説明

シングルレバー混合水栓

【課題】止水時に弁カートリッジ内部に残った残水を良好に水抜きすることができ、残水の凍結によって弁カートリッジ内部の混合弁等が損傷するのを防止することのできるシングルレバー混合水栓を提供する。
【解決手段】固定ディスク弁体56と、可動ディスク58を備えた可動弁体60とで構成された混合弁54を弁ケース32の内部に収めて成る弁カートリッジ30を有するシングルレバー混合水栓10において、止水時に弁カートリッジ30内部に空気導入する吸気通路102と、吸気通路102を開閉する吸気弁体104とを有し、吐水時は流動圧で吸気弁体104を閉弁させ、止水時には吸気弁体104を開弁させて吸気通路102を通じ空気を引き込む吸気弁97を弁カートリッジ30の内部に組み込んでおく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はシングルレバー混合水栓に関し、詳しくは凍結防止の機構を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定ディスク弁体と、固定ディスク弁体上を摺動する可動ディスクを備えた可動弁体とで構成された混合弁を弁ケースの内部に収めて成る弁カートリッジを有し、レバーハンドルの操作により可動弁体を移動させて吐止水と吐水の流量調節及び温度調節を行うシングルレバー混合水栓が広く用いられている。
【0003】
図10は、その一例として下記特許文献1に開示されたものを示している。
この図10はシングルレバー混合水栓の要部である弁カートリッジを示したもので、図中200は上例のケース本体202と下側の底蓋204との2分割構造とされた弁ケースであり、その内部に固定ディスク弁体206と、その上面を摺動する可動ディスク207を備えた可動弁体208とで構成された混合弁210が収容されている。
ここで可動弁体208は、可動ディスク207の上側にこれとは別体に構成されて、可動ディスク207に組み付けられたディスクキャップ212を有している。
【0004】
固定ディスク弁体206には水,湯のそれぞれの流入口214が設けられており、また別の位置において水,湯若しくは混合水(以下単に混合水とする)の流出口216が設けられている。
一方可動弁体208には、流入口214から流入した水と湯とを混合する混合室218が、可動ディスク207とディスクキャップ212とにまたがって設けられている。
【0005】
この混合弁210において、固定ディスク弁体206の流入口214から流入した水と湯とは可動弁体208の混合室218で混合された上、固定ディスク弁体206の流出口216を通じて下流側に流出する。
ここで可動弁体208の混合室218と固定ディスク弁体206の流出口216とは、図10(ロ)に示す止水状態で混合弁210の下流側の2次側流路に連通した状態の内部流路を形成する。
【0006】
220は、可動弁体208詳しくはディスクキャップ212とレバーハンドルとを作動的に連結するレバー軸で、紙面と直角方向に延びる支持ピン222を介して回転体224に連結され、回転体224に対して図中左右方向に回転可能とされている。
一方回転体224は、弁ケース200に対し図中上下方向の軸線周りに回転可能に組み付けられている。
【0007】
上記ディスクキャップ212にはウォーターハンマー防止機構226が組み込まれている。
このウォーターハンマー防止機構226は、ディスクキャップ212に一体に構成されたシリンダ228と、回転体224に固定され、シリンダ228内に摺動可能に嵌合するピストン230と、絞り弁232とを有しており、レバー軸220が図10(イ)に示す吐水状態から止水操作されて図10(ロ)に示す止水状態となる際、シリンダ室234内の水を押し出し、流動通路236を通じて混合室218側に流動させる。
【0008】
即ち止水時に2次側流路に連通状態となる混合弁210の内部流路の側に、シリンダ室234内の水を流動通路236を通じ流動させる。
そしてその際の流動抵抗によってレバーハンドルの操作を重くし、これによりレバーハンドルの急激な閉操作を抑制してウォーターハンマーの発生を防止する。
【0009】
このようなシングルレバー混合水栓においては、従来、止水時に弁カートリッジの内部に満水状態に残った残水がいわゆるポタ漏れを起す問題を生じる外、冬季等にその残水が凍結を起して体積膨張により混合弁210等を損傷する恐れがある問題があった。
【0010】
従来、水栓においては様々な個所に凍結防止のための水抜きの機構を設けることが行われ或いは提案されている。
例えば下記特許文献2,特許文献3には、流路に水が流れているときには流動圧で吸気弁体を閉弁させ、止水時に瞬間的に発生する負圧に基づいて吸気弁体を開弁させる吸気弁を設けることで流路に空気を引き込み、残水を排出させて凍結防止するようになした水栓が開示されている。
【0011】
しかしながら従来提案されているものは、止水時においてシングルレバー混合水栓のカートリッジ内部の水を抜くことができず、弁カートリッジ内部の残水の凍結による不具合を解決することのできないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−42724号公報
【特許文献2】実公昭59−17987号公報
【特許文献3】特開2000−45344公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような事情を背景とし、止水時に弁カートリッジ内部に残った残水を良好に水抜きすることができ、残水に起因する凍結によって弁カートリッジ内部の混合弁等が損傷するのを防止することのできるシングルレバー混合水栓を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1のものは、固定ディスク弁体と、該固定ディスク弁体上を摺動する可動ディスクを備えた可動弁体とで構成された混合弁を弁ケースの内部に収めて成る弁カートリッジを有し、レバーハンドルの操作により該可動弁体を移動させて吐止水と吐水の流量調節及び温度調節を行うシングルレバー混合水栓において、止水時に前記混合弁の下流側の2次側流路に連通状態となる該混合弁の内部流路に空気導入する吸気通路と、該吸気通路を開閉する吸気弁体とを有し、吐水時は流動圧で該吸気弁体を閉弁させ、止水時には該吸気弁体を開弁させて該吸気通路を通じ前記内部流路に空気を引き込む吸気弁を前記弁カートリッジの内部に組み込んであることを特徴とする。
【0015】
請求項2のものは、請求項1において、前記吸気弁は前記内部流路の上側に設けてあることを特徴とする。
【0016】
請求項3のものは、請求項2において、前記可動弁体は前記可動ディスクの上側にディスクキャップを有しており、該ディスクキャップに前記吸気弁が設けてあることを特徴とする。
【0017】
請求項4のものは、請求項3において、前記ディスクキャップには、シリンダと該シリンダに嵌合してシリンダ内部を摺動運動するピストンとを有し、止水操作の際にシリンダ室の水を押し出し、前記内部流路の側に流動させて流動抵抗により前記レバーハンドルの操作を重くするウォーターハンマー防止機構が設けてあり、前記吸気弁は、前記シリンダ室の水の流動通路及び前記シリンダ室を前記吸気通路の一部として用いているとともに、前記シリンダ室に前記吸気弁体を配置して構成してあることを特徴とする。
【0018】
請求項5のものは、請求項4において、前記シリンダの底部には前記流動通路の一部をなす貫通孔が設けてあり、該貫通孔の前記吸気弁体側の開口は、該吸気弁体の前記底部への当接によって閉鎖されないものとなしてあることを特徴とする。
【0019】
請求項6のものは、請求項5において、前記シリンダの底部には、前記シリンダ室の水を押し出し、流動させる際の流れを絞る絞り部が設けてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0020】
以上のように本発明は、止水時に混合弁の内部流路に空気導入する吸気通路と、吸気通路を開閉する吸気弁体とを有し、吐水時は流動圧で吸気弁体を閉弁させ、流動圧の作用しない止水時には吸気弁体を開弁させて吸気通路を通じ上記の内部流路に空気を引き込む吸気弁を弁カートリッジの内部に組み込んだものである。
【0021】
本発明によれば、止水時に弁カートリッジ内部に空気を引き込んで弁カートリッジ内部の残水を排出することができ、従って止水時に弁カートリッジ内部に満水状態に閉じ込められた残水がポタ漏れを起したり、冬季等に凍結を起して混合弁等が損傷するのを良好に防止することができる。
【0022】
更に本発明によれば、水栓における中枢機能部品のユニットである弁カートリッジの内部に水抜きを行うための吸気弁が組み込んであるため、単に予め吸気弁の組み込んである弁カートリッジを水栓の内部に組み付けることで、止水時に弁カートリッジ内部の残水、更には混合弁の2次側流路の水を排出し得て、それらが凍結するのを防止する機能を水栓に付与することができる。
【0023】
この場合において上記吸気弁は、混合弁に形成される上記内部流路の上側に設けておくことができる(請求項2)。
【0024】
更にこの場合において、上記の吸気弁を、可動ディスクの上側に位置して可動ディスクとともに可動弁体を構成するディスクキャップに設けておくことができる(請求項3)。
【0025】
次に請求項4は、シリンダとシリンダ内部を摺動運動するピストンとを有し、止水操作の際にシリンダ室の水を押し出し、上記内部流路の側に流動させて流動抵抗によりレバーハンドルの操作を重くするウォーターハンマー防止機構をディスクキャップに設け、そしてシリンダ室から押し出された水を流動させる流動通路及びシリンダ室を吸気通路の一部として用いるとともに、シリンダ室に吸気弁体を配置して上記の吸気弁を構成するようになしたもので、この請求項4によれば、ウォーターハンマー防止機構を巧みに利用して吸気弁を弁カートリッジ内部に備えることができる。
即ちウォーターハンマー防止機構の設置スペース及び構造を利用して、より少ないスペースでなおかつ簡単な構造で吸気弁を弁カートリッジ内部に付加することができる。
【0026】
次に請求項5は、上記流動通路即ち吸気通路の一部をなすシリンダ底部の貫通孔の吸気弁体側の開口を、吸気の際に吸気弁体がシリンダの底部に当接することによって、その開口を閉鎖しないようになしたものである。
【0027】
吸気弁体には、止水直後に上記内部流路側に負圧が発生することによって、シリンダの底部の貫通孔の側にこれを引込む力が作用する。
このとき吸気弁体がシリンダの底部の開口を閉鎖してしまうと吸気通路が遮断されてしまい、外部からの空気を内部流路の側に引き込むことができなくなる。
しかるにこの請求項5によればそのような不都合を良好に回避することができる。
【0028】
この場合、シリンダの底部にストッパを設けて、そのストッパにより吸気弁体が貫通孔の開口を閉鎖しないようにすることもできるし、或いは吸気弁体を球状とする一方、開口を長径方向寸法が球状の吸気弁体よりも大寸法の長穴形状とし、或いは開口を独立した2つの穴としたりすることによって、吸気弁体にて開口が閉鎖されないようにすることができる。
【0029】
請求項6は、そのシリンダの底部に、シリンダ室の水を押し出し、流動させる際の流れを絞る絞り部を設けたもので、このようにしておけばウォーターハンマー防止機構のウォーターハンマー防止の機能をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態であるシングルレバー混合水栓を手洗器への取付状態で示した図である。
【図2】同実施形態の水栓の内部構造を吐水状態で示した断面図である。
【図3】同実施形態の水栓の内部構造を止水状態で示した図である。
【図4】同実施形態における弁カートリッジを分解して示した斜視図である。
【図5】同実施形態における吸気弁をウォーターハンマー防止機構とともに示した図である。
【図6】同実施形態の水栓の作用説明図である。
【図7】図6に続く作用説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態のシングルレバー混合水栓の要部の構成を作用とともに示した図である。
【図9】図8の絞り部を示した図である。
【図10】従来公知のシングルレバー混合水栓の要部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は手洗器12のカウンタ部14に起立状態に設けられたシングルレバー混合水栓で、16は水栓本体、18はその上部に回動可能に設けられたレバーハンドル、20は手洗器12の鉢部に向けて水栓本体16に設けられた吐水口である。
【0032】
図2及び図3に、水栓本体16の内部構造が詳しく示してある。ここで図2は吐水状態を表し、図3は止水状態を表している。
図中22は、水栓本体16のボデーにて構成されたハウジングで、円筒状の周壁24と、底部26とを有している。
底部26には水,湯を通過させるそれぞれ独立した開口28が一対形成されている。
【0033】
30は、ハウジング22の内部に組み付けられた弁カートリッジ(弁ユニット)で、32はその弁カートリッジ30における弁ケースである。
弁ケース32は、上側のケース本体34と下側の底蓋36との2分割構造とされており、それらが上下に互いに組み合されている。
ここで弁ケース32即ち弁カートリッジ30は、固定ナット38をハウジング22の上部にねじ込むことで、下向きに押し込まれ固定されている。
【0034】
底蓋36は、図4にも示しているように下面から下向きに突出した一対の筒状部40と、脚42とを有しており、それらの先端(下端)がハウジング22における上記底部26の上面に当接せしめられている。
これら一対の筒状部40の内部には水,湯の流入通路44が形成されており、それら流入通路44が、底部26の上記の開口28に連通せしめられている。
【0035】
底蓋36にはまた、流入通路44とは別の位置において混合水の流出通路46が形成されている。
この流出通路46の下側には、底蓋36とハウジング22とで区画形成された水室48が形成されている。
この水室48は、水栓本体16内部の流路を通じて上記の吐水口20に連絡されている。
【0036】
この底蓋36の外周面には弾性を有するリング状のシール部材50が保持されており、このシール部材50によって、底蓋36の外周面とハウジング22における周壁24との間が水密にシールされている。
【0037】
また筒状部40の下端面には、流入通路44を取り巻く位置においてリング状のシール部材52が保持されており、このシール部材52によって、筒状部40の下面と底部26との間が水密にシールされている。
【0038】
上記弁ケース32の内部には混合弁54が収容されている。
この混合弁54は、セラミックディスクから成る固定ディスク弁体56と、その上面を摺動する、同じくセラミックディスクから成る可動ディスク58を備えた可動弁体60とで構成されている。
【0039】
ここで可動弁体60は、固定ディスク弁体56の上面を直接摺動する可動ディスク58の上側に、その駆動部となるディスクキャップ62を有している。
ディスクキャップ62は、可動ディスク58とは別体に構成された樹脂製の部材で、可動弁体60は、このディスクキャップ62と可動ディスク58とが組み付けられて構成されている。
【0040】
固定ディスク弁体56は、上記流入通路44に連通した水,湯用の一対の流入口64を有しており、また別の位置において上記流出通路46に連通した混合水用の貫通の流出口66を有している。
【0041】
一方可動弁体60には、可動ディスク58及びディスクキャップ62にまたがって、流入口64から流入した水と湯とを混合する混合室68が形成されている。
流入口64から上向きに流入した水と湯とは、この混合室68で混合された上、流出口66を通じ流出通路46へと下向きに流出し、更に水室48を経由して吐水口20へと送られ、そこから外部に吐水される。
【0042】
ここで上記底蓋36の上面には、図4にも示しているように一対の流入通路44,流出通路46をそれぞれ取り巻くようにして弾性を有するリング状のシール部材70,72が保持されており、これらシール部材70,72によって、底蓋36と固定ディスク弁体56との間が水密にシールされている。
【0043】
また可動弁体60においては、可動ディスク58の上面に混合室68を取り巻くようにして弾性を有するリング状のシール部材74が保持されており、このシール部材74によって、可動ディスク58とディスクキャップ62との間が水密にシールされている。
【0044】
76は回転体で、弁ケース32の内部に回転可能に組み込まれている。
回転体76は、図4にも示しているように円筒状をなしており、その下端に径方向外方に環状に張り出したフランジ部78を有している。
【0045】
80はレバー軸で、その上端部がレバーハンドル18に連結され、レバーハンドル18と一体移動するようになっている。
このレバー軸80は、支持ピン82を介して回転体76に結合されている。
ここで支持ピン82は紙面と直角方向に配向され、軸端部が回転体76に設けられた貫通の保持孔に嵌入せしめられて、そこに保持されている。
【0046】
このレバー軸80の図中下端部には、図4に示しているように4つの係合凸部84が設けられており、それら係合凸部84が可動弁体60、詳しくはディスクキャップ62の上面に設けられた対応する4つの係合凹部86に係入せしめられている。
【0047】
レバー軸80は、レバーハンドル18と一体に支持ピン82周りに回転運動し、また回転体76の回転軸線周りに回転体76とともに回転運動し、レバーハンドル18の操作を可動弁体60に伝えて、可動弁体60を対応する方向に摺動運動させる。
【0048】
具体的には、レバーハンドル18が図2及び図3中上下方向に回動操作されると、レバー軸80が支持ピン82周りに回転運動し、可動弁体62を図中左右方向に移動させて吐止水及び水量調節動作を行わせる。
またレバーハンドル18が紙面と直角方向に回動操作されると、レバー軸80が回転体76とともに図中上下方向の回転体76の回転軸線周りに回転運動し、可動弁体60を同方向に回転運動させて、混合水の温度調節動作を行わせる。
【0049】
ディスクキャップ62には、ウォーターハンマー防止機構88が組み込まれている。このウォーターハンマー防止機構88は、図5にも示しているようにディスクキャップ62に一体に構成されたシリンダ90と、その内部に摺動可能に嵌合する、回転体76に固定されたピストン92とを有しており、止水操作に際してディスクキャップ62が図中右向きに移動すると、ピストン92がシリンダ90内部に深く押し込まれてシリンダ室94内部の水を押し出し、シリンダ90の底部96に形成された貫通孔98及びこの貫通孔98を含んで構成された流動通路100を通じて混合室68側に流動させ、その際の流動抵抗に基づいてレバーハンドル18の操作を重くしてレバーハンドル18の急激な閉操作を抑制し、以てウォーターハンマーの発生を防止する。
【0050】
この実施形態ではまた、このウォーターハンマー防止機構88の設置スペース及び構造を利用して、ディスクキャップ62に、弁カートリッジ30内部の残水による凍結防止のための吸気弁97が設けられている。
詳しくは、ピストン92には軸方向即ち図中左右方向の貫通路99が形成されている。
この貫通路99は、図6(III)に示すように止水直後において外部の空気を混合室68側、即ち止水時に混合弁54の下流側の2次側流路に連通状態となる、混合室68と流出口66とを含む混合弁54の内部流路に空気導入する吸気通路102をシリンダ室94及び上記の流動通路100とともに形成する。
吸気弁97はこの吸気通路102と、シリンダ室94内部に配置された球状の吸気弁体104とで構成される。
【0051】
図6及び図7に、吸気弁97の作用をウォーターハンマー防止機構88の作用と併せて示している。
図6(I)は吐水時の状態を表しており、このとき吸気弁体104は、これに作用する流動圧によってピストン92に押し付けられ、貫通路99即ち吸気通路102を閉鎖した状態にある。従って弁カートリッジ32内の水はピストン92に形成された貫通路99を通じて外部に漏出するといったことはない。
【0052】
このような吐水状態からレバーハンドル18を図2中下向きに回動操作し止水操作を行うと、その際にピストン92がシリンダ90内部を図中左向きに相対的に移動することによって、シリンダ室94内の水が押し出され、流動通路100を通じ混合室68側に流動する。そしてその際の流動抵抗に基づいてレバーハンドル18の閉操作が重くなり、レバーハンドル18の急激な閉操作によるウォーターハンマーの発生が防止される。
【0053】
このようにしてレバーハンドル18を閉操作し、図3に示すように混合弁54を閉弁状態とすると、ここにおいて混合室68と流出口66とを含む混合弁54の内部流路が、混合室68への流入側と遮断される。
【0054】
従来のシングルレバー混合水栓の場合、この混合室68及び流出口66を含む混合弁54の内部流路及びこれに連絡した弁カートリッジ30内部の水は満水状態でそこに閉じ込められ、残留してしまう。
【0055】
しかるにこの実施形態では吸気弁97が設けられていることによって、混合弁54の内部流路及びこれに連絡した弁カートリッジ30内部の水、更には混合弁54の2次側流路の水が円滑に排出される。
具体的には、止水直後において2次側流路の水が下向きに流れようとすることで混合弁54内部に発生する負圧に基づいて吸気弁体104が図6(III)中左向きに吸引され、その吸引作用によって吸気弁体104がピストン92から離脱せしめられる。
【0056】
即ち吸気通路102をそれまで閉鎖していた吸気弁体104が吸気通路102を開放し、ここにおいてシリンダ室94,流動通路100の水の混合室68側への流動を伴って外部の空気が吸気通路102を通じて混合室68側、即ち混合弁54の内部流路の側に導入される。
これにより混合弁54の内部流路の水及び混合弁体54の2次側の流路の水、更にはその内部流路に連絡した弁カートリッジ30内のシリンダ室94や流動通路100の水が排出される。
【0057】
尚、図6(III)に示しているように止水直後において吸気弁体104に吸引力が働くことによって、吸気弁体104がシリンダ90の底部96に当接したとしても、底部96の貫通孔98、詳しくは貫通孔98の吸気弁体104側の開口は吸気弁体104にて閉鎖されることはない。
【0058】
図5(B)に示しているように貫通孔98の横断面形状は、その長径寸法が吸気弁体104の直径よりも大きな長穴形状となしてあるため、吸気弁体104がシリンダ90の底部96に当接しても貫通孔98は閉鎖されてしまうことはない。
【0059】
図7(IV)は、止水直後から一定時間を経過した状態を表している。
この状態では吸気弁体104に対して負圧は作用しておらず、従って吸気弁体104は自重によりシリンダ90の図中下側の壁部にて支持された状態にある。
この状態でレバーハンドル18が再び開操作されて吐水状態になると、吸気弁体104はこれに作用する流動圧によって再び図6(I)に示す状態となり、吸気通路102を閉鎖した状態となる。
【0060】
以上のような本実施形態においては、止水直後に弁カートリッジ30内部に空気を引き込んで弁カートリッジ30内部の残水を排出することができ、従って止水時に弁カートリッジ30内部に満水状態に閉じ込められた残水がポタ漏れを起したり、冬季等に凍結を起して混合弁54等が損傷するのを良好に防止することができる。
【0061】
また本実施形態によれば、水栓10における中枢機能部品のユニットである弁カートリッジ30の内部に水抜きを行うための吸気弁97が組み込んであるため、単に予め吸気弁97の組み込んである弁カートリッジ30を水栓10の内部に組み付けることで、止水時に弁カートリッジ30内部の残水更には混合弁の2次側流路の水を排出し得て、それらが凍結するのを防止する機能を水栓10に付与することができる。
【0062】
更にこの実施形態では、ウォーターハンマー防止機構88の設置スペース及び構造を利用して、より少ないスペースでなおかつ簡単な構造で吸気弁97を弁カートリッジ30内部に付加することができる。
【0063】
図8及び図9は本発明の他の実施形態を示している。
この例はシリンダ90の底部96に、シリンダ室94の水が貫通孔98を経て押し出され流動する際により大きな流動抵抗を与える絞り部105を設けた例である。
ここで絞り部105は浅い皿状をなしていて、その周壁には周方向に所定間隔ごとに複数の切欠106が設けられている。
【0064】
またその中央部には、シリンダ90における底部96の貫通孔98及び球状をなす吸気弁体104の直径よりも小径をなす円形の絞り孔110が設けられている。
この絞り孔110のシリンダ室94側、即ち吸気弁体104側には環状の凹部112が形成されている。
この絞り部105にはまた、図9(A)に示すようにシリンダ室94側の内面に径方向に延びる複数の溝114が設けられており、それら溝114が環状の凹部112に連絡されている。
【0065】
この例の場合、レバーハンドル18の閉操作によってシリンダ室94内の水がシリンダ室94から押し出される際、絞り部105に形成された小径の絞り孔110を通過して流動することで、その際の流動抵抗が上記実施形態に比べて高められ、ウォーターハンマー防止機構88によるウォーターハンマー防止の機能がより一層高められる。
【0066】
また図8(II)に示す止水直後において球状の吸気弁体104が絞り部105の絞り孔110に押し付けられても、この絞り孔110は環状の凹部112及び溝114によってシリンダ室94及び流動通路100と連通しており、外部からの空気が支障無く絞り孔110を通じて混合弁54の混合室68側に吸入される。
【0067】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 シングルレバー混合水栓
18 レバーハンドル
30 弁カートリッジ(弁ユニット)
32 弁ケース
54 混合弁
56 固定ディスク弁体
58 可動ディスク
60 可動弁体
62 ディスクキャップ
90 シリンダ
92 ピストン
94 シリンダ室
96 底部
97 吸気弁
98 貫通孔
99 貫通路
100 流動通路
102 吸気通路
104 吸気弁体
105 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ディスク弁体と、該固定ディスク弁体上を摺動する可動ディスクを備えた可動弁体とで構成された混合弁を弁ケースの内部に収めて成る弁カートリッジを有し、レバーハンドルの操作により該可動弁体を移動させて吐止水と吐水の流量調節及び温度調節を行うシングルレバー混合水栓において、
止水時に前記混合弁の下流側の2次側流路に連通状態となる該混合弁の内部流路に空気導入する吸気通路と、該吸気通路を開閉する吸気弁体とを有し、吐水時は流動圧で該吸気弁体を閉弁させ、止水時には該吸気弁体を開弁させて該吸気通路を通じ前記内部流路に空気を引き込む吸気弁を前記弁カートリッジの内部に組み込んであることを特徴とするシングルレバー混合水栓。
【請求項2】
請求項1において、前記吸気弁は前記内部流路の上側に設けてあることを特徴とするシングルレバー混合水栓。
【請求項3】
請求項2において、前記可動弁体は前記可動ディスクの上側にディスクキャップを有しており、該ディスクキャップに前記吸気弁が設けてあることを特徴とするシングルレバー混合水栓。
【請求項4】
請求項3において、前記ディスクキャップには、シリンダと該シリンダに嵌合してシリンダ内部を摺動運動するピストンとを有し、止水操作の際にシリンダ室の水を押し出し、前記内部流路の側に流動させて流動抵抗により前記レバーハンドルの操作を重くするウォーターハンマー防止機構が設けてあり、
前記吸気弁は、前記シリンダ室の水の流動通路及び前記シリンダ室を前記吸気通路の一部として用いているとともに、前記シリンダ室に前記吸気弁体を配置して構成してあることを特徴とするシングルレバー混合水栓。
【請求項5】
請求項4において、前記シリンダの底部には前記流動通路の一部をなす貫通孔が設けてあり、該貫通孔の前記吸気弁体側の開口は、該吸気弁体の前記底部への当接によって閉鎖されないものとなしてあることを特徴とするシングルレバー混合水栓。
【請求項6】
請求項5において、前記シリンダの底部には、前記シリンダ室の水を押し出し、流動させる際の流れを絞る絞り部が設けてあることを特徴とするシングルレバー混合水栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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