説明

シャツ

【課題】皮膚に密着しているにもかかわらず、ラケットの打球動作に追従し、人体の動きを阻害しないシャツを提供する。
【解決手段】本発明のシャツ(10)は、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用されるシャツであって、一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材を、後ろ身頃の上部(2)は横に伸びる方向、同下部(3)は縦に伸びる方向、前身頃(1)は縦に伸びる方向、上腕から肩部(4)は横に伸びる方向、脇部(5)と肘部(6)は縦に伸びる方向、袖部(7)は横に伸びる方向にそれぞれ配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用されるシャツに関するものであり、特にラケットを使用するスポーツに好適なシャツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、冬期などの寒い時期にもテニス、バドミントン、スカッシュ、卓球などのラケットを使用するスポーツが盛んである。このような寒いシーズンには長袖のシャツが要求される。また、暖かい時期においても、日焼け防止のため、長袖シャツを着用するプレーヤーも存在する。ラケットを使用したスポーツにおいては、人体は様々な方向の動きをする。
【0003】
一例としてテニスを挙げると、通常の打球(ラリー)では背中は横方向に大きく変形し、腕はラケットとともに主として水平方向に円弧の動きをする。サーブやスマッシュでは、腹部が縦方向に伸び、腕はラケットとともに主として垂直から斜め方向に円弧の動きをする。従来、このような人体の動きに合わせたシャツは開発されてこなかった。
【0004】
本出願人は、緊締力の異なる生地を複数種類配置した野球用アンダーウェアを既に提案している(特許文献1)。他の提案として、一方向性のストレッチ生地を特定方向に配置したシャツが提案されている(特許文献2)。しかし、これらのシャツはいまだ満足されておらず、ラケットの打球動作に追従しないという問題があり、好適なウェアは依然として市場から要求されている。
【特許文献1】特許第3872036号公報
【特許文献2】特開2001−254212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、皮膚に密着しているにもかかわらず、ラケットの打球動作に追従し、人体の動きを阻害しないシャツを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシャツは、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用されるシャツであって、
一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材を、後ろ身頃の上部は横に伸びる方向、同下部は縦に伸びる方向、前身頃は縦に伸びる方向、上腕から肩部は横に伸びる方向、脇部と肘部は縦に伸びる方向、袖部は横に伸びる方向にそれぞれ配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材を、人体の動きの大きい部分に配置したことにより、皮膚に密着しているにもかかわらず、ラケットの打球動作に追従し、人体の動きを阻害しないシャツを提供できる。また、前記ストレッチ素材の生地を使用して、方向性のみ異ならせて配置しても良く、この場合はデザイン的にもシンプルなものとなり、コストも安いシャツを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、主としてテニスプレイヤーに注目し、打球動作における身体の動きを分析した。その結果、次のことがわかった。
(1)通常のラリーにおいては、両肩甲骨付近を含む背中上部は水平方向(身長方向と直交する方向)の動きが大きい。
(2)サーブを受ける姿勢や球を拾う動作においては、腰椎付近から背中下部は垂直方向(身長方向)の動きが大きい。
(3)サーブ及びスマッシュをする場合は、胸から腹部は垂直方向(身長方向)の動きが大きい。
(4)一般的な打球動作においては、三角筋及び上腕二頭筋付近は水平方向(身長方向と直交する方向)の動きが大きい。
(5)同、脇及び肘頭付近は垂直方向(身長方向)の動きが大きい。
(6)同、手首付近は水平方向(身長方向と直交する方向)の動きが大きい。
【0009】
以上の分析をもとに、いくつかの素材を選択しデザイン設計した。その結果、主構成部分がストレッチ素材で形成され、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用されるシャツにおいて、一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材から作成すると良いものが得られることがわかった。ここで主構成部分とは、実質的に肌を覆う部分を言う。襟、袖口、裾、必要によりポケット部などの素材は任意のものでよい。
【0010】
主構成部分をより具体的に説明すると、後ろ身頃の上部(約2/3)は横に伸びる方向、同下部(約1/3)は縦に伸びる方向にストレッチ素材を配置する。その際に、背中部においては、骨盤の上付近のわき腹から背骨にかけて上向きの円弧状に縫製するのが好ましい。人体の動きに合わせて伸びる方向を合わせるためである。
【0011】
前身頃は縦に伸びる方向にストレッチ素材を配置する。サーブ及びスマッシュをする場合は、胸から腹部は垂直方向(身長方向)の動きが大きいからである。この際に、肩の部分は鎖骨の付近で後ろ身頃と縫製するのが好ましい。肩の上部は横方向の動きが大きいからである。また、脇の下には縫製部が入らないように縫製するのが好ましい。脇の下に縫製部があると、発汗してシャツが濡れたとき、繰り返し腕を動かすと縫製部との摩擦により肌が痛むことがあるからである。
【0012】
上腕から肩部は横に伸びる方向にストレッチ素材を配置する。三角筋及び上腕二頭筋付近は水平方向(身長方向と直交する方向)の動きが大きいからである。脇部と肘部は縦に伸びる方向にストレッチ素材を配置する。脇部及び肘頭付近は垂直方向(身長方向)の動きが大きいからである。袖部は横に伸びる方向にストレッチ素材を配置する。手首付近は水平方向(身長方向と直交する方向)の動きが大きいからである。
【0013】
前記ストレッチ素材は、一方向の伸びが直交する方向に比較して1.2〜4倍高いことが好ましい。この範囲であれば、人体の動きに追従してさらに着心地が良いものとなる。
【0014】
前記ストレッチ素材は、荷重0〜20Nの範囲、幅5cmにおいて、一方向の伸びが150%以上500%以下であり、直交する方向の伸びが100%を超え150%未満であることが好ましい。この範囲であれば、人体の動きを阻害することなく、人体の動きに追従してさらに着心地が良いものとなる。とくに、一方向の伸びが150%以上500%以下であると、適度な筋肉の締め付けがあり、皮膚の伸びに追従し、ツッパリ感を感じにくく、着脱しやすく、生地が透けにくく、強度が高い利点がある。
【0015】
前記ストレッチ素材は、ワンウェイ又はツーウェイの編み物でも織物でもよい。織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。編み物としては、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。好ましくは、ハーフ組織のトリコット経編地である。薄くて着心地が良い生地であり、スポーツ用ウェアに好適だからである。これらの編み物又は織物に用いる糸は、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維とポリウレタン等の弾性繊維を併用するのが好ましい。合成繊維と弾性繊維は引き揃えて使用しても良いし、弾性繊維の外側を合成繊維で被覆したカバーリング糸を使用しても良い。
【0016】
前記ストレッチ素材は、目付けが120〜230g/m2の範囲が好ましく、さらに好ましくは140〜210g/m2の範囲、とくに好ましくは160〜190g/m2の範囲である。前記の範囲であれば、運動機能を損なわず、耐久性も良く、透けにくく軽くて動きやすい利点がある。
【0017】
以下図面を用いて説明する。図1Aは本発明の一実施例におけるシャツの正面図、図1Bは同、背面図である。図1A〜Bにおいて、シャツ10は前身頃1と、後ろ身頃の上部2と、同下部3と、上腕から肩部4と、脇部5と、肘部6と、袖部7とで主構成部分が形成されている。主構成部分はストレッチ素材で形成され、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用される。着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態に縫製するには、JASPO規格に従うことにより縫製できる。
【0018】
このシャツ10は、一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材を使用する。例えば図2A〜Bに示すように、荷重0〜20Nの範囲、幅5cmにおいて、一方向の伸びが250%であり、直交する方向の伸びが125%のストレッチ素材を使用することができる。
【0019】
そして、後ろ身頃の上部2は横に伸びる方向、同下部3は縦に伸びる方向、前身頃1は縦に伸びる方向、上腕から肩部4は横に伸びる方向、脇部5と肘部6は縦に伸びる方向、袖部7は横に伸びる方向にそれぞれ前記ストレッチ素材を配置して縫製する。
【0020】
本発明のシャツは、テニス、バドミントン、スカッシュ、卓球などのラケットを使用するスポーツに好適であるが、それ以外にもスキー、スノーボード、スケート、野球、ゴルフ、ホッケー、サッカー、ジョギング、マラソンなど、寒い季節に屋外で行うスポーツにも適用できる。とくに本発明のシャツはラケットスポーツ用ウエアに好適である。さらに本発明のシャツはアンダーシャツ、インナーシャツ、又はアウターシャツに適用できる。中でもアンダーシャツに適用するのが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0022】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートフィラメントからなる仮撚加工糸33dtex(デシテックス)−36フィラメントを84質量%、ポリウレタン弾性フィラメント22dtexを16質量%の混率で引き揃えて使用し、ハーフ組織のトリコット経編地を編成した。この編み物の組織図を図3に示す。図3において、Fはフロント、Bはバックを示す。得られた編地の目付けは178g/m2であった。
【0023】
この編地は図2A〜Bに示すように、荷重0〜20Nの範囲、幅5cmにおいて、一方向の伸びが250%であり、直交する方向の伸びが125%のストレッチ素材であった。この編地を使用して図1A−Bに示すアンダーシャツを縫製した。縫製はJASPO規格に従い、着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態になるよう縫製した。アンダーシャツはLサイズで136gであった。
【0024】
得られたアンダーシャツを5名の男性テニスプレーヤーに着用試験してもらった。比較は、実施例1の編み物を身長方向(腕は長さ方向)に沿って縫製した以外は、実施例1と同一に作成した。その結果、次の表1に示す官能評価が得られた。
【0025】
【表1】

【0026】
(備考)評価の配点
5:比較品より明らかに良い。
4:比較品より良い。
3:比較品と同等。
2:比較品よりやや劣る。
1:比較品より明らかに劣る。
【0027】
以上の結果から、本実施例のシャツはテニスプレーの動きに追従し、人体の動きを阻害せず、着用感が良いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1Aは本発明の一実施例におけるシャツの正面図、図1Bは同、背面図である。
【図2】図2Aは、本発明の一実施例におけるストレッチ素材の縦方向の伸びを示し、図2Bは同、横方向の伸びを示す。
【図3】図3は、本発明の一実施例におけるハーフ組織のトリコット経編地の組織図を示す。
【符号の説明】
【0029】
1 前身頃1
2 後ろ身頃の上部
3 後ろ身頃の下部
4 上腕から肩部
5 脇部
6 肘部
7 袖部
10 シャツ
F フロント
B バック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の上半身の表面にほぼ密着した状態で着用されるシャツであって、
一方向の伸びが直交する方向に比較して相対的に高いストレッチ素材を、
後ろ身頃の上部は横に伸びる方向、同下部は縦に伸びる方向、
前身頃は縦に伸びる方向、
上腕から肩部は横に伸びる方向、脇部と肘部は縦に伸びる方向、袖部は横に伸びる方向にそれぞれ配置したことを特徴とするシャツ。
【請求項2】
前記ストレッチ素材は、一方向の伸びが直交する方向に比較して1.2〜4倍高い請求項1に記載のシャツ。
【請求項3】
前記ストレッチ素材は、荷重0〜20Nの範囲、幅5cmにおいて、一方向の伸びが150%以上500%以下であり、直交する方向の伸びが100%を超え150%未満である請求項1又は2に記載のシャツ。
【請求項4】
前記ストレッチ素材は、編地である請求項1に記載のシャツ。
【請求項5】
前記ストレッチ素材は、目付けが120〜230g/m2の範囲である請求項1に記載のシャツ。
【請求項6】
前記シャツはアンダーシャツである請求項1に記載のシャツ。
【請求項7】
前記シャツはラケットスポーツ用ウエアである請求項1に記載のシャツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299239(P2009−299239A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156848(P2008−156848)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】