説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】発光管内壁の黒化現象及びアークの揺れを抑制することにより照度維持率を向上させる。
【解決手段】点灯時に鉛直方向に配置される陰極及び陽極の中心を通る軸線上で陽極が陰極よりも上側に配置されたショートアーク型放電ランプにおいて、発光管封体の最大外径をDm、該発光管封体の最大外径を通る平面の位置を基準位置Ym、該基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、前記陽極の先端までの距離をX1、前記基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、電極芯棒支持材の電極先端を臨む端面において前記陰極の電極芯棒の根元が露出する点までの距離をX2、さらに、前記発光管封体の前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿った断面において前記発光管封体の膨張部分を形成する曲面の曲率半径をRとすると、0.69≦(Dm/R)<1.24であり、かつ、0<(X1/X2)≦0.271である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶、プリント基板の露光用光源として使用されるショートアーク型放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプは、大電流を流すことができるため露光用光源として使用されており、石英ガラス製発光管内に対向して配置された陰極と陽極とを備え、石英ガラス製発光管内に水銀と希ガスとが封入されている。陰極及び陽極ともに、主構成物質はタングステンであるが、陰極は、更に、電極からの電子放出を容易にするために、トリウム、セリウム、イットリウム、ランタン、ジルコニウムなどの酸化物やホウ化物、窒化物をドープ材として含む。
【0003】
ランプ点灯時に電極に大電流が流れるため、電極先端部の電流密度が上昇して高温になり、その電極先端部の電極構成物質が蒸発する。従来のショートアーク型放電ランプにおいては、その際、蒸発した電極構成物質は発光管内壁に付着して黒化現象を引き起こすことがある。その黒化現象が生じると、発光管を構成する石英ガラスの紫外線透過率が低下し、照度維持率が悪化する。特に陰極の場合は、ドープ材が含まれていて陽極よりも融点が低いため、蒸発が起こり易い。
【0004】
また、従来のショートアーク型放電ランプにおいては、ランプを長時間点灯させた場合にアークの揺れが発生することがある。これは、ランプの長時間の点灯によって陰極先端が高温に維持されることにより、例えば、酸化トリウムをドープした陰極の場合、酸化トリウムの蒸発が促進され、その結果、ドープ材が早期に枯渇してしまうため、放電が不安定になると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3065581号公報
【特許文献2】特開平10−269990号公報 特許文献1は、ショートアーク型水銀ランプにおいて、発光管内に封入されている水銀及び希ガスを所定圧力とすることにより、該ランプの露光面における放射照度を向上させることと、発光管の軸方向の長さ、陰極が発光空間内に突き出る長さ及び発光管の径方向の最大値を所定の関係にすることにより、アークの揺らぎを防止することとを開示する。
【0006】
特許文献2は、ショートアーク型水銀ランプにおいて、点灯時に発光管内の下側電極の先端位置が発光管の最大径部分を含む平面に合致するか又はその平面より上側にくるように、その下側電極を配置することにより、照度変動率を小さく抑えることを開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1又は2のいずれにも、発光管内壁の黒化現象及びアークの揺れと、電極、特に陰極の先端温度、発光管内における電極先端位置及び発光管の形状との関係は、検討されていない。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、発光管内壁の黒化現象と、電極、特に陰極の先端温度、発光管内における電極先端位置及び発光管の形状との関係を考慮することにより、発光管内面の黒化現象による照度維持率低下を抑制したショートアーク型放電ランプを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、発光管内のアークの揺れと、電極、特に陰極の先端温度、発光管内における電極先端位置及び発光管の形状との関係を考慮することにより、長時間点灯時のアーク揺れを抑制したショートアーク型放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の点に鑑み、本発明に係るショートアーク型放電ランプは、膨張部分と両端の管状部分とを備え、少なくとも希ガスが封入された発光管封体と、該発光管封体の前記両端の管状部分を封止するように埋設された電極芯棒支持部材と、前記発光管封体の前記膨張部分内に、先端部同士が所定距離離隔して配置されていて、前記電極芯棒支持部材に電極芯棒が埋入された陰極及び陽極とを備え、少なくとも点灯時には、鉛直方向に配置される前記陰極及び陽極の中心を通る軸線上で前記陽極が前記陰極よりも上側に配置され、前記発光管封体の最大外径をDm、該発光管封体の最大外径を通る平面の位置を基準位置Ym、該基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、前記陽極の先端までの距離をX1、前記基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、前記電極芯棒支持部材の電極先端を臨む端面において前記陰極の前記電極芯棒の根元が露出する点までの距離をX2、さらに、前記発光管封体の前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿った断面において前記発光管封体の前記膨張部分を形成する曲面の曲率半径をRとすると、0.69≦(Dm/R)<1.24であり、かつ、0<(X1/X2)≦0.271である(ただし、前記X1、X2は、前記基準位置から前記陽極の前記電極芯棒に向かう方向を正とし、前記基準位置から前記陰極の前記電極芯棒に向かう方向を負とし、また、40mm≦Dm≦250mm、40mm≦R≦300mmとする)ことを特徴とする。
【0011】
そのショートアーク型放電ランプにおいて、前記発光管封体は石英ガラスから形成され、該発光管封体内に水銀も封入されていてもよい。
【0012】
そのショートアーク型放電ランプにおいて、前記発光管封体内の前記希ガスは、25°C(常温)において、約0.05MPaから0.8MPaの範囲内にあってもよい。
【0013】
そのいずれかのショートアーク型放電ランプにおいて、前記陰極は、トリウム、セリウム、イットリウム、ランタン、ジルコニウムなどの酸化物やホウ化物、窒化物をドープしたものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発光管内壁の黒化現象と、電極、特に陰極の先端温度、発光管内における電極先端位置及び発光管の形状との関係を考慮することにより、発光管内面の黒化現象による照度維持率低下を抑制し、あるいは長時間点灯時のアーク揺れを抑制したショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【0015】
本発明によると、陰極を封体内表面の近くに配置することによって、封体内の希ガスの温度を下げ、陰極の温度も下げるショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【0016】
本発明によると、陰極の温度を下げることによって、電極先端部の摩耗を抑え、あるいは電極先端部のドープ材の枯渇を防ぐショートアーク型放電ランプを提供することができ、更にはそのドープ材の枯渇を防ぐことによってアークの揺れを防ぐショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【0017】
本発明によると、電極間の発光中心位置を陰極側シール部に近くすることによって黒化現象の影響を抑えるショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【0018】
本発明によると、発光管封体の形状を楕円体ないし円筒形状に近づけることによって、電極と発光管封体の内側表面とを遠ざけ、それにより、電極に対するその内側表面からの反射熱の影響を抑えるショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【0019】
本発明によると、発光管封体の形状を楕円体ないし円筒形状に近づけることによって、電極と発光管封体の内側表面とを遠ざけ、それにより、電極に対するその内側表面からの反射熱の影響を抑え、あるいは発光管封体の外側表面の温度分布をより均一化し、あるいは発光管封体の外側表面の面積及び内容積を増加し、それにより、発光管封体内のガスの温度を下げて電極表面の熱伝導によって電極の温度の上昇を抑えるショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るショートアーク型放電ランプの一部の概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示すショートアーク型放電ランプの発光管の形状を説明するための概念図である。
【図3】図3(A)は、本発明の他の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの一部の概略断面図である。図3(B)は、本発明のさらに他の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの一部の概略断面図である。
【図4】図1は、本発明に係るショートアーク型放電ランプの使用例を説明するための一部断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係るショートアーク型放電ランプを説明する。なお、全図において、各部材の厚さ、長さ、形状、部材同士の間隔、隙間等は、理解の容易のために、適宜、拡大・縮小・変形・簡略化等をしている。図の説明の際の上下・左右の表現は、その図を鉛直面内に置いた状態でのその図面の面に沿った方向を表すものとする。また、同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0022】
[ショートアーク型水銀ランプの概略構造]
図1は、本発明の一実施形態に係るショートアーク型放電ランプ10の一部の概略構造を示す。ショートアーク型放電ランプ10は、膨張部分と両端の管状部分とを有する発光管封体1を備える。膨張部分の内部には、陽極2及び陰極3が所定の距離離隔されて対向して配置されており、両端の管状部分には、発光管封体1を封止するために電極芯棒支持部材7が埋設されている。
【0023】
図示していないが、電極芯棒支持部材7には電極マウントが差し込まれて固定されている。電極マウントには、陽極2及び陰極3のそれぞれに接続された電極芯棒5が接続されていて、電極芯棒5は、図示せぬ金属箔や石英円筒体や円柱体等の封止部材を介して外部のリード線に接続している。陽極2と陰極3との先端部間の距離は、例えば、4〜20mmの範囲にある。
【0024】
発光管封体1の膨張部分の中央部の最大外径Dmは例えば40mmから250mmの範囲内にあり、その最大外径Dmの部分を通る平面の位置を基準位置Ymとする。基準位置Ymは、陽極2及び陰極3の中心を通る軸線と直交する。
【0025】
発光管封体1の両端部間の長さは例えば70mmから190mmの範囲内にある。発光管封体1内には、3mg/cm3から50mg/cm3の範囲から選択された例えば40mg/cm3の水銀と、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)及びクリプトン(Kr)の中の少なくとも1つの希ガスとが封入されている。希ガスの封入圧は、封入されたガスの種類によっても異なるが、概略、25°C(常温)において、約0.05MPaから0.8MPaの範囲内にある。たとえば、常温において、希ガスの封入圧が、0.3MPaの場合には、ランプ点灯時には、発光管封体1内の圧力は2MPa程度になることがある。
【0026】
[黒化現象等]
図1に基づいて、黒化現象が生じる状況を説明する。この実施形態では、発光管封体1は、図1に示すように、鉛直軸線上において、陽極2が陰極3より上になるように両電極を配置して用いているものとする。
【0027】
点灯すると、発光管封体1内では、陽極2と陰極3との間では大電流が流れて電流密度が高まるため、陽極2及び陰極3が高温に加熱される。
【0028】
陽極2及び陰極3が高温になると、その周囲にある希ガス及び水銀蒸気の温度が上昇する。それに伴い、希ガス及び水銀蒸気が、陰極3から陽極2に沿って上昇する。発光管封体1の上部は、中央部よりも狭まっており、また、発光管封体1の外側は外気に接していて比較的低温であるため、陰極3から陽極2に沿って上昇した希ガス及び水銀蒸気は、発光管封体1の内面に接触し、冷却されて、発光管封体1の内面に沿って下降する。
【0029】
希ガス及び水銀蒸気が発光管封体1の下部に集まると、それらは、高温の陰極3に近づくため再度加熱されて、陰極3から陽極2に沿って再び上昇する。ランプが点灯すると、上記のように、希ガス及び水銀蒸気は、発光管封体1内で対流して循環する。
【0030】
また、陰極3及び陽極2ともに、主構成物質はタングステンであるが、陰極3は、更に、電極からの電子放出を容易にするために、トリウム、セリウム、イットリウム、ランタン、ジルコニウムなどの酸化物やホウ化物、窒化物をドープ材として含む。ランプ点灯時には陽極2及び陰極3に大電流が流れるため、電極先端部の電流密度が上昇して高温になり、特に陰極3の先端部から電極構成物質のタングステンが蒸発する。その蒸発したタングステンは、希ガス及び水銀蒸気の対流とともに移動する。すなわち、その蒸発したタングステンは、希ガス及び水銀蒸気とともに、陰極3から陽極2に沿って上昇し、発光管封体1の内面に接触すると冷却され、発光管封体1の内面に沿って下降することになる。
【0031】
その際に、蒸発したタングステンが発光管封体1の内面に付着して黒化現象を引き起こす。黒化した箇所は、紫外線透過率が低下し、黒化が進行することに伴い照度維持率が低下することになる。
【0032】
[アークの揺れ]
陰極3が高温になると、その先端部からのドープ材である、酸化物やホウ化物、窒化物等のドープ材の蒸発も促進される。そのため、陰極3が高温の状態で、長時間にわたってランプが点灯すると、これらドープ材が早期に枯渇してしまい、それにより、アークの揺れが発生すると考えられる。
【0033】
[電極の位置等]
従来のショートアーク型水銀ランプでは、陽極及び陰極の先端部がどちらもほぼ発光管封体の中央部の最大外径部の辺りに位置するように、陽極及び陰極を配置している。それに対し、図1に示す本発明の一実施形態に係るショートアーク型水銀ランプ10では、陽極2の先端部が、基準位置Ymよりも陽極先端位置X1だけ下側に位置するように、陽極2及び陰極3が配置されている。陽極2と陰極3との間の間隔の大きさは従来と同じである。
【0034】
表1は、基準位置Ymからの陽極2の先端部までの距離の陽極先端位置X1を変更した場合の陽極2及び陰極3の相対的な温度の変化及び照度維持率を示す。陽極2と陰極3との間隔の大きさは変更しない。すなわち、陽極2の先端部の位置を変更した場合には、陰極3の位置もそれに伴って変更している。
【0035】
【表1】

表1に示すように、陽極2の先端部を基準位置Ym上に一致させて配置した場合の陽極2及び陰極3の温度を100とする。そのときの陽極先端位置X1は0であり、照度維持率は84%である。表1では、陽極先端位置X1は、図1において、基準位置Ymより上方にある場合を正とし、下方にある場合を負とする。
【0036】
表1によると、陽極2の先端部が基準位置Ymより3mm上方にあるとき、つまり、陽極先端位置X1が3mmのときには、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値はそれぞれ103及び102であり、陽極先端位置X1が0のときと比べて、両電極の先端部の温度は高い。さらに、陽極2の先端部の位置が高くなって陽極先端位置X1が7mmのときには、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値はそれぞれ107及び104となり、陽極先端位置X1が3mmのときに比べて、両電極の先端部の温度はより高くなる。
【0037】
それらに対し、陽極2の先端部が基準位置Ymより3mm下方にあるとき、つまり、陽極先端位置X1が−3mmのときには、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値はそれぞれ100及び99であり、陽極先端位置X1が0のときと比べて、両電極の先端部の温度は同じかそれより低くなる。さらに、陽極2の先端部の位置が低くなって陽極先端位置X1が−7mmの場合には、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値は、それぞれ、99及び98となり、陽極先端位置X1が−3mmのときに比べて、両電極の先端部の温度はより低くなる。さらに、陽極2の先端部の位置が低くなって陽極先端位置X1が−10mmの場合には、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値は、それぞれ、98及び97となり、陽極先端位置X1が−7mmのときに比べて、両電極の先端部の温度はより低くなる。よりさらに、陽極2の先端部の位置が低くなって陽極先端位置X1が−15mmの場合には、陰極3及び陽極2の先端部の温度の相対値は、ともに96となり、陽極先端位置X1が−10mmのときに比べて、両電極の先端部の温度はより低くなる。
【0038】
照度維持率は、陽極2の先端部が基準位置Ymより3mm上方にあるときに、つまり、陽極先端位置X1が3mmのときに81%であり、陽極2の先端部の位置が低くなるにつれて、つまり、陽極先端位置X1が小さくなるにつれて、照度維持率は、だんだんと高くなり、陽極先端位置X1が−15mmのときに、87%まで高まる。
【0039】
この表1からは、陽極先端位置X1が小さくなると、つまり、陽極2の先端部が基準位置Ymより低い位置に配置されると、照度維持率は高くなるということが分かる。
【0040】
次に、表2に、陽極先端位置X1と陰極基端位置X2との関係を示す。ここで陰極基端位置X2は、図1において、封止部材7から陰極3の電極芯棒5が露出した根元の位置を、基準位置Ymを基準に上向きをプラス、下向きをマイナスとして測った距離をいう。
【0041】
【表2】

表2において、陰極基端位置X2は一定値の−55.3mmであり、X1/X2は、基準位置Ymを基準としたときの陰極基端位置X2に対する陽極先端位置X1の割合を示す(正の値も負の値も取りうる)。
【0042】
表2に示すように、陽極先端位置X1が正の場合、つまり、陽極2の先端部が基準位置Ymより高い位置にある場合には、X1/X2は負になり、X1が大きくなるほど、X1/X2も負の大きな値となる。陽極先端位置X1が負の場合、つまり、陽極2の先端部が基準位置Ymより低い位置にある場合には、X1/X2は正になり、X1が小さくなるほど、X1/X2も正の大きな値となる。
【0043】
実験によると、X1/X2が0のもの、つまり、陽極先端位置X1が0で、陽極2の先端部が基準位置Ymにあるものを基準のランプとすると、X1/X2が負の場合には、電極の温度が高くなり摩耗が大きくなった。X1/X2が+0.362のものでは、アークが揺らぎ照度値が安定しなかった。
【0044】
その実験から、X1/X2の値が、0より大で+0.271以下のものが、好ましいランプであることがわかった。
【0045】
なお、陰極基端位置X2は、図3(A)に示すように、封止部材7−1の陰極3側の上面の形状が、凹凸形状になっている場合には、その上面の最も低い面、つまり、電極芯棒支持部材7−1の陰極3側の上面において、陰極3の電極芯棒5が露出する面から基準位置Ymまでの距離となる。また、図3(B)の場合のように、電極芯棒支持部材7−2が、封体との接続面にシール用ガラス部材Sを備えている場合には、陰極基端位置X2は、基準位置Ymから、電極芯棒5の根元が封止部材7−2の端面から露出する点までの距離となる。
【0046】
[発光管封体の形状]
図1及び図2に示すように、発光管封体1の膨張部分は、例えば、湾曲部が曲率半径Rから定まる形状を有する。その発光管封体1の中央部の外側表面の最大外径Dmを一定にして、曲率半径Rの大きさを変えると、比較的球形の膨張部分を備えるランプから楕円体ないし細長い円筒形状に近い膨張部分を備えるランプまでを形成することができる。なお、本発明の発明者の経験に基づくと、実用的な形状の観点から、最大外径Dmは40mmから250mmの範囲内にあることが望ましく、曲率半径Rは、40mmから300mmの範囲内にあることが望ましい。
【0047】
表3に、発光管封体1の中央部の外側表面の最大外径Dmを一定にして、外側表面の曲率半径Rを変えた場合の両者の関係を示す。
【0048】
【表3】


表3において、外側表面の曲率半径Rが小さくなると、発光管封体1の膨張部分は球体形状に近づき、外側表面の曲率半径Rが大きくなると、膨張部分は楕円体ないし円筒形状に近づく。
【0049】
実験において、封体の最大外径Dmが62mmで、外側表面の曲率半径Rが50mmで、Dm/Rが1.24のランプを基準のランプとすると、曲率半径Rを70mm、90mm及び110mmと大きくしたランプの場合には、Dm/Rが0.56のときに、封体形状は円筒形状に近づく。その場合には、封体内部の希ガス等の対流の影響で、アークが安定せず、照度安定性が著しく悪かった。
【0050】
なお、Dm/Rが1.24以上の場合には、発光管封体1の形状が球体に近づき内容積が小さくなる。その結果、内部のガス圧が高まり、発光管封体1の外側表面温度も高まって、陰極及び陽極の温度が上昇してしまうことが予想される。また、発光管封体1の軸線方向の長さが短くなってしまうため、発光管封体1において陰極及び陽極を配置する位置の自由度が小さくなると考えられる。
【0051】
その結果、Dm/Rが0.69以上で1.24未満のランプが望ましいことが判明した。
【0052】
[考察]
(陽極及び陰極の取り付け位置に関して)
上述のとおり、黒化現象の原因は、ランプ点灯時に、陽極2及び陰極3に大電流が流れてそれらの電極の電流密度が高まることによってそれらの電極が高温になり、その際に、電極構成物質であるタングステンが蒸発する、特にドープ材を含む陰極3は純タングステンに比べて融点が低い。それが希ガス等とともに封体内を対流して封体の内側表面に付着する点にある。
【0053】
上記のとおり、陽極2及び陰極3を通る軸線に沿って、基準位置Ymから陽極2及び陰極3の先端部を下降させると、陰極3の先端部が、発光管封体1の陰極シール部側の内側表面に近づく。その内側表面は比較的温度が低いため、対流する希ガス等がそこで冷却される。そのため、その冷却された希ガス等によってその近くにある陰極3の先端部もすぐに冷却されるため、陰極3の先端部の温度上昇が抑えられることになる。その結果、陰極3から電極構成物質の蒸発を抑制することができるようになり、その蒸発量が減少することによって、黒化現象の影響が小さくなる。
【0054】
また、陽極2及び陰極3が、発光管封体1内において比較的低い位置に配置されるため、配光位置も低くなる。黒化現象は、発光管封体1の内側表面の比較的高い位置に生じるため、黒化現象によってランプの配光が遮られにくくなる。
【0055】
さらに、上記のように陽極2及び陰極3を配置すると、陰極3の温度上昇を抑制することができるため、トリウム、セリウム、イットリウム、ランタン、ジルコニウムなどの酸化物やホウ化物、窒化物のドープ材が早期に枯渇してアークの揺れが発生するということを防ぐことができる。
【0056】
以上の観点から、陽極2及び陰極3の取り付け位置を、それらを通る軸線に沿って、基準位置Ymから下げることによって、紫外線透過率の低下を防ぎ、適正な照度維持率の悪化を抑制することができ、さらに、アークの揺れを防ぐことができる。そのため、発光管封体1内で陽極2及び陰極3の取り付け位置を下げることは非常に有効であることが分かる。
【0057】
(発光管封体の形状に関して)
発光管封体1の膨張部分の外側表面の曲率半径Rの大きさを変えると、比較的球形の膨張部分を備えるランプから楕円体ないし細長い円筒形状に近い膨張部分を備えるランプまでを形成することができる。発光管封体1の中央部の外側表面の最大外径Dmを一定にして、曲率半径Rの大きさを大きくすると、大きくするにつれて、発光管封体1の膨張部分の封止部材7に近い部分が、鉛直面に近づくように広がる形状となる。
【0058】
そのため、上記のように、陰極3の取り付け位置を基準位置Ymから下げたランプにおいては、表3に示す外側表面の曲率半径Rが50mmの基準の形状のランプに比べると、陰極3が、発光管封体1の内側表面から遠ざかることになる。その結果、ランプ点灯時のその内側表面から電極への反射熱の影響を抑えることができるようになる。
【0059】
また、曲率半径Rの大きさが大きくなると、発光管封体1の形状が比較的円筒形状に近づき、発光管封体1の外側表面の温度分布が球形状のものと比べて均一化され、電極の温度上昇を抑えることができる。
【0060】
また、曲率半径Rの大きさが大きくなると、発光管封体1の外側表面の面積及び内容積が増加する。そのため、発光管封体1内のガスの温度上昇が抑えられ、電極の温度の上昇も抑えられる。
【0061】
ただし、実用的な発光管封体の形状を考慮すると、最大外径Dmは40mmから250mmの範囲内にあることが望ましく、曲率半径Rは、40mmから300mmの範囲内にあることが望ましい。
【0062】
[使用例]
図4は、本発明に係るショートアーク型放電ランプの使用例を説明するための一部断面の概略図である。
【0063】
例えば、ショートアーク型放電ランプ10を半導体製造装置の露光用光源として用いる場合には、要求される配光分布に応じて、例えば、図4に示すように、ショートアーク型放電ランプ10を長手方向の軸線が鉛直方向になるように配置し、集光用の凹面形状の反射鏡m2,m3を膨張部分の下側の近くに配置する。
【0064】
図示していないが、ショートアーク型放電ランプ10内では、陽極が上側にあり、陰極が下側にある。また、陽極先端位置X1及び陰極基端位置X2が、0<(X1/X2)≦0.271の関係にあり、封体の最大外径Dm及び外側表面の曲率半径Rが、0.69≦(Dm/R)<1.24の関係にあるものとする。
【0065】
また、陽極2及び陰極3のそれぞれの電極芯棒5が、口金11及びリード線12を経由して外部の電源(図示せず)に接続されている。
【0066】
点灯時には、発光中心位置LEから光L1,L2等が出力され、次に、反射鏡m2,m3で上方に反射されて、平面の鏡m1によって反射されて集光される。図4のランプは上記の関係を有するため、発光中心位置LEが膨張部分のやや下側に位置している。このため、たとえ、黒化現象が膨張部分の上方に現れたとしても、発光位置LEから出力された光の経路には黒化現象は影響を与えない。言い換えると、照射維持率が低下し難い。
【0067】
以上、本発明の一実施形態に係るショートアーク型水銀ランプについて説明したが、本発明はそれらの実施形態に拘束されるものではなく、当業者が容易になしえる追加、削除、改変等は、本発明に含まれるものであり、また、本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められることを承知されたい。
【0068】
また、上記の実施形態では、ショートアーク型水銀ランプを例示したが、本発明にはこの他に、ショートアーク型キセノンランプ等、水銀ランプ以外のショートアーク型放電ランプも含むことができる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・発光管封体
2・・・陽極
3・・・陰極
4・・・チップオフ部
5・・・電極芯棒
7,7−1,7−2・・・電極芯棒支持部材
10,10−1,10−2・・・ショートアーク型放電ランプ
Dm・・・最大外径
S・・・シール用ガラス部材
X1・・・陽極先端位置
X2・・・陰極基端位置
Ym・・・基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張部分と両端の管状部分とを備え、少なくとも希ガスが封入された発光管封体と、
該発光管封体の前記両端の管状部分を封止するように埋設された電極芯棒支持部材と、
前記発光管封体の前記膨張部分内に、先端部同士が所定距離離隔して配置されていて、前記電極芯棒支持部材に電極芯棒が埋入された陰極及び陽極とを備え、
少なくとも点灯時には、鉛直方向に配置される前記陰極及び陽極の中心を通る軸線上で前記陽極が前記陰極よりも上側に配置され、
前記発光管封体の最大外径をDm、該発光管封体の最大外径を通る平面の位置を基準位置Ym、該基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、前記陽極の先端までの距離をX1、前記基準位置Ymから、前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿って、前記電極芯棒支持部材の電極先端を臨む端面において前記陰極の前記電極芯棒の根元が露出する点までの距離をX2、さらに、前記発光管封体の前記陰極及び陽極の中心を通る軸線に沿った断面において前記発光管封体の前記膨張部分を形成する曲面の曲率半径をRとすると、
0.69≦(Dm/R)<1.24であり、かつ、
0<(X1/X2)≦0.271である
(ただし、前記X1、X2は、前記基準位置から前記陽極の前記電極芯棒に向かう方向を正とし、前記基準位置から前記陰極の前記電極芯棒に向かう方向を負とし、また、40mm≦Dm≦250mm、40mm≦R≦300mmとする)、ショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
請求項1のショートアーク型放電ランプにおいて、前記発光管封体は石英ガラスから形成され、該発光管封体内に水銀も封入されている、ショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
請求項1又は2のショートアーク型放電ランプにおいて、前記発光管封体内の前記希ガスは、25°C(常温)において、約0.05MPaから0.8MPaの範囲内にある、ショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかのショートアーク型放電ランプにおいて、前記陰極は、トリウム、セリウム、イットリウム、ランタン、ジルコニウムなどの酸化物やホウ化物、窒化物をドープした、ショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかのショートアーク型放電ランプにおいて、ランプから放射される光は前記陰極の近くの前記膨張部分の近くに集光ミラーを配置することにより集光を行う、ショートアーク型放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−186023(P2012−186023A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48361(P2011−48361)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】