説明

シアリルオリゴ糖ペプチド固定化ビーズ

【課題】本発明はヒト型糖鎖結合タンパク質の精製、あるいはウイルスを吸着するために用いる糖ペプチド固定化ビーズを提供する。
【解決手段】下記式で表される糖ペプチドのLys(リジン)残基の遊離アミノ基のうち、少なくとも一つの遊離アミノ基にリンカーを介してビーズが結合する糖ペプチド誘導体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基でビーズと結合した糖ペプチドに関する
【背景技術】
【0002】
近年、生命分子として、DNAなどの核酸及びタンパク質に加え、糖鎖が注目されている。膜タンパク質や細胞外などに存在する糖鎖は、細胞間の認識及び相互作用に関わる働きを有すると考えられている。そして、細胞間の認識や相互作用における変化が癌、慢性疾患、感染症、及び老化などを引き起こす原因であると考えられている。例えば、癌化した細胞においては、糖鎖に構造変化が起こっていることが知られている。また、インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスなどは、ある特定の糖鎖を認識し結合することにより、細胞に侵入し感染することが知られている。そこで、疾患時における生体中の糖鎖の構造変化を検出することができれば慢性疾患や感染症の有用な診断につながるものと考えられる。
【0003】
鶏卵卵黄から抽出精製されるシアリルオリゴ糖ペプチドは、その糖鎖構造がヒト型であること、またウイルス感染における受容体と同一の糖鎖構造を有することから、これまでサルモネラ菌やインフルエンザウイルスの感染阻害剤としての利用が検討された(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
ヒト型糖鎖結合タンパクと糖鎖との特異的相互作用を活用するために、糖鎖をビーズに固定することで、このバイオデバイスをウイルスやヒト型糖鎖結合タンパクの精製や吸着に用いることが期待される。しかし、シアリルオリゴ糖ペプチドのペプチド部分のアミノ基を用いてビーズと結合したものは開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Sugita-Konishi, K. Kobayashi, S. Sakanaka, L. R. Juneja, F. Amano, J. Agric. Food. Chem., 2004, 52, 5443-5448.
【非特許文献2】M. Umemura, M. Itoh, Y. Makimura, K. Yamazaki, M. Umekawa, A. Masui, Y. Matahira, M. Shibata, H. Ashida, K. Yamamoto, J. Med. Chem., 2008, 51, 4496-4503.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、医療及び医薬品開発の分野において有効なリサーチツールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される糖ペプチドのLys(リジン)残基の遊離アミノ基のうち、少なくとも一つの遊離アミノ基にリンカーを介してビーズが結合する糖ペプチド誘導体。
式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[2]
前記ビーズと結合したリンカーが下記式(2)で表されるリンカーである、[1]に記載の糖ペプチド誘導体。
式(2):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、(B)は、ビーズを表し、Xは炭素数4〜14からなる炭化水素を表す。)
[3]
前記ビーズと結合したリンカーが下記式(3)〜(7)で表されるリンカーである、[1]に記載の糖ペプチド誘導体。
式(3):
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、(B)は、ビーズを表し、mは1〜8の整数を表す。)
式(4):
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、(B)は、ビーズを表し、nは1〜8の整数を表す。)
式(5):
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、(B)は、ビーズを表す。)
式(6):
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、(B)は、ビーズを表す。)
式(7):
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、(B)は、ビーズを表す。)
[4]
前記糖ペプチドが、下記式(8)で表される構造である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体。
式(8):
【0022】
【化8】

【0023】
[5]
前記ビーズがアガロースまたはセルロースである[1]〜[4]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体。
[6]
前記ビーズと結合したリンカーを前記遊離アミノ基に導入して糖ペプチド誘導体を得る導入工程を含む、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体の製造方法。
[7]
[1]〜[6]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体が、ビーズ表面に保持されている担体。
[8]
[1]〜[7]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体からなるヒト型糖鎖結合型タンパク質精製用担体。
[9]
[1]〜[7]のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体からなるウイルス吸着用担体。
【発明の効果】
【0024】
本発明はヒト型糖鎖結合タンパクの精製や濃縮、あるいはウイルスを吸着するために用いる糖ペプチド固定化ビーズに関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】製造例1において製造された糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図2】製造例1において製造された糖ペプチドの1H−NMRチャートを示す。
【図3】製造例1において再度ODS樹脂で精製された糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図4】実施例4における糖ペプチド固定化ビーズとSSA−レクチンとの相互作用解析結果
【図5】実施例5における糖ペプチド固定化ビーズとヒトA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンとの相互作用解析結果
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(糖ペプチド誘導体)
本実施の形態の糖ペプチドは、下記式(1)で表される糖ペプチドのLys(リジン)残基の遊離アミノ基のうち、少なくとも一つの遊離アミノ基にリンカーを介してビーズが結合する糖ペプチド誘導体である(以下、単に、「糖ペプチド誘導体」と記載する場合がある。)。
式(1):
【0027】
【化9】

【0028】
式(1)で表される糖ペプチド(以下、単に、「糖ペプチド」と記載する場合がある。)の糖鎖の還元末端には、アミノ酸6残基からなるペプチド鎖がAsnを介して結合している。Lys、Val、Ala、Asn、及びThrは、アミノ酸の3文字表記であり、それぞれ、リジン、バリン、アラニン、アスパラギン、及びスレオニンを意味する。
【0029】
アミノ酸は、L−アミノ酸であっても、D−アミノ酸であってもよく、ラセミ体などを含め、L−アミノ酸とD−アミノ酸の任意の比率の混合物であってもよいが、L−アミノ酸であることが好ましい。また、各アミノ酸は、各アミノ酸と等価な誘導体であってもよい。
【0030】
上記式(1)で表される糖ペプチドは、ペプチド配列中に、2つのLys残基を有する。N末端のLys残基は、2つの遊離したアミノ基を有し、アスパラギン(Asn)とスレオニン(Thr)に結合するLys残基は、1つの遊離アミノ基を有する。
【0031】
すなわち、式(1)で表される糖ペプチドにおいて、Lys残基の遊離アミノ基は、下記構造における−NH2のいずれかとして存在している。
【0032】
【化10】

【0033】
したがって、本実施の形態の糖ペプチド誘導体においては、Lys残基に由来する合計3個の遊離アミノ基のうち少なくとも一つの遊離アミノ基にリンカーを介してビーズが結合している。
式(1)で表される糖ペプチドとしては、下記式(10)で表される構造であることが好ましい。
式(10):
【0034】
【化11】

【0035】
本実施の形態の糖ペプチド誘導体においては、下記式(11)で表される糖ペプチド誘導体として、少なくとも一つのRがリンカーを介したビーズであることが好ましい。
式(11):
【0036】
【化12】

【0037】
式(11)で表される構造において、Rが全てH(水素原子)である場合には、本実施の形態における好適な形態としての糖ペプチドを意味する。
【0038】
上記式で示されているように、糖ペプチドの糖鎖は、11個の糖残基からなる2分岐複合型糖鎖であり、2ヶ所の非還元末端にシアル酸を有する。
【0039】
例えば式(11)で表される糖ペプチド誘導体において、Rの例として、下記に構造式を示す。(B)はビーズを表し、糖ペプチドのアミノ基がリンカーを介してビーズと結合している。
式(12)
【0040】
【化13】

【0041】
ここでXは炭素数4〜14からなる炭化水素を表す。
式(13)
【0042】
【化14】

【0043】
ここでmは1〜8の整数を表す。
式(14)
【0044】
【化15】

【0045】
ここでnは1〜8の整数を表す。
式(15)
【0046】
【化16】

【0047】
本実施の形態の糖ペプチド固定化ビーズとしては、N末端Lys残基の構造として下記構造のいずれかであり得る。
【0048】
【化17】

【0049】
上記構造中、Rはリンカーを介して結合するビーズを表している。
【0050】
本実施の形態の糖ペプチド誘導体としては、ペプチド鎖中で、Asn残基とThr残基に結合するLys残基の構造として下記構造のいずれかであり得る。
【0051】
【化18】

【0052】
上記構造中、Rはリジン残基の遊離アミノ基とリンカーを介して結合するビーズを表し、Rが、上記式(12)〜式(15)で表される構造であることが好ましい。
【0053】
各構造におけるRは、同一であっても、異なっていてもよい。
(糖ペプチド固定化ビーズの製造方法)
本実施の形態の糖ペプチド誘導体の製造方法は、下記式(16)〜(11)で表される、一端がビーズに結合し、他端が活性化された官能基を含むリンカーを、活性基により糖ペプチドのリジン残基の遊離アミノ基に導入する導入工程を含む。
【0054】
導入工程により、糖ペプチドがリンカーを介してビーズと結合した糖ペプチド誘導体を得ることができる。
(導入工程)
導入工程とは、ビーズに結合した活性化された官能基を糖ペプチドのペプチド部分に存在する3個の遊離アミノ基のうちの少なくとも1個の遊離アミノ基に導入する工程をいう。用いる活性基含有ビーズの量、反応液の種類、反応液のpH、反応時間、反応温度などの反応条件を選択することにより、糖ペプチドの有する3個の遊離アミノ基に対し活性基含有リンカーを遊離アミノ基の1〜3ヶ所に導入することができる。
【0055】
本実施の形態において、「リンカーを介してビーズと結合する」とは、糖ペプチドにおけるリジン残基中の3ヶ所の遊離アミノ基の少なくとも一つが、リンカーを介してビーズと結合していることを意味する。ここで、ビーズとしてはアガロースやセルロースなどの天然物質が好ましく、水酸基を多く含むことで親水性が高ければこれらに限定されることはない。またビーズに結合したリンカーとしては、他端が遊離アミノ基と結合し得る能力を有するリンカーである事が好ましい。ここで糖ペプチドの遊離アミノ基と結合し得る部分が、リンカー内に存在していれば特に限定されるものでないが、ビーズに結合したリンカーは、リンカー全体として、炭素数2〜20、好ましくは、炭素数15以下のリンカーであることが好適である。一方、遊離アミノ基と結合しうる官能基としては、下式(16)または(17)で示されるN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)が導入された基、下式(18)で示されるエポキシが導入された基、更に下式(19)で示されるブロモシアン(CNBr)で活性化されたイミド基などが好ましい。
式(16):
【0056】
【化19】

【0057】
ここでBはビーズを表し、Xは炭素数4〜14からなる炭化水素を表す。
式(17):
【0058】
【化20】

【0059】
式(18):
【0060】
【化21】

【0061】
式(19):
【0062】
【化22】

【0063】
例えば上記式(16)〜式(19)で表されるビーズに結合したリンカーの官能基をペプチドの遊離アミノ基に導入する方法は、特に限定されないが、通常のペプチド合成に用いる縮合方法を用いればよい。
【0064】
例えば、式(16)又は式(17)で表されるビーズに結合したリンカーのカルボン酸の、N−ヒドロキシコハク酸イミドなどの活性エステルを用いた場合、必要に応じて、当該活性エステルを溶解できるアセトン、アセトニトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒と水との混合溶媒中、あるいは水溶液中で有機アミンなどの有機塩基、炭酸水素ナトリウム、リン酸緩衝液又は炭酸緩衝液などの無機塩基の存在下、氷冷下もしくは室温下で15分〜1日、糖ペプチドと反応させてもよい。
【0065】
本実施の形態の糖ペプチド固定化ビーズ製造において、導入工程におけるビーズの有する官能基をペプチドの遊離アミノ基に導入後、過剰の官能基を無効化するために50mMのモノエタノールアミン等を添加する工程をさらに含んでいてもよい。
【0066】
インフルエンザウイルス表面には、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼが存在する。インフルエンザウイルスは、これらのたんぱく質の種類の違いによって鳥インフルエンザウイルスH5N1型を含む144の亜種に分類されている。インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染は、ウイルス表面たんぱく質であるヘマグルチニンが細胞表面のシアル酸含有糖鎖を受容体として認識して結合することによって開始される。ヒトインフルエンザウイルスはN−アセチルノイラミン酸−α−2,6−ガラクトースを有する糖鎖に対し高い結合親和性を示す。このことから、本実施の形態における糖ペプチド固定化ビーズはインフルエンザウイルスとの親和性が強く、低濃度のインフルエンザウイルス液であっても濃縮効果が期待され、高感度分析を可能にすることが期待される。また本実施の形態におけるビーズによればヒト型インフルエンザウイルス除去効果が期待される。
【実施例】
【0067】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0068】
[HPLC分析]
糖ペプチドの分析例
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm)を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件(製造例1):
グラジエント;2%→17%(15min)、CH3CN in aqueous 0.1%TFA solution
流速;0.3mL/min
UV;214nm
【0069】
1H−NMR測定]
糖ペプチドの分析例
2O 0.4mLに試料 2mgを溶解して、JEOL製JNM−600(600MHz)で1H−NMRを測定した。
【0070】
[製造例1]鶏卵卵黄からの糖ペプチドの製造
鶏卵卵黄10個にエタノール350mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄150gを得た。
【0071】
得られた脱脂卵黄150gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、100mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール700mLに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド1.58gを得た。
【0072】
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gをガラスカラムに充填し、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド1.5gを水5mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで117mgの糖ペプチドを得た。
【0073】
得られた糖ペプチドのHPLC及び1H−NMRによる測定結果をそれぞれ図1及び2に示す。HPLCによる純度では95%であった。得られた糖ペプチドは標品(東京化成製)との比較により上記式(4)で表される構造であることが分かった。
【0074】
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gをガラスカラムに充填し、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。得られた糖ペプチド50mgを水1mLに溶解し水で置換後の樹脂に再度添加した。糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル水溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで30mgの糖ペプチドを得た。
【0075】
得られた糖ペプチドのHPLCによる測定結果を図3に示す。HPLCによる純度では99%であった。
【0076】
[実施例1]糖ペプチド固定化ビーズの製造
NHS(N-hydroxy-succinimide)−activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア製)ゲルを1.4mL計り取り、次に氷冷した1mM塩酸水溶液10mLで洗浄した。その後、0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液でゲルを洗浄した。
【0077】
次に製造例1で得た糖ペプチド10.0mgを0.9mLの0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液に溶解しゲルに加え4℃で終夜静置した。次に8mLの0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液にてゲルを洗浄し、次に8mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液にてゲルを洗浄した。次に、6mLの0.5Mモノエタノールアミン、0.5MNaCl水溶液を加え4℃で終夜静置した。
【0078】
次いで上記ゲルを、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、10mLの0.5Mモノエタノールアミン、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、10mLの蒸留水、そして10mLのPBSで洗浄し、4℃で保存した。
【0079】
[実施例2]コントロールビーズの製造
NHS(N-hydroxy-succinimide)−activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア製)ゲルを2mL計り取り、次に氷冷した1mM塩酸水溶液10mLで洗浄した。その後、0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液でゲルを洗浄した。
【0080】
次に8mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液にてゲルを洗浄した。次に、6mLの0.5Mモノエタノールアミン、0.5MNaCl水溶液を加え4℃で終夜静置した。
【0081】
次いで上記ゲルを、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、10mLの0.5Mモノエタノールアミン、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、10mLの蒸留水、そして10mLのPBSで洗浄し、4℃で保存し比較対照ゲルとした。
【0082】
[実施例3]糖ペプチド固定化ビーズの製造
CNBr−activated SepharoseTM 4 Fast Flow(GEヘルスケア製)ゲルを1.0g計り取り、次に氷冷した1mM塩酸水溶液50mLを加え膨潤させた後、静置しその後、上清を除去した。その後、氷冷した1mM塩酸水溶液50mLを加え、静置し上清を除去した。この操作を繰り返すことでゲルを洗浄した。
【0083】
次に製造例1で得た糖ペプチド10.0mgを0.9mLの0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液に溶解しゲルに加え4℃で終夜静置した。次に8mLの0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl水溶液にてゲルを洗浄し、次に8mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液にてゲルを洗浄した。次に、6mLの0.5Mモノエタノールアミン、0.5MNaCl水溶液を加え4℃で終夜静置した。
【0084】
次いで上記ゲルを、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、10mLの0.5Mモノエタノールアミン、10mLの0.1M酢酸ナトリウム、0.5MNaCl水溶液、そして10mLのPBSで洗浄し、4℃で保存した。
【0085】
[実施例4]レクチンとの反応
上記実施例1で得られた糖ペプチド固定化ビーズ216mgおよび比較対照ゲル225mg秤量した。それぞれのゲルに、それぞれのゲルに、10μg/mLとなるようにPBSで希釈したJ-OILMILLS製Biotin−SSA(Sambucus sieboldiana Biotin conjugated)0.5mLを加え4℃で終夜静置した。その後各サンプルの入ったチューブを8,000rpmで5分間遠心することで糖ペプチド−ビオチンが結合したビーズを沈殿させ上清を除去した。その後沈殿に500μLのPBSを加え撹拌し、8,000rpmで5分間遠心し、さらに上清を除去することでビーズを洗浄した。この操作を4回繰り返した。
【0086】
沈殿したビーズに対し、6.25x10-2μg/mLとなるように希釈したStreptavidin-HRP(Peroxidase-conjugated Streptavidin, Jackson ImmunoResearch Laboratories 製)溶液を0.75mL加えて室温下2時間静置した。その後各サンプルの入ったチューブを8,000rpmで5分間遠心することで糖ペプチド−ビオチン−ストレプトアビジン−HRPが結合したビーズを沈殿させ上清を除去した。その後沈殿に500μLのPBSを加え撹拌し、8,000rpmで5分間遠心し、さらに上清を除去することでビーズを洗浄した。この操作を4回繰り返した。
【0087】
沈殿したビーズに対しクエン酸リン酸緩衝液、オルトフェニレンジアミン(OPD)及び過酸化水素水を加えて調製した発色基質溶液を加え発色させ、その後1N HClを添加することで反応を停止させ、8,000rpmで3分間遠心し、上清を96穴プレートに移し、プレートリーダーにて490nmにおける吸光度を測定した。その結果を図4に示す。
【0088】
その結果、実施例1で得られた糖ペプチド固定化ビーズと反応させた群は、比較対照群に比べて有意にSSAとの結合能が高いことが確認された。このことから糖ペプチド誘導体と結合したビーズはその特異性がNeu5Ac(α2−6)Gal/GalNAcであると報告されているレクチンSSA(Sambucus sieboldiana)と結合している可能性が示唆された。更にリンカーを介して糖ペプチドと結合したビーズはヒト型インフルエンザAウイルスと結合する可能性が示唆された。
【0089】
[実施例5]ヘマグルチニンとの反応
上記実施例1で得られた糖ペプチド固定化ビーズ223mgおよび比較対照ゲル230mg秤量した。それぞれのゲルに、PBSで希釈したアブカム(abcam)製Recombinant Influenza A virus Hemagglutinin H1 protein(HAと表記する)の5μg/mL溶液を500μL加え4℃で終夜静置した。
【0090】
その後各サンプルの入ったチューブを8,000rpmで5分間遠心することで糖ペプチド−HAが結合したビーズを沈殿させ上清を除去した。その後沈殿に500μLのPBSを加え撹拌し、8,000rpmで5分間遠心し、さらに上清を除去することでビーズを洗浄した。この操作を4回繰り返した。
【0091】
沈殿したビーズに対し、アブカム(abcam)製の抗HA−マウスIgGモノクローナル抗体50μg/mL溶液を250μL加え室温で1時間静置した。その後各サンプルの入ったチューブを8,000rpmで5分間遠心することで糖ペプチド−HA−抗HAマウス抗体が結合したビーズを沈殿させ上清を除去した。その後沈殿に500μLのPBSを加え撹拌し、8,000rpmで5分間遠心し、さらに上清を除去することでビーズを洗浄した。この操作を4回繰り返した。
【0092】
沈殿したビーズに対し、HRP標識抗マウスIgG−ウサギポリクローナル抗体0.25μg/mL溶液をチューブに450μL加え室温で1時間静置した。その後各サンプルの入ったチューブを8,000rpmで5分間遠心することで糖ペプチド−HA−抗HAマウス抗体−抗マウス抗体ウサギ抗体−HRPが結合したビーズを沈殿させ上清を除去した。その後沈殿に500μLのPBSを加え撹拌し、8,000rpmで5分間遠心し、さらに上清を除去することでビーズを洗浄した。この操作を4回繰り返した。
【0093】
このビーズに対しクエン酸リン酸緩衝液、オルトフェニレンジアミン(OPD)及び過酸化水素水を加えて調製した発色基質溶液を加え発色させ、その後1N HClを添加することで反応を停止させ、8,000rpmで3分間遠心し、上清を96穴プレートに移し、プレートリーダーにて490nmにおける吸光度を測定した。その結果を図5に示す。
【0094】
その結果、実施例1で得られた糖ペプチド固定化ビーズと反応させた群は、HAとの結合に関して、比較対照群に比べて有意に結合能が高いことが確認された。このことからリンカーを介して糖ペプチドと結合したビーズはヒト型インフルエンザAウイルスと結合している可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の糖ペプチド誘導体は、ヒト型糖鎖結合タンパクの精製や濃縮、あるいはウイルスを吸着するために有効な手段として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される糖ペプチドのLys(リジン)残基の遊離アミノ基のうち、少なくとも一つの遊離アミノ基にリンカーを介してビーズが結合する糖ペプチド誘導体。
式(1):
【化1】

【請求項2】
前記ビーズと結合したリンカーが下記式(2)で表されるリンカーである、請求項1に記載の糖ペプチド誘導体。
式(2):
【化2】

(式中、(B)は、ビーズを表し、Xは炭素数4〜14からなる炭化水素を表す。)
【請求項3】
前記ビーズと結合したリンカーが下記式(3)〜(7)で表されるリンカーである、請求項1に記載の糖ペプチド誘導体。
式(3):
【化3】

(式中、(B)は、ビーズを表し、mは1〜8の整数を表す。)

式(4):
【化4】

(式中、(B)は、ビーズを表し、nは1〜8の整数を表す。)

式(5):
【化5】

(式中、(B)は、ビーズを表す。)

式(6):
【化6】

(式中、(B)は、ビーズを表す。)

式(7):
【化7】

(式中、(B)は、ビーズを表す。)
【請求項4】
前記糖ペプチドが、下記式(8)で表される構造である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体。
式(8):
【化8】

【請求項5】
前記ビーズがアガロースまたはセルロースである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体。
【請求項6】
前記ビーズと結合したリンカーを前記遊離アミノ基に導入して糖ペプチド誘導体を得る導入工程を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体が、ビーズ表面に保持されている担体。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体からなるヒト型糖鎖結合型タンパク質精製用担体。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の糖ペプチド誘導体からなるウイルス吸着用担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40148(P2013−40148A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179649(P2011−179649)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】