説明

ジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法、及び、ジメチルエーテル燃料使用エンジン

【課題】ジメチルエーテル燃料使用エンジンで、燃料噴射を開始する前に、漏れた燃料による着火を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止すると共に、エンジンの停止と同時にドライバーに警報を発することができるジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法、及び、ジメチルエーテル燃料使用エンジンを提供する。
【解決手段】ジメチルエーテル燃料使用エンジンにおける燃料噴射の開始に際して、エンジン1のシリンダ内への燃料噴射を開始する前に、シリンダ内へ漏れた燃料による着火の有無を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジン1の始動を停止すると共に、前記漏れた燃料による着火の有無の検出を、スターター38によるクランキングを開始した際のエンジン回転速度Neの変動をエンジン回転センサーで検出することで行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンやシリンダライナーに与える、燃料漏れによる燃料着火に起因する衝撃を減少でき、ピストンリングやシリンダライナー等のエンジン部品の破損の恐れを無くすことができるジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法、及び、ジメチルエーテル燃料使用エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルエーテル燃料(DME燃料)を使用するエンジンの始動方法には、軽油ディーゼルエンジンと同じシステム及び方法が採用されてきた。また、燃料噴射システムについても、軽油ディーゼルとほぼ同じタイプ、主にコモンレール式が使われている。エンジン始動の際に使われる主な部品の構成は、図1に示すように、セルモーター(スターター)38、サプライポンプ31、コモンレール32、インジェクター33、燃料タンク10内のインタンクポンプ11、制御ユニット(ECU)50等である。
【0003】
このエンジン1の始動における制御は、インタンクポンプ11の系統では、図2に示すような制御フローで実施される。この図2の制御フローがスタートし、ステップS11でエンジンキーがONされると、ステップS12で燃料タンク10内のインタンクポンプ11が作動し、エンジン本体30側のサプライポンプ31へ燃料の圧送を開始する。このとき、ステップS13で供給圧をチェックし、予め設定された圧力値になるまでは、ステップS13に戻り、ステップS13で供給圧が予め設定された圧力値になったら、ステップS14に行きインタンクポンプ11の回転数を維持して、ステップS20の通常運転モードに入るように制御される。
【0004】
また、燃料噴射の系統では、図5に示すような制御フローで実施される。この図5の制御フローがスタートし、ステップS31でエンジンキーがONされ、ステップS32で、エンジンキーがスターター位置にされると、ステップS33でセルモーター38が回転してエンジンクランクシャフトが回転を開始する。ステップS34では燃料の噴射制御を開始する。つまり、エンジン1の運転を制御する制御装置(ECU)50で、エンジン回転速度Neとクランク軸の回転位置に関して1番気筒の上死点位置を検出する。ステップS35で噴射条件を判定し、この噴射条件を満足するまでは、繰返しステップS35に戻り、ステップS35で噴射条件を満足したら、ステップS36に行き、燃料噴射を開始する。つまり、エンジン回転速度Neに応じて、燃料噴射時期を算出し、始動に必要なコモンレール圧力を同時に算出する。この制御装置50からサプライポンプ31へ制御信号が出されて、必要な圧力になるよう調圧装置の制御が行なわれる。この制御装置50で、噴射時期、噴射量、コモンレール圧を制御し、所定のコモンレール圧になると燃料噴射を開始する。
【0005】
そして、ステップS37のアイドリング回転を行う。次に、エンジンが自力運転したことをドライバーが確認すると、エンジンキーをスターター位置から、キーオンの位置に戻す。これをステップS38で検知して、ステップS20の通常運転モードに入る。
【0006】
一方、ジメチルエーテル燃料は軽油に比べ、常温では気体であり、火が付き易い性質を持っている。そのため、インジェクターに不具合が起こったとき、例えば、インジェクターノズルのシート不良等により、エンジン停止時においてノズルのシート部より燃料が漏れた場合には、次にエンジンを始動しようとしてセルモーターでクランキングを開始した際に、ピストンが圧縮を開始した直後などに、設計的に意図しない場所で漏出していた燃料が着火することがある。このような場合には、ピストンやライナーに大きな衝撃を与えるので、これを繰り返すと、ピストンリングやライナーに破損が発生するおそれが生じる。
【0007】
これに関連して、本発明の発明者は、ジメチルエーテル使用のディーゼルエンジンにおいて、エンジン始動時の異常燃焼を防止し、これに伴う異常振動等を防止するために、正規の排気タイミングと無関係に排気ポートを開閉可能な始動制御弁を設けて、この始動制御弁の下流側のジメチルエーテル濃度を検出して、この検出値が所定値以下になるまで、燃料噴射装置を無噴射状態に制御すると共に、始動制御弁を開維持して、燃焼室内に漏れ出して滞留しているジメチルエーテル燃料を掃気してから、燃料噴射を開始する、ジメチルエーテル用ディーゼルエンジンの始動制御装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−115866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、ジメチルエーテル燃料使用エンジンで、燃料噴射を開始する前に、漏れた燃料による着火を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止すると共に、エンジンの停止と同時にドライバーに警報を発することができるジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法、及び、ジメチルエーテル燃料使用エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するためのジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法は、ジメチルエーテル燃料使用エンジンにおける燃料噴射の開始に際して、エンジンのシリンダ内への燃料噴射を開始する前に、漏れた燃料による着火の有無を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止すると共に、前記漏れた燃料による着火の有無の検出を、スターター(セルモーター)によるクランキングを開始した際のエンジン回転の変動をエンジン回転センサーで検出することで行うことを特徴とする方法である。この方法によれば、燃料漏れによる燃料着火で、ピストンやシリンダライナーに与える衝撃を減少でき、ピストンリングやシリンダライナー等のエンジン部品の破損を防止できる。
【0011】
上記のジメチルエーテル燃料使用エンジンにおけるエンジン始動方法において、前記漏れた燃料の着火を検出した場合は、エンジンの始動を停止すると共に、ドライバーに対して警報を発するようにすると、ドライバーが燃料の漏れの知らせを受けて、修理するので、エンジンの損傷を防止できる。
【0012】
そして、上記の目的を達成するためのジメチルエーテル燃料使用エンジンは、ジメチルエーテル燃料使用エンジンにおける燃料噴射の開始に際して、エンジンのシリンダ内への燃料噴射を開始する前に、漏れた燃料による着火の有無を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止する制御を行う始動制御装置を備えると共に、該始動制御装置が、前記漏れた燃料による着火の有無の検出を、スターターによるクランキングを開始した際のエンジン回転の変動をエンジン回転センサーで検出することで行うように構成される。この構成によれば、燃料漏れによる燃料着火で、ピストンやシリンダライナーに与える衝撃を減少でき、ピストンリングやシリンダライナー等のエンジン部品の破損を防止することができる。
【0013】
上記のジメチルエーテル燃料使用エンジンにおいて、前記始動制御装置が、前記漏れた燃料の着火を検出した場合は、エンジンの始動を停止すると共に、ドライバーに対して警報を発するように構成すると、ドライバーが燃料の漏れの知らせを受けて、修理するので、エンジンの損傷を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動装置、及び、ジメチルエーテル燃料使用エンジンによれば、燃料漏れによる燃料着火でピストンやシリンダライナーに与える衝撃を回避でき、ピストンリングやシリンダライナー等のエンジン部品の破損を防止することができる。従って、エンジンの運転開始時における洩れた燃料対策に対して、より安価な問題解決方法を提供でき、エンジンの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動装置を備えたエンジン1の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法のインタンクポンプ系統の制御フローを示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法の燃料噴射系統の制御フローを示す図である。
【図4】エンジン回転速度の正常な状態と異常な状態を示す図である。
【図5】従来技術のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法の燃料噴射系統の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動装置及び始動方法について説明する。図1に示すように、本発明に係る実施の形態のジメチルエーテル(DME)燃料使用エンジンの始動装置を備えたエンジン1は、燃料タンク10と燃料供給ライン20とエンジン本体30と燃料戻しライン40とエンジン制御装置(ECU)50とを備えて構成されている。
【0017】
燃料タンク10は、内部にインタンクポンプ11を備え、このインタンクポンプ11の吐出側に取り出し弁12と電磁弁13を備えて、フィルタ21を備えた燃料供給ライン20に接続されている。また、この燃料タンク10は、更に、充填弁14と安全弁15を備えており、フィルタ41を備えた燃料戻りライン40に、電磁弁16と戻り弁17を介して接続されている。
【0018】
エンジン本体30では、燃料供給ライン20から供給される燃料をサプライポンプ31で昇圧してコモンレール32に一時的に貯留し、この貯留された高圧の燃料はインジェクター33からシリンダ(図示しない)内に噴射される。また、リークライン34が設けられ、インジェクター33とサプライポンプ31の余剰燃料を、燃料戻りライン40側に戻したりする。なお、このリークライン34とコモンレール32との間に、電磁リリーフ弁(プレッシャー・リリーフ・バルブ)35を備える。更に、コモンレール32とリークライン34との間に安全弁(プレッシャーレギュレーター)36と、サプライポンプ31とリークライン34との間に圧力調整弁(プレッシャーレギュレーター)37を備える。
【0019】
また、エンジン全体の制御を行うエンジンコントロールユニット(ECU)と呼ばれる制御装置50が設けられ、この制御装置50は、インタンクポンプ11を制御するインタンクポンプ制御、サプライポンプ31の入口側の圧力Ppとコモンレール32の圧力Pcを入力してサプライポンプ31を制御するサプライポンプ制御、セルモーター38を制御するセルモーター制御、インジェクター33を制御する噴射制御等を行っている。なお、エンジン回転速度Neやその他の情報も制御装置50に入力され、また、排気ガス浄化システムを備えていれば、排気ガス浄化システムの制御も制御装置50で行っている。
【0020】
次に、ジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動方法について、図2のインタンクポンプ系統の制御フローと図3の噴射制御系統の制御フローを参照しながら説明する。
【0021】
この制御装置50で、ジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動を行う場合には、図2の制御フローで、インタンクポンプ11の系統の制御を行う。この図2の制御フローがスタートし、ステップS11でエンジンキーがONされると、ステップS12で燃料タンク10内のインタンクポンプ11が作動し、エンジン1側のサプライポンプ31へ燃料の圧送を開始する。このとき、ステップS13で供給圧をチェックし、予め設定された圧力値になるまでは、ステップS13に戻り、ステップS13で供給圧が予め設定された圧力値になったら、ステップS14に行きインタンクポンプ11の回転数を維持して、ステップS20の通常運転モードに入るように制御される。
【0022】
また、図3の噴射制御系統では、この制御フローがスタートし、ステップS31でエンジンキーがONされ、ステップS32で、エンジンキーがスターター位置にされると、ステップS33でセルモーター(スターター)38が回転してエンジンクランクシャフトが回転を開始する。ステップS34では燃料の噴射制御を開始する。
【0023】
本発明においては、この燃料の噴射制御の開始に際して、ステップS40で、回転数上昇率の変化等をチェックして、漏れた燃料による着火の有無の検出を、セルモーター38によるクランキングを開始した際のエンジン回転速度Neの変動をエンジン回転センサー(図示しない)で検出し、燃料漏れの燃料による着火による回転変動の有無を検出することで行う。
【0024】
ステップS41では、セルモーター38による回転上昇をモニターして、クランク回転をチェックし、エンジン回転速度Neに異常が無いか否かをチェックする。図4の実線Aで示すように、燃料漏れが無い場合には、エンジン回転速度Neが滑らかに上昇する。この場合は正常状態であると判断し、ステップS35行く。
【0025】
一方、図4の点線Bに示すように、エンジン回転速度Ne滑らかに上昇しないで、漏れた燃料が燃焼して、エンジン回転数Neの上昇において山等が発生した場合には、異常状態であると判断し、ステップS42に行き、噴射制御を停止し、次のステップS43で警告灯の点灯等の警報を発生して、ドライバーに対して修理を促す。
【0026】
つまり、通常始動制御に入る前に、ステップS41で、エンジン回転速度Neの変動をエンジン回転速度センサー等で検出し、通常と違う回転速度の上昇があった場合、燃料漏れによる回転速度の上昇と判断し、ステップS42で、その後の始動制御を中止する。また、ステップS43で、運転席の警告灯を点灯する等によりドライバーに分かるようにする。
【0027】
ステップS35では、エンジン回転速度Neとクランク軸の回転位置に関して1番気筒の上死点位置を検出し、噴射条件を判定し、この噴射条件を満足するまでは、ステップS35に戻り、ステップS35で噴射条件を満足したら、ステップS36に行き、インジェクター33で燃料噴射を開始する。この燃料噴射の開始により、図4に示すように、燃料噴射開始位置tfsから燃料の燃焼によりエンジン回転速度Neが急上昇する。
【0028】
つまり、エンジン回転速度Neに応じて、燃料噴射時期を算出し、始動に必要なコモンレール32の圧力Pcを同時に算出する。この制御装置50からサプライポンプ31へ制御信号が出されて、必要な圧力になるよう調圧装置の制御が行なわれる。この制御装置50で、噴射時期、噴射量、コモンレール圧Pcを制御し、所定のコモンレール圧になると燃料噴射を開始する。
【0029】
そして、ステップS37でアイドリング回転を行う。次に、エンジンが自力運転したことをドライバーが確認すると、エンジンキーをスターター位置から、キーオンの位置に戻す。これをステップS38で検知して、ステップS20の通常運転モードに入る。
【0030】
上記のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動装置及び始動方法によれば、エンジン回転速度Neがセルモーター38による回転上昇であるか、燃料漏れによる異常燃焼による回転変動や回転上昇がないかを、回転速度センサーの信号により制御装置50で確認し、異常が無ければ通常始動制御を継続し、また、異常があれば、始動制御を停止すると共に、運転席に設置した警告灯を点灯させる。
【0031】
従って、燃料漏れによる燃料着火で、ピストンやシリンダライナーに与える衝撃を回避でき、ピストンリングやシリンダライナー等のエンジン部品の破損を防止することができる。その結果、エンジンの運転開始時における洩れた燃料対策に対して、より安価な問題解決方法を提供でき、エンジンの破損を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のジメチルエーテル燃料使用エンジンの始動装置及び始動方法によれば、より安価に問題解決が行えて、エンジンの破損を防止できるので、自動車等に搭載されるジメチルエーテル燃料使用エンジンに利用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
10 燃料タンク
11 インタンクポンプ
20 燃料供給ライン
30 エンジン本体
31 サプライポンプ
32 コモンレール
33 インジェクター
34 リークライン
38 セルモーター
40 燃料戻しライン
50 エンジン制御装置(ECU)
Ne エンジン回転速度
Pc コモンレールの圧力
Pp サプライポンプの入口側の圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテル燃料使用エンジンにおける燃料噴射の開始に際して、エンジンのシリンダ内への燃料噴射を開始する前に、シリンダ内へ漏れた燃料による着火の有無を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止すると共に、
前記漏れた燃料による着火の有無の検出を、スターターによるクランキングを開始した際のエンジン回転速度の変動をエンジン回転速度センサーで検出することで行うことを特徴とするジメチルエーテル燃料使用エンジンにおけるエンジン始動方法。
【請求項2】
前記漏れた燃料の着火を検出した場合は、エンジンの始動を停止すると共に、ドライバーに対して警報を発することを特徴とする請求項1に記載のジメチルエーテル燃料使用エンジンにおけるエンジン始動方法。
【請求項3】
ジメチルエーテル燃料使用エンジンにおける燃料噴射の開始に際して、エンジンのシリンダ内への燃料噴射を開始する前に、漏れた燃料による着火の有無を検出し、漏れた燃料の着火を検出した場合はエンジンの始動を停止する制御を行う始動制御装置を備えると共に、
該始動制御装置が、前記漏れた燃料による着火の有無の検出を、スターターによるクランキングを開始した際のエンジン回転速度の変動をエンジン回転速度センサーで検出することで行うことを特徴とするジメチルエーテル燃料使用エンジン。
【請求項4】
前記始動制御装置が、前記漏れた燃料の着火を検出した場合は、エンジンの始動を停止すると共に、ドライバーに対して警報を発することを特徴とする請求項3記載のジメチルエーテル燃料使用エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87637(P2013−87637A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226370(P2011−226370)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】