説明

シリンジホルダー及び注射器

【課題】製造での滅菌工程の煩雑さを改善できるルアーロック方式の注射器及びそのためのシリンジホルダーの提供。
【解決手段】先端のオスルアーにキャップを装着したシリンジを挿入して保持するための、前端及び後端を有する円筒状の胴部と胴部の後端寄り外周の指掛け片とを含むシリンジホルダーであって、胴部前端の内周面に、シリンジの先端側外周縁に当接するストッパー手段を備え、胴部の前端から前方へ、シリンジの先端及びキャップを囲む雌ねじつきスリーブが延びており、胴部の後端に、シリンジの後端側外周縁に当接し、ピストンロッドを通す穴を有する後端キャップを備えたものである、シリンジホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルアー先のシリンジからルアーロック方式適合の注射器を構成するためのシリンジホルダー、並びに該ホルダーとこれに保持されたシリンジとを含んでなる、注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジ(注射筒)と、これに対応する注射針又は輸液チューブや輸液ポンプの接続ポートその他の相手方接続器具との結合には、前者の先端にあるオスルアーと後者に設けられたメスルアーとの嵌合によるルアーフィッティング方式が一般に用いられている。更に、単なるルアーフィッティング方式に加えて、例えば輸液チューブへの連結等のために、外力で嵌合が容易に外れず嵌合部を確実に固定するできるものとして、メスルアーの周囲をねじ止めする方式(ルアーロック方式)が採用されるようになっている。ルアーロック方式にも対応できるシリンジとしては、シリンジの先端のオスルアーの周囲にプラスチック製の雌ねじつきスリーブを装着したものが、知られている(特許文献1の図2を参照)。これにより、同一のシリンジを用いて、単なるルアーフィッティング方式に対応した製品と、ルアーロック方式に対応した製品とを供給することができる。
【0003】
図1に、このタイプの雌ねじつきスリーブ2(断面図で示す)及びキャップ3を先端に取り付けた、広く使用されているタイプのルアーロックシリンジを示す。図において、4は後方から押されてシリンジ1内を前進するガスケット、5はシリンジ1内に封入された注射液である。図2に、上記ルアーロックシリンジの先端部の拡大図を示す。図2に示すように、スリーブ2は、シリンジ1の先端のオスルアーの根元の括れ6の周りに嵌めることにより取り付けられている。
【0004】
この従来のルアーロックシリンジ、スリーブ2を、シリンジ1のオスルアーの根元の括れ6の周りに嵌めることにより取り付ける方式であり、このため、キャップ3がシリンジ1の先端のオスルアーに装着されていると、スリーブ2を取り付けることができない。一方、シリンジ1内への注射液の充填のためには、予めキャップ3装着してシリンジ1の先端を塞いでおかなければならない。このため、スリーブ2は、シリンジ1の先端にキャップ3を装着するに先立って、従って必然的に、シリンジ1に注射液を充填するに先立って、シリンジ1の先端に取り付けておく必要がある。
【0005】
注射剤は無菌状態で供給されなければならないため、シリンジ1内への注射液の充填は無菌環境(無菌室)で、無菌のシリンジに対して行う必要がある。シリンジ1、キャップ3及びガスケット4は、従って、予め滅菌され、無菌状態を維持したまま無菌室内に搬入されなければならない。上記のように、従来のルアーロックシリンジにおいては、注射液の充填は、スリーブ2を取り付けたシリンジ1に対して行われるため、スリーブ2もまた、予め滅菌した状態で無菌室に搬入される必要がある。このような背景から、従来、ルアーロックシリンジへの注射液充填に際しては、次の2通りの手順で無菌室内への資材搬入が行われてきた。
(1)雌ねじつきスリーブを取り付けたシリンジと、キャップ(単独又はシリンジに装着した状態)と、ガスケットとを、無菌の薬液充填室に搬入する。
(2)シリンジ、雌ねじつきスリーブ、キャップ及びガスケットを、全て別部品として無菌の薬液充填室に搬入する。
【0006】
上記手順(1)では、搬入に先立ち、シリンジに予め雌ねじつきスリーブ(又は更にキャップ)を取り付けたものを滅菌しなければならない。シリンジ自体は、ガラス製であれば簡便な乾熱滅菌が可能であるが、プラスチック製の雌ねじつきスリーブが取り付けられておりこれに耐えないため、ガス滅菌、オートクレーブ滅菌、ガンマー線滅菌又は電子線滅菌が用いられる。何れの滅菌方法を採用する場合も、滅菌処理前におけるシリンジ先端へのスリーブの取り付け(又は更にキャップの装着)は、菌の付着が起こらないような環境で行わなければならず、このためにかかるコストが大きい。
【0007】
上記手順(2)では、滅菌前の部品の組み立てが不要であり、各部品を全て別々に滅菌できる点では好ましいが、滅菌後の無菌性を維持したまま無菌室内へ搬入すべき部品点数が多く、無菌性の管理にコストがかかる。また、注射液充填前に先ず、無菌室内でシリンジ先端に雌ねじつきスリーブを嵌める工程が置かれるが、そのために用いる機械類やその部品の滅菌、再組み立てを要し、全体的な生産効率を高めにくい。またスリーブを嵌める際にオスルアーの根元の破断やスリーブの破損が生じ易く、これらが生じた場合や両者の嵌合不良があった場合等に、無菌室という特殊環境下でのラインの清掃や機械調整作業は困難を極め、生産性を著しく低下させることになる。
【0008】
ルアー先のシリンジと他の部材との組み合わせでルアーロック方式に適合した注射器を与えるものとしては、更に、先端にねじ筒部分を設けた円筒状の注射器本体(ホルダー)に円筒状のアンプルを挿入し、アンプル先端側を、オスルアーの根元の係合円錐部に対して注射器本体の円錐状孔に嵌めることにより固定し、アンプルの後端側を取り外し可能な固定スリーブにより固定した注射器が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この注射器においても、オスルアーの根元でホルダーと(従ってねじ筒部分と)アンプル(すなわちシリンジ)とを固定しているため、シリンジの先端にキャップをした後では注射器本体に挿入することが不可能である。従って、予めホルダー内にシリンジを挿入した上で、ホルダーの先端側に位置するオスルアーにキャップをして初めて注射液の充填が可能となる。このため、上記(1)、(2)の手順について上に述べた問題点がそのまま当てはまる。
【0009】
ルアー先のシリンジとホルダーとの組み合わせでルアーロック方式に適合させるホルダーとして、後端に指掛け用の突片を設けたシリンジを用い、該突片をホルダーの基端側に挟んで固定するものが知られている(特許文献3参照)。しかしながら、現在汎用されている指掛け用突片を有するシリンジでは、突片の厚みやシリンジ胴部の長さに種々のタイプやばらつきがあり、突片をシリンジ保持のための要素として利用すると、保持を不安定化させる原因となると共に、ホルダー内でのシリンジ先端の位置のばらつきも起こり易くなる。
【0010】
上記のように、従来のルアーロックシリンジでは、部品の滅菌から及び注射液の充填までの生産工程における生産効率が高め難く、全体の生産コストの上昇要因となっていた。
【0011】
上記の問題のほかに、ルアー先のシリンジを結合させるべき相手方接続器具のうちに、ルアーロック方式に対応しておらず、雌ねじつきスリーブと干渉して結合できないものがある。それらの器具とシリンジを結合させる場合、オスルアーのキャップを外し、ペンチ等を用いて、シリンジの先端から雌ねじつきスリーブを無理やりもぎ取るということが日常的に行われているが、これに伴い、オスルアーの破断や先端の汚染などの問題が頻繁に生じていた。この点、上記特許文献2又は3に記載の注射器又はホルダーは、更に、先端のねじつき部分を除去すらできず、しかもキャップを脱落させずに注射器本体からアンプル(シリンジ)を抜き取ることも不可能なため、露出したオスルアーしか結合させられない相手方接続器具には、全く使用できないという問題もあった。
【特許文献1】米国特許第6250052号公報
【特許文献2】特公平1−56783号公報
【特許文献3】特開平10−155905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記背景の下で、本発明の第1の目的は、従来のルアーロックシリンジの生産における、構成部品の滅菌から注射液充填までの工程の煩雑さを改善し、生産効率を高めコストを低減させることを可能にする、ルアーロック方式適合のシリンジホルダー、及び該ホルダーとこれに保持されたシリンジとを含んでなる、注射器を提供することにある。
加えて、本発明の第2の目的は、ルアーロック方式に対応していない装置のメスルアーにも無理なく結合させることができるルアーロック方式適合のシリンジホルダー、及びこれに保持されたシリンジを含んでなる注射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的のために検討の結果、本発明者は、従来のようなオスルアーの根元に取り付ける雌ねじつきスリーブではなく、先端にキャップを装着した状態でシリンジを装填することのできる概略円筒状の胴部を備えたシリンジホルダーであって、ルアーロック方式に対応した雌ねじをつきスリーブを、胴部の先端に一体に備えたものが、上記第1の目的を達成できることを見出した。更に本発明者は、そのようなシリンジホルダーであれば、シリンジ装填後にも先端部の分離除去が可能な構成とすることもでき、それにより、ルアーロック方式非対応型の接続器具のメスルアーに対しても、オスルアーの破断や汚染の懸念なく結合させることができることも見出した。本発明は、これらの着想に基づき、更に検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明は以下を提供するものである。
【0014】
1.先端のオスルアーにキャップを装着した円筒状のシリンジを挿入して保持するための、開放した前端及び開放した後端を有する概略円筒状の胴部と該胴部の後端寄りの外周から側方へ突出した指掛け片とを含むシリンジホルダーであって、
該胴部の前端の内周面に、シリンジの先端側外周縁に当接してシリンジの前進を阻止するストッパー手段を備え、
該胴部の前端から前方へ、シリンジ先端のオスルアー及びこれに装着されたキャップの周りを取り囲むねじ山を備えた雌ねじつきスリーブが延びており、
該胴部の後端に、これを覆い且つシリンジの後端側外周縁に当接して後退を阻止する後端キャップであってシリンジのガスケットに結合されるピストンロッドを通す穴を有する後端キャップを、備えたものである、
シリンジホルダー。
2.該ストッパー手段が、該シリンジホルダー内へのシリンジの挿入に際してキャップの通過を阻止しないように形状及び寸法が与えられているものである、上記1のシリンジホルダー。
3.該ストッパー手段が、該胴部の内周面からの内方隆起より構成されるものである、上記1又は2のシリンジホルダー。
4.該ストッパー手段が、該雌ねじつきスリーブのねじ山の先端によって規定される円筒面より内側には突出していないものである、上記1ないし3の何れかのシリンジホルダー。
5.該後端キャップが、該胴部の後端付近の外周面と該後端キャップの内周面との螺合により該胴部の後端に取り付けられるものである、上記1ないし4の何れかのシリンジホルダー。
6.該胴部が、該指掛け片より前方の部位で、互いに分離可能に結合されている前側部分及び後側部分から構成されているものである、上記1ないし5のシリンジホルダー。
7.該結合が、該前側部分の後部が該後側部分の全部を覆う形でなされているものである、上記6のシリンジホルダー。
8.該結合が、該前側部分の後部の内周面に形成された雌ねじと該後側部分の前部の外周面に形成された雄ねじの螺合によるものである、上記7のシリンジホルダー。
9.内部にガスケットが挿入され且つ先端のオスルアーにキャップが装着された円筒状のシリンジと、該シリンジを内部に保持した上記1ないし8の何れかのシリンジホルダーと、そして該シリンジホルダーの後端キャップの穴内へ挿入されて先端において該ガスケットに連結しているピストンロッドとを含んでなる、注射器。
10.該ピストンロッドと該ガスケットとの結合が、該ガスケットの後部に形成された雌ねじと、該ピストンロッドの先端に形成された雄ねじとの螺合によるものである、上記9の注射器。
11.該シリンジがその後端の縁において肉厚となって外径が増加しており、該外径より該シリンジホルダーの該胴部の後端の内径が小さく、該シリンジの後端が該シリンジホルダー内に入り込むことを該シリンジホルダーの該胴部の後端が阻止するものである、上記9又は10の注射器。
12.該後端キャップの該穴の内周面が該ピストンロッドの外周面に接しているものである、上記9ないし11の何れかの注射器。
13.該ピストンロッドの外周面の突起が形成されており、該突起の先端を含めた該ピストンロッドの外径が、該後端キャップの該穴の内径より大きいものであり、該穴が、突起が後方から前方へと該穴を乗り越えて通過することを許容するが、逆方向の通過に対しては、より大きい抵抗を生ずる形状を有するものである、上記9ないし12の何れかの注射器。
14.該突起の前面が該ピストンロッドの外周面に対して後方へ傾斜しており、該突起の後面が該ピストンロッドの外周面に対して該突起の前面よりも急な勾配で傾斜しているものである、上記13の注射器。
【発明の効果】
【0015】
上記の各構成になる本発明によれば、ルアー先にキャップをした状態のままシリンジをホルダーに取り付けることができるため、ホルダーへのシリンジの取り付けを注射液の充填後に行うことが可能となる。従って、無菌室内に搬入する必要のあるのは、キャップ、シリンジ及びガスケットだけであり、ホルダーへの取り付けは、注射液の充填後、充填されたシリンジを無菌室外へ搬出して、より緩やかな環境において行うことができる。従って、滅菌すべき部品点数を減らすことができると共に、滅菌前にルアーロック用の部品とシリンジとを組み立たてた状態にしておく必要がなく、また、個々に滅菌した両部品を充填前に無菌室内で組み立てる必要もない。従ってまた、滅菌処理前の準備作業から滅菌操作及び注射液充填と組立の工程までの全体の流れにおいて、生産効率大きく改善することができる。
【0016】
また、上記6ないし8の構成を備えた本発明によれば、ルアーロック方式に対応していない相手方接続器具にシリンジを接続する場合でも、シリンジ先端にキャップを装着したままホルダーの前側部分を後側部分から分離して除去し、シリンジのオスルアーを露出させることができる。従って、注射器をルアーロック方式から単なるルアーフィッティング方式へと変更でき、しかもこの変更に際してシリンジ先端の汚染や破断を伴うおそれがないため、安全且つ確実な接続が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において使用されるシリンジは、ルアー先の(すなわち先端がオスルアーの形態の)、円筒状のものである。主として少量の注射液の注射に用いられるものが、予め注射液を充填し先端のキャップと筒内のガスケットによって封入した形で広く用いられている。具体的な各種シリンジの寸法規格に対応させて、本発明のシリンジホルダーの長さ、内径、及びシリンジの先端側外周縁に当接させるストッパー手段の寸法を決定すればよい。
【0018】
ルアーロック方式における注射器の雌ねじ側の寸法は、国際規格(ISO594-2:Conical fittings with a 6% (Luer) taper for syringes, needles and certain other medical equipment- Part 2: Lock fittings)により定められており、雌ねじ内径は、7.2(公差上限:0mm、公差下限:−0.2mm)、雌ねじの谷の径は8(公差上限:0mm、公差下限:−0.1mm)である。本発明における雌ねじつきスリーブの寸法もこの規格に合わせることが好ましい。本発明においては、シリンジの先端に装着されたキャップが、シリンジホルダーを後方から前方の雌ねじつきスリーブ内へと、また前方の雌ねじつきスリーブ内から後方のシリンジホルダー胴部へと移動可能であるよう、キャップの最も太い部分の外径は、7mm以下とするのが好ましい。但し、キャップはシリンジのオスルアーを密封する関係上、従来のキャップと同様ゴム等の弾性材料で形成され、このため多少の変形が可能であるから、変形して無理なく通過できるものである限り、7mmより幾分大きな外径を持つことも許容される。
【0019】
シリンジホルダーに備えられるストッパー手段は、これを越えてシリンジが前進できないよう、シリンジの先端側外周縁に当接する内方へ隆起した面より構成される。そのような面を提供するものとして、1個又は同一円周上に2個以上配列された内方への突起、環状の突起、テーパ状の内壁等が挙げられるが、シリンジの前進を確実に阻止でき且つキャップの通過を許容するものである限り、ストッパー手段の寸法及び形状は適宜であってよい。製造上の簡便さの観点からは、ストッパー手段は、環状の内方隆起とするのが好ましい。雌ねじつきスリーブを通過できる全てのキャップがストッパー手段をも通過できることが便利であり、一層好ましい。これを保証する一方法は、雌ねじつきスリーブのねじ山の先端に一致する円筒面より内側には突出しないようにストッパー手段の寸法を限定することである。シリンジホルダーを製造する上で最も簡便な一形態は、ストッパー手段を、雌ねじつきスリーブのねじ山の先端に同一の高さの環状隆起としたものである。
【0020】
シリンジホルダーの後端キャップは、シリンジを収容したシリンジホルダーの胴部の後端に露出しているシリンジの後端縁を後退しないよう押さえることができるものであればよい。後端キャップの固定は、例えばシリンジの胴部の後端付近の外周に凹(又は凸)部を設け後端キャップの凸(又は凹)部を設けて、両者がスナップ式で嵌まるようにして行ってもよく、また、両者にそれぞれねじを形成し相互に螺着するようにして行ってもよい。また、ピストンロッドを通すために後端キャップに設けられる穴の内径は、ピストンロッドの外径より実質的に大きくてもよいが、ピストンロッドの外周面に接するようにほぼ同径とした方が、ピストンロッドの軸が安定するから好ましい。
【0021】
シリンジホルダーの指掛け片は、注射時に指を掛けてシリンジホルダーを保持することができるようにシリンジホルダーの胴部の後端寄りの外周に張り出した構造である限り、特に限定はない。外周の全体を取巻く円板状の突起、相互に反対方向へ延びる板状又は棒状の突起等が例として挙げられるが、それらに限定されない。
【0022】
シリンジホルダーの胴部は、その中にシリンジを挿入しておけることのできるものであればよいから、一体のものでもよく、2つ又はそれ以上の部分を結合し、所望により分離することができるものとしてもよい。前側部分と後側部分とを螺着により又はスナップ式等で、分離可能に結合して胴部を構成しておけば、シリンジを連結しようとする相手方接続器具が、ルアーロック方式のシリンジを構造上受け付けない場合であっても、胴部の前側部分を後側部分から簡単に分離除去して単なるルアーフィッティング方式のシリンジとして使用することができる。またその際、シリンジにキャップを装着したままでシリンジホルダーの胴部の前側部分を取り外すことができるため、シリンジの先端が汚染されるおそれがなく、シリンジ先端を破断するおそれもない。なお、前側部分を除去したとき後側部分に指掛け片が残ることが好ましいから、前側部分は指掛け片より前方で後側部分と結合していることが好ましい。
【0023】
また本発明は、先端にキャップを装着し内部にガスケットが挿入されたシリンジをシリンジホルダーに保持し、ガスケットにピストンロッドが連結された形態の注射器をも提供する。ピストンロッドとガスケットとの連結の方法は任意である。ガスケットの後部に設けられた雌ねじにピストンロッドの先端に設けられた雄ねじを挿入してピストンロッドを回し螺着する方式が慣用されており、本発明においても同じ方式の採用が好ましい。
【0024】
シリンジホルダーの胴部が互いに分離可能に結合された前側部分と後側部分とから構成される場合、前側部分を除去して使用する場合に備えて、シリンジホルダーの胴部の後側部分が、当該部分と後端キャップとのみによってシリンジを保持できるようにしておくことが好ましい。このためには、例えばシリンジホルダーの胴部の内周面がシリンジの外周面と実質的に密着するよう、シリンジホルダーの胴部の内径とシリンジの外径とをほぼ等しい寸法としておけばよい。シリンジホルダーに装填して用いるシリンジは、通常、寸法の小さいガラス製のものであり、破損し易いガラス末端の強度を高める必要上、後端の縁が肉厚となっており、その結果、その部分の外径が他の部分の外径より増加している。従って、シリンジホルダーの胴部の内径をシリンジの(後端以外の)外径とほぼ等しくし、シリンジの外周面がシリンジホルダーの胴部の内周面に実質的に密着するようにしておくことで、シリンジホルダーの胴部の内径をシリンジの後端の外径より小さくすることができ、それにより、シリンジの後端がシリンジホルダーの胴部内に入り込むことが阻止される。こうして、前方への移動を阻止されたシリンジは、後端キャップとの間で後退も阻止されるため、シリンジホルダーに対し定位置に保持されることとなる。但し、シリンジ後端の外径がシリンジホルダーの胴部の後端の内径より大きければよいから、胴部の内径はシリンジの(末端部分以外の)外径より多少大きくても差し支えない。
【0025】
必須ではないが、ピストンロッドには、例えば注射の際の血管確保の確認ためのフラッシュバック操作や混注等、ピストンロッドを引く操作が必要なとき、ピストンロッドを不用意に引き過ぎることのないようにしておくことが好ましい。そのためには、ピストンロッドの外周面に、組み立てに際したピストンロッドの挿入は妨げないが、引き抜きには、大きな抵抗感を使用者に与える形状の突起を設けておけばよく、それにより過度の引き抜きをしようとする使用者に警告を発することができる。そのような突起の高さは、突起の先端を含めたピストンロッドの外径が、後端キャップの該穴の内径より大きくなるような高さであるが、注射器の組み立て時にピストンの挿入(前進)を許す程度の高さに止められる。ここに、「突起の先端を含めたピストンロッドの外径」とは、ピストンロッドの、突起の先端を通る横断面において、これに外接する円の直径をいう。突起の先端が後端キャップの穴の縁に当たっても、僅かな干渉であれば及び/又はキャップを柔軟性のある素材、例えば軟質のプラスチックで形成しておけば、素材の弾性により比較的容易に穴の縁を乗り越えて前進することができる。形状における突起と穴の縁との関係は、穴の縁を通る突起の前進に対する抵抗が相対的に小さく、後退に対する抵抗が相対的に大きくなるようなものとするのが好ましい。そのような特徴を有する具体的形状は、当業者が適宜設計できる事項である。好ましい形態の第1の例は、ピストンロッドの外周面に対して突起の全面が後方へ傾斜しており、ピストンロッドの外周面に対して突起の後面が相対的に急傾斜であり、例えば概略垂直であるか又は更に後方へ傾斜しているものである。好ましい形態の第2の例は、突起の全面及び後面の傾斜は同等であるが、後端キャップの穴の縁が、その縦断面において後方へ向けて内径が広がる漏斗状の形態である。これらの形状の何れを採用してもよく、両方を組み合わせてもよいが、第1の例に示した突起形状を採用するのが簡便であり特に好ましい。
【0026】
本発明のシリンジホルダーを形成する材料は特に限定されないが、胴部、雌ねじつきスリーブ及び指掛け片を硬質のプラスチックで形成し、後端キャップを相対的に軟質のプラスチックで形成するのが好ましい。相対的に軟質のプラスチックの使用は、その柔軟性のため、シリンジの後端を押さえる力を適度の範囲内に収め且つ保持を安定化させるのに役立つと共に、ピストンロッドに突起を設ける場合には、前記した傾斜のもたらす効果を高めることができる。また、装填されたシリンジがシリンジホルダーを通して外側から見えるよう、シリンジホルダーの胴部が透明な材料(ポリカーボネート等)で形成されていることが特に好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、典型的な実施例を提示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
〔実施例1〕
図3は、本発明において用いられる円筒状のガラス製シリンジ11、合成ゴム製のキャップ13及び合成ゴム製のガスケット14を示す側面図である。12は、シリンジの先端のオスルアーである。キャップ13において、Dはキャップの最大外径を示し、本実施例では7mmである。図4は、図3に示した各部品を組み立てた状態を示す。15は、充填された注射液である。
【0028】
図5は、組立て前のシリンジホルダー及び、注射液15を充填したシリンジ11を本発明のシリンジホルダーに装填し、更にピストンロッドを取り付けて注射器を組み立てる際の相互の位置関係を示す組立図である。図において、21は、シリンジホルダーの一部をなす胴部であり、ポリカーボネートで形成されている。胴部21の前端には、胴部21と一体成形された雌ねじつきスリーブ23が延びており、24はこれを補強しているリブである。胴部21の後端寄りの外周からは、胴部21と一体成形された指掛け片25が張り出している。指掛け片25の前面には、滑り止め目的の2本の平行な突条26が形成されている。シリンジ11は、キャップ13を装着したまま、シリンジの先端のオスルアーが雌ねじつきスリーブ23の中に収まり、シリンジ11の前端側外周縁が胴部21の先端部の内面に当たるまで、胴部21の後端から挿入され、次いで後端キャップ27が胴部21の後端に被せられる。後端キャップ27は、内側に雌ねじが形成してあり、これを胴部21の後端付近にある雄ねじ29上に螺着することによって、シリンジ11の後端を前方へと押した状態で胴部21の後端に固定される。こうしてシリンジ11は所定位置に、前後移動不能に固定される。後端キャップ27には中央に貫通穴が設けられており、それを通してピストンロッド31が挿入される。ピストンロッド31の先端には雄ねじ33が形成されており、雄ねじ33は、シリンジ11内のガスケット14の後部に形成された雌ねじ(図示せず)に当て、ピストンロッド31を回すことによってこれに螺着される。図において、35は突起であり、相互にピストンロッド31の反対側の外周面に位置して、2個が設けられている。各突起35は、縦方向断面において全面が後方へ傾斜してピストンロッド31の表面に対して約30°の斜面を形成しており、後面はピストンロッド31の表面に対して垂直である。
【0029】
図6は、組み立てられた注射器を示す、一部(シリンジホルダー)を断面図とした側面図である。図に見られるとおり、シリンジ11は、その前端側外周縁40において、シリンジホルダーの胴部21の前端にある内方への環状隆起面42に当接しており、図に示した位置よりも前方へは移動できない。また、シリンジ11の後端44は、後端キャップ27の内周面に形成された雌ねじ37を胴部21の後端付近の外周の雄ねじ29に螺着して締めることにより、前方へと押し付けられている。雌ねじつきスリーブ23の内側に形成されている雌ねじ45の内径は、キャップ13の最大径である摘み部47の外径と同様、7mmである。また、シリンジホルダーの胴部21の前端にある内方への環状隆起面42は、隆起の先端の高さが雌ねじ45の先端の高さと一致させてある。このため、注射器の組立て時に、キャップ13は、シリンジホルダーの胴部21から雌ねじつきスリーブ23内へと無理なく通過できる。
【0030】
〔実施例2〕
図7は、本発明の別の実施例において、注射器を組み立てた状態の、一部を断面とした前端側端面図(a)及び側面図(b)である。図において、シリンジ11、キャップ13、ガスケット14、ピストンロッド31は、実施例1のものと同一である。本実施例は、シリンジホルダーの胴部は、前側部分50と後側部分52とから構成されている点において、実施例1と相違する。指掛け片25は、胴部の後側部分52と一体成形されており、指掛け片25の前側において胴部の前側部分50が胴部の後側部分52上に螺着されている。シリンジ11はその後端44が肉厚となっており、その結果外径が増加しているが、シリンジホルダーの胴部の後側部分52の後端の内径は、シリンジ11の後端の外径より小さく作られており、このため、シリンジ11は、図に示した位置以上に前進することができない。従って、シリンジ11は、その後端の縁において、シリンジホルダーの胴部の後側部分52と後端キャップ27との間に挟まれて保持されている。同時に、シリンジ11の先端側外周縁40も、実施例1の場合と同様に、シリンジホルダーの胴部の前側部分50の前端にある内方への環状隆起面55に当接している。図8は、本実施例の側面図(シリンジホルダーの胴部から透けて見えるシリンジは図示せず)であり、図9は、図8の状態から、シリンジ11にキャップ13を装着したまま、胴部の前側部分50を抜き取った状態の側面図である。こうして、本実施例の注射器は、ルアーロック方式のみならず、単なるルアーフィッティング方式のタイプのオスルアーしか接続できないタイプの接続器具にも、先端部の汚染を伴うことなく、簡単に接続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、製造における滅菌工程の煩雑さを改善し、コスト低下と生産性向上を可能にするルアーロック方式の注射器及びそのためのシリンジホルダーとして有用である。また本発明のうち特定のタイプのものは、注射器の接続相の手接続器具が、ルアーロック方式の注射器を接続できないものであっても、医療現場でこれに簡単且つ安全に接続することを可能にする注射器として、更に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来のルアーロックシリンジの側面図。
【図2】従来のルアーロックシリンジの先端部の拡大図。
【図3】シリンジ、キャップ及びガスケットを示す側面図。
【図4】シリンジ、キャップ及びガスケットを組み立てた状態示す側面図。
【図5】組立て前のシリンジホルダー及び、シリンジ及びシリンジホルダーの相互の位置関係を示す組立図。
【図6】組み立てられた注射器を示す、一部を断面図とした側面図。
【図7】組み立てられた第2実施例の注射器を示す、一部を断面図とした側面図。
【図8】組み立てられた第2実施例の注射器の側面図。
【図9】前側部分を抜き取った状態の第2実施例の注射器の側面図。
【符号の説明】
【0033】
1=シリンジ、2=雌ねじつきスリーブ、3=キャップ、4=ガスケット、5=注射液、6=括れ、11=シリンジ、12=オスルアー、13=キャップ、14=ガスケット、15=注射液、21=胴部、23=雌ねじつきスリーブ、24=リブ、25=指掛け片、26=突条、27=末端キャップ、29=雄ねじ、31=ピストンロッド、33=雄ねじ、35=突起、37=雌ねじ、40=先端側外周縁、42=環状隆起面、44=シリンジ後端、45=雌ねじ、47=摘み部、50=前側部分、52=後側部分、55=環状隆起面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端のオスルアーにキャップを装着した円筒状のシリンジを挿入して保持するための、開放した前端及び開放した後端を有する概略円筒状の胴部と該胴部の後端寄りの外周から側方へ突出した指掛け片とを含むシリンジホルダーであって、
該胴部の前端の内周面に、シリンジの先端側外周縁に当接してシリンジの前進を阻止するストッパー手段を備え、
該胴部の前端から前方へ、シリンジ先端のオスルアー及びこれに装着されたキャップの周りを取り囲むねじ山を備えた雌ねじつきスリーブが延びており、
該胴部の後端に、これを覆い且つシリンジの後端側外周縁に当接して後退を阻止する後端キャップであってシリンジのガスケットに結合されるピストンロッドを通す穴を有する後端キャップを、備えたものである、
シリンジホルダー。
【請求項2】
該ストッパー手段が、該シリンジホルダー内へのシリンジの挿入に際してキャップの通過を阻止しないように形状及び寸法が与えられているものである、請求項1のシリンジホルダー。
【請求項3】
該ストッパー手段が、該胴部の内周面からの内方隆起より構成されるものである、請求項1又は2のシリンジホルダー。
【請求項4】
該ストッパー手段が、該雌ねじつきスリーブのねじ山の先端によって規定される円筒面より内側には突出していないものである、請求項1ないし3の何れかのシリンジホルダー。
【請求項5】
該後端キャップが、該胴部の後端付近の外周面と該後端キャップの内周面との螺合により該胴部の後端に取り付けられるものである、請求項1ないし4の何れかのシリンジホルダー。
【請求項6】
該胴部が、該指掛け片より前方の部位で、互いに分離可能に結合されている前側部分及び後側部分から構成されているものである、請求項1ないし5のシリンジホルダー。
【請求項7】
該結合が、該前側部分の後部が該後側部分の全部を覆う形でなされているものである、請求項6のシリンジホルダー。
【請求項8】
該結合が、該前側部分の後部の内周面に形成された雌ねじと該後側部分の前部の外周面に形成された雄ねじの螺合によるものである、請求項6のシリンジホルダー。
【請求項9】
内部にガスケットが挿入され且つ先端のオスルアーにキャップが装着された円筒状のシリンジと、該シリンジを内部に保持した請求項1ないし8の何れかのシリンジホルダーと、そして該シリンジホルダーの後端キャップの穴内へ挿入されて先端において該ガスケットに連結しているピストンロッドとを含んでなる、注射器。
【請求項10】
該ピストンロッドと該ガスケットとの結合が、該ガスケットの後部に形成された雌ねじと、該ピストンロッドの先端に形成された雄ねじとの螺合によるものである、請求項の注射器。
【請求項11】
該シリンジがその後端の縁において肉厚となって外径が増加しており、該外径より該シリンジホルダーの該胴部の後端の内径が小さく、該シリンジの後端が該シリンジホルダー内に入り込むことを該シリンジホルダーの該胴部の後端が阻止するものである、請求項9又は10の注射器。
【請求項12】
該後端キャップの該穴の内周面が該ピストンロッドの外周面に接しているものである、請求項9ないし11の何れかの注射器。
【請求項13】
該ピストンロッドの外周面の突起が形成されており、該突起の先端を含めた該ピストンロッドの外径が、該後端キャップの該穴の内径より大きいものであり、該穴が、突起が後方から前方へと該穴を乗り越えて通過することを許容するが、逆方向の通過に対しては、より大きい抵抗を生ずる形状を有するものである、請求項9ないし12の何れかの注射器。
【請求項14】
該突起の前面が該ピストンロッドの外周面に対して後方へ傾斜しており、該突起の後面が該ピストンロッドの外周面に対して該突起の前面よりも急な勾配で傾斜しているものである、請求項13の注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−117379(P2007−117379A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313204(P2005−313204)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(591039540)前田産業株式会社 (9)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】