説明

スクロール式流体機械

【課題】 チップシールの磨耗を抑制し、耐久性を向上する。
【解決手段】 固定スクロール4および旋回スクロール7は、アルミニウム合金によってそれぞれ形成すると共に、固定スクロール4、旋回スクロール7には、陽極酸化処理を施し、外表面の耐磨耗性を高める。また、固定スクロール4のラップ部4B歯先と旋回スクロール7のラップ部7B歯先には、相手方の鏡板7A,4Aに摺接するチップシール13をそれぞれ取付ける。そして、チップシール13は、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂とした樹脂材料によって形成し、チップシール13の耐磨耗性等を高める。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば空気圧縮機、真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、スクロール式流体機械は、ケーシングと該ケーシングに設けられ鏡板に渦巻状のラップ部が立設された固定スクロールとからなる固定側部材と、前記ケーシングに回転可能に設けられた駆動軸と、前記ケーシング内で該駆動軸の先端側に旋回可能に設けられ鏡板に前記固定スクロールのラップ部と重なり合って複数の圧縮室を画成するラップ部が立設された旋回スクロールと、前記固定スクロールのラップ部歯先と旋回スクロールのラップ部歯先とに形成したシール溝内に設けられ鏡板底面との間をシールするチップシールとよって構成されている(例えば特開平11−336676号公報等)。
【0003】この種の従来技術によるスクロール式流体機械では、外部から駆動軸を回転駆動して固定スクロールに対して旋回スクロールを一定の偏心寸法をもって旋回運動させる。
【0004】このとき、固定スクロールのラップ部歯先に取付けられたチップシールは、旋回スクロールの鏡板に摺接し、隣接する圧縮室間を気密にシールする。同様に、旋回スクロールのラップ部歯先に取付けられたチップシールも旋回スクロールの鏡板に摺接して圧縮室間を気密にシールする。
【0005】これにより、固定スクロールの外周側に設けた吸込口から気体を吸込みつつ、この気体を固定スクロールのラップ部と旋回スクロールのラップ部との間の各圧縮室内で順次圧縮し、固定スクロールの中心部に設けた吐出口から圧縮気体を外部に向けて吐出するようになっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した従来技術によるスクロール式流体機械を圧縮機として使用する場合には、圧縮運転中に発生する熱および圧縮室内の圧力(スラスト荷重)が旋回スクロールに作用する。これにより、固定スクロールのラップ部歯先または旋回スクロールのラップ部歯先に取付けられたチップシールは、熱膨張によって相手方の鏡板に強く押付けられ、磨耗が増大する傾向がある。
【0007】このため、従来技術によるスクロール式流体機械では、圧縮室内の圧縮流体が漏洩し、圧縮効率が低下するから、磨耗したチップシールを交換する必要があり、耐久性に劣るという問題がある。
【0008】本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、チップシールの磨耗を抑制し、耐久性を向上することができるスクロール式流体機械を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するために本発明は、鏡板に渦巻き状のラップが巻回して設けられた固定スクロールを有する固定側部材と、該固定スクロールのラップ部と重り合うように対面して固定側部材内に旋回可能に設けられた旋回スクロールと、前記固定スクロールのラップ部歯先と旋回スクロールのラップ部歯先とのうち少なくともいずれか一方側の歯先に形成したシール溝内に設けられ鏡板底面との間をシールするチップシールとからなるスクロール式流体機械に適用される。
【0010】そして、請求項1に発明が採用する構成の特徴は、固定スクロールまたは旋回スクロールのうち少なくともチップシールが設けられたものは、アルミニウムに陽極酸化処理を施したアルミニウム合金材料を用いて形成し、前記チップシールは、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂とした樹脂材料によって形成したことにある。
【0011】このように構成したことにより、青銅粉によってチップシールの熱膨張を抑制することができる。このため、固定スクロール等にチップシールを取付け、相手方となる旋回スクロール等の鏡板に摺接させるときでも、圧縮熱等によるチップシールの熱膨張を抑えることができるから、チップシールが陽極酸化処理によって表面が粗くなったシール溝や鏡板表面に対して強く摺接することがなく、チップシールの磨耗を抑制することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械としてスクロール式空気圧縮機を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】図において、1は後述の固定スクロール4と共に固定側部材を構成するケーシングで、該ケーシング1はスクロール式空気圧縮機の外枠を形成する有底筒状をなし、ケーシング本体2とスラスト受け3とによって構成されている。ここで、ケーシング本体2は、環状の底部2Aと、該底部2Aの外周側から後述の固定スクロール4側に向けて延設された筒部2Bと、前記底部2Aの内周側に突設された軸受部2Cとによって構成され、その内部には潤滑油が収容されている。
【0014】また、スラスト受け3は、ケーシング本体2の筒部2B先端側に設けられると共に、後述する旋回スクロール7の鏡板7Aに摺接し、旋回スクロール7に作用するスラスト荷重を鏡板7Aとの間で受承する構成となっている。
【0015】4はスラスト受け3の先端側に固着して設けられた固定スクロールで、該固定スクロール4は、略円板状に形成され中心が後述する駆動軸5の軸線と一致するように配設された鏡板4Aと、該鏡板4Aの表面に立設された渦巻状のラップ部4Bと、前記鏡板4Aの外周側から該ラップ部4Bを取囲むように軸方向に突出した筒部4Cと、該筒部4Cの外周側から径方向外側に突出し、スラスト受け3に衝合して取付けられたフランジ部4Dとから構成されている。また、ラップ部4Bの歯先には断面コ字状をなすシール溝4Eが形成され、該シール溝4Eには後述するチップシール13が取付けられている。
【0016】ここで、固定スクロール4は、外表面に陽極酸化処理が施されたアルミニウム合金を用いて加工されるものである。このため、固定スクロール4の鏡板4A表面には陽極酸化処理皮膜が形成され、該鏡板4A表面の耐摩耗性等を高める構成となっている。また、固定スクロール4は、陽極酸化処理に伴ってその表面粗さがRmax10μm程度と粗く形成されている。
【0017】5はケーシング本体2の軸受部2Cに回転可能に支持された駆動軸で、該駆動軸5は、その基端側が電動モータ等の駆動源(図示せず)に連結され、先端側はクランク5Aとなってケーシング本体2内に延びている。そして、該駆動軸5のクランク5Aは、その軸線が駆動軸5の軸線に対して寸法δだけ偏心している。また、駆動軸5には、回転バランスをとるためのバランスウエイト6が取付けられている。
【0018】7は固定スクロール4と対向してケーシング1を構成するスラスト受け3に旋回可能に設けられた旋回スクロールで、該旋回スクロール7は、円板状に形成された鏡板7Aと、該鏡板7Aの表面側から軸方向に立設された渦巻状のラップ部7Bとによって大略構成されている。
【0019】また、旋回スクロール7の鏡板7Aには、その背面側の中央にボス部7Cが突設され、該ボス部7Cは旋回軸受8によって駆動軸5のクランク5Aに回転可能に取付けられている。さらに、ラップ部7Bの歯先には断面コ字状をなすシール溝7Dが形成され、該シール溝7Dには後述するチップシール13が取付けられている。
【0020】ここで、旋回スクロール7は、固定スクロール4と同様に外表面に陽極酸化処理が施されたアルミニウム合金を用いて加工されるものである。このため、旋回スクロール7の鏡板7A表面には陽極酸化処理皮膜が形成され、該鏡板7A表面の耐摩耗性等を高める構成となるものの、その表面粗さはRmax10μm程度と粗く形成されている。
【0021】そして、旋回スクロール7は、固定スクロール4のラップ部4Bに対し例えば180度だけずらして重なり合うように配設され、両者のラップ部4B,7B間には複数の圧縮室9,9,…が画成される。そして、スクロール式空気圧縮機の運転時には、固定スクロール4の外周側に設けた吸込口10から外周側の圧縮室9内に空気を吸込みつつ、この空気を旋回スクロール7が旋回運動する間に各圧縮室9内で順次圧縮し、最後に中心側の圧縮室9から固定スクロール4の中心に設けた吐出口11を介して外部に圧縮空気を吐出する。
【0022】12はスラスト受け3と旋回スクロール7との間に摺動可能に設けられたオルダムリングで、該オルダムリング12は、スラスト受け3と旋回スクロール7との間で直交する2軸方向にガイドされ、旋回スクロール7の自転を防止するものである。
【0023】13,13は固定スクロール4,旋回スクロール7に設けられたチップシールで、該各チップシール13は、ラップ部4B,7Bのシール溝4E,7Dに取付けられている。また、チップシール13は、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、四フッ化エチレン樹脂を45〜78重量%、好ましくは60〜75重量%用いた樹脂材料によって形成されている。そして、チップシール13は、例えば断面矩形状をなす長尺の紐状に形成され、相手方となる旋回スクロール7の鏡板7A表面、固定スクロール4の鏡板4A表面に弾性的に摺接している。このため、チップシール13は、ラップ部4B,7B間に画成された隣合う圧縮室9間を気密にシールし、圧縮空気の漏洩を防止する構成となっている。
【0024】本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は上述のような構成を有するものである。そして、電動モータにより駆動軸5を回転させると、旋回スクロール7は駆動軸5を中心として寸法δの旋回半径をもった円運動(旋回運動)を行い、固定スクロール4のラップ部4Bと旋回スクロール7のラップ部7Bとの間に画成された圧縮室9,9,…が連続的に縮小する。これにより、固定スクロール4の吸込口10から吸込んだ外気を該各圧縮室9で順次圧縮しつつ、この圧縮空気を固定スクロール4の吐出口11から外部の空気タンク(図示せず)等に貯留させる。
【0025】また、吐出口11に近い高圧側の圧縮室9は、空気を圧縮する際に生じる熱(圧縮熱)によってその内部温度が上昇する。このため、固定スクロール4、旋回スクロール7の内周側は圧縮熱によって加熱されている。
【0026】然るに、本実施の形態では、チップシール13は、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂(45〜78重量%)とした樹脂材料により形成したので、後述する実施例1〜7から明らかなように、圧縮熱等によって固定スクロール、旋回スクロールが加熱されるときでも、チップシール13の熱膨張を抑制し、チップシール13の耐摩耗性等を高めることができる。
【0027】従って、本実施の形態によれば、チップシール13が摺接する相手方となる旋回スクロール7または固定スクロール4の外表面を陽極酸化処理皮膜によって粗く形成した場合でも、チップシール13がシール溝4E,7Dと鏡板7A,4A表面との間で早期に摩耗、損傷するのを防止することができる。
【0028】これにより、ラップ部4B,7B間に画成される各圧縮室9をチップシール13により長期に亘って良好にシールし続けることができ、圧縮室9内の圧縮空気が吸込口10側に漏洩するのを遮断することができ、圧縮効率を高めて、装置の性能、信頼性等を高めることができる。
【0029】また、固定スクロール4、旋回スクロール7をアルミニウム合金によってそれぞれ形成し、これらの固定スクロール4、旋回スクロール7に陽極酸化処理を施す構成としたから、固定スクロール4と旋回スクロール7との鏡板4A,7A表面に形成される陽極酸化処理皮膜によって該鏡板4A,7A表面の耐摩耗性等を高めることができ、これによっても装置の性能、信頼性等を高めることができる。
【0030】次に、チップシール13の耐摩耗性を確認するための耐久試験を、下記の実施例1〜7と比較例1〜6とに基づいて行い、表1、表2に示す結果を得ることができた。なお、実施例1〜7、比較例1〜6に用いるチップシールの組成は、表1、表2に示すとおりである。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】


但し、*:組付け不良を示す
【0033】(実施例1)この実施例1では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂70重量%に、青銅粉15重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実験開始から約1000時間が経過したときでも、摩耗量を0.65mm程度まで小さく抑えられることが分かった。
【0034】(実施例2)この実施例2では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂65重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例2では、実施例1に比べて青銅粉を多く含有したから、チップシールの熱膨張をさらに抑えることができる。このため、鏡板4A,7A表面に対する押付け力がチップシールの熱膨張によって増加するのを抑制することができる。この結果、実験開始から約1000時間が経過したときでも、摩耗量を0.50mm程度まで小さく抑えられることが分かった。
【0035】(実施例3)この実施例3では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂60重量%に、青銅粉25重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。そして、この場合でも、チップシールの磨耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに0.51mm程度まで小さく抑えることができ、実施例2とほぼ同様の結果が得られることが分かった。
【0036】(実施例4)この実施例4では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂70重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維5重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜3に比べて炭素繊維を減少させたことに伴って磨耗量が増加するものの、実験開始から約1000時間が経過したときに摩耗量を0.79mm程度まで小さく抑えられることが分かった。
【0037】(実施例5)この実施例5では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂65重量%に、青銅粉15重量%、炭素繊維15重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。そして、この場合でも、チップシールの磨耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに0.50mm程度まで小さく抑えることができ、実施例2,3とほぼ同様の結果が得られることが分かった。
【0038】(実施例6)この実施例6では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂68重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン2重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、チップシールの磨耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに0.75mm程度まで小さく抑えることができることが分かった。
【0039】(実施例7)この実施例7では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂60重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン10重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、チップシールの磨耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに0.81mm程度まで小さく抑えることができることが分かった。
【0040】(比較例1)この比較例1では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂75重量%に、青銅粉10重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜7に比べて青銅粉の含有割合が低いから、チップシールの熱膨張を抑制することができず、チップシールの摩耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに0.95mm程度まで増えることが分かった。
【0041】(比較例2)この比較例2では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂55重量%に、青銅粉30重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜7に比べて青銅粉の含有割合が高いから、チップシールの柔軟性を確保することができず、チップシールをラップ部4B,7Bのシール溝4E,7Dに取付けることができないことが分かった。
【0042】(比較例3)この比較例3では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂72重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維3重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜7に比べて炭素繊維の含有割合が低いから、耐磨耗性が低下し、チップシールの摩耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに1.52mm程度まで増えることが分かった。
【0043】(比較例4)この比較例4では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂55重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維20重量%、二硫化モリブデン5重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜7に比べて炭素繊維の含有割合が高いから、チップシールの柔軟性を確保することができず、チップシールをラップ部4B,7Bのシール溝4E,7Dに取付けることができないことが分かった。
【0044】(比較例5)この比較例5では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂69重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン1重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。この場合、実施例1〜7に比べて二硫化モリブデンの含有割合が低いから、チップシールの摩耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに1.73mm程度まで増えることが分かった。
【0045】(比較例6)この比較例6では、チップシールは、四フッ化エチレン樹脂57重量%に、青銅粉20重量%、炭素繊維10重量%、二硫化モリブデン13重量%を含有した樹脂材料を用いて形成した。このように、実施例1〜7に比べて二硫化モリブデンの含有割合が高いときでも、チップシールの摩耗量は、実験開始から約1000時間が経過したときに1.02mm程度まで増えることが分かった。
【0046】以上のことから、実施例1〜7の如く、チップシール13を、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂とした樹脂材料により形成することにより、チップシール13の熱膨張を抑制して耐摩耗性等を高めることができ、チップシール13によってラップ部4B,7Bと鏡板7A,4Aとの間のシール性を向上できることが分かった。
【0047】また、チップシール13は柔軟性を確保することができるから、渦巻状をなすラップ部4B,7Bのシール溝4E,7Dの形状になじみ易く、シール溝4E,7Dに組付けるときの組付け性に優れることが分かった。
【0048】さらに、圧縮室9内の圧縮空気の漏れを防止するために、チップシール13には、図3に示すようにシール溝4E,7Dの底部側に切り込み加工を施し、リップ13Aを形成することがある。このような場合でも、本発明によるチップシール13は柔軟性を有するから、リップ13Aを容易に加工することができ、生産性を向上することができる。
【0049】なお、前記実施の形態では、チップシール13を固定スクロール4のラップ部4Bと旋回スクロール7のラップ部7Bとのいずれにも設けるものとしたが、本発明はこれに限らず、固定スクロール4のラップ部4Bと旋回スクロール7のラップ部7Bとのうちいずれか一方に設ける構成としてもよい。
【0050】また、前記実施の形態では、ケーシング1内に潤滑油を収容された半給油式のスクロール式空気圧縮機に適用したが、例えば特開平11−101185号公報に記載されているような無給油式のスクロール式空気圧縮機に適用してもよい。
【0051】また、前記実施の形態ではスクロール式流体機械としてスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば真空ポンプ、冷媒圧縮機等にも広く適用できる。
【0052】
【発明の効果】以上詳述した通り、請求項1の発明によれば、固定スクロールまたは旋回スクロールのうち少なくともチップシールが設けられたものは、アルミニウムに陽極酸化処理を施したアルミニウム合金材料を用いて形成し、チップシールを、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂とした樹脂材料によって形成したから、青銅粉によってチップシールの熱膨張を抑制することができる。このため、圧縮熱等によって固定スクロール、旋回スクロールが加熱したときでも、チップシールがシール溝と鏡板表面との間で強く摺接することがなく、チップシールの磨耗を抑制し、信頼性、耐久性を向上することができる。
【0053】また、ラップ部間に画成される各圧縮室をチップシールにより長期に亘って良好にシールし続けることができ、圧縮室内の圧縮空気が漏洩するのを遮断することができ、圧縮効率を高めて、装置の性能、信頼性等を高めることができる。
【0054】さらに、チップシールは柔軟性を確保することができるから、渦巻状をなすラップ部の形状になじみ易く、ラップ部への組付け性に優れると共に、チップシールにリップ等を容易に加工することができ、生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態によるスクロール式空気圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】実施の形態によるスクロール式空気圧縮機のラップ部とチップシールとを分解して示す分解斜視図である。
【図3】実施の形態によるチップシールにリップを設けた状態を示す要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
1 ケーシング
4 固定スクロール
4A,7A 鏡板
4B,7B ラップ部
4E,7D シール溝
7 旋回スクロール
13 チップシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鏡板に渦巻き状のラップが巻回して設けられた固定スクロールを有する固定側部材と、該固定スクロールのラップ部と重り合うように対面して固定側部材内に旋回可能に設けられた旋回スクロールと、前記固定スクロールのラップ部歯先と旋回スクロールのラップ部歯先とのうち少なくともいずれか一方側の歯先に形成したシール溝内に設けられ鏡板底面との間をシールするチップシールとからなるスクロール式流体機械において、前記固定スクロールまたは旋回スクロールのうち少なくともチップシールが設けられたものは、アルミニウムに陽極酸化処理を施したアルミニウム合金材料を用いて形成し、前記チップシールは、青銅粉15〜30重量%、炭素繊維5〜15重量%、二硫化モリブデン2〜10重量%を含有し、残りを四フッ化エチレン樹脂とした樹脂材料によって形成したことを特徴とするスクロール式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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