説明

ジビニルエーテルホモポリマー、その製造方法およびその用途

【課題】低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性で、硬化性、基材密着性、および透明性に優れるため、インク、および塗料に代表されるインク用原料、ならびにレジスト、カラ−フィルタ、接着剤、製版材、封止材、および画像形成剤に代表される電子材料用原料などに用いられる、ジビニルエーテルホモポリマーの提供。
【解決手段】式(I):


(式中、Xは単結合又は二重結合を示し、nは平均重合度を表す正の数である)
で表されるジビニルエーテルホモポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジビニルエーテルホモポリマー、その製造方法およびその用途に関する。詳しくは、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性で、硬化性、基材密着性、および透明性に優れるため、インク、および塗料に代表されるインク用原料、ならびにレジスト、カラ−フィルタ、接着剤、製版材、封止材、および画像形成剤に代表される電子材料用原料などに用いられる、ジビニルエーテルホモポリマー、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のジビニルエーテルホモポリマー、詳しくは4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセンホモポリマーおよび1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンホモポリマーに代表されるジビニルエーテルホモポリマーは、従来報告例がなく、新規なジビニルエーテルホモポリマーであると考えられる。
【0003】
通常、モノビニルエーテルを原料とするホモポリマーは、ガラス転移温度が低く、モノビニルエーテルホモポリマー単独では利用が難しいポリマーである。また、ジビニルエーテルは架橋剤として用いられることが多いが、ホモポリマーの原料として使用される例は少ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規の前記ジビニルエーテルホモポリマー、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記式(I):(式中、Xは単結合又は二重結合を示し、nは平均重合度を表す正の数である)の反応式の重合反応により、新規のジビニルエーテルホモポリマーを得ることができる。
【0006】
【化1】

【発明の効果】
【0007】
本発明のジビニルエーテルホモポリマー(I)、詳しくは下記式(II)の4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセンホモポリマー(式中、nは平均重合度を表す正の数である)および下記式(III)の1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンホモポリマー(式中、nは平均重合度を表す正の数である)に代表されるジビニルエーテルホモポリマーは、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性で、また、硬化性、基材密着性、および透明性に優れ、特に、ガラス転移温度が100℃以上であり、また熱分解温度が250℃以上で、耐熱性に優れたポリマーである。
【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のジビニルエーテルホモポリマーのひとつである4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセンホモポリマー(II)の1H−NMRチャートである。
【0011】
【図2】本発明のジビニルエーテルホモポリマーのひとつである1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンホモポリマー(III)の1H−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーの代表例であるポリマー(II)(式中nは平均重合度を表す正の数である)およびポリマー(III)(式中nは平均重合度を表す正の数である)は、次の反応式に従って重合することができる。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーの代表例である、式(II)および(III)のポリマーは、ジビニルエーテルモノマー、詳しくは前記式(A)である4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセン(II)(別名:3−シクロヘキセン−1,1−ジメタノールジビニルエーテル)、および前記式(B)である1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン(III)(別名:1,1−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル)を重合することで得ることができる。前記ジビニルエーテルモノマーのひとつである1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンは特願2010−103711号公報に記載の方法で作製することができる。
【0016】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーは、特異な構造のジビニルエーテルモノマーから重合反応により得られるため、ガラス転移温度が高いなどの熱的に優れた特性をもつと発明者らは考えている。詳しくは、モノマーがビニルエーテル基を2つもつため、重合反応の際に環化し、さらに、モノマーがシクロヘキサンおよびシクロヘキセン骨格をもつため、得られるポリマーが熱的に優れた特性をもつと発明者らは考えている。
【0017】
前記式(A)および(B)に代表されるジビニルエーテルモノマーの重合反応は、トルエン、塩化メチレン等の有機溶媒中で、0.01〜1.0モル容量%の範囲のモノマー濃度で重合させることが好ましく、0.1〜0.5モル容量%のモノマー濃度がより好ましい。モノマー濃度が0.01モル容量%以上であれば、重合反応速度が低くなりすぎず、適切に重合反応を制御できるため好ましい。また、モノマー濃度が1.0モル容量%以下であれば、ゲル化しないため好ましい。重合条件は、特に限定はないが、例えば−60〜0℃で0.1〜10時間であることが好ましい。より好ましくは−50〜−10℃で0.2〜5時間、最も好ましくは−40〜−20℃で0.3〜3時間である。重合条件が−60℃以上であれば、重合速度が低くなりすぎず、適切に重合反応を制御できるため好ましい。また、重合条件が0℃以下であれば、分子量分布を狭く制御できるため好ましい。
【0018】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーを得るための重合反応に用いる重合開始剤は、ブレンステッド酸(例えばHCl、HBrなど)等を挙げることができる。また、重合開始剤とともに、ルイス酸ならびにそれらの錯体(例えばBF3OEt2、(CH3CH(Oi−Bu)OCOCH3/SnBr4)を用いることが好ましく、分子量分布を制御することができるため、これらの錯体を用いることが特に好ましい。さらに、重合開始剤およびルイス酸の使用量には特に制限はないが、ジビニルエーテルモノマー溶液に対して、0.1〜10ミリモル容量%であることが好ましい。溶液の濃度が0.1ミリモル容量%以上であれば、重合速度が低くなりすぎず、適切に重合反応を制御できるため好ましい。また、10ミリモル容量%以下であれば、ゲル化しないため好ましい。なお、ルイス酸を重合開始剤とともに用いる場合、重合開始剤およびルイス酸を、単に重合開始剤と表すことがある。
【0019】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーを得るための重合反応は、ルイス酸の存在下で行うことが好ましい。ルイス酸の存在下であれば、重合反応はリビング重合となり、分子量分布を狭く制御することができるため好ましい。また、重合進行時、反応系にモノマー溶液を添加することで重合が進行するため、得られるジビニルエーテルホモポリマーの分子量を容易に制御することができるため好ましい。ルイス酸は、具体的にはBF3、BCl3、BBr3、AlCl3、SnBr4、およびZnCl2などが挙げられる。
【0020】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーを得るための重合反応は、アミン類の水溶液またはアルコール溶液で停止させる。その後、添加したアルコールおよび生成する塩類等を除去するため、水洗後、水に不溶部としてポリマーを得る。また、精製が必要な場合は、重合反応系をアミン類の水溶液またはアルコール溶液で停止させた後、溶媒を留去、乾燥後、THF(テトラヒドロフラン)などのエーテルで希釈し、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノールなどのアルコールで沈殿させてポリマーを得る。
【0021】
上記重合反応で得られるポリマーの数平均分子量Mnは、500〜10,000であることが好ましく、2,000〜8,000であることが更に好ましく、3,000〜6,000であることが特に好ましい。この範囲であれば、本発明のジビニルエーテルホモポリマーを、インク用原料および電子材料用原料に好適に用いることができる。
【0022】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1〜5であることが好ましい。
【0023】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーの重合度、数平均分子量、および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)を用いて測定することができる。本発明は、示差屈折検出器を備えたGPCを用いて、GPC本体に株式会社島津製作所製LC−10AD、力ラムに昭和電工株式会社製ポリスチレンゲルカラム3本(K−807L、K−805、K−804)、示差屈折検出器に株式会社島津製作所製RID−6Aを使用し、溶媒はクロロホルムを用い、カラム温度40℃、0.5mg/mLに調製した試料溶液を装置に注入し、流速1.0mL/minでの条件で、ポリマーの分子量等の測定を行っている。
【0024】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーのガラス転移温度および熱分解温度は、示差走査熱量測定装置(RIGAKU Thermo Plus DSC 8230L)を用いて測定を行っている。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0026】
実施例1
重合開始剤およびルイス酸は、HCl/ZnCl2を用いた。シュレンク管に4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセン溶液4.0mL、0.18%HCl溶液0.5mL、ZnCl2溶液0.5mLをこの順に注射器で注入し重合を開始した。塩化メチレン中,−30℃、モノマー濃度0.15mol/L、HCl濃度5.0mmol/L、ZnCl2濃度2.0mmol/Lで行った。重合は、25分で重合率98%に達し、重合系にアンモニア水を少量加えたメタノールを加えて停止した。
【0027】
重合を停止した溶液を分液ロートに移し、塩化メチレンで希釈し、塩化ナトリウム飽和水溶液で3回洗浄した。次いで有機層からエバポレーターにより溶媒を除去し、減圧乾燥して生成ポリマーを得た。
【0028】
このポリマーは、メタノールによりデカンテーションして更に精製した。得られたポリマーの数平均分子量:Mnは4290で、分子量分布:Mw/Mnは1.42であった。ガラス転移温度Tgは、103℃であった。また、熱分解温度Tdは347℃であった。
【0029】
実施例2
モノマーを1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンに変えた以外は、実施例1と同様の条件で、重合を行った。反応開始から20分で重合率100%に達した。実施例1と同様な後処理をしたポリマーの数平均分子量:Mnは3800で、分子量分布:Mw/Mnは1.65であった。ガラス転移温度Tgは、104℃であった。また、熱分解温度Tdは326℃であった。
【0030】
比較例1
実施例1の溶媒を塩化メチレンからトルエンに変え、さらに、モノマーとして1官能体である4−[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセンを用いた以外は、実施例1と同様の条件で重合を行った。反応開始から100分で重合率94%に達した。実施例1と同様な後処理をしたポリマーの数平均分子量:Mnは5720で、分子量分布:Mw/Mnは1.39であった。ガラス転移温度Tgは,21℃であった。また、熱分解温度Tdは298℃であった。
【0031】
比較例2
実施例2の溶媒を塩化メチレンからトルエンに変え、さらに、モノマーとして1官能体である[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを用いた以外は、実施例2と同様の条件で重合を行った。反応開始から120分で重合率93%に達した。実施例1と同様な後処理をしたポリマーの数平均分子量:Mnは5860で、分子量分布:Mw/Mnは1.18であった。ガラス転移温度Tgは、1℃であった。また、熱分解温度Tdは311℃であった。
【0032】
実施例1および実施例2で得たポリマーをNMRで測定した。図1および図2にそれぞれ示すとおり、いずれもジビニルエーテルホモポリマーであることを確認した。
【0033】
実施例で得た本発明のジビニルエーテルホモポリマーは、比較例のビニルエーテルホモポリマーと比べ、いずれもガラス転移温度が高いことがわかった。
【0034】
実施例で得た本発明のジビニルエーテルホモポリマーをインク用原料に用いたところ、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性であり、さらにガラス転移温度が高いため、優れた性能を示した。
【0035】
実施例で得た本発明のジビニルエーテルホモポリマーを電子材料用原料に用いたところ、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性であり、さらにガラス転移温度が高いため、優れた性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のジビニルエーテルホモポリマーは、ガラス転移温度が高いという優れた性能を示す。本発明のジビニルエーテルホモポリマーは、硬化性、基材密着性、透明性に優れることに加え耐熱性に優れるため、インク、および塗料に代表されるインク用原料、ならびにレジスト、カラーフィルター、接着剤、製版材、封止剤、および画像形成用に代表される電子材料用原料などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Xは単結合又は二重結合を示し、nは平均重合度を表す正の数である)
で表されるジビニルエーテルホモポリマー。
【請求項2】
前記ジビニルエーテルホモポリマーが4,4−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキセンホモポリマーである請求項1に記載のジビニルエーテルホモポリマー。
【請求項3】
前記ジビニルエーテルホモポリマーが1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンホモポリマーである請求項1に記載のジビニルエーテルホモポリマー。
【請求項4】
数平均分子量Mnが500〜10,000である請求項1〜3のいずれか1項に記載のジビニルエーテルホモポリマー。
【請求項5】
分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1〜5の請求項1〜4のいずれか1項に記載のジビニルエーテルホモポリマー。
【請求項6】
ジビニルエーテルモノマーをルイス酸の存在下に重合することを特徴とする請求項1に記載のジビニルエーテルホモポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記重合がリビング重合である請求項6に記載のジビニルエーテルホモポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のジビニルエーテルホモポリマーを用いたインク用原料。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のジビニルエーテルホモポリマーを用いた電子材料用原料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233068(P2012−233068A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102232(P2011−102232)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】