説明

スクエアエンドミル

【課題】外周刃全域でのチッピングの抑制や、使用時の性能の安定性を向上することが可能となるスクエアエンドミルを提供する。
【解決手段】複数の底刃及び外周刃を有するスクエアエンドミルであって、外周刃の先端側には、前記外周刃の逃げ面と前記外周刃のすくい面より形成される稜線の曲率半径が大きい先端切れ刃部が設けられ、外周刃の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部が設けられており、それぞれの外周刃における外周刃の逃げ面と外周刃のすくい面は、それぞれ1つの曲面により形成されているスクエアエンドミルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等で有用な、刃形を改良した新規で高性能なスクエアエンドミルに関するものであり、特に溶着しやすくかつ材料硬度の高い被削性の悪い金型などの切削加工に有用なスクエアエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンドミルをはじめとした硬質皮膜被覆工具は、金型加工や部品加工などにおいて広く一般的に使用されている。一方、削られる方の被削材に関しては、金型として、また部品としての性能改良が進んでいる。例えば、プラスチック金型材料においては、射出成型の際に、ショット数が多くなってくると、金型に割れが発生し、金型に修正が必要になる。その金型割れの発生までの時間を延ばすための改良が成されており、今までの金型としての強度は保ちつつ、材料自体に靭性を持たせる傾向にある。つまり、HPM−MAGIC(登録商標)などのような高硬度と高靭性とを兼ね備えた金属材料が一般的になってきている。また部品加工で言えば、軽量且つ強度が高いものが求められており、強い衝撃に対しても充分耐えうるような材料が開発されている。
【0003】
また、一般的な工作機械を用いた切削加工においては、工具本体が回転し、工具の刃先稜線が被削材を塑性変形させて、切屑をせん断させ排出していく。その際、せん断された切屑は工具のすくい面を介して排出され、逃げ面は被削材を擦りながら進むため逃げ面の擦れによって仕上面を形成していく。しかしながら、前述したような近年開発されたプラスチック金型材料のような高硬度と高靭性とを兼ね備えた金属材料での金型加工の切削や部品加工の切削においては、すくい面と逃げ面から形成される稜線部から硬質皮膜が剥離を起こしたり、切削の衝撃による稜線部のチッピングが起こるといった問題が発生する。特にスクエアエンドミルにおいては、底刃と外周刃とのつなぎ部に角部が形成されるために、稜線部のチッピングが生じやすい傾向にある。
【0004】
これらの問題に対して、特に耐チッピング性を向上する目的や、刃先の強度を向上するために、いくつかの提案がなされている。
特許文献1には、エンドミル本体の先端側から後端側に向かうに従って、切刃のすくい面と逃げ面との境界部に位置する円弧の曲率半径が連続的に小さくなるようなホーニングが施されたスクエアエンドミルが記載されている。
特許文献2には、工具基端側に刃先の曲率半径を大きくとった強化部を設けたスローアウェイチップが記載されている。
さらに、特許文献3には、被覆後に切刃部分のすくなくとも皮膜の一部を除去したスクエアエンドミルが記載されている。
また特許文献4には、切れ刃部のごく先端部に刃先処理を施し、刃先稜線近傍のすくい面と逃げ面に面取りを施したピンカド型のスクエアエンドミルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−45704号広報
【特許文献2】特開2002−52415号広報
【特許文献3】特開2000−107926号公報
【特許文献4】特開平6−31520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来提案され実用化されているものでは、長い突き出し量の状態での底刃を主に切削を行う等高線切削や、軸方向の切り込みを大きくした場合の側面切削、また高能率加工を行ったときの工具の耐チッピング性が確保されなかったりしたために、長時間の切削において、安定した摩耗状態と加工面状態を維持することに充分に対応できずに問題が残っていた。
【0007】
特許文献1に記載のスクエアエンドミルは、エンドミルの先端側から後端側にかけて、外周刃における稜線の曲率半径が連続的に小さくなる構成であるため、エンドミルの先端側におけるチッピングの抑制が可能な程度に先端側の曲率半径を大きくした場合、エンドミルの先端側の切れ味が確保できなくなるため、軸方向の切り込みを大きくした場合の側面切削をした際にびびり振動が発生し、外周刃におけるエンドミルの後端側にチッピングが発生してしまう。
【0008】
特許文献2に記載のスローアウェイチップは、工具基端側に刃先の曲率半径を大きくとった強化部を設けているため、工具基端側に設けられた強化部での切削において切削抵抗が急激に上昇し、びびり振動が発生してしまう問題が生じる。
【0009】
特許文献3に記載のスクエアエンドミルは、外周刃全体にわたって切れ味が悪くなり、チッピングやびびり振動が発生しやすくなるという問題がある。
【0010】
また、特許文献4においては、切れ刃のごく先端部に刃先処理を施したピンカド型のスクエアエンドミルであるため、後端部の切れ刃は刃先処理を施されていないシャープエッジのままである。そのため、切れ刃において刃先処理を施した先端部と、刃先処理を施されていない後端部との境界で急激な段差が生じ、その境界部において、チッピングが発生しやすくなるという問題がある。
【0011】
スクエアエンドミルの切削では、コーナ部にもっとも大きな負荷がかかり、かつ、振動の影響が最も起こるのでチッピングが発生しやすくなる。また側面削りの場合だけではなく、等高線加工の場合もこの問題は同様である。使用する側としては、同じ工具でもチッピングを起こすタイミングは振動の具合によっても様々であり、工具の寿命管理を行うことは難しい。特に溶着しやすいような材料の切削を行う場合、安定してチッピングを起さない状態で削ることはさらに難易度が上がる。
【0012】
上述したように、特に溶着しやすく、かつ材料硬度の高い被削性の悪い材料をチッピングを起こさずに安定して加工するための切削工具として、超硬合金を基材としたスクエアエンドミルが種々提案され実用化されている。しかし、等高線加工や浅い溝切削の安定性が向上するような刃先稜線形状のスクエアエンドミルは実現されていないため、長時間の切削、または、複数本の評価において、寿命がばらつき、安定した摩耗状態と加工面状態を維持することに充分に対応できずに問題が残っていた。
【0013】
本発明は、長時間切削や複数本の切削でも、チッピングなく安定して切削加工ができ、かつ、初期から良好な仕上げ加工面を得ることができるスクエアエンドミルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
スクエアエンドミルで等高線仕上げ加工する場合は、切削初期から長時間加工してもコーナ部がチッピングを起こさず、加工面の面粗さの変化が小さい高品位な加工面を維持できることが望まれる。したがって、最も切削負荷が掛かるコーナ部を主に底刃および外周刃に最適な刃先稜線の曲率半径を検討する必要がある。具体的にはスクエアエンドミルの各箇所に合った最適な刃先稜線の曲率を適用する必要がある。
【0015】
これらを解決させるため、本発明は、工具寿命の安定化や高品位な加工面を長時間維持できるようなスクエア刃の逃げ面とすくい面との交差部の刃先稜線の曲率をスクエアエンドミルの各箇所で検討したのである。
【0016】
すなわち第1の本発明は、複数の底刃及び外周刃を有するスクエアエンドミルであって、外周刃の先端側には、前記外周刃の逃げ面と前記外周刃のすくい面より形成される稜線の曲率半径が大きい先端切れ刃部が設けられ、外周刃の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部が設けられており、それぞれの外周刃における外周刃の逃げ面と外周刃のすくい面は、それぞれ1つの曲面により形成されていることを特徴としたスクエアエンドミルである。
【0017】
第2の本発明は、第1の本発明において、先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ目から刃径の30%までの領域であることを特徴としたスクエアエンドミルである。
【0018】
第3の本発明は、第1または第2の本発明において、先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下、後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下であることを特徴としたエンドミルである。
【0019】
第4の本発明は、第1乃至第3のいずれかの本発明において、前記底刃のうち、工具軸から刃径の25%の位置までを形成している内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下、かつ前記底刃のうち、外周から刃径の25%の位置までを形成している外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下で形成されることを特徴としたエンドミルである。
【0020】
第5の本発明は、第1乃至第4のいずれかの本発明において、複数の底刃及び外周刃を有する刃部と、前記刃部よりも直径が大きいシャンク部と、前記刃部と前記シャンク部を接続する首部から構成されることを特徴とするスクエアエンドミルである。
【発明の効果】
【0021】
本発明を適用することにより、長い突き出し量の状態での軸方向の切り込みを大きくした場合の側面切削においても、外周刃全域でのチッピングの発生が抑制ができ、びびり振動が無く安定した切削加工が可能となる。
【0022】
本発明のような外周刃の構成とすることにより、性能の安定性が向上し、複数本で同様の加工を行ったときの性能のばらつきが抑えられ寿命管理がしやすく、また加工面品位が向上できるスクエアエンドミルを提供することが可能となる。
【0023】
本発明のような底刃の構成とすることにより、長い突き出し量の状態での底刃を主に切削を行う等高線切削においても、びびり振動を抑制することが可能となるため、外周刃のチッピングの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0024】
本発明のような外周刃の構成とすることにより、複数の底刃及び外周刃を有する刃部と、前記刃部よりも直径が大きいシャンク部と、前記刃部と前記シャンク部を接続する首部から構成されるようなスクエアエンドミルにおいても、直径が大きいシャンク部に対し相対的に剛性が小さくなる刃部のチッピングを抑制することができ、刃径が0.05mm以上3.0mm以下の範囲の小径に相当する場合でも、上記の有利な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例であるスクエアエンドミルの概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明の一例であるロングネックスクエアエンドミルの概略構成を示す図である。
【図3】本発明における底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。
【図4】従来のエンドミルにおける底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。
【図5】図3におけるA−A断面図の拡大図である。
【図6】図3におけるB−B断面図の拡大図である。
【図7】図4におけるC−C断面図の拡大図である。
【図8】図4におけるD−D断面図の拡大図である。
【図9】図2における左側面図を工具回転方向に90°回転させた拡大図である。
【図10】図9の拡大図である。
【図11】図10におけるE−E断面図の拡大図である。
【図12】図11におけるF−F断面図の拡大図である。
【図13】従来例2における底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。
【図14】回転軸が3軸構成である本発明で実施したバレル研磨装置の概略図である。
【図15】図14に示すバレル研磨装置を図14における下側から見たときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、外周刃全域でのチッピングの抑制や、使用時の性能の安定性を向上することを目的としたスクエアエンドミルである。以下、本発明を実施するための形態を図1〜図12に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の一例であるスクエアエンドミルの概略構成を示す正面図である。本発明によるスクエアエンドミル1は複数の底刃2及び外周刃3、並びにシャンク部4から構成される。図1に示すスクエアエンドミル1は、複数の底刃2及び外周刃3を有する刃部6の直径である刃径Dの値と、刃部に接続されるシャンク部4の直径であるシャンク径dの値を等しくした形状で設計されている。
【0028】
図2は、本発明の一例であるロングネックスクエアエンドミルの概略構成を示す正面図である。本発明によるロングネックスクエアエンドミル5は複数の底刃2及び外周刃3を有する刃部6と、前記刃部6よりも直径が大きいシャンク部4と、前記刃部6と前記シャンク部4を接続する首部8から構成される。前記したように、図2に示すロングネックスクエアエンドミル5は、複数の底刃2及び外周刃3を有する刃部6の直径である刃径dの値よりも、シャンク部4の直径であるシャンク径Dの値を大きくした形状で設計されている。
【0029】
図3は本発明における底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。外周刃3は、外周刃の逃げ面10、外周刃のすくい面11、外周刃の刃先稜線12から構成される。さらに、外周刃3の先端側には、外周刃の逃げ面10と外周刃のすくい面11より形成される外周刃の刃先稜線12の曲率半径が大きい先端切れ刃部19が設けられ、外周刃3の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部20が設けられている。図示していないが、後端切れ刃部20は先端切れ刃部19と後端切れ刃部20の境界より、刃部のシャンク部側の端部まで形成されている。
なお、図中のA−A断面線は底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの20%だけ工具軸Oの方向に離れた位置において、外周刃3に垂直な方向で切断するときの断面線を示している。同様にB−B断面線は底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの60%だけ工具軸Oの方向に離れた位置において、外周刃3に垂直な方向で切断するときの断面線を示している。
【0030】
図4は従来のエンドミルにおける底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。従来のエンドミル21における外周刃3は、従来のエンドミルにおける外周刃の逃げ面13、従来のエンドミルにおける外周刃のすくい面14、従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15から構成される。従来のエンドミル21は本発明とは異なり、従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15の曲率半径が外周刃3の全域にわたって一定であり、さらに従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15の曲率半径は、図3に示す本発明における外周刃3の後端側にある後端切れ刃部20の曲率半径よりも小さい。
なお、図中のC−C断面線は底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの20%だけ工具軸Oの方向に離れた位置において、外周刃3に垂直な方向で切断するときの断面線を示している。同様にD−D断面線は底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの60%だけ工具軸Oの方向に離れた位置において、外周刃3に垂直な方向で切断するときの断面線を示している。
【0031】
すなわち本発明に設けられた外周刃3は、外周刃の刃先稜線12の曲率半径の違いにより明確に区別された2つの領域である、先端切れ刃部19と後端切れ刃部20が設けられたことが大きな特徴である。このことにより、長い突き出し量の状態での軸方向の切り込みを大きくした場合の側面切削においても、外周刃全域でのチッピングの発生が抑制でき、びびり振動が無く安定した切削加工が可能となる。これに対し、従来のエンドミルにおける外周刃3には、前記のように外周刃の刃先稜線12の曲率半径の違いにより明確に区別された複数の領域が存在しない。
これらのことから、本発明における外周刃の刃先稜線12の構造は、従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15の構造とは明らかに異なるものであるといえる。
【0032】
図5乃至8を用いて本発明の重要な要素である外周刃の刃先稜線の曲率半径について説明する。本発明における外周刃の刃先稜線の曲率半径とは、図3及び図4におけるスクエアエンドミルの外周刃に垂直な方向で切断したときの逃げ面とすくい面が交差する部分に形成される半径のことである。
【0033】
図5は、図3におけるA−A断面図の拡大図である。A−A断面図は、外周刃3における先端切れ刃部19にて、外周刃3に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。先端切れ刃部19における外周刃は、外周刃の逃げ面10、外周刃のすくい面11および外周刃の刃先稜線12から構成される。先端切れ刃部19における外周刃の刃先稜線12は先端切れ刃部の曲率半径R1を半径とした円弧状に形成される。
【0034】
図6は、図3におけるB−B断面図の拡大図である。B−B断面図は、外周刃3における後端切れ刃部20にて、外周刃3に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。後端切れ刃部20における外周刃は、外周刃の逃げ面10、外周刃のすくい面11および外周刃の刃先稜線12から構成される。後端切れ刃部20における外周刃の刃先稜線12は後端切れ刃部の曲率半径R2を半径とした円弧状に形成される。本発明において、後端切れ刃部の曲率半径R2は先端切れ刃部の曲率半径R1よりも小さく設定する。
【0035】
図7は、図4におけるC−C断面図の拡大図である。C−C断面図は、図4に示す従来のエンドミル21における底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの20%だけ工具軸Oの方向に離れた位置について、外周刃3に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。従来のエンドミル21における外周刃3は、従来のエンドミルにおける外周刃の逃げ面13、従来のエンドミルにおける外周刃のすくい面14および従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15から構成される。従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15は従来のエンドミルにおける外周刃の曲率半径R3を半径とした円弧状に形成される。
【0036】
図8は、図4におけるD−D断面図の拡大図である。D−D断面図は、図4に示す従来のエンドミル21における底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの60%だけ工具軸Oの方向に離れた位置について、外周刃3に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。図4に示すとおり、従来のエンドミルにおける外周刃の曲率半径R3が外周刃3の全域にわたって一定である。そのため、本発明では後端切れ刃部20に相当する場所においても、外周刃の曲率半径は変化せず、従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線15は従来のエンドミルにおける外周刃の曲率半径R3を半径とした円弧状に形成される。さらに従来のエンドミルにおける外周刃の曲率半径R3は、本発明における外周刃3の後端側にある後端切れ刃部の曲率半径R2よりも小さい。
【0037】
前記のとおり、本発明において、外周刃の先端側には、前記外周刃の逃げ面10と前記外周刃のすくい面11より形成される稜線の曲率半径が大きい先端切れ刃部19が設けられ、外周刃の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部20が設けられており、それぞれの外周刃における外周刃の逃げ面10と外周刃のすくい面11は、それぞれ1つの曲面により形成されていることとする。このことにより、等高線加工で切削する際に関与する外周刃3の先端側のチッピングが抑制でき、外周刃3の後端側は適正な前記曲率半径を有する後端切れ刃部20が設けられているため、加工面を傷つけず、また刃先自体もチッピング等の異常摩耗を抑制できる。
【0038】
先端切れ刃部の曲率半径R1と後端切れ刃部の曲率半径R2が同じ値の場合、切削に関与する外周刃の先端側の刃先強度が確保されずチッピングが発生する。外周刃の先端側がチッピングを起こすと、外周刃の後端側にも影響を及ぼすので外周刃全体の損傷とそれによる加工面の悪化が引き起こされる。
【0039】
また、後端切れ刃部の曲率半径R2が先端切れ刃部の曲率半径R1よりも大きかった場合も切削に関与する先端側の刃先強度が確保されずチッピングが発生する。曲率半径の大きな外周刃の後端側においてはわずかな振動が起こった際に加工面と接触した時の抵抗が大きくなり、刃先稜線全体の損傷とそれによる加工面の悪化が引き起こされる。
したがって、チッピング抑制と加工面の安定化のためには、外周刃の先端側と外周刃の後端側とで、後端切れ刃部の曲率半径R2を先端切れ刃部の曲率半径R1よりも小さくする必要がある。
【0040】
本発明において、先端切れ刃部19の長さが、工具軸Oの方向で測定したときに底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの30%までであることが望ましい。こうすることで、等高線加工において切削に関与する部分の刃先強度が確保され、チッピングを抑制する効果をもたらすことができる。
また逆に先端切れ刃部19の長さが、工具軸Oの方向で測定したときに底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの30%よりも大きいと曲率半径の大きな領域が外周刃の後端側まで広がるため、わずかな振動が起こった際に加工面と接触した時の抵抗が大きくなり、刃先稜線全体の損傷とそれによる加工面の悪化が引き起こされる傾向が確認される。
【0041】
したがって、先端切れ刃部19の長さは工具軸Oの方向で測定したときに底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径の30%までであることが望ましい。さらに望ましい先端切れ刃部19の長さとしては、先端切れ刃部19と後端切れ刃部20の境界を、底刃と外周刃のつなぎ部から刃径の10%以上30%以下となる位置に設け、その境界から先端側を外周刃の刃先稜線12を先端切れ刃部の曲率半径R1を半径とした円弧状に形成した先端切れ刃部19とすることである。
【0042】
本発明において、先端切れ刃部の曲率半径R1は2μm以上4μm以下であることが望ましい。このことによりチッピング抑制できる刃先強度の確保と良好な加工面が得られる切削性を両立させることができる。
先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm未満の場合、刃先強度が確保されず、高硬度材を切削する場合や高速切削など高能率な条件で加工した場合、早期にチッピングが起こる傾向が確認される。また、先端切れ刃部の曲率半径R1が4μmより大きい場合、切削性が若干劣るために、切削抵抗が大きく、切削中の振動も大きくなる。それによって刃先のチッピングが生じて加工面が悪化する傾向が確認される。
したがって、先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下であることが望ましい。さらに望ましいのは、先端切れ刃部の曲率半径R1が2.5μm以上3.5μm以下であることである。
【0043】
本発明において、後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下であることが望ましい。こうすることで、切削中に起こる微小なビビリ振動やたわみが生じたときでも刃先強度が充分確保され、切削抵抗も抑えられるために加工面も良好に形成できる。
後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm未満の場合、刃先強度が充分でないために、切削中に起こる微小なビビリ振動やたわみが生じたときにチッピングを生じやすくなる傾向が確認される。そうなると当然加工面の悪化につながる。逆に後端切れ刃部の曲率半径R2が3μmを超える場合、切削中に起こる微小なビビリ振動やたわみが生じたとき、加工面と接触した時の抵抗が大きくなり、刃先稜線全体の損傷とそれによる加工面の悪化が引き起こされる傾向が確認される。
したがって、後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下であることが望ましい。さらに望ましいのは、後端切れ刃部の曲率半径R2が1.5μm以上2.5μm以下であることである。
【0044】
図9は、図2における左側面図を工具回転方向に90°回転させた拡大図である。図2及び図9に示すように、底刃2は底刃の逃げ面16、底刃のすくい面18及び底刃の刃先稜線17から構成される。
【0045】
図10は、図9の拡大図である。本発明における底刃2の刃先稜線の曲率半径とは、図9におけるロングネックスクエアエンドミルの底刃2を、底刃2に垂直な方向で切断したときの底刃の逃げ面16と底刃のすくい面18が交差する部分に形成される曲率半径のことである。図10に示す、E−E断面線は、底刃と外周刃のつなぎ部から刃径dの10%だけ工具軸Oに対し垂直な方向に離れた位置において、底刃2に垂直な方向で切断したときの断面線を示している。F−F断面線は、工具軸Oから刃径dの15%だけ工具軸Oに対し垂直な方向に離れた位置において、底刃2に垂直な方向で切断したときの断面線を示している。
【0046】
図10に示すとおり、本発明における底刃2の外周側すなわち外周から刃径の25%の位置までの領域には、底刃の逃げ面16と底刃のすくい面18が交差する部分に形成される底刃の刃先稜線17の曲率半径が大きい外周切れ刃部23が設けられ、底刃2の内周側すなわち工具軸から刃径の25%の位置までの領域には、前記曲率半径が小さい内周切れ刃部22が設けられている。
【0047】
図11は、図10におけるE−E断面図の拡大図である。E−E断面図は、図10に示す底刃2における外周切れ刃部23にて、底刃2に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。外周切れ刃部23における底刃は、底刃の逃げ面16、底刃のすくい面18および底刃の刃先稜線17から構成される。外周切れ刃部23における底刃の刃先稜線は外周切れ刃部の曲率半径Rbを半径とした円弧状に形成される。
【0048】
図12は、図10におけるF−F断面図の拡大図である。F−F断面図は、図10に示す底刃2における内周切れ刃部22にて、底刃2に垂直な方向で切断したときの断面観察図である。内周切れ刃部22における底刃は、底刃の逃げ面16、底刃のすくい面18および底刃の刃先稜線17から構成される。内周切れ刃部22における底刃の刃先稜線は内周切れ刃部の曲率半径Raを半径とした円弧状に形成される。
【0049】
本発明において、底刃2のうち、工具軸Oから刃径dの25%だけ離れた位置までを形成している内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下であることが望ましい。そうすることで底面切削を行う際に切削抵抗が上がらず、加工面を傷つけることもない。また、これにより品位の高い加工面を得ることができる。内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm未満の場合、刃先強度が確保されず、底面切削の際に発生する切屑が少しでも噛み込めばチッピングが起こる傾向が確認される。逆に内周切れ刃部の曲率半径Raが2μmを超える場合、切削抵抗が大きくなったり、切屑排出性が悪くなり、チッピングや加工面の悪化が起こる傾向が確認される。
したがって、底刃2のうち、内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下であることが望ましい。さらに望ましいのは、内周切れ刃部の曲率半径Raが1.2μm以上1.8μm以下であることである。
【0050】
本発明において、底刃2のうち、底刃と外周刃のつなぎ部から刃径の25%だけ離れた位置までを形成している外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下で形成されることが望ましい。こうすることで、底面切削の際、刃先強度が確保されるために、チッピングなく安定加工ができ、良好な加工面を得ることができる。底刃2のうち、外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm未満となる場合、底面切削の際に刃先強度が確保されず、チッピングを生じやすくなる傾向が確認される。特に高硬度加工や高能率切削の時はその傾向が顕著である。逆に底刃のうち、外周切れ刃部の曲率半径Rbが6μmを超える場合、切削抵抗が増大し、切屑離れも悪くなる可能性がある。そうなると加工面の悪化や刃先へのチッピングが起こるため、安定加工が実現できない。
したがって、底刃2のうち、外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下で形成されることが望ましい。さらに望ましいのは、外周切れ刃部の曲率半径Rbが4.5μm以上5.5μm以下で形成されることである。
【0051】
本発明者はスクエアエンドミルの外周刃における逃げ面及びすくい面と切れ刃稜線に注目し、外周刃の先端側と後端側とで、刃先稜線部の強度と切削性に対して最適な刃先稜線状態について検討した。その結果、外周刃の先端側には、前記外周刃の逃げ面と前記外周刃のすくい面より形成される稜線の曲率半径が大きい先端切れ刃部が設けられ、外周刃の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部が設けられており、それぞれの外周刃における外周刃の逃げ面と外周刃のすくい面は、それぞれ1つの曲面により形成されている場合に優れた切削性と耐チッピング性が得られることを知見し、本発明を成したものである。
【0052】
さらに本発明において、外周刃の先端側の領域が底刃と外周刃のつなぎ部から刃径dの30%までの領域であり、外周刃の先端側における先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下、外周刃の後端側における後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下であることが一層望ましい。これにより、スクエアエンドミルで高硬度材の加工や切削速度が高くなるような条件での加工であるほど、チッピングを抑制し、より安定した加工を行うことが可能となる。
【0053】
さらに本発明において、底刃のうち、工具軸から刃径の25%の位置までを形成している内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下、かつ前記底刃のうち、外周から刃径の25%の位置までを形成している外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下で形成されることが一層望ましい。これにより、スクエアエンドミルで底面切削を行った際、耐チッピング性の向上と切屑排出性の向上が可能となり良好な加工面品位を得ることができる。
【0054】
さらに本発明において、複数の底刃及び外周刃を有する刃部と、前記刃部よりも直径が大きいシャンク部と、前記刃部と前記シャンク部を接続する首部から構成されるものが一層効果が得られる。これは、シャンク部よりも刃部の方が直径が小さいので工具のたわみが発生しやすくなる。そのため、外周刃への損傷が起こりやすくなる。したがって、先端側と後端側でそれぞれ適正な刃先稜線を適用しないと安定した加工は困難である。前記の外周刃と底刃の知見を適用することにより、耐チッピング性の向上と切屑排出性の向上が可能となり良好な加工面品位を得ることができる。
【0055】
本発明のエンドミルの特徴である外周刃や底刃における刃先稜線の曲率半径は、ショットブラスト、磁気研磨及びバレル研磨などの方法により形成させることが可能である。例えば図14は回転軸が3軸構成である本発明で実施したバレル研磨装置の概略図である。バレル研磨装置28はスクエアエンドミル1を工具中心軸の回りに回転させる第1の回転手段29、複数の前記第1の回転手段29を保持する保持ステーション30を回転させる第2の回転手段31、研磨材32を装入したバレル研磨装置の主軸O’を回転させる第3の回転手段33により構成される。それらが全ての軸において工具の切削回転方向に回転する。バレル研磨装置の主軸O’を回転させる第3の回転手段33は、回転とは直交する回転軸に平行な方向にも可動とする。すなわち、研磨材の動きの大きさに合わせて、スクエアエンドミル1を直接保持する第1の回転手段29の位置を適正にすることができる。回転軸が3軸構成を選んだ理由は、本発明は外周刃及び底刃の刃先稜線の位置によって異なる曲率半径を付与するために、研磨強度をできるだけ全方位で変化可能にする必要があるからである。研磨媒体の流動によるバレル内における研磨媒体の挙動は複雑であり、本発明では、前記主軸O’を回転させる第3の回転手段33は、回転とは直交する回転軸に平行な方向にも可動として、外周刃及び底刃の研磨媒体に当たる位置を上下にも制御できる構造とした。
【0056】
図15は図14に示すバレル研磨装置を図14における下側から見たときの図である。図15ではスクエアエンドミルの図示を省略してある。第1の回転手段29、第2の回転手段31、及び第3の回転手段33はそれぞれ、第1の回転手段の回転方向34、第2の回転手段の回転方向35、及び第3の回転手段の回転方向36に回転させることが出来る。
【0057】
バレル研磨装置28をこのように構成することにより生じる、研磨材32とスクエアエンドミル1の相互作用について説明する。バレル研磨装置による刃先処理方法を実施したとき、研磨材32とスクエアエンドミル1との間に相対運動が生じ、研磨材32がバレル研磨装置の主軸O’に垂直な方向でスクエアエンドミル1のすくい面に衝突する。外周刃のすくい面11に衝突した研磨材32は、外周刃のすくい面11を移動しながらスクエアエンドミルの溝を通る研磨材32と、外周刃の逃げ面10を経てスクエアエンドミルの外側に移動する研磨材32とに分かれる。研磨材32が移動する際には、移動する方向に沿った面が研磨されるため、外周刃のすくい面11、外周刃の逃げ面10、及び外周刃の刃先稜線12が研磨される。よって、外周刃における先端切れ刃部19及び後端切れ刃部20には曲率半径を有する曲面が形成される。同様に、底刃のすくい面18に衝突した研磨材32は、底刃のすくい面18を移動しながらスクエアエンドミルの溝を通る研磨材32と、底刃の逃げ面16を経てスクエアエンドミルの下側に移動する研磨材32とに分かれる。研磨材が回転中のバレル研磨装置内にてこのような挙動を示すため、底刃のすくい面18、底刃の逃げ面16、及び底刃の刃先稜線17が研磨される。よって、底刃における内周切れ刃部22及び外周切れ刃部23には曲率半径を有する曲面が形成される。研磨材32が持つ圧力は深さが深いほど大きくなることから、研磨材32により形成される外周刃及び底刃の曲率半径は深さ方向における位置により変化する。傾向としては、スクエアエンドミルにおける下側すなわち底刃に近づくほど、外周刃の曲率半径は大きく形成される。また、バレル研磨装置28による刃先処理方法は各回転手段の回転により、スクエアエンドミルへの研磨作用が働くことから、スクエアエンドミルにおける外周側すなわち外周刃に近づくほど、底刃の曲率半径は大きく形成される。
【0058】
ドラム状研磨装置28をこのように構成することにより、研磨材32がスクエアエンドミル1の外周刃において、底刃に近づくほど、もっとも深い位置で研磨がなされるため、研磨力が大きい。よって先端切れ刃部19における先端切れ刃部の曲率半径R1は、後端切れ刃部20における後端切れ刃部の曲率半径R2よりも大きく形成される。一方、外周刃において、シャンクに近づくほど、浅い位置で研磨される。研磨材32が持つ圧力は深さが深いほど大きくなるので、底刃に近い部分ほど、刃先稜線を形成するRは大きな曲率が設けられる。よってシャンク側の外周刃すなわち後端切れ刃部20においては刃先稜線を形成する曲率半径R2は小さく形成させる。
【0059】
また、各回転手段における回転軸の設定によって外周刃及び底刃の各部位の刃先稜線の曲率半径は調整が可能である。具体的には、研磨材32を装入したバレル研磨装置の主軸O’の回転数が大きいほど、外周刃における先端切れ刃部の曲率半径R1及び後端切れ刃部の曲率半径R2が大きくなる。これは、スクエアエンドミルの外周に近い部分の研磨力が強くなるためである。各回転手段によるドラム状研磨装置28を用いた場合には、スクエアエンドミルの外周に近い部分の研磨力が強くなることから、底刃においては、内周切れ刃部22における内周切れ刃部の曲率半径Raよりも、外周切れ刃部23における外周切れ刃部の曲率半径Rbの方が大きく形成される。
【0060】
処理時間に関しては、その時間が長ければ長いほど処理量が大きくなる、つまり処理時間が長いほど、底刃から外周刃にかけて全体的に刃先稜線の曲率半径は大きくなる。研磨材がこのように流動していくため、このバレル研磨装置28を用いた刃先処理方法が施されたスクエアエンドミル1は、切れ刃の場所によって本発明で定義される刃先稜線の曲率半径を異なるものとすることができる。今回のバレル処理による研磨方法においては、回転軸が3軸構成であり、バレルの深さ方向にも可変としてある。したがって、各軸の回転数、回転方向、処理深さなどを変えることができるのである。
【0061】
本発明の回転軸が3軸構成であるドラム状研磨機器を用いた刃先処理方法には、樹脂系弾性材を含めた研磨材を使用する。本発明の刃先処理方法に適した樹脂系弾性材としては、粒径が0.1mm以上3mm未満のクルミやココナッツ、コーンが挙げられる。それらの樹脂系弾性材を粒径0.1μm以上0.5μm以下のダイヤモンドパウダーを油脂により塗布するなどして研磨材に含め、刃先処理を行うことにより、スクエアエンドミルを切れ刃の場所によって刃先稜線の曲率半径が異なる形状に出来る。樹脂系弾性材や研磨材はスクエアエンドミルの形状や、目的とする切れ刃部の曲率半径の大きさなどにより、選択することが出来る。
【0062】
バレル研磨装置28にある第1の回転手段29、第2の回転手段31、及び第3の回転手段33はそれぞれ独立して回転数及び回転方向を設定することが可能である。これらの条件を適宜選択することにより、切れ刃の場所による刃先稜線の曲率半径の変化の仕方を変化させることが出来る。
【0063】
本発明は、様々な形状のスクエアエンドミル及びロングネックスクエアエンドミルに対し実施が可能であるが、特に、刃径dの値とシャンク径Dの値を等しくしたスクエアエンドミルや、刃径dがシャンク径Dより小さくなるロングネックスクエアエンドミルに実施することにより、本発明の有利な効果が発揮できる。また、刃数が2〜6枚刃、刃径dが0.1mm以上25mm以下の範囲のスクエアエンドミル及びロングネックスクエアエンドミルに実施することがさらに有効である。特に望ましい刃径dは4mm以上20mm以下の範囲である。
【0064】
また、本発明において重要な要素である、先端切れ刃部の曲率半径R1、後端切れ刃部の曲率半径R2、内周切れ刃部の曲率半径Ra、及び外周切れ刃部の曲率半径Rbは公知の測定方法により求めることが可能である。先端切れ刃部の曲率半径R1、後端切れ刃部の曲率半径R2の測定方法に関して具体的な例を挙げれば、本発明のスクエアエンドミル及びロングネックスクエアエンドミルを工具軸Oに対し垂直な方向で切断し、1mm程度の厚さの測定試料を作成し、光学式顕微鏡を用いて測定試料を測定する方法や、接触式の形状測定器を用いて先端切れ刃部19及び後端切れ刃部20の形状をトレースし、トレースした先端切れ刃部19及び後端切れ刃部20の形状から測定を行う方法が存在する。同様に、内周切れ刃部の曲率半径Ra、及び外周切れ刃部の曲率半径Rbの測定方法に関して具体的な例を挙げれば、本発明のスクエアエンドミル及びロングネックスクエアエンドミルを、底刃を通りなおかつ工具軸Oに対し平行な方向で切断し、0.3mm程度の厚さの測定試料を作成し、光学式顕微鏡を用いて測定試料を測定する方法や、接触式の形状測定器を用いて内周切れ刃部22及び外周切れ刃部23の形状をトレースし、トレースした内周切れ刃部22及び外周切れ刃部23の形状から測定を行う方法が存在する。
【0065】
以下、本発明を下記の実施例により詳細に説明するが、それらにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
本発明例と従来例ともロングネックスクエアエンドミルは、いずれも、刃径dが1mm、首部の直径が0.96mm、刃長が1.5mm、刃部と首部を合わせた長さである首下長が6mm、シャンク径Dが4mmに形成したWC基超硬合金製基材上に、いずれもAlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆したものである。
【0067】
本発明例1として、先端切れ刃部の曲率半径R1が3μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が2μmであり、外周刃の先端側の領域すなわち先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ部から0.3mm(刃径dの30%)である。さらに底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raが1.5μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが5.0μmとした。
【0068】
従来例1は、特許文献2に記載の発明をロングネックスクエアエンドミルに適用させたものであり、先端切れ刃部の曲率半径R1が4μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が7μmであり、外周刃の先端側の領域すなわち先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ部から0.5mm(刃径の約50%)である。さらに底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raが2.0μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmである。つまり、外周刃の後端側における後端切れ刃部の曲率半径R2を特に大きくしたものである。
【0069】
図13は従来例2における底刃と外周刃のつなぎ部付近の拡大図である。従来例2は、特許文献1に記載の発明をロングネックスクエアエンドミルに適用させたものであり、従来例2のエンドミル24は、図13に示すように、外周刃3の先端側から後端側にかけて外周刃の稜線の曲率半径を徐々に小さくしたものである。そのため、本発明における外周刃の先端側と外周刃の後端側の境界は存在せず、先端切れ刃部の長さは未計測である。
なお、底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの20%だけ工具軸Oの方向に離れた位置における刃先稜線の曲率半径が7μmである(後に記載する表1においては、先端切れ刃部の曲率半径R1の欄に記載している)。また、底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの60%だけ工具軸Oの方向に離れた位置における刃先稜線の曲率半径が5μmである(後に記載する表1においては、後端切れ刃部の曲率半径R2の欄に記載している)。さらに底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raが2μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmである。
【0070】
従来例3は、特許文献3に記載の発明をロングネックスクエアエンドミルに適用させたものであり、従来例3のエンドミルは、外周刃の先端側から後端側にかけて外周刃の稜線の曲率半径を同一としたものである。そのため、本発明における外周刃の先端側と外周刃の後端側の境界は存在せず、先端切れ刃部の長さは未計測である。
なお、底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの20%だけ工具軸Oの方向に離れた位置における刃先稜線の曲率半径が5μmである(後に記載する表1においては、先端切れ刃部の曲率半径R1の欄に記載している)。また、底刃2と外周刃3のつなぎ部から刃径dの60%だけ工具軸Oの方向に離れた位置における刃先稜線の曲率半径が5μmである(後に記載する表1においては、後端切れ刃部の曲率半径R2の欄に記載している)。さらに底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raが2μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmである。
【0071】
前記の本発明例1及び従来例1〜3として作製した工具はすべて同じ超硬合金を基材とした二枚刃のロングネックスクエアエンドミルであり、切れ刃の曲率半径以外の工具諸元においては統一した状態で比較テストを行った。切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として52HRCのプラスチック用金型材(商品名:HPM38、日立金属株式会社製)を用い、軸方向切り込み量0.05mm、ピック方向切り込み量0.1mm、回転数15,000回転/min、送り速度450mm/minで幅1.5mm、深さ6mm、溝長さ20mmのリブ溝形状を切削した。
【0072】
評価方法として、切削後の加工面の仕上げ面粗さと工具の逃げ面摩耗幅で行った。仕上げ面粗さRzは、加工面の軸方向に測定を行い、最大高さ粗さRzにて評価を行った。工具の逃げ面摩耗幅はリブ溝形状を一つ加工した後の工具について、外周刃の先端側及び外周刃の後端側の2箇所における外周刃の逃げ面の摩耗幅を光学顕微鏡にて測定した。評価基準として、仕上げ面粗さRzが1.0μm以下であり、かつ逃げ面摩耗幅が2箇所とも0.02mm以下のものを良好とした。評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】





【0074】
切削評価結果より、本発明例1は仕上げ面粗さRzが0.7μmであり、かつ逃げ面摩耗幅が2箇所とも0.02mm以下であったため、良好な結果を示した。これは、逃げ面とすくい面の交差部の曲率半径を先端切れ刃部の曲率半径R1よりも後端切れ刃部の曲率半径R2を小さくしたことにより、外周刃全体でびびり振動によるチッピングを抑制できたためである。また、外周後端部においても先端側よりも切削性があるために加工面にむしれが出ず、良好な加工面が得られた。
【0075】
一方、従来例1〜3ではいずれも外周刃でチッピングを起こしたため、仕上げ面粗さが1.0μmを超え、逃げ面摩耗幅が2箇所とも0.03mmを超えたため、不良であった。従来例1は、後端切れ刃部の曲率半径R2を7μmと特に大きくしたために若干の振動によるびびり振動が発生し、チッピングが起こりやすくなった。従来例2では、先端切れ刃部の曲率半径R1が7μmと大きく、さらに外周刃の先端側から後端側にかけて外周刃の稜線の曲率半径を徐々に小さくしたものであったために、被削材への食付きが悪く、最終的にはチッピングが発生した。従来例3は、外周刃の先端から後端側まで断続的にチッピングを起こした。これは、外周刃の刃先稜線の曲率半径が一定であるため、特に切削中に発生するたわみの影響を受けたことが原因として挙げられる。
【0076】
(実施例2)
本発明例、従来例としては、実施例1で用いた工具と同様のものを使用して、評価を実施した。切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として52HRCのプラスチック用金型材(商品名:HPM38、日立金属株式会社製)を用い、軸方向切り込み量0.03mm、ピック方向切り込み量0.03mm、回転数15,000回転/min、送り速度450mm/minで実施例1と同様のリブ溝形状を切削した。
【0077】
評価方法として、同じ工具を5本ずつ用いてリブ溝形状の加工を1つずつ行った後に、加工面の仕上げ面粗さを測定し、最も良い仕上げ面粗さRzと最も悪い仕上げ面粗さRzの差である、仕上げ面粗さRzの差を測定することにより評価を行った。評価基準として、仕上げ面粗さRzの差が0.2μm以下の場合を良好とした。評価結果を表2に示す。
【0078】
【表2】




【0079】
切削評価結果より、本発明例1は5本評価した結果、いずれも仕上げ面粗さRzが0.6μm〜0.8μmの加工面が得られた。したがって、仕上げ面粗さRzの差が0.2μmであり、良好な結果を示した。これは、先端切れ刃部の曲率半径R1が、後端切れ刃部の曲率半径R2よりも大きく、刃先稜線が外周刃の領域によって最適化されていることから切削に関与する先端付近のチッピング抑制とびびり振動がない安定切削が可能となったためである。
【0080】
一方、従来例1〜3ではいずれも、加工面の仕上げ面粗さRzのばらつきが大きく、仕上げ面粗さRzの差を見ても0.4μm〜0.5μmのばらつきが確認され、不良であった。従来例1は、後端切れ刃部の曲率半径R2が7μmと大きいために、びびり振動によって発生した外周刃後端側のチッピングが加工面を荒らす原因となる。従来例2では、先端切れ刃部の曲率半径は7μmと大きく、さらに外周刃の先端側から後端側にかけて外周刃の稜線の曲率半径を徐々に小さくしたものであったために、被削材への食付きが悪く、びびり振動が発生した。またそれにより外周刃の後端側にチッピングが発生し、加工面を荒らしてしまった。従来例3は、先端から後端側まで断続的にチッピングを起こした。これは、外周刃の刃先稜線の曲率半径が一定であることが原因として挙げられる。また、特に切削中に発生するたわみの影響を受けるので後端側の方がチッピングの程度がひどく、それが加工面粗さに影響をおよぼした。またこれは、いずれもチッピングが原因で面粗さが悪くなっているが、チッピングが起こるタイミングにはばらつきが発生し、そのチッピングの大きさも実際には、同じ仕様の工具でもテスト毎に異なったものになる。したがって、加工面の品位にばらつきが生じるのである。
【0081】
(実施例3)
本発明例のロングネックスクエアエンドミルは、いずれも、刃径dが3mm、首部の直径が2.88mm、刃長が4.5mm、刃部と首部を合わせた長さである首下長が16mm、シャンク径Dが6mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、いずれもAlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆したものである。
【0082】
本発明例1〜3について、先端切れ刃部の曲率半径R1を3μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を2μm、内周切れ刃部の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbを5.0μmとし、仕様を統一した。
【0083】
さらに、本発明例1として外周刃の先端側の領域すなわち先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から0.90mm(刃径dの30%)とした。また本発明例2として、先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から0.60mm(刃径dの20%)とした。さらに本発明例3として先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から1.05mm(刃径dの35%)とした。
【0084】
また比較として、従来例4(上記本発明例と同様の基材材質及び硬質皮膜の仕様)を加えた。従来例4は、先端切れ刃部の曲率半径R1が5μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が8μmであり、外周刃の先端側の領域すなわち先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ部から1.50mm(刃径dの50%)の領域である。さらに底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raが2.0μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmである。
【0085】
切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として40HRCのプラスチック用金型材(商品名:HPM−MAGIC(登録商標)、日立金属株式会社製)を用い、軸方向切り込み量0.8mm、ピック方向切り込み量0.1mm、回転数8,000回転/min、送り速度500mm/minで側面切削を実施した。軸方向切り込み量0.8mmずつで20回加工して、最終的な加工深さは16mmまでを実施した。
【0086】
評価方法として、切削後の加工面の仕上げ面粗さRzの測定を行った。加工面の仕上げ面粗さは、加工面の軸方向に測定を行い、最大高さ粗さRzにて評価を行った。評価基準として、仕上げ面粗さRzが1.5μm以下の場合を良好とした。評価結果を表3に示す。
【0087】
【表3】






【0088】
切削評価結果より、本発明例1〜3はいずれも仕上げ面粗さRzが1.5μm以下で加工面が仕上がっており、良好な結果であった。特に先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ部から刃径の30%までである本発明例1、2はRz1.2μm以下を実現しており、非常に良好な結果(表3中の評価欄における◎)であった。これは、切削に関与してかつ、もっとも負荷がかかる外周刃先端側の稜線の最適化がなされた効果であり、チッピングもなく最後まで安定して加工できたためである。
【0089】
一方、従来例4は、仕上げ面粗さRzが1.9μmと最も悪い値となり、不良であった(表3中の評価欄における×)。これは、刃先稜線の最適化がなされておらず外周刃の先端側でチッピングが生じて、その影響で加工面が悪化し、また、後端切れ刃部の曲率半径R2が先端切れ刃部の曲率半径R1よりも大きいので工具のたわみによって外周刃が加工面を擦る際に、抵抗が増大し、加工面を悪化させたと推測できる。
【0090】
(実施例4)
本発明例のロングネックスクエアエンドミルは、いずれも、刃径dが3mm、首部の直径が2.88mm、刃長が4.5mm、首下長が16mm、シャンク径Dが6mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、いずれもAlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆したものである。
【0091】
本発明例4〜13については、いずれも先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から0.90mm(刃径dの30%)とし、底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbを5.0μmとし、仕様を統一した。本実施例に関しては、外周刃の刃先稜線の曲率半径を変化させて、それによる切削性能の傾向を確認した。
【0092】
まず先端切れ刃部の曲率半径R1について、検討した。本発明例4は、先端切れ刃部の曲率半径R1が1.5μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が1.0μmとした。
本発明例5として先端切れ刃部の曲率半径R1が2.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例6として先端切れ刃部の曲率半径R1が3.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例7として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例8として、先端切れ刃部の曲率半径R1が5.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
【0093】
次に後端切れ刃部の曲率半径R2について検討した。本発明例9として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、外周刃の後端側における稜線の曲率半径R2を0.5μmとした。
本発明例10として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例11として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を2.0μmとした。
本発明例12として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を3.0μmとした。
本発明例13として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を3.5μmとした。比較として、実施例3でも使用したものと同じ従来例4を加えた。
【0094】
切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として40HRCのプラスチック用金型材(商品名:HPM−MAGIC(登録商標、日立金属株式会社製)を用い、軸方向切り込み量0.8mm、ピック方向切り込み量0.1mm、回転数8,000回転/min、送り速度500mm/minで側面切削を実施した。軸方向切り込み量0.8mmずつで20回加工して、最終的な加工深さは16mmまでを実施した。
【0095】
評価方法として、切削後の工具における逃げ面摩耗幅を比較した。側面切削にて一定距離(30m)まで削り、その際の摩耗幅を測定して評価を行った。評価基準として、逃げ面摩耗幅が0.08mm以下の場合を良好とした。評価結果を表4に示す。
【0096】
【表4】










【0097】
切削評価結果より、本発明例は4〜13までいずれも0.08mm以下の摩耗幅であり、良好な結果であった。その中でも特に先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下である本発明例5〜7は逃げ面摩耗幅が0.05mm以下であり、特に良好な結果(表4中の評価欄における◎)であった。これは、外周刃の先端側の刃先稜線が食いつき性を確保しつつ、耐チッピング性を実現できる切れ刃強度を兼ね備えられた効果である。
後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下である本発明例10〜12においても逃げ面摩耗幅が0.05mm以下であり、特に良好な結果(表4中の評価欄における◎)であった。これは、外周刃の後端側の刃先稜線が最適化された効果である。外周刃の後端側は切削に直接関与しないため、工具のたわみが若干発生した際の加工面との接触に対して、振動がなく、かつチッピングしない刃先強度が兼ね備えられていればよい。本発明例10〜12に関しては、それらを満たしていたため、摩耗幅が小さく、安定している。
【0098】
一方、従来例4は、逃げ面摩耗幅が0.09mmともっとも悪い値となっている。これは、刃先稜線の最適化がなされておらず、外周刃の先端側で食いつきが悪く、チッピングが生じ、さらに振動が生じた。その影響が外周刃の後端側にも現れ、大きな摩耗幅につながったためだと考えられる。
【0099】
(実施例5)
本発明例はロングネックスクエアエンドミルは、いずれも刃径dが1mm、首部の直径が0.96mm、刃長が1.5mm、首下長が4mm、シャンク径が4mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、いずれもAlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆した。
【0100】
本発明例14〜23については、いずれも先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から0.3mm(刃径dの30%)、先端切れ刃部の曲率半径R1を3μm、後端切れ刃部の刃先稜線R2を2μmとし、仕様を統一した。本実施例に関しては、底刃の曲率半径を変化させて、それによる切削性能の傾向を確認した。
【0101】
まず内周切れ刃の曲率半径Raについて検討した。本発明例14として、内周切れ刃の曲率半径Raを0.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
本発明例15として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.0μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
本発明例16として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
本発明例17として、内周切れ刃の曲率半径Raを2.0μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
本発明例18として、内周切れ刃の曲率半径Raを2.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
【0102】
次に外周切れ刃の曲率半径Rbを検討した。本発明例19として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを3.0μmとした。
本発明例20として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを4.0μmとした。
本発明例21として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを5.0μmとした。
本発明例22として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを6.0μmとした。
本発明例23として、内周切れ刃の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃の曲率半径Rbを7.0μmとした。
【0103】
比較として、従来例5(上記本発明例と同様の基材材質及び硬質皮膜の仕様)を加えた。従来例5は、先端切れ刃部の曲率半径R1が4μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が7μmであり、先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ部から0.5mm(刃径dの50%)である。さらに底刃における、内周切れ刃の曲率半径Raが2μm、外周切れ刃の曲率半径Rbが2.5μmである。
【0104】
切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として52HRCのプラスチック用金型材(商品名:HPM38、日立金属株式会社製)を用い、軸方向切り込み量0.03mm、ピック方向切り込み量0.03mm、回転数15,000回転/min、送り速度450mm/minで底面切削を実施した。加工距離は、1本につき8m切削した。さらに各工具5本ずつ同じ切削を行なった。
【0105】
評価方法として、同じ工具を5本ずつ用いて加工を行った後に、加工面の仕上げ面粗さを測定し、最も良い仕上げ面粗さRzと最も悪い仕上げ面粗さRzの差である、仕上げ面粗さRzの差を測定することにより評価を行った。評価基準として、仕上げ面粗さRzの差が0.4μm以下の場合を良好とした。評価結果を表5に示す。
【0106】
【表5】









【0107】
切削評価結果より、本発明例14〜23はいずれも仕上げ面粗さRzの差が0.4μm以下であり、良好な結果であった。特に内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下である本発明例15〜17は仕上げ面粗さRzの差が0.2μm以下であり非常に良好であった。これは、内周切れ刃部の曲率半径Raを最適化できた効果である。内周切れ刃部の曲率半径Raを1μm以上2μm以下とすることにより、底刃で削っていく際に微小な振動によって発生するチッピングにも耐え得る刃先強度を有し、かつ、切削抵抗も上がらない。このことが良好な加工面形成が実現できた理由であると推測できる。
【0108】
また、外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下である本発明例20〜22についても、仕上げ面粗さRzの差が0.2μm以下であり非常に良好であった。これは、外周切れ刃部の曲率半径Rbを最適化できた効果である。外周切れ刃部の曲率半径Rbを4μm以上6μm以下とすることにより、外周刃に近い部分で切削に関与する部分の刃先強度と切削性の両方を確保できたといえる。切削性が良好でかつチッピングもなく加工できるため、仕上面粗さも安定した良好なものを得ることができる。特に首下長さが存在するような本発明例のような工具の切削加工の場合、わずかな振動の影響を受けやすいため、外周切れ刃部の曲率半径Rbの数値の最適化が切削性向上に与える影響は大きい。
【0109】
また従来例5においては、5本加工して仕上げ面粗さRzの差が0.5μmという結果になった。これは、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmと小さいために、わずかな振動でもコーナ部に近い部分が刃先強度が不足するためにチッピングを起こしてしまう。わずかでもチッピングが起きれば、加工面にも影響をおよぼすためにこのような結果になる。
【0110】
(実施例6)
本実施例におけるスクエアエンドミルの形状は、図1に示す形状であり、刃径dが6mm、刃長が13mm、全長が60mm、シャンク径Dが6mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、AlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆した。先端切れ刃部の長さは底刃と外周刃のつなぎ部から1.8mm(刃径dの30%)とした。外周刃に関しては、先端切れ刃部の曲率半径R1が3μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が2μmとした。底刃に関しては、内周切れ刃部の曲率半径Raが1.5μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが5.0μmとした。
【0111】
比較する従来例のスクエアエンドミルは、刃径dが6mm、刃長が13mm、全長が60mm、シャンク径Dが6mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、AlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆したものである。先端切れ刃部の長さは底刃と外周刃のつなぎ部から3.0mm(刃径dの50%)とした。外周刃に関しては、先端切れ刃部の曲率半径R1が5μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が5μmとした。底刃に関しては、内周切れ刃部の曲率半径Raが2.0μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmとした。
【0112】
切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として220HBの炭素鋼S50Cを用い、軸方向切り込み量9.0mm、ピック方向切り込み量0.6mm、回転数6,400回転/min、送り速度1,870mm/minで側面切削を実施した。加工距離は、1本につき30m切削した。
【0113】
評価方法として、加工面の仕上げ面粗さRzで評価を実施した。評価基準として、仕上げ面粗さRzが1.0μm以下であるものを良好とした。評価結果を表6に示す。
【0114】
【表6】





【0115】
切削評価結果より、本発明例24は外周刃の全領域でチッピングが観察されなかったため、仕上げ面粗さRzが1.0μm以下であり、良好な結果を示した。これは逃げ面とすくい面の交差部の曲率半径を外周先端側の曲率半径R1で大きくしたことにより、外周刃全体でびびり振動によるチッピングを抑制できる。また、外周後端部においても先端側よりも切削性があるために加工面にむしれが出ず、良好な加工面が得られる。
【0116】
一方、従来例6では外周刃でチッピングを起こしたため、仕上げ面粗さRzが1.5μm以下であり、不良であった。従来例6は、外周刃の刃先稜線の曲率半径が一定であるために若干の振動でもびびり振動を増幅してしまい、外周刃の後端側ではチッピングが起こりやすくなる。それが結果的に加工面に影響をおよぼし、面粗さの悪化につながる。
【0117】
(実施例7)
本実施例におけるスクエアエンドミルの形状は、図1に示す形状であり、刃径dが10mm、刃長が22mm、全長が80mm、シャンク径Dが10mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、AlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆した。
【0118】
本発明例25〜34については、いずれも先端切れ刃部の長さを底刃と外周刃のつなぎ部から3.0mm(刃径dの30%)とし、底刃における、内周切れ刃部の曲率半径Raを1.5μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbを5.0μmとし、仕様を統一した。本実施例に関しては、外周刃の刃先稜線の曲率半径を変化させて、それによる切削性能の傾向を確認した。
【0119】
まず先端切れ刃部の曲率半径R1について、検討した。本発明例25は、先端切れ刃部の曲率半径R1が1.5μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が1.0μmとした。
本発明例26として先端切れ刃部の曲率半径R1が2.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例27として先端切れ刃部の曲率半径R1が3.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例28として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例29として、先端切れ刃部の曲率半径R1が5.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
【0120】
次に後端切れ刃部の曲率半径R2について検討した。本発明例30として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、外周刃の後端側における稜線の曲率半径R2を0.5μmとした。
本発明例31として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を1.0μmとした。
本発明例32として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を2.0μmとした。
本発明例33として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を3.0μmとした。
本発明例34として、先端切れ刃部の曲率半径R1が4.0μm、後端切れ刃部の曲率半径R2を3.5μmとした。
【0121】
比較する従来例のスクエアエンドミルは、刃径dが10mm、刃長が22mm、全長が80mm、シャンク径Dが10mmとしたWC基超硬合金製基材の上に、AlCrSiNの硬質皮膜を4μm被覆したものである。先端切れ刃部の長さは底刃と外周刃のつなぎ部から5.0mm(刃径dの50%)とした。外周刃に関しては、先端切れ刃部の曲率半径R1が5μm、後端切れ刃部の曲率半径R2が5μmとした。底刃に関しては、内周切れ刃部の曲率半径Raが2.0μm、外周切れ刃部の曲率半径Rbが2.5μmとした。
【0122】
切削テストは水溶性切削液を用いた湿式切削とし、被削材として220HBの炭素鋼S50Cを用い、軸方向切り込み量15.0mm、ピック方向切り込み量1.0mm、回転数3,820回転/min、送り速度1,160mm/minで側面切削を実施した。加工距離は、1本につき20m切削した。軸方向切り込み量が15.0mmであることから、切削テストにおいては先端切れ刃部及び後端切れ刃部が同時に切削加工に寄与することになる。
【0123】
評価方法として、加工面の仕上げ面粗さRzで評価を実施した。評価基準として、仕上げ面粗さRzが1.5μm以下であるものを良好とした。評価結果を表7に示す。
【0124】
【表7】










【0125】
切削評価結果より、本発明例25〜34はいずれも仕上げ面粗さRzが1.5μm以下であり、良好な結果であった。特に先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下である本発明例26〜28は仕上げ面粗さRzが1.2μm以下であり非常に良好であった。これは、先端切れ刃部の曲率半径R1を最適化できた効果である。先端切れ刃部の曲率半径R1を2μm以上4μm以下とすることにより、外周刃の先端側で削っていく際にビビリ振動の影響を受けず、チッピングが発生しにくい刃先強度を有することが可能になったと推測できる。
【0126】
また、先端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下である本発明例31〜33についても、仕上げ面粗さRzが1.2μm以下であり非常に良好であった。これは、先端切れ刃部の曲率半径R2を最適化できた効果である。外周切れ刃部の曲率半径R2を1μm以上3μm以下とすることにより、外周刃の後端側に近い部分で切削に関与する部分の刃先強度と切削性の両方を確保できたといえる。切削性が良好でかつチッピングもなく加工できるため、仕上面粗さも安定した良好なものを得ることができる。
【0127】
また従来例7においては、仕上げ面粗さRzが1.8μmという結果になった。これは、先端切れ刃部の曲率半径R1、R2がいずれも5μmで同じ値であるために、ビビリ振動が起こりやすい外周刃の先端側では刃先強度が不足し、また外周刃の後端側では、切削性が不足したためにビビリ振動の影響を受けてしまう。その結果、先端切れ刃がチッピングを起こし、後端側で振動を生じるために、加工面にも影響をおよぼすことになる。
【0128】
上記実施例では、WC基超硬合金製基材を使用した場合を記載したが、特に限定されない。例えば、基材として、高速度鋼、立方晶窒化ホウ素(cBN)、工具鋼、サーメットまたはセラミックス等を使用した場合にも本発明の有利な効果を奏することができる。
また上記実施例では、硬質皮膜としてAlCrSiNを被覆した場合を記載したが、特に限定されない。例えば、硬質皮膜としてAlCrN、AlCrNC、AlCrNCB、AlCrSiNC、AlCrSiNCB、TiAlN、TiAlNC、TiAlNCB、CrSiN、CrSiNC、CrSiNCB、TiCN、TiCまたはTiCNB等を使用した場合にも本発明の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明により、長い突き出し量の状態での軸方向の切り込みを大きくした場合の側面切削においても、外周刃全域でのチッピングの発生が抑制ができ、びびり振動が無く安定した切削加工が可能となる。特に、刃径dがシャンク径Dより小さくなるロングネックスクエアエンドミルにおいて、刃部のチッピングを抑制することができるため深彫り加工に対し、特に有効である。
【符号の説明】
【0130】
1 スクエアエンドミル
2 底刃
3 外周刃
4 シャンク部
5 ロングネックスクエアエンドミル
6 刃部
8 首部
10 外周刃の逃げ面
11 外周刃のすくい面
12 外周刃の刃先稜線
13 従来のエンドミルにおける外周刃の逃げ面
14 従来のエンドミルにおける外周刃のすくい面
15 従来のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線
16 底刃の逃げ面
17 底刃の刃先稜線
18 底刃のすくい面
19 先端切れ刃部
20 後端切れ刃部
21 従来のエンドミル
22 内周切れ刃部
23 外周切れ刃部
24 従来例2のエンドミル
25 従来例2のエンドミルにおける外周刃の逃げ面
26 従来例2のエンドミルにおける外周刃のすくい面
27 従来例2のエンドミルにおける外周刃の刃先稜線
28 バレル研磨装置
29 第1の回転手段
30 保持ステーション
31 第2の回転手段
32 研磨材
33 第3の回転手段
34 第1の回転手段の回転方向
35 第2の回転手段の回転方向
36 第3の回転手段の回転方向
A−A 外周刃の先端側から刃径の20%の位置の刃直方向の断面線
B−B 外周刃の先端側から刃径の60%の位置の刃直方向の断面線
C−C 外周刃の先端側から刃径の20%の位置の刃直方向の断面線
D−D 外周刃の先端側から刃径の60%の位置の刃直方向の断面線
E−E 底刃のうち外周から刃径の10%の位置の刃直方向の断面線
F−F 底刃のうち工具軸から刃径の15%の位置の刃直方向の断面線
R1 先端切れ刃部の曲率半径
R2 後端切れ刃部の曲率半径
R3 従来のエンドミルにおける外周刃の曲率半径
Ra 内周切れ刃部の曲率半径
Rb 外周切れ刃部の曲率半径
d 刃径
D シャンク径
O 工具軸
O’ バレル研磨装置の主軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の底刃及び外周刃を有するスクエアエンドミルであって、外周刃の先端側には、前記外周刃の逃げ面と前記外周刃のすくい面より形成される稜線の曲率半径が大きい先端切れ刃部が設けられ、外周刃の後端側には、前記曲率半径が小さい後端切れ刃部が設けられており、それぞれの外周刃における外周刃の逃げ面と外周刃のすくい面は、それぞれ1つの曲面により形成されていることを特徴とするスクエアエンドミル。
【請求項2】
請求項1に記載のスクエアエンドミルにおいて、先端切れ刃部の長さが底刃と外周刃のつなぎ目から刃径の30%までの領域であることを特徴とするスクエアエンドミル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスクエアエンドミルにおいて、先端切れ刃部の曲率半径R1が2μm以上4μm以下、後端切れ刃部の曲率半径R2が1μm以上3μm以下であることを特徴とするスクエアエンドミル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のスクエアエンドミルにおいて、前記底刃のうち、工具軸から刃径の25%の位置までを形成している内周切れ刃部の曲率半径Raが1μm以上2μm以下、かつ前記底刃のうち、外周から刃径の25%の位置までを形成している外周切れ刃部の曲率半径Rbが4μm以上6μm以下で形成されることを特徴とするスクエアエンドミル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のスクエアエンドミルにおいて、複数の底刃及び外周刃を有する刃部と、前記刃部よりも直径が大きいシャンク部と、前記刃部と前記シャンク部を接続する首部から構成されることを特徴とするスクエアエンドミル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−27972(P2013−27972A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54828(P2012−54828)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】