説明

シクロペンタン化合物、それらの製造方法、及び神経栄養因子様作用剤

【課題】医薬品等の様々な用途に利用することが可能な新規シクロペンタン化合物及びその製造方法を提供する。別の目的とするところは、高い神経栄養因子様作用を発揮する神経栄養因子様作用剤を提供する。また、特にメシマコブの気中菌糸体を高効率で短期に得ることができるメシマコブの培養装置及び培養方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)に示される構造を有することを特徴とするシクロペンタン化合物。


式中、R1,R2 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R3は、水素原子又はメチル基を示す。R4,R5 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R6は、水素原子又はメチル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタン化合物、それらを有効成分とする神経栄養因子様作用剤、それらの製造方法、メシマコブの培養装置及びメシマコブの培養方法にかかる。詳しくは、メシマコブから得られた新規なシクロペンタン化合物に関する発明であり、さらにそれらの新規なシクロペンタン化合物を得るための原料としてメシマコブの培養装置及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、漢方生薬原料における桑黄は、桑木の枯木に稀に自生するメシマコブの子実体であり、キノコ類の中で特に強い抗ガン活性を有していることが知られている。従来より、特許文献1に開示されるように、多くの薬用キノコについて抗ガン活性が研究され、それらのキノコ中に抗ガン活性を有する成分としてβ−グルカンが含有されていることが知られている。β−グルカンは、高い免疫賦活化作用を有することが知られている。
【0003】
ところが、メシマコブの天然品は極めて少なく、特異的に寄生する桑木の減少とともにメシマコブの採取が困難となっている。したがって、従来より、特許文献2,3に開示されるように、メシマコブの菌糸体を人工的に培養する方法が種々提案されている。特許文献2は桑や楢等の原木を利用した培養方法について記載される。特許文献3は、所定のタンパク源を含有する液体培地に種菌を摂取して振とう培養する方法について開示する。
【特許文献1】特開2003−183176号公報
【特許文献2】特開2007−29072号公報
【特許文献3】特開2006−271339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メシマコブ中に含まれる有効成分としては、β−グルカン以外にも多種多様な有用成分を含有しているものと考えられている。
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、メシマコブから従来知られていない新規なシクロペンタン化合物を得たことに基づくものである。また、該シクロペンタン化合物が高い神経栄養因子様作用を有することを見出したことに基づくものである。
【0005】
ところで、上記新規なシクロペンタン化合物は、メシマコブの組織の中でも子実体が多く形成される気中菌糸体中に多く含有される。特許文献2に開示されるメシマコブの培養法では、空気中に向かって伸長する気中菌糸体の成長が非常に遅いという問題があった。また、特許文献3に開示されるメシマコブの培養方法は、振とう培養法のため、空気中に向かって伸長する気中菌糸体が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、メシマコブの気中菌糸体を高効率で短期に得ることができるメシマコブの培養装置及び培養方法を見出したことに基づくものである。
以上により、本発明の目的とするところは、医薬品等の様々な用途に利用することが可能な新規シクロペンタン化合物及びその製造方法を提供することにある。別の目的とするところは、高い神経栄養因子様作用を発揮する神経栄養因子様作用剤を提供することにある。さらに別の目的とするところは、特にメシマコブの気中菌糸体を高効率で短期に得ることができるメシマコブの培養装置及び培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明のシクロペンタン化合物は、下記一般式(1)に示される構造を有することを特徴とする。
【0008】
【化5】

(式中、R1,R2 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R3は、水素原子又はメチル基を示す。R4,R5 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R6は、水素原子又はメチル基を示す。)
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシクロペンタン化合物において、下記一般式(2)に示される構造であることを特徴とする。
【0009】
【化6】

請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシクロペンタン化合物において、下記一般式(3)に示される構造であることを特徴とする。
【0010】
【化7】

請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のシクロペンタン化合物において、下記一般式(4)に示される構造であることを特徴とする。
【0011】
【化8】

請求項5に記載の神経栄養因子様作用剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載のシクロペンタン化合物の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物の製造方法において、メシマコブ(Phellinus linteus)を原料として、有機溶媒及び水から選ばれる少なくとも一種からなる抽出溶媒に対して溶解成分を抽出する工程、次に、前記溶解成分がクロマトグラフィを用いて分離される工程からなることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載のシクロペンタン化合物の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物の製造方法において、メシマコブ(Phellinus linteus)を原料として、超臨界抽出法により抽出する工程からなることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明のメシマコブの培養装置は、筒状の容器、該容器の内周面に沿うように配され、上端に開口部を有する袋、及び該袋内に充填される有機質繊維材料及びタンパク源が混合された基材、から構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のメシマコブの培養装置において、前記筒状の容器は、外周面に内周面と連通する貫通孔が1又は2つ以上形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明のメシマコブの培養方法は、請求項8又は請求項9のいずれか一項に記載されるメシマコブの培養装置を使用し、前記基材上にメシマコブの菌糸体を接種し、培養することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、医薬品等の様々な用途に利用することが可能な新規シクロペンタン化合物及びその製造方法を提供する。また、高い神経栄養因子様作用を発揮する神経栄養因子様作用剤を提供することができる。さらに、特にメシマコブの気中菌糸体を高効率で短期に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本実施形態のシクロペンタン化合物を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本実施形態のシクロペンタン化合物は、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物である。
【0020】
【化9】

(式中、R1,R2 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R3は、水素原子又はメチル基を示す。R4,R5 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R6は、水素原子又はメチル基を示す。)
一般式(1)で示される化合物は、高い神経栄養因子様作用を有している。一般式(1)で表わされる化合物のうち好ましいものとして、下記一般式(2)〜(4)で示される化合物が挙げられる。
【0021】
【化10】

前記一般式(2)で表される化合物は、3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタン酸(3-methyl-5-(2,2-dimethyl-5-methylenecyclopentyl)pentanoic acid、分子量224.3)である。一般式(2)で示される化合物は、高い神経栄養因子様作用を有している。
【0022】
【化11】

前記一般式(3)で表される化合物は、(E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2−エン酸((E)-3-methyl-5-(2,2-dimethyl-5-methylenecyclopentyl)penta-2-enoic acid、分子量222.3)である。一般式(3)で示される化合物は、高い神経栄養因子様作用を有している。
【0023】
【化12】

前記一般式(4)で表される化合物は、(2E,4E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2,4−ジエン酸((2E,4E)-3-methyl-5-(2,2-dimethyl-5-methylenecyclopentyl)penta-2,4-dienoic acid、分子量220.3)である。一般式(4)で示される化合物は、高い神経栄養因子様作用を有している。
【0024】
上記一般式(1)〜(4)で表されるシクロペンタン化合物は、メシマコブ(Phellinus linteus)を抽出原料として、抽出処理することにより得ることができる。また、公知の化学合成法を利用することにより合成してもよい。メシマコブは、原料として胞子が形成される子実体、並びに菌糸体、例えば基底菌糸体、気中菌糸体、菌核、及び菌糸束のいずれの組織も使用することができる。これらの中で、上記一般式(1)〜(4)の成分が多く含有される子実体及び気中菌糸体が抽出原料として好ましく適用される。より好ましくは、気中菌糸体が適用される。
【0025】
上記抽出原料から上記一般式(1)〜(4)で表されるシクロペンタン化合物の抽出方法は、公知の抽出法、例えば有機溶媒、水、又は水/有機溶媒の混合溶媒に対して溶解成分を抽出する方法、並びに水及び炭酸ガス等を超臨界流体として使用する超臨界抽出法等が挙げられる。これらの中でシクロペンタン化合物を効率よく抽出することができる有機溶媒を用いた抽出処理法が好ましく適用される。本実施形態において用いられる有機溶媒としては、エーテル類、低級アルコール類、例えばエタノール、メタノール、及びイソプロパノール、ケトン類、例えばアセトン及びメチルエチルケトン、クロロホルム、並びにヘキサンを適宜選択して使用することができる。これらの有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、本願有効成分の抽出効率の高いメタノールが最も好ましい。
【0026】
本実施形態においては、上記抽出処理により得られた溶媒に対する溶解成分について、上記一般式(1)〜(4)で表されるシクロペンタン化合物を含有する粗抽出物として、本発明の効果の発揮を目的とした各種用途に適用してもよい。好ましくは、上記抽出処理により得られた溶媒に対する溶解成分について、好ましくはクロマトグラフィを用いてさらに分離及び精製したものを使用してもよい。クロマトグラフィとしては、公知のものを適宜採用することができ、例えばカラムクロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、及び薄層クロマトグラフィ等が挙げられる。クロマトグラフィ担体としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ等が挙げられる。それらを適宜組み合わせて、公知の分離手段により精製することができる。例えば、メタノール抽出物について、シリカゲルカラムクロマトグラフィを用いた方法では、移動相としてクロロホルム/メタノールグラジエント系を使用することにより分離することができる。上記抽出及び精製工程は、既精製成分を標準品として又は後述する神経栄養因子様作用活性を指標として行うことができる。
【0027】
次に、超臨界抽出法について説明する。超臨界抽出法は、公知の超臨界流体抽出装置を用いることにより実施することができる。超臨界流体を臨界温度以上及び臨界圧力以上の条件下で超臨界状態にした超臨界流体と抽出原料とを接触させることにより、抽出原料から所定の成分を抽出するものである。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合は、31.1℃の臨界温度以上及び72.8気圧(7.4MPa)の臨界圧力以上として超臨界流体状態となった二酸化炭素によって抽出原料から溶解成分が抽出される。
【0028】
前記超臨界流体は、二酸化炭素以外に水、エタン、プロパン、二酸化炭素、亜酸化窒素等が使用可能であるが、二酸化炭素を用いるのが最も好ましい。この二酸化炭素は、臨界温度が常温に近いうえに極性がエタノールより低いという抽出対象化合物に適合する物理的、化学的性質を有している。二酸化炭素はこのように抽出工程での物性が優れているばかりでなく無味・無臭で超臨界抽出物の味にも影響を及ぼさないことから本実施形態に用いる超臨界流体としては二酸化炭素が最も好ましい。
【0029】
超臨界流体抽出における操作には、超臨界流体が臨界点近傍において、わずかな温度差、圧力差に対して密度と溶解性が大きく変化する性質を利用するため処理の温度及び圧力には適切な上下幅が必要である。二酸化炭素を用いる場合の操作温度は、好ましくは32〜80℃、より好ましくは32〜50℃である。また、その操作圧力は、好ましくは73〜500気圧(7.4〜50.7MPa)、より好ましくは73〜400気圧(7.4〜40.5MPa)である。超臨界流体としての二酸化炭素の流量(流速)及び処理時間は、抽出原料の量や状態により異なるが、テスト又は処理実績から適宜に決定することができる。
【0030】
上記シクロペンタン化合物は高い神経栄養因子様作用を有する。そのため、それらを有効成分として含有する神経栄養因子様作用剤として好ましく適用することができる。神経栄養因子とは、神経細胞の生存、維持又は成長、シナプスの機能亢進、アポトーシス保護作用等の神経細胞の成長を調節する成分の一つで、一般に神経成長因子(NGF)等のタンパク質群が知られている。神経栄養因子様作用剤は、神経栄養因子が関与する神経性疾患、例えば、老年期認知症及びアルツハイマー等の神経変性疾患、脳虚血障害、記憶障害、神経障害、並びに精神疾患等の予防剤又は治療剤として適用できることが期待される。
【0031】
神経栄養因子様作用剤は、神経栄養因子様作用を効果・効能とする医薬品、飲食品等の形態で摂取することができる。本実施形態の神経栄養因子様作用剤を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。その他、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等の各種添加剤を配合してもよい。本実施形態の神経栄養因子様作用剤を飲食品として使用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、健康食品製剤、栄養補助食品・飲料等として使用することができる。その他、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0032】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態において、上記一般式(1)で表されるシクロペンタン化合物は、神経栄養因子様作用を有している。したがって、神経栄養因子様作用を目的とした医薬品、飲食品等に好ましく適用することができる。
【0033】
(2)本実施形態において、上記一般式(2)〜(4)は、優れた神経栄養因子様作用を有している。したがって、神経栄養因子様作用を目的とした医薬品、飲食品等に好ましく適用することができる。
【0034】
(3)本実施形態において、上記一般式(1)〜(4)のシクロペンタン化合物の製造方法において、メシマコブ(Phellinus linteus)を抽出原料として、製造することができる。したがって、天然成分が原料であるため生体に安全に適用することができる。
【0035】
(4)本実施形態において、上記一般式(1)〜(4)のシクロペンタン化合物の製造方法は、好ましくは有機溶媒及び水から選ばれる少なくとも一種からなる抽出溶媒に対して溶解成分を抽出する工程、次に、前記溶解成分がクロマトグラフィを用いて分離される工程からなる。したがって、上記シクロペンタン化合物を効率よく入手することができる。
【0036】
(5)本実施形態において、上記一般式(1)〜(4)のシクロペンタン化合物の製造方法は、例えば超臨界流体が水及び二酸化炭素から選ばれる少なくとも一種である超臨界抽出法により抽出する工程からなる。したがって、上記シクロペンタン化合物を効率よく入手することができる。
【0037】
(6)本実施形態において、上記一般式(1)で表されるシクロペンタン化合物は、神経栄養因子様作用を有している。したがって、神経性疾患の治療剤・予防剤として好ましく適用できることが期待される。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の神経栄養因子様作用剤は、ヒト以外にも、飼養動物、例えばウマ、ウシ、ブタのような家畜(非ヒト哺乳動物)、ニワトリ等の家禽、或いは犬、猫、ラット及びマウス等のペットに投与してもよい。
【0039】
(第2の実施形態)
以下、本実施形態のメシマコブの培養方法を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0040】
本実施形態では、上記一般式(1)〜(4)で表されるシクロペンタン化合物の抽出原料に好ましく適用することができるメシマコブについて、その培養方法を説明する。メシマコブは、子実体と菌糸体から構成される。菌糸体は、さらに基底菌糸体、気中菌糸体、菌核、菌糸束、及び菌糸盤等から構成される。基底菌糸体は、基材中に侵食し、周囲の栄養分を吸収しながら伸長する組織である。気中菌糸体は、菌糸が伸長し、基材に蔓延した後、空気中に向かって伸長する組織をいう。気中菌糸体中には隔壁が形成され、さらに菌糸盤を形成し、温度条件などが変わると子実体が形成される。子実体で胞子が形成され、次世代へ移行する。また、子実体は多数の菌糸が並んで形成されるが、単に糸状の菌糸が絡み合うだけでなく、菌糸の各細胞が球状に膨らみ、それらが隣接して植物の柔組織のよう見える。メシマコブの属する担子菌類の菌糸は、略均等な太さで規則的に隔壁があって菌糸は細胞に分かれている。
【0041】
本実施形態のメシマコブの培養方法は、メシマコブの子実体及び菌糸体の培養方法に適用され、特に基底菌糸体の培養方法に適している。メシマコブの培養方法は、図1,2に示されるメシマコブの培養装置11を用いて行われる。図1,2に示されるメシマコブの培養装置11は、筒状の容器12、該容器12の内周面に沿うように配され、一端(上端)に開口部を有する袋13、及び該袋13内に充填される有機質繊維材料及びタンパク源が混合された基材14、から構成されている(図1(c)等参照)。筒状の容器12は、上下方向に開口端を有する円筒形状である。大きさは特に限定されないが、取り扱い性等を考慮し、例えば軸方向の長さが3〜50cm、直径が1〜30cmの範囲で構成される。材質は得に限定されないが、例えば合成樹脂製、竹製、木製、紙製、金属製、ガラス製等を使用することができる。加工性の観点から、合成樹脂製、竹製、木製、及び紙製が好ましく使用される。容器12は、気中菌糸体の成長を促進させるために、好ましくは外周面に内周面と連通する貫通孔12aが1又は2つ以上形成されている。
【0042】
一端に開口部を有する袋13は、内部に基材14を充填するとともに、気中菌糸体を伸長させるために、容器12内に配される。図1(a)〜(c)に示されるように、先に容器12の内周面に沿うように配し(図1(b)参照)、次に基材14を袋13内に充填してもよい(図1(c)等参照)。また、先に袋13内に基材14を充填してから袋13ごと容器12内に配してもよい。容器12から袋13の端部が吐出する場合、吐出部分を容器12の開口端に沿って切断してもよく、そのまま残してもよい。袋13の材質は特に限定されず、合成樹脂製、紙製等を挙げる事ができる。袋13は、有色又は無色を問わず、透明、半透明又は不透明を問わない。容器12の外周面に貫通孔12aが形成される場合、気中菌糸体の成長を促進させるために袋13にも貫通孔12aと連通する穴13aが形成されることが好ましい。
【0043】
基材14は、上述したように有機質繊維材料及びタンパク源から構成され、メシマコブの栄養供給源になるとともに、メシマコブの成長とともに伸長する基底菌糸体の足場となる。有機質繊維材料としては、例えばパルプ、コットンリタ、バーク(樹皮)、オガ屑(鋸屑等)、もみ殻、及び稲わら等が挙げられる。タンパク源としては、天然材料又は精製材料等、特に限定されない。また、天然材料を用いる場合、例えば、コーン粕、バガス(サトウキビ粕)、大豆粕、ふすま(麦かす)、菜種粕、及び米糠等の植物由来材料が好ましく使用される。その他、基材14には、水、糖類、例えばグルコース、ショ糖及びデンプン、広葉樹(桑、楢等)の熱水抽出液、酵母エキス、ビタミン類、並びに無機塩類等を適宜配合してもよい。
【0044】
メシマコブの培養は、好ましくは無菌環境下で行われる。無菌環境下で行われる場合、例えば、図2に示されるように、上記培養装置11を収容器15内に配置し、所定雰囲気下で培養する方法を適用することができる。培養装置11及び収容器15は、メシマコブの種菌を摂取する前に、滅菌処理することが好ましい。滅菌方法は、公知の方法を適宜使用することができ、高温・加圧処理(オートクレーブ)が好ましく適用される。収容器15の底部には、収容器15内部の湿度を維持するために、蒸留水16を適量入れてもよい。収容器15は、培養装置11を配置することができれば大きさ、材質、色等は特に限定されないが、メシバコブの培養状態を観察するために、透明又は半透明の素材で成形されることが好ましい。
【0045】
寒天培地(例えばPDA培地)等を用いて培養したメシマコブの菌糸(種菌)を無菌状態で培養装置11の基材14上面に載置する。培養温度は、好ましくは20〜30℃、より好ましくは24〜26℃で行われる。かかる培養雰囲気下で25〜30日間培養することにより、基材14の上方に伸びる成長した気中菌糸体を得ることができる。図2の培養装置11上部にメシマコブの成長した気中菌糸体を示す。
【0046】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のメシマコブの培養装置11は、筒状の容器12、該容器12の内周面に沿うように配され、上端に開口部を有する袋13、及び該袋13内に充填される有機質繊維材料及びタンパク源が混合された基材14、から構成されている。したがって、メシマコブの菌糸体(特に気中菌糸体)及び子実体を高効率で短期に入手することができる。
【0047】
(2)本実施形態のメシマコブの培養装置11を使用することにより、メシマコブの気中菌糸体を高効率で短期に入手することができる。したがって、一般式(1)〜(4)のシクロペンタン化合物の抽出原料を容易に且つ大量に入手することができる。
【0048】
(3)本実施形態のメシマコブの培養装置11は、好ましくは容器12の外周面及び袋13において、基材14へ到達する貫通孔12a及び穴13aがそれぞれ1又は2つ以上形成されている。したがって、気中菌糸体の成長をより促進させることができる。
【0049】
(4)本実施形態のメシマコブの培養装置11は、好ましくは無菌状態で行われる。したがって、不要な微生物の繁殖を抑止し、メシマコブの増殖のみを期待することができる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、金網、ネット等を用いて成長した気中菌糸体を支えながら、培養してもよい。かかる構成により、より大きい気中菌糸体を得ることができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:メシマコブ気中菌糸体の培養条件の検討>
メシマコブの気中菌糸体の培養容器について、具体例をあげて説明するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。本試験例では、岐阜県の山林内で採取した自然産メシマコブ子実体から組織を分離し、桑木抽出培地で継代培養したメシマコブ菌糸(PL株)及び独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門から入手したメシマコブ菌糸(NBRC株)を用いている。
【0052】
(実施例1,2)
図1,2に示される培養装置において、側面に貫通孔12aを形成していない培養装置を使用した。培養装置を収容し、無菌状態で培養するための収容器として、蓋付きポリカーボネート製バケツを使用した。バケツの底には収容器内の湿度を保つために少量の水を入れた。基材を充填する筒状の容器は、塩化ビニル製パイプを使用し、長手方向に15cm、直径14cmの大きさのものを使用した。袋内には、有機質繊維材料として鋸屑1000重量部、タンパク源としてふすま250重量部、蒸留水1800〜2000重量部から構成される基材を充填した。メシマコブの子実体から採取した種菌糸として、PL株(実施例1)とNBRC株(実施例2)を使用した。これをPDA培地で継代培養し、寒天培地ごと5mm四方程度に切り取り、先の充填基材上に静置した。尚、培養装置及び蓋付きポリカーボネート製バケツは、種菌接種前に蒸気圧(15lb/cm、120〜121℃)で50〜60分間加熱して高圧滅菌処理をし、種菌の接種は無菌環境下で行なった。培養条件は、25±1℃の温度で、30日間培養した。培養後、メシマコブの気中菌糸体(増殖部)の重さを量った。
【0053】
(実施例3,4)
図1,2に示される側面に貫通孔12aが形成されているとともに、袋にもその貫通孔12aに相対抗する箇所に穴13aが形成されている培養装置を使用した。それ以外の構成は、実施例1と同様の構成を適用した。メシマコブの子実体から採取した種菌糸として、PL株(実施例3)とNBRC株(実施例4)を使用した。これをPDA培地で継代培養し、寒天培地ごと5mm四方程度に切り取り、先の充填基材上に静置した。培養条件及び培養方法は、実施例1に記載の方法を適用した。
【0054】
(比較例1,2)
培養装置として、コナラ原木を使用した。それ以外の構成は、実施例1と同様の構成を適用した。メシマコブの子実体から採取した種菌糸として、PL株(比較例1)とNBRC株(比較例2)を使用した。クワ原木上部にクワ木粉を乗せ、この上に、PDA培地で継代培養した種菌糸を寒天培地ごと5mm四方程度に切り取り、静置した。培養条件及び培養方法は、実施例1に記載の方法を適用した。
【0055】
(比較例3,4)
培養装置として、桑原木を使用した。それ以外の構成は、実施例1と同様の構成を適用した。メシマコブの子実体から採取した種菌糸として、PL株(比較例3)とNBRC株(比較例4)を使用した。クワ原木上部にクワ木粉を乗せ、この上にPDA培地で継代培養し種菌糸を寒天培地ごと5mm四方程度に切り取り静置した。培養条件及び培養方法は、実施例1に記載の方法を適用した。
【0056】
(比較例5,6)
培養装置として、350mLのポリエチレン瓶を使用し、それ以外の構成は、実施例1と同様の構成を適用した。メシマコブの子実体から採取した種菌糸として、PL株(実施例5)とNBRC株(実施例6)を使用した。これをPDA培地で継代培養し、寒天培地ごと5mm四方程度に切り取り、先の充填基材上に静置した。培養条件及び培養方法は、実施例1に記載の方法を適用した。
【0057】
【表1】

表1に示されるように、各実施例のメシマコブの培養装置は、いずれも高収率で気中菌糸体が得られることが確認された。各実施例のうち穴あきパイプを使用し、袋とそれに充填される基材からなる実施例3,4が最も気中菌糸体の収率が高かった。次に、穴のないパイプを使用し、袋とそれに充填される基材から構成される実施例1,2の気中菌糸体の収率が高かった。各比較例においては、大量の気中菌糸体を得るためには、大量の基材を使用しなければならず、もしくは長期間培養しなければならず培養効率が非常に悪いことが確認された。
【0058】
<試験例2:メシマコブからの抽出物について神経栄養因子様作用活性の確認及び活性成分の同定>
(1)抽出組織と抽出溶媒の検討
抽出原料としてメシマコブ基底菌糸体、気中菌糸体、子実体、及び市販されている桑黄子実体を使用した。抽出溶媒として、メタノールを用いたソックスレー抽出法により各抽出試料を調製した。具体的には、各組織に対し抽出溶媒を10倍量添加し、1時間還流抽出することにより各溶媒に対する溶解成分の抽出を行った。その後、溶媒を減圧除去し、約10倍に濃縮することにより各組織の抽出試料を得た。それぞれの試料について、神経栄養因子様作用活性の確認を行うために、後述の方法により神経細胞のMAPK/RAS経路に関与するMAPKのリン酸化促進作用を評価した。神経細胞では、神経栄養因子の神経突起形成において、細胞内シグナル伝達系でMAPKのリン酸化による活性化によって神経分化が引き起こされることが知られている。
【0059】
(2)MAPKのリン酸化促進作用
まず、コラーゲンコートした培養シャーレに30万個の神経細胞PC12細胞/mLで培養開始し、1日後に披検試料を添加し、30分又は180分経過後に細胞内シグナル伝達を遅らせるため氷上でTris−HCl緩衝液をべ―スとする脱リン酸化酵素阻害剤を含む溶液で細胞を回収した。メシマコブ基底菌糸体、気中菌糸体、子実体、市販品桑黄の子実体の各抽出試料のタンパク質濃度を定量し、それをもとに―定量のタンパク質をアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。電気泳動後PVDF膜に転写し、抗MAPK抗体と抗リン酸化MAPK抗体を用いてウエスタンイムノブロッティングを実施した。アルカリフォスファターゼ標識二次抗体と反応させ、酵素活性を発色させた。尚、陽性対照としてNGFを用いた。
【0060】
その結果、図3に示されるように、各抽出試料についてリン酸化MAPKタンパク質が発現し、MAPKのリン酸化促進作用が確認された。その中で、最もリン酸化MAPKタンパク質の発現が顕著に見られたのが、気中菌糸体のメタノール抽出物であった。したがって、気中菌糸体のメタノール抽出物について、さらにカラムクロマトグラフィによる分離処理を行い活性成分の特定を試みた。尚、上述したように神経細胞ではMAPKのリン酸化による活性化によって神経分化が引き起こされ、その―環として神経突起形成も引き起こされるため、この後の分離処理は神経細胞(PC12細胞)に対する神経突起誘導活性を指標とした。
【0061】
(3)気中菌糸体のメタノール抽出物のカラムクロマトグラフィによる分離処理及び活性画分の特定
メシマコブ気中菌糸体39.3gから得られたメタノール抽出物8gをシリカゲルカラムにアプライした後、クロロホルム/メタノールのステップワイズ法により溶出させた。具体的には、まず第1〜4画分について、クロロホルム/メタノール=100:0を各150mLで溶出させた。次に第5〜8画分について、クロロホルム/メタノール=75:25を各150mLで溶出させた。次に第9〜11画分について、クロロホルム/メタノール=50:50を各150mLで溶出させた。次に、第12〜16画分について、クロロホルム/メタノール=25:75を各150mLで溶出させた。次に第17〜21画分について、クロロホルム/メタノール=0:100を各150mLで溶出させた。その後、溶媒を減圧除去し、各分画試料を得た。それぞれの試料について、後述の方法により神経細胞(PC12細胞)に対する神経突起誘導活性を評価した。
【0062】
(4)神経突起誘導活性の評価方法
希塩酸(pH3.0)で30mg/mLに調製したKOKEN TYPE IVコラーゲンを培養用シャーレに加えて室温で2時間静置した後、滅菌水で2回洗浄したものをコラーゲンコート培養シャーレとしてPC12細胞の培養に用いた。コラーゲンコートしたシャーレに50000cells/mLの細胞密度でPC12細胞を播種し、10%熱非働化ウマ血清、5%熱非働化ヴシ胎仔血清、100units/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含むDulbecco's modifled Eagle's medium(DMEM)にて5%CO下、37℃で培養した。評価対象の各抽出試料を50μLのDMSOに溶解させ、培養液で100倍に希釈したものを1xとし、これを3x、10x、30xと希釈した後、細胞の播種直後に培養液に添加し、1日毎に最大10日間、突起形成の有無を位相差顕微鏡で観察した。各試料のそれぞれの濃度ごとに2枚ずつの培養シャーレを用いた。陽性対照としてNGFを用いた。尚、神経突起誘導活性の評価について、D:細胞が死滅、−:細胞は生存するが突起形成無し、+:細胞体の直径以上の長さの突起をもつ細胞がわずかに存在(10%以下)、++:細胞体の直径以上の長さの突起をもつ細胞がある程度存在(10−20%以下)、+++:細胞体の直径以上の長さの突起をもつ細胞が多数存在(20%以上)することを示す。
【0063】
【表2】

表2に示されるようにクロロホルムとメタノールの溶媒比率がそれぞれ(100:0)、(50:50)の溶出画分である第2、9画分で活性が確認された。そこで、収量が多かった第2画分についてさらに精製を進めた。
【0064】
(5)活性画分の精製
上述の方法により得られた第2画分は収量620mgであった。これに1mLのメタノールを混合させ、一定時間放置後、ろ過によりメタノール可溶部分と不溶部分を分別した。この作業を複数回繰り返し、得られたメタノール可溶部分の溶媒を減圧除去した。収量は422mgであった。これをメタノールに再溶解させた後、約2gのODS(Chromatolex ODS、Pro.No.DM1020T、富士シリシア社製)に吸着させ、溶媒を減圧除去した。メタノール可溶部分を吸着させたODSを、ODSカラム(内径2.4cm、高さ24cm)にアプライし、20%メタノールにて溶出させた。その後、一定の割合で溶出溶媒にメタノールを混合させ、溶出溶媒が100%メタノールとなるまでグラジエント溶出させた。溶出させた全21画分の溶媒を減圧除去し、各分画試料を得た。それぞれの試料について、上述の方法により神経突起誘導活性の評価を行なった。尚、各試料は10μg/mLとなるよう培養液に添加し、観察期間は最大3日間とした。
【0065】
【表3】

表3に示されるように第14〜16、18画分で活性が確認された。
【0066】
活性のあった第14〜16、18画分についてHPLCを用いて分析した。その結果、第14〜16画分からは保持時間とスペクトルの波形が共通する3本のピークが検出された。一方、第18画分からは数多くのピークが検出された。第14〜16画分に共通する3本のピークについてガスクロマトグラフ質量分析計(AUTO MASS SYSTEM II,日本電子株式会社製)を用いて分析したところ、これら3成分の分子量は、それぞれ220、222、224であることが確認された。
【0067】
(6)活性成分の同定
これら3成分のうち、分子量224の成分について1H−NMR及び13C−NMRを測定することにより構造解析を行なった。試料は重クロロホルムに溶解させた。核磁気共鳴スペクトル1H−NMR及び13C−NMR(MERCURY plus 300NB, Varian社製)の測定結果を表4に示す。なお、表4において、(No.)の欄の番号は図4に記載されている番号である。更に、構造決定のために、HMBCスペクトル及びHMQCスペクトルなど様々な測定法を用い、その詳細な構造決定を行なった。詳細は以下に示す。
【0068】
13C−NMRスペクトルより、カルボン酸を示唆するシグナル(13)が観測された。1H−NMR及び13C−NMRスペクトルをHMQCスペクトルと組み合わせて解析すると、オレフィン領域では、2重結合の存在を示唆するメチレンプロトン(6)が、観測された。脂肪族領域では、メチルプロトン(7,8,14)、メチレンプロトン(3,4,9,10,12)、メチンプロトン(1,11)が観測された。これら部分構造と4級炭素の帰属をHMBCスペクトルの解析により行なった。その結果、3成分のうちのひとつが図4で表される化合物(3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタン酸)であると同定した。分子量は224、分子式はC14242である。図4で表される化合物をCyclophellene Iと名づけた。
【0069】
【表4】

続いて、分子量222の成分について1H−NMR及び13C−NMRを測定することにより構造解析を行なった。試料は重クロロホルムに溶解させた。核磁気共鳴スペクトル1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を表5に示す。なお、表5において、(No.)の欄の番号は図5に記載されている番号である。更に、構造決定のために、HMBCスペクトル及びHMQCスペクトルなど様々な測定法を用い、その詳細な構造決定を行なった。詳細は以下に示す。
【0070】
13C−NMRスペクトルより、カルボン酸を示唆するシグナル(13)が観測された。1H−NMR及び13C−NMRスペクトルをHMQCスペクトルと組み合わせて解析すると、オレフィン領域では、2重結合の存在を示唆するメチレンプロトン(6,12)が、観測された。脂肪族領域では、メチルプロトン(7,8,14)、メチレンプロトン(3,4,9,10)、メチンプロトン(1)が観測された。これら部分構造と4級炭素の帰属をHMBCスペクトルの解析により行なった。その結果、3成分のうちのひとつが図5で表される化合物((E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2−エン酸)であると同定した。分子量は222、分子式はC14222である。図5で表される化合物をCyclophellene IIと名づけた。
【0071】
【表5】

最後に、分子量220の成分について1H−NMR及び13C−NMRを測定することにより構造解析を行なった。試料は重クロロホルムに溶解させた。核磁気共鳴スペクトル1H−NMR及び13C−NMRの測定結果を表6に示す。なお、表6において、(No.)の欄の番号は図6に記載されている番号である。更に、構造決定のために、HMBCスペクトル及びHMQCスペクトルなど様々な測定法を用い、その詳細な構造決定を行なった。詳細は以下に示す。
【0072】
13C−NMRスペクトルより、カルボン酸を示唆するシグナル(13)が観測された。1H−NMR及び13C−NMRスペクトルをHMQCスペクトルと組み合わせて解析すると、オレフィン領域では、2重結合の存在を示唆するメチレンプロトン(6,9,10,12)が、観測された。脂肪族領域では、メチルプロトン(7,8,14)、メチレンプロトン(3,4)、メチンプロトン(1)が観測された。これら部分構造と4級炭素の帰属をHMBCスペクトルの解析により行なった。その結果、3成分のうちのひとつが図6で表される化合物((2E,4E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2,4−ジエン酸)であると同定した。分子量は220、分子式はC14202である。図6で表される化合物をCyclophellene IIIと名づけた。
【0073】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】メシマコブの培養装置。(a)容器を示す図。(b)容器内部に袋を配置した図。(c)袋に基材を充填した図。
【図2】メシマコブの培養状態を示す図。
【図3】MAPKのリン酸化促進活性の結果を示すウエスタンイムノブロッティングの写真。
【図4】3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタン酸の構造を示す図。
【図5】(E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2−エン酸の構造を示す図。
【図6】(2E,4E)−3−メチル−5−(2,2−ジメチル−5−メチレンシクロペンチル)ペンタ−2,4−ジエン酸の構造を示す図。
【符号の説明】
【0075】
11…培養装置、12…容器、12a…貫通孔、13…袋、14…基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示される構造を有することを特徴とするシクロペンタン化合物。
【化1】

(式中、R1,R2 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R3は、水素原子又はメチル基を示す。R4,R5 は、それぞれ水素原子を表わすか互いに結合して炭素原子間の二重結合の一部を形成する。R6は、水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)に示される構造であることを特徴とする請求項1に記載のシクロペンタン化合物。
【化2】

【請求項3】
下記一般式(3)に示される構造であることを特徴とする請求項1に記載のシクロペンタン化合物。
【化3】

【請求項4】
下記一般式(4)に示される構造であることを特徴とする請求項1に記載のシクロペンタン化合物。
【化4】

【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物を有効成分とすることを特徴とする神経栄養因子様作用剤。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物の製造方法において、メシマコブ(Phellinus linteus)を原料として、有機溶媒及び水から選ばれる少なくとも一種からなる抽出溶媒に対して溶解成分を抽出する工程、
次に、前記溶解成分がクロマトグラフィを用いて分離される工程からなることを特徴とするシクロペンタン化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシクロペンタン化合物の製造方法において、メシマコブ(Phellinus linteus)を原料として、超臨界抽出法により抽出する工程からなることを特徴とするシクロペンタン化合物の製造方法。
【請求項8】
筒状の容器、該容器の内周面に沿うように配され、上端に開口部を有する袋、及び該袋内に充填される有機質繊維材料及びタンパク源が混合された基材、から構成されることを特徴とするメシマコブの培養装置。
【請求項9】
前記筒状の容器は、外周面に内周面と連通する貫通孔が1又は2つ以上形成されていることを特徴とする請求項8に記載のメシマコブの培養装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9のいずれか一項に記載されるメシマコブの培養装置を使用し、前記基材上にメシマコブの菌糸体を接種し、培養することを特徴とするメシマコブの培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256248(P2009−256248A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108005(P2008−108005)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】