説明

シクロプロペノン化合物の結晶

【課題】(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物の新規かつ安定な結晶を提供すること。
【解決手段】
上記化合物の結晶に関する研究を進めた結果、(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミドの無水和物の新規なA型結晶とB型結晶を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロプロペノン化合物の新規な結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはカルパイン等のチオールプロテアーゼ阻害活性を有し、アルツハイマー病、筋ジストロフィーなどの疾患に有効なシクロプロペノン誘導体が開示されている。同文献の表−1の化合物番号239に(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド(以下、化合物1と称することもある)が開示され(ただし、立体化学の表記はなし)、また実施例80に化合物1の分解点、IR,NMRのデータが記載されている。しかしながら、これらのデータは主として化合物の構造を確認するためのものであり、結晶形に関する記載は全くない。
【0003】
【特許文献1】特開平5−230004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、化合物1の新規かつ安定な結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、化合物1の結晶に関する研究を進めた結果、(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミドの無水和物の新規な結晶、すなわち化合物1のA型結晶およびB型結晶を見出した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
(1)(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物のA型結晶。
(2)3553、3272、1860、1669、1634cm−1に強い赤外吸収ピークを示す請求項1記載の結晶。
(3)前記1または2の結晶を含有する医薬の原体。
(4)前記1または2の結晶を含有する医薬組成物。
(5)(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物のB型結晶。
(6)粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される回折角度として少なくとも7.7、8.8、16.5または19.3°(それぞれ±0.2°)のいずれか1つにピークを有する請求項5記載の結晶。
(7)前記5または6の結晶を含有する医薬の原体。
(8)前記5または6の結晶を含有する医薬組成物。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.A型結晶
化合物1の精製法および粉末としての単離方法についてさまざまな検討を行ったところ、同一の赤外吸収曲線を示す白色粉末が再現性よく得られることが判明した。特許文献1の実施例80に記載されているIRの値は、3450、3300、1858、1665、1625cm−1であるのに対して、再現性よく単離できた粉末の同領域のIRは3553、3272、1860、1669、1634cm−1に強い吸収ピークがあり、測定誤差を考慮しても特許文献1に記載されている形態のものとは異なる形態のものが得られたことが明らかになった。また、この白色粉末のX線結晶回折を測定したところ、明確な回折ピークが観測されたことから、この粉末が結晶であることが判明した。さらに元素分析を行ったところ、無水和物の計算値と一致した。これらの結果より、今までに知られていない化合物1の無水和物の結晶(A型結晶)を見出したことになる。
【0008】
このA型結晶を製造する方法としては、溶媒中で通常の再結晶操作を行う方法のみならず、アルコール溶媒に溶解して水を加えて結晶を析出させる方法や、酢酸エチル等の溶媒で懸濁洗浄を行うなどの方法が挙げられる。
【0009】
一般に合成化合物を医薬として用いる場合には、安全性などの面から高純度の原体が要求される。化合物1は結晶性が非常に優れている化合物であるため、精製を進めて高純度化していくとほとんどの場合A型結晶として単離される。したがって、医薬原体を再現性よく確実に製造することを考えた場合、特許文献1に記載された形態よりも本発明のA型結晶の方がはるかに有用であると考えられる。
【0010】
2.B型結晶
1kgスケールのラボトレース実験で、A型とは異なる結晶形が混入したと思われる結晶が取得されることがあった。粉末X線の回折パターンから判断して新規結晶形(B型)の存在の可能性が出てきたことから本発明者らは詳細な晶析検討を行って結晶多形の検索を行った。その結果、いくつかの晶析条件でB型結晶が析出することが判明した。特にA型結晶をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称する)に溶解しこれに少量のB型結晶を懸濁した水を添加した場合には、再現性よくB型結晶を得ることができた。
【発明の効果】
【0011】
化合物1の無水和物の結晶は安定な結晶であり、特許文献1に記載されているさまざまな疾患、例えば白内障、筋ジストロフィー、アルツハイマー病等の治療薬として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
かかる本発明の結晶を臨床に応用するに際し、治療上有効な成分の担体成分に対する割合は、1重量%から99重量%の間で変動されうる。例えば本発明の化合物は顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の剤形にして経口投与してもよいし、注射剤として静脈内投与、筋肉内投与又は皮下投与してもよい。また、坐剤として用いることもできる。固体製剤を製造する際に用いられる賦形剤としては、例えば乳糖、蔗糖、デンプン、タルク、セルロース、デキストリン、カオリン、炭酸カルシウム等が用いられる。経口投与のための液体製剤、すなわち乳剤、シロップ剤、懸濁剤、液剤等は、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば水又は植物油等を含む。
【0013】
臨床投与量は、経口投与により用いられる場合には、成人に対し本発明の化合物として、一般には1日量0.01〜5000mgであるが、年令、病態、症状により適宜増減することがさらに好ましい。本発明薬剤は、1日に1回、又は適当な間隔をおいて1日に2もしくは3回に分けて投与してもよいし、間欠投与してもよい。
【0014】
また、注射剤として用いる場合には、成人に対し本発明の化合物として、1日量0.001〜100mgを連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【実施例】
【0015】
以下、参考例及び実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
参考例1 化合物1の粗生成物の合成
バイオオーガニック・アンド・メディシナル・ケミストリー(Bioorganic & Medicinal Chemistry)、7巻、571頁(1999年)(文献1)に化合物6(Rがイソブチル基、Rがフェニル基、Xが塩素原子)として記載されている2−((2S)−2−アミノ−1−ヒドロキシ−3−メチルブチル)−3−フェニルシクロプロペン塩酸塩及び市販されている(S)−N−tert−ブトキシカルボニルロイシンを用いて、上記文献1記載の方法と同様の方法によって合成できる((1S)−1−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピルカルバモイル}−3−メチルブチル)カルバミン酸=tert−ブチル(4.45g)をエタノール(24ml)に溶解し、濃塩酸(12ml)をゆっくりと加えた。室温で30分間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗精製物にジエチルエーテル(40ml)を加え、室温で30分間攪拌してから濾過してジエチルエーテルで洗浄すると、(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−アミノ−4−メチルペンタンアミド塩酸塩(3.77g)が得られた。
【0016】
次にこの塩酸塩の化合物(2.50g)を塩化メチレン(100ml)に溶かし、塩化ベンゼンスルホニル(0.88ml)及びトリエチルアミン(1.9ml)を加え、室温で2時間攪拌してから希塩酸(100ml)を加えた。油層を分離し、水層を塩化メチレンで抽出した。抽出液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えた。乾燥剤を濾過してから濾液を濃縮すると、精製前の化合物1が得られた。
【0017】
実施例1 化合物1のA型結晶の取得
化合物1(203mg)を酢酸エチル(2ml)に加え、室温で1時間攪拌した。白色物質をろ過し、酢酸エチルで洗浄してから40℃で15時間減圧乾燥すると、結晶性物質(165mg)が得られた。
【0018】
この結晶性物質のIRを測定し、図1の吸収曲線が得られた。
【0019】
上記で得られた結晶性物質(155mg)に室温で酢酸エチル(1ml)を加え、0℃で1時間攪拌した。白色物質をろ過し、0℃に冷却した酢酸エチルで洗浄してから40℃で16時間減圧乾燥すると、結晶性物質(125mg)が得られた。
【0020】
この結晶性物質のIRを測定すると、図1と全く同じであった。
【0021】
赤外吸収のデータは表1の通りである。
【0022】
【表1】

さらにX線結晶回折を測定したところ、図2の結果が得られた。図2は明確な回折ピークを有していることから、結晶体であると考えられる。
【0023】
図1と全く同じIR吸収曲線を与える原体の元素分析値は、次のように無水和物と一致した。
【0024】
計算値:C 64.44、H 6.66、N 5.78、S 6.62
分析値:C 64.33、H 6.64、N 6.08、S 6.68
これより、図1を与える化合物1の結晶は、無水和物であることが明らかになった。本実施例で得られた結晶性物質を化合物1のA型結晶と称する。
【0025】
実施例2 化合物1のB型結晶の取得
(1)DMF溶液に水を添加する方法
ナス型フラスコ(35mL)中、A型結晶(1.00g)をDMF(4mL)に溶解し、水浴23℃に浸してマグネチックスターラーで攪拌した。これに水10mLを一気に加えると直ちに白色固体が析出した。これを4時間20分攪拌した後、結晶を濾取し、室温で減圧下乾燥しB型結晶を得た。収量0.937g(回収率94%)。この条件の再現性を確認し更にB型結晶を大量取得する目的で、同条件で実験を何度か実施したが、B型が得られる場合とA+B型が得られる場合があった。
【0026】
(2)DMF溶液にB型結晶を含む水を添加する方法
4口フラスコ(50mL)中A型結晶(1.00g)をDMF(4mL)に溶解し、水浴20℃に浸してスリーワンモーター(400rpm)で攪拌した。これに前記(1)で得られたB型結晶(20mg)を懸濁した水10mL(B型結晶を水に懸濁させるため10秒程度超音波をかけた)をロートを用いて一気に加えると直ちに白色固体が析出した。これを20℃で4時間攪拌後、濾取して結晶を水(4mL×2)で洗浄した。室温で減圧下乾燥しB型結晶0.961g(回収率94%)を得た。この方法の再現性を確認かめるために同様な方法でさらに3回実験を行ったところ、全てB型結晶を得た。
【0027】
この結晶についてX線結晶回折を測定したところ、図3の結果が得られた。図3は明確な回折ピークを有していることから、結晶体であると考えられる。B型結晶の粉末X線回折のデータは表2の通りである。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例3 製剤例
(1)錠剤
下記の成分を常法に従って混合し、慣用の装置により打錠した。
化合物1の結晶 10mg
結晶セルロース 180mg
コーンスターチ 300mg
乳糖 600mg
ステアリン酸マグネシウム 15mg
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で得られる(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物のA型結晶およびB型結晶は医薬の原体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】化合物1のA型結晶の赤外吸収を示す図である。
【図2】化合物1のA型結晶の粉末X線結晶回折を示す図である。
【図3】化合物1のB型結晶の粉末X線結晶回折を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物のA型結晶。
【請求項2】
3553、3272、1860、1669、1634cm−1に強い赤外吸収ピークを示す請求項1記載の結晶。
【請求項3】
請求項1または2の結晶を含有する医薬の原体。
【請求項4】
請求項1または2の結晶を含有する医薬組成物。
【請求項5】
(2S)−N−{(1S)−1−[(S)−ヒドロキシ(3−オキソ−2−フェニル−1−シクロプロペン−1−イル)メチル]−2−メチルプロピル}−2−ベンゼンスルホニルアミノ−4−メチルペンタンアミド無水和物のB型結晶。
【請求項6】
粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される回折角度として少なくとも7.7、8.8、16.5または19.3°(それぞれ±0.2°)のいずれか1つにピークを有する請求項5記載の結晶。
【請求項7】
請求項5または6の結晶を含有する医薬の原体。
【請求項8】
請求項5または6の結晶を含有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−246518(P2007−246518A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34210(P2007−34210)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】