説明

スイッチ

【課題】自動車のスタータに多用されているマグネットスイッチの製造においては、アークによる接点の溶損、溶着を防ぐために、全ての接触部位に高価な耐アーク性を有する接点部材を使用しているため高コストである。
【解決手段】本発明では励磁コイルで駆動するプランジャ2に固定した可動接点1と、その可動接点の両側に構成された接触部位3a、3bに対応して固定接点4a、4bの接触部位5a、5bを配置したスイッチにおいて、可動接点と固定接点の接触部位は、スイッチの状態を開から閉へと移行させる可動接点の運動において、可動接点の一方側の接触部位が、一方側の固定接点の接触部位と接触する時点を、可動接点の他方側の接触部位が、他方側の固定接点の接触部位と接触する時点よりも早くするように相対的に配置し、可動接点の他方側の接触部位と、他方側の固定接点の接触部位を耐アーク性を有する接点部材で構成したスイッチを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のスタータ用マグネットスイッチ等に利用するスイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のスタータ用マグネットスイッチには、例えば特許文献1に示されるように、励磁コイルで駆動するプランジャに固定した可動接点と、その可動接点の両側に構成した接触部位に対応して固定接点の接触部位を配置した構成のスイッチが利用されている。
【0003】
このようなスイッチの構成及び動作を図3につき説明すると、符号11は可動接点であり、この可動接点11は励磁コイル(図示省略)で駆動されるプランジャ12に固定されて図中上下方向に移動可能に構成されている。可動接点11は両側に接触部位13a,13bが構成されており、この両側の接触部位13a,13bの夫々に対応して、固定接点14a,14bの接触部位15a,15bが配置されている。
【0004】
このようなスイッチでは、図中(a)の開状態において励磁コイルによりプランジャ12が図中下方向に駆動すると、(b)の状態を経て、(c)に示されるように可動接点11の接触部位13a,13bが、夫々対応する固定接点14a,14bの接触部位15a,15bに接触して閉状態に移行する。逆に、励磁コイル又は戻しばね等でプランジャを逆方向に駆動すると、図中(c)の閉状態からは(b)の状態を経て、(a)の開状態に移行する。
【0005】
以上のスイッチにおいては、接触部位13a,13bと接触部位15a,15bが接触する際や、離れる際にアークが発生して、それにより接触部位が溶損したり溶着したりするのを防ぐための手段が講じられている。
【0006】
代表的な手段としては、例えば特許文献2にも示されるように、可動接点及び固定接点の接触部位を、タングステン、炭化タングステン、グラファイト等の高融点材料と銀、銅等の高電導材料を複合した焼結合金等の耐アーク性を有する材料で構成することが挙げられる。
【0007】
尚、上述した特許文献1では、開状態から閉状態に移行する際の可動接点の接触部位のバウンス回数を低減することによりアークの発生を抑制している。
【特許文献1】特開2002−161837号公報
【特許文献2】実公昭40−27808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図3に示されるように、可動接点と、その可動接点の両側に構成した接触部位に対応して固定接点の接触部位を配置した構成のスイッチでは、接触個所が図中左右2個所にあり、そのいずれにもアークが発生する可能性があるので、耐アーク性を有する材料は、全ての接触部位、即ち、4つの接触部位のいずれにも構成しなければならない。
【0009】
これらの耐アーク性を有する材料による接触部位は、例えばロー付け等の加工により構成するが、加工に要するコストが必要であると共に、材料自体が高価なため、高コストとならざるを得ない。
本発明は以上の課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために,本発明では、励磁コイルで駆動するプランジャに固定した可動接点と、その可動接点の両側に構成された接触部位に対応して固定接点の接触部位を配置したスイッチにおいて、可動接点の接触部位と固定接点の接触部位は、スイッチの状態を開から閉へと移行させる可動接点の運動において、可動接点の一方側の接触部位が、一方側の固定接点の接触部位と接触する時点を、可動接点の他方側の接触部位が、他方側の固定接点の接触部位と接触する時点よりも早くするように相対的に配置し、上記可動接点の他方側の接触部位と、他方側の固定接点の接触部位を耐アーク性を有する接点部材で構成したスイッチを提案する。
【0011】
そして本発明では、上記の構成において、一方側の固定接点の接触部位を、可動接点の一方側の接触部位に近づけて構成したり、可動接点の一方側の接触部位を、一方側の固定接点の接触部位に近づけて構成したり、又は一方側の固定接点の接触部位と、可動接点の一方側の接触部位を互いに近づけて構成することを提案している。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成において、プランジャを駆動してスイッチが開状態から閉状態となるように可動接点を移動すると、まず可動接点の一方側の接触部位が、一方側の固定接点の接触部位と接触する。この時点においては、可動接点の他方側の接触部位は、他方側の固定接点の接触部位に接触していないので、スイッチは未だ開状態であり、従って可動接点の一方側の接触部位と、一方側の固定接点の接触部位との接触に際してはアークが発生しない。
【0013】
次いで可動接点の他方側の接触部位が、他方側の固定接点の接触部位と接触すると、スイッチは閉状態となるため、これらの接触に際してアークが発生するが、これらの接触部位は耐アーク性を有する接点部材で構成されているため、溶損や溶着が防止される。可動接点の一方側の接触部位と、一方側の固定接点の接触部位は、接触状態が維持されているので、これらの部位にはアークが発生しない。
【0014】
次に、励磁コイルを逆方向に作動するか、あるいは励磁コイルの作動を停止して戻しばねによりプランジャを逆方向に駆動してスイッチが閉状態から開状態となるように可動接点を移動すると、まず可動接点の他方側の接触部位が、他方側の固定接点の接触部位から離れて、スイッチは閉状態から開状態となる。従って、このように可動接点の他方側の接触部位と、他方側の固定接点の接触部位が離れる際にアークが発生する。上述したとおり、これらの接触部位は耐アーク性を有する接点部材で構成されているため、溶損や溶着が防止される。また、可動接点の一方側の接触部位と、一方側の固定接点の接触部位は、接触状態が維持されているので、これらの部位にはアークが発生しない。
【0015】
次いで可動接点の一方側の接触部位が、一方側の固定接点の接触部位から離れるが、このように離れる前に、スイッチは既に開状態となっているので、アークは発生しない。
【0016】
以上に説明したように、可動接点の一方側の接触部位と、一方側の固定接点の接触部位は、スイッチが開状態から閉状態に移行する際と、閉状態から開状態に移行する際のいずれにおいても本質的にアークが発生しないので、これらの接触部位は、銅等の通常の接点部材を用いていてもアークによる溶損や溶着が発生することは全くない。
【0017】
こうして本発明では、可動接点の他方側の接触部位と、他方側の固定接点の接触部位のみを耐アーク性を有する接点部材で構成すれば良いので、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
まず、図1は本発明のスイッチの第1の実施の形態を概念的に示す断面説明図である。
符号1は可動接点であり、この可動接点1は励磁コイル(図示省略)で駆動されるプランジャ2に固定されて図中上下方向に移動可能に構成されている。可動接点1は両側に接触部位3a,3bが構成されており、この両側の接触部位3a,3bの夫々に対応して、固定接点4a,4bの接触部位5a,5bが配置されている。
【0019】
ここで、この実施の形態では、可動接点1の図中左側の接触部位3bは、可動接点1を構成する銅等の高導電性の接点部材に耐アーク性を有する材料の層を形成したものであり、同様に図中左側の固定接点の接触部位5bは、固定接点4bを構成する銅等の高導電性の接点部材に耐アーク性を有する材料の層を形成したものである。
【0020】
ここで耐アーク性を有する材料としては、上述したように、タングステン、炭化タングステン、グラファイト等の高融点材料と、銀、銅等の高電導材料を複合した焼結合金等を利用することができ、またこれらの材料はロー付け等の加工により層を形成することができる。
【0021】
尚、図においては接触部位3b、5bは夫々可動接点1、固定接点4bから突出させた構成として描いているが、これらは突出させる他、夫々可動接点1、固定接点4bに埋め込んで同一平面上に構成することもできる。
【0022】
一方、可動接点1の図中右側の接触部位3aと、対応する固定接点4aの接触部位5aには、上述した耐アーク性を有する材料の層は形成しておらず、可動接点1と固定接点4aの通常の高導電性の接点部材が接触する構成としている。
【0023】
そしてこの実施の形態においては、一方側の固定接点4aの接触部位5aを、可動接点1の一方側の接触部位3aに近づけ、これにより、可動接点1の一方側の接触部位3aと一方側の固定接点4aの接触部位5a間の距離を、可動接点1の他方側の接触部位3bと他方側の固定接点4bの接触部位5b間の距離よりも短く構成している。
【0024】
以上の構成において、(a)の状態において、励磁コイル(図示省略)を作動し、プランジャ2を駆動してスイッチが開状態から閉状態となるように可動接点1を移動すると、(b)に示すように、まず可動接点1の一方側の接触部位3aが、一方側の固定接点4aの接触部位5aと接触する。
【0025】
この時点においては、可動接点1の他方側の接触部位3bは、他方側の固定接点4bの接触部位5bに接触していないので、スイッチは未だ開状態である。従って、可動接点1の一方側の接触部位3aと、一方側の固定接点4aの接触部位5aとの接触に際しては本質的にアークが発生しない。
【0026】
次いで可動接点1の他方側の接触部位3bが、他方側の固定接点4bの接触部位5bと接触するが、この際、スイッチは閉状態となるため、これらの接触に際してはアークが発生する。
【0027】
この際、これらの接触部位3b,5bは耐アーク性を有する接点部材で構成されているため、溶損や溶着が防止される。
【0028】
一方、可動接点1の一方側の接触部位3aと、一方側の固定接点4aの接触部位5aは、接触状態が維持されているので、これらの部位にはアークが発生しない。
【0029】
次に、(c)の状態において、励磁コイル(図示省略)を逆方向に作動するか、あるいは励磁コイルの作動を停止して戻しばねによりプランジャ2を逆方向に駆動してスイッチが閉状態から開状態となるように可動接点1を移動すると、まず可動接点1の他方側の接触部位3bが、他方側の固定接点4bの接触部位5bから離れて、スイッチは閉状態から開状態となる。
【0030】
従って、可動接点1の他方側の接触部位3bと、他方側の固定接点4bの接触部位5bが離れる際にアークが発生する。上述したとおり、これらの接触部位3b、5bは耐アーク性を有する接点部材で構成されているため、溶損や溶着が防止される。
【0031】
一方、可動接点の一方側の接触部位3aと、一方側の固定接点4aの接触部位5aは、接触状態が維持されているので、これらの部位にはアークが発生しない。
【0032】
次いで(a)に示すように、可動接点1の一方側の接触部位3aが、一方側の固定接点4aの接触部位5aから離れるが、このように離れる前に、スイッチは既に開状態となっているので、アークは本質的に発生しない。
【0033】
以上に説明したとおり、可動接点1の一方側の接触部位3aと、一方側の固定接点4aの接触部位5aは、スイッチが開状態から閉状態に移行する際と、閉状態から開状態に移行する際のいずれにおいても本質的にアークが発生しないので、これらの接触部位3a、5aは、銅等の通常の高導電性を有する接点部材を用いていてもアークによる溶損や溶着が発生することは全くない。
【0034】
こうして本発明では、可動接点1の他方側の接触部位3bと、他方側の固定接点4bの接触部位5bのみを耐アーク性を有する接点部材で構成すれば良いので、高価な材料を低減すると共に、その加工に要するコストを低減することができ、可動接点の両側に固定接点を配置したスイッチの製造コストを大幅に低減することができる。
【0035】
次に図2は本発明のスイッチの第2の実施の形態を概念的に示す断面説明図である。
この第2の実施の形態は、可動接点1の一方側の接触部位3aと一方側の固定接点4aの接触部位5a間の距離を、可動接点1の他方側の接触部位3bと他方側の固定接点4bの接触部位5b間の距離よりも短く構成するための手段として、第1の実施の形態のように一方側の固定接点4aの接触部位5aを、可動接点1の一方側の接触部位3aに近づける代わりに、可動接点1の一方側の接触部位3aを、一方側の固定接点4aの接触部位5aに近づけたことを特徴とするものである。即ち、固定接点4a,4bは図3の配置と同様であるが、可動接点1の一方側の接触部位3aを段部6等により、一方側の固定接点4aの接触部位5aに近づけたものである。第2の実施の形態のその他の構成要素は、第1の実施の形態と同様であるので、対応する構成要素に同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0036】
以上の第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様な作用により、可動接点1の他方側の接触部位3bと、他方側の固定接点4bの接触部位5bのみを耐アーク性を有する接点部材で構成すれば良いので、高価な材料を低減すると共に、その加工に要するコストを低減することができ、可動接点の両側に固定接点を配置したスイッチの製造コストを大幅に低減することができる。
【0037】
以上の第1、第2の実施の形態では、可動接点1の一方側の接触部位3aと一方側の固定接点4aの接触部位5a間の距離を、可動接点1の他方側の接触部位3bと他方側の固定接点4bの接触部位5b間の距離よりも短く構成するための手段として、可動接点1の接触部位3a又は固定接点4aの接触部位5aのいずれ一方のみを他方に近づけているが、他の実施の形態としては、両方を相互に近づけることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は以上のように、自動車のスタータ用マグネットスイッチとして多用されているスイッチにおいて、タングステン等の高価な耐アーク性を有する材料を低減することができ、その加工に要するコストも低減することができるので、このようなスイッチを安価に提供できると共に省資源に資することができ、産業上の利用可能性は多大である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のスイッチの第1の実施の形態を概念的に示す断面説明図である。
【図2】本発明のスイッチの第2の実施の形態を概念的に示す断面説明図である。
【図3】従来のスイッチの構成及び動作を概念的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 可動接点
2 プランジャ
3a、3b 可動接点の接触部位
4a、4b 固定接点
5a、5b 固定接点の接触部位
6 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルで駆動するプランジャに固定した可動接点と、その可動接点の両側に構成された接触部位に対応して固定接点の接触部位を配置したスイッチにおいて、可動接点の接触部位と固定接点の接触部位は、スイッチの状態を開から閉へと移行させる可動接点の運動において、可動接点の一方側の接触部位が、一方側の固定接点の接触部位と接触する時点を、可動接点の他方側の接触部位が、他方側の固定接点の接触部位と接触する時点よりも早くするように相対的に配置し、上記可動接点の他方側の接触部位と、他方側の固定接点の接触部位を耐アーク性を有する接点部材で構成したことを特徴とするスイッチ。
【請求項2】
一方側の固定接点の接触部位を、可動接点の一方側の接触部位に近づけて構成したことを特徴とする請求項1に記載のスイッチ。
【請求項3】
可動接点の一方側の接触部位を、一方側の固定接点の接触部位に近づけて構成したことを特徴とする請求項1に記載のスイッチ。
【請求項4】
一方側の固定接点の接触部位と、可動接点の一方側の接触部位を互いに近づけて構成したことを特徴とする請求項1に記載のスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−171711(P2008−171711A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4411(P2007−4411)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000114525)メトロ電装株式会社 (3)