説明

ジフェニルアミンまたはその核置換体の製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ジフェニルアミンまたはその核置換体(以下ジフェニルアミン類と略記)を得るための工業的に有利な改良された製造方法に関する。さらに詳しくは元素周期表第8族貴金属触媒の存在下に水素受容体としてフェノールまたはその核置換体(以下フェノール類と略記)を使用し、アニリンまたはその核置換体(以下アミン類と略記)とフェノール類に対応するシクロヘキサノン類を反応させ、縮合反応及び分子間の水素移動により、ジフェニルアミン類を製造する方法に関し、特にアニリン置換体のジフェニルアミン類の工業的に有利な製造方法に関する。
【0002】ジフェニルアミン類は染料、農薬、医薬、ゴム用配合剤等の製造中間体として有用な化合物である。
【0003】例えば、アニリン核置換体のジフェニルアミンである、2−メチル−4−アルコキシジフェニルアミンなどは、感圧、感熱記録紙用のフルオラン系の染料の原料として高価で有用な化合物である。
【0004】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、ジフェニルアミン類は、アミン類より脱アンモニア反応、もしくはアミン類とフェノール類またはブロムベンゼンより脱水または脱臭化水素反応する方法によって製造されていた。
【0005】また、N−シクロヘキシリデンアニリンを、シリカ等酸化触媒の存在下に気相にて含酸素ガスと反応させて製造する方法(特開昭49−49924号公報)、フェノールとアニリンよりγ−アルミナを触媒として使用することによりジフェニルアミンを製造する方法(特開昭49−14738号公報)、さらには触媒の存在下アミン類とシクロヘキサノン類とを反応させN−シクロヘキシリデンアニリン等シッフ塩基を経由しながらジフェニルアミン類を製造するに際し、水素受容体としてスチレン類を使用して合成する方法(特開昭57−58648号公報)等が提案されている。
【0006】しかしながらこれらの従来法は反応工程が煩雑であったり反応速度が小さい等の欠点があった。
【0007】これらの欠点を改良する方法として、水素移動触媒の存在下、水素受容体としてフェノール類を使用し、系内にてシクロヘキサノンを生成させながらシクロヘキサノン類とアニリン類とを反応させてジフェニルアミンを製造する方法(特開昭60−193949号公報)を本発明者等は先に提案した。
【0008】しかしこの特開昭60−193949号公報の方法においては、例えば、パラジウム触媒使用下2−メチルアニリンを大過剰のフェノールの存在下に反応させ、収率97.0%(選択率99.3%、転化率97.7%)で2−メチルジフェニルアミンを得ることができ、反応速度及び選択率の面ではほぼ満足の行く方法だが、高級な貴金属触媒を回収再使用する際、新触媒の追加量が多くなる等工業的製法として改良の余地があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は先に出願した前述の方法の問題点を解決し、触媒を再使用する場合、毎回の新触媒追加量を極力少なくできる、さらに優れた工業的製法を開発すべく検討を重ね本発明に到達した。
【0010】即ち、本発明は、元素周期表第8族貴金属触媒及び触媒量の反応に用いるフェノール、またはその核置換体に対応するシクロヘキサノン類の存在下、水素受容体としてアニリンまたはその核置換体に対して1.5〜10モル倍のフェノールまたはその核置換体を使用し、系内にて対応するシクロヘキサノン類を生成させながらアニリンまたはその核置換体と反応させるに際し、助触媒としてアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を添加する方法、及び最初から反応系中にシクロヘキサノン類を共存させておくことなく、水素加圧下にしてアニリンまたはその核置換体に対して1.5〜10モル倍のフェノール類をアニリンまたはその核置換体に対して0.05〜0.40モル倍を対応するシクロヘキサノン類に変換し、引き続き残りのフェノール類を水素受容体として使用し、系内にて対応するシクロヘキサノン類を生成させながらアニリン類と反応させるに際し、助触媒としてアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を添加することを特徴とするジフェニルアミン類の製造法である。
【0011】本発明方法は、アミン類とシクロヘキサノン類との反応により生成した中間体シッフ塩基が脱水素されて生成した水素はフェノール類の還元、つまりシクロヘキサノン類の生成に同一反応系中で全て利用されるため、極めて効率的である。さらに、核置換体ジフェニルアミン類のある種の製造において、一段では困難な化合物も本発明方法では一段で合成でき、また相当する適量なシクロヘキサノン類の入手が困難である場合も、フェノール類さえあればシクロヘキサノン類の替わりにフェノール類を使用してあらかじめ水素を仕込み、フェノール類の一部をシクロヘキサノン類に変換させた後反応させればよく、適用範囲が広いという利点がある。
【0012】また、本発明の方法では、使用した触媒を回収後再利用する場合、毎回の新触媒追加量を極力少なくしその反応速度及び収率を維持することができる等数々の利点がある。
【0013】本発明の方法において水素受容体として使用されるフェノール類としては、フェノール、メチルフェノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等アルキルフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール等アルコキシフェノール等が挙げられるが、特にフェノールが好ましい。これらフェノール類はアミン類とシクロヘキサノン類との反応により生成した中間体シッフ塩基が脱水素されて生成した水素により、シクロヘキサノン類へ変換される。従って、系内で発生する水素を完全に有効利用するためにはフェノール類はアミン類に対して等量以上あれば反応は進むが、好ましくはアミン類に対し1.5〜10モル倍使用するのが良い。この使用量より少ないとN−シクロヘキシルアニリンの副生量が増し、またこれより多くなると容積効率が悪くなるとともに副生物が増加する傾向にあり好ましくない。
【0014】本発明方法において使用できるアミン類としては、アニリンも使用できるが、本発明方法においては、アニリン核置換体も高い選択率で相応する目的物を得ることができるので、生成物の需要度の観点からすれば、アニリン核置換体に本発明方法を適用したほうがより効果が発揮できる。アニリン核置換体としては、2−メチルアニリン等アルキルアニリン、3,4−ジメチルアニリン等ジアルキルアニリン、3−メトキシアニリン等アルコキシアニリン、2−メチル−4−メトキシアニリン等アルキルアルコキシ−アニリン、2−フロロ−5−メチルアニリン等のフロロアルキルアニリン、o−アミノ安息香酸もしくはそのエステル、o−アミノベンゾニトリル、4−ベンジルアニリン、アミノフェノール等が挙げられる。特に、アルキルアニリン、アルコキシアニリン、アルキルアルコキシアニリンの場合は選択率も高く好ましい核置換体である。
【0015】尚、これらのアニリンまたはその核置換体を滴下しながら反応させるならば、フェノールまたはその核置換体の使用量を少なくすることができ、且つ、副生物生成量を抑制でき更に好ましい。
【0016】シクロヘキサノン類としては前述のフェノール類に対応するシクロヘキサノン類が用いられ、その使用量はアミン類に対し触媒量の約0.03モル倍以上あれば特に問題ないが、好ましくは0.05〜0.40モル倍が良い。この使用量より少ないと反応速度が小さくなり、また、これより多くなると目的とするジフェニルアミン類の収率が低下するので好ましくない。
【0017】また、反応の最初からシクロヘキサノン類を使用しない場合はアミン類に対し、前記の適量のシクロヘキサノン類を生成するに相当する量、即ち、約0.06モル倍以上、好ましくは0.10〜0.80モル倍の水素を反応器に封入後加熱反応すれば良い。
【0018】本発明の方法において使用される元素周期表第8族貴金属触媒としては脱水素反応及び還元反応の両方の機能を有する触媒である必要があるが、通常好適な水素化還元反応触媒は脱水素反応にも適する。具体的には、パラジウム黒、酸化パラジウム、コロイドパラジウム、パラジウム・炭素、パラジウム・硫酸バリウム、パラジウム・炭酸バリウムなどのパラジウム触媒;白金黒、コロイド白金、白金海綿、酸化白金、硫化白金、白金・炭素などの白金・担体触媒等の白金触媒;コロイドロジウム、ロジウム・炭素、酸化ロジウムなどのロジウム触媒;ルテニウム触媒などを例示することができる。これらの触媒のうち、好ましくはパラジウムであり、特にパラジウム−炭素、パラジウム−アルミナ及びパラジウム−酸化マグネシウム等の担体に担持されたパラジウム触媒が好ましい。その使用量は前記アミン類に対し金属原子として通常0.001〜0.2グラム原子、好ましくは0.004〜0.1グラム原子が良い。
【0019】本発明方法では、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を助触媒として添加する。アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等が使用できる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。これら助触媒は1種または2種以上を混合して用いてもよい。これら助触媒は前記元素周期表第8族貴金属触媒とは別に反応系へ添加してもよく、また貴金属担持触媒を製造した後、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属成分としてアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の塩、水酸化物等を溶液から追加担持することによって調整した触媒を使用しても良い。この助触媒の使用量は、触媒金属に対しアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属分として2〜30重量%の範囲がよく、好ましくは5〜20重量%である。これより多くなると反応速度が低下する傾向にあり、逆に少ない場合は収率が悪化する。
【0020】この助触媒は、必要ならば毎回追加される元素周期表第第8族貴金属触媒と共に適宜追加しながらその量を調整する。
【0021】反応温度は通常150〜300℃で、好ましくは170〜280℃の範囲で選ばれる。
【0022】生成したジフェニルアミン類は反応終了後の混合物を蒸留、晶析、抽出等の常法に従って処理することにより得られる。例えば反応終了液をろ過し、触媒を分離する。この回収触媒は再使用できる。ろ液を濃縮し、過剰量のフェノール類をシクロヘキサノン類を含んだまま回収し、その留分は混合物のまま反応系へ戻す。釜内のジフェニルアミン類は蒸留、晶析等により精製分離する。
【0023】
【実施例】以下、本発明の方法を実施例によって具体的に説明する。
実施例1内容積500mlのステンレス製オートクレーブに2−メチルアニリン53.5g(0.5モル)、フェノール235.3g(2.5モル)、シクロヘキサノン5.0g(0.05モル)エヌ・イー・ケムキャット社製5%Pd/C2.68g及び1N−NaOH0.58gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換した後、200℃に昇温した。撹拌下にその温度を保ったまま3時間反応させた後、室温に冷却後反応混合液をろ過し、触媒を分離した。濾液の一部を採取しガスクロマトグラフィーにより分析したところ、2−メチルアニリンの転化率は98.9%、2−メチルジフェニルアミンの選択率は99.2%であった。
【0024】引き続き上記回収触媒を使用し、第1表に示すように5%Pd/C及びNaOHを追加し同様に反応を行った。その結果、反応速度、選択率を維持するために必要な5%Pd/Cの平均新触媒追加量は初回使用量の約3%であった。
【0025】実施例2内容積500mlのステンレス製オートクレーブにフェノール141.2g(1.5モル)、シクロヘキサノン5.0g(0.5モル)エヌ・イー・ケムキャット社製5%Pd/C2.68g及び1N−NaOH0.58gを仕込み、滴下装置に2−メチルアニリン53.5g(0.5モル)を装入して、オートクレーブ内を窒素置換した後、200℃に昇温した。撹拌下にその温度を保ったまま滴下装置内の2−メチルアニリンを5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにこの温度に保ったまま1時間撹拌を続けた。次いで反応器内を室温まで冷却し、反応混合液より5%Pd/Cをガスクロマトグラフィーにより分析したところ、2−メチルアニリンの転化率は99.6%、2−メチルジフェニルアミンの選択率は99.3%であった。
【0026】引き続き回収触媒を再使用し、表2に示すように5%Pd/C及びNaOHを追加しながら反応を行ったところ、反応速度、選択率を維持するために必要な5%Pd/Cの平均新触媒追加量は初回使用量の約1%であった。
【0027】比較例1内容積500mlのステンレス製オートクレーブに2−メチルアニリン53.5g(0.5モル)、フェノール235.3g(2.5モル)、シクロヘキサノン5.0g(0.05モル)及びエヌ・イー・ケムキャット社製5%Pd/C2.68gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換した後、200℃に昇温した。撹拌下にその温度を保ったまま3時間反応させた後、室温に冷却後反応混合液を濾過し、触媒を分離した。濾液の一部を採取しガスクロマトグラフィーにより分析したところ、2−メチルアニリンの転化率は98.6%、2−メチルジフェニルアミンの選択率は99.2%であった。
【0028】引き続き上記回収触媒を使用し、表1に示すように5%Pd/Cを追加し同様に反応を行った。その結果、反応速度、選択率を維持するために必要な5%Pd/Cの平均新触媒追加量は初回使用量の約5%であった。
【0029】
【表1】


【0030】
【表2】


【0031】
【表3】


【0032】
【発明の効果】元素周期表第8族貴金属触媒の存在下、水素受容体としてフェノール類を使用し、系内にてシクロヘキサノン類を生成させながらアニリン類と反応させ、ジフェニルアミンを製造するに際し、助触媒としてアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物を使用することにより、使用した触媒を回収後再使用する場合、毎回の触媒追加量を極力少なくし、且つその反応速度及び収率を維持することができる。

【特許請求の範囲】

【請求項1】
元素周期表第8族貴金属触媒及び触媒量の、反応に用いるフェノールまたはその核置換体に対応するシクロヘキサノン類の存在下、水素受容体としてニリンまたはその核置換体に対して1.5〜10モル倍フェノールまたはその核置換体を使用し、系内にて対応するシクロヘキサノン類を生成させながら、アニリンまたはその核置換体と反応させるに際し、助触媒としてアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を添加することを特徴とするジフェニルアミンまたはその核置換体の製造法。

【請求項2】
元素周期表第8族貴金属触媒の存在下に、アニリンまたはその核置換体に対して1.5〜10モル倍のフェノールまたはその核置換体を水素加圧下にして、アニリンまたはその核置換体に対して0.05〜0.40モル倍を対応するシクロヘキサノン類に変換させ、引き続き残りのフェノールまたはその核置換体を水素受容体として使用し、系内にて対応するシクロヘキサノン類を生成させながらアニリンまたはその核置換体と反応させるに際し、助触媒としてアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を添加することを特徴とするジフェニルアミンまたはその核置換体の製造法。
【請求項3】 加熱反応温度が170〜280℃である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】 元素周期表第8族貴金属触媒がパラジウムである請求項1または2記載の方法。
【請求項5】 反応系中に存在するシクロヘキサノン類がアニリンまたはその核置換体に対し、0.05〜0.4モル倍である請求項1記載の方法。
【請求項6】 フェノールまたはその核置換体がフェノール、アルキルフェノールまたはアルコキシフェノールである請求項1または2記載の方法。
【請求項7】 アニリンまたはその核置換体が、アニリン核置換体である請求項1または2記載の方法。
【請求項8】 アニリン核置換体が、アルキルアニリン、アルコキシアニリンまたはアルキルアルコキシアニリンである請求項1または2記載の方法。

【特許番号】特許第3234655号(P3234655)
【登録日】平成13年9月21日(2001.9.21)
【発行日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−291312
【出願日】平成4年10月29日(1992.10.29)
【公開番号】特開平6−135910
【公開日】平成6年5月17日(1994.5.17)
【審査請求日】平成10年7月17日(1998.7.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−218560(JP,A)
【文献】特開 昭61−183250(JP,A)
【文献】特開 昭61−18748(JP,A)
【文献】特開 昭60−193949(JP,A)
【文献】特開 平6−184066(JP,A)
【文献】特開 平5−271163(JP,A)