説明

シングルレバー水栓

【課題】メッシュ部材のような消音効果のための別部品を組み込まなくても効果的に通水音に対し消音効果を発揮するシングルレバー水栓を提供する。
【解決手段】シングルレバー水栓において、単一の部材にて構成した可動弁体48の混合室66を、摺動面から立ち上がる縦の壁114と天井部116とを有する形状をなし、そして縦の壁114の内面に全周に亘って摺動面側の下端から上向きに延びる複数の凸条118を縦の壁114の内面に沿って設けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はシングルレバー水栓に関し、詳しくは通水音の低減のための技術手段に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一のレバーハンドルの操作によって、吐止水と吐水量調節及び吐水の温度調節を行うシングルレバー水栓が広く使用されている。
このシングルレバー水栓は、固定弁体と、レバーハンドルの操作により固定弁体上を摺動する可動弁体とを有し、固定弁体の貫通の水の流入口,湯の流入口からの水,湯を可動弁体に設けた混合室に流入させて混合し、混合室から混合水を固定弁体の貫通の流出口から流出させる。
このシングルレバー水栓において、可動弁体側の混合室は、可動弁体における摺動面から立ち上がる縦の壁と天井部とを有する形状とされている。
【0003】
このシングルレバー水栓にあっては、吐水時に弁部を通過する水によって通水音が生ずることがあり、これが従来から問題視されていた。
このような通水音が生じると使用者に不快感を与えてしまう。
【0004】
この問題に対する対策として、従来、可動弁体の混合室にこれを横切る状態にメッシュ部材を設け、そのメッシュ部材の整流作用により、通水音の発生を防止ないし低減することが行われている。
例えば下記特許文献1には、対策の一例としてこのようにメッシュ部材を設けることが従来行われている点の指摘がなされている。
【0005】
しかしながらこのように可動弁体の混合室にメッシュ部材を取り付ける場合、部品としてのメッシュ部材が余分に必要となるのに加えて、このようなメッシュ部材を可動弁体の混合室に取り付ける作業が必要となり、且つその取付作業は面倒な作業となる。
【0006】
加えてこのようなメッシュ部材を可動弁体の混合室に設けた場合、微細な砂等の異物によってメッシュ部材が目詰まりを生じる問題があり、またメッシュ部材に付着した砂等が固定弁体と可動弁体との摺動面に噛み込んでしまって、通常セラミックディスクから成る固定弁体と可動弁体との摺動面が傷付けられてしまうといった問題が生ずる。
更にこのようなメッシュ部材を可動弁体に取り付ける場合、必然的に可動弁体及び固定弁体が大型化してしまう問題も生ずる。
尚可動弁体の混合室にこのようなメッシュ部材を設ける点については下記特許文献2にも開示されている。
【0007】
特許文献1には、通水音の防止ないし低減を目的として、上記メッシュ部材を可動弁体の混合室に設けるのに代えて、混合室の縦の壁から離れた位置において、混合室の天井部から薄板状をなす複数の整流体を混合室に向けて突出させる状態に垂下させるようになした点が開示されている。
但し本発明者が実験をしたところ、こうした手段では通水音の消音効果において十分ではなかった。
【0008】
またこのように天井部から垂下する形状で多数の突起を設けた場合、そこで水や湯等に含まれている砂等の異物が詰まりを生じ易い問題も有する。
尚このように混合室の天井部に通水音の消音の目的で複数の突起を設ける点については下記特許文献3にも開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平6−129553号公報
【特許文献2】特開2007−56983号公報
【特許文献3】特開昭53−114532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、メッシュ部材のような消音効果のための別部品を組み込まなくても効果的に通水音に対し消音効果を発揮するシングルレバー水栓を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
而して請求項1のものは、固定弁体と、レバーハンドルの操作により該固定弁体上を摺動する可動弁体とを有し、該固定弁体の貫通の水と湯の流入口からの水,湯を該可動弁体に設けた混合室に流入させて混合し、該混合室から混合水を該固定弁体の貫通の流出口から流出させるシングルレバー水栓において、前記混合室は、単一部材にて構成された前記可動弁体における摺動面から立ち上がる縦の壁と天井部とを有する形状をなしており、少なくとも前記水の流入口及び湯の流入口の側において、該混合室の該縦の壁の内面に、前記摺動面側の下端から上向きに延びる凸条又は凹条が該縦の壁の内面に沿って周方向に複数設けてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0012】
以上のように本発明は、少なくとも固定弁体における水,湯の流入口の側において、混合室の縦の壁の内面に可動弁体における摺動面側の下端から上向きに延びる凸条又は凹条を縦の壁の内面に沿って周方向に複数設けたものである。
【0013】
可動弁体の混合室に向って、固定弁体の水,湯の流入口を通り抜けた水,湯は、先ず可動弁体の摺動面、つまり可動弁体の底面に勢い良く当った後、混合室の入口つまり混合室の下端から混合室内に流れ込み、そこで圧力解放される。
【0014】
このとき、それまで整流状態であった水,湯の流れが、混合室に流入すると同時に乱流化し、そしてその乱流の発生と、上記の圧力解放による圧力低下とによって(現実に混合室の縦の壁近傍部分では圧力が大きく低下することが確認されている)キャビテーションが起り、これによる泡の発生と泡の破裂(破泡)とによって、上記の通水音が発生するものと考えられる。
【0015】
ここにおいて本発明は、水,湯が可動弁体の底面(摺動面)に当った後、混合室へと入り込む際の流動壁面となる混合室の縦の壁の内面に沿って、且つその下端から上向きに延びる形態で凸条又は凹条を周方向に複数設けたもので、このようにすることにより、通水音を効果的に防止ないし軽減できることを確認した。
【0016】
このような縦の複数の凸条又は凹条によって通水音を防止ないし軽減できるのは、混合室内に入り込み、縦の壁に沿って流れる水又は湯の流れに対し、それら複数の凸条又は凹条が流れを案内し整流化させる働きをなし、その結果として混合室内における流れの乱流化を抑制し、またこれに伴ってキャビテーションによる泡の発生と泡の破裂とを低減し、結果として通水音を効果的に防止ないし低減できるものと考えられる。
【0017】
本発明においては、混合室の縦の壁の内面に沿って凸条又は凹条を設けておくだけでよく、従来のようにメッシュ部材を混合室に設けなくても良いため、通水音低減のために別途の部材を特に必要としたり、これを可動弁体に組み付けたりする必要もない。
またそのメッシュ部材に付着した微細な砂等が可動弁体と固定弁体との摺動面に噛み込んで、それら弁体を傷付けてしまうといった問題も回避することができる。
またそのようなメッシュ部材を設けることによって、可動弁体及び固定弁体が大型化してしまう問題も解消することができる。
【0018】
混合室の縦の壁の下端は、固定弁体の流入口を通過し、可動弁体の底面に当った水,湯の流れが混合室に入り込んで乱流化する始まりの部位であり、従って流れの整流部となる凸条又は凹条を、その下端の位置から延出させておくことにより、混合室内に流れ込む水,湯の流れを初期から整流化し得て、混合室内における乱流化を効率高く抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はシングルレバー水栓で、12は水栓本体である。
水栓本体12は、取付穴14においてカウンタ16に取り付けられている。
水栓本体12は、その内部に後述の弁ユニット(弁カートリッジ)30を収容しており、また上部にはレバーハンドル18が設けられていて、そのレバーハンドル18が弁ユニット30に作動的に連結されている。
【0020】
20は、水栓本体12に水,湯を流入させるための流入管で、ここではその流入管20が可撓管にて構成されている。
22は、水栓本体12から水,湯若しくは混合水(以下単に混合水とする)を流出させる流出管で、ここではこの流出管22が銅管から成っている。
この流出管22の下端部には可撓性のホースを介して図示を省略する吐水部が接続されている。
【0021】
図1において、24は水栓本体12の本体ボデーをなすハウジングで、円筒状をなす樹脂製の周壁26と、これとは別体をなす金属製の底部28とを有しており、その内部に弁ユニット30を収容状態で保持している。
樹脂製の周壁26からは、同じく樹脂製の挿通部32が一体に図中下向きに延び出している。
【0022】
挿通部32は、取付穴14を下向きに挿通し、そしてその外周面に形成された雄ねじに、カウンタ16の裏側で締結ナット34がねじ込まれ、上記周壁26の下面をカウンタ16に着座させる状態に、ハウジング24を三角パッキン36を介してカウンタ16に締結固定している。
【0023】
上記底部28には水,湯の流入通路38及び混合水の流出通路40が形成されており、そしてその流入通路38に内部を連通させる状態で上記の流入管20が底部28に対してねじ結合され、また流出通路40に内部を連通させる状態で上記の流出管22が溶接にて接合されている。
42は円筒状をなす化粧カバーで、この化粧カバー42によってハウジング24が後述の固定ナット44とともに外側から覆われている。
【0024】
図3及び図4に、弁ユニット30の構成が組付状態で周辺部とともに示してある。
尚図3は止水状態を表しており、また図4は吐水状態(弁部全開状態)を表している。
これらの図に示しているように、弁ユニット30はセラミックディスクから成る固定弁体46と、固定弁体46上を摺動する、セラミックディスクから成る可動弁体48、及び可動弁体48の上面に組み付けられたディスクキャップ50とを有しており、それらが弁ケース52内に収容されている。
【0025】
弁ケース52は、図中上側のケース本体54と、下側の底蓋56との2分割構造とされており、それらが上下に組み合され弁ケース52を構成している。
詳しくは、ケース本体54には係止孔58が設けられ、また一方底蓋56には対応する位置に係止爪60が設けられ、それら係止孔58と係止爪60との係合作用によって、ケース本体54と底蓋56とが互いに組み付けられている。
【0026】
固定弁体46には水,湯の流入口62が設けられており、また底蓋56には、これら流入口62及び上記の底部28の流入通路38に連通する状態で水,湯の流入通路63が設けられている。
固定弁体46にはまた、別の位置に混合水の流出口64が設けられ、更に底蓋56には、この流出口64及び底部28の流出通路40にそれぞれ連通する状態で、混合水の流出通路65が設けられている。
【0027】
一方可動弁体48には、固定弁体46の流入口62から流入した水と湯とを混合する混合室66が形成されている。
混合室66内の混合水は、固定弁体46の流出口64及び底蓋56の流出通路65を通じて、底部28の流出通路40へと流出し、流出管22を通じて吐水部へと送られる。
尚、固定弁体46と底蓋56との間はゴム等の弾性を有するシール部材68にて水密にシールされ、また底蓋56と底部28との間は同じくゴム等の弾性を有するシール部材70にて水密にシールされている。これらシール部材68,70は断面形状が図中上下方向に長い矩形状をなしている。
【0028】
ここで底蓋56の図中下面には嵌込凹所100が設けられていて、そこにシール部材70が嵌め込まれ、保持されている。
底蓋56にはまた、図中上面側にも嵌込凹所102が設けられ、そこにシール部材68が嵌め込まれ、保持されている。
この嵌込凹所102にはまた、固定弁体46の下面の下向きの突出部104が挿入され、シール部材68を下向きに挟み込んでいる。
【0029】
図3は、弁ユニット30を上記の固定ナット44のねじ込み前の状態で表している。この状態で弁ユニット30が図1のハウジング24内に挿入された上で、固定ナット44がねじ込まれ、ケース本体54に対して図中下向きの押込力が加えられる。
このときケース本体54が底蓋56に対し相対的に下向きに移動し、そして図1に示す最終の組付状態で、係止爪60が係止孔58の上下の中間位置に位置した状態となる。
【0030】
即ちこの実施形態では、底蓋56に対して上側のケース本体54が相対的に図中下向きに移動可能とされている。
而して固定ナット44にてケース本体54が下向きに押し付けられた状態の下でシール部材70が弾性圧縮し、底蓋56と底部28との間を水密にシールする。
【0031】
更に固定弁体46が底蓋56に対して図中下向きに相対移動し、シール部材68を弾性圧縮させる。シール部材68は、その弾性圧縮力に基づいて底蓋56と固定弁体46との間を水密にシールする。
またシール部材70,68は弾性圧縮による反発力を図中上向きに及ぼし、固定弁体46を可動弁体48に押圧して、その押圧作用により固定弁体46と可動弁体48との接触面(摺動面)を密着状態として、その密着面を水密シールする。
【0032】
図2に示しているように、上記のディスクキャップ50は略円板状をなしており、その下面の外周部且つ周方向の複数個所から係合片106が下向きに突出せしめられている。
一方セラミックディスクから成る可動弁体48には、その上端外周部の複数個所、即ち係合片106に対応した複数個所に係合凹部108が設けられており、そこにディスクキャップ50の係合片106が下向きに係入させられている。
そしてこれら係合片106と係合凹部108との係合作用により、ディスクキャップ50と可動弁体48とが一体に移動するようになしてある。
【0033】
ディスクキャップ50にはまた、その上面に且つ中心から偏心した位置に、後述の駆動レバー84における係合凸部88との係合用の係合凹部90が、また外周部の位置に、ケース本体54側の係合凸部112との係合用の、平面形状が長方形状をなす係合凹部110が設けられている。
尚係合凹部90は、平面形状が多角形状(ここでは8角形状)をなしている。
【0034】
図3及び図4において、72は後述する駆動レバー84の支持体としての働きを有する回転体で、弁ケース52内部に回転可能に組み込まれている。
回転体72は円筒状をなしており、その下端に径方向外方に環状に張り出したフランジ部74を有している。また図2に示しているように後述の支持ピン86を保持する貫通の保持孔75を円筒状の周壁に有している。
一方弁ケース52、詳しくはケース本体54は、回転体72の外周面に相対回転可能に外嵌状態に嵌合する円筒状の立上り壁76を上部に有しており、またこの立上り壁76に続く下側部分が径方向外方に環状に張り出した肩部78とされている。
【0035】
ここで立上り壁76は、支持ピン86が回転体72から抜けるのを防止する抜け防止壁としての働きをなしている。
また肩部78は、その下面の一部が回転体72におけるフランジ部74の上面に回転可能に接触せしめられている。
【0036】
このケース本体54を下向きに押圧する上記の固定ナット44は、図1に示しているようにハウジング24における周壁26に嵌合する部分の内周面に雌ねじを有し、その雌ねじにおいて周壁26の上端部外周面の雄ねじにねじ込まれ、そのねじ込みによる押込力をケース本体54に対して、即ち弁ユニット52に対して下向きに及ぼしている。
【0037】
この固定ナット44には、ケース本体54における上記の肩部78を下向きに押圧する押圧部80が周方向に円環状に設けられている。更にこの押圧部80に続く上側に、固定ナット44における上記の雌ねじ部よりも小径に形成された工具係合部82を有している。ここで工具係合部82は平面形状が6角形状をなしている。
【0038】
図3及び図4において、84は駆動レバーで上下中間部が、即ち軸方向の両端間の中間部が、紙面と直交方向に配向された金属製の支持ピン86を介して回転体72に連結されている。
駆動レバー84は、支持ピン86の軸線周りに回転可能であり、またその軸線と直交方向である上下方向の、回転体72の軸線周りに回転体72とともに回転可能である。
【0039】
駆動レバー84には、その下端部に外周面が部分球面状をなす係合凸部88が一体に設けられており、その係合凸部88が、上記のディスクキャップ50における係合凹部90に係入せしめられている。
そしてこの係合凸部88と係合凹部90との係合作用により、ディスクキャップ50及び可動弁体48が、駆動レバー84の下端部と一体移動するようになっている。
【0040】
駆動レバー84はまた、その上端部が雌ねじ孔91への固定ビス89(図1参照)のねじ込みにより、レバーハンドル18に固定され、上端部がレバーハンドル18と一体移動するようになっている。
この実施形態では、レバーハンドル18を図中上下方向に回動操作すると、駆動レバー84が支持ピン86の軸線周りに回転運動してディスクキャップ50及び可動弁体48を図3及び図4中左右方向に駆動し、吐止水及び水量調節動作を行わせる。
【0041】
一方レバーハンドル18を図1中紙面と直角方向に回動操作すると、駆動レバー84が回転体72とともに、回転体72の軸線周りに回転体72とともに回転運動し、これによりディスクキャップ50及び可動弁体48を対応する方向に移動させて吐水の温度調節動作を行わせる。
【0042】
この実施形態では、図3及び図4に示しているように、ケース本体54の外周部に、下向きに突出する係合凸部112が設けられており、この係合凸部112が、ディスクキャップ50における外周部の位置の上記の係合凹部110に係入せしめられ、それら係合凸部112と係合凹部110とが係合せしめられている。
この結果、ディスクキャップ50はこの係合凸部112を支点として回転運動し、また係合凸部112に対して摺動運動する。
【0043】
図6及び図7は、吐止水及び水量調節、更に温度調節を行う際のディスクキャップ50の動き、つまり可動弁体48の動作を表している。
図6(B)は湯水等量混合状態、即ち可動弁体48及びディスクキャップ50が回転方向において中立位置にあり、且つレバーハンドル18が全開操作されたときの状態を表している。
この状態からレバーハンドル18を閉側に操作すると、駆動レバー84における下端部の係合凸部88の中心Oが、ケース本体54の中心Oに向って図中上向きに移動し(レバーハンドル18の全閉操作状態で、係合凸部88はケース本体54の中心に位置する)、このときディスクキャップ50及び可動弁体48は、回転運動することなく係合凸部112と係合凹部110とに案内されてそのまま図中上向きに移動し、図6(A)に示した状態に到る。
【0044】
その際、図6(A)及び(B)の(ロ)に示す固定弁体46の図中左側の湯の流入口62及び右側の水の流入口62は、ディスクキャップ50及び可動弁体48の図中上向きの移動とともに開度が漸次減少し、そして図6(A)に示す全閉状態の下で、それら湯側及び水側の各流入口62がともに全閉状態となる。即ちここにおいて止水が行われる。
【0045】
一方図7(A)は、図中右側の水の流入口62を全開としたときの状態を表しており、この状態からレバーハンドル18を閉操作すると、駆動レバー84における下端部の係合凸部88の中心Oがケース本体54の中心Oに向って図中一点鎖線で示す方向に移動する。
【0046】
このとき、ディスクキャップ50及び可動弁体48は、図7(A)(イ)中矢印で示すように、係合凸部112を支点として係合凸部112周りに回転運動しつつ、図中上向きに係合凸部112に対してスライド運動(摺動運動)し、そして最終的に図6(A)に示す閉状態に到る。
【0047】
図7(B)は、湯側の流入口62を全開としたときの状態を表しており、この場合においてもレバーハンドル18を閉操作すると、ディスクキャップ50及び可動弁体48が、係合凸部112を支点として同図中矢印で示す方向に回転運動しつつスライド運動し、最終的に図6(A)に示す閉状態に到る。
【0048】
つまりこの実施形態では、開弁状態でディスクキャップ50及び可動弁体48が何れの位置に位置していても、また何れの方向(回転方向)を向いていても、レバーハンドル18を閉操作すると、ディスクキャップ50及び可動弁体48が図6(A)に示す一定の位置及び向きに戻される。
【0049】
従来のシングルレバー水栓の場合、レバーハンドル18を操作したとき、可動弁体はこれに対応して移動する駆動レバー84の下端部の係合凸部と同方向に平行移動するのみであり(回転運動を伴わないで)、止水状態において可動弁体は様々な位置に位置し、また様々な向きを向いた状態となる。
【0050】
従来のシングルレバー水栓では、その様々な位置及び向きの下で止水を行わなければならないため、固定弁体と可動弁体との摺動面におけるシール面積を拡く確保しておくことが必要であった。
【0051】
しかるにこの実施形態では、可動弁体48が最終の止水位置で常に同一位置且つ同一の向きとなるため、摺動面におけるシール面積を小さくすることが可能であり、その結果として弁ユニット30をコンパクトに構成することができる。
【0052】
図3(及び図2)に示しているように、この実施形態では可動弁体48における混合室66が、固定弁体46と可動弁体48との各摺動面から図中上向きに起立する縦の壁114と、その上端の天井部116とを有する形状をなしている。
ここで縦の壁114は摺動面から図中直角上向きに立ち上がる壁とされている。
【0053】
図5に詳しく示しているように、混合室66には、固定弁体46における水,湯の各流入口62の側の部分を含む縦の壁114の全周面に亘って、摺動面から上向きに延びる凸条118が周方向に一定ピッチで複数設けられている。
ここで凸条118は摺動面から直角に図中上向きに延びる形状となしてあるが、場合によって若干傾斜していても良い。
【0054】
この実施形態において、各凸条118は図5(B)に示しているように断面形状が三角形状の山形状をなしており、その高さhがここでは0.5mmとされている。
また図5(B)中角度θが90°とされている。
図5(A)に示しているように、各凸条118は縦の壁114の内面から混合室66内部に向って直角に突出している。
図5(A)に示しているように、この実施形態において混合室66は平面形状が三角形状をなしており、従って三角形の各辺ごとの凸条118は互いに異なった向きをなしている。
この実施形態ではまた、これら凸条118のそれぞれが、図3及び図2に明らかに示しているように混合室66の下端から図中上向きに延びている。
【0055】
この実施形態の場合、固定弁体46の水,湯の流入口62を通過した水,湯は、一旦可動弁体48の底面(摺動面)に勢い良く当った後、可動弁体48の底面を回り込んで混合室66へと流入する。そして水と湯とが混合室66で混合され、固定弁体46の流出口64を通じて流出する。
【0056】
而して固定弁体48の底面に勢い良く当った後、その底面を回り込んで水と湯との流れが混合室48に流入する際、その流れは混合室66の縦の壁114に沿って、その下端から図中上向きに混合室66に流れ込む。
その際、混合室66の縦の壁114に沿って設けられた複数の凸条118が、その流れを図中上向きに案内し、流れを整える働き即ち整流作用を行う。
【0057】
以上のような本実施形態によれば、吐水時における通水音を効果的に防止ないし軽減することができる。
【0058】
また本実施形態によれば、混合室66の縦の壁114の内面に沿って凸条118を設けておくだけでよく、従来のようにメッシュ部材を混合室66に設けなくても良いため、通水音低減のために別途の部材を特に必要としたり、これを可動弁体48に組み付けたりする必要もない。
またそのメッシュ部材に付着した微細な砂等が可動弁体48と固定弁体46との摺動面に噛み込んで、それら弁体を傷付けてしまうといった恐れもない。
またそのようなメッシュ部材を設けることによって、可動弁体48及び固定弁体46が大型化してしまう問題も解消することができる。
【0059】
本実施形態では、上記のように凸条118が混合室66の摺動面側の下端から縦の壁114の内面に沿って上向きに設けてある。
混合室66の縦の壁114の下端は、固定弁体46の流入口62を通過し、可動弁体48の底面に当った水,湯の流れが混合室66に入り込んで乱流化する始まりの部位であり、従って流れの整流部となる凸条118を、その下端の位置から延出させておくことで、混合室66内に流れ込む水,湯の流れを初期から整流化し得て、混合室66内における乱流化を効率高く抑制することが可能となる。
【0060】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態では混合室の縦の壁に沿って凸条を設けているが、場合によって凹条を設けるといったことも可能である。
また上記例示したシングルレバー水栓の形態及び構造はあくまで一例で、本発明は他の様々な形態ないし構造のシングルレバー水栓に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態であるシングルレバー水栓を示した図である。
【図2】同実施形態における弁ユニットを分解して駆動レバーとともに示した図である。
【図3】同実施形態における弁ユニットを閉弁状態で示した断面図である。
【図4】同実施形態における弁ユニットを開弁状態で示した断面図である。
【図5】同実施形態における可動弁体の混合室の断面図である。
【図6】同実施形態の作用説明図である。
【図7】同実施形態の図5とは異なった状態の作用説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10 シングルレバー水栓
18 レバーハンドル
46 固定弁体
48 可動弁体
62 流入口
64 流出口
66 混合室
114 縦の壁
116 天井部
118 凸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定弁体と、レバーハンドルの操作により該固定弁体上を摺動する可動弁体とを有し、該固定弁体の貫通の水と湯の流入口からの水,湯を該可動弁体に設けた混合室に流入させて混合し、該混合室から混合水を該固定弁体の貫通の流出口から流出させるシングルレバー水栓において
前記混合室は、単一部材にて構成された前記可動弁体における摺動面から立ち上がる縦の壁と天井部とを有する形状をなしており、少なくとも前記水の流入口及び湯の流入口の側において、該混合室の該縦の壁の内面に、前記摺動面側の下端から上向きに延びる凸条又は凹条が該縦の壁の内面に沿って周方向に複数設けてあることを特徴とするシングルレバー水栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−84797(P2010−84797A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251645(P2008−251645)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】