並んで複数形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項4】
合成樹脂製又は天然樹脂製の筒体の周側壁を網体によって構成したことを特徴とするサンゴ着生用構造体。
【請求項5】
前記筒体が、シート状の網体を1巻回以上丸めて、重なり合った一部を接着、融着又は係止具により止め付けたものであることを特徴とする請求項4に記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項6】
前記網体が、筒体の軸方向に沿った縦糸と周方向に沿った横糸とを交差させたものであり、かつ、縦糸の周方向の幅が横糸の軸方向の幅よりも広いものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項7】
前記縦糸の内面が凹凸面であることを特徴とする請求項6に記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項8】
前記筒体の周側壁の内面が凹凸面であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項9】
前記筒体が、カルシウム化合物を添加した合成樹脂製であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項10】
前記合成樹脂製の筒体が生分解性ポリマーからなることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項11】
前記筒体が、植物性又は動物性の天然樹脂製であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のサンゴ着生用構造体。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれかに記載のサンゴ着生用構造体を海中に設置して、このサンゴ着生用構造体の周側壁の内面にサンゴを着生させることを特徴とするサンゴ着生方法。
【請求項13】
請求項12に記載の海中に設置したサンゴ着生用構造体を、少なくとも筒体の軸方向に沿って複数箇所で切断して複数のシート体若しくは網体に分離し、又は、丸めた筒体の止め付けを外して展開すると共にさらに切断して複数のシート体若しくは網体に分離し、このように分離したシート体若しくは網体を筒体の内面であった側を表にして海中に設置することによりサンゴ礁を育成することを特徴とするサンゴ礁育成方法。
【請求項14】
請求項12に記載の海中に設置したサンゴ着生用構造体を、筒体の軸方向に沿って一箇所で切断してシート体若しくは網体に展開し、又は、丸めた筒体の止め付けを外してシート体若しくは網体に展開し、このように展開したシート体若しくは網体を筒体の内面であった側を表にして海中に設置することによりサンゴ礁を育成することを特徴とするサンゴ礁育成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−40(P2010−40A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161675(P2008−161675)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】