説明

シャープペンシル用筆記芯

【課題】筆記芯が交換された直後においても、安定した線幅による筆記が可能なシャープペンシル用筆記芯を提供すること。
【解決手段】筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができるシャープペンシルに用いられる円柱状に成形された長尺状の筆記芯であって、前記筆記芯Lの少なくとも一端部は、軸芯Cを頂点とする円錐形状に成形され、前記円錐形状に成形された円錐面Lと前記軸芯Cとの交差角度が40〜80度になされている。
前記筆記芯Lを替え芯として利用した場合には、筆記芯Lが新しく変わった直後においても、所定の角度αに成形された円錐面Laを利用して筆記を行うことができ、これにより常に安定した線幅による筆記が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筆記圧を利用して筆記芯(替え芯)を回転させることができるシャープペンシルにおいて好適に用いることができるシャープペンシル用筆記芯に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばノック式のシャープペンシルは、周知のとおり、軸筒内に筆記芯を把持するチャックが収納され、軸筒の後端部に配置されたノック部をノック操作することで、前記チャックが前後動され、軸筒の前端部に配置された先端パイプ等から筆記芯が順次繰り出されるように構成されている。
このようなシャープペンシルに用いられる筆記芯(替え芯)は、円柱状にして長尺状に成形されると共に、軸芯に直交する面で適宜の長さに切断され、円形の端面を形成している。
【0003】
このような構成の筆記芯を用いた場合の不都合を解消するために、筆記芯の端部を軸芯に対して例えば45度程度傾けて傾斜端面とした筆記芯が提案されており、これは特許文献1に開示されている。
これによると、シャープペンシルの軸筒を筆記面に対して例えば45度程度傾けて筆記を行う場合において、楕円形の前記傾斜端面の全面を用いて筆記する場合と、シャープペンシルの把持位置を若干回転させて、前記傾斜端面の楕円形の端を用いて筆記する場合とにおいて、描線の線幅を選択することができると説明されている。
【0004】
しかしながら、シャープペンシルを持ち替えながら描線の線幅を選択したり調節しようとすることは現実的には至難であり、筆記の進行と共に筆記芯が偏減りするために、シャープペンシル持ち替えるたびに線の太さが変わるというばらつきが発生する。
【0005】
そこで、本件出願人は筆記圧による筆記芯のわずかな後退動作および筆記圧の解除による筆記芯の前進動作を利用して、筆記芯を一方向に回転させることができるシャープペンシルについて先に提案しており、これは特許文献2に開示されている。
この特許文献2に開示されたシャープペンシルによると、軸筒を筆記面(紙面)に対して例えば40度〜80度程度傾けた一般的な状態で使用した場合、一画文字を書くたびに筆記芯が回転駆動されるので、筆記芯の先端部は常に円錐形状にとがった状態に保たれ、常にほぼ同一の線幅をもって筆記をすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−154886号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/142135号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記したように筆記圧により芯が回転駆動されるシャープペンシルを用い、また従来より提供されている各端部が軸芯に直交する面で切断された円形の端面を有する筆記芯を用いた場合には、芯が交換された直後においては、このシャープペンシルが持つ本来の機能を十分に発揮することができない。
図6は、その様子を模式図で示したものであり、この例においてはシャープペンシルの軸筒を、紙面Pに対して45度程度傾けた場合の先端筆記部の状態を示している。
【0008】
すなわち、シャープペンシルの先端パイプ7より繰り出された筆記芯Lによって筆記される描線は、筆記芯Lが交換された直後においては、芯Lの円形状端面の角部が紙面Pに当たるために、線幅が細く描線が不安定な状態となる。
これは、筆記芯Lが受ける回転運動と筆記による摩耗とにより、筆記芯Lの先端部が円錐面Laに成長するまでの過程において、その面取り幅に応じて線幅の太さが変わることになり、この状況は筆記芯Lが新しくなるたびに発生することになる。
【0009】
この発明は、前記した不都合な点に着目してなされたものであり、筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができるシャープペンシルに好適に使用することができ、かつ筆記芯が交換された直後においても、安定した線幅による筆記が可能なシャープペンシル用筆記芯を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るシャープペンシル用筆記芯は、筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができるシャープペンシルに用いられる円柱状に成形された長尺状の筆記芯であって、前記筆記芯の少なくとも一端部は、軸芯を頂点とする円錐形状に成形されている点に特徴を有する。
【0011】
この場合、円錐形状に成形された円錐面と前記軸芯との交差角度が40〜80度になされていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
前記したこの発明に係るシャープペンシル用筆記芯によると、筆記芯の少なくとも一端部が、軸芯を頂点とする円錐形状に成形され、望ましくは円錐形状に成形された円錐面と軸芯との交差角度が40〜80度になされているので、前記したように筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができるシャープペンシルに装着した直後から、安定した線幅による筆記が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る筆記芯を好適に用いることができるシャープペンシルの前半部を一部破断して示した斜視図である。
【図2】同じくシャープペンシルの一部を断面状態で示した側面図である。
【図3】同じくシャープペンシルの全体構成を示した断面図である。
【図4】この発明に係る筆記芯の外観構成を示した側面図である。
【図5】図4に示す筆記芯を図1〜図3に示すシャープペンシルに装着した場合の先端筆記部の模式図である。
【図6】従来の筆記芯を図1〜図3に示すシャープペンシルに装着した場合の先端筆記部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明に係るシャープペンシル用筆記芯について説明するが、先ずはこの発明に係る筆記芯を好適に利用することができるシャープペンシルの一例について、図1〜3に基づいて説明する。
図1および図2はシャープペンシルの前半部を示したものであり、図1はその主要部を破断して示した斜視図であり、また図2は左半部を断面状態で示した側面図である。
【0015】
符号1はその外郭を構成する軸筒を示しており、符号2は前記軸筒1の先端部に取り付けられた口先部を示している。前記軸筒1内の中心部には筒状の芯ケース3が同軸状に収容されており、この芯ケース3の先端部にはチャック4が連結されている。
このチャック4は、その軸芯に沿って通孔4aが形成され、また先端部が三方に分割されて、分割された先端部がリング状に形成された締め具5内に遊嵌されるようにして装着されている。そして、リング状の前記締め具5は前記チャック4の周囲を覆うようにして配置された円筒状に形成された回転子6の先端部内面に装着されている。
【0016】
前記口先部2より突出するようにして先端パイプ7が配置されており、この先端パイプ7の基端部は前記口先部2内に位置するスライダー8の先端部内面に嵌合されている。前記スライダー8は、その基端部(後端部)側が大径となるように円筒部が連続した階段状に形成されており、その基端部内面は前記した回転子6の先端部における周側面に嵌合されている。そして、前記スライダー8における内周面には、軸芯部分に通孔9aを形成したゴム製の保持チャック9が収容されている。
【0017】
前記した構成により、芯ケース3よりチャック4内に形成された通孔4a、前記保持チャック9の軸芯に形成された通孔9aを介して、前記先端パイプ7に至る直線状の芯挿通孔が形成されており、この直線状の芯挿通孔内に後述する筆記芯(替え芯)が挿通される。そして、前記した回転子6とチャック4との間の空間部には、コイル状のリターンバネ10が配置されている。
【0018】
なお前記リターンバネ10の一端部(後端部)は前記芯ケース3の端面に、また前記リターンバネ10の他端部(前端部)は回転子6内に形成された環状の端面に当接した状態で収容されている。したがって前記リターンバネ10の作用により、回転子6内のチャック4は後退する方向に付勢されている。
【0019】
図に示すシャープペンシルにおいては、軸筒1の後端部に配置された後述するノック部(ノックカバー)をノック操作することで、前記芯ケース3が軸筒1内において前進し、チャック4の先端部が締め具5から突出することで筆記芯の把持状態が解除される。そして、前記ノック操作の解除により、リターンバネ10の作用により芯ケース3およびチャック4は軸筒1内において後退する。
【0020】
この時、筆記芯は保持チャック9に形成された通孔9aにおいて保持される。この状態でチャック4は後退してその先端部が前記締め具5内に収容されることで、筆記芯を再び把持状態にする。すなわち、前記したノック部(ノックカバー)のノック操作の繰り返しによるチャック4の前後動により筆記芯の解除と把持が行われ、これにより筆記芯はチャック4から順次前方に繰り出されるように作用する。
【0021】
図1に示す前記した回転子6は、その軸方向の中央部が径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面6aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面6bが形成されている。
一方、前記回転子6の後端部には、円筒状の上カム形成部材13が回転子6の後端部を覆うようにして軸筒1内に取り付けられており、前記上カム形成部材13の前端部には、前記回転子6における第1のカム面6aに対峙するようにして固定カム面(第1の固定カム面ともいう。)13aが形成されている。
【0022】
さらに、図1においては図示が省略され、図2に示されているが、前記回転子6の外側に下カム形成部材14が配置され、この下カム形成部材14は軸筒1側に取り付けられている。そして、下カム形成部材14には前記回転子6における第2のカム面6bに対峙するようにして、固定カム面(第2の固定カム面ともいう。)14aが形成されている。
【0023】
図3は、図1および図2に基づいて説明したシャープペンシルの全体図を示したものであり、図1および図2に示した代表的な部分を同一符号で示している。図3に示されたように円筒状に形成された前記上カム形成部材13の後端部内面には、円筒状のストッパー16が嵌合されており、このストッパー16の前端部と、円筒状に形成され軸方向に移動可能なトルクキャンセラー17との間にはコイル状のバネ部材18が装着されている。
【0024】
前記バネ部材18は、前記トルクキャンセラー17を前方に付勢するように作用し、この付勢力を受けた前記トルクキャンセラー17に押されて前記回転子6は前方に向かうように構成されている。
【0025】
また、軸筒1の後端部側内面には、円筒状に形成されたノック棒21が軸方向にスライド可能に収容されており、このノック棒21の一部は前記芯ケース3の後端部に嵌合して、軸筒1内において前記芯ケース3と共に前後動できるように装着されている。そして、軸筒1の後端部においてクリップ23を一体に形成した筒体部23aが軸筒1内に嵌め込まれており、この筒体部23a内に形成された円環状の段部23bによって、前記ノック棒21が軸筒1の後端部側から抜け出るのを阻止するように構成されている。
【0026】
前記ノック棒21の後端部は環状に形成され、前記筒体部23aの後端部よりも若干後方に突出した状態に構成にされており、前記ノック棒21の後端部内面空間には消しゴム24が装着されている。そして、前記消しゴム24を覆うようにしてノック部を構成する透明もしくは半透明な樹脂素材により形成されたノックカバー25が、ノック棒21の後端部外周面を覆うようにして着脱可能に取り付けられている。
なお、前記ノック棒21における消しゴム24の装着位置には、筆記芯の補給口21aが形成されている。
【0027】
前記した構成において、前記ノックカバー25を例えば親指等により押し込むノック操作を行うと、ノック棒21を介して芯ケース3を前方に押し出すように作用する。これにより、前記したとおりチャック4が前進して筆記芯を先端パイプ7より繰り出させるように作用する。そして前記ノック操作の解除によりノック棒21は、リターンバネ10の作用により後退し、ノック棒21はクリップ23を支持する筒体部23aの内面に形成された段部23bによって係止される。
【0028】
ところで、前記したシャープペンルの構成によると、チャック4が筆記芯を把持した状態で、前記回転子6はチャック4と共に軸芯を中心にして回転可能となるように前記軸筒1内に収容されている。そして、シャープペンシルが不使用の状態(筆記芯に筆記圧が加わらない場合)においては、前記バネ部材18の作用により前記トルクキャンセラー17を介して回転子6は前方に付勢されていて、図1〜図3に示す状態になされている。
【0029】
一方、シャープペンシルを使用した場合、すなわち先端パイプ7から突出している図示せぬ筆記芯に筆記圧が加わった場合には、前記チャック4はバネ部材18の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子6も軸方向に後退する。したがって、図1および図2に示す回転子6に形成されている円環状の第1のカム面6aは同じく円環状に形成された第1の固定カム面13aに接合して噛み合い状態になされる。
【0030】
前記第1のカム面6aは周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、また前記第1の固定カム面13aも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、そのピッチは互いに同一となるように形成されている。
そして、対峙した状態の第1カム面6aと固定カム面13aは、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されており、前記したように第1のカム面6aが第1の固定カム面13aに接合して噛み合い状態になされることによって、回転子6は第1カム面6aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
【0031】
このようにして第1のカム面6aが第1の固定カム面13aに接合して噛み合い状態になされた状態においては、前記第1のカム面6aと第1の固定カム面13a同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状にカム面が形成された回転子6側の第2カム面6bと前記第2の固定カム面14aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0032】
したがって一画の筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解かれた場合には、前記したバネ部材18の作用により回転子6は軸方向に前進し、回転子6に形成された第2カム面6bが、下カム形成部材14側の第2の固定カム面14aに噛み合う。これにより回転子6は第2カム面6bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
【0033】
以上のとおり、図1〜図3示したシャープペンシルによると、筆記圧を受けることによる回転子6の軸方向への往復運動に伴って、回転子6は第1カム面6aおよび第2カム面6bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、チャック4を介してこれに把持された筆記芯も同様に回転駆動される。
したがって、筆記芯は自身が受ける回転運動と筆記による摩耗とにより、先端部が常に円錐形状になされる。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、安定した線幅による筆記が可能となる。
【0034】
図4は前記した構成のシャープペンシルにおいて好適に利用することができるこの発明に係る筆記芯の外観構成を示している。
図に示すように、筆記芯Lは円柱状にして長尺状になされており、この実施の形態においては、この筆記芯Lの両端部は軸芯Cを頂点とする円錐形状に成形されている。
【0035】
そして、前記筆記芯Lの各端部における円錐形状に成形された円錐面Laと前記軸芯Cとの交差角度αは、図示例においては45度になされている。
前記交差角度αは、シャープペンシルによって筆記を行う場合の前記軸筒1と筆記面(紙面P)との角度に依存し、一般的にはその角度は40〜80度になされる。
したがって、図に示す筆記芯Lの端部における円錐面Laと前記軸芯Cとの交差角度αは、40〜80度の範囲に設定されていることが望ましい。
【0036】
斯くして図5は、筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができる前記したシャープペンシルに、この発明に係る筆記芯Lを利用した例を模式図で示したものであり、すでに説明した図6に示した例と同様にシャープペンシルの軸筒1(先端パイプ7)を、紙面Pに対して45度程度傾けた場合の先端筆記部の状態を示している。
【0037】
この発明に係る筆記芯Lを替え芯として利用した場合には、筆記芯Lが新しく変わった直後においても、図5に示すように所定の角度αに成形された円錐面Laを利用して筆記を行うことができ、これにより常に安定した線幅による筆記が可能となり、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの作用効果を得ることができる。
【0038】
なお、図4に示した筆記芯Lにおいては、その長手方向の両端部にそれぞれ円錐面Laが形成されているが、これは筆記芯Lの少なくとも一方の端部に円錐面Laを施すようにしても良い。この場合には、前記したシャープペンシルの芯ケース3に筆記芯Lを補給する際に、円錐面Laが形成された端部が先になるように補給口に挿入することで、前記と同様の作用効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 軸筒
7 先端パイプ
L 筆記芯
La 円錐面
P 紙面(筆記面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができるシャープペンシルに用いられる円柱状に成形された長尺状の筆記芯であって、
前記筆記芯の少なくとも一端部は、軸芯を頂点とする円錐形状に成形されていることを特徴とするシャープペンシル用筆記芯。
【請求項2】
前記円錐形状に成形された円錐面と前記軸芯との交差角度が40〜80度になされていることを特徴とする請求項1に記載されたシャープペンシル用筆記芯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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