説明

シンクと天板の接合方法

【課題】接着層を限りなくゼロに近づけることができ、意匠性,清掃性が向上するシンクと天板の接合方法を提供する。
【解決手段】絞り加工により成形された金属製シンク3の上面外周のフランジ部3c上に天板1を接合する接合方法であって、フランジ部3cの下面に長尺当て材6を押圧させて、この長尺当て材6を接着などによりフランジ部3cに固定させることによってフランジ部3cの波うちを矯正した後に、このフランジ部3c上に天板1を接着等で接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンクのフランジ部上に天板を接合する接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシンクと天板の接合方法として、例えば特許文献1に開示されているように、基材上にパイプ材からなる取付部を介してシンクを配設し、シンク上に天板を載置するとともに、シンクと天板との間をコーキングして接合したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−21016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているものでは、シンク上に天板をコーキングして接合させているが、コーキングの層が厚いものとなり、シンクと天板との間に段ができやすく、また、コーキングの層が表に飛び出して、このコーキングの層が汚れやすく、見栄えが悪くなり、また、清掃性が悪くなるという問題点があった。
即ち、従来では、シンクは金属製であり、絞り加工により成形されるが、シンクを絞り加工する際に、シンクの上面外周のフランジ部には絞り加工による波うちが生じ、この波うったシンクのフランジ部上に天板を接合させるためには、波うち面に接着剤を入り込ませて接着することとなるため、接着層が厚くなり、シンクのフランジ部と天板との間に段ができやすくて清掃性が悪くなり、また、接着層が表に飛び出して露出し、変色等が生じて見栄えが悪くなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、段が生ずることがなく、接着層の厚みを限りなくゼロに近づけることのできるシンクと天板の接合方法の提供を目的とし、この目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明は、絞り加工により成形された金属製シンクの上面外周のフランジ部上に天板を接合する接合方法であって、前記フランジ部の下面に長尺当て材を押圧させて該長尺当て材を接着および/または溶接により前記フランジ部に固定させることにより該フランジ部の波うちを矯正した後に、前記天板を前記フランジ部に接合することを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、シンクのフランジ部の下面に長尺当て材を押圧させて、長尺当て材をフランジ部に接着或いは溶接により固定させ、フランジ部の波うちを矯正するものであるため、シンクのフランジ部には波うちがなくなりフラットな状態となり、このフランジ部の上面に天板を接合する際に接着層を限りなくゼロに近づけることができ、シンクと天板との間に段が生ずることがなく清掃性が良好なものとなり、また、接着層が表側に飛び出すこともなく、汚れが溜まる部分が極めて少なくなり、意匠性の低下を最小限に抑えることができる。
【0007】
また、本発明のシンクと天板の接合方法において、前記絞り加工時に、前記フランジ部を水平面に対し外側に向かって下傾させて成形することもできる。
こうすれば、シンクのフランジ部上に天板を接合させる際に、天板がフランジ部の内側の部分で当接し、内側を支点として力が掛かるため、フランジ部に掛かる応力を緩和でき、しかも、フランジ部の外側の接着層の厚みを確保して接着強度を向上させることができるものとなる。
【0008】
また、本発明のシンクと天板の接合方法において、前記フランジ部の内端側に該フランジ部が露出する5mm〜20mmの露出面を形成させて前記天板を接合することもできる。
こうすれば、フランジ部の内端側に露出面が形成され、この露出面は指を入れやすく良好に掃除することができ、清掃性が向上するものとなる。また、露出面を形成させて天板を接合することで、シンク製造時に発生するシンクの寸法公差を良好に吸収することができる。
【0009】
また、本発明のフランジ部の内端側に露出面を形成させて天板を接合する方法において、前記天板の内端側に傾斜面を形成させ、該傾斜面と前記フランジ部の露出面間の角度が110°〜160°となるように設定することもできる。
こうすれば、天板に傾斜面が形成されているため、掃除を良好に行うことができ、露出面の清掃性が向上するものとなる。また、天板の傾斜面の先端が鋭利になりすぎることがなく、天板の傾斜面の先端が欠けるような事態が生じないものとなる。
【0010】
また、シンクと天板の接合方法において、水栓を立設させる水栓デッキ面が前記フランジ部と連続した同一高さの面となっている構成とすることもできる。
こうすれば、水栓のデッキ面とシンクのフランジ部が同一面となり、段差がなく、水栓の裏側の清掃性が向上するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シンクとコンロ上に天板が設けられたキッチンキャビネットの平面構成図である。
【図2】図1のシンクの部分の拡大平面構成図である。
【図3】図2の幅方向中央部で切断した断面拡大構成図である。
【図4】図3の要部を更に拡大した拡大断面構成図である。
【図5】シンクのフランジ部の波うちを矯正する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、キッチンキャビネットの平面構成図であり、キッチンキャビネットにはシンク3とコンロ4が設けられており、このシンク3とコンロ4の部分に開口2,2が形成された天板1が、シンク3とコンロ4上に接合されている。
【0013】
図2のシンクの部分の平面拡大図で、また、図3の断面拡大図で示すように、天板1の開口2の内周側にシンク3のフランジ部の露出面3Pが形成されて、シンク3のフランジ部3c上に天板1が接着剤を介して接合されるものである。
天板1は、人造大理石製、或いは、樹脂やタイルを表面に被覆した木製のものなどであり、天板1の水平部1aには前述した開口2が上下に貫通して形成されているとともに、天板の水平部1aの前端側には垂下状に前垂れ部1bが形成されており、水平部1aの後端側には一体状に立ち上げてバックガード部1cが形成され、バックガード部1cの上端には後方側へ水平に後方水平部1dが形成されている。
また、図4の要部拡大図で示すように、天板1の水平部1aの開口2端側には傾斜状に傾斜面1eが形成されている。
【0014】
シンク3はステンレス等の金属製であり、絞り加工により成形されたもので、底壁3aには排水口5が形成されており、底壁3aの外周から一体状に立ち上げて内壁3bが形成され、内壁3bの上端で外側へ略水平状に延びるフランジ部3cが形成され、フランジ部3cの外周端には垂下状に垂下片3dが一体形成されている。
なお、内壁3bとフランジ部3c間はアール状に形成したアール部3gとなっている。また、シンク3の後方側の内壁3bの内側には、水栓15を立設させることのできる水栓デッキ面3eが形成されており、この水栓デッキ面3eには水栓15の本体部15aが通る水栓取付孔3fが形成されている。この水栓デッキ面3eはフランジ部3cから連続してフランジ部3cと同一高さの面に形成されている。そのため、水栓のデッキ面3eとシンクのフランジ部3cとの間に段差がなく、水栓15の裏側の清掃性が向上するものとなる。
【0015】
本例では、天板1をシンク3のフランジ部3c上に接合する前に、シンクのフランジ部3cの波うちを矯正する作業が行われる。
図5のように、シンク3を裏向けにして、シンク3のフランジ部3cに上方よりアルミ角パイプ6を接着剤8を介在させて貼り付け、例えばシャコマン7等の工具を用いてアルミ角パイプ6をフランジ部3cに強く押圧させて、接着剤8が乾燥するまでこの状態に維持して、シンクのフランジ部3cの下面に接着剤8を介してアルミ角パイプ6を固定させる。
フランジ部3cの全周の辺に、それぞれアルミ角パイプ6をシャコマン7等で押圧して接着させることで、絞り加工時に形成されたフランジ部3cの波うちを矯正することができ、フランジ部3cを波うちのないフラットな形状にすることができる。
【0016】
なお、本例では、アルミ角パイプ6を用いているが、アルミ角パイプに代えて断面L字状や無垢状の長尺当て材をフランジ部3cの下面に押圧させて接着固定させることによっても、フランジ部3cの波うちを矯正することができるものである。
なお、接着剤8に代えて、或いは接着剤8と共に、溶接によりアルミ角パイプ6等をフランジ部3cに固定させることにより、確実にフランジ部3cの波うちを矯正することができるものである。
【0017】
なお、接着剤8としては、ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,シリコン等を使用することができる。
なお、アルミ角パイプ6等をフランジ部3cの下面に押圧する際に、フランジ部3cの上面側に天板1を挟み込んでシャコマン7等で押圧しても良い。
【0018】
このようにフランジ部3cの波うちを矯正した後に、フランジ部3c上に天板1の水平部1aを接着剤9で接合させるのであるが、既にフランジ部3cの波うちは矯正されているため、フランジ部3cはフラットな状態であり、接着剤9の層を極力ゼロに近づけて天板1の水平部1aをフランジ部3c上に接合させることが可能となる。
【0019】
天板1を接合させる際に、図3および図4に示すように、天板1の傾斜面1eの先端とシンク3の内壁3b間の距離aが5〜20mm、好ましくは12mmとなるようにして、フランジ部3c上に天板1の水平部1aを接合させる。
即ち、図4に示すように、天板1の接合状態では、フランジ部3cの内壁3b側に、露出した露出面3Pが形成されるものであり、この露出面3Pが5〜20mmであれば、指を入れて良好にこの露出面3Pを掃除することができるものとなる。
【0020】
なお、天板1の接合状態で、露出面3Pと天板の傾斜面1eとの成す角度αが110°〜160°、好ましくは145°となるように設定しておけば、この部分の掃除がよりしやすいものとなり、清掃性が向上するものとなる。しかも傾斜面1eの先端が鋭利になりすぎることもないため、傾斜面1eの先端に欠けが生ずることもない。
なお、この接着剤9も、前記接着剤8と同様のウレタン樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,シリコン等を用いることができる。
【0021】
なお、シンク3の絞り加工時に、フランジ部3cが水平面に対して、図4中bで示す3°以下になるように外側へ向かって下傾状に形成しておけば、天板1をフランジ部3cに接合させる際に、先ず天板1の傾斜面1eの先端がフランジ部3cに当接し、傾斜面1eの先端を支点として天板1をフランジ部3cに押し付けることができ、フランジ部3cに掛かる応力を緩和でき、しかも、傾斜面1eの先端から外側に向けて接着剤9の厚みを確保することができるため、天板1のフランジ部3cに対する接合強度を高めることができるものとなる。
なお、傾斜面1eの先端側ではフランジ部3c上にほぼ当接状態となり、接着剤9の厚みはほぼゼロにすることができ、接着剤9が露出面3P側に露出する面積が極めて少なくなり、汚れや変色による見栄え性の悪化を少なくできるものである。
【0022】
なお、図4中10はシリコンであり、シンクの垂下片3dと天板1間に充填されて止水性能を確保するものである。また、図中11はバックアップ用に流し込まれて形成されるウレタン層である。また、図中12は補強木である。
この補強木12は、図3のように天板1の後端側にも設けられ、また、別の補強木13がバックガード部1cの後面に設けられる。また、図3中14はキャビネットの幕板である。また、図中15bは水栓15の吐水口であり、15cは水栓のハンドルである。
【符号の説明】
【0023】
1 天板
1a 水平部
1b 前垂れ部
1c バックガード部
1e 傾斜面
2 開口
3 シンク
3b 内壁
3c フランジ部
3d 垂下片
3e 水栓デッキ面
3P 露出面
6 アルミ角パイプ(長尺当て材)
7 シャコマン
8,9 接着剤
15 水栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り加工により成形された金属製シンクの上面外周のフランジ部上に天板を接合する接合方法であって、
前記フランジ部の下面に長尺当て材を押圧させて該長尺当て材を接着および/または溶接により前記フランジ部に固定させることにより該フランジ部の波うちを矯正した後に、前記天板を前記フランジ部に接合する
ことを特徴とするシンクと天板の接合方法。
【請求項2】
前記絞り加工時に、前記フランジ部を水平面に対し外側に向かって下傾させて成形することを特徴とする請求項1に記載のシンクと天板の接合方法。
【請求項3】
前記フランジ部の内端側に該フランジ部が露出する5mm〜20mmの露出面を形成させて前記天板を接合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシンクと天板の接合方法。
【請求項4】
前記天板の内端側に傾斜面を形成させ、該傾斜面と前記フランジ部の露出面間の角度が110°〜160°となるように設定したことを特徴とする請求項3に記載のシンクと天板の接合方法。
【請求項5】
水栓を立設させる水栓デッキ面が前記フランジ部と連続した同一高さの面となっていることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載のシンクと天板の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227460(P2010−227460A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80663(P2009−80663)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】