説明

シリカ微粒子保持ガラス繊維織物及び繊維強化樹脂成形体

【課題】良好な平滑性を有すると共に、樹脂含浸性に優れたガラス繊維織物を提供する。
【解決手段】ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が融着されてシリカ微粒子を保持するシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ微粒子を保持することで樹脂含浸性に優れたシリカ微粒子保持ガラス繊維織物及び繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス繊維織物を補強材としエポキシ樹脂等をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂成形体がプリント基板や透明シート材等に広く使用されている。最近では、電子機器の小型化及び軽量化に伴い、繊維強化樹脂成形体の薄型化の要請が強くなっている。繊維強化樹脂成形体の薄型化には、質量が小さく厚さが薄いガラス繊維織物を用いることが好ましく、ガラス繊維の織糸(フィラメント)が拡幅したガラス繊維織物を、繊維強化樹脂成形体に均一に配して平滑化することが好ましい。更に、プリント基板の耐CAF(Conductive Anodic Filament)性や透明シートの透明性等をより高めるために、ガラス繊維織物の樹脂含浸性の更なる向上が要請される。
【0003】
そこで、従来は、ガラス繊維織物の平滑性及び樹脂含浸性を向上させるべく、ガラス繊維織物に対する開繊処理やガラス繊維織物へのシリカ微粒子の付与を行うことが考えられていた。例えば、特許文献1には、ガラス繊維に付着したサイズ剤を熱処理により除去した後に、ガラス繊維織物をシリカ微粒子の水分散液中に浸漬して表面処理を施し、次いで、開繊処理を施す方法が記載されている。また、特許文献2には、ガラス繊維に付着したサイズ剤を熱処理により除去した後に、シリカ微粒子の水分散液中でガラス繊維織物に開繊処理を施す方法が記載されている。このように、特許文献1及び特許文献2に記載された方法を用いてシリカ微粒子をガラス繊維織物に付着させることで、一定の樹脂含浸性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−248572号公報
【特許文献2】特開平11−117168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄型繊維強化樹脂成形体に利用される補強材用途としては、ガラス繊維織物の樹脂含浸性、平滑性及びが外観性の更なる向上が求められる。
【0006】
すなわち、特許文献1に記載された方法では、加熱処理を行った後に開繊処理を施すため、加熱処理により生じたガラスフィラメント同士の接着や部分的な融着等により、樹脂含浸性及び平滑性の向上を妨げる場合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法では、開繊処理において、シリカ微粒子をガラス繊維織物に衝突させるため、ガラス繊維織物に与えるストレスが大きくなる。このため、目曲がり等の外観上の問題が発生する場合があり、特に、薄型のガラス繊維織物の場合は、その問題の発生が顕著となる。
【0008】
そこで、本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂含浸性、平滑性及び外観性の何れにも優れ、かつ、樹脂含浸性が安定的に維持されるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物及び繊維強化樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が融着されてシリカ微粒子を保持するシリカ微粒子保持ガラス繊維織物である。
【0010】
本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物によれば、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物が保持しているシリカ微粒子がガラスフィラメントに融着されているため、樹脂含浸性に寄与するシリカ微粒子の剥離が抑制され、樹脂含浸性がより確実に維持される。これにより、高い特性が求められる薄型繊維強化樹脂成形体の補強材として用いることができる。
【0011】
本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、シリカ微粒子の融着率が90%以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、シランカップリング剤が、ガラス繊維糸100質量部に対して0.01〜1質量部付着していてもよい。
【0013】
そして、本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物では、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が110g/m以下であることが好ましい。このように、単位面積あたりの質量を110g/m以下と小さくすることで、ガラス繊維織物の厚さを薄くし、樹脂含浸性を向上させることができる。これにより、薄型繊維強化樹脂成形体の補強材に用いることができる。
【0014】
また、本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物では、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量Xg/m及び通気度Ycm・cm−2・s−1が、0<X×(Y)1/2≦300の条件を満たすことが好ましい。ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が小さい場合は、その通気度が大きくなる傾向にあるが、上記の条件を満たすことで優れた平滑性を得ることができる。
【0015】
さらに、本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、サイズ剤が付着したガラス繊維織物のガラスフィラメント表面に付着させたシリカ微粒子を、加熱処理によりガラスフィラメント表面に融着させてなることが好ましい。
【0016】
本発明に係る繊維強化樹脂成形体は、上記の何れかのシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材とし、これに樹脂を含浸させ、その樹脂を硬化させたものである。
【0017】
上述したように、繊維強化樹脂成形体の補強材となるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、樹脂含浸性、平滑性及び外観性に優れるため、薄型のプリント基板、透明シート又は表示材等に利用できる。なお、用いられる樹脂は特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0018】
プリント基板用途の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱硬化型ポリイミド系樹脂、ユリア系樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アニリン系樹脂等が挙げられる。
【0019】
また、プリント基板用途の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、官能基変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂、脂環式炭化水素系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂等が挙げられる。
【0020】
一方、透明シート・表示材用途の熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
また、透明シート・表示材用途の熱可塑性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等あるいはこれらのブレンド物、ブロック又はグラフトコポリマー物等が挙げられる。
【0021】
なお、本発明において、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物とは、ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が付着又は融着されてシリカ微粒子を保持しているガラス繊維織物をいう。また、特に指定した場合には、ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が融着されてシリカ微粒子を保持しているガラス繊維織物を意味する。ここで、ガラス繊維織物とはガラス繊維糸を製織して得られる織物である。
【0022】
また、本発明において、ガラス繊維糸とは、ガラスフィラメントが複数本束ねられたものをいう。なお、本発明においてガラス繊維糸の重量には、付着又は融着されているサイズ剤やシリカ微粒子の重量は含まれない。
【0023】
また、本発明において、シリカ微粒子がガラスフィラメント表面に融着されているとは、加熱処理を受けた結果、シリカ微粒子が1又は2以上のガラスフィラメント表面にその一部が溶融して固着されている状態であり、ガラスフィラメントから剥離しない状態にあることをいう。一方、シリカ微粒子がガラスフィラメント表面に付着されているとは、シリカ微粒子が1又は2以上のガラスフィラメント表面に主に静電相互作用によって接着されている状態であり、衝撃等を受けることでガラスフィラメントから剥離するおそれのある状態にあることをいう。
【0024】
また、本発明において、ガラスフィラメント表面には、外気等に接するガラスフィラメント外表面及び複数のガラスフィラメントに囲まれたガラスフィラメント間隙面を含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、樹脂含浸性、平滑性及び外観性の何れにも優れ、かつ、樹脂含浸性が安定的に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の製造方法で実施される工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物及び繊維強化樹脂成形体の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の製造方法で実施される工程の一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の製造方法は、ステップS1の製織工程と、ステップS2の付着工程と、ステップS3の開繊工程(第一開繊工程)と、ステップS4の加熱工程と、ステップS5のシランカップリング剤処理工程と、ステップS6の加熱工程後の開繊工程(第二開繊工程)とで構成される。以下、各工程について詳しく説明する。
【0029】
まず、ステップS1の製織工程において、ガラスフィラメントを束ねてなるガラス繊維糸を製織して、ガラス繊維織物を得る。
【0030】
ガラスフィラメントのガラス組成は、特に限定されないが、例えば、Eガラス、低誘電率ガラス又は高弾性率ガラスを挙げることができる。
【0031】
ガラスフィラメントのフィラメント径は、特に限定されないが、薄型繊維強化樹脂成形体の補強材用途には、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、更には、3〜5μmであることが特に好ましい。
【0032】
ガラス繊維織物を形成するガラス繊維糸は、25〜500本のガラスフィラメントが束ねられて形成されることが好ましく、40〜300本のガラスフィラメントが束ねられて形成されることがより好ましい。なお、本明細書において「下限値〜上限値」とは、下限値以上かつ上限値以下の範囲内であることを意味する。
【0033】
ガラス繊維糸の番手は、0.8〜135texであることが好ましく、1〜25texであることがより好ましい。なお、ガラス繊維糸の番手(tex)とは、ガラス繊維の1000mあたりの質量(単位:g)に相当する。
【0034】
そして、製織工程では、ガラスフィラメントの集束や経糸の整経などにサイズ剤を用いる。このサイズ剤は、例えば、被膜形成剤成分がデンプン系又はPVA(polyvinyl alcohol)系のサイズ剤が挙げられる。サイズ剤は、油剤又は柔軟剤等を含んでもよい。
【0035】
ガラス繊維織物におけるサイズ剤の付着量は、ガラス繊維糸100質量部に対してサイズ剤の付着量が0.1〜3質量部であることが好ましく、0.5〜1.5質量部であることがより好ましい。なお、前述したサイズ剤の付着量の範囲や特に指定しない場合のサイズ剤の付着量は、経糸又は緯糸に対するサイズ剤の付着量の平均を表したものである。
【0036】
製織の方法は、特に限定されないが、例えば、平織り、朱子織り、綾織り等が挙げられる。ガラス繊維糸の製織の際の打ち込み密度は、特に限定されないが、例えば、10〜150本/25mmが好ましく、40〜100本/25mmであることがより好ましい。
【0037】
このようにして製織されるガラス繊維織物は、薄型繊維強化樹脂成形体の補強材用途という観点から、その単位面積あたりの質量が110g/m以下であることが好ましく、50g/m以下であることがより好ましい。一方、製織性の観点からは、ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が8g/m以上であることが好ましい。なお、ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量は、付着されたサイズ剤の質量も含んだ値である。ここで、ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量は、ガラス繊維織物の厚さを反映し、例えば、単位面積あたりの質量が50g/mである場合、その厚さは50μm程度である。
【0038】
次に、ステップS2の付着工程において、ガラス繊維織物をシリカ微粒子の水分散液中に浸漬し、シリカ微粒子をガラス繊維織物のガラスフィラメント表面に付着させる。なお、本実施形態では、付着工程により得られたガラス繊維織物をシリカ微粒子付着織物とも呼ぶ。
【0039】
付着工程においてガラス繊維織物に付着させるシリカ微粒子の付着量は、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子0.001〜1質量部が好ましく、シリカ微粒子0.01〜1質量部がより好ましい。なお、シリカ微粒子の付着量は、例えば、ガラス繊維織物がガラスフィラメント表面に保持しているシリカ微粒子数AをSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)で観察し計測することで求めることができる。
【0040】
シリカ微粒子の水分散液は、体積平均粒子径が40〜400nm、好ましくは60〜300nm、より好ましくは80〜200nm、特に好ましくは100〜150nmのシリカ微粒子を水中に分散させたコロイド溶液である。シリカ微粒子の水分散液に含まれるシリカ微粒子は、1種類であっても2種類以上のものを組み合わせたものであってもよい。前記した粒子径のシリカ微粒子であれば、ガラスフィラメント間に容易に入り込むことができ、かつスペーサーとして有効に機能する。粒子径が大きすぎる場合には、シリカ微粒子がガラスフィラメント間に入り込むことが困難であり、一方、粒子径が小さすぎる場合には、シリカ微粒子がスペーサーとして機能しない。
【0041】
溶液に対するシリカ微粒子の質量の割合は、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。シリカ微粒子が溶液中に多く含まれることで、シリカ微粒子がガラスフィラメント表面に付着されやすくなる。一方で、溶液に対するシリカ微粒子の質量の割合が5質量%よりも増えると、シリカ微粒子が凝集しやすくなり、このシリカ微粒子の凝集物がシリカ微粒子付着織物に付着して汚れとなる場合がある。
【0042】
シリカ微粒子の水分散液の液温は、10〜40℃が好ましい。液温が高い方が、シリカ微粒子の水分散液中におけるシリカ微粒子の運動が盛んになり、シリカ微粒子の付着という観点からは好ましい。一方で、液温を40℃よりも高くすると、分子間相互作用によりシリカ微粒子が凝集しやすくなり、このシリカ微粒子の凝集物がシリカ微粒子付着織物に付着して汚れとなる場合がある。
【0043】
シリカ微粒子の水分散液への浸漬は、シリカ微粒子の水分散液が貯留されたシリカ微粒子付着槽中をガラス繊維織物に通過させることにより行う。この際、ガラス繊維織物の進行方向にかけられる張力は、特に限定されないが、例えば、単位幅あたり50〜300Nであることが好ましい。なお、単位幅とは、ガラス繊維織物の幅方向、すなわち、緯糸方向のメートル(m)で表される単位長さを意味する。
【0044】
シリカ微粒子付着槽をガラス繊維織物に通過させるのに要する時間は、シリカ微粒子が前述した付着量だけ付着される限りにおいて特に限定されないが、例えば、1〜4秒であることが好ましい。
【0045】
また、付着工程では、シリカ微粒子付着槽内に、ガラス繊維織物の進行方向に直交する方向に延びる1本又は複数本の拡幅ローラを配置し、ガラス繊維織物をシリカ微粒子の水分散液中で拡幅ローラにより屈曲させながら進行させることが好ましい(図1参照)。ここで、屈曲とは、ガラス繊維織物が拡幅ローラの外周面に沿って曲がること、すなわち、ガラス繊維織物が拡幅ローラの外周面に一定の面積接していることをいう。また、拡幅ローラとは、ガラス繊維織物を屈曲させる際に、進行方向左右方向にガラス繊維織物に張力を発生させる部材であり、その形状は特に限定されない。拡幅ローラにより与えられる張力によって繊維糸が拡幅され、シリカ微粒子がガラスフィラメント間に入り込み易くなる。
【0046】
拡幅ローラの本数及び拡幅ローラの本数に依存するガラス繊維織物を屈曲させる回数は、特に限定されないが、例えば、シリカ微粒子付着槽内に2本の拡幅ローラを配置し、ガラス繊維織物をシリカ微粒子の水分散液中において2度屈曲させることが好ましい。
【0047】
1本又は複数本の拡幅ローラは、1本の拡幅ローラにより屈曲されることでガラス繊維織物が形成する劣角が60〜120度になるように、シリカ微粒子付着槽に配置されることが好ましい。ここで、劣角が60度未満であれば、ガラス繊維織物にかかるストレスが大きくなり過ぎる。一方、劣角が120度より大きければ、ガラス繊維織物が充分に拡幅されない。
【0048】
以上の処理を行い、ステップS2の付着工程が終了すると、対向する一対のローラにシリカ微粒子付着織物を挿入して、シリカ微粒子付着織物の絞液を行った後、ステップS3の開繊工程を行う。
【0049】
次に、ステップS3の開繊工程において、シリカ微粒子付着織物に開繊処理を施し、シリカ微粒子付着織物の経糸及び緯糸を拡幅させる。なお、本実施形態では、開繊工程により得られたガラス繊維織物を開繊織物とも呼ぶ。
【0050】
開繊処理としては、例えば、噴射水による開繊処理、バイブロウォッシャーによる開繊処理、超音波による開繊処理、バーにより押圧する開繊処理などが行われる。開繊処理は、上記の何れの処理を行っても良いが、開繊効果の高いバイブロウォッシャーによる開繊処理及び超音波による開繊処理がより好ましい。なお、開繊処理は、これらの処理を単独で行ってもよく、これらの処理を組み合わせて行ってもよい。
【0051】
噴射水による開繊処理は、シリカ微粒子付着織物に向けて液体を噴射してシリカ微粒子付着織物を開繊する処理であり、例えば、広がり角を持ったノズルから散水流をシリカ微粒子付着織物に噴射する処理や、細孔を有するノズル群から柱状流水をシリカ微粒子付着織物に噴射する処理が挙げられる。
【0052】
噴射水に用いられる液体は、例えば、水、又はアルコール等の有機溶剤を挙げることができ、好ましくは水である。
【0053】
液体の噴射圧力は、0.1〜2MPaが好ましく、0.5〜1MPaがより好ましい。液体の噴射圧力を0.5〜1MPとすることで、シリカ微粒子付着織物の外観上の瑕疵が抑えられ、かつ、シリカ微粒子付着織物の開繊効果が大きくなる。
【0054】
バイブロウォッシャーによる開繊処理は、バイブロウォッシャー(特許文献1又は2参照)を用いてシリカ微粒子付着織物を開繊する処理である。
【0055】
バイブロウォッシャーによる開繊処理は、液体が貯留された槽内において、多数の小孔が形成された筒状体にシリカ微粒子付着織物を押圧させ、且つ、小径から液体の圧力波を圧出する。そして、筒状体への押圧と圧力波とにより、シリカ微粒子付着織物を開繊する。
【0056】
バイブロウォッシャーに用いられる液体は、例えば、水、又はアルコール等の有機溶剤を挙げることができる。中でも、水が好ましいが、微量(0.01質量%未満)のシリカ微粒子を含んでもよい。ここで、シリカ微粒子が、溶液(水)に対して0.01質量%以上存在する場合には、シリカ微粒子の凝集物がガラス繊維織物に付着して汚れとなる等の外観上の問題が生じるおそれがある。
【0057】
バイブロウォッシャーにより発生される圧力波の周波数は、50〜600Hzが好ましく、100〜300Hzがより好ましい。この圧力波の周波数を100〜300Hzとすることで、ガラス繊維織物の外観上の瑕疵が抑えられ、かつ開繊効果が大きくなる。
【0058】
超音波による開繊処理は、超音波振動子を用いて液体や気体を媒体にして超音波を与えることでシリカ微粒子付着織物を開繊する処理である。
【0059】
媒体は、液体と気体の何れであっても良いが、液体が好ましい。この液体は、例えば、水、又はアルコール等の有機溶剤を挙げることができ、好ましくは水である。また、この液体には、微量(0.01質量%未満)のシリカ微粒子を含んでもよい。ここでシリカ微粒子が、溶液に対して0.01質量%以上存在する場合には、シリカ微粒子の凝集物がガラス繊維織物に付着して汚れとなる等の外観上の問題が生じるおそれがある。
【0060】
超音波振動子とシリカ微粒子付着織物との間には、媒体となる液体以外に、仕切り等を配置してもよいが、超音波振動子とガラス繊維織物との距離は、1〜20cmが好ましい。
【0061】
超音波振動子が発生する超音波の周波数は、10〜60kHzが好ましく、30〜50kHzがより好ましい。超音波の周波数を30〜50kHzとすることで、ガラス繊維織物の外観上の瑕疵が抑えられ、かつ開繊効果が大きくなる。
【0062】
バーにより押圧する開繊処理は、液中において棒状のバーをシリカ微粒子付着織物に押し当てることでシリカ微粒子付着織物を開繊するものである。なお、バーの形状、及び回転の有無は特に限定されない。
【0063】
開繊工程における各開繊処理に用いられる液体の温度は、50℃以上が好ましく、60℃以上であることがより好ましい。50℃以上の温度では、ガラス微粒子付着織物に残留しているサイズ剤中の潤滑剤成分が液化するため、開繊効果が大きくなる。更に、60℃以上の温度では、サイズ剤の被膜形成剤成分が膨潤又は糊化するので、ガラスフィラメント間の潤滑性が向上し、開繊処理による経糸及び緯糸の拡幅が一層容易になり、開繊効果が更に大きくなる。なお、開繊処理の作業性の観点からは、液体の温度は95℃以下であることが好ましい。
【0064】
以上の処理を行い、ステップS3の開繊工程が終了すると、まず、開繊織物を水が貯留された洗浄槽内に通し、次に、洗浄シャワーで開繊織物の表裏面を洗浄し、次に、対向する一対のローラにシリカ微粒子付着織物を挿入して開繊織物の絞液を行った後、ステップS4の加熱工程を行う。
【0065】
次に、ステップS4の加熱工程において、開繊織物を加熱炉等で加熱処理し、開繊織物に付着しているシリカ微粒子の一部又は全部をガラスフィラメント表面に融着させる。なお、本実施形態では、加熱工程により得られたガラス繊維織物をシリカ微粒子保持ガラス繊維織物とも呼ぶ。
【0066】
加熱処理における開繊織物の加熱温度は、例えば、300〜450℃である。また、加熱処理における開繊織物の加熱時間は、36〜72時間である。
【0067】
そして、この加熱処理により、ガラス繊維織物に付着しているサイズ剤が除去される。
【0068】
ところで、加熱工程での加熱処理により、ガラスフィラメント同士が接触し、更に、ガラスフィラメントの一部が軟化して隣接するガラスフィラメント同士が部分的に融着する現象が発生する場合がある。
【0069】
この現象に起因して、従来のように加熱工程の後に付着工程又はこれに類似した工程を行うと、一部のガラスフィラメント同士が接触又は融着した後に、ガラスフィラメント間にシリカ微粒子を入り込ませることになる。このため、加熱工程後に付着工程又はこれに類した工程を行っても、ガラスフィラメント間に存在するシリカ微粒子の量が不十分となり、シリカ微粒子の保持に起因する樹脂含浸性向上の程度が小さくなる。
【0070】
また、従来のように加熱工程の後に初めて開繊工程又はこれに類似した工程を行うと、一部のガラスフィラメント同士が接触又は融着した後に、ガラスフィラメント間の隙間を広げることになる。このため、加熱工程後に初めて開繊工程又はこれに類似した工程を行っても、ガラスフィラメント間の隙間を広げる効果が小さくなる。更に、開繊工程の前工程である加熱工程において、潤滑剤として機能するサイズ剤が加熱処理により除去されるため、加熱工程の後工程である開繊工程において、ガラス繊維織物の開繊効果が更に小さくなる。しかも、加熱工程によりサイズ剤が除去されることで、ガラス繊維糸に大きなずれが生じ易くなり、加熱工程後に施される開繊処理の種類によっては、目曲がり等の外観上の瑕疵が発生しやすくなるおそれがある。
【0071】
これに対し、本実施形態では、加熱工程の前に付着工程を行うことで、ガラス繊維の樹脂含浸性の向上に寄与する。すなわち、ガラスフィラメント同士が接着又は融着する前に、ガラスフィラメント間にシリカ微粒子を入り込ませることができる。このため、付着工程によりシリカ微粒子がガラスフィラメント間に十分に入り込み、ガラスフィラメント間の隙間が確保されて、樹脂含浸性が向上する。
【0072】
また、本実施形態では、加熱工程の前に開繊工程を行うことで、平滑性の向上に寄与する。すなわち、ガラスフィラメント同士が接着又は融着する前に、ガラスフィラメント間の隙間を広げることができるため、加熱処理により生じるガラスフィラメント同士の接着及び融着の影響によって、開繊工程の開繊効果が弱められない。更に、開繊工程では、サイズ剤が除去されておらずガラス繊維糸上に残存しているため、このサイズ剤が潤滑剤として機能し、優れた平滑性に寄与する。
【0073】
また、本実施形態では、加熱工程の前に開繊工程を行うことで、優れた外観性に寄与する。すなわち、開繊工程では、サイズ剤が除去されておらずガラス繊維糸上に残存しているため、ガラス繊維糸の大きなズレを防止し、開繊工程における目曲がり等の外観の瑕疵の発生が抑制される。
【0074】
また、本実施形態では、加熱工程の前に付着工程を行うことで、優れた外観性に寄与する。すなわち、加熱工程の前工程である付着工程において、ガラスフィラメント間にシリカ微粒子が入り込み、ガラスフィラメント間の隙間が確保されるため、加熱工程において加熱処理を行っても、ガラスフィラメント同士の接着及び融着を抑制することができる。これにより、加熱工程の後に、更に開繊処理を施しても、その開繊効果が減殺されない。
【0075】
また、本実施形態では、製織工程の後に付着工程を行うことで、高い樹脂含浸性に寄与する。すなわち、製織工程前にシリカ微粒子をガラス繊維糸に付着させると、製織工程で受ける衝撃等によって、シリカ微粒子が剥落する場合やシリカ微粒子が凝集してガラス繊維織物中に均一に保持されない場合がある。これらの場合にシリカ微粒子に起因する優れた樹脂含浸性が低下するおそれがあり、本実施形態によればこの樹脂含浸性の低下のおそれを回避することができる。
【0076】
これらに加えて、本実施形態では、付着工程の後に加熱工程を行うことで、樹脂含浸性を安定的に維持することに寄与する。すなわち、付着工程によりガラスフィラメント表面に付着したシリカ微粒子の大部分が加熱工程での加熱処理によりガラスフィラメント表面に融着する。これによりシリカ微粒子の剥離が防止され、シリカ微粒子に起因する優れた樹脂含浸性が低下することが抑えられる。
【0077】
また、本実施形態では、付着工程と開繊維工程とを分離することで、優れた外観性に寄与する。とりわけ、付着工程と開繊工程を分離することで可能となる各工程での独立した液温制御は、シリカ凝集物による汚れがガラス繊維織物に付着することを防ぐことができる。
【0078】
具体的には、従来のように、シリカ微粒子の分散液中でガラス繊維織物の開繊処理を行い、付着工程と開繊工程とを同時に行うと、シリカ微粒子の水分散液の液温が上昇する傾向がある。特に、バイブロウォッシャーによる開繊処理を施すと、液温の上昇が顕著となる。これにより、シリカ微粒子の凝集が発生する温度まで液温が上昇し、発生したシリカ微粒子凝集物がガラス繊維織物に付着して汚れとなるおそれがある。
【0079】
これに対し、本実施形態では、付着工程と開繊工程とで、液温を独立して最適な温度に制御することが可能であるため、シリカ微粒子の凝集を防ぎ、ガラス繊維織物の汚れを防ぐことができる。
【0080】
また、本実施形態では、付着工程と開繊工程とを分離することで、開繊工程において多量のシリカ微粒子が用いられないため、ガラス繊維織物に与えるストレスの軽減に寄与する。これにより、ガラス繊維織物に外観上の瑕疵が発生するリスクを低減することが可能となる。特に単位面積あたりの質量が110g/m以下の薄型ガラス繊維織物を製造する場合は、開繊処理でガラス繊維織物に大きなストレスがかかると目曲がりが発生しやすくなる。これに対し、付着工程と開繊工程とを分離し、開繊工程でガラス繊維織物に与えるストレスを小さくすることで、目曲がりの発生を防止することができる。
【0081】
また、本実施形態では、付着工程と開繊工程とを分離し、付着工程と開繊工程とを独立して温度制御することで、装置の保全にも寄与する。すなわち、不十分な液温制御で発生したシリカ微粒子の凝集物は、装置の配管駆動部等に沈殿することで装置を損傷するおそれがある。そのため、連続操業の場合においては、冷却装置による温度制御によりシリカ微粒子の凝集を防ぐ必要がある。また、間断運転の場合には、温度制御によるシリカ微粒子の凝集発生防止が不完全となるため、装置の日常点検を密に行うことが必要となる。これに対して、付着工程と開繊工程との独立した温度制御は、このような負担をかけることなく、配管駆動部等に損害を与えるリスクを軽減することを可能とする。
【0082】
次に、ステップS5のシランカップリング剤処理工程において、シランカップリング剤を用いてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の表面処理を行う。この表面処理により、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物と樹脂との親和性が向上する。
【0083】
シランカップリング剤処理工程で用いられるシランカップリング剤は、特に限定されないが、例えば、エポキシシラン、アミノシラン又はカチオニックシラン等を挙げることができる。
【0084】
シリカ微粒子保持ガラス繊維織物に付着されるシランカップリング剤は、ガラス繊維糸100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。
【0085】
従来のガラス繊維織物の製造方法では、シランカップリング剤処理において、開繊処理により広げられたガラスフィラメント間の隙間が狭められる傾向にある。これに対し、本実施形態の製造方法では、シリカ微粒子がガラスフィラメント間に入り込んで融着されているので、シランカップリング剤処理工程においてガラスフィラメント間の隙間が狭められることも防止される。したがって、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の樹脂含浸性が維持される。
【0086】
次に、ステップS6の加熱工程後の開繊工程において、加熱処理後のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物に開繊処理を施す。この開繊処理は、例えば、ステップS3の開繊工程で説明した開繊処理を行うことができる。その中でも、噴射水による開繊処理が、目曲がり等の外観上の問題の発生する可能性が少ない点で好ましい。
【0087】
本実施形態では、シランカップリング剤処理工程の後に加熱工程後の開繊工程を行うことで、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物へのシラン化合物の均一付着を促進し、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の耐熱性の向上に寄与する。また、シランカップリング剤処理工程においてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物に余分に付着した化合物を、その後の開繊処理において洗い流すことができる。したがって、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の樹脂含浸性が更に向上する。
【0088】
そして、本実施形態に係る製造方法により製造されるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、シリカ微粒子の融着率が、60%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが特に好ましい。シリカ微粒子の融着率が高いことで、シリカ微粒子は剥離等により減少することがなく、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の優れた樹脂含浸性が維持される。
【0089】
また、ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が融着されてシリカ微粒子を保持する本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、そのガラスフィラメント表面に融着されずに付着されているシリカ微粒子を含んでもよいが、シリカ微粒子の融着率が、60%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが特に好ましい。シリカ微粒子の融着率が高いことで、本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の優れた樹脂含浸性が維持される。
【0090】
ここで、シリカ微粒子の融着率は、以下の手順で求める。まず、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物がガラスフィラメント表面に保持しているシリカ微粒子数AをSEMにより計測する。次いで、20℃の純水中で、超音波振動子をシリカ微粒子保持ガラス繊維織物から10cm離間させた状態で、超音波振動子から発生された周波数50kHzの超音波を1分間そのシリカ微粒子保持ガラス繊維織物に作用させる。次いで、そのシリカ微粒子保持ガラス繊維織物がガラスフィラメント表面に維持しているシリカ微粒子数BをSEMにより計測する。そして、BをAで除して百分率により表すことでシリカ微粒子の融着率を求める。
【0091】
また、本実施形態に係る製造方法により製造される又は本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、薄型繊維強化樹脂成形体の補強材用途という観点から、その単位面積あたりの質量が110g/m以下であることが好ましく、50g/m以下であることがより好ましい。なお、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量は、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物に付着又は融着されているシリカ微粒子の質量、及びシリカ微粒子保持ガラス繊維織物に付着されているシランカップリング剤の質量を含んだ値である。
【0092】
特に樹脂含浸性及び平滑性の向上という観点においては、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が小さい方が、樹脂含浸性向上の程度が高く、かつ開繊処理の拡幅効果が大きいため好ましい。後段の実施例において詳述するが、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が110g/m以下であることが、シリカ微粒子の付着及び融着がない場合に比して、樹脂含浸時間が25%以下にまで短縮され、ガラス繊維糸の拡幅が15%以上向上したことから好ましい。更に、その単位面積あたりの質量が50g/m以下であることが、シリカ微粒子の付着及び融着がない場合に比して、樹脂含浸時間が5%以下にまで短縮され、ガラス繊維糸の拡幅が25%以上向上したことからより好ましい。
【0093】
また、本実施形態に係る製造方法により製造される又は本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、シリカ微粒子が、ガラス繊維糸100質量部に対して0.001〜1質量部付着又は融着されていることが好ましく、0.01〜0.1質量部付着又は融着されていることがより好ましい。この範囲内のシリカ微粒子が付着又は融着されていることで、シリカ微粒子がガラスフィラメント間に隙間を確保することに起因する樹脂含浸性及び平滑性の向上が実現される。
【0094】
更に、本実施形態に係る製造方法により製造される又は本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、シランカップリング剤が、ガラス繊維糸100質量部に対して0.01〜1質量部付着されていてもよい。
【0095】
また、本実施形態に係る製造方法により製造される又は本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、その単位面積あたりの質量Xg/mと通気度Ycm・cm−2・s−1とが下式(1)に示す条件を満たすことが好ましい。
0<X×(Y)1/2≦300・・・(1)
ここで、通気度は、JIS L 1096の通気性試験方法により測定することができる。開繊工程における経糸及び緯糸の拡幅が大きいほど通気度が低くなることから、通気度は平滑性の大きさの指標となる。なお式(1)は、より薄型で平滑性の高いガラス繊維織物が薄型繊維強化樹脂成形体の補強材に適することを考慮して、ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が小さい場合に通気度が高くなる傾向を補正するものである。すなわち、式(1)に示す条件を満たすシリカ微粒子保持ガラス繊維織物には、平滑性は高いが非常に薄型でかつ軽量のために通気度が高くなるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物が含まれる。
【0096】
特に樹脂含浸性の向上という観点においては、前述したX×(Y)1/2の値が小さい方が樹脂含浸性向上の程度が高いため好ましい。後段の実施例において詳述するが、この値が300以下であることが、シリカ微粒子の付着及び融着がない場合に比して、樹脂含浸時間が25%以下にまで短縮され、ガラス繊維糸の拡幅が15%以上向上したことから好ましい。更に、この値が200以下であることが、シリカ微粒子の付着及び融着がない場合に比して、樹脂含浸時間が5%以下にまで短縮され、ガラス繊維糸の拡幅が25%以上向上したことからより好ましい。
【0097】
そして、本実施形態に係る製造方法により製造される又は本実施形態に係るシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材として、これに樹脂を含浸させ、その樹脂を硬化させることで、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材とする繊維強化樹脂成形体を製造することができる。
【0098】
シリカ微粒子保持ガラス繊維織物への樹脂の含浸方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0099】
この繊維強化樹脂成形体の製造に用いられる樹脂は特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0100】
プリント基板用途の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱硬化型ポリイミド系樹脂、ユリア系樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アニリン系樹脂等が挙げられる。
【0101】
また、プリント基板用途の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、官能基変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂、脂環式炭化水素系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂等が挙げられる。
【0102】
一方、透明シート・表示材用途の熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
また、透明シート・表示材用途の熱可塑性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等あるいはこれらのブレンド物、ブロック又はグラフトコポリマー物等が挙げられる。
【0103】
シリカ微粒子保持ガラス繊維織物に含浸させた樹脂を硬化させる方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0104】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態において、加熱工程(ステップS4)の後にシランカップリング剤処理工程(ステップS5)又は/及び加熱工程後の開繊処理(ステップS6)を行うものとして説明したが、加熱工程(ステップS4)の後にシランカップリング剤処理工程(ステップS5)及び加熱工程後の開繊処理(ステップS6)を行わなくてもよい。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の好適な実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
[実施例1]
(ガラス繊維織物)
ガラス繊維織物として、ガラス繊維糸100質量部に対してデンプン系を主体としたサイズ剤の付着量が1質量部であるガラス繊維織物(日東紡績(株)製;WEA1078)を用いた。
【0107】
ここで、このガラス繊維織物のガラス繊維糸は、そのフィラメント組成がEガラスであり、フィラメント径が5μmであり、フィラメント本数が200本であり、番手が11.2texであった。また、このガラス繊維織物は、ガラス繊維糸を平織りにしたものであって、ガラス繊維糸の打ち込み密度は、経糸が53本/25mm、緯糸が53本/25mmであり、その単位面積あたりの質量が48g/mであった。
【0108】
(付着工程)
ガラス繊維織物を、シリカ微粒子の水分散液を含むシリカ微粒子付着槽に浸漬し、シリカ微粒子を付着させてシリカ微粒子付着織物を得た。
【0109】
シリカ微粒子の水分散液として、体積平均粒径が100nmのシリカ微粒子(日産化学工業製;スノーテックス)が0.2質量%で水中に分散した溶液を用いた。また、シリカ微粒子の水分散液の液温は20℃とした。
【0110】
シリカ微粒子付着槽として、拡幅ローラを2本備えるものを用いた。2本の拡幅ローラは、これらによりガラス繊維織物が屈曲されて形成する劣角が約100度となるように配置した。
【0111】
シリカ微粒子付着槽への浸漬及びシリカ微粒子の付着は、具体的には、ガラス繊維織物の進行方向に単位幅あたり240N〜250Nの張力をかけ、かつシリカ微粒子付着槽内の液中に配置された拡幅ローラにより屈曲させて、ガラス繊維織物にシリカ微粒子の水分散液を含むシリカ微粒子付着槽を2〜3秒かけて通過させることにより行った。
【0112】
(開繊工程)
付着工程により得られたシリカ微粒子付着織物に、水中でのバイブロウォッシャーによる開繊処理を施し、開繊織物を得た。
【0113】
なお、バイブロウォッシャーによりサイズ剤の付着したガラス繊維織物に与える圧力波の振動周波数は150Hzであり、水温は40℃であった。
【0114】
(加熱工程)
開繊工程により得られ、洗浄・絞液を経た開繊織物の巻体に加熱処理を行うことで、サイズ剤を除去し、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物を得た。
【0115】
加熱処理は、具体的には、400℃で48時間加熱することにより行った。
【0116】
(シランカップリング剤処理工程)
加熱工程を経て得られたシリカ微粒子保持ガラス繊維織物にシランカップリング剤を用いた表面処理を施した。
【0117】
シランカップリング剤として、N−β―(N−ビニルベンジルアミノ)エチル−アミノプロピルメトキシシランを用いた。
【0118】
表面処理は、具体的には、pH 3.5に調製したシランカップリング剤濃度0.3質量%のシランカップリング剤溶液にシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を浸漬し絞液することにより行った。
【0119】
(加熱工程後の開繊工程)
シランカップリング剤処理工程後、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物に噴射水を作用させる開繊処理を行った。
【0120】
開繊処理は、具体的には、2MPaの圧力を有する40℃の高圧水流をシリカ微粒子保持ガラス繊維織物に噴射させることにより行った。
【0121】
最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0122】
[実施例2]
ガラス繊維織物として、サイズ剤が実施例1と同様に付着されたガラス繊維織物(日東紡績(株)製;WEA1037)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0123】
ここで、このガラス繊維織物のガラス繊維糸は、そのフィラメント組成がEガラスであり、フィラメント径が4.5μmであり、フィラメント本数が100本であり、番手が4.2texであった。また、このガラス繊維織物は、ガラス繊維糸を平織りにしたものであって、ガラス繊維糸の打ち込み密度は、経糸が69本/25mm、緯糸が72本/25mmであり、その単位面積あたりの質量が24g/mであった。
【0124】
なお、最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0125】
[実施例3]
ガラス繊維織物として、サイズ剤が実施例1と同様に付着されたガラス繊維織物(日東紡績(株)製;WEA116E)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0126】
ここで、このガラス繊維織物のガラス繊維糸は、そのフィラメント組成がEガラスであり、フィラメント径が7μmであり、フィラメント本数が200本であり、番手が22.5texであった。また、このガラス繊維織物は、前記ガラス繊維糸を平織りにしたものであって、ガラス繊維糸の打ち込み密度は、経糸が59本/25mm、緯糸が57本/25mmであり、その単位面積あたりの質量が104g/mであった。
【0127】
なお、最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0128】
[実施例4]
ガラス繊維織物として、サイズ剤が実施例1と同様に付着されたガラス繊維織物(日東紡績(株)製;WEA7628)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0129】
ここで、このガラス繊維織物のガラス繊維糸は、そのフィラメント組成がEガラスであり、フィラメント径が9μmであり、フィラメント本数が400本であり、番手が67.5texであった。また、このガラス繊維織物は、前記ガラス繊維糸を平織りにしたものであって、ガラス繊維糸の打ち込み密度は、経糸が44本/25mm、緯糸が32本/25mmであり、その単位面積あたりの質量が180g/mであった。
【0130】
なお、最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0131】
[比較例1]
加熱工程前の付着工程を行わず、加熱工程後であってシランカップリング剤処理工程の前に、加熱工程前の付着工程と同じ条件のシリカ微粒子付着工程を行う以外は、実施例1と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0132】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0133】
[比較例2]
加熱工程前の付着工程及び開繊工程を行わず、加熱工程後であってシランカップリング剤処理工程の前に、加熱工程前の付着工程と同じ条件のシリカ微粒子付着工程を行い、また加熱工程後の開繊工程において、噴射水を作用させる開繊処理に代えて水中でのバイブロウォッシャーによる開繊処理を行うこと以外は、実施例1と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0134】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0135】
[比較例3]
加熱工程前の付着工程及び開繊工程を行わず、加熱工程後の開繊工程において噴射水を作用させる開繊処理に代えてシリカ微粒子の水分散液中でのバイブロウォッシャーによる開繊処理を行うこと以外は、実施例1と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0136】
シリカ微粒子の水分散液として、体積平均粒径が100nmのシリカ微粒子(日産化学工業製;スノーテックス)が1質量%で水中に分散した溶液を用いた。またシリカ微粒子の水分散液の液温は40℃とした。
【0137】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0138】
[比較例4]
付着工程を行わないこと以外は、実施例1と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0139】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0140】
[比較例5]
付着工程を行わないこと以外は、実施例2と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0141】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0142】
[比較例6]
付着工程を行わないこと以外は、実施例3と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0143】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0144】
[比較例7]
付着工程を行わないこと以外は、実施例4と同様にしてガラス繊維織物を製造した。
【0145】
なお、最終的に得られるガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0146】
〈ガラス繊維織物の評価方法〉
実施例1〜4及び比較例1〜7で製造されたそれぞれのガラス繊維織物について、平滑性・外観性・樹脂含浸性及びシリカ微粒子融着率の評価を行った。また、加熱工程でシリカ微粒子をガラスフィラメント表面に融着させた実施例1〜4のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物について、シリカ微粒子融着性の評価を行った。
【0147】
[平滑性評価]
開繊工程前後での、経糸及び緯糸それぞれのガラス繊維糸の糸幅並びに通気度を測定した。
【0148】
ここで、ガラス繊維糸の糸幅及び通気度はガラス繊維糸の拡幅状況を示し、ガラス繊維織物の平滑性の指標となる。なお、通気度はJIS L 1096に準拠して測定した。
【0149】
[外観性評価]
製造されたガラス繊維織物の目曲がりの有無を目視で評価した。
【0150】
目曲がりの有無はガラス繊維織物の外観の問題の有無を表す。また、目曲がりの有無は、開繊工程におけるガラス繊維織物へのストレスの大きさを反映している。
【0151】
[樹脂含浸性評価]
粘度100CPSのエポキシ樹脂ワニスにガラス繊維織物を含浸し、ガラス繊維織物にLEDライトの光を当ててガラス繊維糸内部のガラスフィラメント間のボイドを目視観察し、そのボイドが消滅するまでの時間を測定した。
【0152】
樹脂含浸性には、ガラス繊維糸の解れの程度及びガラスフィラメント間の隙間の大きさが反映される。
【0153】
[シリカ微粒子融着性評価]
シリカ微粒子の融着率は、シリカ微粒子保持ガラス繊維織物がガラスフィラメント表面に保持しているシリカ微粒子数AをSEMにより計測し、次いで、20℃の純水中で超音波振動子(BRANSON製 BRANSONIC B1200)との間隔を10cmとして、周波数50kHzの超音波を1分間そのガラス繊維織物に作用させ、次いで、そのガラス繊維織物がガラスフィラメント表面に維持しているシリカ微粒子数BをSEMにより計測し、BをAで除して百分率により表すことで求めた。
【0154】
シリカ微粒子の融着率は、シリカ微粒子のガラスフィラメント表面からの剥離し難さの指標となる。
【0155】
上記実施例及び比較例における実施条件及び評価結果を表1に示す。なお、比較例3は、付着工程に代えてシリカ微粒子の水分散液中でバイブロウォッシャーによる開繊処理を施してシリカ微粒子を付着させた。
【表1】

【0156】
〈ガラス繊維織物の評価結果〉
[平滑性評価結果]
実施例1〜4において、ガラス繊維糸は、経糸及び緯糸ともに拡幅されていた。
【0157】
実施例1〜4の比較より、単位面積あたりの質量が小さい程、経糸及び緯糸の拡幅率は大きく、特にガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が110g/m以下の場合、15%以上の拡幅が確認され、更に、単位面積あたりの質量が50g/m以下の場合、25%以上の拡幅が確認された。
【0158】
実施例1と比較例1との比較より、付着工程を加熱工程前に行っても加熱工程後に行っても拡幅効果及び通気度に大きな影響はないことが確認された。
【0159】
実施例1と比較例2及び3との比較より、加熱工程前に開繊工程及び付着工程を行うことは、加熱工程後に開繊工程及び付着工程を行うことよりもガラス繊維糸の拡幅効果が大きいことが確認された。また、通気度が減少していることからも平滑性の向上が確認された。
【0160】
実施例1〜4と比較例4〜7との比較より、付着工程が経糸及び緯糸の拡幅及び通気度に与える影響は大きくないことが確認された。
【0161】
[外観性評価結果]
実施例1〜4において、目曲がりは観察されず、本発明による開繊工程でのガラス繊維織物へのストレスは大きくないことが確認された。
【0162】
また、実施例1と比較例2及び3との比較より、ガラス繊維織物に与えるストレスの小さな開繊処理を加熱工程の前に施すことによって、目曲がりが抑えられることが確認された。
【0163】
[樹脂含浸性評価結果]
実施例1〜4と比較例4〜7との比較より、付着工程によりシリカ微粒子を付与することで、樹脂含浸時間が著しく短縮されることが確認された。特にガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が110g/m以下の場合、付着工程を行うことで、樹脂含浸時間が付着工程を行わない場合の25%以下にまで短縮され、更に単位面積あたりの質量が50g/m以下の場合、樹脂含浸時間が付着工程を行わない場合の5%以下にまで短縮された。同時に、ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量Xg/mと通気度Ycm・cm−2・s−1とから計算されるX×(Y)1/2の値が300以下の場合、付着工程を行うことで、樹脂含浸時間が付着工程を行わない場合の25%以下にまで短縮され、この値が200以下の場合、樹脂含浸時間が付着工程を行わない場合の5%以下にまで短縮された。
【0164】
実施例1と比較例1〜3との比較より、加熱工程前に付着工程及び開繊工程を行うことで、付着工程及び開繊工程を加熱工程後に行う場合よりも樹脂含浸性の向上が大きいことが確認された。
【0165】
[シリカ微粒子融着性評価結果]
実施例1〜4より、本発明のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の製造方法により得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物のシリカ微粒子の融着率は極めて高いことが確認された。この結果より、付着工程及び開繊工程の後に加熱工程を行うことで、ガラス繊維織物に付着されたシリカ微粒子の大部分がガラスフィラメント表面に融着されることが確認された。
【0166】
以上の評価結果より、本発明のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物の製造方法により得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は、樹脂含浸性・平滑性・外観のいずれにも優れたものであることが確認された。また、ガラスフィラメント表面に存在するシリカ微粒子の大部分が融着されてシリカ微粒子を保持しているガラス繊維織物であることが確認された。
【0167】
〈液温制御の効果〉
付着工程と開繊工程の温度をそれぞれ独立に最適な温度へと制御した場合と、いずれか一方の最適な温度に統一して制御した場合との樹脂含浸性、平滑性及び外観性を比較した。
【0168】
[実施例5]
開繊工程の水温を70℃とした以外は実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0169】
最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0170】
[実施例6]
付着工程の液温を70℃とした以外は実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0171】
最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.02質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0172】
[実施例7]
開繊工程の水温を20℃とした以外は実施例1と同様にしてシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を製造した。
【0173】
最終的に得られるシリカ微粒子保持ガラス繊維織物において、ガラス繊維糸100質量部に対してシリカ微粒子の付着又は融着量は0.01質量部でありシランカップリング剤の付着量は0.1質量部であった。
【0174】
そして、実施例5〜7について、表1と同一の評価項目については表1と同様に評価を行った。シリカ微粒子の凝集物に由来する汚れに関しては、シリカ微粒子の凝集に伴う白色の汚れの有無を目視で評価した。評価結果を表2に示す。
【表2】

【0175】
実施例5と実施例6及び7との比較より、付着工程と開繊工程の液温をそれぞれ独立に最適な温度へと制御することで、樹脂含浸性、平滑性及び外観性が総合的により優れたシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を得られることが確認された。
〈繊維強化樹脂成形体の作成〉
実施例1のシリカ微粒子保持ガラス繊維物と比較例1〜4のガラス繊維織物を補強材とし、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化樹脂成形体を作成した。
【0176】
具体的には、ガラス繊維織物をエポキシ樹脂に10秒間含浸し、スクイズローラで余分な樹脂分を除去した後、130℃で乾燥させて溶剤分を揮発させ、プリプレグを作成した。次いで、真空プレス機で、180℃、20kg/cm、90分の加圧加熱条件で成形して、繊維強化樹脂成形体を作成した。
【0177】
実施例1のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材とする繊維強化樹脂成形体では、ボイド及びが目視で確認できなかった。一方、比較例1〜4のガラス繊維織物を補強材とする繊維強化樹脂成形体ではボイド及びが目視で確認された。
【0178】
この結果より、樹脂含浸性の高いシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を用いることで、ボイド及びの少ない繊維強化樹脂成形体を容易に製造可能なことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物は薄型繊維強化樹脂成形体用の補強材に好適である。シリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材とする繊維強化樹脂成形体はプリント基板や透明シート材等に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維織物のガラスフィラメント表面にシリカ微粒子が融着されて前記シリカ微粒子を保持するシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項2】
前記シリカ微粒子の融着率が90%以上である、請求項1に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項3】
シランカップリング剤が、ガラス繊維糸100質量部に対して0.01〜1質量部付着している、請求項1又は2に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項4】
前記シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量が110g/m以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項5】
前記シリカ微粒子保持ガラス繊維織物の単位面積あたりの質量Xg/m及び通気度Ycm・cm−2・s−1が0<X×(Y)1/2≦300の条件を満たす、請求項1〜4の何れか1項に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項6】
サイズ剤が付着したガラス繊維織物のガラスフィラメント表面に付着させたシリカ微粒子を、加熱処理により前記ガラスフィラメント表面に融着させてなる、請求項1〜5の何れか1項に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のシリカ微粒子保持ガラス繊維織物を補強材とする繊維強化樹脂成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2013−49945(P2013−49945A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232973(P2012−232973)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2012−509355(P2012−509355)の分割
【原出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【特許番号】特許第5158284号(P5158284)
【特許公報発行日】平成25年3月6日(2013.3.6)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】