説明

サンドブラストによる切削加工方法

【課題】板状ワークからの部品の切り出しや板状ワークに対する貫通孔等の形成をサンドブラストによる切削によって行った場合においても,切り出した部品の周縁部や開孔部内壁に対する仕上げ加工等の労力を軽減することのできるサンドブラストによる切削加工方法を提供する。
【解決手段】板状ワークにレジストを形成すると共に,該ワークに研磨材を投射してレジストの非形成部分のワークを切削して,ワークの切断及び/又はワークに対する貫通孔の形成を行うサンドブラストによる切削加工方法において,ワークの表面及び裏面双方に,インクジェット法による印刷によって表裏対称に所定のパターンでレジストを形成し,前記ワークの前記表面及び裏面のそれぞれに研磨材を投射して,表面側からの切削と,裏面側からの切削を,ワークの厚みの略中間位置で連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンドブラストによる切削加工方法に関し,より詳細には板状ワークからの部品の切り出しや,板状ワークに対する貫通孔の形成を行うに適したサンドブラストよる切削加工方法に関する。
【0002】
なお,本発明において貫通「孔」には貫通「溝」を含む。
【背景技術】
【0003】
携帯電話器の表示画面に使用されるカバーガラスの切り出し(ダイジング)や,液晶表示画面等に搭載されるタッチパネル用薄板ガラスの切断,その他のガラス,セラミック,金属,シリコンウェハ等の板状ワークからの部品の切り出しや,このようなワークに対する孔や溝の形成は,通常,切削加工によって行われている。
【0004】
このような切削加工の一例として,高速で回転する砥石車による切り出しや孔開けを行った後,仕上げ加工を行うことや,超硬ドリルやダイヤモンドドリルを用いた孔開け加工等が行われている。
【0005】
しかし,これらの加工方法は比較的大面積の加工面に対する処理に向かないことから,生産性を向上させるために,比較的大面積の加工に適しているサンドブラストによる加工も行われている。
【0006】
このように,サンドブラストによって前述のダイジングや孔開け加工等を行う場合には,サンドブラストを行う前に,切削を行わない部分を保護するためにワーク表面の非切削部分上に,「レジスト」と呼ばれる耐サンドブラスト性を有する保護膜を形成することが行われている。
【0007】
このような非切削部分に対するレジストの形成は,加工するワークの数量が比較的少ない場合には,切削部分に対応した開孔や溝が形成された金属板,セラミック板,ガラス板,又は樹脂フィルム等によって構成されたレジストをワークの表面に固定乃至は接着することによって行われる場合もあるが,前述した携帯電話器のカバーガラス等を大量に加工する場合には,感光性樹脂を使用したリソグラフィー法によってワークにレジスト(フォトレジスト)を形成することが行われており,これによりレジスト形成の際の作業性の向上が図られている。
【0008】
しかし,前述したリソグラフィー法によるレジストの形成は,感光性樹脂のフィルムを貼着する等してワークの表面全体に感光性樹脂を付着させ,この感光性樹脂上に露光パターンに対応した開口が形成された露光マスクを配置した後,紫外線照射装置等の光照射装置によって光を照射することで,切削を行わない部分の感光性樹脂を硬化させ,更に洗浄槽に浸漬する等して感光性樹脂の未硬化部分を除去した後,乾燥機で乾燥させる工程を経て得られるものとなっている。
【0009】
このようにリソグラフィー法によるレジストの形成では,ワーク全体に感光性樹脂を付着させた後に,未露光部分を洗浄水と共に洗浄・廃棄することから,レジストとして使用されずに廃棄される感光性樹脂の使用量が多くなり,資源の有効利用が図れないだけでなく,経済的でもない。
【0010】
しかも,前述した方法でレジストを形成する場合には,露光マスクの取り付け,ワークの表面全体を感光させるための大型の光照射装置,露光後に不要な樹脂を除去するための洗浄,並びにその後の乾燥工程等が必要となることから,耐サンドブラスト用のレジストが得られる迄に多数の工程を経る必要があるだけでなく,これらの工程を実現するための,露光マスクの取付装置,光源装置,洗浄槽,乾燥機等の装置類を準備すると共に,これらを設置するための広大な設置場所の確保が必要となり,多大な初期投資が必要となる。
【0011】
このようなフォトリソグラフィー法によるフォトレジスト形成の問題を解消するために,フォトリソグラフィー法によらずにレジストを形成する方法として,アルカリ可溶性硬化型樹脂を含有するインクを,ワークの表面に非切削部のパターンに従ってインクジェット法によって付与し,これを硬化させて耐サンドブラスト用のレジストを形成する方法も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−265224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した特許文献1に記載の方法では,インクジェット法によってワーク上の必要な部分にのみアルカリ可溶性硬化型樹脂を含有したインクを付着させることから,レジストの形成に際して余分な樹脂を使用することなく,また,露光用マスクの取り付け,未露光の余分な樹脂を除去するための洗浄や,その後の乾燥が不要となることから,耐サンドブラスト性のレジストを得るための工程数を大幅に減少させることができ,また工程の減少に伴い露光マスクを取り付けるための装置や洗浄槽が不要となると共に,光照射装置等についても小型化する事が可能となり,初期投資等を低く抑えることができるという利点もある。
【0014】
しかし,耐サンドブラスト用のレジストでは,研磨材が高速でワークに衝突しても,ワークに対する切削加工が終了する迄,ワークの表面に残存してワーク表面を研磨材による切削より保護できる強度を備えている必要がある。
【0015】
そして,このような耐サンドブラスト性を得るために,前掲の特許文献1に記載の発明では,重量平均分子量が所定の範囲内にあるアルカリ可溶性硬化型樹脂を使用するものとしている等(特許文献1「0023」欄),耐サンドブラスト性を有するレジストを得るために使用するインクの物性等を限定していると共に,耐サンドブラスト性を得るためにはレジスト膜の膜厚も厚くする必要があり,1回の塗布によって必要なレジスト膜厚が得られない場合には,インクを複数回に分けて塗り重ねるものとする等(特許文献1「0023」欄)レジストの形成には時間がかかる。
【0016】
なお,特許文献1に記載の方法のみならず,リソグラフィー法によってレジストを形成する場合にも共通する課題ではあるが,サンドブラストによって切り出し,孔開け等の加工を行う場合,加工の初期段階においては,図3(A)に示すようにレジストによって被覆されていない部分全体が均等に切削されるが,切削深さが増してゆくと,切削孔の形状は徐々に中央部を最深部とした楔状に変化し〔図3(B)〕,更に研磨材の投射を継続して切削深さを増してゆくと,切削孔内に入った研磨材が切削孔の底部で反転して切削孔外に排出される際に切削孔の側面を削り取ってしまい,レジストの下側に至る迄,孔の径を広げる可能性があると共に,更に切削深さを増してワークの肉厚を貫通させる迄切削を続けると,ワークの肉厚の貫通は,切削孔の底部中心において生じるために,切削孔の側面は,図3(D)に示すようにワークの表裏面に対して傾斜した形状となるために,仕上加工が必要となる。
【0017】
さらに,図3(A)〜(D)を参照して説明したように,微細な貫通孔を高精度に形成することが困難となる。
【0018】
更に,このようなブラストによる切削加工において,加工時間を短縮して加工性を更に向上させることができれば便利である。
【0019】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,インクジェット法による印刷によってレジストを形成することにより,レジスト用インクの使用量の減少や,設備の簡略化等といった,前述した特許文献1に記載の発明が有する利点をそのまま享受しつつ,特許文献1において必要であると説明されている平均分子量等,使用する樹脂の物性について条件を緩和した場合や,レジストの膜厚を減少させた場合であっても,必要な耐サンドブラスト性が得られるサンドブラストによる切削加工方法を提供することを目的とする。
【0020】
また,サンドブラストにより切削した場合に生じる前述した問題点,すなわち,切削孔の幅がレジストによる被覆部分の下側迄広がることや,切削孔の側壁が傾斜して鋭利な状態となることを防止乃至は緩和し,微細な孔やスリットであっても正確に形成することができると共に,切削後の切削孔の側面を平坦に研磨等する前述の仕上げ加工の労力を軽減することのできるサンドブラストによる切削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために,本発明のサンドブラストによる切削加工方法は,
板状ワークにレジストを形成すると共に,該ワークに研磨材を投射してレジストの非形成部分のワークを切削して,ワークの切断及び/又はワークに対する貫通孔の形成を行うサンドブラストによる切削加工方法において,
前記ワークの表面及び裏面に,インクジェット法による印刷によって表裏対称に所定のパターンでレジストを形成し,
前記ワークの前記表面及び裏面のそれぞれに研磨材を投射して,表面側からの切削と,裏面側からの切削を,ワークの厚みの略中間位置で連通させたことを特徴とする(請求項1)。
【0022】
前記切削加工方法において,前記ワークを透明板と成すと共に,前記レジスト形成工程を,前記ワークの前記表面に対してレジストを形成した後,前記ワークの裏面側から前記表面に形成したレジストを撮影し,該撮影された画像より前記表面に形成したレジストの位置座標を求め,求めた位置座標に従って前記ワークの前記裏面に対してレジストを形成する工程を含むものとすることができる(請求項2)。
【0023】
更に,前記切削工程において,前記ワークの前記表面に対する研磨材の投射と,前記ワークの前記裏面に対する研磨材の投射とは,これを同時に行うものとしても良く(請求項3),又は,
前記切削工程を,前記ワークの前記表面又は裏面のいずれか一方の面に研磨材を投射して前記ワークの厚さ方向の略中間位置迄切削した後,他方の面に研磨材を投射して行うものとしても良い(請求項4)。
【0024】
更に,前記切削工程後,前記ワークに付着したレジストを洗浄等によって除去する工程を更に含むものとしても良く(請求項5),前記レジストの除去を洗浄によって行う場合には,更に乾燥工程を設ける等しても良い。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明の構成により,本発明の切削加工方法によれば,ワークの表裏両面側より切削を行うことから,一面側のみから切削を行う場合に比較して,レジストが研磨材の衝突に曝される時間,従ってレジストにかかる負担を半分以下に低下させることができた。
【0026】
その結果,レジストの耐サンドブラスト性が相対的に向上し,レジスト材として使用できる樹脂の範囲を広げることができるだけでなく,特許文献1に記載のものと同程度の耐サンドブラスト性を持つ樹脂を使用する場合には,レジストの厚みを大幅に減少させることができ,その結果,レジストの厚さを確保するために同一位置に何度も正確に塗り重ねるといった煩雑な作業を省略でき,又は塗り重ね回数を減少することができた。
【0027】
また,片側からの切削による場合には,研磨材の衝突によってワークには図3(B)〜(D)に示すような方法によってワークの切り出し等を行う場合には,切削孔の側面が極端に傾斜したものとなり,その後に仕上げ加工等が必要となる。
【0028】
また,同様の理由で,レジストのパターンに対応した直線状の正確な切削を行うことが難しく,必要な寸法迄削り落としていく作業が必要となり,貫通孔の形成やスリットの形成を行う場合には,小径の貫通孔や幅狭のスリットを高精度に形成することが困難となる。
【0029】
これに対し,本願発明の方法によれば,両面から切削を行うことで切削孔内に生じた側面が,表裏面に対して直角に近付き,その後の仕上加工等の手間を減らすことができるだけでなく,削り代t〔図2(D)参照〕を減少させることができるために,切り出しの際には歩留まりが良く,また,貫通孔の形成に際しては小径の貫通孔乃至は幅狭のスリットの形成をサンドブラストによって正確に行うことが可能となる。
【0030】
特に,ワークがガラス,セラミック,シリコンウェハ等の硬質脆性材料である場合には,一面側からの研磨材の投射によって貫通孔を形成しようとすると,チッピングの発生が多くなり,これが不良率の上昇に繋がるものとなっていたが,本発明のように両面より研磨材の投射を行う場合には,このようなチッピングの発生を大幅に抑えることができた。
【0031】
ワークを透明板とし,既知の画像認識技術を利用して表面側に形成したレジストを例えばCCDカメラ等で撮影し,この撮影された画像より求めた座標に従って裏面側にレジストを形成することにより,ワークの表面に対するレジストの形成位置と,裏面に対するレジストの形成位置とを高精度に一致させることができた。
【0032】
更に,切削工程における研磨材の投射を,ワークの表裏面に対して同時に行う場合には,加工時間を更に短縮することができた。
【0033】
なお,切削工程における研磨材の投射は,ワークの表面,裏面に対して同時に行う必要はなく,それぞれ別個に行うものとしても良く,この場合には,一方の面に対する研磨材の投射が終了した後,ワークを反転させて他方の面に研磨材を投射することで,ワークの一面側より研磨材の投射を行う加工に使用していた,既知のブラスト加工装置をそのまま転用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の加工方法の全体の流れを説明した説明図。
【図2】本発明の方法によりワークに形成される切削孔の形成状態を示した説明図であり(A)は表面側からの切削孔の形成初期,(B)は表面側からの切削孔の深さがワークの厚みの略中間位置迄達した状態,(C)は裏面側からの切削孔の形成初期,(D)は裏面側からの切削孔が表面側からの切削孔と連通して貫通孔が形成された状態をそれぞれ示す。
【図3】ワークの一面側のみに対する研磨材の投射によってワークに形成される切削孔の形成状態を示した説明図であり,(A)は研磨材の投射初期,(B)は切削孔の深さが増して楔状の状態,(C)は研磨材によって切削が進行した状態,(D)は貫通孔が形成された状態をそれぞれ示す。
【図4】実施例における加工に使用したテストパターンの説明図〔図中の数値は寸法(mm)を示す〕。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0036】
〔全体構成〕
本発明のサンドブラストによる切削加工方法は,図1に示すように板状のワークに対し,このワークの表裏に対して耐サンドブラスト性を有するレジストを形成する「レジスト形成工程」,前記レジスト形成後のワークの表裏面に対して研磨材を投射する「サンドブラスト工程」を有すると共に,図1の実施形態にあっては更に前記サンドブラスト後のワークより耐サンドブラスト性のレジストの除去と,ワークに付着する研磨材の除去を行うための「洗浄工程」,及び,前記洗浄後のワークを乾燥させる「乾燥工程」によって構成されている。
【0037】
〔ワーク〕
本発明の切削加工方法で対象とするワークは,板状のものであれば特にその材質等は限定されず,ガラス,セラミック,金属,シリコンウェハ,樹脂材料等の各種の材質のものを使用することができる。
【0038】
更に,処理対象とするワークのサイズ,厚み等についても特に限定されず,各種サイズ,厚みのものを処理対象とすることが可能である。
【0039】
但し,後述するように,画像認識技術を利用してワークの表裏面に対してレジスト用インクの付着位置を高精度に一致させる場合には,ワークとしてガラス板やアクリル板等の透明板を使用する。
【0040】
なお,ここでいう「透明」とは,CCDカメラ等によって一方の面に形成したレジストの形成位置を,他方の面より識別することができるものであれは良く,この条件を満たす限り,「半透明」も本発明で言う「透明」である。
【0041】
〔レジスト形成工程〕
前述したワークに対しては,レジスト形成工程においてレジスト用インクの印刷が行われる。
【0042】
なお,このようなレジスト用インクの印刷に先立って,レジスト用インクの付着性を向上等させるための,ワーク表面の脱脂や汚れの除去,その他の必要な前処理を行っても良い。
【0043】
レジスト用インクとして使用するインクは,印刷時にインクジェットヘッドによる印刷に使用し得る流動性を備えていると共に,光や熱の照射,乾燥等によって硬化してワークの表面に定着し,耐サンドブラスト性を発揮するものであれば如何なるものを使用しても良く,紫外線硬化型,熱硬化型の樹脂を含むインクであって良く,又は,溶剤の揮発によって乾燥してワーク表面に付着するものであっても良く,ウレタン系,エポキシ系,アクリル系,塩ビ系の樹脂を含むインクを使用することができる。
【0044】
ワークの表面に対する所定パターンでのレジスト用インクの付着は,インクジェットプリンタによって行う。このインクジェットプリンタの動作を中央処理装置によって制御し,予め設定したレジストのパターンに従って,ワーク上の所定の座標にインクのドットを噴射して付着させると共に,このインクジェットプリンタに設けた紫外線照射装置による紫外線の照射,熱源による加熱等によってこのインクのドットを硬化させてワーク上に定着させ,このドットの集合によって所定のレジストパターンを形成することができる。
【0045】
このようなインクジェットプリンタとしては,ピエゾヘッド,サーマルヘッドいずれのヘッド方式でインクの噴射を行うものであっても良く,本実施形態にあっては,レジスト用インクを所望のパターンに高速で付着させることができるピエゾ式の多ノズル型のインクジェットプリンタを使用している。
【0046】
前述したインクジェットプリンタによるレジスト用インクの印刷は,ワーク表面に対する印刷と,ワーク裏面に対する印刷を含む。
【0047】
なお,本発明におけるワークの「表面」及び「裏面」とは,板状ワークに設けられた2つの平面のそれぞれを区別するために便宜上使用するものであり,ワークの2つの平面の「一方」,「他方」といった程度の意味で使用するものある。
【0048】
従って,本発明で切削対象とするワークが,機能や面の仕上げ状態の差に基づく表裏の区別があったとしても,この表裏の区別と,本明細書中で言う「表面」,「裏面」とは必ずしも一致しない。
【0049】
前述したワーク表面に対するレジスト用インクの印刷と,ワーク裏面に対するレジスト用インクの印刷は,これを同時に行うものとしても良く,一方の印刷後,他方を印刷するものとしても良い。
【0050】
このように,表裏面に対する印刷を,時間的に前後させて行う場合には,先ず表面に対するレジスト用インクの付着を行った後,裏面に対してレジスト用インクの付着を行い,その後,表裏面のインクを硬化させて定着させるものとしても良く,又は,表面に対してレジスト用インクを付着及び定着させた後,裏面に対してレジスト用インクを付着及び定着させるものとしても良い。
【0051】
なお,前述したようにガラス板やアクリル板等のように,処理対象とするワークが透明である場合には,既知の画像認識技術を利用して,表面に対してレジスト用インクを印刷した後,表面に印刷されたレジスト用インクの印刷位置を,裏面側より例えばCCDカメラ等によって撮影し,この撮影によって得た画像データから,ワーク表面に対するレジスト用インクの印刷位置の座標を求め,この座標に従い,裏面における印刷位置を決定し,又は予め決定されていた印刷位置を修正して,表面に印刷されたレジスト用インクの印刷位置と裏面に印刷されるレジスト用インクの印刷位置とを高精度に一致させるものとすることもできる。
【0052】
なお,印刷は,例えば1回の印刷によって所望の膜厚を得るに必要なレジスト用インクの付着が得られない場合には,表面及び裏面のそれぞれに対し,複数回に亘って印刷用インクの重ね塗りを行うようにしても良い。
【0053】
この場合においても前述したと同様に画像認識技術を利用して,CCDカメラ等で前回印刷したレジストを撮影して座標を求め,このようにして得られたデータに従い前回印刷したレジスト上に正確にインクを塗り重ねるようにしても良い。
【0054】
形成するレジストの膜厚は,ワークの加工深さやサンドブラストの際の加工条件(使用する研磨材の材質や粒径,噴射圧力,噴射速度等)によって,要求される耐サンドブラスト性が異なることから,これらの条件との間の相対的な関係によって決定されるが,レジストの一般的な膜厚は,一例として5〜150μm程度である。
【0055】
レジスト用インクの硬化は,レジスト用インクに含まれる樹脂成分が紫外線硬化型の樹脂であればLED,メタルハライドランプ,高圧水銀灯等の光源から紫外線を照射することにより行い,熱硬化型の場合には,これを加熱することにより,また,溶剤の揮発等による乾燥で硬化するものにあっては,熱硬化型の場合と同様に加熱するか,又は加熱することなく乾燥に必要な所定時間放置することにより硬化させ,ワークの表裏面にそれぞれ耐サンドブラスト性を有するレジストを形成する。
【0056】
〔サンドブラスト工程〕
以上のようにして,ワークの表裏面に対してレジストの形成が完了すると,このワークに対してサンドブラストを行う。
【0057】
ワークに対する研磨材の投射方式は,圧縮空気等の圧縮気体と共に研磨材を噴射する噴射方式,回転する羽根車との衝突により研磨材を投射する投射方式,遠心力によって研磨材を投射する投射方式等の各種の方式が採用可能であり,本実施形態にあっては,加工条件の調整が比較的容易な,圧縮気体と共に研磨材を噴射する投射方式を採用している。
【0058】
このように,圧縮空気等の圧縮気体と共に研磨材を噴射するブラスト加工装置の構成としては,直圧式,吸い込み式(サクション式)等の各種の方法があるが,これらのいずれの方式を使用しても良い。
【0059】
使用する研磨材も,ワークの材質,ワークに対して施す加工の程度,その他の条件に従い,ブラスト加工用に使用されている既知の各種の研磨材の材質,粒径,形状等より選択可能である。
【0060】
ワークに対する研磨材の投射は,表面,裏面のいずれか一方に対して研磨材の投射を行った後,他方の面に対して行うものとしても良く,又は,表面,裏面の双方に同時に研磨材を投射することによって行っても良い。
【0061】
いずれの場合においても,表面,裏面に対するブラスト加工条件を統一する等して,表面側より行った切削と,裏面側より行った切削により,ワークの厚み方向における略中間位置において,両方向より行った切削が繋がって,切り出し乃至は貫通孔の形成が行われるようにする。
【0062】
〔作用等〕
図3を参照して説明したように,板状ワークの一面側にのみレジストを形成し,この面に対して研磨材を投射することによりワークの肉厚を貫通する迄切削を行う場合,切削の初期の段階では,研磨材はレジストによって覆われた部分を切削することがなく,図3(A)に示すように非レジスト部分を略均等に切削する。
【0063】
切削が進行し,表裏面が貫通して形成された切削孔は図3(D)に示すように楔状に形成された底部中央で裏面に抜ける貫通孔となっているために,貫通孔には大きく傾斜した側壁が形成され,側壁を表裏面に対して直角な面とするためには,この部分を研磨して除去する仕上げ加工を行う必要がある。
【0064】
これに対し,本願発明のように,ワークの表裏面双方にレジストを設け,表裏面の双方に研磨材の投射を行う場合には,図2(A)に示すように,切削の初期においてレジストの貼着されていない部分で切削が始まり,レジスト下面より約15〜20度の角度を持ちほぼ直線的な,掘り込み形状となる。その後も更に切削を継続すると,切削の進行に伴い,切削孔の底部及び側面から研磨材が反射され,ノズルからの研磨材と干渉するため,ノズルからの研磨材の速度が減少する。また掘り込みが深くなるに伴い,この干渉の状況は,大きくなる。これにより中央部が周辺部より加工量が多くなるため幅方向の加工能力は減少し,楔状ないしV字状の切削形状となる。
【0065】
かように,一方側(図示の例では表面側)からの研磨材の投射による切削孔の深さがワークの厚みの略半分に達した状態で,他方の面(図示の実施形態にあっては裏面)側より切削を開始し〔図2(C)〕,その後,表面側より形成した切削孔と貫通させることで〔図2(D)〕,切削孔の側壁が削られてレジストによる保護部分を越えて切削孔の径が拡大することを防止できると共に,レジストの印刷形状に対応させて切削を高精度に行うことができる。 又,ワークの肉厚が比較的薄い場合には,例えば図2(A)の表面側の切削孔と図2(C)の裏面側の切削孔が連通することで,切削孔の側壁が表裏面に対して略直角となり,また,ワークの肉厚が比較的厚い場合であっても,貫通孔の形成後には厚さ方向の中間位置に僅かに角部が形成されるものの略垂直状に切削されるといえる。
【0066】
しかも,加工時間についても短縮することができるものとなっている。
【0067】
なお,このように本発明ではワークの表裏両面より切削を行うため,片側より切削を行う場合に比較して,各レジストは研磨材の衝突に曝される時間を半分以下に減らすことができ,形成するレジスト材の膜厚を薄くすることができると共に,従来使用されていたものに対し強度の低い材質のものを選択して使用することも可能となる。
【0068】
しかも,このように,表裏両面側より切削を行う場合には,片面のみから切削を行う場合に比較してチッピングの発生を大幅に減少させることができるものであった。
【実施例】
【0069】
以下に,本発明の方法による切削加工例を示す。
〔ワーク〕
長さ90mm×幅90mm×厚さ0.7mmのガラス板。
〔加工内容〕
前記ガラス板を,図4に示すテストパターンに加工した。また,同様のガラス板に幅0.8mm,長さ10mmの貫通スリットと,直径0.8mmの貫通孔を形成した。
【0070】
〔レジスト形成〕
(1)レジスト用インク
レジスト用インクとして,株式会社ミマキエンジニアリング製「UVink F-200」を使用した。このレジスト用インクの組成を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(2)レジストの形成方法
印刷装置として,オンデマンドピエゾヘッド(1200×1200dpi)のインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタを使用した。
【0073】
吸盤状の吸引器によって吸着固定したワークの表面に対し,前掲のレジスト用インクを使用して非切削部分にインクを噴射して付着させ,インクジェットプリンタに内蔵したUV照射装置によるUV照射によってワーク上でレジスト用インクを硬化させて定着させた。
【0074】
表面に対するレジストの形成後,ワークを裏返して同様に真空吸引によって固定すると共に,プリンタに内蔵したCCDカメラによって裏面側より表面に設けたレジストの形成位置を撮影すると共に,この撮影画像に基づいて表面のレジスト形成位置を座標として認識し,表面に形成したレジストの位置に対し裏面に形成するレジストの位置がずれることが無いよう裏面に所定パターンでレジスト用インクを付着させると共に,UV照射によって硬化させて定着させた。
【0075】
(3)サンドブラスト
サンドブラスト装置として,株式会社不二製作所製「ニューマブラスター SGK−2」を使用し,炭化ケイ素系研磨材〔株式会社不二製作所製「フジランダム」♯320(平均粒径20μm)〕を噴射圧力0.4MPa,噴射距離150mmで噴射した。ここで,「噴射距離」とは,噴射ノズルの先端とワークの表面間の距離である。
【0076】
研磨材の噴射は,表面からの噴射によって切削深さがワークの板厚である0.7mmの1/2の厚さ(0.35mm)迄達したら,ワークを裏返して裏面より研磨材の噴射を行い,ワークの厚みの略中央位置で表面側からの切削部分と連通させてワークを貫通させた。
【0077】
(4)レジストの除去
以上のようにして加工した後のワークは,これを40℃の温水に浸漬してレジスト材を除去後,乾燥させた。
【0078】
〔考察〕
以上で説明した本発明の切削加工方法では,表面側のみからのブラストによって切削を行う場合に比較して,大幅に作業時間を短縮することができた。
【0079】
また,表面側のみからのブラストによって切り出しを行う場合,切り出し後のワークの周縁部が図3(D)を参照して説明したように傾斜した形状となることから,これを平坦ないし垂直となる迄削り取る仕上げ加工が必要であったが,本発明の方法で加工を行った場合には,このような傾斜が生じず,平坦に近い形状となり,仕上げ加工の労力を大幅に軽減することができるものとなっていた。
【0080】
更に,本発明の方法で加工したワークでは,チッピングの発生が確認できず,ワークの一面側よりブラストを行う場合に比較して,チッピングの発生が大幅に低減されていることも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ワークにレジストを形成すると共に,該ワークに研磨材を投射してレジストの非形成部分のワークを切削して,ワークの切断及び/又はワークに対する貫通孔の形成を行うサンドブラストによる切削加工方法において,
前記ワークの表面及び裏面に,インクジェット法による印刷によって表裏対称に所定のパターンでレジストを形成し,
前記ワークの前記表面及び裏面のそれぞれに研磨材を投射して,表面側からの切削と,裏面側からの切削を,ワークの厚みの略中間位置で連通させたことを特徴とするサンドブラストによる切削加工方法。
【請求項2】
前記ワークを透明板と成すと共に,
前記レジスト形成工程が,
前記ワークの前記表面に対してレジストを形成した後,前記ワークの裏面側から前記表面に形成したレジストを撮影し,
該撮影された画像より前記表面に形成したレジストの位置座標を求め,求めた位置座標に従って前記ワークの前記裏面に対してレジストを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のサンドブラストによる切削加工方法。
【請求項3】
前記切削工程において,前記ワークの前記表面に対する研磨材の投射と,前記ワークの前記裏面に対する研磨材の投射とを同時に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のサンドブラストによる切削加工方法。
【請求項4】
前記切削工程を,前記ワークの前記表面又は裏面のいずれか一方の面に研磨材を投射して前記ワークの厚さ方向の略中間位置迄切削した後,他方の面に研磨材を投射して行うことを特徴とする請求項1又は2記載のサンドブラストによる切削加工方法。
【請求項5】
前記切削工程後,前記ワークに付着したレジストを除去する工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のサンドブラストによる切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−45651(P2012−45651A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188402(P2010−188402)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)